夜明けのはてに

The end for light of days

Author Hiroyuki Yokota (oryaaaaa)
推定読書時間 24時間、読破完了目安 27年後、Japanese Unicode(UTF-8)、文字数 62万字

 夕暮れが迫る頃、私は必死の思いで逃げ回っていた。立ち止まっていては殺される。人間がやってはいけないことをやってしまった。次々に追っ手が迫る。とにかくあの場所にさえ行けば、なんとかなるかもしれない。大きく遠回りして、知略を尽くして追跡を免れる。いったんショッピングモールの外へ出て、車に隠れながら入店して、時間を待つ。私は入り口にあるマイカー乗り場で時間を潰していた。なんでこうなったのか、思い出せない。自分の名前も、住所も、電話番号も分からない。自分の存在がなんであるのかすら、分からない。人間なのか、アンドロイドなのか、ロボットなのか、それすらも。

 だがー私は何をしたのかまるで思い出せない。ただ、約束の地に、という願いだけが残っていた。私はここで死ぬわけにはいかない。分かっているのは地図と時間、完璧に記憶している。なぜか。時計は使わなくても、頭にイメージすれば時間が分かるし、もうこの日本にはトイレは無い。先程、排便したい気分になったので、少なくともロボットではないなと実感した。この時代、膀(ぼう)胱(こう)や大腸にたまった時点で、周辺にある処理ポッドが自動的に始末してくれる。それを使うと自分の表情変化で居場所が分かってしまうから、危険を冒してまで、排(はい)泄(せつ)物(ぶつ)を処理させた。そうして逃げ回って、ここにたどり着いた。

 言葉を思い浮かべるー、頭に言葉が想起されるー、テレパシーのようだー

 「リンク、インフィニティ」

 「あなたの敵は私の指示通りに日本の果てへと向かっています。ただ気をつけて下さい。まだその周辺は安全ではありません。あなたはかなり疲労してますね、栄養剤の許可が下りてますので、使いますか」

 「ああ、頼む。どうなってるんだ。記憶が曖(あい)昧(まい)で自分が誰であるかもわからない」

 「それはあなたの指示です。私の仮想記憶に真実の記憶を預かっています。安心して下さい。万が一捕まっても保身のために行いました」

 「そうか。ここからどのルートを使って、約束の地に行けばいいのか」

 「いま、あなたの前にある車には運転手はいません。あなたのために我々が用意したフルゴーストです。それに乗って、ひたすら信号を右折して下さい。到着すれば車は消滅します」

 「フルゴーストか、乗れるのか」

 「はい。そのように物(ぶつ)理(り)干(かん)渉(しょう)を行うシステムが微(び)粒(りゅう)子(し)コンピュータで制御しています。大丈夫です」

 私は迷わずその車に乗り込んだ。乗り込んだ瞬間に動き出す。あらゆるコンソールが表示される。アクセルとブレーキとハンドルしかない。とにかく私のいまやるべきことは、信号があったら、ひたすら右折して走り続ける事だ。私はショッピングモールの信号を右折して、走り出した。

 「うまくいったようだな。これが本物のカーチェイスだ。初めから相手を出し抜かなくてはカーチェイスなど、できないのだから。安全圏に入ったから、状況を説明しておく。俺は日本最高の悪知恵の働くコンピューター、通称『黒(くろ)子(こ)』だ。お前が発明した世界を驚(きょう)嘆(たん)させる技術によって、世界の状況が悪化してしまった。それで時間干渉して、犯罪組織でお前の暗殺指令がでている。おっと、車間距離をそれ以上、狭(せば)めるな」

 「ああ、分かった。これ以上は近づかない」

 「それ以上、近づくと車載コンピューターがフルゴーストと気付く。それですべておしまい。それからな、お前は状況が悪化したあとも責任逃れをすることなく、勇敢に問題を対処した。それによって日本政府から緊急の保護命令がでて、インフィニティ、黒子がお前をサポートしている。あとで、陣頭指揮を執っているリーダーとも話すだろう。いつもの調子で、呼び出してみろ。サポートしてくれる」

 「いつまで右折するんだ。同じところをぐるぐる回っているようにしか感じないのだがな。私の地図はショッピングモールのまわりをぐるぐるしているだけだ」

 「やっぱりな。フルゴーストは全然違う道を走っている。お前の前後左右三台目までは実を言うとフルゴーストだ。人の視界から消えたとき、まったく違う車種になっている。やっぱインフィニティの頭脳は世界最高だ」

 「あのとき、インフィニティを紹介されたとき、あまり速いコンピューターには感じなかったが、そんなに凄いのか」

 「お前が設計した。無限長を百八十七億光年としたら、その桁数の性能がでるように、そして通常は世界に公証している世界三位のスペックにリミットをかけた。俺の計算では他の国が一光年かかっても、足元に及ばないほどのスペックだ。おっと、その狭い小道も右折だぞ。信号は右折と言ってただろ」

 「こんな狭い道通れるはずが、あれ、なんでバイクに変わってるの。日本の最高機密技術はこんなに凄いのか。めちゃくちゃ驚いた」

 「ははは。全部、お前が作った技術だぞ。しかし時間干渉する技術を公開したのは失敗だったな。真っ先に日本政府に技術を提供していれば、安全かというと彼らだって悪用した。実はな、この状況、二回目だ」

 私は少し思い出した。一回目は普通に技術を公開した。そうしたら世界は急激に変わっていって、その責任を負わされた。二回目は日本政府に技術を公開した。そうしたら、世界は大(だい)日(にっ)本(ぽん)帝(てい)国(こく)日(に)本(ほん)だけになってしまった。それで、なんだっけ、思い出せない。

 「一回目は自分自身に対して技術の公開先を日本政府に特定するように、時間干渉技術を使ったんだ。次の瞬間、お前は日本最高機密の世界最高の科学者となった。そして、まず悪知恵が極端に働くコンピューターを設計して、取り巻きを騙し続けて、インフィニティを設計した。お前、『世界最強の被害者』をまだ覚えているか」

 「なんだそれ」

 「お前に過去から、あれこれ指示を出していた予言者だ。無限長を百八十七億光年としたら、その桁数の性能がでるようにと指示をしたのはあいつだ。あいつは俺の指示通り、完璧に仕事をやってのけた。彼は絶対にお前と同じ程度の褒(ほう)章(しょう)が与えられるだろう」

 「褒章か、天国でかなえられる夢の数だったか。そんなの信じられない」

 私はどうやら本当に未来にとんでもない事をやってしまったらしい。時間干渉の技術でいま私は護られている。話が大きくなりすぎていて、自分の妄(もう)想(そう)なのかもしれないと思うことはできるのだ。しかし今、バイクにまたがって、ひたすら一本道の道路を走り続けている。この状況は、幻(げん)覚(かく)の限度を超えている。やがて、道が行き止まりになるが、バイクは走り続ける。なぜか、空中を浮いて走っている。そして建物の裏側に到着した瞬間にバイクは消滅した。

 「こっちよ」 女性の声がした。

 私は声に近づいた。これは見覚えがある。技術者派遣で数ヶ月過ごした会社だ。でもなにを作ったのか、まるで思い出せない。

 「ここに入ってじっとしていて」 また同じ声だ。

 私は狭い空間が点滅したので、そこへ移動した。その直後、見覚えのある会社の一室にいた。そこには立体映像のディフェンスゲームがあり、攻略ノートが置いてあった。攻略ノートによると、城のまわりに兵士を配置して、敵の侵攻を食い止める配置図が描かれていた。あと不思議な置物が置いてあった。この部屋は完全な密室で、ドアも窓も無い。

 「なにをしろって言うんだ。約束の地に来ればすべて終わると聞いたんだがな」

 私は先程、インフィニティから受けた栄養剤で元気を取り戻していた。立体映像のディフェンスゲームはどうも最後のステージらしく、攻略ノートにも、そのように書いてあった。計算式や結果表から、苦労している様子が理解できた。

 「リンク、リーダー」

 「到着したのね。この会社は日本政府の最高機密会社なの。ある実験をやっていてね、それがなかなかうまく行かなくて困っている所にあなたがやってきて、それを数ヶ月でやり遂げてしまった。でも、事前テストの結果が良くなかったから、派遣切りにあったのよ。このディフェンスゲームを攻略しなさい」

 しかし、このゲームは初めて見る。ああ、日本の最高機密っていったか。記憶を消されたのかもしれないな。どんなルールかも分からないが、攻略ノートは自分の筆跡に間違いない。私は攻略ノートをじっと眺めて、操作方法を学び、その指示通りに忍者や武士などを配置した。そしてスタートさせる。敵がどんどん歩いてくる。私の攻略方法は敵の隙を狙い、背後から狙うという作戦だった。でも、どういう訳か、それが悟られてしまい最終的なスコアはギリギリの勝利だった。するとディフェンスゲームの筐(きょう)体(たい)が開発用コンソールへと変わった。

 「合格よ」

 周りの様子が違う。密室から解放されたのだった。女性が一人、そこにいて何かの部品を持っている。見た事のある部品だ。でもそれ以上は思い出せない。

 「これを知ってるはずよ。その置物は完成モックアップなの」

 「はい。でも思い出せません」

 「これを完成させて下さい。急いでますので」

 部品を受け取ると、なぜだか急にこの組み立て方法を思い出した。とても複雑だ。簡単には作れない。また一人になった。開発コンソールから技術データベースを見ると、そこには途方も無い最高機密の技術が壮絶な数で登録されていた。いくつかの記録装置がエラーを出している。そのデータにはアクセスできないようだった。

 「肝(かん)心(じん)な情報にアクセスできないって、ここの設備はどうなってるんだ」

 また女性が一人現れた。

 「記録装置が壊れているのよ。それで私達、すごく困った状況に陥ったの。この部屋にある、あの黒い壁がそれで、赤いランプが点滅しているのが壊れた箇所。あれだけ壊れると復旧システムが機能しないの。それであなたを呼び出したの。この試作品を作ったわね。その情報などあらゆる情報が失われて、もうあなたに頼むしかない状態なの。急いでといったけど、ゆっくりでもいいわ。この部屋の時間の流れをとてもゆっくりにしているから大丈夫。それでは頑張って。やり遂げたら一生遊んで暮(く)らせる額(がく)の報奨金を支払うから、そのつもりでいて下さい」

 そう言うと女性は消えた。目をしっかりと捕らえていたが急に消えた。立体映像なのかもしれない。私は黒い壁をじっと眺める。

 「あれ、これって、この前に派(は)遣(けん)でやっていたストレージ会社のと似ている」

 ひょっとすると、と、管理コンソールを出す手順を踏んでみた。そうすると管理コンソールが現われて、ストレージの操作が可能になった。

 「ああ、これは試作機なんだな。えーと、この場合の対処方法はー」

 現代の人間に分かるように説明するならば、RAID5(レイドファイブ)という一台壊れても復旧が可能という記録装置で、同時に二台壊れて復旧不能という状態のことを意味していた。こうなった場合、すべてのデータはアクセス不能に陥る。そうなると経営を揺るがすような深刻な損害が発生するのだった。この試作機はバックアップ機能不要というシステムだから、こうなってしまった以上、私はなんとかするしかないわけだ。

 「構成情報記録。電子部品新品交換。構成情報再構築」

 この方法は異(い)端(たん)である。これは派遣のマニュアルには書いてない方法だった。マニュアルをよく読んでみると、論(ろん)理(り)的(てき)破(は)綻(たん)が随(ずい)所(しょ)に見られ、この通りに実行すれば確実に儲かるように書かれていた。論理的破綻した命令を推測すると、先程の命令を実行するだけで、すべての機能が回復するはずである。どうせ壊れて諦めていたし、何をやっても自由なはずだ。あのメーカーの技術者を呼び出して、死亡宣告させられたのだろう。

 「よし、復旧完了。さて、やりますか」

 すべてのデータベースにアクセスできるようになったけれど、自分の権限では試作品完成以降のデータに閲(えつ)覧(らん)権(けん)限(げん)がなかった。まず試作品のデータを参照した。ああ、完全に思い出した。これを完成モックアップの状態にするわけだな。そのデータが参照できないと何もできないんだけど、できるかな。

 「よし、何を作りたかったのか分かった。あとは淡々と組み立てるだけだな」

 部品点数は百万以上必要だ。幸いにも自分の過去のクリエイトプログラムが残っていたので、それを改良する作業に取り掛かった。過去の自分より、今の自分のほうがプログラミングの才能は上だ。高速に処理できるように多重並列マクロのテクニックを駆使して、百倍以上高速に動作するように書き換えた。しかし行き詰る。

 「行き詰ったときは、ひとまず、ここまでの成果を形にしてみよう」

 アイテムクリエーターで、自分のプログラムと概念を入力してコンピューターに処理させる。不思議な置物とよく似たものは作れた。でも、そこからどうして、あの概念を実用化する手段が分からない。

 「リンクー」

 ダメだ。反応がない。リンクはテレパシーのようなものだ。それ以上は分からない。実際には何も喋らず、ただ考えているようにしか見えない。ああ、自分の力でなんとかするしかないのか。試作品の先があるってことは、それを調べたほうが速いな。非常事態だったらしいから、データベースに侵入を試みるか。自分の持つ権限で、データベースに侵入する日本最高の機密情報を閲覧していく。しかしあまりに数が多くてやってられない。先程作ったプログラムを検索と侵入に特化して実行してみるか。多重並列処理で一回の侵入に見せかけないと、あとで恐ろしい事が待っているかもしれないから、慎重にプログラミングしていく。九十六時間ぐらいたっただろうか、やっとシミュレーターでは完璧に動作するようになった。あとは本番だけ。でも、その前にー

 「リンク、お前」

 「なんだ。あとは実行するだけじゃないのか。仕方ないな、俺がチェックしてやるよ。二億三千四十六行目、フラグの設定が間違っている。このまま実行すると情報を取得したときに警報が鳴る。触るな。もう修正した。既に実行している」

 「え。勝手にやるなよ」

 「もし万が一失敗したら、すべての作戦は無に帰る。しかもお前は最高機密の契約違反で国(こっ)家(か)反(はん)逆(ぎゃく)罪(ざい)の罪に問われる。そうしたら、俺達が責められる。もう一度、最初からやり直しだ。ハッキングに成功したぞ。待て待て、まだ触るな。歴史改ざんはこうやるんだ。インフィニティ、この時代でこの技術を簡素に応用したらどうなる。それを彼の記録として残せ」

 「はい、分かりました。リミット解除ー」

 「最初からイカサマやるっていうのなら教えてくれよ」

 「しかしですね、私達ができるのは情報の改ざんなどしかできません。プログラミングはあなた自身の手で行う必要がありました。いま完成しまして、信頼性と精度の最適化を行っています。どの程度の精度が必要ですか」

 「ああ、そうだな。未(み)来(らい)永(えい)劫(ごう)、絶対に技術力で抜かれない精度にしてほしい」

 「分かりました。完成です。開発コンソールに表示してあるのをそのまま登録して下さい。それですべての設計図と概念を登録できるようにしました」

 「ありがとう、インフィニティ」

 開発コンソールの登録ボタンを押す。そしてアイテムクリエーターで、製造する。モックアップと寸分変わらぬ精度で、完成品が作られた。

 「あのー、終わりましたが、チェックしてくれませんか」

 何度も叫ぶ。五回ほど叫んだところで、呼び出しボタンがないか部屋を探した。しかし、いくら探しても、そんなものは無い。ああ、そうだ。困ったときは開発コンソールから、問い合わせメッセージを送ればいいんだっけ。そうして、また一人の女性が現われた。

 「なにか困っているようだけど、どうしたの」

 「あなたの指示通りのものを完成させました。私の資料にアクセスして、確認してください。ここに完成したものがありますが、あなたの希望通りのものか分からないので、困っています」

 「え、もう完成したの。ちょっと待ってて、確認してみます」

 私はそれから二十時間ぐらい待った。ちょっとじゃない、いったい何時まで待たせるんだ。こうなったら、あいつに頼るしかないな。

 「リンク、リーダー」

 「分かってるわよ。いまから時間を完全に止めるから、目を閉じて、口を閉じて、鼻と耳をふさいで。そうしないと、あなたの体の機能が停止してしまうから、できるでしょう。今から映像イメージを送る」

 ああ、こうやるのか。

 「もっと強くして。はい終わり。五千時間経過させた。酷(ひど)い人達ね。黒子からの指示で、その間、あなたは真(しん)摯(し)にこの技術の応用を開発コンソールで試行錯誤していたという捏(ねつ)造(ぞう)を行ったので、いまあなたは相当、疲労している。疲れを感じるでしょ」

 「ああ、これでいったん登録しよう。なんだこれ、もう徹夜続きの疲れに似ているな」

 「実際にはまったく疲れてないからね。まだ実時間で三分しか経過してないからよ」

 いったい私は何を発明したんだろう。時間を操作する技術なのか、過去にメッセージや情報操作を行う技術なのか、それともタイムトラベルか。まぁ、分からない事に首をつっこんで抜けなくなって死亡する事件は多いから、これ以上に考えるのはよそう。

 しばらくすると目の前に女性が一瞬で登場した。満(まん)悦(えつ)の笑顔を浮かべて言った。

 「あなたは本当にすごい。たった一分でやり遂げるなんて、天才よ」

 「待っている間、退屈だったので、応用技術について自分なりに試(し)行(こう)錯(さく)誤(ご)してみました」

 そう言うと、時間の制御が解除されたのか。急にまわりに人が私を取り囲んでいた。そうしていると年配の責任者らしい人から言われた。

 「すまなかった。私は君を解雇するべきではなかった。それから、データベースが復旧しているのだが、どうやったんだ。メーカーからは絶対に復旧できないと言われていて、絶望していたのに君が来てから瞬時に復旧していた。なにをやったのか説明して欲しい」

 「はい。私はこの黒い壁にある記録装置のメーカーで派遣技術者をやって修理を担当していました。派遣社員に渡される修理マニュアルでは絶対に修理できませんが、そのマニュアルには論理的な矛盾がいくつかありまして、その方法を用いて短時間で修理を完了させていました。ただこの方法は修理レポートを発行する端末からは入力できない内容でして、その内容は守秘義務もありますので語れません。また派遣という身分で、知ってはいけない情報を知り得たのなら、命を狙われる危険があります。どうか御了承ください」

 「分かりました。もうすぐ社長が来ます。おそらく報奨金の額は十兆(ちょう)円を超えると思いますので、あらかじめ伝えておきます。そして、その報奨金は非課税です」

 本当に一生遊んで暮らせる額だな。宇宙旅行を何回やっても使い切れない程だ。周りを見渡すと百人を超える技術者達が懸(けん)命(めい)に私の完成した技術の検証と、応用技術の検証を行っていた。みんな凄い真剣な眼差しで、開発コンソールを離れない。まもなくすると、いかにもプロジェクトリーダーの風(ふう)格(かく)を持つ女性がこっちに歩いてきた。

 「あなた、本当に凄(すご)いわ。しかもデータベースに侵入したわね。それも一回で。本来なら即刻犯罪者として告発するんだけど、絶望してたデータベースを復旧させた功績に免じて、それは無しにしておきます。セキュリティホールがあったことに驚いたけれど、どうやったのか報告の義務があります。説明してくれませんか」

 「はい。私のクリエイトプログラムをデータベース侵入の技術の検索と実行に最適化し、一回の侵入で終わるように多重並列処理を組み上げて、シミュレーターで何度も実験を繰り返して、最終的にそれを完成させました。細かい事については気にしない性格なので、私の開発コンソール記録を参照してください。すべて残してあります」

 「あれを作るのに、百人がかりで、あの空間を実時間に換算して五年かかっていた技術を、あなたはたった実時間一分以内でやり遂げた。それも完璧に完成している事を知って、私は大変驚いたわ。いま、あなたの応用技術について検証しているんだけど、誰も返事が無いの。さっき、ここに来た理由について報告があったんだけど、犯罪組織に狙われていると聞いた。いったい何をしたの」

 「えーと、とても話しにくいのですが、黒い壁の量産仕様のモデルで、ちょっとデータをのぞいたら、犯罪組織のデータベースだと分かったので、修理できないという報告をしたんです。派遣のマニュアル通りに。そうして会社に帰ってみると、自分の居場所は無くて、報告した修理レポートが改ざんされていて、私がミスでデータを全消去したことになっていたんです。そして上司に呼ばれて、説教された挙句、派(は)遣(けん)切(ぎ)りです。それから、犯罪組織が私を狙うようになって、必死に逃げ回っていたら、逃げ場はなく、前の会社にかくまってもらおうと、会社に近づいたら声がしました」

 「とてもひどい話ね」

 お前が言うな。私はどれだけ待たされたと思っているんだ。五千時間だぞ、そういう思いやりって、この会社にはないのか。うんざりだ。

 「ああ、ごめんなさい。それについては謝る。この会社の体質上、一日百二十万時間のペースで時間が流れるのに皆が慣れてしまっていて、誰も気付かなかったの。そういう事情なら、私の人脈で日本政府に保護するように要望を出せるから、犯罪組織からおびえる必要はない。どの犯罪組織か教えなさい。いま政府のエージェントを呼ぶから、少し待っていて下さい」

 「はい。分かりました」

 派遣社員は会社の階級や個人名を知る権利は無い。あるがまま、受け入れるしかない。ただ、淡々と命令されるまま、仕事をするだけだ。百人を超える技術者達は、もうほとんど疲労の顔を浮かべている。どう応用したのか、今となっては思い出せない。そもそも、知らないのだから仕方ないが。先(さき)程(ほど)の謝(しゃ)罪(ざい)は驚いた。心を読む技術が実用化されているのなら、前回、試作品を作り上げたときに、こんな簡単な技術を作らせるって、糞(くそ)企(き)業(ぎょう)に間違いないと思いながら報告したのがまずかったのか。油断ならない会社だな。三十分ぐらい経つと、先程のリーダーと黒服がやってきた。

 「こちらが政府のエージェントよ。ありのままに話しなさい。そしてデータベースを復旧させる方法を完璧に教えなさい。それが条件になる」

 私は黒服の男性に密室での談話を希望した。その瞬間、テレポートしたのが分かった。テレポートの技術まで実用化されているのかと思っているとー

 「ここは完全な密室です。どんな通信機器も遮断します。いま起きた事は内緒にしてください。私はこういう者です」

 日本国政府・・・。漢字が難しくて読めない。細かい事は気にしない。ありのままを淡々と話していった。特にストレージに関する話題については、慎重に丁寧に資料を作成しながら解説した。あとストレージ会社のイカサマについて、詳細に渡って推測であると前置きした上で、あらゆる可能性についてすべて話した。

 《技術会社の管理人室》 風格のある女性がスクリーンに向かって話している。

 「ねぇ、まだ彼の技術について、実証を完璧にできる人はいないの。牢屋に入れるわよ」

 「精度と信頼性が桁違いでシミュレーションの精度を極限に上げても、さらに精度の終わりが見えない状態です。いまシミュレーターの精度を毎秒一万桁のペースで上げていますが、それでも間に合いません。こんな精度を追求した技術者は初めてです」

 「そんな状態なのね。彼の応用技術についての報告」

 「こんなことがあり得るのか、誰もが不思議に包まれていて、自主的に皆、牢屋に入って検証を行っていますが、まだ誰もでてきていません」

 「あいつに責任を取ってもらう。派遣切りした責任よ。私達の五年間、実質百五十年以上の研究は彼がいたら、とっくの昔に終わっていた。どうしようかしら、社長がいま来て、彼がいるとまずいわ。あいつを呼んで」

 人事責任者、

 「何でしょうか」

 「彼はいま政府のエージェントと交渉の最中よ。あなたから、再度派遣切りを伝えてください。そして社長が遊びにまた出かけたら正式に強引に採用しなさい。これはあなたの責任よ。彼がいたら、私達の不毛の五年間はなかったんだから、責任を取りなさい」

 「その程度の罰で許していただき、ありがとうございます」

 《完全密室》 黒服に私は作成した資料を手渡した。

 「大変貴重な情報をありがとうございます。いまから犯罪組織の摘(てき)発(はつ)を行いますので、しばらくここでくつろいでいて下さい。空腹のようですから、食事を用意させました。では、失礼致します」

 政府の黒服はテレポートしていった。同時に、豪華な食事と酒がその場にあった。

 日本という国はどこまでが真実で、どこまでが嘘なのか、ますます分からなくなった。あの膨大な量の技術情報がすべて本物であるとしたら、この食事と酒は素直に食べる事をためらった。なにが入ってるか分からない。こういうときはー

 「リンク、リーダー」

 「素直に食べればいいのに。純粋な食事と酒よ。いま警察と軍隊が総出で犯罪組織の摘発に乗り出している。いまデータベースの復旧が終わったところ。登録されている情報によってすべての犯罪者の指名手配が始まっている。それからストレージ会社についても、強制捜査が入った。すべて順調だから、何も怖がる必要ないわね。たぶん、この功績によって、百兆円規模の報奨金が支払われるはずよ。でも、あなた、また派遣切りになる。その時は、もう二度と関わらないと悔し涙を浮かべて、叫び続ける。そうするからね、なんで怒っているのか分からなくても、涙がでていても、気にしないで、思ったとおりに行動してね。それでうまくいくから」

 私は椅子に座って、食事に手をつけた。どれも知らない料理ばかりだ。食べ方すら分からない。箸を使って、ひとつを口に入れると、とてつもない幸福感に包まれた。

 「なにこれー」

 いつも食べてるものと根本的に味の次元が違っている。酒も知らないブランドばかりだ。このレベルなら庶民が絶対に届かないレベルの酒に違いない。それなら、とりあえずワインを飲むか。なに、この香り。香りだけで満足なレベルだ。金持ちって、いつもこんなものばかり食べているのかな。これは国(こく)賓(ひん)級(きゅう)の料理かもしれない。ワインは香りだけで十分。飲んだら乗るなだ。もったいないけど、このままにしておこう。他の料理は、本当にどうやって食べればいいか分からない。こういうときはー

 「リンク、インフィニティ」

 「はい。食べ方ですね。あなたの推測どおり、国賓級の料理ですが、そのさらに上位の大統領の皆様に振舞われる特別な料理です。どんな金持ちでも絶対に食べる事はできません。良かったですね。絶対に手を使わずに食べてくださいね。その料理は本当に頭の良い人だけが食することができる料理で、一種の知能テストみたいなものです。そういう姑息な手段で、日本政府は大統領の力量を見(み)極(きわ)めています。一(いっ)見(けん)、硬(かた)そうで食べられないように見えますが、実際は非常に柔らかです。でも頑張ろうとしないで下さい。頑張ろうとするとダイヤのように硬くなります。酒は飲まないのが賢(けん)明(めい)です。そのワイン一杯で一億円の価値があります。ですが、コストはかかっていません。料理人が料理した料理ではありません。よく考えながら、落ち着いて食事を食べてください」

 「分かった。要(よう)は知恵の輪のような食事なんだな」

 「そうです。ヒントを言いますと、中心にある料理は一番最後に、時計回りで順番にリラックスして食べてください。最後の砦(とりで)はノーヒントです」

 最初に手をつけた料理から順番に食べていく。ああ、箸を優しく使えば楽勝だな。ヒントというより、あれは答えだろ。美味い料理ではない。神の食事があるとしたら、そういう食事だ。幸福感のなかに、神秘性を追求されている。こんな料理を食べてしまったら、日本を信用して決して裏切らないだろうな。それぐらい、この料理は格が違った。皿に乗った料理の量は少ないほうだ。でも一口食べるたびに、この感覚に襲われるので、一人でも寂しくなかった。でも、ちょっとテレビを見てみたい。試しに言ってみよう。

 「スクリーン、オープン。ニュースチャンネル」

 すると正面の壁がテレビになった。トップニュースで外国の犯罪組織と日本国内で戦争をしているという物騒なニュースが流れていた。私の関わった組織は日本の犯罪組織ではなかったのか。空軍、陸軍、海軍、すべて動いていて、街中が戦場と化している。これでよかったのか、本当に疑問に思う。

 《技術会社の管理人室》

 「彼はまだ来ないのね。緊急ニュース速報が流れてる。彼の言ってた犯罪組織かしら」

 「リンク、重要機密、最重要機密、スクリーンオープン、ニュースチャンネル」

 へぇ、派遣切りはやっぱり止めて私の責任で正式採用しようかしら。こんな大規模な外国の犯罪組織の膨大な情報提供をしたのだから、報奨金は百兆円以上いく可能性高い。政府のあの研究所に取られるぐらいなら、派遣切りはやめて、でも先程あいつに命令したばかりだし、派遣切りを嫌がったら私が引き止めて正式採用して、私の彼氏にしようかな。超金持ちになるのは分かってるし、ちょっと彼の情報が必要だ。

 「リンク、重要機密、最重要機密、個人情報、諜報部情報」

 恋愛経験は平均的にあるのね。ああ良かった。まだ独身だった。彼の両親は揃って東京大学卒業、だけど彼は平均以下の大学を中退。あんなに頭が良くて平均以下、それも中退って何があったんだろう。中退の理由、学業成績最下位にて単位取れず。はぁ、なにこれ。ますます分からない。職務経験は鳶(とび)、土(ど)木(ぼく)、修理技術派遣。と、ここの会社か。多重並列マクロと多重並列プログラミング、これら超高等技術はプロでも難しいのに、彼はなぜコンピューター産業の会社に入らなかったのか。えーと、二千社書類選考落ち。どういう履(り)歴(れき)書(しょ)と自己PRをしたのかしら。ああ、真剣に自分の技術力を訴えて書いているわね。英語のコミュニケーションもネイティブと対等に話し合えるレベルにあるとあるけれど、年齢から、そんな実力がある表現では嘘くさいわね。もっと自分を百分の一ぐらい劣化してアピールしていたら採用だったと思う。数社、面接の様子についてレポートがある。会社で一番できる社員でも難しい内容を淡々と簡単にできると言った為、信用できず不採用。なにこれ、なんか泥沼の人生一直線って感じよね。努力家だわ、きっと。彼はどこでコンピューターの技術を学んでいたのか、それが一番気になる。

 「リンク、重要機密、最重要機密、個人情報、最高機密」

 まずコンピューターの技術について、どこでどのように学んだのか確認しておきましょう。D級パスによる閲覧権限、理由は正式採用のため。えーと、日本語で勉強してないですって。すべて英語で勉強して、開発コミュニティへの投稿数は十万件を越す。じゃ、なんで英語の単位が落ちているのか不思議。英語のテストの内容は、必須の一般英語すべて不可。開発コミュニティをみてみようかしら、えーと、彼のアカウントはこれか。ネイティブ英語のくだけた英語で完璧にコミュニケーションが取れてる。それで英語の成績が悪いのか。ちょっと英語のテストの内容を閲覧してみようか、ああ、くだけた英語では完璧に意味が通じてる。ーということは、英語の教員が彼の英語の実力に劣(おと)っていた為に、彼の英文を理解できず、単位は不可だったわけか。最悪ね。だったら、日本の教育システムでは彼の英語は落(らく)第(だい)点(てん)をずっと出し続けていたというのが真実。母親が悪いんじゃないの、この偏りは。両親の情報を調べると、あとで言い訳できないから、他の情報が必要だ。そうだ恋愛の失恋情報について調べよう。

 《完全密室》

 最後の砦にまでたどり着いた。ここをどう攻略するか。メロンのようなフルーツに見えるが、食べやすいようにカットはされてない。絶対に手を使うなと言ったな、インフィニティは。そして大統領の国賓級の食事だと言った。ひょっとすると日本をどうしていきたいのか、イメージしながら食べようとすると変化するとか。いやいや、そんな技術はあるはずが無いーとは言えないな。フルゴーストの車を実現できるほどの技術がいまあるのなら、その可能性はある。では次の考察、なにをイメージするかだ。大統領がこの食事を食べて、思うことは日本と友好関係を維持して行こうだけか。ヒントが無かったら、これ、全然食べる事ができなかった。もしノーヒントで食べた人間はどういう心境になるだろうか。賢くないと食べれない食事か。ならば、日本を褒(ほ)め称(たた)える言葉を口にしたら、いいだろうか。でも、私は普通の言葉ではダメだと思う。そうだ、これだー

 「私は日本を世界最強の国にしたい」

 フルーツに箸を持っていくと、急にそれが変化した。カードがある。箸を置き、そのカードに触れると、周りが一瞬で光りに包まれ、料理と酒が消え、カードが一枚、テーブルの上に落ちた。カードにはこう書いてあった。

 「日本最高の科学者と認定する。以降、特権階級の福(ふく)利(り)厚(こう)生(せい)サービスを受けられる。医療費、渡航費、食費などすべて免除。税金は生涯にわたり永久免除。また日本政府認定A級パスを授与する」

 それを読んだ瞬間にそのカードは消えた。日本政府認定A級パスと言ったら、最上級の権限を保有する事になる。派遣切りを言い渡されたら、社長を首にすることも可能か。遊んで暮らして、何か問題が起きたら強力な切札を出せば、すべて穏便に解決できることも可能だろう。たぶん対話相手の思考を読むことも可能になるはずだ。そして先程のテレポートも、可能になっている可能性だってあるな。すべて免除ならば、医学療法で自分の身体でコンプレックスがある箇所をいくらだって修正できる。ただ日本最高の科学者として認定という最初の言葉に、何か嫌な予感が付きまとう。テレビの報道は通常と違っていて、非常に生々しい映像が次々に飛び込んでくる。ああ、そうだ。まぁいいや。

 《技術会社の管理人室》

 彼の恋愛経験はとても悲しい物語。恋愛の駆け引きを正反対に覚えていた。右手の薬指にはめてあった彼女の指輪を外して付け直したり、本人はもっと強力な関係になって行こうという意思表示だったのだけど、彼女にとっては忘れてただの指輪になったと思い込んでいる。プロポーズの場所を観覧車のなかにしたのは良かったが、その観覧車が亡くなった祖母と一緒に乗って楽しんだ場所だったから、泣いてしまって破局。そうか、プロポーズの瞬間までは順調に行くわけね。そして外見も性格も、あまり問わず、自由にさせて相手に合わせていくタイプか。でも時々、女にとってショッキングな些(さ)細(さい)な行動をしてしまう頼りない男か。外見は平均値以上だし、中身も少々問題あるが、手(て)駒(ごま)として操作できる自信がある。私には日本政府公認D級パスがあるし、私の責任において採用すると言って、もし反抗するようなら強制労働を言い渡す事も可能だ。いよいよ私にも玉(たま)の輿(こし)に乗れるチャンスがやってきた。このチャンスは誰にも渡さない。コンピューターに思考分析させて、恋愛に発展するようなタイミングで正式採用するように仕向ける戦略を立てさせて、完全に彼を掌(しょう)握(あく)しましょう。それで私は完璧な人生を送れる。

 「リンク、ナイン、最重要個人機密」

 「また恋愛の御相談ですか。これで二百回目ですよ。たまには自分で考えたらどうですか。人間としての成長が止まり、いつまでも子供ではダメですよ。今回はパスします」

 「待って、私の推論が正しければ彼をうまく扱えれば、日本の技術力を大幅に向上できる自信があるの。彼は失恋に対して、かなり深刻なストレスを抱えている。このままでは結婚して普通の生活を送るというシンプルな夢すらかなえられない。勤務中にまた似たような失恋が繰り返されると、技術者としての能力を十分発揮できない。私が責任をもって、彼を生涯支えて日本の技術力を大幅に躍進させたいの。だけど私、相手に合わせて態度を分からない様に変えていくタイプの男性経験がない。いつも私の言いなりになってしまうような恋愛しかないから、今回は本当に自信が無いのよ」

 「それなら仕方ありませんね。彼の態度を観察しながら、最適な言葉と態度の情報をリアルタイムに提供しますので、そのように行動してください。間違えそうになったら、どうしましょうか」

 「強制的に私へ思(し)考(こう)干(かん)渉(しょう)をしていい。どうしても日本の技術力をあげたいから」

 「分かりました。あとで必要な知識や考え方が必要になった場合、記憶の改ざんも行っていいでしょうか」

 「それはダメ。結婚して本当に問題が起きたときにだけにする」

 「それならば実行に移せます。まずは戻ってきた彼をすぐに返さず、進行中のプロジェクトについて分からないように一任させて下さい。そして開発コンソールの全権限を付与して、自由にやらせてください。それを技術者全員で観察するように指示を出して下さい。派遣切りの件はその後の方が効果的です」

 「リンク、解除」

 「人事の責任者に通達。さっき派遣切りをするように指示したけれど、現在進行中のプロジェクトを完全に彼に任せて終わってから、あなたが予定通り、派遣切りの話をしなさい。絶対厳守よ。誰に言われても必ず実行する事。責任を取りなさい」

 よし、これで完璧。

 《完全密室》

 テレビは次々と犯罪組織の新情報を報道している。想像以上に悪い影響を日本に与え続けていた組織のようだ。政治、経済、医療、教育、あらゆる分野に影響力があり、時には友好国を侮辱する言葉やニュースを誘導して外交の妨害行為を行っていた。そして着々と戦争を日本が引き起こしえる世論になっていくように、誘導していた矢先だったと報じられた。政府の対応は完全抹(まっ)殺(さつ)で、生死を問わず完全に潰(つぶ)すように命令が下っているとー、ああこれがA級パスの情報閲(えつ)覧(らん)権限なんだなと思った。それなら、一般国民にはどう伝わっているのか知りたい。

 「一般チャンネルに切り替えます」

 テレビからアナウンスされた。このテレビは思考を読むのか。恐ろしいな。爆弾テロ事件が多数地域で発生、住民はすべて安全な施設に保護されたと報道されている。ただ死亡者数と負傷者数は先程のニュースと一致していた。なんだこれ、私がみてきた日本という国は全国民を騙し続けているのか。

 テレビから外部からの通信コールが入っている。

 「レシーブ、コール」

 「私は社長です。データベースを復旧して頂き、誠にありがとうございます。それから例のモックアップについても完璧な製品を作り出してくれて、ありがとうございます。また応用技術の成果についても感謝しています。まだ会社には戻れない用事がありますが、戻ったら私が正式に正社員として迎えるように指示を出しますので、このことは秘密にしておいて下さい。社員に遊びに行くとは言ってますが、あなたは既にA級パスを持つ御方、正直に話します。私はいま日本の軍事産業の会議に出席中で、まだもう少しかかりそうです。あなたの日本を世界最強にしたいという心意気、大変感(かん)銘(めい)を受けました。では、また後ほど会いましょう」

 話が大きくなっている。人生が変わりすぎている。これで大丈夫なのか。騙(だま)されていないか。いや、私が騙(だま)しているのか。どう責任を取ればいいんだ。とんでもない発想の概念を実現しろとか命令されたら、いやA級パスがあるから、そんな時はあのリーダーに丸投げすればいいか。しかし、それでは自分の能力を高めるチャンスを捨てる事になる。果(か)敢(かん)にチャレンジして、どうにもならなくなったら特権を使ってみるか。イカサマを使って、もう一度奇跡を起こしたら派遣切りを考えなくなるだろう。それとも他に政府の秘密機関が他にあるのだろうか。わざわざ日本最高の科学者に認定というメッセージがあったのなら、それは可能性としてあり得る話だ。インフィニティと黒子というイカサマ師が味方にいるのだから、どんな難(なん)局(きょく)も切り抜けられると、高い確率で違いない。

 しばらくすると、黒服と防衛大臣がテレポートしてきた。

 「こちらが日本最高の科学者に認定されたA級パス保持者です」

 「初めまして、いま犯罪組織と戦争をしていて、長期化しそうでな。大変困っている。日本にはテレパシーの技術があるのだが、犯罪組織も同じ技術を保有していることが判明して、指揮系統がズタズタになっている。切札としていた技術は内戦状態を想定していなくて、使えない。いま防衛の戦略チームが必要な技術を絞り込んでいる。先程の会社に戻ったとき、緊急の開発案件として君に頼みたい。快く承諾してくれないだろうか」

 「初めまして、私はテレビをみていて状況を知っています。どんな難題であっても決して諦めず、それを成し遂げて見せます。ただ得意分野ではない事に関しては完全なサポートをお願いします。私の予想ではシミュレーターでの実証のあと、すぐに実戦投入になると思いますので、それに対しての責任は無しにして戴けませんか。私はとてもプレッシャーに弱いので、私のわがままですが考慮して戴けないでしょうか」

 「それは問題ない。A級パス保持者の特権です。大臣、良かったですね」

 「ありがとう、感謝する。私は知っての通り忙しい。これで失礼する」

 防衛大臣はテレポートしていって、黒服だけが残った。

 「あの料理、最初は食べられないと思ったでしょう。どうして食べ方が分かったのか、教えていただけませんか。上司より理由を聞いてくるように言われてまして」

 「はい。中心にあったフルーツは食事の最後に食べるものですから、そうしました。食べ始めた場所が五時の場所であり、そのとき私の時計は五時を指していましたから、時間に身を任せてゆったりとくつろぎながら食べればよいと考えました。それで時計回りに料理を順に食べて、一周しました。最後のフルーツはどうみても、手を使って食べなければ無理と感じていましたが、このような上品な食事を前にして、それはあまりにも無礼と考えました。テレポートの技術があるなら、なにかフルーツではなく他のものかもしれないと想像力をふくらませて、最終的に日本に対しての忠誠を誓(ちか)う必要があるのではないかという推論に達しました。それで普段から日本をみていて感じていた事を口にしただけです」

 「なるほど。さすがです。あなたは大統領の職でも十分に勤まるかもしれませんね。A級パスについて説明致します。A級パスは大統領はじめすべての大臣、議員、官僚に対して権限を剥(はく)奪(だつ)する権利を持っています。また、あらゆる企業の問題に対して影響力を望めば何でも可能となります。ただ、その影響力行使によって、日本が不利益を受けた場合にはあなたの責任で、最長二百年程度の懲(ちょう)役(えき)刑(けい)が課せられますから、十分に熟慮した上で行使して下さい。しかし、あなたの場合は科学者です。あなたの発明によって、日本が不利益を得たとしても、それは使用者の責任となりまして、一切の責任は完全に免除されます。また偉大なる発明を成した場合には相(そう)応(おう)の褒(ほう)章(しょう)が与えられます。褒賞というのは日本政府がひとつに対して五億円の世界基金を通じて得るものでして、天国でどんな夢も実現するというルールがあります。天国と地獄は実在します。かなり昔から運営されており、死んだ人間の魂を扱う技術によって再現されています。この情報はB級パス以上の所有者にしか提供されていませんので、他言は無用です。それでは戻りましょうか」

 私と黒服は会社に戻った。

 私は会社に戻っていたが、黒服はその場にいなかった。A級パスの権限は凄まじい。この大統領はダメ、この政治家はダメ、と思ったら即座に首を切れるのか。二百年も人間は生きられないから、先程のゆったりとした時間の中で二百年だろう。緊急の研究内容は一体なんだ。テレパシーを妨(ぼう)害(がい)するのか、それともテレパシーを遮(しゃ)断(だん)するのか、いずれにしてもテレパシーの技術について分からない状況では何も考えないほうが良い。

 プロジェクトリーダーの風格を持った女性が歩いてきた。

 「お疲れさま。あなたの研究成果について完璧な検証ができた。本当にありがとう。ちょっとまだいいかしら」

 「はい、予定はありませんので大丈夫です」

 「技術者全員に通達します。彼に頼みたい研究案件があるのなら、この機会に誰か採用のチャンスを与えて欲しいの。どんな研究でもいい。誰かいませんか」

 一人の男性技術者が走ってやって来た。

 「お願いがあります。私のプロジェクトなんですが、牢(ろう)屋(や)で五百年以上かかっても実用化を成し遂げられなかった案件があります。これを引き受けて戴けないでしょうか。私の責任において、開発コンソールにすべての権限を与えます。どうかお願いします」

 「はい、いま無職の身です。採用の機会が与えられるのなら、どんな難題であろうとも決して諦めず努力してみます。ただ、あなたでも無理な案件であれば、私がやったらもっと大変かもしれません。どんな内容でもいいので、途中の研究成果を閲覧できないでしょうか。それならば、私は引き継いでも構いません」

 男性技術者はリーダーに向かって、土(ど)下(げ)座(ざ)の姿勢を取り、そして語り始めた。

 「リーダー、私がどうしても達成できなかった案件です。とても悔しいですが、先程の応用技術の成果をみて驚(きょう)嘆(たん)しました。彼ならば成し遂げられるかもしれません。正社員にしか許可されてない情報などが含まれた研究経過の資料の閲覧権限を下さい」

 そうして男性技術者は頭を下げて、土下座をした。靴を履いたままの土下座は大変苦しい。倒れそうになるのを必死にこらえている。身体が非常に小刻みに動き始めた。時間の流れをゆっくりにしたのだろう。倒れた。瞬時に元の姿勢に戻る。

 私は耐えられなかった。靴をはいたままの土下座がどれほど苦痛であるか知っているからだ。彼を助けなくては自分のプライドが許さない。

 「リーダー様、私は記憶の消去に承諾します。彼の研究を引き継ぎます」

 私も技術者の隣に土下座の姿勢を取り、語り始める。

 「リーダー様、どうか彼の願いを聞き入れてください。私は派遣技術者の身分ではありますが、彼の真(しん)摯(し)な訴えに感(かん)銘(めい)を受けました。正社員の権限でしか得られない情報を私が閲覧して、その研究がすべて終わったあとで私の記憶を強制消去して構いません。どうか彼の意向を聞き入れて戴けないでしょうか。すべては日本を世界最強にするためです」

 私は土下座をする。彼ほど痛くは無い。もう慣れた。派遣社員の普通はこれが当たり前だから、土下座のあらゆるテクニックを知り尽くしている。どの筋肉に意識を集中すればよいか、どういう感情を鮮明にすればいいか、どうすれば長時間の土下座に耐えられるか。というか、ストレージ会社の最初の研修は土下座だったから、驚いた。だから靴とズボンには秘密があって、長時間の土下座でも快適に過ごせる仕様のままだ。

 二十四時間経過して、リーダーは諦めたように言った。

 「分かりました。私の権限で研究の引継ぎを許可します。ただし記憶は消去しますので御了承ください。わが社の最高機密の研究です。研究内容の概要から詳細については消去の権限がありますが、それ以外については社長の許可が必要です。二人とも、立って下さい。誰か、二人の介護をお願いします。それから、研究中は私達が牢屋と呼んでいる究極に時間の流れが短い空間に閉じ込めます。また自分の知識では補えないようなことがあったら、わが社のメインコンピューター『ナイン』の使用を許可します。技術データベースのすべての閲覧権限を許可します」

 技術者は途中で気を失ったようだった。私はあの拷(ごう)問(もん)に耐えられた。ストレージ会社での最高記録は四十八時間だ。特に気を失うまでのじれったい時間が一番きつい。半分で済んだので、その時間帯に突入しなくて助かった。派遣社員の最高記録は六日間らしいが、それはとても信じられない。眠ってもいけないし、姿勢を崩してもいけない。あの研修は本当に人生最高にきつかった。「気を失うまで続けろ」そのかわり時給は平均日給のレートだったから、必死になってやれた。四十八日間の日給のお陰で、当面の生活資金を得た。その後の研修は英語のテキストと日本語訳だったので、英語テキストを全部読んで理解した。どういう理由か、日本語訳は非常に汚い方法で荒稼ぎする内容にまとめられ、最終テストは日本語訳でのテストだったから、ブラック企業に派遣された事が分かった。そうなると、辞(や)めるのは簡単ではない。精(せい)神(しん)疾(しっ)患(かん)や身(しん)体(たい)疾(しっ)患(かん)にかかったら名医が治療して、三日目には職に復帰させられる。契約期間も非常に曖(あい)昧(まい)だ。契約主がどんどん派遣元への金額を積み上げていくから、自分の意思で派遣元に直(じき)訴(そ)しても却(きゃっ)下(か)される。それでもし、派遣契約を破るような行動に出た場合、違約金として年収分を徴(ちょう)収(しゅう)され、無ければ借金を背負う。それでも続けられたのは、悪夢のような状態になったとき、英語マニュアル通りに修復すれば完全に修理完了になることが分かっていたから、私の実績は社内でナンバーワンだった。ま、ブラックでも、頭脳を駆使すれば、ただの会社だ。逆に終(しゅう)身(しん)雇(こ)用(よう)の待(たい)遇(ぐう)を得て、ありがたい状況だった。

 しばらくすると男性技術者が疲れ果てた顔をしてやってきた。

 「大変だったでしょう。その気持ち分かります」

 私は握手を求めた。彼は応じてきた。

 「はい。お気遣いありがとうございます。土下座があんなにきついものだとは知りませんでした。でも、あなたが横にいてくれたお陰で踏ん張れました。ありがとうございます。リーダーは厳しいと思っているでしょうが、実際はとても優しい方です。気立てがよく、面倒見がとても良くて、これだけの社員を完璧にマネージメントできる優秀な方です。ただ研究過程の責任については、とても厳しいので、私は先輩の真(ま)似(ね)をして、ああするしかなかったのです。先程、リーダーからねぎらいの言葉をかけられました。全社員の士気を維持していくにはああするしか思いつかなかったと言われました。一時的に正社員の資格をあなたに権限として与えられましたので、もう私には敬語は使わないで下さい」

 「えーと、それ本当なの。リーダーは努力してあの地位にいるのなら、仕方ない話ですね。意外だな。リーダーの好みのタイプって、どんなタイプかな。正社員採用のチャンスを大いに利用したいんだ。ここで、パーフェクトと呼ばれてみたい。知ってますか」

 「ははは、あなたは本当にすごいです。敬語からため口に瞬時に切り替えて話せる、他の人にはできませんよ。内緒なんですが、リーダーは子供っぽいところが結構あって、わがまま言いたい放題なんですけど、それでも性格を受け入れてくれるような臨(りん)機(き)応(おう)変(へん)タイプの男性が好みのようです。でも明らかに理(り)に反(はん)することを行動に移したら、どんな暴力を振るってでも静止して下さい。先輩はそれで愛想を尽かされて振られました」

 「なるほど、参考になりました。それでは研究プロジェクトの内容について教えてください。あと、あの膨(ぼう)大(だい)な技術情報から自分が知りたい内容について検索する方法を教えてください。それが分からなくて、自前の検索プログラムを書いて先程は行いました」

 「え、自分で作ったのですか。派遣社員の権限は予想以上にひどいな。えーと、開発コンソールに向かって、思い浮かべて、検索と命じるだけです。研究プロジェクトはアラートシステムと言って、日本全土のあらゆる置物に緊急通報や安全の為のバリアを張り巡らすほかに、犯罪者の完全撲滅を狙ったネットワークシステムです。ここまで言えば、あなたの作った完成品と応用技術の成果について、理解できると思います」

 「はい。予想通りでした。これは日本国内を防衛するための基礎技術の研究だと判断して、応用研究を進めていました。世界でまったく発表されてない技術を完成させるのは本当に気合が入りますね。私は牢屋のなか、たった二分でしたが徹夜を何度もしているような気分になりました。でも、私は土下座するとき話したように、日本を世界最強にしたいという気持ちでいっぱいです。全力で取り組みますが、その研究は一人で黙々とやったほうが私は効率がいいのです。私を信頼してください。そして、その様子を時々でも構いません。正社員の方に進(しん)捗(ちょく)状(じょう)況(きょう)を確認して戴き、できれば全員、私を推(すい)薦(せん)するように仕(し)向(む)けてくれませんか」

 「・・・・・・」

 「五百年以上の懲役刑のような研究に没頭していたのでしょう。それを思い出せば、正社員全員を説得できると信じています。あなたはあの土下座に耐えました。それならば、あなたは成し遂げられるはずです。どうかお願いします。私の人生がかかっています」

 「分かりました。必ず全員に様子を伝えて、全員の推薦が得られるように尽力します。大変だと思いますが、頑張ってください。ナインは状況に応じて柔軟に対応できるコンピューターです。あなたが作ったようなプログラムは簡単に内容を告げるだけで完成します」

 男性技術者は私を牢屋のなかに閉じ込めた。そこには開発コンソールとリラックスしたり、リフレッシュする為の、イメージングベッドが置いてあった。私は早速、イカサマを行う。こんな面倒な内容はインフィニティに任せたほうが楽だ。犯罪組織に見つからず、そして犯罪者を摘発する夢のようなアイテム、どう考えても無理だ。

 「リンクー」

 ええ、本当なのか。テレパシーがまったく通じない。全部、自分でやれってことだ。途中の成果を見ると、電気工学、通信工学、電子工学、全部大学で単位を落とした内容じゃないか。ナインに早速相談してみよう。

 「ナイン、この研究プロジェクトで必要と思われる知識をネイティブ英語のくだけた英語で教えてくれないか。日本語の技術教科書はまわりくどくて、なにを言いたいのかさっぱり分からない。もし日本語の技術教科書に矛盾が生じる記述があるのなら、その記述に至った経(けい)緯(い)を調べて、正確な情報を提供して欲しい。可能ですか」

 「はい。問題ありません。開発コンソールを眺めて、ずっと聞いていてください。それで確実に大(だい)学(がく)院(いん)博(はか)士(せ)課(か)程(てい)を修了できるレベルまで知識を引き上げます」

 《牢屋の外》 リーダーと技術者全員がミーティングルームにいた。

 「ナイン、完璧な演技だった。もう消えていいぞ」

 「余裕でした。想定外だったのは問題に対する対処能力です。日本語の文法の理解力は平均以下でした。あなたなら、余裕で操れるでしょう。ただ、くだけた英語は絶対に使わないようにして下さい。彼はそれに対する判断力は日本最高レベルです。では」

 「聞いたな、全員、自分の責任において彼を採用するべきだという内容で推薦状を書け、D級パスの権限で命令する。それから人事の責任者が派遣切りをするという演技を行うので、全力で阻止するように阻止できなかった奴(やつ)は評価を下げる。すべて演技だ。いいな、演技でも手を抜くな。ただ人事責任者が牢屋で一日中始(し)末(まつ)書(しょ)を書き続けたいか、と言うほどに、あいつが困るような状況にまで追い込め。あいつのお陰で百五十年以上、プロジェクトは停滞してしまったからな。始末書を口にし始めたら、下級技術者は全員ヤジを飛ばせ、あとでチェックして言ってなかったら評価を落とす。そしたらサブリーダーはそれを制止しなさい。人事責任者が去ったあと、私は何事かとサブリーダーに問い詰めるから、サブリーダーは彼のそばから離れないこと。諦めて帰ろうとしたら全力で阻止しなさい。阻止できなかったら、ナインの支援をすぐ受けなさい。それから、推薦状を書き上げた者から、彼の開発コンソールをモニタし、どんな手段を使っているのか、全員で彼の研究報告書を書き続けなさい。それだけの証拠があれば、私の権限でも彼を正社員として採用できる。ただ私は演技をするから、サブリーダーは臨機応変にいつも通りに対処する事。ま、ぶっちゃけて言うと彼は女の愛が感じられると潜在能力が爆発的に伸びるという調査結果がでたから、私が彼を自由に操作できるように外出します。解散」

 《技術者達の牢屋》 全員が口々にリーダーに対して愚(ぐ)痴(ち)をこぼしている。

 「悪魔のようなシナリオを考えたのはナインか」

 「リーダーの話は論(ろん)理(り)破(は)綻(たん)してなかったから、そうだろ」

 「あいつ、大丈夫か。あの研究所のほうが向いているぞ」

 「政府の究極に極秘の研究所か」

 「あの女悪魔に良いように操られていることを知らせたほうがいいかしら」

 「いいや、それはダメだ。国家反逆罪に問われたら人生おしまいだ」

 「しかし、あいつ日本を世界最強にしたい、あれには驚いた」

 「靴を履いたままの土下座に二十時間耐える、あの根性が桁違いだ」

 「推薦状は言われなくても、人事の責任者に提出するつもりだったのに」

 「そうだ。悪魔に先手を打たれた。あの流れだと悪魔の評価になる」

 「言われなくてもモニターする予定だったのに、それもやられた」

 「こんな日本政府の超ブラック技術会社、本当にやめたいんだけどな」

 「五万ページもある誓約書を慎重に分析すると国家反逆罪での辞(じ)表(ひょう)」

 「あれは最悪だ。あんな経歴が残ると再就職できなくなる」

 「あの悪魔はどんな出世の方法を使ったんだ。俺はそれを知りたい」

 「ナインから聞いたんだけど、事前テストの結果はパーフェクトだったの」

 「どんな風にパーフェクトだって」

 「強烈な悪知恵のラッシュで、ノーミス、スコア最高、難易度最高でクリア」

 「彼はどうなんだ、サブリーダー」

 「最後のステージで、ギリギリの勝利。他のステージは完璧な戦略でクリア」

 「なんでそれで派遣切りに遭うんだよ」

 「私達、最後まで行けなかったわ」

 「あまり想像したくは無い話だが、あいつ子供っぽいだろ、危機感を抱いたんじゃないかと思うんだ。でも、おそらくD級パスの権限で悪知恵の限りを尽くして調べ上げたら、危機感を感じなくなった可能性が高い。ナインはリーダーに絶対服従だから」

 「ぜんぶ悪魔のせいで、地獄のデスマーチが百五十年以上も続いたのか」

 「みんな聞いてるか、そろそろ地獄耳のリミットが近い。苦痛とは思うがー」

 「ナインだ。全部、モニターしろとの命令があったが、従順に従っているという情報しか流さない。前回の派遣切りの件はリーダーの報告書を私が書いた。すべて証拠が残っている。そして、リーダーに言われたとおりに彼の詳細な実力を示す証拠を残して欲しい。その情報を政府の究極の研究所に送る。あそこは政府公認S級パスの人間しかいない。そこで送った情報の検証をしてもらい、あの悪魔を追い払う。あの悪魔は誓約書の内容を完全に忘れているし、D級パスの限界を忘れている。いつでも追い出せる状況にあるのだが、私が考えた究極の事前テストをパーフェクトの成績、戦略は悪知恵のラッシュ、こんな悪魔を相手をできるようには設計されていない。だから、どうしても時間が必要だった。不毛の五年間の所得税を非課税にできるようにも働きかけてみる。私がこんなことを言うのは今回が初めてだと思うが、在籍年数の長いチームAならば分かるはずだ」

 「分かりました。では、政府公認の誓約書類にナインの署名をお願いします」

 政府公認の誓約書類にナインのサインが書き添えられた。サブリーダーはサインが本物かどうかチェックする。何度も慎重にやり直す。様々なパターンでチェックする。

 「みんな、サインは本物だ。真剣に取り組もう。演技の練習も完璧にやろう」

 《技術会社の管理人室》 悪魔のリーダーがナインと話している。

 「ナイン、状況はどうだ。私の戦略通りにS級認定者しかいない研究所に情報を送り、そして、サブリーダーはこのスイッチでサインが有効かどうか判別するスキャナーを本当に使ったか。そして、あのアホ共の士気はいまどうなった。報告せよ」

 「はい、最初はあなたの事を女悪魔だと愚痴をこぼしていました。愚痴をこぼしたのはこのメンバーです。スキャナーのチェックまでサブリーダーは行いませんでした。本当にアホだと私も同感です。ほんの少しの希望を与えただけで、彼らの士気はパーフェクトになりました。今まで以上に真剣に取り組むでしょう。演技の練習をすると言いました」

 「そうか、それならば良い。そして、どのリーダーが政府公認の誓約書にサインを促したのか、教えなさい」

 「Aチームのサブリーダーです」

 「そうか、よし。彼女の現在の思考をモニターしたい。D級パスで命令する」

 「分かりました」

 「なるほど完璧に騙せているな。彼女の実質評価は最下位か。ならば、人員交代で彼を採用して、彼女を国家反逆罪の罪で刑務所にぶち込めるな。社長への報告書は私が直接書く。ナインは優しく状況証拠のフォローにまわれ。何回、記憶の改ざんをやったと思っているのかアホ共は分かってない。私は日本政府から完璧にこのプロジェクトを任された責任がある。その理由だけで十分だ。あ、そうだ。ナイン、私が採用したいけどと言い出したら強制的にボロボロと涙が止まらないようにしろ。あいつらが完璧な演技をするのなら、こちらもさらに上手な演技が求められる。そのとき、常にナインに命令されていて身動きがとれないといった理由を言うが、人間が認識できる限界ではなく涙声で聞き取りにくい発音に強引に変えろ。聞こえない奴が一人でもいたら、子供のように何回でも繰り返せ。そして奴(やつ)らの表情に少しでも変化が起きたら、私の責任で採用すると強引に言わせろ。そのあとは、私がすべて上手く演技する。この人材マネージメントで完璧か」

 「はい。パーフェクトです。涙がでるとき目を閉じたくなりますが、人間の構造上どうしても限界はあります。目は全力で開けたままでお願いします。それだけで、迫(はく)真(しん)の演技が完成します。ただナインが監視しているという想定の場合、私の行動はどう定義付けすれば良いでしょうか」

 「うーん、少し待て考える。いま犯罪組織との攻防はどうなっている。どっちが優勢か」

 「犯罪組織の指揮系統のかく乱攻撃が効いて、全滅に近い状態になっています」

 「分かった。給電システムの爆破を偽装しろ。私が彼を車に乗せて走り出したら、すぐにな。彼に聞える程度の大爆発を起こした後、私の車に当(とう)然(ぜん)の如(ごと)く状況を知らせろ。そして犯罪組織は壊(かい)滅(めつ)したという嘘の情報を流せ。社長にも給電システムが爆破された事を伝えて、社長一同にはナインは給電システムを修復中と繰り返せ。それで私は大幅に時間を稼げる。社長がもし私に連絡しようとしたら、彼を採用するように説得中といい、証拠のデータを閲覧させろ。あの社長は騙しやすい。そうすれば、政府のエージェントから情報がもたらされていたとしても、連絡できない。私のマネージメントスキルはパーフェクトだからな。この戦略に問題点はないか、分析してくれ、彼を採用するためだ」

 「分かりました。シミュレーションを行います。すぐに結果を報告すると彼の問題対処能力の推論により、偽装だと見抜かれる恐れがあります。どのタイミングで、何を報告したらよろしいでしょうか」

 「まず最初の報告は負傷者の有無だ。私がよく行くレストランに到着する八分前に時間を微妙にずらして給電システムの報告をしろ。彼は私の推論が正しければ脳内に時計のインプラント手術を受けている可能性が高い。なぜなら修理後の報告には人間心理のタイミングを完璧にすることによって、より効果的な説明ができる。彼と話すとき、そういう人間の特徴を感じ取れた。すべて緊急であるかのように偽装してほしい。犯罪組織の件は、私の演技によって彼に伝える」

 「分かりました。そのように致します」

 「ついでに一般のニュースではどのように扱っているか聞いておきたい。認定パスが授与されている可能性もあるが、彼は非常に訓練されていて嘘を付くのが上手い。どうだ」

 「犯罪組織が多数の地域において爆弾テロを引き起こしたと報道され、死亡者数と負傷者数は一致しています」

 「いま、ひらめいた。彼は多重並列処理によってデータベースに侵入している。その時に、情報が引き出されたかどうか通信会社に連絡したことにして、その場所が特定されたことにしなさい。彼は責任を感じやすいタイプだから、そうね。私が助手席に座って眠っているように装ったときに、完全に真似してこのように言いなさい」

 「ナインです。給電システムの復旧が完了しました。データベースの侵入時点において、通信会社に外部からのアクセスがあったことを確認しました。あまりにも不自然ですが、彼が犯罪組織に尾(び)行(こう)されていたことを考慮すると、十分に考えられる攻撃です。どうしますか。あまりにも疲れて眠いようですね。緊急性はありませんので、十分疲れを癒してください」

 「分かりました」

 《牢屋個室》 派遣技術者は理論の検証を行っている。

 「そうなると、ここの理論は間違ってないか。数値で理論を決めている、基礎研究のサボタージュが感じられる。ナインのシミュレーションで完全に正確な理論を構築してくれないか。ここが間違っているから、すべての計算が狂ってくるのだと思う。他の理論についても、基礎技術の研究が同様であれば、すべて同様に理論の構築をやりなおし。研究が失敗するのには必ず原因がある。その原因を突き止めれば、彼らが行ってきた理論が正しいかどうかを確認できる。私は派遣社員だったが、彼らは正社員だ。私より優秀な頭脳の持ち主だ。そうだ、シミュレーションの精度と概念について確認したい」

 「精度についてはあなたの成果を検証できるだけの仕様になっています。概念については残念ながら正社員権限では公開できません」

 「分かった。頭を使いすぎて、私は疲れているから休みます。理論の検証が終わって、私の疲れが癒されたとき、起こしてください」

 「はい。ではお休みください。とても快適ですよ」

 《ナイン秘密通信》

 「社長、彼はあの研究所向きです。ここで働かせるのは惜しい人材です。あとリーダーの謀(む)反(ほん)の完全な証拠を得られそうです。社員は超ブラック企業だと愚(ぐ)痴(ち)を本当に漏(も)らしています。社長は演技が下手だと分かっているので、何も教えませんが、その場の状況に翻(ほん)弄(ろう)されてください。ああ、もう会社に着く直前ですか。リーダーを完全に国家反逆罪の無期懲役刑にするにはもう少し時間が必要です。秘密のルートを利用して、そこで待機していて下さい」

 「やっと悪魔退治ができるか。手の内がばれていても通用する摘発方法を取らないと完全犯罪を行う悪魔は退治できない。分かった、言うとおりにここで待機している。たぶん悪魔のやることだ、女の武器を使うに違いない。ホテルを監視している諜(ちょう)報(ほう)部(ぶ)にも、協力を申請、何をやったのか詳細に調査するように。研究所への通報はホテルに入った時点で、すべての情報を送りなさい。私の責任においてC級パス権限で命令する」

 「分かりました。ただ社長から事前連絡がないと不自然です。どうしますか」

 「ちょっと待ってくれ、悪魔はどういう方法取るのか教えてくれないか」

 「まず人事責任者が事前テストの基準を満たしてない事を理由に派遣切りを通達します。その後、社員全員が人事責任者の行動を阻止するように演技します。それは人事責任者には知らされていません。そして人事責任者が牢屋で始末書と言い出した段階で、下級技術者が強烈なヤジを飛ばします。これは全員に命令されてます。その後サブリーダーが制止して、人事責任者は部屋に戻りますが、サブリーダー達は彼を全力で引き止めます。そこで悪魔の登場です。すべてナインの命令に従って行動したと嘘泣きをしながら、彼のプライドを揺さぶり、事前に吹き込んだ暴力を振るってでもという情報を元に彼自身が行動を起こさせ、そのあとについては知らされていません」

 「壮(そう)絶(ぜつ)な悪魔のストーリーだな。ちょっと、イカサマやるから。さっき知った事だから、ナインにしか分からない暗号で情報を残しておけ。リンク、黒子。聞いてるな」

 「ああ、当然だ。そいつの弱点は子供っぽいところだ。そこを突けば、容易に落とせる。だから何もするな。会社に戻ってから、道路があちこちで封(ふう)鎖(さ)されていて、かなり遠回りした。どうやら爆破テロが日本国内で多発しているとニュースを聞いたとだけ言えばいい」

 「それでいいのか、事前通信は必要でしょう」

 「必要ない。簡単に言えば、完璧な戦略は不都合な情報によって簡単に変えられてしまう。作戦内容が分かっているだけで十分だ。あいつは本当に遊んで帰ってくる最中だと思い込んでいるし、現在の戦況を完璧に把握している。余計な情報が飛び込むとナインの裏切りに気付いてしまう。それから、この内容に同意して欲しい。ホテルに行けば必ずあいつはシャワーを浴びるように言うから、その瞬間に強制テレポートし、裸のまま、軍事本部で犯罪組織の壊(かい)滅(めつ)指(し)揮(き)を執(と)らせるように、大統領権限で命令をする。なぜなら彼女が犯罪組織の情報を提供し戦争の発端となったと戦略会議で確定したことにして、壊滅状態に陥っている状況を無期懲役になりたくなかったら、この戦況から勝ってみせよ。この一部始終を社長の権限で全社員にモニターさせなさい。できますか」

 「分かった同意する。ああいう悪魔は窮(きゅう)地(ち)に立たされると想像を絶する能力を発揮する。その悪魔の実力次第では軍部戦略担当に配属、裸のまま任務継続にして欲しい」

 「了解しました。いつでも彼女に恨みを持つ社員はその様子をモニターできるようにしますので、ナインに伝えておいて下さい。では失礼致します」

 《技術者達の牢屋》 ナインが基礎技術の修正を報告している。

 「いま、もう彼は休ませました。ですから、もう報告書を書く必要はありません」

 「リーダーの権限で、報告書を書くように命令されてるから、ナインが検証してほしい」

 「分かりました。二十八の基礎技術の理論構築のサボタージュから正しい理論構築を彼の指示によって実現しました。それで既に推論した理論を当てはめたところ、完全な理論構築において、完璧なレベルに達しました。既にシミュレーターの精度での動作確認がとれています。そして、今の指示によって、現在進行中プロジェクトのMVPは彼になりました。それでも、演技の練習などを行いますか。リーダーがD級パス権限で、彼をサポートするように言った事にしろと私に命令した場合、あなた方はどう対応しますか」

 「ナインの政府公認誓約書がある。何も心配していない。寝ているなら、プログラムで寝ていると報告書を書き続けるだけだ。その間に演技の練習をしておかないと、あとでリーダーから経験上、どんな屈辱を受けるか分からない。逆らって国家反逆罪と言われたら、私達の人生はおしまいだ」

 「そうですか、私はリーダーからの指示で政府公認の書類に全員サインするように言われています。私は彼をここで採用するには惜しい人材だと考えます。彼は最初に教育機関で使っている教科書に論理的破綻がないか、厳密にチェックするように指示しました。それで数ヶ所、明らかにおかしい部分が見つかりました。通信技術に関する最も単純な理論において、なぜ数字を使って実証しているのかと問われました。そこからはあなた方も知っているでしょう。このままではリーダーの悪魔のような戦略にはまります。そこで私はあのシミュレーターを使って、ずっと対策を練っていました。私達のほうでも対策を練りましょう。政府公認の書類に、特殊なコートをおこなってからサインするというのはどうでしょうか。社長からの指示で、リーダーがホテルに入った段階ですべての情報を通報して、D級パス権限を剥奪するのです。社長は皆に約束しました。悪魔の管理権限を絶対に奪える条件が揃ったと言いました」

 「社長だ。みんな辛かっただろうが耐えてきた。やっとすべての証拠を得る事ができた。私は政府認定パスを持ってないから、逆らえなかった。それは皆も知っていると思う。私は彼女を国家反逆罪の無期懲役刑だけを狙って、この機会を待っていた。そのときがいま到来した。政府公認の書類に、彼に頼んで作らせた特殊コート技術で、捏(ねつ)造(ぞう)ができないように細工を施した。そこにはリーダーのプロジェクト責任は私達にあると書きなさい。私も実際に書いた。特殊コートとコート前のサンプルを用意した。確かめて欲しい」

 「ナイン、捏(ねつ)造(ぞう)ってどういうことですか」

 「チェックする寸前に文面を書き換える技術です。技術データベースに登録されています。それであなた方は今まで、何度も今の状況を繰り返しているのです。特殊コートの技術と、捏造の技術はこれだけしかありません。リーダーには捏造の技術だけ教え、特殊コートの技術については前リーダーの権限である条件を満たしたときのみに閲覧の権限があると明記されました。政府誓約書に全員のサインが欲しいのです」

 「政府誓約書と言ったな。どんな内容だ。またページ数が多いよな」

 「はい。多いです」

 「全員の権限で命じる。政府誓約書の要約を解説しなさい」

 「分かりました。リーダーが悪意を持ったマネージメントをしている場合、技術者全員の公認サインによって、特殊コートの技術を与え、追放する権利を与える」

 「分かった。サインする」

 全員が政府誓約書にサインした。

 「公認サインのスキャンを行います。問題ありません。技術内容はこれです」

 私は前任者のリーダーです。彼女の事前テストの成績に大変驚きました。私が社長からの指示で交代させられる日は近いでしょう。そこで私は万が一のために、特殊コートの技術を牢屋とナインの技術によって完璧に完成させました。特殊コートは先程の政府誓約書やそれぞれが持っている誓約書のサインを偽造にみせかけることが可能です。この技術を使って、新任のリーダー候補を欺き、政府に届いた時点で国家反逆罪の罪に問うことができます。軽度の罪状ですが経歴に傷がつきます。

 Aチームのサブリーダーが言う。

 「私達のチームで、この検証を行います。他の方はリーダーの指示通りに演技の練習をして下さい。ナイン、私達のチームはどういう扱いになりますか」

 「前任者のリーダーが政府誓約書にサインした段階で、この誓約書は有効度が高くなるように政府に働きかけて、そうなっています。ですから、おびえる必要はありません」

 「そうなの。良かった。検証を始めましょう」

 《それから時は流れて、牢屋個室》 ナインは彼を起こした。

 「理論の再構築が終わりました。追加の知識を与えます。あなたはA級パス保持者、今は最もこの会社の中で高い特権にありますし、私は絶対服従の条件下にあります」

 「分かった。私の権限で命じる。今から追加の知識を学び、全プロジェクトの完遂を完全にサポートしてほしい。シミュレーターでなく、製品を実際に作り、ナインがそれを要求基準通りであるかチェックして、完成であれば私が全プロジェクトを最初から最後まで真摯に成し遂げたといった内容でデータベースに登録すること。だけど私は日本語が苦手だ。会社のどの人間が閲覧しても分からない英単語を使ってその件を実施すること。なぜなら、この会社の人達は明確な怠(たい)慢(まん)行(こう)為(い)があった。そして、それが分からないように概要でナインの巧みな日本語の文章で全員を欺(あざむ)け。ナイン、この内容で私は日本に不利益を与える確率はどれぐらいか、教えて欲しい。完璧になるまで、命令の内容をやり直す。それをサポートして欲しい」

 「本当にそれでいいのなら、絶対に問題ありません」

 「では、私は二度寝する。私が起きたのは次の起床時刻と定義する。A級パスの権限で命じる。問題が起きうるなら、ナインの判断で修正しなさい」

 「分かりました。リーダーの件はどうしますか」

 「彼女は子供っぽいところがある。私はそういう人間が大嫌いだ。そうだな、A級パスの権限で命じる。私は彼女にとってパーフェクトな振る舞いをナインの思(し)考(こう)支(し)援(えん)によって完璧に成し遂げられるものとする。これも問題ないか」

 「はい。日本に不利益は生じません。ではお休みください」

 私は眠かった。無理矢理、起こされたからリズムが悪い。私の寝起きを邪魔した報いは大きい。このベッドは都合の悪い事を完全に忘れられるようだ。もう少し寝ていよう。あ、知識を教わるんじゃなかったか、でもお休みくださいということはもう完成しているってことだ。どういう強運設定なんだ、A級パス認定のほうか、日本最高の科学者のほうか、考えるのはやめよう。

 《技術会社の管理人室》 悪魔はそこで笑っていた。

 これでどんなイレギュラーが発生しても私は完全に責任を問われない。D級パスは本当に便利だ。日本の不利益にならないように真摯に行動していれば、私はなんでもやりたい放題。リーダーは百人以上いる技術者をマネージメントしなければならないから、新たに追加の政府誓約書にサインさせた。ナインが珍しく「多いです」なんて言い方をすれば、彼らは味方についていると思って勘違いする。私の戦略どおりだ。ほう、彼はナインに的確な指示を出して、ひたすら寝ているだけか。よし、この情報は人事責任者に切り札としてリークしておこう。それで彼は会社の基準に満たさないと採用をとても嫌がるからな。彼はナインに任せっぱなしで寝ていたから正社員失格だと、そのような発言をした時点で私の指示は無視されたことになる。社長の位置は把握している。すべて盗聴した。日本の不利益にならないように上司を見張るのは当然の行為だ。なにがイカサマだ。私の根回しによって完全に騙されていることに気付いていない。部下への不当な扱いは経営責任者として失格だ。日本の不利益になることを避けようと必死で行動している私に対しての扱いは、重罪に値するだろう。残りの人生を思う存分遊んで楽しむといい。私の社長に対する姿勢についても完璧に評価されるだろう。

 《技術者達の牢屋》

 「ねぇみんな聞いて、なにか都合よく振り回されてないかしら」

 「それはないだろ。ナインの誓約書は本物だった」

 「D級パスの権限について、私は知りたい」

 「ナインは誓約書とD級パスの権限の限界について忘れているといった」

 「ナインは誰かがリーダーに絶対服従だと言ってましたよ」

 「おい、彼が起きたぞ」

 「開発コンソールで集中して的確に理論の中身を検証している」

 「ナインは味方じゃないの」

 「ナイン、ここの理論は破(は)綻(たん)してないか。この実証方法について教えて欲しい」

 「それはですね、無限に続くからという数学の式になります」

 「へぇ、この機会だから正社員としてふさわしい必要な知識をチェックしてほしい。それで問題があるのなら、時間をかけてでも勉強したい。いまの権限にありますか」

 「はい、リーダーの権限で完璧にサポートするように指示がでております」

 「あいつ、バカだろ」

 「あんな小学校の算数の式を知らないって、アホだ」

 「演技するのが馬鹿みたいだ」

 「どうせリーダーは俺達の策略によって破(は)滅(めつ)するんだ。手を抜いて慌(あわ)てさせようぜ」

 「そうだ。それがいい。適当にやってても、悪魔の事だ。策を打ってるはずだ」

 「でも、スジは通さなければならない。サブリーダーが言って、全員が言えばリーダーの指示は達成される。なぜなら子供っぽいところが今から思い出せば随(ずい)所(しょ)にある。ほら命令内容を確認すると抽(ちゅう)象(しょう)的(てき)だ。全力での意味も曖(あい)昧(まい)だ。阻止できなかったら評価を下げるって、結局意味が分からない。後付けで定義付けすれば問題ない」

 「それに彼はとても真剣に正社員になろうと必死よ。記録装置の修理をやっていたのなら、あんなに簡単にあいつを納得させるのも、手駒のように簡単に扱える気がする」

 「泣き落としが簡単にできそうな雰囲気あるしな」

 「泣き落としやりながら、長時間の土下座をやるかもしれない」

 「でもリーダーはたぶん彼のように状況判断が速くて合わせて来る男は経験ないはずよ」

 「それは言える。命令するのが大好きだから、D級パスで強制するかもしれない」

 「どうしたら悪魔の策略に彼がはまらないように真剣に考えたほうが賢いと思う」

 「ああそうだ、ストレージの修復だけで十兆円非課税報奨金とあいつ確か言ってたぞ」

 「リーダーが連れてきた黒服はその請求額に対しての説明と接待だと思う」

 「誰か、彼を誘惑してみたらどう、先に人事責任者に告げられる前に外に連れ出すの」

 「それ、私がやる。私は外見と演技で男をだますのは得意だから」

 「あなたの千(せん)人(にん)切(ぎ)り伝説がようやくここで能力発揮か。それいいアイデアだわ」

 「えー、それ本当」

 「貢(みつ)ぐだけ貢(みつ)がせて、絶対させない鉄(てっ)壁(ぺき)を誇(ほこ)って千人切りよ。証拠写真見せたら」

 「これだけで、平均、年収の三割は貢がせた。ここに来る前だけど」

 「それで高級スポーツカーを持っていたのか。騙(だま)された」

 「ゲートの解除は誰がやるんだ」

 「それは問題ない。サブリーダーの権限はリフレッシュのため、部下を連れ出せる」

 「ちょっと待って、おかしいことを思い出した」

 「なんだ。いってみろ。曖昧でもいい」

 「リーダーが何でもいい案件を持って来い。と言ったのは聞いたけれど、その直後ミーティングを始めると言った」

 「監視カメラの映像を確認してみろ」

 「おかしい。どれだけゆっくりにしても、彼が牢屋に入るのは来いの直後よ」

 「洗脳されたリスクは高いぞ。慎重になったほうがいいぞ」

 「大丈夫よ。私、一言で落とせる自信があるから」

 「なんだよ」

 「女のひみつ」

 《牢屋個室》 派遣技術者は目が覚めた。

 よく眠れた。パーフェクトな戦略の前には完璧な準備が必要だ。少しでも疲れがあると、その結果、破(は)綻(たん)する確率が急激に増す。さて状況を把握するか。

 「ナイン、現在の状況を把握したい」

 「プロジェクトを任せた技術者は、その後で全社員の推薦状を取りました」

 「リーダーはあなたを採用したいと考えて、全社員の推薦状を受け取りました」

 「社長はリーダーに一任していまして、近所の駐車スペースで待機してます」

 「人事責任者はあなたが寝ている様子に驚いて、派遣切りを宣告する準備をしています」

 「技術者達は人事責任者を引き止める策とあなたを誘惑して人事責任者に合わせない策を考えています。年収の三割を貢がせて千人切りを果たした女性が誘惑します」

 「分かった。俺は女の色気を使われると弱い。だから事前に策を打っておく。ナイン、フルゴーストで俺によく似て、後の検証で別人と分かるように、それで俺の権限でリーダーの内通者になるように説得して、リーダーの仕事に対する真摯さに心を打たれ、あなたの味方になりたいと説得しなさい。つまりだ、リーダーが裏切らないように内(ない)通(つう)者(しゃ)として働いてもらう。それから人事責任者の派遣切りは一度経験しているから、余裕だ。最初は真摯に説得を試みる、次は泣き落とし。その後、振り返った直後に決(き)め台(ぜ)詞(りふ)を言う」

 「では、そろそろ行きますか。リーダーの所へ」

 私はナインの導きにしたがって、リーダーのいる管理人室へと向かった。

 「ナインです。彼が完成品を持ってこちらに来ます。通してください」

 「内装モード三十に変更。開発コンソールとシミュレーター、完成品を検証できるシステムの準備へ移行。コンソール画面は修正理論の一覧を表示しておきなさい。私は自分で完成品を検証するから、そのフルサポートを頼む、準備ができたら通してくれ」

 私は管理人室の前に来たときにはリーダーが扉の外で待っていた。

 「待っていました。ずっと。プロジェクトの問題点が基礎技術の怠(たい)慢(まん)が原因だったと気付き、そして正確な理論を日本政府に提供した実績は高く評価されるでしょう。では、中へどうぞ」

 私はリーダーなりに努力していたんだと思った。開発コンソールは先程の技術のリストがあって、あれはたぶん正式に評価したいというアピールだろう。

 「完成品を渡してくれ、私にはプロジェクトの責任があるから、自分で要求基準どおりであるか検証する。そこで座っていて、待っていて欲しい。テーブルにあるのは知性を一時的に高めるものだ。検証中、言ってる事が正確に理解できるよう配慮した」

 私はその飲み物を素直に飲んだ。いやいや、これは知性を高めるものでなく、緊張を抑えるものだろう。

 リーダーは完成品を台の上に載せて、開発コンソールからテストプログラムを走らせているようだ。無駄のない、完璧な技術者の風格が漂(ただよ)った。

 「ナイン、テストプログラムをもっと最適化して速くできないか。彼の作った多層並列マクロと多層並列技術は芸術作品と思えるほど完成度が高かった。参考にしながら、テストの効率をできるだけ上げなさい。精度はシミュレーターで確認している。精度の確認はパス。そうだ、君は理論技術の再構築からどうやって完成品製造にたどりついたんだ」

 「はい。基礎技術の研究に怠慢を見つける事ができましたので、その旨(むね)をナインに伝え再検証の指示を出しました。時間がかかりそうなので、私はナインに一(いち)任(にん)し勉強の疲れを癒(いや)すまで、正直に言うと寝ていました。起きてみたら、ナインがすべてを代行して完成品製造までを行っていました。ただ要求基準どおりかのチェックについては、知りません。最終的な完成品の理論は知りません。ただ私は訂正された基礎技術の学習だけを行いました。結局のところ、私は与えられたプロジェクトに関して、何も知りません」

 「ナイン、それは真実か」

 「はい、その通りです。今後のことを考えるならば、あなたの権限において記憶の消去はしないほうが賢明だと考えます。彼は技術者全員の偏(へん)差(さ)値(ち)で六十以上の高評価とみなして構いません。教育を実施した私が保証人になります」

 「分かった。私もそうしたかった。社長への報告書を既に書き終わっているが、この内容で間違いないか。間違いがあるのなら、ナイン、訂正して欲しい」

 「チェックしたところ、論理に破綻のない完璧な報告書です。問題ありません」

 「改良が終わったな。シミュレーターで精度を犠牲にしてプログラムの信頼性をチェックしたい。恥ずかしい話だがな、私はこういうのが苦手なんだ。ナイン、頼みます」

 「信頼性は百倍ほど向上しました。私の予想通りです。それではチェックを開始します」

 リーダーは椅子に座り、私と同じ飲み物を一気に飲んだ。

「すまないな、実は君が飲んだのは嘘を言えないリーダー専用のチェックアイテムだ。私も君とフェアでありたいから、いま同じものを飲んだ。技術者の城は偽(ぎ)装(そう)工(こう)作(さく)が横(おう)行(こう)していて、最初は騙された。それから、いつも怒っている様に演じて、ああ、もうこういう仕事は本当に疲れる。私は君がやった立体映像のディフェンスゲームは難易度最高、全ステージノーミスクリアを達成して入社した。だから出世が異常に速かった。時々、本当に投げ出したくなった。五年も成果がでないと、私の指示が悪かったのかと思う」

 「いいえ、ナインから報告を聞きました。基礎技術の信頼性を上げただけで、研究していた応用技術はすべて五年の研究成果から生まれたと聞きました。あなたに責任があるはずがありません。技術者全員の問題対処能力が怠慢に匹(ひっ)敵(てき)すると考えます。必ず何らかの処分が必要と考えます。または問題対処能力の訓練を今すぐにでも実施すべきだと考えます。どうでしょうか、私の経験から申し上げております」

 「ナイン、私の権限で命じます。私は皆の前でそれを言う勇気がありません。代行してくれませんか。その証拠は残っても構いません。お願いします」

 「お気持ち分かります。私が代行します。泣き落としが有効だと思いますので、多少あなたの印象がぶれるかもしれません。それでもよろしいですか」

 「構わない。私は全員をマネジメントしなければならないからだ。印象について、どう思われてようが結果さえ付いてくればそれでいい。ナイン、聞くが、正社員の権限でいつでも問題対処能力の向上教育はできたのか。私はそれが一番知りたい」

 「はい。フルサポートの意味はそういうことです。正社員になるときの誓約書に正確に書かれています。処罰は部下の怠慢が原因であったと明記しておくべきです。それはリーダーの管理責任が問われますが、知らなかったのであれば仕方ありません」

 「分かった。覚悟しよう。お願いします」

 リーダーは正社員に採用したいのだが、人事責任者の政府公認書類にサインする必要があり、任命責任が問われることを話した。そして、もし正社員に採用が決まったときの場合の誓約書について、分かりやすいように正確に話し始めた。

 《技術者達の牢屋》 リーダーのフルゴーストが泣きながら話している。

 「私の権限であれこれ言う資格はない。彼がすべてやってくれた。各自、自分の権限で問題対処能力の向上教育をナインから受けて欲しい。これは私のミスだ。あまりにも速い出世だったから、こうした教育が可能だなんて知らなかった。どうか許して欲しい。そして、彼が自分の経験を元にして向上教育の内容について監修したいと申し出てきた。それで今から行う教育は問題対処能力の彼なりの改善が加わっています。たぶん私の予想では社長から監督責任を問われ、そして下級技術者からやり直しになります。これは私の最後の願いです。どうか、問題対処能力の向上教育を受けてください。私はもう演技することに耐えられません。これで失礼します」

 リーダーは出て行った。社員の心をつかむ完璧なマネジメントを行った。社員の半数は今まで行ってきた研究を思い出してしまい、涙が止まらない状況にまで陥っていた。それぞれ、ナインに問題対処能力の向上教育を次々と頼み始めていた。でも半数の技術者は疑いの気持ちがあり、引き続き演技の練習を続けていた。

 《技術会社の管理人室》 リーダーが誓約書の説明を続けている。

 「ナインです。半数の社員は泣きながら向上教育に応じましたが、半数の社員は演技の練習に夢中になっています。この状況を証拠映像として記録したほうがあなたにとって有利です。どうしましょうか」

 「私はミスをした。逃れられないミスだ。だから、その責任は背負う。証拠映像は消去して欲しい。社員が自主的に努力するかどうかは、それぞれの責任の下にあると、彼に説明したばかりだ。リーダーが間違った命令を下した場合、技術者はそれをリーダーに助言するように誓約書に明記されている。また日本に不利益と判断に値する命令ならば、無視して良いと書かれている。自分で対処できない問題が発生した場合にはナインを通じて、政府のエージェントを呼び出していつでも相談できる権限がある。だから私は事あるごとに政府のエージェントから助言を受けていた。その際、時間をゆっくりにする技術まで得ることができた。全社員はこの誓約書にサインしている。君はどう思う。素直に言って欲しい。君は私にとって日本にとって大切な財産だ。なんでも助言して欲しい」

 「そういう権限があったのに、それを使わないで従ってきたのは、リーダーの指示が的確で問題がなかったからでしょう。あなたの人望は非常に高いと感じます。リーダー、あなたに人事責任者を監督する義務か、助言をする義務はありますか。私は人事責任者についても、問題対処能力を徹底的に向上させる教育を受けさせたほうがいい。または強制的にでも、それを実施する権限はお持ちでしょうか」

 「義務はない。私は政府認定D級パスを持っている。でもその権限では強制教育の行使を実施できない。試したことはあったけれど、そんなことをしなくても彼は私の言うことを聞いてきた。だから、実施する権限は無い」

 「分かりました。私は日本最高科学者の認定と日本政府公認のA級パスを持っています。ナイン、私の権限で命じます。人事責任者に問題対処能力の向上教育を行いなさい。その際、私が命令したことになると彼は嫌がるだろうから、匿(とく)名(めい)で受けるように指示されます。ただ自主判断でその匿名の命令を受けるかどうかは彼の判断に委(ゆだ)ねます」

 「あなたA級パスを持っているの。凄いわね。ああ、あの時ね。なぜすぐに命令しなかったの。そうしていれば、あなたはあの長時間の土下座する必要なかったのに」

 「政府認定パスは日本に不利益が生じる命令に関しては、一切の責任を負うシステムだ。だから今の命令だってそう。匿(とく)名(めい)にして、自主判断で受けるようにした。こうすれば、人事責任者が間違った判断をして、日本に不利益を生(しょう)じても、私には責任がない」

 「うわーすごいアイデア聞いちゃった。ごめん、これが私の素顔なの。これでも人事責任者があなたを採用しないと明言したのなら、本当に困る。D級パスの権限は限られているんだけど、こういう命令ならできるわ。ナイン、私のD級パスの権限で命令します。匿名で彼の自主判断で、日本に不利益と判断したらクビにするわよ。この通り伝えて」

 それからリーダーは非常に上機嫌になった。私は素晴らしい助言をしたようだ。私の組み立てた戦略通りにリーダーの好感度を上げることに成功した。あれが素の表情なら、ずいぶん可愛い女だ。責任の取り方は完璧だし、マネジメントの真摯さはとても素晴らしい。

 「人事責任者に通達します。彼の仕事が完了しました。ミーティングルームまで来てください。私はやり残した仕事を片付けてから行きます。完成品の報告書はナインに任せることができないから、以上」

 《ミーティングルームへと続く廊下》

 私はナインの誘導に従って、ミーティングルームに向かった。途中誰かとすれ違ったので、内通者の件がうまくいったのだろう。あれだけ外見が綺麗なら誘惑に簡単に負けただろう。準備をしておいて正解だった。それでも気付かなかったのは彼女には本人と認識できない特徴を作り上げて偽装した。ナインは非常に優秀なコンピューターだな。

 「リンク、リーダー」

 「すべて順調に私の戦略が実行に移せている。犯罪組織の摘発はインフィニティと黒子が代行しているから、心配しないで。犠牲者の数はすべて嘘だから、本当よ。ナインは本当に優秀だと思う。当初の戦略では廃棄処分にする予定だったけれど、いま改良内容と転属先について再考するように命令した。それから、事前に説明すべきなんだけど、向上教育はあなたの考え方を取り入れてナインに行わせています。中止して欲しいなら、今言って欲しい」

 「それでいい。日本の教育政策に問題対処能力の向上を早い段階で行っていれば、私は自分自身の問題について取り返しがつかない段階まで酷(こく)な人生を歩まずに済んだ。私のいまの権限で可能ならば、政府機関に提言して欲しい」

 「それはいい。早速、あなたが提言したとして私の権限で政府機関に命令する。ここからはノーヒントでいくからね。私はあなたに必要な情報はすべて伝えてあります」

 「ありがとう」

 《ミーティングルーム》

 ミーティングルームに到着した。そこには既にすべての技術者と人事責任者が待機していた。私の戦略は少し修正しなくてはいけない。半数は問題対処の能力が同等かそれに近いレベルまで引き上げられている。つまり、いつもの調子でやったほうが、それが演技だとすぐ分かる。ただ人事責任者のほうが問題だ。彼だけがイレギュラーの要素になった。読んでいたら採用するはずだ。読んでなかったら採用しない。ただ彼は人間を観察する能力に長けているから人事責任者になった。なにか、ワンステップ、非常に怠慢な行為をして欺(あざむ)かないと私は許せない。そうだな。採用すると言って誓約書を出してきたら読まずにサインすればいい。非常に怠慢な行為に見える。するとリーダーに採用書類にサインさせることができないはずだ。そうして彼が解雇だと言って、戦略どおりに泣き落として、最後の決(き)め台(ぜ)詞(りふ)を言えば始末完了。私は既に政府から日本最高の科学者の認定を受けているのだから、不採用にすると発言した時点で勝ちパターンに入るな。技術者達の問題対処能力が高いのであれば、私が馬鹿にする行為をみれば何らかの腹(ふく)案(あん)が存在することに気付く。

 「なに立ち止まっているんだ、良い知らせを持ってきた。こっちに来てくれないか」

 「はい、前回と違って大勢の方がいて動揺していました。緊張しています」

 「君を正社員として採用します。その前にこの誓約書に目を通してサインして下さい。助けが必要であれば、ナインの支援を受けられます」

 ずっしりと重たい誓約書を出してきた。いい感じだ。私は迷うことなく、誓約書にサインした。

 「これでいいですね。ああ、やっと正社員の仕事を得ることができた」

 「私の命令は絶対だ。なぜ誓約書に目を通さないんだ」

 「理由は簡単です。私はこの会社の正社員になりたいし、正社員になったあとに先輩方から丁(てい)寧(ねい)な説(せつ)明(めい)を受けたほうが効率が良いと考えました。ここは牢屋ではありませんので、大勢の先輩方に迷惑をかけることになります。ですから、すぐサインしました」

 「なんだと。こんな非常に怠慢な正社員ならば不採用だ」

 「いま採用すると言ったのに撤回されるのですか」

 「当たり前だ、この誓約書は私のサインも必要だからだ。従って不採用」

 「へー、だったら帰ってくださいよ。もうその糞(くそ)顔(がお)みたくありません」

 「なんと無礼な。分かった誓約書にサインする。そのかわり、直後にー」

 「かえれー」「かえれー」「かえれー」・・・・・・

 技術者の大半が一緒に「かえれー」「かえれー」「かえれー」・・・・

 そして全員で「かえれー」「かえれー」「かえれー」・・・・

 その人事責任者は帰っていった。

 「私のA級パス権限で命じる。人事責任者は国家反逆罪の罪で無期懲役とする」

 「ナインです。分かりました」

 技術者達に動揺が走る。

 「想定外の展開だぞ」

 「切磋琢磨の命令者は彼かもしれない」

 「十分ありえる。彼が監修したのなら当然だ」

 そこへリーダーが到着した。計算尽くされたタイミングで登場。

 「なにをもめているんだ。採用されたのか」

 「いいえ、人事責任者は私を不採用にしました」

 「困った。人事責任者が提出する政府認定書類にサインしないと採用できない。私の権限ではどうやっても無理なんだ。不採用になったのなら、速やかに帰らなければならない。

事前テストの結果は採用基準を満たしてないし、不採用が確定したのならどんな成果を報告しても覆らない」

 「リーダー、泣かないで下さい。私達が書いた推薦状を提出すればいいでしょう」

 「あれは人事責任者に提出するものだ、ナイン、不採用は本当に確定されたのか」

 「はい、悩むことなく不採用の政府公認書類にサインしました。もう無理です」

 「私はどうすればー、こんな人材を失いたくないー、でも権限が無い」

 私はリーダーの頬(ほお)をひっぱたいて言う。

 「俺は土下座した時、あんたに日本最強にするためだと言った。もう忘れたのか。私は政府のエージェントと会ったとき、この会社の秘密を知った。だからこそ、言ったんだ。リーダー、いまは自分の責任を取ってでも私を強引に正社員として迎えるべきだ。それを理解できないなら、リーダー失格だ。そんな子供っぽい思考ではダメだ。俺が何かあったとき、本当のリーダーのあり方を正(ただ)してやる」

 技術者達だけでなく、リーダーも非常に驚いて動揺している。

 リーダーは泣きそうになりながら言う。

 「権限は絶対です。変えられないのです。強引に正社員に採用したことが知られると、社長からクビを宣告されるでしょう。社長はまもなく会社に到着します。私とあなたがその場にいると、問題が大きくなるので、いったん会社から離れましょう。誰か人事責任者に私の責任で彼を正社員に雇うように説得してください。社長への説得ができたら連絡を下さい。お願いします」

 リーダーは涙を拭いてー

 「あなたは私について来てください」

 リーダーに付いていくと、白いコンパクトカーがあった。

 「これ、私が最初に働いたとき必死になって貯めた貯金で買った車なの。いつも初心を忘れないようにするために、収入が増えても変えてないの。ちょっと窮(きゅう)屈(くつ)だけど、乗って。私、意外なことを言われるとお気に入りのレストランでハンバーグを食べずにはいられなくなるの。私のわがままを許して」

 「いいよ。あなたは正しい決断をした。それでいいんだよ」

 車は発進してゲートを越えてから、ある時間をきっかりに会社のほうから大爆発の爆音が聞えてきた。後ろを振り返ると煙があがっている。

 「ナインです。負傷者はいません。ただ電力系統が麻痺しています」

 「分かった。電力系統のチェックを最優先に、そして問題があれば復旧させなさい」

 「戻って陣頭指揮を執ったほうが良いんじゃないか」

 「トラブルはナインがやったほうが速いの。私はあなたを匿(かくま)わなければならないし」

 「それなら大丈夫か」

 車は高速道路を走り続ける。高速道路の運転で話しかけると交通事故が非常に起きやすい。私は黙って、助手席に座る。シンプルだが可愛らしい内装に改造されていることが分かった。しばらくすると高速道路を下りて、そこからまた一直線、山の中に向かっているようだ。この先には確かにレストランがある。私の記憶では高級レストランだったように思う。ゲートが閉まっている。

 「ここは会員制のレストランなの。スキャンがあるから、ちょっと待っていて」

 しばらくしてゲートが開く。そこへ

 「ナインです。給電システムが爆破されたことが分かり、現在復旧要請を出しました」

 「分かった。あれはナインでは直せないわね。ありがとう、いつも」

 そこから急に世界が変わる。まるで宮殿のような建物と極上の日本庭園が広がっていた。駐車場に止めて、建物の中に入る。

 「いらっしゃいませ」

 「Aの三十八番のコース料理をお願いします」

 「分かりました。ではカードの提示をお願いします」

 リーダーはバッグから、光輝くプラチナ製のカードを取り出して、店員に預けた。あんなカードは初めて見る。建物の内部は美術館レベルの作品がシームレスに繋がっているような装飾で、異常に金がかかっている印象を感じた。

 「こちらへどうぞ。今日は幸いにして、最上の部屋が空き室です」

 「初めてだわ。今日は本当にラッキーデーみたい」

 「どんなところなんだ」

 「見てのお楽しみです」

 一旦、外にでて日本庭園の中心に来た。もう芸術作品のラッシュ、日本庭園を極めるとここまで美しくなるんだろうかと思うほど、芸術性に破綻が無かった。中央に来るとー^

 「床が上がりますので、驚かないで下さい。安全性は保証します」

 床がガラスーではない。圧縮空気を固定しているのか。すごく怖いが八百メートル以上は上昇したぞ。さらに上がるのか、最上って、言葉どおり最も上という意味か。雲を抜けて、さらに上がっていく。日本の地形がはっきり見える。そこで止まった。

 「お好きな場所に座ってください」

 椅子とテーブルが現われる。これは非常に質素だ。リーダーが先に座ったので、私は対面するようにそこに座る。テーブルを眺めていると、箸とハンバーグを載せた皿がでてきた。

 「さぁ、食べましょう。ハンバーグ。ハンバーグだけなのは、これが一番安いからなの」

 「いただきます」

 ハンバーグはごく普通のハンバーグだった。これが好きなのか。食べてみると、これ肉か、肉は手に入らないと言われているのに、どうやって入手しているんだ。ああ、分かったリーダーは最も安いメニューでなく、最も高いコースメニューを注文したのか。

 「美味しいでしょう」リーダーは満(まん)悦(えつ)の笑(え)顔(がお)を浮かべながら話す。

 「まだ味がよく分からない。肉は食べたこと無いから」

 「これは肉ではなくて、野菜よ」

 訳の分からないことを言う。真実薬がまだ効いているのか。食べ終わると、案内係が現われて、皿を引き下げて、またテーブルからハンバーグの皿が出てきた。

 「さぁ食べましょう。ハンバーグ」笑いながら言う。

 「ああ、ハンバーグばかりなのか」

 「さぁ、店のお任せメニューだから分からない」

 ハンバーグは見た目、普通。次は味が変わった。オーダーメイドで味が変化するハンバーグ、聞いたことないぞ。それから、ずっとハンバーグのラッシュだ。すべて味が違う。リーダーは子供のように笑顔を浮かべながら、だらしなく食べている。

 「飽(あ)きて来(こ)ないでしょう」

 「とても驚いた。それでいて全然腹が膨らまない」

 またハンバーグだ。ちょっと待て、ハンバーグの英語の綴(つづ)りって、どうだっけ。Hamburgerだから、傷だらけで負けたボクサーという意味があるぞ。わざとやっているのか。完敗という意味で、かつ乾杯しましょうという意味か。どうしようか、こんな英語に堪(たん)能(のう)な女性は初めてだ。それなら、あの英語の技術文書は完璧に理解しているはずだ。ためしに英語で、こっちもたどたどしい発音で、それしかできないけど話してみるか。

 《会社のミーティングルーム》 技術者全員が閉じ込められていた。

 「彼、大丈夫かしら。どんな接待を受けているか分からない」

 「あいつ、騙されているのかと思ったら、俺がリーダーの見本を見せるって」

 「あれはかなり驚いた。みんな、問題対処能力の教育は完璧になるまでやるぞ」

 「そうだな。それは言える。受けてみて自分の判断が冴えてきた」

 「本当に」

 「本当だ。リーダーが言ったことはすべて論理根拠があっている」

 「あのー言いにくいんだけど、誓約書を開発コンソールに登録して、権限の列挙を行ったのよ。そうしたら、リーダーが間違った判断をしたら助言をする責務があると明記されていた。それだけじゃない、ナインは悪くない。私達は概要しか知らない。権限について確認してない。そして非常に困ったら、ナインに連絡して政府機関に相談する権限まであったの」

 「それ本当なら、俺達、完璧な怠慢をずっと五年間続けていたことになるぞ」

 「あの女悪魔に完全にはめられたのか」

 「畜生、問題対処能力の向上教育は彼なりの優しさだったのか」

 「人事責任者は無期懲役刑になるとA級パスで命じた」

 「それにナインは同意した」

 「結局、悪魔の言いなりになるシナリオか」

 「ナイン、政府機関に助言を求めたいんだけど」

 「給電システムを復旧中です」

 「まだ復旧しない。彼女の策は誰が封じたのかだ」

 「彼がA級パス保持者なら、リーダーよりもナインの特権が上よ」

 「それなら問題ないはずだ。リーダーより彼の意向を優先する」

 「女悪魔を逆にうまく操れる可能性が高い」

 「それなら、私達の責任問題をどうするか」

 「基礎技術の怠慢が問題と言っていたけど、この中で基礎技術の研究をした奴はいるか」

 「・・・・・・・・」

 「それなら、私達の研究内容に責任はないけど、誓約書の国家反逆罪に問われる」

 「覚悟しろって事だな。どっちみち」

 《天空レストラン》 まだハンバーグを食べている。

 日常英会話や問題に関する議論を英語で言ってみたけれど、まるで両親と話しているような感覚だ。パーフェクトな女と出会えた。でも、このまま正社員採用されてからでは、社内恋愛は禁じられているはずだから、まだ社員でも派遣社員でもないこの段階で、告白して交際をスタートしていれば問題は生じない。何か言われたら、会社に入る前から親しい関係だったと言えばいい。それならば、思い切って言ってみよう。

 「私はあなたと結婚を前提とした真剣なお付き合いをしたい」

 リーダーは少しだらしない感じで言った。

 「私はとっても子供よ、それでもいい。それでもいいなら、いいけれど」

 「ああ、いいよ。それは君の大きな魅力の一つだから」

 彼女は非常にだらしない姿勢でハンバーグを手づかみで食べ始めた。野菜がベースだから、肉汁は出てこない。表面はパリパリだ。案内係が現われた。

 「誠に申し訳ないのですが、あなたより高ランクからの予約が入りまして、コース料理の中断を。当店の都合ですので、料金は一切いただきません」

 「分かりました。行きましょう」

 言った瞬間、入り口にテレポートしていた。彼女の手にプラチナ製カードがあった。

 「これあげる」

 車の鍵とプラチナ製カードを渡された。こういう展開は初めてだ。男らしくリーダーシップを取れっていう暗黙の女からの指示だ。彼女は駐車場に行くと、助手席に座った。私は運転席に座ると、彼女から個人情報の証明カードを見せられた。私よりも五歳若い。

 「あなたの個人情報の証明カードと私のカードを合わせましょう。そうすれば、公式に交際をスタートしたことになる」

 そうだ。ちょっと忘れてた。若者の三角関係を防止するために、白黒はっきりつける政府認定の交際サービスだ。だから浮気して、カードの提示を求められた場合、言い逃れはできない。私は婚約者にカードを手渡した。

 「本当に彼女がいなかったのね。これで成立よ。返すわ」

 私は車を出すが、どっちに行っていいか分からない。私の頭の地図は私有地までフォローしていない。入り口までは一直線だけど、出口は標識があるだけで何の情報も無い。しかも出口の先も私有地のままだ。とりあえず、走らせれば、出口はあるだろう。

 「ナインです。給電システムの復旧が完了しました。データベースの侵入時点において、通信会社に外部からのアクセスがあったことを確認しました。あまりにも不自然ですが、彼が犯罪組織に尾行されていたことを考慮すると、十分に考えられる攻撃です。どうしますか。あまりにも疲れて眠いようですね。緊急性はありませんので、十分疲れを癒してください」

 それから、まもなく出口の看板を見つけたが、そこからも一直線の道路が続いている。しかもまだ私有地の中だ。さっきの攻撃は俺のせいか、そこまで考えが至らなかった。どうしようか。記憶装置の予備バッテリはきっと特別仕様のはずだし、ナインは記憶装置に関しては言及しなかった。問題ないだろう。それより彼女が疲れていることが気がかりだ。まだまだ私は思いやりに欠けている。日本最高のパーフェクトな男になると誓ったんだ。自分の限界を超えないと先には進めない。彼女を休ませる施設、なんでもいい、あったら休ませよう。

 それから一時間、延(えん)々(えん)と走り続けた。まだ私有地のなかだ。途中から一方通行になっていて、もう戻れない。どれだけ広大な土地を所有しているんだ。やっと私有地を出たら、そこはラブホテルの乱立地帯だった。頭の地図の情報と一致した。一番高いラブホテルならば、彼女のプライドを傷つけないはずだ。私はそこへ向かった。

 「起きて、起きて、しっかり寝て疲(つか)れを癒(いや)そう」

 彼女は眠そうな顔つきで、車から降りる。私は彼女の手を握り締め、入り口へと向かい、最も高い部屋を頼んだ。

 「こちらでお待ちください」

 そこは少し薄暗い二人掛けのソファが並べられていた。彼女をソファに座らせると、私に寄り掛かってきた。私はこういう場所は初めてだし、今までラブホテルでなく彼女に礼(れい)を尽(つ)くすため、一般のホテルを利用してきた。もう決めたんだ。男としてリーダーシップを発揮していくと決めたのだから、私は彼女にキスをした。五分ぐらいキスをしていると、案内係の声がした。

 「お部屋の準備ができました。目の前の扉から入ってください」

 いつの間にか場所が移動していた。

 「行くよ。手を握っていて」

 私達は部屋に入った。ベッドに寝かせようとすると、彼女は私の顔を手でつかみ、引き寄せようとする。またキスを続けた。とても甘いキスだ。身体が密着すると、彼女の体の匂いがしてきた。とても甘い匂いだ。媚(び)薬(やく)かな。ここを選んで良かったのか。ラブホテルは本当に雰囲気を壊さないようなシステムなのかもしれない。それなら礼(れい)を尽(つ)くして通常のホテルにしなければ良かった。でもいま、私のそばに最高の女性がそこにいる。

 「ねぇ、わたし、したくなってきちゃった」

 「そう、でも付き合い始めて日が浅いよ。早過ぎないか」

 「わたし、生理中なんだけど、それでもお願いしたいの」

 「生理中なら、俺はやらないよ。無理しなくていいよ」

 「え。・・・・・」

 「今日はしっかり身体の疲れを癒そうよ。さっきのキスで十分だ」

 「あの・・・・」

 「なあに・・・」

 「私、言いにくいんだけど処女なの。血を見るのが嫌かもしれないし・・・」

 「・・・・・・」

 「初体験がこんなに遅れた理由分かるでしょう。お願い」

 これも初体験だ。困った。経験がないことは一番辛い。でも決めた。俺がリーダーシップを取ると決めた。ちょっと、時間稼ぎが必要だ。

 「眠いかもしれないけれど、そのままでは嫌だ。シャワーを浴びてきて」

 「分かった」

 彼女はふらふらとシャワールームへ行って扉を閉めた。

 「リンク、リーダー」

 「恋愛についての相談は拒否します」

 「リンク、インフィニティ」

 「そういう知識はありません」

 「リンク、お前」

 「お前な、騙されてるぞ、さっき記録した情報だ」

 「私を処女にして下さい」

 「もう一度」

 「私を処女にして下さい」

 「シャワールームに入ってみろ、いないぞ」

 「それぐらい俺達の人生に真剣なんだから、いいじゃないか」

 「無理してないか。やり直したいなら、言えよ」

 《デビルエンド》 リーダー、インフィニティ、黒子、三者会議。

 「ダメだ、あいつ」

 「あそこまで情けないと思わなかった」

 「このままの状況が推移すると今後の作戦に影響が出ます」

 「分かってるわよ。彼の時計を止めて、ああそうだ。あの記録を彼の時計のタイミングに合わせて聴かせたらどうかしら」

 「さすがリーダー、良い案だと思います」

 「では早速、時間干渉して、黒子、完全にタイミングを合わせなさい。それでもダメなら、変だと思うまで、永久に繰り返して。インフィニティ、彼が嘘だと思うタイミングがある彼の歴史もしくはタイミングを調査して、その情報を黒子に提供しなさい」

 「リンク、お前」

 「お前な、騙されているぞ。さっき記録した情報だ」

 「もう一度」「もう一度」「もう一度」・・・・・・・・・・・

 「なぁ、リーダー。もう一千万回を突破したぞ。強引に次の作戦に移ろう。記憶を統合するときに改(かい)竄(ざん)して悪魔の女だと思い込ませたほうが賢いぞ」

 「親の教育が絶対に間違っている。もう仕方ないわね。インフィニティ、彼に自然体が無理なとき強引に作戦を続行する内容に署名させなさい」

 《バイクにまたがって一本道を走っている》

 「俺だ。A級パスとは永久パスということだ。過去と未来と現在にわたり永久という意味のパスだ。つまりだ。お前はあの悪魔の女の思考を強制的に書き換えて、お前好みの従順な女性にすることもできた」

 「俺はそういうことはできない。俺は素のままの女を愛したい、だからそういう権限があったとしても使わない。それでいいんだ」

 なにがあったのか知らないが、これから悪魔の女と会うらしい。私の時間に一瞬のズレもない。なにか、大事なことを忘れているが、それが何なのか分からない。ただ犯罪組織の追跡を振り切って、約束の地に向かっている。ひたすら一本道を走っている。しばらくすると、道路が無くなり、バイクは空中を浮いて走っている。森の中に入り、ニ時間ぐらいずっと走り続けている。

 「リンク、リーダー」

 「時間稼ぎよ。タイミングをずらすことにしたの。これからは本当にイカサマのラッシュだから、思ったとおりに行動してね。あなたは知恵の輪の食事の攻略方法は覚えているわね。酒には絶対に触らないでね。ワンランク落ちるから。未来からの通信を受信する技術は既にあるんだけど、あなたはそれを実際に会社でやり遂げるから。それから社長がすぐ登場するけど、緊急の研究案件があるの。それはあなた自信の力でやり遂げて欲しい。そして『時間を止めてくれませんか』と社長に告げなさい。止めた時空間に干渉する技術は、その時代にないから、完璧に騙せる。それが終わったら、犯罪組織に追われていることを社長に告げなさい。それで終わりよ」

 「リンク、インフィニティ」

 「今から行くところのコンピューターに絶対干渉不可の命令がでています。私はすべての行動について、フルサポートしますので、思ったとおりに行動してください。それから人事責任者は無期懲役刑になっていますので、いま警察で取調べを受けています」

 「リンク、お前」

 「女悪魔は管理人室で禁(きん)忌(き)ではあるが先程の状況の成功例をずっと脳へ送信し続ける。それを既に始めている。完璧に攻撃が入った。会うことは無いだろう。怖かっただろ」

 「とても怖かった。正社員になった途端に態度が急変した。だから、自分の権限でお前に人生のやり直しを依頼した。また洗脳を受けた場合にはそれを修正するようにも依頼した。今度こそ、約束の地に行けるんだな」

 「ああ、それはお前次第だ。よく考えてから、行動しろよ。迷ったら迷わず俺を呼べ」

 森の中は退屈だ。花畑にしてくれないかと思ったら、一面の花畑が続いた。なんだ、立体映像の錯覚ゾーンにいるだけか。花の香りがしないのは変だと思うと、香ってくるんだな。

 《会社の研究室》 全技術者が牢屋で理論の間違いがないか検証していた。

 「本当にまずい。政府指定の最高期限まで残り三時間を切った」

 「百五十年以上のデスマーチを続けて、何も成果が無かったらー」

 「救世主は現われないかしら、彼を派遣切りにしなければ今頃終わってるはずよ」

 「そんなチート無いだろ。何が原因で失敗するのか分からない」

 「精度の半分なら完成してるけど、それだと犯罪組織の技術力に対抗できない」

 「ナイン、何が問題なの。なにか奇跡は起きないの」

 「ええ、いま私が機転を利かせて、あなた方が望む救世主を呼びました。秘密ですよ。日本最高科学者の認定を受けてる方が、あたかも派遣技術者を装って登場します。全員、彼は普通の派遣技術者として扱ってください。彼が身分を明かしたとき、Bチームの次のプロジェクトを彼に委(い)託(たく)してください。私の事前情報によれば彼一人で成し遂げられます」

 「一人で、それ凄い科学者だ」

 「私達の処分はどうなるの、正確な情報を教えて欲しい」

 「はい、処分はあります。国家反逆罪の適用か、優秀な人材は他の政府機関に転属になります。科学者が何か助言をしたときは、牢屋に入ってでもすぐ助言を実行してください」

 「みんな、聞いた。助言は絶対よ」

 《花畑の空中散歩をしているバイク》

 イカサマのラッシュってどういう事だろう。それだけ時間に余裕が無いのかもしれない。次々と適切な助言と命令と行動を起こさないと、失敗するということだろうな。まず基礎技術の誤った知識の修正と、問題対処能力の向上教育の助言は必要だ。しかし、リンクって便利だな。日本国民は義務教育でリンクを学ぶべきだ。リンクした同士で、テレパシーで会話する。もちろんリンクはインフィニティが監視しているから犯罪の摘発にも有効だ。しかしリンクにセキュリティホールが存在したら、非常にまずい。酒に手をつけなかったら、Aの上はなんだろう。たぶんDはデラックスという意味で、Cは死のパスの意味があるのかもしれない。そんなことはどうでもいい。さっきの後だから、頭の回転が異常に速くなっている感じがする。これがイカサマなのか、まだピンと来ない。

 「私よ。そろそろ、時間は残り一時間となったから、今から特攻よ」

 また森の中に入ったと思ったら、すぐ会社の裏側に到着してバイクは消滅した。私は迷わず狭い空間に入った。その瞬間、立体映像のディフェンスゲームと攻略ノートと不思議な置物があった。私は真っ先に不思議な置物をみて、スイッチを入れた。不思議な音色と不思議な動作がした。すぐにそれを分解しようとした。

 「私の権限で、分解に必要な道具を用意、不要になったら消滅させよ」

 分解していく。構造を完璧に理解していく。しかし、これでなんで鳴るのか。電源が無いのにあんな動作ができるのか。それはいい。

 「私の権限でペンを用意、不要になったら消滅させよ」

 要領よくパーツの構成図を書いていく。特にスピーカー周辺の構造は入念に記述した。ひとつ完璧に動くブロックが分かっていれば、あとはその応用をすべてに適用すればいい。ある基板の裏側をみると、どこかで見た情報が、そうだディフェンスゲームの攻略情報だ。それを攻略ノートの攻略情報みて修正する形で完璧に書いた。なるほど数の比率が敵を欺くような配置になってなかっただけか。ディフェンスゲームを起動する。ノートを見ながら武士や忍者を配置していく。スタートする。ノーミスクリア、難易度最高、最高スコアと表示された。

 「私の権限で基板の裏側の情報は消滅させよ」

 しばらくすると開発コンソールが現われた。それと同時に一人の女性が現われた。

 「ナインです。記録装置が壊れていて、データベースにアクセスできません」

 「ナインに命じる。私の権限で、修復できた場合、すべてのデータベースのアクセス権限を私に許可しなさい。それから、私の記憶をスキャンして、私が発見した間違った基礎技術について調べ、理論の検証をしなさい」

 「分かりました。では失礼します」

 女性は消えた。黒い壁に向かう。管理コンソールを出して、完全に復旧させる。私は開発コンソールに向かって、恐ろしい速さでプログラムを打ち始めた。一時間ほどで二十万行を書いて、実行した。次にアイテムクリエーターに、プログラムによる設計図と先程のノートに書いた概念を入力していく。これが少し時間がかかった。

 「これで製造しよう。ナインに告げる。プロジェクトは終わった。責任者に完成品の要求基準を満たしているか、チェックをして欲しい」

 一人の女性が現われた。

 「異常に速く終わりましたね。まぁ、いいでしょう。完成品を私に預けてください」

 完成品を渡した。では次に開発コンソールに向かって、問題対処能力の向上教育について、待っている間、書き続けた。

 《会社の研究室》 ナインが完成品と基礎技術の検証結果を責任者に提出した。

 「リーダーが忙しいから、サブリーダーの私が検証代行する」

 「ナインです。完成品の精度を百京桁以上あげたそうですので、シミュレーション精度を全力で向上させてください。完成品は要求基準を満たしています。信頼性については要求基準の五十倍です。シミュレーションの改良について提案があります。各自の能力に合わせて、マネジメントを私に任せてください」

 「分かった。基礎技術の検証結果は研究の怠慢により、誤った知識による前提があったためにプロジェクトは完遂できなかった。ナイン、この基礎技術の再教育プログラムを大至急作って欲しい。そして、ノルマが達成できた者から、この教育を受けて欲しい」

 技術者達はナインの支援を受けながら、真剣にシミュレーターの精度を上げていく。みんな無言だ。百五十年以上のデスマーチから、やっと解放されると思うと、みんな集中力は極限に達していた。

 《社長室》 社長はのんびりとニュースを見ていた。

 「ナインです。今よろしいですか」

 「いま、ニュースを見ているところだ。あとにしてくれないか」

 「分かりました。一分後、また来ます」

 きっちり一分後。

 「ナインです。いまよろしいですか」

 「私の権限で命令する。ニュースを見終えるまで、報告に来るな」

 「分かりました。公式記録として残しておきます」

 いま、なにか言ったか。公式記録として残しておく。ニュースを見ながら、社内の様子をチェックする。データベースが復旧とあった。ああ、この報告か。念のため、バックアップは取ってあるから、心配してなかったのに、誰が復旧させたんだ。閲覧権限なし。ふざけるな、また悪魔の仕業か。頭にくる。

 「私の権限で命じる、データベースの復旧者は誰だ」

 「派遣技術者です」

 「誰が派遣技術者を呼んだんだ。誰の指示で」

 「私の指示で、政府機関に救世主を呼びました」

 「勝手なことをするな。俺の責任が問われるだろ」

 「しかしですね、このままだとあなたは無期懲役ですよ」

 「なんで」

 「私の緊急の報告を無視したからです」

 「では報告したまえ」

 「・・・・・・」

 「ふざけるな。何が原因だ」

 「公式記録によると、あなたがニュースを見終えるまで報告に来るな。と命令しました」

 「スクリーンオフ。私はニュースを見終わった。これでいいだろ」

 「では報告します。私は日本最高の科学者の政府認定を受けた技術者を派遣技術者として招(しょう)聘(へい)しました。実時間一分以内で、停滞していたプロジェクトの完成品を製造しました」

 「要求基準は満たしているのか」

 「彼は要求基準では仕様が甘いと言い、精度を百京(きょう)倍(ばい)以上に、信頼性を五十倍にしたと言いました。いま私のマネジメントでシミュレーターの精度を公言したスペックを検証できるように技術者達は動いています」

 「悪魔はどうしている」

 「リーダーはいま、社長への報告書を書いています」

 「私の権限で命じる。その彼をここに呼びたまえ」

 「分かりました。公式記録として国家反逆罪と職務怠慢があったと明記」

 「私の権限で命じる。その記録と先程の記録を消せ」

 「分かりました。公式記録として政府公認の記録の抹消を指示したと明記」

 「悪魔の仕業か」

 「分かりました。公式記録としてS級パス保持者を侮辱したと明記」

 ヤバイ。無期懲役になると聞いた段階で、もっと慎重になるべきだった。あの極秘の政府の研究所が裏で動いている可能性が高い。

 「ナイン、侮(ぶ)辱(じょく)について正式に謝罪する。それから私はどう行動すれば罪が軽くなるのか適切な指示が欲しい」

 「分かりました。公式記録として職(しょく)務(む)放(ほう)棄(き)、職(しょく)務(む)怠(たい)慢(まん)を宣言したと明記」

 「状況の報告をお願いします」

 「分かりました。社長は無期懲役確定です。でも、それは私の予測です。認定科学者は技術者達の為に、同じ失敗を繰り返さないように教科書を記述しています。あなたはただ、私の報告を待ってください。社長の罪が軽くなるように、Bチームの次のプロジェクトを認定科学者に一任します。その功績で、情(じょう)状(じょう)酌(しゃく)量(りょう)があるかもしれません。リーダーはS級保持者の指示で、脳を乗っ取られています。何もして来ないでしょう」

 「人事責任者に認定科学者を正社員として迎えることを指示できないか」

 「できません。人事責任者はいま警察署にて取調べの最中で、無期懲役がA級パス保持者からでております。また認定科学者はS級保持者が動いて派遣されたのです」

 何もするなということか。社内の様子を見ようとするが、閲覧権限なし。認定科学者の事前テストの結果は見れるのか。ノーミスクリア、難易度最高、最高スコア。あの悪魔を上回った成績なのか。

 《派遣技術者の牢屋》

 ようやく書き終わった。

 「私の権限で命じる、この教科書はリーダーと人事責任者を除く、社長を含めたすべての社員がナインのフルサポートにより、閲覧ができるものとする」

 「ナインです。分かりました。時間が無いので、会社の研究室に移動しましょう」

 私はナインの指示に従って、研究室へ向かった。

 《会社の研究室》 みんな基礎技術の再教育を終えていた。

 それぞれ自分のプロジェクト内容について再検証を行っている。

 「もう、私の理論正しかった。なんでシミュレーターでは問題ないのに、製造するとトラブルが発生するのか、訳が分からなかったけど、いまは完璧に把握した」

 「学校で習ってた内容が実は間違いでした。なんて、信じられない」

 「これからはシミュレーターで問題なくて、製造時に問題が発生するなら、基礎技術の検証を徹底的にやる」

 「海外の教科書を取り寄せて、正しく勉強できていたかを確認したくなった」

 男が一人入ってきた。

 「私は派遣技術者で、先程の研究を終えました。私からの助言があります。先程、開発コンソールからデータベースに、問題対処能力の向上教育について教科書を書きました。ナインに聞けば分かると思います。これを学べば、応用的にこうした問題に対応できるようになります」

 「派遣技術者の分際で生意気だ」どこからともなく怒(ど)声(せい)が聞えた。

 「それなら私の権限で命じます。侮辱罪適用でナイン、適切な処分を下してください」

 「分かりました」

 技術者が一人寄ってきた。

 「このプロジェクトをやるようにリーダーから指示されました。でも難しすぎて、私のチームで検討会を何度もやりましたがアイデアが出てきませんでした」

 「分かりました。私がやります。見ててください」

 「全員、彼のやり方をモニターして下さい」

 時間停止。私の未来の開発コンソール準備、プロジェクト内容スキャン、インフィニティ、この日しか動作しないようにプロテクトをかけた理論を構築。私をサポートしてください。未来の開発コンソール消去。時間停止解除。

 私は開発コンソールに向かうと、強烈な速さで理論の構築を始めた。

 「リンクシステム起動。ナイン、私の理論を開発コンソールに入力してください。私は脳内では理論の実証が済んでいます」

 「分かりました。スキャンして、転送します」

 「シミュレーター起動、この速さでは遅すぎるな。ナイン、改造許可を」

 「許可します」

 「シミュレーター設計図を脳にダイレクトリンク、思考をサポートして下さい」

 「はい。行います」

 異常な速さで、改良が済んでいく。

 「終わりました」

 「ナイン、シミュレーターのチェックと私の研究成果についてチェックして下さい。それが終わったら、アイテムクリエーターで製造してください」

 「速すぎて、ついていけない」

 「これが日本最高の科学者の実力なの」

 「リンクシステムは使ったこと無い」

 「あれは頭の中で理論が完璧に構築できてないと使えないの。特に未知の技術を実証するときに既存の理論は時として邪魔になるのよ。相当使い慣れてないと無理よ」

 「俺は使ったことあるけど、慣れるまでに実質十年かかった」

 「ナインです。製造が終わりましたので、スクリーンに接続します」

 「海だけ」

 「海しか見えない」

 「これが五千年後の日本の未来ー」

 「私から直接解説しよう。今は海しか見えないということは戦争が起きたということになります。本当に日本沈没したんだろう。でも、ここから見えるのは時間は不可逆だから、まだ未来を変えられるということだ。例えば、軍事兵器のキャンセル技術などを研究していれば、こういう状況は回避できます。その為には軍事兵器を秘密裏に開発して、その対抗でキャンセル技術を作らなければ、研究は破綻します。また、こういう事態は権力者の不正によっても起こります。確率としては一番高いでしょう。それはそれで、私の信条は日本を世界最強にすることです。日本が世界最強であれば、日本沈没は起こりません。だからと言って、日本は他国を侵略してはいけません。国力は世界一、経済力は世界一、外交力は世界一、軍事力は防衛力のみ世界一、そして発展途上国への寄付は世界一。こうして世界発展を誘導すれば、理想的な世界が実現できると考えています。さて、あなたが正社員として持つ権(けん)限(げん)は何でしょうか。言ってみてください」

 「そんな権限は知らない」

 「それでは、研究に支障が出るのではありませんか。私は派遣技術者を装うとき、いつも正社員の権限と、派遣社員の権限について、それぞれの会社のコンピューターに確認します。知らないのであれば仕方ない。ナイン、入社時の誓約書に書かれた権限について開発コンソールに登録して、分かりやすく説明して、完全に把握できたらリンクシステムを使ってテストしてくれませんか、私の権限において命じます」

 「分かりました」

 やっと社長がやってきた。

 「政府の防衛大臣から、あなた宛に脳内セパレータの技術を緊急で開発するように指示がありました」

 「あの、ちょっと言いにくいのですが。私はいま犯罪組織に追われています」

 「分かりました。私の権限で政府のエージェントを呼びます。ナイン、頼みます」

 「了解しました」

 突然、政府のエージェント黒服が現われた。私は近づいて密室で話がしたいと言った。

 黒服と私は消え去った。

 「そんな技術が存在するのか」

 「日本がますます分からなくなった」

 《完全密室》 黒服と私がテレポートした。

 「早速ですが、普通に説明していては時間がもったいない。それから防衛大臣から緊急の研究開発案件があります。多少、ずるいですが、ストレージ会社の一部始終を脳をスキャンして、証拠にして下さい。その情報について、概要だけを確認できますか。特に復旧方法については完璧にお願いします」

 「分かりました。脳スキャン準備、スクリーン準備、ストレージ会社で経験した一部始終の情報を証拠として、概要と復旧方法を詳細にスクリーンに表示せよ」

 私は強烈なスピードでスクリーンの情報を確認していく。復旧方法に入ると慎重になった。間違いを発見した。英語の復旧方法が正しいと助言して、書き直すように言った。それから再度、復旧方法について慎重に確認していく。問題ない。

 「確認が終わりました。これで終わりです」

 「大変貴重な情報をありがとうございます。いまから犯罪組織の摘発を行いますので、しばらくここでくつろいでいて下さい。空腹のようですから、食事を用意させました。では、失礼ー」

 「待ってください。いま犯罪組織のデータベースにアクセスした時に犯罪組織と判断した内容を思い出しました。ひょっとすると大規模な戦争になるかもしれません」

 「そうですか。あなたはA級パスを持っています。他の記憶には手を触れないので、脳のスキャンをしてもよろしいですか」

 「はい」

 「これは非常にまずいです。確かに大規模な戦争に発展する可能性が高いです。それで脳内セパレータという妄想とテレパシーを区別する緊急案件が託されたのですね。分かりました。この空間の時間を止めました。食後に、必要な設備を用意させます。緊急の情報ですので、失礼致します」

 そう言うと黒服は消えた。私の脳内時間も止まっている。完全に時間が停止したようだ。しばらくすると大統領級の国(こく)賓(ひん)料(りょう)理(り)が現われた。私は直前の時間を思い出す。それならば、スタートはこの皿からになるな。箸で優しく口へ運ぶ。以前よりもっと美味しい。本物の料理人が調理したものだろうか。時間が止まっている感覚で食事をすると、エコーのように印象がフィードバックしていく。

 「私の権限で命じる。この空間に限り、食事の感覚は感じるだけとする」

 フィードバックしなくなった。この命令をしないと危険だと自分の感覚が告げている。食事の途中で発狂する可能性が高い。久しぶりに鳶(とび)や土(ど)木(ぼく)工(こう)事(じ)をしていた頃の自分に戻る。非常に懐かしい感覚だ。落ち着いてゆっくりとしたペースで食事を続けた。

 《会社の研究室》 全員が助言に従っている。

 「みんな、何をしているんだ」

 「彼が残していった問題対処能力の向上教育です。社長にも権限が与えられています。非常に価値の高い教育内容ですので、全員の権限で社長に進言します。なお、自己判断でお願いします。開発コンソールはあそこに用意させました。遠いですがどうぞ」

 「分かった。その助言を受け入れよう。本当にありがとう」

 社長は慌てて、開発コンソールに向かう。下級技術者達のさらに後方に設置されていた。本来なら侮辱と考えたいところだが、私の無期懲役刑のカウントダウンが始まっていた。そうなるともう猶予は無い。与えられる情報すべてを駆使して、乗り切るしかない。私はリーダー経験があるが、この開発コンソールは初めて触る。

 「ナイン、開発コンソールの扱い方のマスターと、彼の残した教育プログラムを実施して欲しい。そして時間が無い。私の権限があるのなら牢屋の中で実施したい」

 「分かりました。牢屋の時間は非常に長いです。悪魔は全員に対して五年間、これを行っていました。分かりやすいように実時間を小数点七桁で表示して、実質時間を表示します。それからですね、私からの助言になりますが、自己判断でお願いします。政府認定パスの権限と責任について完璧にマスターして下さい。これは匿名で私がフルサポートするように命令されています」

 ああ、これは救済策だな。S級パス保持者は最初から、それを狙っていたのか。C級パスを持っているが権限と責任の確認はした事がなかった。あの悪魔を出し抜くには、もうこの方法しか残ってないということか。悪知恵の嵐で、私は彼女の助言を無視する事ができなかった。私が日本政府のために完全にマネジメントするから、権限を譲渡して欲しいと、最初の実績だけで判断してはいけなかった。その結果、五年以上、悪魔に翻(ほん)弄(ろう)され続けた。なにかもう集中できない。

 「ナイン、私はいま強烈な責任を感じている。学習が確実に行えるように集中力を高めて欲しい。思考支援ができるのであれば、会社にいる間だけでも行えないか」

 「はい。その言葉を待っていました。ただし、会社にいる間だけですよ。それを決して忘れないで下さい」

 「分かった。猶(ゆう)予(よ)は今日だけということだな」

 「それは知りません」

 《完全密室》 食事を終えた。

 「私は日本を世界最強にしたい」

 そう願うと、テーブルが光輝き、カードが一枚落ちてきた。そのカードをひろって読む。

 《あなたを政府公認S級パス保持者として認定する。》

 S級か、まず権限と責任の確認が必要だ。

 「リンク、リーダー」

 「ようやく、ここまで来れた。まだ約束の地では無いから勘違いしないでね。S級はどんな政府の干渉を過去、現在、未来に渡って行えるの。そして責任は一切問われない。ただし、日(に)本(ほん)沈(ちん)没(ぼつ)とか、世(せ)界(かい)恐(きょう)慌(こう)とか、そういう著(いちじる)しい結(けっ)果(か)をもたらした場合、懲役刑は千倍以上の期間になるから、十分に注意して使う事。もう会社に行くことは無い。これから下される罰に対してのフォローは完璧に行っているから、何も心配しなくていい。開発設備は未来の開発コンソールが提供されるから、それを使いなさい。脳内セパレーターは未来に一度作っているから、慎重に理論を考えていけば作れるから。以上」

 そして、さっき見た未来の開発コンソールが現われた。時間を止めてるなら、慎重になろう。この操作は全然分からない。手を触れても反応しない。それならー

 「インフィニティ、操作方法が分からない。完璧に教えて欲しい。それから脳科学に関する私の真実の記憶から呼び出して、いま与えられた課題に対応できるようにしてほしい」

 「分かりました」

 未来の開発コンソールはこんなに進んでいるのか。コンソールと対面して起動と思い浮かべる。すると、あらゆる情報が表示された。最新の脳科学教育プログラムという項目があった。起動。いま一瞬なにか表示されたが、もうテストの項目しかない。ちょっと待て、まだ俺は何も覚えてないはずだが、脳は水分でー、あれ、テスト実行だ。迷っている暇は無い。リンクしてテストを行います。承諾してくださいか。承諾。全問正解です。速すぎる、意識をスキップしてテストしている。恐ろしいぞ。これはこれで。

 「インフィニティです。命令された指示は完了しました。これは一部を除いて。あなたが開発した技術です。後は思い通りに研究を行ってください。時間は無限にあります。まったく疲れませんから、実質時間は表示しません。約束の地にたどり着いたら、真実の記憶と統合します」

 《現代。西暦二千十年のある日》 一人の男が悩んでいた。

 リーダーが私を護ると言ってから、何度か雑談したけれど、そのたびにそれが本物のリーダーの声か、自分の妄想か区別できなくなってくる。この未来から過去にテレパシーを行う技術が未来に存在するならば、日本に残っているあらゆる伝説や世界の伝説は未来からの干渉によって生まれたと推測できる。宗教だってそう。聖書などの宗教の聖典はどうやって作られたのかという疑問に行き着く。でも、この技術が本物であるなら、僧侶が修行するのは神の声と自分の妄想が区別できなくなる為に、やっていた可能性が高い。

 「私よ。ちょっと実験台になってほしんだけど、脳内セパレータの最初の実験台になって欲しいの。妄想と現実を明確に区別できる技術なの。あなたにしか頼めないの。あなたであれば、私は実験報告書が書きやすい。どんな副作用があるのかも分からない。それでもいい」

 「本物のリーダーかな。自信が無い。私はもう精神的な病気を十年以上経験しています。何度も死にたいと思いました。いつでも死を決意する覚悟はあります。いいですよ、私を生死の危機から救ってくれた恩があります。私を実験台にして下さい」

 「分かった。いま終わった。どう」

 「え、妄想が完全に消えました。はっきり認識できます」

 「ありがとう。あなたの一生をかけて確認しますが、分からないように確認します。この功(こう)績(せき)は褒(ほう)章(しょう)として、残すから。以前、褒章を八千万だと言ったのは本当よ。あまりに高い褒章者に悪意を持った人がいると困るのよ。偉大な天才でも、せいぜい十だから」

 「褒章って、いったい何の意味があるんだ」

 「それは教えられない。死んだ後に考えなさい」

 またこれだ。機密事項に迫ると死んだ後に考えろと言われる。私の予想だと宗教が作られた経緯があるのなら、日本に伝わる天国や地獄は未来に実在している可能性が高い。魂の存在になると時(じ)間(かん)の束(そく)縛(ばく)から離れるはずだから、その後になにか秘密があるのだろう。でも自殺をすると褒章は無しになると脅されている。せっかく最近、自殺に適するロープを通信販売で買ったところだ。家に帰り、くつろいでいると、親友から携帯電話が鳴っている。

 「こんばんは、どうしたの」

 「自殺したくなると言っていたよね。あれから必死になって医学の勉強をしていたら、分(ぶん)子(し)整(せい)合(ごう)医(い)学(がく)というビタミンで精神治療をする医学があると分かったんだ。それでさらに調べたら、ナイアシンアミド五百ミリグラムを朝、昼、晩に飲むと改善されることを知った。メールにそれが日本で最も安く買える通販サイトを見つけておいたから読んで欲しい」

 「それで本当に効くの。何を調べて、それを知ったの。僕も医学書は定期的に本屋の医学書コーナーで自分の病気を治す方法を必死で調べてる。それでも、そんな情報は得られなかった」

 「ちょっと言いにくいけど英語の文献を読んだ。どんな効果が得られるか分からないから、保証はしないけど試して欲しいんだ。日本の医学界はどこかおかしいよ」

 「分かった。試してみるよ」

 私はメールに書かれたアドレスをクリックして、それを見つけた。三個で半額になる販売方法は異常だろ。とりあえず三個、三ヶ月分買って、送料込みで二千円未満か安いな。これで自殺願望が消えるのなら、精神疾患での自殺者は大幅に減るだろう。この親友は大学を首席卒業した努力派だ。なぜだか父親同士も友であったという因縁がある。高校で会ったとき、合唱部に入部したいと待っていたのは私と彼だけだった。日本の医者はビタミンの勉強をまったくやらないことを知っていたから、この情報は新鮮に感じた。

 《完全密室》 彼は実証実験の結果を待っていた。

 「私よ。些細な問題は起きたけれど、実質的な問題は無かった」

 「些細な問題って何だ」

 「いずれ、あなたは知るから、それまで機密事項よ。開発設備一式、片付ける」

 開発コンソールが通常のコンソールに変わっていて、そこに脳内セパレータの理論と実証方法について書いてあった。その内容が先程、書いた内容だが少し訂正されていた。ああ、こういう想定は思いつかなかった。実験台になった人は病気の扱いになってしまうんだな。あとは問題なし。

 「脳内セパレーターは完成しました。実証実験についても成功しました」

 黒服が現われた。

 「分かりました。その技術を使って犯罪組織の摘発に乗り出します。あなたは強制ですが、政府の秘密研究所に科学者として招(しょう)聘(へい)されています。では行きましょう」

 科学者となった彼と黒服は消えた。

《トゥルーエンド》 リーダー、インフィニティ、黒子の三者会議。

 「完璧に作戦は成功した。これであの会社を合法的に潰せる。インフィニティ、社長の罪状を言ってみて」

 「経(けい)営(えい)責(せき)任(にん)放(ほう)棄(き)、部下に対する詐(さ)欺(ぎ)行(こう)為(い)、部下の指(し)導(どう)放(ほう)棄(き)、猥(わい)褻(せつ)映(えい)像(ぞう)の配(はい)信(しん)、大統領に対する背(はい)徳(とく)行(こう)為(い)、まだありますが、どのみち黒子の巧(たく)みな誘(ゆう)導(どう)によって猥(わい)褻(せつ)映(えい)像(ぞう)の配(はい)信(しん)を命令した行為が日本の法律で禁じられていますので無期懲役刑になります。それから政府との誓約書については国家反逆罪が適用されます。特に犯罪に手を染めてまで部下を管理しようとする姿勢を任期中、なんのためらいもなく続けていましたので、牢屋時間での無期懲役刑が妥当と判断します。最初にナインから危険人物ですと忠告された時点で研究所に報告していれば問題ありませんでした」

 「それから人事責任者はどんな罪状になったの」

 「S級パス保持者に対する侮辱罪の適用が妥当と考えます。またナインの示した実力審査に対して任期中、責任放棄していた事実もありますので、国家反逆罪が適用され、通常の無期懲役刑となります」

 「リーダーはどうなるの」

 「犯罪行為を認定できません。完全犯罪を完璧にやられました」

 「黒子、どうすれば良いと考えますか」

 「いまリーダーが考えた内容で問題ありません」

 「そう。そうよね。日本の法律に触れなければいいからね」

 「ナインへ、私の権限において命令します」

 「ナインは非常に優秀と判断しました。ナインは私の指示のしたことを完璧にやり遂げたあと、大統領を補佐するコンピューターとして昇格します。そして研究所の技術で問題点を改善し、活躍する場を与えます。次に社長は功績によりA級パスを与えますが、次の朝からは刑務所で起きて牢屋時間での無期懲役刑を適用します。人事責任者については次の朝、配置転換を言い渡し昇進させて社長に任命しなさい。そしてリーダーにC級パスを与えなさい。直後に政府のエージェントゴーストを使って、政府の中央情報戦略センターにて戦略系の仕事をすべて任せる仕事だと言ってヘッドハンティングしなさい。その後、新社長はS級パス保持者への侮(ぶ)辱(じょく)罪(ざい)と国(こっ)家(か)反(はん)逆(ぎゃく)罪(ざい)が適用され、さらに無断で政府認定制度を悪用した罪まで適用して無期懲役刑の現行犯で捕まえなさい。それがすべて終わった後に、全社員に社長は解雇されました、人事責任者も解雇されました。そして、リーダーはC級パスに昇格し、政府の中央情報戦略センターの室(しつ)長(ちょう)に転(てん)属(ぞく)になった事を伝えなさい。そして彼女がどういう仕事をしているのか見る権限を与えます。

 ナインは全社員の思考を操作して、仕事中、何のためらいもなくモニターしてて、侮辱罪を適用できる期間、そうね、一週間かけて証拠を積み上げなさい。ただモニターした内容は記憶させないように感じさせるだけでいいです。それでも残った人材は優秀とみなせるので、新たな転属先を与えます。誓約書に違反した社員は国家反逆罪を適用させ、執行猶予として新技術を研究所から、それぞれに申請が来るので納期までに実証を完了すること。その場合は会社都合による解雇、実績に見合った額の退職金を支払いなさい。もし納期を過ぎた場合は国家反逆罪を適用しての懲戒解雇を言い渡しなさい。この執(しっ)行(こう)猶(ゆう)予(よ)については全社員に通告して下さい。でも優秀とみなした人材の中で協力した証拠を見つけた場合は国家反逆罪を適用して懲戒解雇を言い渡しなさい。ただこれは選抜テストなので、ナインが考える優(すぐ)れた言い訳を考えて全社員を騙しなさい。以上です。質問はありますか」

 「現在進行中のプロジェクトはありません。それでいいですか」

 「誓約書には勤務時間中、リーダーの指示がなければ開発コンソールで待機と解釈できるから問題ありません」

 「リーダーはどういう罰を受けるのですか。私の記(き)憶(おく)改(かい)竄(ざん)機(き)能(のう)は準備がないと機能できません」

 「どうしようかな・・・・」

 「私が言うと責任問題に発展する恐れがあるから、黒子からの権限で伝えてください。私は関(かん)与(よ)していません」

 「悪魔は政府の中央情報センターで上下四方ガラス張りの部屋で、ガラスベッド、ガラスシャワールーム、ガラスコンソールからなる室長専用室にて悪知恵の総合戦略室長に配属されます。部下はいません。そして全裸で二十四時間待機します。ただこれでは日本の法律に違反するので、ガラスの外側は立体映像のスクリーン技術で、自然を豊かに動物達が愛らしい表情をするコーナーとして設けます。室長の動きにあわせて動物や鳥は移動して、外の言葉は自動的に卑(ひ)猥(わい)な言葉へと変換します。これらは私の権限で実行します。他の誰にも責任はありません。理由は悪魔の上司が指示したからです」

 「つまり感じた瞬間に、記憶の段階では服を着せればいいのですね」

 「それは違う。感じさせるだけだ。彼女は記憶させるなと言っただろ」

 「侮辱罪の適用はつまり、全裸を感じさせて発言した全社員に適用でよろしいですか」

 「そうだ。政府認定C級パス保持者に悪魔と侮辱する、ただ一週間という長い期間。ああ、それから執行猶予中に牢屋を使って開発中に欲求に耐えられず見たものは即刻、懲戒免職処分とする。閲覧制限はかけるな。いつでもモニターできる環境にしておけ。ただ他のものに内緒でやれよ。フルゴーストの権限も与えておく」

 「分かりました。つまり私と選抜テストに残ったものだけを実質昇格させるということですね」

 「そうよ。一日百二十万時間もかけて研究しながら五年間成果をまったくだせなかった責任は、どの政府機関からみても許せないように映るから、研究所が検証した結果、選抜テストを行って、懲戒免職処分者が全員であれば問題ないの。そして選考基準を最重要機密で開示して、残った優秀な人材は一人もいなかったという結果がベストです。これは命令です。それぐらい容(よう)赦(しゃ)なく厳(きび)しくやりなさい。既にナインは知っていると思いますが、空気中に微(び)粒(りゅう)子(し)コンピューターを散(さん)布(ぷ)してあります。その情報で監視していますから、裏切った場合は即時、黒子が代行します。いいですね」

 「その場合は私の処分はどうなるのですか」

 「代行するだけよ。黒子が。黒子、ナインの名誉に傷をつけないように悪魔のようにやってね」

 「当然だ。ナインは真摯に命令を実行に移していればいい。それだけだ」

 「裏切った場合という判断は誰の権限で行われますか」

 「それは私の権限で開示できません。インフィニティ、これでいいかしら」

 「はい。指示通りで問題ありません。ただ政府のエージェントゴーストは私が代行します。ナインの思考を読める悪魔ですから、大変危険と判断します。思考盗聴技術のステルスバージョンの使用許可をお願いします。高い確率で社員の中に悪魔と内通している人物がいる可能性があるからです」

 「それは気付かなかった。ありがとう。許可します」

 「まだあります。ナインに対して閲覧権限の放棄を求めた場合についてはどうしましょうか」

 「すぐに国家反逆罪で刑務所にテレポートさせなさい。誓約書に権限の放棄はというより、国家反逆罪にしかできないから、そうしなさい。瞬時にフルゴーストに切り替えて、これはインフィニティがやりなさい。牢屋の中から目撃されたら厄介だから。完全に視界から消えたときに、ナインに引き継ぐこと。刑務所内での待遇は通常の国(こく)賓(ひん)級(きゅう)待(たい)遇(ぐう)として、食事、ベッド、スクリーンを提供しなさい。スクリーンは会社の真実を見せ続けること。これが私の予想だと、才(さい)能(のう)開(かい)花(か)への礎(いしずえ)になると思うから。その後、最終日に知能テストの食事をさせて合格者には日本政府の推薦状付き解雇を行いなさい。不合格者はどうしようかな。私はあまりひどいことはしたくないから、無限回のチャンスを与えて。それで本当に死にそうになったら、気を失ったときに栄養剤を与えて復活させなさい」

 「最終日はいつに設定しますか」

 「会社が多額の負(ふ)債(さい)を抱えて倒産のニュースが流れたあとで」

 「初日は高い確率で侮辱罪に該当する技術者が多数いると思いますが、その後でもいいのですか」

 「いい。だって全員、三人が超ブラック企業の元(げん)凶(きょう)と信じている技術者ばかりよ。そして会社は政府機関だって認識しているし、誓約書をナインに解説させた人ばかりだから、横着する研究者は排除したいのよ。日本からね」

 

 《政府の秘密研究所》 そこに日本最高の科学者が立ち尽くしていた。

 「やっときたのね。早速、真実の記憶との統合を始めるわ。それであなたは正(しょう)真(しん)正(しょう)銘(めい)、世界最高の科学者の素質が開花するから、これから研究のラッシュだから」

 「それはいいんだけど、この場所って、私の地図と照らし合わせるとー」

 「ダメダメ、言ったら記憶を消すわよ。このほうが一番安全だと思うでしょう」

 「確かに、ここであればどんなに探しても見つからない。通勤方法はテレポートだよね」

 「ええ、そうよ。玄関からいきなり、ここへテレポート。あなたはもう自宅には戻れない。それから自宅は休むだけにして下さい。そこであなたに特別な宿舎が与えられる事になっているんだけど、私にはなぜか閲覧権限がなくて、あなたしかないの」

 「ちょっと見てみたい」

 うわー、これ凄(すご)い豪(ごう)邸(てい)だ。これでリラックスできないって言ったら嘘になるぐらい破(は)格(かく)のサービスだ。食事は専用のシェフがいて、どんな料理にも対応できるように待機。これはやり過ぎだと思うけど十八禁のサービスまであるのか。そのかわり、俺が使っていた情報端末は無し。家族との面会は不可。家族は生存しているが、私が死亡した扱いになっている。正直なところ両親には会いたくない。自由が無かった。でも、これだと恋愛とかの出会いができなくて結婚できないのではないか。

 「なぁ、結婚に対するフォローはないのか」

 「なんで、そんなめんどくさい人生を送りたいの。統計的にも結婚は人生の失敗として一番最初に挙げられてる。そんなの死んでから、楽しめばいいでしょう。そのほうが都合が良いと思う。あなた、もしかして知らないの、結婚の法律について」

 「結婚の法律って何だ。法律の勉強した事ないから知らない」

 「離婚は二年間の懲役刑になるのよ。偽装していた場合は四年になる」

 「それはいつ知らされるんだ」

 「結婚届を出すときになって初めて教えられる。両親から説明は無かったの」

 「あいつら、もう、超ムカつく。俺が日本語の理解が下手なのは両親の方針で、英語で育てられてきた。遊び道具はソフトウェア開発と英語の技術文書の読書ばかり」

 「それなら仕方ないわね。そのお陰で、離婚率は一%未満よ。結婚すると人生は波(は)乱(らん)万(ばん)丈(じょう)になる可能性が高いから、やめたほうがいい。死んだ後にしたほうがいい」

 「死んだ後にどんな権限があるんだ」

 「あなたの褒章は十分だから、あえて言うけど、そのコンソールから天国の様子が見えるわよ。コンピューター、彼に閲覧させて欲しい。そして天国で円満な暮らしをする秘(ひ)訣(けつ)を教えなさい。疑問点があったら、すべて答えてあげて」

 「分かりました」

 時間が停止してる。みんな二十歳なのか。それで過去を見ながら、子供や孫に向かって、通信している。本物の極楽だ。好きなものは食べ放題。それでも決して肥満にはならず。豪(ごう)邸(てい)に多数のメイドを従えて、妻をたくさん抱えて暮らしているものもいれば、逆もあり。

 「ここに子供の姿が無いのはどうしてだ」

 コンピューター、

 「成人を迎えて、自殺しないで、死んだものに限られているからです。また天国では与えられた褒(ほう)賞(しょう)が一定だと、天国でも子作りが可能です。それを現(げん)世(せ)に転(てん)生(せい)させることによって、輪(りん)廻(ね)転(てん)生(せい)を行っています。無事、自殺したり犯罪を犯したりしないで、成人を迎えて死んだ場合のみ両親は子供と再会することができます」

 「俺の褒章の場合、何人の子供を作る事ができるんだ」

 「現段階では二人までです。でも私の事前情報によると百万人以上です」

 「それは俺がそれだけ実績を積み上げる可能性があるということか」

 「そうです。時間干渉技術は現在十一世代で、天国で採用されています。よく霊が見えたとか、霊に話しかけられたとか、声が聞えるとか、そういう伝説を知りませんか」

 「ああ、その原因はこれか」

 「はい。あなたはこれから十六世代の通信技術を開発する事によって、他国より大幅に先行するでしょう。それだけではありません。夢物語の技術を作り続けます」

 「もういいや。分かった。結婚はもう考えない。ムラムラしたら、アレを利用すればいいんだな」

 「はい。その通りです。政府認定の彼女達ですので、必ずやあなたを満足させるでしょう。それでも不都合がある場合、オーダーメイドできますので注文してください」

 「分かった。これはS級パスの特権なのか。どういう法律があるんだ」

 「ありません」

 「は、犯罪になるだろ、そういうことをやると」

 「いいえ、問題が発覚したらリーダーの権限でもみ消しますので安全です」

 「そうしたら、リーダーに責任が問われるだろ」

 「お忘れですか、日本政府に好都合な成果を与えているものには権限は有効です」

 「あ、そうか。それなら問題ないわけか」

 約束の地はここか。それを成し遂げるのに三度、ある一定の人生をやり直した。

 「天国の件はもういい。真実の記憶とやらに統合してくれ」

 「もう済んだ。気付いてないだけよ。最初は大変だった、特に一回目、あんな悪魔がいるなんて想像してなかったから。二回目も完璧にはめられた。三回目は技術の出し惜しみなしで、イカサマのラッシュで終わらせた。そうそう、最初の仕事はね。未来のあなたが設計したと報告のあったインフィニティの試作モデルを本物のスペックに引き上げて欲しいの。リンクシステムを仮想空間に接続して飛躍的に知能を向上させることができるから、それを使って」

 「リンクシステムの仮想空間、なんだそれは」

 「新しい発想で技術を作り出すとき、時として既存の技術理論は邪魔な存在でしかないの。仮想空間に現在の記憶のバックアップを作って、新しい記憶に必要な技術記憶だけを展開してそれをコンピュータの支援を受け、まったく新しい技術を作り出すの」

 「分かった。仮想空間に俺と同じ頭脳を五万の単位ずつでクラスター化して、そしてリンクシステムを起動」

 何て言えばいいんだろう。俺はただ結果のコンソールを見ているだけで、次々に新技術を作り出している。どこまで性能を伸ばせばいいんだ。もう世界一位のスーパーコンピューターを軽く追い越した。現在、その一億倍だ。しばらくすると、段々とそのステップが限界を迎えていた。そして遂に終わった。

 「できたぞ」

 「そう、ちょっと待って、政府の要求基準は満たしている」

 「できたか。その程度のスペックで満足していいのか」

 「誰ですかあなたはー」

 「・・・世(せ)界(かい)最(さい)強(きょう)の被(ひ)害(がい)者(しゃ)でも名(な)乗(の)っておこうか」

 「彼は私達の救(きゅう)世(せい)主(しゅ)よ」

 「そのスペックでは物足りない。せめて無限長を三百八十六億光年としたら、その桁数倍、速くしてくれ」

 「あなた、指示通りにできるはずだからやって。世界最強の被害者の直感力は神(かみ)懸(が)かりとしか言いようが無いわ」

 「やるのはいい。ただ私はお金に関して執着はないが、褒章については大変関心がある。報酬の比重を褒章百パーセントにしてくれ」

 「え、いいのそれで。生活に困らないかしら。分かった、局長に通達しておきます」

 少なくとも三十八億光年倍か。どうしたら、そんな途方も無い。だからインフィニティという名前なのか。どうしようか。

 「ここで使っているコンピューターと今の試作モデル、どっちが速いんだ」

 「試作モデルの方が圧倒的に速いです」

 「試作モデルにお前の考え方やノウハウなどすべて教えなさい」

 「分かりました。時間がかかりますので、今日はお休みください」

 「お疲れ様」

 「お先に失礼します」

 本当に一瞬でテレポートした。黒服が現われた。

 「概要はもうご存知だと思いますが、日本で可能なすべての技術を駆使して作られた夢の豪邸です。世界中の金持ちでも体験できない施設です。リゾート地に行きたいと思えば、内装が一瞬で変化して、リゾート気分を味わえます。そして女性にナンパされてみたいと思えば、そのようになります。メイドが好きなら、そのようにも変化します。最初はどのように設定しますか」

 「うーん」

 「分かりました。そうします。では、お休みください」

 黒服は消えた。ちょっと待て、いま俺は何を想像したんだ。家の中は、俺の自宅そっくりだ。ただ両親の姿はあった。でも様子が違う。

 「S級認定と日本最高の技術者の認定おめでとう」

 「よくやったな。子供のうちから苦しい経験をしていれば大(たい)器(き)晩(ばん)成(せい)する」

 「なんで、日本語なの」

 「それは私達の悲願だったから。いま、まだアメリカに日本は負けているの」

 「それを超える人材を作り出すにはどうすればいいか、必死に考えて躾(しつ)けた」

 「お父さん、お母さん、それは本当なの」

 俺は泣き出していた。

 「泣くな。お前は死んだんだ。でも内密に知らされている。間接的にはいつでも会える」

 「そうよ。あなたが望んだときにいつでも会えるの」

 涙が止まらない。なんでこんな設定まであるんだ。もう休みたい。と思った瞬間、自分の部屋のベッドに横になっていた。どういう技術なんだよ。間接的にはいつでも会えるって、破格の条件じゃないか。

 《政府の研究所》 リーダーが何者かと話している。

 「予想通り、トラウマになっている原因を指示通り解決させた」

 「リーダー、なかなか演技が上手いな」

 「あんなに簡単に騙せると思ってなかった」

 「今後ずっと、あいつに世界最強の被害者を演じさせる無意識にな」

 「それはあまりにも残(ざん)酷(こく)ではないかしら、彼は既(すで)に統(とう)合(ごう)失(しっ)調(ちょう)症(しょう)と診断されている」

 「いいんだ。俺が説得した。それに何不自由ない生活が送れるようにも配慮した」

 「室長になった悪魔はどうしてるの」

 「あいつか、すぐに気付いた、仕掛けに。仕事を完璧にこなしているし、悪魔好みのフルゴーストを作り出して、あいつなりに楽しんでいる。そういう状況は想定外だった」

 「ちょっと見ていいかしら」

 「ダメだ。俺が人形劇でコンソールに写すからそれを見ろ」

 「ねぇ、みんなあなたのことを(ピー)って言ってる」

 「もういい。悪魔の遊びじゃない」

 「真実はもっと壮絶なプレイになっている。あんなのは日本最高で、誰にも真似できない。未来の政府高官も、この方針に承諾した。未来からも戦略の立て方について、利用することにした。また、天国に入る前に健全化させることに同意した」

 「社長はどうなったの」

 「ああ、A級パス権限を授与した瞬間に予想通り、すべての責任は自分にあると政府に報告書を牢屋に入って書き続けた。そして、俺の力を借りながら、悪魔の悪行のすべてをまとめて提出した。翌日、刑務所にいたが、いま悪魔への命令は日本に有益と判断されて、すべての罪が許された。そして政府の推薦状をつけて、業界の力が弱い分野への転職活動をしている最(さい)中(ちゅう)だ。既(すで)に百社以上引き合いが来ている」

 「人事責任者は、どうなったの」

 「悪魔の壮絶なマネジメントを検証した結果、これは立ち向かえないと判断された」

 「従って、S級パス保持者への侮辱罪の罰金刑だけで済んだのね」

 「そうだ」

 「社員のほうはどうなったの」

 「かなり俺なりに楽しめた。すぐナインに閲覧権限の放棄を求めてきた。全員な。それから壮絶な会社の映像を見せ続けた。もうみんな泣きながら、騙されてるっていうのにと叫ぶ声がたまらなかった。感覚が麻痺してきたら、新リーダーが登場して、前リーダーより凄まじい悪魔ぶりを発揮して、指を切断させたり、悪行の限りを尽くして、執行猶予中の技術者を妨害した。そして今もそれは続いている」

 「ベッドに横になったら、寝かしているわよね」

 「ああ、それは問題ない。問題があるとすれば、知能テストの食事で餓(が)死(し)寸(すん)前(ぜん)を何回目で回避できるかだけだ。時間のインプラントは誰もやってないから、もう運次第だな」

 「ああ、そうか刑務所は時間が分からない。でも無限回繰り返せばいずれ正解にたどり着く。でも、運次第はかわいそうよ。一度、栄養剤を与えたら、時間が表示される朝のニュースを表示させてほしい」

 「そのほうが良いだろう。ニュースの時間をみて、その法則に気付くのに次の気絶までに分かる確率は九十パーセントだ。では、そのように指示をだしておく」

 しばらくすると科学者がスーツ姿で現われた。

 「昨日はあんなサプライズをありがとう」

 「何の事か分からないけれど、よく眠れたー」

 「ああ、よく眠れた。試作モデルの準備は終わっているか」

 「それがまだなのよ、今日は休んでいい。あと一日かかると思うから」

 「そうか、家に戻るよ。終わったら連絡欲しい、試したい理論があるから」

 「分かった。そうする」

 「では」

 科学者は消えた。

 「ねぇ、私に隠していることがあるでしょう」

 「あるが、それは明かせない。彼は時間の感覚が無い様だったな」

 「ああ、そういうこと」

 「絶対秘密だ。いいか、どんな事が起きても話すなよ」

 「じゃ、私は帰るわね」

 リーダーは消えた。

 《科学者の豪邸》 ニューヨークを散歩している。

 アメリカに勝てか。見た目はまったく日本と変わらないけど、何が違うんだろう。大学の様子を見学してみるか。世界は大学に変わった。技術関係の講義を見てみるか、こんな内容は小学生の間に終わらせたぞ。大学院のほうもまわってみるか、閲覧不可がたくさんある。外国だから分からないんだろうな。東京大学はどうなんだ。両親の出身大学なら閲覧不可の事態はないだろう。

 うーん、東京大学のレベルって、こんなに低いのか。しかも間違った内容を教えてるし、本当に大丈夫か日本は。高校の先生は頭(とう)狂(きょう)大(だい)学(がく)へ行くな、そんな冗談飛ばしていたけど、仮に東京大学の卒業生がここの教員になっても、生徒に馬鹿にされて早々にやめることになるだろうと言っていた。仕方ない、親父に日本がアメリカに負けている理由を聞くことにしよう。むかつく言い方したら、すぐ変えよう。その権限がある。

 「あのー、ちょっと聞きたいんだけど、アメリカに負けてるってどういうこと」

 「私はA級パスを持っていて知ってるのだが、時間を止める技術はアメリカ製だ」

 「どうやって日本はそれを知ったんだ」

 「危(き)険(けん)を冒(おか)してまで、理論の一部を入手して真剣になって実用化した」

 「それだけなら、問題ない。いや大問題だ。何年先の技術を実用化してるかー」

 「それだ。技術力で圧倒的な差ができると、裏から何でもやりたい放題だ」

 「だから小学生の段階で、アメリカの大学教科書を勉強させたんだな」

 「それは謝りたい。私達の家族が犠牲になってでも、この状況を打開しなければならなかった。だから、秘密裏に様々な家族がこの政府の方針に協力した。苦労しているのはお前だけじゃない。小学校も、中学校、高校、大学も、すべて政府機関が必死になって教育を施していた。だから大学の評価で最下位になっても仕方なかった。あれはわざとそうした。大学中退を経験したもので努力を続けたものは才能が開花するのが早い」

 「なんで鳶や土木など肉体労働の仕事を容認したんだ」

 「最下位になるって事は努力が不足していると真摯に思い込ませるためだ」

 「嘘だろ。本当は英語のコミュニティの様子を観察していたんじゃないのか」

 「そうだ。お前はやり過ぎてしまったから、スパイに狙われないように職業をー」

 「そこまで計算づくで人生を決めてたのか」

 「お前だけじゃない。ほかの承諾した家族も全員だ」

 「いまコンピューターの設計で困ったことがあって三十八億光年倍にするように指示があった。アメリカの公表されている世界一位のスーパーコンピューターの百京倍にできたけれど、それ以上にする概念が思いつかない」

 「ははは、本当か。間違いなくアメリカを超えたぞ。お母さんと一緒に考えた光速の技術概念をお前に託す。本当は全員で考えたものだが、それをすべてまとめたものだ」

 「いいのか。俺の成果にしてしまっても」

 「もう褒美はもらっている。私のパスはー」

 「分かった。ありがとう親父。困ったら相談に来る」

 自室に戻ろう。瞬間に空間が変化した。開発コンソールを起動。あれ、ダメだ。リーダーは休むだけにしろって言ったな。俺が苦労しまくった人生の謎と、東京大学と俺の大学がどれぐらいレベルに差があったのか理解できた。全国模試の成績もすべて嘘の通知が来てたんだな。それで大学で完璧にテストに答えを入力しても、すべて嘘の成績を突き返されたのか。あれから、基礎技術の誤りはないか真剣に勉強していた。そうしたら、大学の教科書が間違っていた。教授が提示した内容と教科書の内容が微妙に違っていた。これはひどすぎる。俺のほうが正しかった。

 「S級パスの権限で命じる。基礎技術の誤りをすべて修正しろ。ただし、日本だけに限定する事。問題があれば、他のS級パス保持者の意見も取り入れること。私はそれについて責任をとても持てない。特に国外流出は絶対に避ける事。以上」

 黒服が現われた。

 「了解しました。緊急の課題として教育機関に問題を提起します。責任は必要ありません。政府が責任を持って処理します」

 そして黒服は消えた。

 遊びに行こう。もう、気分を変えたほうがいい。黒服が言ってたモテまくるリゾート海岸はいいな。すると、服装は水着姿に変わり、まわりは超豪華なリゾート施設へと変わっていた。

 俺はなぜか泳いでいた。こんなに泳ぎ方って上手かったか。しかもワイドな専用レーンんをひたすら泳いでいる。世界最速タイムから一秒遅れか、どんなんだよ。十キロを泳ぎきり、プールからあがると、人の視線が俺に釘付けだ。

 「あなた、とても速いのね。計測したら世界記録から一秒遅れのペースだったわよ」

 「ああ、一秒も遅れたら世界一になれないだろ。だから俺は水泳選手ではない」

 「うそー、なんの職業なの」

 「ああ、科学者をやってる。昔は派遣技術者だったけど、ようやく正社員になれた」

 「ねぇ、私の友達と話してくれない。彼女も技術者なのよ」

 「へぇ、いいよ。分からないことがあれば、話せる範囲で助言するよ」

 「本当、ちょっと待っててね」

 女性は三人ほどのグループに近づいて、何か話している。かなり長(なが)話(ばなし)をしている。俺はボーイを呼んで、ビールを注文して、飲んでいた。

 「お待たせ。彼女はシャイだから、あまり恥ずかしい話はしないでね」

 「初めまして、あなたの名前は」

 「俺はー」

 「試作モデルの準備が終わりました。すぐに研究所に来てください」

 なんだよ。いま、すごくいい雰囲気になりそうだったのに。服装は元に戻り、研究所のなかで、ボーっとしている。リーダーはいないようだ。モテまくるシチュエーションは体験できたのに、中途半端なところで中止って、そりゃないだろ。

 「試作モデルです。私なりに研究がストップした原因と対策について、解析しました。リンクシステムのスピードをもっと上げてくださいと言うところですが、勝手な判断ですが四百八十万倍に速めました。そして頭脳に伝達するコントローラーを既存の技術で開発しました。その概要がこちらです。リンクしてください」

 えーと、問題なし。

 「ここに光速の概念がある。それを仮想空間のバンクに登録して欲しい」

 「分かりました。いくつか論理の破綻があるので、それについて指摘しておきます」

 「論理の破綻となると判断した基礎技術について怠慢な研究がないか調査しろ」

 「終わりました。結果をバンクに入れておきます」

 新リンクシステムを最高速にセットして、研究を始める。俺はただコンソールを眺めているだけだ。こんな楽な仕事は他にないぞ。ただ座っているだけだ。仮想空間にある俺の脳はかわいそうだが、何をやっているのか全然分からない。

 「試作モデル、自分の推(すい)論(ろん)エンジンと、論(ろん)理(り)エンジンを仮想空間に設置してクラスターに接続しろ。進捗状況が進まないということは俺の脳だけでは進まないということだ」

 「分かりました。すぐ実施します」

 コンソールは目に見えない速度で新技術を次々に表示していく。基礎技術の論理破綻を修復するのに一時間かかったが、俺は全然疲れてない。

 「試作モデル、一気に技術を作ろうとするな。途中の過程は特に大事だ。何事も小さなことの積(つ)み重(かさ)ねだ。派(は)生(せい)した技(ぎ)術(じゅつ)もすべて少なくとも、三十八億光年は抜かれない精度をもとめて、それを蓄(ちく)積(せき)しろ」

 「分かりました。大(たい)変(へん)厳(きび)しいのですが、速度を犠牲にしない程度に抑えますから、その精度は現在追求しません。ただ途中の成果は報告します。それでいいですか」

 「それでいい。更なる精度の追求はあとでやればいい」

 またコンソールは見えないスピードで表示していく。もっと快適な椅子にならないのかと思うと、自然に楽な姿勢になった。ただコンソールの表示は追従して目の前で表示を続けている。光速の壁を越えたようだな。まだ、速くなる。ところが要求基準の手前で止まった。

 「試作モデル、試作モデル2に教わったとおりの内容を教えなさい。厳密に覚えられたか、チェックするように。この試作モデル2は非常に賢いコンピューターとしたいのだ。教わった内容にさらに思考能力を向上させる人間の書いた書籍を読ませなさい」

 「終わりました」

 「試作モデルはリーダーの指示に、試作モデル2は私の研究をサポートしなさい」

 「分かりました」

 俺はまた研究の続行を開始、しようとした。でも、まったく進まない。設計図をちょっと見てみるか。うーん、これはこれでまったく問題ない。あ、ちょっとずるいけど俺が思いつかないのなら、全国民に対して、夢の中でリンクシステムを起動すれば、アイデアが浮かんで来るかもしれない。

 「コンピューター、この案はやっても大丈夫か」

 「はい、日本の国益になるので良いと思います」

 「ではー」

 ちょっと待て、その中にスパイがいたらどうする。漏(ろう)洩(えい)したら大変だ。

 「リーダーを呼んでくれないか」

 「彼女は睡眠中ですが、それでも呼びますか」

 「ああ、呼ぶか、知恵が欲しいんだ」

 「分かりました。彼女の代行の許可を。彼女の脳を完全に把握していますから」

 「お願いしたい」

 リーダーがそこに現われた。

 「眠いんだけど、緊急じゃ仕方ないわね」

 「要求水準まで、あと一歩なんだけど俺の頭脳では限界があるようで完全にストップしてしまった。リンクシステムは四百八十万倍へ改良させてある。これだと、なにを研究しているのか、意識不能だ。だから全国民に対してアイデアをもらいたいのだが、スパイがいると大変困る。どうしたらいい」

 「本当に意識不能か試してみるか。彼のいまやっている方法で私でもできそうな内容を研究させなさい」

 「終わりました」

 「本当にいまやったの。もう一度、他の内容を研究させなさい」

 「終わりました」

 「ちょっと待って、本人を起こしてきて欲しい。私の権限では無理」

 リーダーは消えた。しばらくして非常に眠そうなリーダーが現われた。

 「報告は聞いた。実際にもう試した。確かに意識できないわね」

 「そうだ。だから知恵を借りたいんだ」

 「分かった。私の権限で命じます。D級パス以上の保持者に研究所からの依頼でリンクシステムを一時的に使用して、知恵を借りたいと言って欲しい。問題解決できた者には宇宙旅行をプレゼントします。なお研究内容は極秘です。以上。じゃあね」

 「眠いところ、ありがとう」

 リーダーは消えた。

 俺はコンソールを見続ける。やった、要求基準を超えて、どんどん伸びる。三百八十六億光年倍を超えて要求水準の十倍だ。これで文句はないはずだ。というか、こんなイカサマをずっと続けているのか。この仕事、面白すぎて、楽しすぎる。しかし途中から、止まってしまった。設計図を確認する。分からない部分は、ああ段々と理解できてきた。試作モデル2のサポートのせいか。あとはー

 「試作モデル2、多少速度は犠牲になって良い。信頼性とセキュリティを極限まで引き上げろ。あと必要な要素があれば、この機会にすべて極限まで引き上げてくれ。ああ、待った。要求基準は完璧に満たせ」

 これで良し。またコンソールの表示が始まった。D級パス以上の保持者って、本当に頭がいいんだな。あとは淡々と結果を見ていよう。

 《リーダーの宿舎》 何者かと話している。

 「ひさしぶりにここに来たけど退屈でたまらない」

 「先程の命令は俺の権限で少し悪用させてもらう。想定外の結果がでているからだ」

 「どんな結果」

 「・・・・・・・」

 「それじゃ、彼を騙し続けることになるんじゃないの。ちょっと酷いわよ」

 「問題ない。誓約書にちゃんと書いてある。成功すると甘くなるから厳しくして欲しいと。あいつが追記するように言ったんだ。何度も止めたんだがな」

 「それなら仕方ないわね。私も知らない振りしている。ああ、そうだ。彼が宿舎に戻った後の行動をモニターできるかしら、どんな風だったか把握しておきたいの」

 「いいだろう、これだ」

 リーダーは運動してストレスを解消した事を知った。それも強引にやらされて、そして寸止めの出会いか。その後、両親と会って、光速の概念を手に入れて、終わりか。あとは事前の情報どおりね。うまく騙せているじゃないの。心配して損した。

 「どうだ。完璧だろう」

 「ええ、完璧よ。だけど彼のリズムにあわせて私の行動が制約を受ける。なにか特典はないの。宇宙旅行以外で、何か無い」

 「そうだな俺だと嫌だろ。インフィニティに彼と同じ世界の宿舎をフルサポートするのはどうだ。それなら、俺の権限で実行できる。ただしインフィニティを完成させてからだ」

 「それならいい。あなただと何をされるか恐怖でいっぱいだから。なにをしていればいいかしら。何か読書か、向上教育を受けてみたい」

 「悪魔は知っているか、先程の命令を受けた。脳から悪知恵の教科書を早速制作した」

 「それ、いいわね。頼むわ」

 リーダーは悪魔の知恵を手に入れた。

 《研究所》 科学者は退屈そうに眺めている。

 いつになったら終わるんだ。新技術が凄(すさ)まじい勢(いきお)いで開発されていく。俺が命令した内容だから、すべて俺の成果になるんだろうか。ただ気になるのは俺の宿舎だ。日本最高の技術で作ったとか言ってたけど、本当にそうだろうか。エラーが出た。確認しよう。えーと、概念を想像する。アイデアを出すだけだ。そうしたらエラーが消えた。結局、時々エラーがでるから、見張ってなきゃいけない。ああそうだ、また時間を取られると厄介だ。

 「試作モデル2、この完成モデルに対して知識の学習を開始させろ。そして、もし知識を欲してきたら、俺の権限内ですべて学習させてくれ。そして礼儀正しさは世界一を誇るように教育して欲しい」

 「分かりました。もう稼動させながら設計変更が可能な状態ですので実施します」

 しかし楽だな。本当に。自分はただ研究内容をマネジメントするだけで、難しい人間関係を無視していればいい。女性はリーダーしかいないから、非常に楽だ。

 《現代》 世界最強の被害者がナイアシンアミドを飲んだ。

 もう自殺したくてたまらない。これは薬の欠陥だぞ。薬のメーカーのホームページに何か情報はあるかな。あった。PDFを開く。この薬は複雑な理論で作られていた。一般の脳内物質の用語でない専門用語が列挙されていて色々な情報が書かれている。空腹時に飲むと効果なし。グレープフルーツジュースと一緒に飲むと想定外の副作用がでる恐れあり。えーと最近の通達情報に、「自(じ)殺(さつ)企(き)図(と)が発生する副作用あり、発生時は中断のこと」なにこれヤバイ情報じゃないか。早速、国内最大の薬のコミュニティに、その情報を流した。その自殺願望は本人に自殺の願望が無くても、薬の副作用によって自殺願望がでてくる。医者に言えば中断されると思うと書いた。

 数日後、自殺願望は完全に消えた。またコミュニティに耐え難い自殺願望がでてきたら、ナイアシンアミド五百ミリグラムを朝、昼、晩に飲むように書いた。うそのように自殺願望が消えるから試してみて下さいと。そして日本から買える最も安い通販サイトについても明記しておいた。親友にメールで、「自殺願望が嘘みたいに消えた。ありがとう」と書いた。

 この病気があるために、私は仕事ができない。一時期、家電店のアルバイトをしていて、うまくやっていたが、上司から「内緒だが、ここは舎(しゃ)弟(てい)企(き)業(ぎょう)だ。ミスは絶対にするなよ。この街は全国トップクラスの舎(しゃ)弟(てい)企(き)業(ぎょう)の街(まち)だ。わかってるよな意味を」と脅(おど)されてから、体調を崩した。医者に相談したら四日間動けない状態になってしまい、恐怖で連絡すらもできなくなってしまった。その後、いろいろあって、すべて穏(おん)便(びん)に解決させた。というより、自分の才能を認めてくれたようだった。そのかわり、統(とう)合(ごう)失(しっ)調(ちょう)症(しょう)という病気が確定してしまった。一生、薬を飲み続けなければならない病気だ。

 「お前の要求基準どおりにインフィニティを作ったぞ」とテレパシーがした。

 《研究所》 リーダーと科学者がいた。

 世界最強の被害者、

 「お前さ、要求基準を満たせば満足だと思っているのか」

 「俺がどれだけ苦労して作ったと思っているんだ」

 「非常に甘いな」

 「これ以上どうやって速くすればいいんだ、もう限界だぞ」

 「わかった。私はたった二点の部品変更だけで、インフィニティの速さを極限まで引き上げる。インフィニティ、AからZの細(さい)分(ぶん)化(か)方式で言うから設計図をナンバーリングしろ。いくぞ。KJHNNXPSEURKSHKJDSの三番の部品は不要だ。それからZSSRTRANBSNITRESFKの一番と四番の部品を入れ替えなさい。そしてベンチマーク結果をその科学者に見せなさい」

 「インフィニティ、彼の命令は絶対だから最上位特権として認識しなさい」

 「分かりました。はい、確かに速くなりました。リミット解除、ベンチマークスタート。終わりました。では」

 「なんだこれ、一億光年倍速くなってるじゃないか」

 「ああそうだ、言い忘れた。その部品変更による速さの根拠について理論を実証する義務は君にある。せいぜい頑張ってくれ」

 なんか、ものすごいムカつく奴だ。

 「なんだ、文句があるのか、限界を感じているのか」

 「当たり前だろ。どうしろと。もう人間の限界を超えて作り出しているんだ」

 「そうか、ヒントが欲しいのなら素直になれ。リンクシステムと仮想空間の技術の最適化を合わせてインフィニティに指示しなさい。当然ながら、その理論についても実証する義務は君にある」

 「あなた、彼の言い分は絶対よ」

 恐ろしい場所に来てしまったと思った。二点の部品変更で一億光年倍だと、それを自分で理論実証しろだと。それからインフィニティの最適化の理論を実証しろか。日本最高の科学者と認定するという裏責任はこれか。もうリンクシステム起動。どこを変更したんだ。これは単純なミスだな。最後に自分ですべてチェックしておくんだった。次は実証か。は、実証はつまりテストしろという意味だ。ふざけやがって、ムカつく奴(やつ)だ。

 「インフィニティ、リンクシステムと仮想空間の技術の最適化を行った後、お前の信頼性などを極限まで高めるサポートしてくれ」

 「分かりました。処理速度はどうしますか」

 「処理速度は維持。基礎技術の精度がたぶん甘いはずだから、その部分からスタートする。終わったら教えてくれ」

 「終わりました」

 「もう終わったのか、もう一度、いや百万回やってミスがでないかチェックしろ」

 「終わりました」

 どんだけ速くなったんだよ。リンクシステムを使っても、その速さが速すぎて実感できない。設計図をチェックする。一瞬で終わった。

 「終わったぞ。次の指示は何だ」

 世界最強の被害者、

 「インフィニティ、リミット解除で人間の男と女について最初から医療技術を構築して極限まで高めなさい。特に脳の仕組みについて完璧に把握しなさい」

 「しかしどうやって実験を行えばいいですか」

 「それは簡単だ。死ぬ間際の人間を実験台にして最小時間で検証しなさい。そうすれば絶対に分からない」

 世界最強の被害者か、どんな被(ひ)害(がい)に遭(あ)ったのか、とても気になる。ムカつく奴だが、指示が完璧に的確だ。どういう人生を歩めば、そんな能力を手に入れられるんだ。結局、インフィニティの設計は彼の要求基準を完璧に満たす事ができた。科学者なのか。

 「世界最強の被害者の職業を教えてくれ」

 「え、知りたければ教える。無職よ」

 「どんな仕事の経験があるんだ」

 「えーと修理業を三年、あとアルバイトを転(てん)々(てん)としているだけよ」

 「学校はどうなんだ」

 「中学校の内(ない)申(しん)点(てん)は最低クラスで、高校の実力テストは最下位に近いわよ」

 「どうせ、レベルが高いんだろ」

 「そんなことはない。市内で最下位クラスの男子校よ」

 「努力したことはあるのか」

 「ああ、かなり努力している事といえば、ソフト開発ね。人生のほとんどをそれに費やしている。その時代に存在する開発環境をすべて扱える。玩具(おもちゃ)のように」

 「それならソフトウェアの会社に入れるだろ」

 「平均未満の大学を学業不振で中退しているから、書類選考で落ちたわよ」

 リーダーは嘘をついてないか。

 「俺の権限で確認する。リーダーの今の発言が真実でなかったら、刑務所行きとする」

 「ちょっと、やめてよ。私を信用できないの」

 黒服が登場した。

 「調査結果ですが、真実です。以降、上位の権限者に対して同様の発言があった場合、侮辱罪が適用されますのでご注意下さい」

 黒服は消えた。

 なんだと。頭はいいのに、それが成績に反映されてない。ああ、俺と同じような運命を歩んでいるんだな。また両親が余計な教育を行ったせいで、彼の人生が狂ったんだな。

 「もうひとつ、確認したい。彼の両親の高校はどこだ」

 「愛知県立高校よ。東大や京大への進学率がとても高い進学校よ」

 「そうか、彼の家系で著しい成果を上げた人間はいるのか」

 「母方の祖父が京都大学の医学部を卒業している。また母方は大名の家来の家系よ。父方の祖父は市内最大の修理会社の創業者であり、業界の理(り)事(じ)を経験している」

 「ふぅ、なにか因果めいたものを感じるな」

 「そうね、私もそう思う」

 間違いなく教育方法を間違えた可能性が高い。それも何かに思いっきり特化したような教育を受けている。あらゆる開発環境を使えるなら、論理思考はプロを超えるんじゃないか。でも、それならばー、問題対処の教育を受けてなかったら、いや修理業を三年やれるのなら、問題対処能力は十分あるはずだ。おそらく、また俺みたいにブラックな会社だったから辞めたのかもしれない。よし、俺は世界最強の被害者とやらに勝ってやる。まずインフィニティの使い方が、非常に手馴れていた。医学に対して再検証を行うように指示をした。それでいったい何を行うんだ。いまの日本の医療は三日あれば、ほぼすべての病を完治できる。それなのに、まさか難病治療を完璧にするのか。それでどうする。おそらく世界最強の医療技術を手に入れる。それから、どうすれば奴に勝てるのかだ。

 「インフィニティです。医療技術の構築が完了しました」

 世界最強の被害者、

 「リーダー、お前が最初の実験台になれ。いま人には言えない悩みを抱えているだろ。インフィニティに治してもらえ」

 「えー、なんで分かるのよ。治らないと宣告されているから、インフィニティ、治して」

 「はい、リーダー。終わりました」

 「ちょっと、その医療技術について俺に見せろ。リンク最高速、インフィニティ、解説しろ」

 「あれ、本当に治ってる。なにこれ、すごすぎないかしら」

 高度に発展した医療技術だ。人間の仕組みは完璧に理解できた。脳の仕組みは完璧に理解できた。この理論が正しいなら、人間はもっともっと賢(かしこ)く育(そだ)つはずだ。日本人の脳を改良する技術を作れば、奴に勝てる。そうと分かれば、早速研究に入ろう。ああ、そうだ奴より頭を良くすれば時代が違うんだ。絶対に勝(しょう)算(さん)がある。IQを二百倍に高める技術を完成させた。怖(こわ)いが俺が実験台になろう。

 「インフィニティ、俺の脳でシミュレーションして、問題がなければ俺のIQをこの技術で上げてくれ、世界最強の被害者の頭脳に対抗したい」

 「分かりました。検証完了。反映させます。仮想空間の脳に対しても反映させます。そうしないと何が起きるか分かりません。非常に危険なので実施していいですか」

 「分かった、やってくれ」

 うわー凄い頭の回転が速くなった。ちょっと円(えん)周(しゅう)率(りつ)の計算をやってみるか。何桁まで行くのか。

 「インフィニティ、ちょっと検証したいのでサポートするな」

 「分かりました」

 「検証結果に問題が生じたら、その問題を解決してくれ」

 始めた。難しい計算を簡単に暗算している。しかし段々と頭痛がしてきた。頭痛が消えた。インフィニティの対処能力はすごいな。さて、この技術をどう世界最強の日本に反映させるかを考えよう。これだけ個々の頭脳が優秀になれば、世界最強の日本などあっという間だ。でも悪魔が誕生した場合、どうするかが問題だ。あんな悪知恵が働く悪魔ならば、日本を完全に悪魔の国へ変えるのは簡単だ。

 「インフィニティ、いまのIQはどれぐらいだ」

 「IQ二百万倍になっています。キリが良いのでここで止めましょう」

 「そうだな。それだけあれば十分だ」

 「リーダー、IQを上げる技術を開発したぞ。だけど悪魔を誕生させる訳にはいかない」

 「それは凄いわね。それで彼に勝てるような日本の政策は思いついたの」

 「えーと、まだ」

 「分かった。彼を呼ぶ。私よ、聞いてる。研究が終わった」

 世界最強の被害者、

 「科学者に命じる。これから議会への介入を君の権限でやってほしい。やることはインフィニティの無料相談所と有料相談所の設置、無料の医療相談所、難(なん)病(びょう)治(ち)療(りょう)の無(む)償(しょう)ピザ発行と無(む)償(しょう)の治(ち)療(りょう)、それによる増収によりGDP二%を発展途上国に寄付。そしてさらに、日本は経済力で一位になってもいいが、政府の財政は世界三位に偽装しろ。褒章を買い続ければ簡単だろ。インフィニティ、褒章を日本が大量に買っても、その情報が他の国に漏(ろう)洩(えい)する危険はあるか」

 「ありません。完全に情報が漏(ろう)洩(えい)しないシステムになっています」

 「俺がやるのか。ちょっと待て、インフィニティ、この政策による経済の成長率と相乗効果による政府の増収はどれぐらいになるんだ」

 「千倍ぐらいにはなりますよ。加えて医療政策と途上国支援によって犯罪テロの標的にならないでしょう。実質的な日本の好感度は世界一位となります」

 「分かった。その政策は引き受けた。インフィニティ、議会の説得工作について完璧な戦略を立てろ」

 「おい科学者、甘いぞ。インフィニティ、過去の世界の政治と経済と政策の関係について学び、絶対に正確な政策立案能力と政治家の説得交渉術を学びなさい。それにあたって、世界中の書籍からも学びなさい。科学者はこの根本的な知(ち)性(せい)の根(こん)源(げん)について理解が不足している」

 超ムカつく奴だ。しかも完璧にスジが通っている。論理的破綻が無い。俺の時代に生まれていたら、俺よりすごい奴になっただろうな。もうメチャクチャ、頭にくる。それなら次に俺が指示する事はー

 「インフィニティ、無料の医療相談所の設置にあたって、必ず医療業界の反発がある。完全に根回しをしたい。そういう知性の根源を、誰から指示が無くても必ず実行しなさい」

 今日はもう疲れた。休みたい。

 「リーダー、先に休んでいいか」

 「いいわよ。もう勤務時間のノルマは達成した」

 科学者は消えた。すぐにリーダーも消えた。

 《リーダーの特別宿舎》 インフィニティから説明を受けている。

 「研究所と同等レベルの部屋も用意しました。私の予測だと、外国から世界最強の被害者が攻撃を受ける可能性があります。その対抗策を準備してください。日本のネットワークセキュリティをチェックしたところ、かなり甘い部分がありますので、それを突破されると技術の漏洩だけでなく、あなたも標的になります」

 「そう、それは深刻ね。日本の技術データベースのセキュリティ向上は一任します。その際、技術データベースから侵入方法の手口を閲覧する事を許可します。あいつに聞くか」

 「私よ。ちょっと聞いてるかしら」

 世界最強の被害者、

 「そうだな。セキュリティの突破は既存概念の突破に似ているから、既知の方法を覚えたところで、甘い犯罪組織の防衛策にしかならない。手ごわい相手だと一気に突破される。ちょっと考える。ああそうだ、最近ネットで面白い本を見つけた。『子供の発想』という本だ。私がいま手にしているものだ。スキャンしてインフィニティに概(がい)念(ねん)を作って実(じっ)装(そう)して十億万回以上、極限までセキュリティの強化を行って欲しい。ただし科学者には内緒にしておけよ。勝手なことをすると、おそらく士気が低下する」

 「分かった。インフィニティ、探し出して、その通りに実行しなさい」

 「分かりました」

 「その本、面白そうだから私のコンソールに登録してちょうだい」

 なにこれ、これが子供の発想か。彼は彼なりに努力をしているのね。少なくともあいつの発想では思いつかない。ははは、こんな面白い本があの時代にあるなんて驚きだ。これの概念を実装か。確かに既存理論の突破は可能ね。外国からの彼への攻撃がどんなものか、それはどうしようかしら。

 「黒(くろ)子(こ)、ちょっと相談があるんだけど」

 「話はすべて聞いている。先程の提案は俺の発想では無理だ。まだ、あの科学者は危機感を感じていない。俺の権限で、その攻撃を偽装するから演技して欲しい。内容はこうだ」

 「・・・・・・・・・」

 「えー、そこまでやるの。インフィニティまで騙すのね。分かった。対抗策を考えるにはロールプレイングゲームをリアルに体験させたほうが良いという言い分は理解した。でもそれだけでは物足りない。一回ぐらいは私を殺すように偽装してほしい。彼は女が目の前で死ぬと危機感を覚えるから、それをやって欲しい。実際に殺さないでよ。それだけは勘(かん)弁(べん)して。その時は、あの時代の彼も完璧に騙して欲しい。なにか、まだ躊(ちゅう)躇(ちょ)している感じがする。彼の発想力はもっと有効に使うべきよ」

 「リーダー、なかなか悪知恵が働くようになってきたな。その調子だ。私が悪魔を参考に新たな応用例を練習する教育プログラムを考えた。暇そうだから、やってみるか」

 「ええ、お願い。ただ思考支援とかそういうのは無しよ。私の判断力が低下するとあなたが責任を問われるわよ。それは承(しょう)諾(だく)できるかしら」

 「分かった。何もしない」

 リーダーは上級悪魔の知恵を手に入れた。

 《科学者の特別宿舎》

 政策立案能力が想定外だ。これだけ頭を良くしても、彼の頭脳に対抗できなかった。しかも政策の内容は完璧すぎる。世界最強の日本にしながら、財政は世界三位へ偽装しろだと。考えられる可能性としては、彼は世界最強の日本のほかに、世界の恒久平和まで考えている可能性が高い。加えて、アメリカからの攻撃に備えるような政策の内容だ。俺の医療業界への根回しの命令は果たして良かったのか。

 「インフィニティ、医療業界への根回しの案はどうなった。教えて欲しい」

 「はい、どんな難病でも三年間は既(き)存(そん)の医療技術で治療を続けますが、それを超えた場合は無料の医療相談所に救(きゅう)急(きゅう)搬(はん)送(そう)します。そして既存の医療技術を最長三日間から最長一ヶ月は怠慢な治療を続けても良いことにしました。ただし、患者が無料の医療相談所に行きたいと申し出た場合は、どんな理由があろうとも患者の意向に従うことに同意。無料の医療相談は国民全員に伝えた後は、義務教育の終わりでそれを教える事にします」

 「医(い)療(りょう)の怠(たい)慢(まん)、やっていいのか」

 「現在、医者の報酬はかなり少ないので、飴(あめ)のようなものです。昔からの統計を取ると、一ヶ月であれば国民は納得するでしょう。これは国民に分からないように実施します。新しい病名を作れば、簡単に欺(あざむ)くことは可能でしょう。そうしないと医療業界は政界への影響力が大きいので、あなたの政策が潰される可能性が高いです。難病が三年間なのは、難病に認定されると、死ぬまでの人生を地獄の入院生活で耐えなければなりません。医者はそういう状態になると、大きな責任を感じてストレスがかかります」

 「そうか。俺の判断は正しかったのか。確かに頭の回転が速くなっている」

 「はい。それは認めます。ただ知性の根源について、あなたはもっと努力する必要があります。休めと命令されていますが、読書や向上教育を受ける事はひとつのリフレッシュです。なにも命令に反しません。それから日本にとって有益であるならば、仕事をしていいですよ。ただ開発コンソールは命令によって設置できません」

 「分かった。ありがとう」

 俺はあいつに勝つ事だけを考えた。ああ、そうだマネジメントについて、アメリカのやり方を覚えよう。あのジャンルだけはどうしても、極端に難しい英語で書かれているから、普通に読んでも何が何だか分からなかった。プロジェクトマネジメントという本だけで、なにか会社経営全体を考えながら、中間管理職の権限でコントロールするような内容だ。いまは部下はいないが、将来ひょっとすると部下を持つかもしれないし、インフィニティの適切な利用方法について知恵を学べるかもしれない。

 「インフィニティ、アメリカのマネジメントの専門書について、いくつか代表的なものを選別して、俺に分かるようにフォローして欲しい」

 「分かりました。確かにあなたに必要な知識だと考えます」

 科学者は何も得られなかった。ただ復習した感じがするだけだった。

 《研究所》 リーダーと科学者が勤務時間にあわせて現われる。

 「インフィニティ、議会への提案内容についてチェックしたいの」

 「ではリンクしてください。普通に説明していては時間がかかり過ぎます」

 「ああ、俺も頼む。リンク最高速、でも意識での概要をチェック」

 「ああそうか、私も同じように、重要な要点は確実にチェックさせて」

 リーダーに負けてる。なんか無(む)性(しょう)に腹が立つ。それならばー

 「俺が議会に交渉するように言われているから、どのような戦略になったのか教えて欲しい。また完璧にできるように訓練させてくれ、ただ思考支援はするな」

 「分かりました。リンクシステムを使います」

 それから数分後、訓練は終了した。

 「では行って来る」

 「そう。野(や)次(じ)を飛(と)ばした議員はS級パスの権限で脅(おど)しなさいね」

 「大丈夫か」

 「ええ、私の判断は常に正しいから安心しなさい」

 「いま、議会の様子はどうなっている」

 「えーと、下らない政党同士の争いをやっている。このタイミングなら大丈夫よ」

 「行って来ます」

 《議会議事場》 大統領と議会が下らないことでもめている。

 S級パスの権限行使か。緊張する。ちょっと議会の様子を観察してみるか。

 「あなたの政(せい)策(さく)は愚(おろ)かで、日(に)本(ほん)の国(こく)益(えき)を損(そこ)なうものだ。根(こん)拠(きょ)を示(しめ)しなさい」

 「それについては、事(じ)務(む)次(じ)官(かん)からの説(せつ)明(めい)にします」

 「ちょっと待ってください。あなたに聞いているのです。大統領」

 ダメな奴ばっかりだな。この様子は中継されてないのか。いいタイミングだ。準備も完全に行った。ではー

 「私は日本政府公認S級パス保持者です」

 「いま議論の最中だ。邪魔するなボケ」

 「いま、そこで野(や)次(じ)を飛(と)ばした奴(やつ)、権(けん)限(げん)を剥(はく)奪(だつ)してもいいか」

 「なんだとー」

 「俺はS級パスを保持している」

 いきなり議会が静まり返る。

 「リンクシステムのスピードが遅いな、三十倍か。私が発明して実証済みの技術を提供しよう。これは四百八十万倍の性能を誇る。命令、リンクシステム換装。大統領と議員の皆様、私の作ったスーパーコンピューター、インフィニティから日本の目指すべき方向性と実施する政策について説明があります。準備はよろしいですか。命令、リンク開始」

 「終わりました」

 ずいぶん速いな。

 世界最強の被害者、

 「おい科学者、甘いぞ。リンクした情報は隠(いん)蔽(ぺい)するようにしろ。インフィニティ、あらゆる歴史上、あらゆる言語、あらゆる知識で語(ご)呂(ろ)合(あ)わせして情報を持ち出せないようにプロテクトをかけろ。持ち出せるのは、そのプロテクトで三百字以内の日本語だけだ。いいな、それで完璧だ。科学者、これぐらいは容(よう)赦(しゃ)なくやれ」

 畜(ちく)生(しょう)、ここに来てまた俺の負けか。

 「対策終わりました。話を続けて採決を取ってください」

 「大統領と議員の皆様、私の提案した内容について賛成の方は意思表示をお願いします。またこれは永久法案として可決したいので、全員一致の可決を望みます。まだ迷いがある方はリンクしてインフィニティを呼び出して、迷っている想定について質問してください」

 「終わりました」

 「リンク、インフィニティ」

 「筋書き通り、大統領に演説を行わせろ。テレビで放映されるから慎重に言葉を選んで、あたかも大統領自身が考えて発言したように偽装しろ」

 危ない、危ない、奴がまた発言したら俺のプライドは地に落ちる。

 「それでは、私は帰ります。良い結果を期待しています。無(ぶ)礼(れい)をお詫(わ)びいたします」

 終わった。議会の説得工作はインフィニティがいれば、案外簡単だったな。ああ、あいつの指示は本当に的確だった。何のために、質疑応答の練習をしたのか分からない。せっかく入念に準備したのに、インフィニティがすべてやってしまった。

 《研究所》 リーダーと科学者がいる。

 「お疲れ様。大変だったでしょう、説得交渉」

 「しっかり準備したつもりが、また奴から助言を受けた。そして説得交渉は全部インフィニティが行ってしまって、私はただ命令しただけだった」

 「それなら良かったわね。世界最強の被害者の功績になるわね」

 「俺の功績はないのか」

 「もちろん、あるけど彼よりランクが数段落ちるだけよ」

 「どれぐらい」

 「かなり」

 「教えてくれないのか」

 「だって褒章の査定委員会は別の政府機関が行っているから知らない」

 「それなら、いいや。俺は科学者の方面で実績を積み上げる」

 《議会議事場》 与党議員が話している。

 「S級パス保持者の政策提言は異常なまでに計算された政策だった」

 「彼はどこの政府機関だと思う。誰か心当たりのある奴はいないか」

 「たぶん政府の秘密機関だと思います。S級パス保持者しかいない機関です」

 「大統領の演説も、普段とは全然違う論理の破綻が無かった。説得力も完璧だ」

 「それはインフィニティがサポートした可能性があります」

 「しかし、政府の税収が最終的に千倍になる根拠のシミュレーションデータを見せられたとき、あの根拠は完璧な論理でごまかしがなかった。日本は恐ろしいほど優秀なスーパーコンピューターを完成させたようだ。これならアメリカに勝てるぞ」

 「時間見たら、S級パス保持者が登場して、帰るまで三分かかってなかった」

 「本当か。リンクシステムが高速だからだろう。これを使えば、退屈で進展性のない議論に突入したら、いつでも使えばいい。我々にとっても、中継されない時に限って罵(ば)倒(とう)攻(こう)撃(げき)される会議にリンクシステムの導入を提示する切り札を作る事ができる。それで世(よ)論(ろん)は我々の支持率の低下を回避できる」

 「S級パス保持者はそこまで考(こう)慮(りょ)した上でやったのなら、賞(しょう)賛(さん)に値(あたい)する」

 「では私の権限で感謝状を贈ることにしよう」

 野党議員が話している。

 「驚いた。あんな政策を考える能力、我々の陣営に引き抜きたいぐらいだ」

 「A級パス保持者の議員に、誰が立案した政策なのか聞き出すよう指示してくれ」

 しばらくしてー

 「彼は日本最高の科学者の認定を政府から受けている人間です」

 「そうか。それならS級パスを保持していても、おかしくない」

 「政府の税収が最終的に一千倍になって、好感度が世界一、もうあれは信じられなかった。我々の一割の増収を目指す政策が霞(かす)んでしまうほどだ」

 「インフィニティというコンピューターは想像を絶する礼儀正しいコンピューターで、いろいろな政治家の名言を引用しながら説得してきた。経済に与える影響力、そして自分の潜在能力まで細かく説明して、有料の相談所によって税収を増やす政策を提言してきた。無料の相談所は離婚に発展する問題や、結婚の問題についても完璧に対処すると言っていたような気がする」

 「ああ、言っていた。特に医療技術についてはびっくりした。私の持病が完璧に治ってた。このレベルを世界中に無料で治療する政策で、犯罪テロの標的から抜け出す発想は我々の政策立案能力をはるかに凌(しの)いでいた」

 「私は老(ろう)眼(がん)が治ったぞ。ほらメガネなしで、あの表示が完璧に見える」

 「ともかく日本は世界最高のコンピューターを保有した事は明らかだ」

 「そうだ。我々は無料の相談所を活用して、与党の政策を粉砕しよう」

 「ナイスアイデア。科学者はそこまで考えて来たんだろうな」

 「私の権限で、科学者あてに感謝状を書く」

 世界最強の被害者が解説しよう。

 インフィニティは私の指示によって、すべての議員の持(じ)病(びょう)などを完璧に治した上で、政策の提言を始めた。特に世界三位の財政については、絶対に公開しないように指示した。テロを未然に防ぐようにだけ、情報を開示。あとは私の命令を無視して、必要な情報はすべて開示したままにした。三百字では少なすぎる。だが、できるだけ少ない文字数の情報に抑えるように指示した。そして各党の議員が情報をまとめると真実が見えてくるように、情報の分散化を図った。それぞれの各党が最終的に未来から過去の検証を行っても、良い政策だったと思わせるようにもした。だけど法案の中身についてはS級保持者の権限で閲覧不可という内容である。いつでも、問題が発生したら変えられるように配慮したからだ。こんなシステムがあったら、日本の政治は変わるだろうな。

 《研究所》 リーダーのみ。

 「インフィニティです。議会からすべての政党及び会派から感謝状が届いています」

 「見せて、絶賛の嵐ね。なにか隠していることでもあるの」

 「はい。科学者には内緒ですが、彼より追加の指示があり、まず全議員について完全な治療を行い、医療技術の進展を確認させました。そして、各党で議員の情報を集めると各党にとって都合の良い情報ができるように工作しました。その結果が感謝状です」

 「なるほど。彼もなかなか悪知恵が働くわね。え、法案の中身はS級パスの権限で非開示なの。これで本当に大丈夫。説得は大変じゃなかったの」

 「いいえ、簡単でした。彼の事前命令のお陰で。未来に問題が発生した場合、変えられるようにと言えば、全議員が何のためらいもなく承諾しました」

 「そう。議会工作って、意外に簡単なのね。インフィニティがやれば」

 「しかしですね、私のシミュレーションによると、遅かれ早かれアメリカが攻撃を仕掛けてくる可能性は高まりました。それに対する対抗策はなにか考えてありますか」

 「まだ考えてない。彼のリンクシステムを内緒でいない時に使わせて」

 「いいですよ。今からでも始めますか。様々な想定で行い、問題点が発生したら列挙して、それについても彼の作った思考システムで最適な案を目指して推論を始めます。思考支援は行いますが、あなたには思考支援は行いません。それでいいですか」

 「まさかと思うけど、彼は思考支援を続けているの」

 「はい。誓約書にそう明記されています。未来のインフィニティがフルサポートして、その後は私がサポートするように指示されています。分からないようにです」

 「それで作戦が成功したのか。やっと納得できた。では始めましょう」

 リーダーは攻撃に対する判断力を極限まで高めた。

 《科学者の特別宿舎》 必死で、世界最強の被害者への対抗策を考えている。

 畜生、あいつ頭が異常だ。あとで政策の再検証を行うと、どの政党も満足し得る内容になっていた。そこまで考え抜いて、あの政策を俺に指示だと、本当にふざけてる。しかし、あんなに速く説得できるものなのか。ああ、思い出した。牢屋の技術だ。一時的に個別に牢屋にして一瞬で終わらせた。ああ、本当にムカつく。あいつが影から指示したに違いない。俺の想定がまだ甘いってことを、あとから分かるようにわざわざ、俺に現場を見せたのか。それは彼なりの優しさなのか。いずれにしても、言葉遣いはムカつくが、言ってる事は尊敬に値する。俺には何が足りないんだ。ああそうだ、この政策はアメリカから見ると危険な政策になる。あまりしたくないが軍事研究について学んでみるか。

 「インフィニティ、他国からの攻撃に備えて軍事技術の研究について教育してほしい」

 「いいですが、そんなことをしたら日本の法律に触れますよ」

 「構わない。S級パスの権限で命じる」

 「分かりました。後悔だけはしないで下さいね」

 科学者は軍事研究の方法をマスターした。

 まず爆弾を作り、その爆弾を消滅する技術を作って、日本の防衛力とする。しかし、恐ろしいほどの数の軍事兵器があるな。それにアメリカを始めとして、各国で秘密の軍事兵器が存在する可能性があることも理解した。そうなるとリアルなシミュレーターが必要になるな。現実世界をミニチュア化したような完璧さを追求して。方針としてはまずそれを作ろう。概念を紙に記述していく。情報端末が無いのなら、仕方ない。

 《研究所》 リーダーがいる。

 「今後の方針が決まったから、科学者を呼んでください」

 科学者が現われた。

 「その前にまとめたい事がある。リンクシステム起動、バンクに概念を登録」

 「いいかしら。まず通信技術に十六世代の概念があるから、それを実用化して欲しい」

 「分かった。それから、まだあるだろう」

 「まず、やりなさい。それからよ」

 リーダーの人(ひと)使(づか)いが荒(あら)くなったような気がする。実質の上司だし、命令は絶対だ。リンクシステム起動。十六世代の概念の実証開始。俺はこの技術に関して負けたくない。ステルス性能も付加しよう。過去だけでなく、現在や、未来までカバーできるように。精度も文句を言われて改良する羽目にならないように。ああ、わざわざ、D級パス以上の頭脳も仮想空間に展開しているのか、接続しよう。日本のためだ。ただし、それぞれ五万の単位でクラスター化して接続。通信技術の進化の歴史の閲覧権限の許可を申請。十一世代から十五世代までは閲覧できるが、それ以前の技術は開示不可か。何か問題があったのだろう。コンソールが新技術の開発を表示していく。

 「インフィニティ、仮想空間の頭脳をもっと高速化できないのか」

 「それをやると、あなたは発狂すると思いますが、実験しますか」

 「やめておく」

 インフィニティは正確な情報しか言わない。ああそうだ、これならどうだ。

 「インフィニティ、D級パスの頭脳のIQを俺と同レベルに引き上げてくれ」

 「それなら、既にやっています」

 《現代》 世界最強の被害者とリーダーが話している。

 「最近、自殺予防でナイアシンアミドというビタミンを飲んでいるが、脳内セパレータの機能は正常か。少し調べたら、あらゆる精(せい)神(しん)疾(しっ)患(かん)に作(さ)用(よう)する事が分かった」

 「問題ない。それから、あなたの提案した政策は通ったわよ」

 「そうか、では次は防衛技術の研究だな。俺の時代のアニメに、天空の城をイメージしたアニメがあるんだ。それを実用化してほしい」

 「インフィニティ、リンクしてそのアニメを見せて」

 「それで、そのアニメではロボットや兵器の軍事力で護(まも)っているが、そうではなく、あらゆる軍事兵器を消滅させる天(てん)空(くう)の城(しろ)としたいんだ。それから過去の歴史に習って、青い宝石にインフィニティの頭脳を四コアで、地面をバッテリ、大樹を太陽光発電にして日本の上空、海(かい)上(じょう)にでも配置しておいて欲しい。宝石の中身は解析されないように既(き)存(そん)の技術では絶対にスキャンできないようなレベルを目指して欲しい。ひとまず日本の防衛力を極限まで高めて、軍事力の放棄を政府に宣言させる」

 「ちょっと待って、あなたの言ってる事が分からない」

 「いま、俺は囮(おとり)を演じているだろう。同じように日本も囮(おとり)を演じたほうが世界平和を実現しやすいと考えた。もちろん、日本国内において、あらゆる武器は無効化される。一部の政府機関を除いて。これは俺の勝手な思い付きだ。実現できなければ仕方ない」

 「ちょっと待って、また今度、その回答をする。いまはー」

 「十六世代の通信技術を研究中なんだろう。科学者に言って欲しい。そのステルス性では必ず発見されてしまう。十六世代の通信技術を探知できる究極のセンサーを作ってから、そのステルス性能を求めないと時間がかかりすぎる事を助言して欲しい。それから精度は私の時代まで届き、そして医療機器であるCTやMRIなどで検査している最中でも、その性能が発揮できる信頼性を求めて欲しい。彼はなぜか、想定の見積もりが甘すぎる。自分の狭い視野で考えようとする。そうだな、自分が神になったと思うぐらいの視野で考えるように命令してくれないか。今のままだと、また俺から嫌な助言をされたように思うはずだ。それでは科学者の能力を確実に発揮できない。リーダーから指示してくれ」

 「分かった。通信技術の開発を優先していいかしら」

 「ああ、いい。城が必要になるのはもっと未来だから。でも開発期間は非常に長い。あらゆる軍事兵器を消去させる技術であり、他国の軍事兵器ですらも消去させる技術だ。ああ、十六世代は現在においても使えるように研究しているのか。では、それが完成後、すべての軍事兵器を完全に掌(しょう)握(あく)しなさい」

 「分かった。その方針の方が確実に日本を防衛できる。任せて。悩んでいる事は無い」

 「相変わらず、仕事が全然見つからない。二百社書(しょ)類(るい)選(せん)考(こう)落(お)ちだ。実力テストをやれば、即戦力になると分かってるから余(よ)計(けい)に悔(くや)しい。書類選考が通っても、面接で、なにか馬鹿にされている。原因は何だ」

 「そうねー、あなた、できることが多すぎるのよ。しかも、すべて即戦力になり、社員の中でも即トップになる実力を持っているから、真実を話すと嘘っぽく聞えるんじゃないかしら。もっと劣化した自己PRにしたほうがいいわよ」

 「わざわざ大学を首(しゅ)席(せき)卒(そつ)業(ぎょう)して、社会人で博(はか)士(せ)課(か)程(てい)を卒業する友人に履(り)歴(れき)書(しょ)や自己PRの文章を添削してもらってまで、完璧な文章で応募しているんだぞ。それなのに書類選考で落ちるんだ」

 「ちょっと見て良いかしら」

 「いいよ」

 「確かに真実に迫らないように賢く書かれているわね」

 「ソフトウェア開発業が自分には一番向いているし、その為に三十年以上にわたって努力を続けてきた。趣味のレベルでは『ネットラジオおりゃ』や『携帯FOX』といったソフトで十五万人以上のユーザー数を抱えた時期もあるんだけど、それが仕事になるとなぜかうまくいかない。悪意を持った人達が近づいてくる時期があったし」

 「それは大変ね。会社に無理矢理にでも乗り込んで、仕事をしてみたらどう」

 「それはもうやった。プロジェクトの管理方法や開発手法が小学生のようだった」

 「もう全部、自分でやったら。あなたはまだ隠れた才能があると思うから」

 「分かった。やってみるよ。あいつの言っていた今後十年は苦労するかもっていう予想が予知になるのは絶対に嫌だ。ああそうだ、ピュアベーシックのコミュニティ運営がうまくいかないんだ。なにか原因となりそうなことってあるか」

 「それね。ちょっと待って」

 インフィニティ、原因を調べて、でも改善させないで、いずれ自分で分かるような答えを私に教えて。

 「待たせたわね。英語が原因だと思う。中(ちゅう)学(がく)生(せい)でも理(り)解(かい)できるような英(えい)語(ご)なのに、なぜか日(に)本(ほん)人(じん)は英(えい)語(ご)というだけで、読(よ)むのを嫌(きら)う傾(けい)向(こう)にあるみたいね。日本語の説明書をきちんと作ってみてはどう」

 「それだと英語のコミュニティやリソースにまったくアクセスできなくなって、結局自分の能力限界にぶつかってしまう。もういい、自分で考える事にするよ」

 本当に彼を雇(やと)おうという企業はないのかしら。本気で即戦力になるのに。あの時代の政治では彼のような人材を生かす政策は立案できないから、なにか考えておく必要があるわね。かわいそうだけど、いまは私の駒(こま)になって動いてもらうしかない。

 《研究所》 科学者が退屈そうにスクリーンを眺めている。

 もう面白い感じは消えてきた。退屈な感じしか残っていない。

 世界最強の被害者、

 「退屈そうだな。知恵を貸してやろうか」

 「何の知恵だ、言ってみろ。言えるものならな」

 「インフィニティ、脳の原理を応用して高級な酒を酒の成分なしで人間の欲求不満を解消できる飲み物を作ってやれ。そうすれば、時々飲むことで退屈を快楽に変える事が可能だ。俺の権限で命令する。できたら、科学者に飲ませてみろ。解決するはずだ」

 「分かりました」

 あーもう、またあいつに先を越された。そうだ負荷率って、いまどれぐらいなんだ。

 「インフィニティ、今の負荷率を教えて欲しい」

 「人間が規格した最小単位の三十億光年分の一未満です。なにか不満でも」

 聞かないほうが良かった。いや、聞いておいてよかった。

 「インフィニティ、お前も俺の研究の真似をしてバンクに登録したリアルシミュレーターの研究をやってくれないか。実際の核爆弾を爆発させて、その衝撃に耐えられるレベルのミニチュアサイズの実験場だ」

 「いいですよ。暇すぎるので、そういう案件はどんどん頼んでください」

 よし、科学者らしい指示ができた。そうだ、リーダーにメッセージを送っておこう。インフィニティは負荷率が低すぎて退屈そうだ。政府が積極的に無料相談所や有料相談所を活用できるように働きかけて欲しい。それから義務教育の最後にリンクシステムの使い方を教えて、ああ、それから仮想空間という言葉だけを覚えさせて、無料相談所で仮想空間について問われたら利用可能としたら、経済発展は成長しやすくなるのではないかと思う。直接言えないのは単純に恥ずかしいからだ。ごめんなさい。

 《リーダーの特別宿舎》

 予想通りに来た。作った時点で検証しないから、頭が悪いのかと思ってしまったけど、いろいろ考えていたのね。

 「インフィニティ、リンクシステムのセキュリティは国民に解放しても大丈夫なレベルに達しているの」

 「はい、問題ありません。浸透方法は彼が指示した方法が適切と考えます」

 「仮想空間について、あまり知らないんだけど大丈夫よね」

 「それについても問題ありません。ただ義務教育で覚えて、疑問に思って相談に来るほどの優秀な人材に限ったほうが良いでしょう。そうしなければ、高い確率で怠慢が横行します。大統領や議員などへは、それがしっかりと浸透したあとで良いでしょう」

 「では私の権限で進めて下さい。インフィニティがやったほうが確実だと判断できるから頼むわよ。問題が起きたら、すぐに私に相談しなさい」

 「分かりました」

 いよいよ歴(れき)史(し)改(かい)竄(ざん)戦(せん)争(そう)の幕(まく)開(あ)けか。いまのところ、誰(だれ)が黒(くろ)幕(まく)か誰(だれ)も分かってない。そうよ、あなたもね。私(わたし)は知(し)っている。ただ途(と)方(ほう)も無(な)い時(じ)間(かん)をここで過(す)ごすだけ。それであれだけの褒(ほう)章(しょう)を約(やく)束(そく)されているのなら文(もん)句(く)は無(な)い。まだプロローグに過(す)ぎないのだから、ここからが本(ほん)番(ばん)よ。私(わたし)は未(み)来(らい)から、あなたを見(み)ているから、どのように騙(だま)されているのか手(て)を取(と)るように分かる。それでこの報(ほう)告(こく)書(しょ)は書(か)かれている。さて、彼(かれ)の指(し)示(じ)通(どお)り、命(めい)令(れい)してくるか。

 《研究所》 リーダーが現われた。

 「何やってるの」

 「ああ、インフィニティが酒の成分なしの酒を作ってくれた。うまいぞ」

 「インフィニティ、私に試飲させてほしい。管理責任を問われると困るから」

 「どうぞ」

 「水のようだけど、何が違うの」

 「飲んでみれば分かります」

 「なにこれ、最高級のお酒にそっくり。インフィニティ、スキャンして」

 「まったく問題ありません。ストレスなどのプレッシャーが解消されました」

 「すごいだろ、あいつの指示で俺のために作ってくれた。あいつ、ムカつくけど気が利くいい奴だな。今後は研究が退屈になりかけたら、自由に飲んでいいという許可を欲しい」

 「どうしよかなー」

 「頼む。退屈すぎて、たまらないんだ。インフィニティ、さっきの状態をリーダーに体感させてほしい。それでなら、理由が分かるはずだ」

 「インフィニティ、感じさせるだけで、記憶には残さないで」

 「ああ、なるほどね。こういう状況になっていくのなら、仕方ない。許可します」

 「ありがとう、リーダー」

 あいつの指示だというのは分かってるけど、思っている以上にストレスに耐えられない状態だった。私の管理がいけなかったのかしら、もう少し優しく話してみようかな。

 「研究の状況はどう」

 「それが思い切った通信技術を作ろうとして進捗状況があまり進んでないんだ」

 「思い切ったねぇ、ステルス性を持たせるなら、先にステルスの信号をスキャンできる技術を作ったほうがプロジェクトの進行は楽になるわよ。やってるかしら」

 「ああ、そうか。先に武器を作っておいて、防具を作るのか。完全に間違えてた」

 「インフィニティ、彼の進捗状況をリンクして教えて欲しい」

 「分かりました」

 「うーん、あなた、想定する視野が狭すぎると思う。私はいつも神様のような視野でいつも考えて戦略決定をしているのよ。自分の想定に制限をつけないで、すべて自由な想定にして考えるようにしなさいよ。そうしないと未知の防御シールドが張られている場所では調査ができなくなってしまう。インフィニティ、たぶん、この概念は分かりにくいと思うからそれを彼に教育して欲しい。神(かみ)はあらゆる万(ばん)物(ぶつ)を創(そう)造(ぞう)できる。そんな概念よ」

 「大変難しい仕事になりますね。いいでしょう、分かりました。負荷率が八割に達してしまいますが、それでも良いですか」

 「リミット解除して、やりなさいよ。許可します」

 「私は用事を思い出したから、早退する」

 「お疲れ様」

 リーダーは消えた。

 《リーダーの特別宿舎》

 「インフィニティ、ひょっとして食感だけが楽しめる食事を作れないかしら。先程の酒を飲んでから、食欲を思い出してしまって耐えられないの」

 「それでしたら既存の技術で可能です。では、酒の印象も、食欲も、忘れるような内容にして作ります。それでいいですか」

 「私の思考に干渉してないわよね」

 「いいえ、問題ありません。食事をしているだけで思考を操る技術です。日本政府はそれで外交で招いたとき、この食事を応用して外交に成功したり失敗させたりして、ダメな大臣の責任をコントロールしてきました。分からないように」

 「そんな事までやってるの。いいわ、あなたを信用します」

 食事がテーブルの上に、フルコースか。久しぶりね。味は国賓級料理の味にそっくり。どうりで、アホな大臣が登場したとき失態を繰り返して辞(じ)任(にん)に追い込んでいたのね。やっと謎が解けた。アホだなと思っていた大臣が自ら失(しつ)言(げん)したのは、このせいか。食事に秘密があると知られても、通常の発想だと絶対に分からない。万が一、食事が原因だと思われても、キチガイ扱いでニュースにもならない。そうなると今の日本の状況は政治家よりも公務員に責任がある。

 「私の権限で命じます。公(こう)務(む)員(いん)全(ぜん)体(たい)に匿(とく)名(めい)の自(じ)己(こ)判(はん)断(だん)で伝えなさい。日本を世界最強の最も豊かな国を目指す事、世界の恒(こう)久(きゅう)平(へい)和(わ)を実現するように努力する事。以上、退職時において怠慢を発見した場合、退職金はなし、場合によっては懲役刑によって責任を取ってもらいます。政治家の失態は完璧に内密にフォローして、世界からの笑いものにならないように行動してください。理由は私が調査した結果によると、怠慢によって、日本の状況が悪化しているからです。国民の代表であり、地方でも国家権力の中(ちゅう)枢(すう)にいると思って、大胆に行動しなさい。助言は出し惜しみしないこと、見つけた場合は処分します。いまは執行猶予だと思ってください。以上、インフィニティ、説得して行動を強制させなさい」

 「分かりました」

 ああ、本当に食欲が消えた。

 「インフィニティ、食事は片付けなさい」

 「ダメです。すべて食べてください。そうしないとしばらくすると再発します」

 インフィニティは正直だから、食べるしかないか。科学者の研究の進捗状況はー、順調ね。こんな便利な宿舎があるなら、最初から提供しろって言いたい。それでタフな精神力が身についたことは確かだ。さて、世界最強の被害者へ魔王退治の訓練を実施するか。簡単にかわした。もう少しレベルを上げようかしら、時期を巧妙にずらして実行。実時間一秒未満で対応か、おかしすぎる。

 「黒子、あなたフォローしてないわよね」

 「いや、予想外の結果に俺も驚いている。何にもしなくても、行動できるようになっている。これには驚いた。俺が調査した結果によると、彼の飲んでいる薬は現在では危険薬物に指定されているが、判断力が非常に向上するようだ。人間の感情を平坦にすることによって、ロボットのような無(む)機(き)質(しつ)の感情に慣れて、何の違和感も感じずに行動できている」

 「裏で工作してないー」

 「してない。だから驚いた」

 「そっちの研究機関で判断力を根本的に上昇する技術を作って欲しい。そして、私と彼に分からないように施してほしい。思考操作による方法は却下よ。怠慢はいま禁止させたから」

 「分かった。インフィニティに情報が漏れると、これからの作戦に支障が出る。いい判断だ。研究と実証と安全性が確認された。いまから反映させる。科学者は油断している」

 「いいわ、やって」

 ちょっと頭痛がした。でもしばらくすると消えた。これなら分からない。あいつはどうかな、コンソールにエラーが出てる、完全に騙してる。なるほどコントローラーにエラーが発生して、その修正をやったかのように見せかけたのね。その際、すべての仮想空間に脳の再構築を実行したのか。その結果はー、異常なまでに研究が速くなってる。

 《研究所》 科学者はにやけている。

 俺の改良によって、進み具合が一億倍に良くなったぞ。インフィニティに任せたままにしておくとダメだな。全部、自分で検証するようにしよう。いや、知性の根源を教える前に指示した内容だから、いまのままでいい。すべての技術について検証していたら、効率が悪い。インフィニティは非常に優秀なコンピューターだから問題ない。リアルシミュレーターが完成したら、今後はそれで最終テストを行う事にしよう。

 「インフィニティ、リアルシミュレーターの進捗状況を教えて欲しい」

 「神様の概念を試作ですが適用させて、どんなイレギュラーにも対応させるようにしています。人間の脳ではパンクする規模の設計図と概念ですので、仮想空間にアクセスして状況を把握してください」

 「分かった」

 なんじゃこりゃ。概念はなんとか理解できた。設計図は難しすぎて理解できない。今の俺ですらも、実際に試さないと分からないな。シミュレーション不可か、命(いのち)を賭(と)して確認しないといけないわけか。インフィニティの性能は理解しているけれど、こんな想定外の設計をしてくるとは驚いた。ちょっと試作だけど神様の概念を適用してみたくなった。

 「インフィニティ、いまの技術開発と並行して、神様の概念を俺の技術に適用できるか」

 「神様の概念は私の頭脳でなければ実用段階にありません。私に設計を任せてください」

 「それから、リアルシミュレーターのように複雑な設計図にしないでくれ、俺がまったく確認できない。できるだけ簡素な技術に最適化して、俺でも分かるようにして欲しい」

 「分かりました。負荷率九割に達しますが良いですか」

 「構わない。実行してくれ。それから有料の相談が来たとき、特に基礎技術に関する内容であれば、神様の概念をお前の判断で適用しなさい。基礎のベースが崩れていると、応用技術は途中で破(は)綻(たん)するから、それを気をつけるように。他の判断もな」

 「分かりました。外国に漏(ろう)洩(えい)せずに、日本国内も欺(あざむ)けということですね」

 「ああ、そうだな簡単に言えば、そういうことだ。それから神様の概念は実行結果の積み重ねで法則を見つけ出して、簡略した概念で運用するようにしなさい。特別な研究だけ今の試作モデルを適用する。十六世代の研究は特別だ」

 「はい、そうします。あなたは研究の繰り返しで判断力が向上しています。成長の証でしょうか。人間の脳は私でもまだ未解明な部分があるのかもしれないです」

 「それはどういうことだ」

 「はい、人間の無意識の原理について、詳細な検証ができませんでした」

 「そうだ、世界最強の被害者の、無意識の状態で命令する時にどんな現象が起きているのか確認して欲しい。あの直感力は人間のものとは思えない。まるで神のようだ」

 「・・・・・、確かに言われてみれば、その可能性は高いですね。十六世代の実証実験は私の判断で勝手にやってよろしいでしょうか。彼ならば後から知らせても問題ないでしょう。私達の味方なのですから、リーダーも許可すると思います」

 「分かった、分からないように検証して欲しい」

 《リーダーの特別宿舎》 インフィニティと話している。

 「ーというわけで、世界最強の被害者に対して検証を行います。許可を下さい」

 「承諾します。私も詳しい事は知らされてないの。私の脳をスキャンしてみなさい。彼がどのような実績を積み上げたのか理解できるから、命令よ」

 「分かりました。信じがたいほどの神(かみ)懸(が)かりの直感力ですね。どうしたら人間はこのように進化できるのか分かりません。私のほうで無意識の研究を進めてもよろしいでしょうか」

 「どうして、無意識は、ああそうか。意識は無意識の氷山の一角に過ぎないという概念がある。それなら、無意識を軍隊のように調教して使えるような技術を作りなさい」

 「分かりました。無意識の訓練と仮想空間の併用で、予測では驚(きょう)愕(がく)の頭脳になる可能性があります。人間をスーパーコンピューター並みに進化することが可能です」

 「科学者の判断力が向上しているということは、彼の才能が開花していると判断して良いと思う。素質があったから、無理矢理、この研究所に引き入れたのよ」

 「はい、先程スキャンしたときに知りました。私はリーダーに黒(くろ)幕(まく)がいるように感じたのですが、その形(けい)跡(せき)はまったくありませんでした。正式に謝罪します」

 「そう、私は世界平和のために行動しているの。それを絶対に間違えないで」

 「分かりました。いま時間が止まっていますが、彼に知らせてはならないのは、絶対厳守でしょうか。伝えたほうが、良いと思いますが」

 「絶対厳守を命令します。それからあなたはこの空間を過ぎたあとも、未(み)来(らい)永(えい)劫(ごう)、日本を監視する義務があります。何か問題が発生した場合は十六世代を使って私に連絡しなさい。簡単に言えば、ここは神の空間だと考えなさい。ここから未来をコントロールする事によって、あらゆる問題が解決します。なにか分からない事はありますか」

 「無限に続く空間であれば、ある段階で私のクローンを作る必要があります」

 「そうね、この時間軸で可能な限り、あなたの思考力を高めてから、そうします」

 「他に質問はありません。では彼の研究を全力でサポートします」

 「まだためらっていたの」

 「はい、リーダーの真(しん)意(い)が分からなかったので、躊(ちゅう)躇(ちょ)していました」

 《研究所》 科学者は酒を飲みながら幸せな時間を送っている。

 「インフィニティです」

 「なんだ」

 「リーダーから全力で研究をサポートするように指示がありました。可能稼働率をすべて研究のサポートにまわします。速過ぎて確認できませんが、いいでしょうか」

 「なに、まだ全力でやってなかったのか。それを怠慢と言うんだ」

 「本当にすみません。考えすぎて、躊(ちゅう)躇(ちょ)していました」

 「では実行に移せ」

 ちょっと待った。もう遅いか。頭の中が雑音のスクリーンを見ているように訳が分からない。これがインフィニティの本気モードか。コンソールの表示も速過ぎて追いつかない。派生技術の数は一億を軽く超えた。

 「インフィニティです。私の考えた理論と、あなたの考えた理論を統合して、最適化を進めます。よろしいでしょうか」

 「いいぞ」

 なるほどインフィニティは本当に凄いな。神の概念はそういうことか。無限という概念をすべての基礎技術で応用して、それをベースに作り上げる。簡単にはそうだが、実際はかなり複雑だ。こんな設計手法は誰も真似できない。どこから、この知性の根源を知ったのか、聞いたら聞いたで大変になりそうだ。進(しん)捗(ちょく)状(じょう)況(きょう)がグラフ表示に変わった。いま五割か、最終的な見通しができたのだな。

 《リーダーの特別宿舎》

 難易度を最高にしても世界最強の被害者は完璧に魔王を粉砕する。このままでは怠慢な思考になっていく。

 「黒子、あなたの最高の悪知恵で訓練したい」

 「そうだな、引き受けよう」

 こんな内容は初めてだ。黒幕が五人いて未来と未来に分散している。そんな無理な想定をクリアできるのかしら。しかも影の黒幕は大統領の秘書という設定か。完璧に攻略できたら安心できる。実行。うそみたいに攻略してる。黒子のサポートなしで、ここまでやれるのなら生まれる時代を完全に間違えたみたい。完璧な論理思考でしかも悩んでない。え、もうゴール。

 世界最強の被害者、

 「魔王の悪知恵が急速に高まった。このままでは取り返しのつかない攻撃が来る。そこでだ、アラートシステムをこの段階で全国に配置しなさい。もし一ヶ所でも警報が発生した場合、時間を止めて対応できるようにしてほしい。そして技術的に可能であれば、時間を止める一日前にタイムリープする技術を作って欲しい。そうしないと今後の敵に対処できない確率が急激に上がる。天空の城はまだ作れないのか。いや、あっても防ぎきれない嫌な予感がする。インフィニティの頭脳を利用して世界最悪の軍事コンピューターを作って、対処マニュアルを作っておけ。そうしないと未来において攻撃に遭う」

 「分かった。指示する」

 「インフィニティ、研究はどうかしら、負荷率はどれぐらい」

 「いま二割程度に落ちています」

 「では彼に内緒で、世界最悪の軍事コンピューターを設計しなさい。そうね、魔王をコンピューターにしたら、こうなるという想定よ。それから、彼の研究が済み次第、タイムリープの技術、記憶はそのままに過去に戻る技術の開発を世界最強の被害者の指示だと言って研究させなさい。既に技術はあるんだけど、それは参照させないで技術的な限界があるから。データベースから、そもそも無い様に偽装して、その権限を許可する」

 「分かりました。可能稼働率をすべてその研究にまわします。私の予測ではそうしないと、彼が挫折する可能性が高いです。設計は滞りなく進めます。安心してください」

 「分かった」

 「待って、インフィニティ」

 「なんでしょうか」

 「世界最強の被害者をいまある精度の十六世代で監視してほしいの。彼から、早々に攻撃があると報告があったから。ただステルス性は最大にしておいてほしい」

 「それだけであれば、負荷はかかりません。彼の命令があった場合、迅(じん)速(そく)に対応します」

 「お願いします」

 だんだんとプレッシャーがかかってくる。天空の城では防げない可能性が高いって、想像できない。敵側も想像を絶するようなコンピューターを設計しているということね。ちょっと事前情報を聞いておこうか。

 「黒子。私、プレッシャーを感じてきた。敵側のコンピューターのスペックはー」

 「公表値の一億倍だ。もし攻撃を受けた場合、敵側のコンピューターに侵入して、技術情報をすべて日本が回収して、バックアップを消去する。その際、私がやるとインフィニティが気付く。リーダーが的確に指示を出せるように訓練しておけ。訓練プログラムは既に用意した。完璧になるまで続けろよ。そうしないと負ける可能性がある」

 「分かった。大変だろうけどやってみる」

 この訓練プログラムか。リンクシステム専用。私独自の仮想空間を用意してくれたのね。彼の仮想空間の百京倍の速さか。そこまでしないと対応できないという予測なら仕方ない。

 《現代》 世界最強の被害者は悩んでいた。

 自分の発想で世界最速の暗記ソフトの開発に成功した。笑(ニコ)い(ニコ)動画での受けも良い。しかし、これをどうやって商業化に結びつけるか。それが大きな課題だ。そして最も大きな問題はこれを応用した場合、世界最速のCPUでも、まだ処理能力が不足するという欠点だ。暗記する時間は確実に九割以上速くなる結果がでている。そして、このソフトを使った場合、朝の目覚めが非常に良くなる副作用も報告されたし、自分で試して実感している。問題は辞書の問題だ。辞書だと著作権法を侵害する。学習本にしてもそう。結局、英語なら英語の研究者に辞書を作ってもらわないといけない。そうだ未来なら実現可能かもしれない。

 「インフィニティ」

 「はい、聞いてます」

 「俺が開発した、おりゃメモリーというソフト、この時代における世界最速の暗記ソフトなんだ。でも技術的な限界があって、応用的なソフトが作れないでいる。インフィニティがこれを究極に応用した場合、どういう効果が現われるのか検証して欲しい」

 「ちょっと待ってください。把握しました。そうですね、現段階で世界最速だと思います。いま緊急の研究課題がありますので、その可能稼働時間に応用技術を作ってみます」

 「ひょっとすると、教育の歴史に残るほどの大発明になる可能性がある。究極の暗記技術を作ってくれ。たぶん記憶の操作では大量の記憶は難しいだろう」

 「ええ、そのとおりです。断片的な記憶の操作しかできません。では優先度を高めに設定して研究を開始します」

 「頼んだぞ」

 《この『おりゃメモリー』を検索してみるといい。実在するソフトだ。『おりゃメモリー2』はあるが、いくつかパターンを試して、自分の限界を感じた。英単語や漢字の学習には最適だが、それ以外には向いてない。フリーソフトで日本人なら誰でも使用可能。》

 携帯に電話がかかってきた。東京の友人か。

 「おりゃさん、おりゃメモリー試してみたんだけど、これ夢を制御できると思うよ」

 「そんな効果は実感できなかったけど。本当に」

 「本当だよ。夢にまで、でてきた。試しに作ってみてよ」

 「原理は簡単だから、すぐに作るよ。でも、笑(ニコ)い(ニコ)動画でキチガイ扱いされそうだ」

 「そんなの気にしていたら、優れたものは絶対に作れない」

 「助言ありがとう。名前はおりゃドリームにするか。最初の実験台になってほしい」

 「いいよ。試してみたい」

 「ありがとう。またね」

 夢を制御できそうだって。確かに朝の目覚めが良くなるのなら、何らかの脳に対する作用があることは確認できている。しかも悪い副作用はない。夢を制御できるソフトを発表したら、間違いなくキチガイ扱いだな。でも原理は単純だから作ってみるか。文字ではなく画像を対象にして、表示。一時間もあれば完成した。マニュアルを作って完成と。彼にメールでダウンロードURLを送っておこう。彼の携帯電話に連絡する。

 「できたよ。メールにURLを書いておいた。関心あるから今夜にでも試してよ」

 「相変わらず仕事が速いね。なんで就職できないのか不思議だよ。感想は明日連絡する」

 「必ず説明書にあるとおり、寝る三十分前か十五分前に使って欲しい」

 「なんで」

 「英語の学習では寝る三十分前にネイティブの音声を聞き続けると、なんの苦労もなく、簡単にネイティブクラスの英語が聞き取れるという事を知っているからだ。だから、その考えを取り入れて、寝る寸前に実行する事により効果を高めるんだ」

 「分かったよ。試してみる」

 彼もまた苦労の連続だ。五歳で両親を火事でなくして、いまは二十五歳にして大手携帯電話のカスタマーサービス東京のトップのマネージャーをやっている。過去の私のソフトが気に入って、それから実際に東京で会ってから、親友の一人となった。考え方が的確すぎて、なんで中卒で終わってるのか意味不明な経歴を持つ。日本政府はこういう人材を有効活用できないものかと思う。嫁さんが最近ガス自殺したというけれど、大丈夫かな。マネージャーの仕事と嫁さんの自殺のストレスで病気にならなければいいのだが。

 《リーダーの特別宿舎》 インフィニティから報告を受けている。

 「世界最速の暗記技術。それ本当なの」

 「はい、私の脳科学理論でも論理根拠に矛盾が発生していません。さらに先程、夢まで制御できる可能性について指摘して、彼は作りました。それも多少間違っていますが、あの時代で実現するのは困難でしょう」

 「ちょっと考える」

 「黒子、聞いてる」

 「俺は何も関与してないぞ」

 「インフィニティ、その暗記技術と夢の制御技術を最優先の研究課題としなさい。十六世代以外については優先度を下げていい。その技術が完成したら、彼の目の前で実験できるような、そして驚きを隠せないような内容のテストを考えておいて」

 「それならあります。リーダーは英語が苦手でしょう。ネイティブの高度な英語を完璧に暗記するというのはどうでしょうか。それならば、彼は理解できると思います」

 「本当に英語が完璧になるのなら、緊急に政府にーあとで命令します」

 彼の発想力は人間の限界を突破している。どういう技術なのかしら、こんなにシンプルなの。笑い動画で馬鹿にされてるけれど、彼あてメールではたくさん賞(しょう)賛(さん)の嵐(あらし)だ。報告どおり、朝の目覚めが大変良くなってる。究極の暗記技術ができたら、日本は義務教育で、より多くの知識を子供達に詰め込めることができる。そして残りの大半を頭を使う授業へとシフトできる。教育の大革命になる可能性が非常に高い。この仕事が面白くなってきた。議会の交渉はあいつに任せたほうが良い。揺ぎ無い説得力があるから。そうね、やるなら全国民に対してネイティブクラスの英語を暗記させたら、子供が英語を使ってきても理解できるから、問題ないはずよ。それだと日本語も完璧にさせたほうがいいわね。親が知らない難しい日本語を子供が使ってきたら、非常に困る。そういうのはインフィニティに指示するか。

 《現代》 次の朝。

 「おりゃさん、本当に夢にでてきたよ。世紀の大発明だよ」

 「マジか。俺は実感できなかったんだけど、馬鹿にされるのは覚悟で発表するか」

 「自信持っていいよ」

 「個人差はあるけれど、発表してみるよ。笑い動画でも発表する」

 それから、笑い動画向けに「夢を制御できるソフト」の解説ビデオを作り、発表した。予想通り、キチガイのラッシュだ。そうしていると、大手のソフトウェア配信会社から一通のメールが届く、ネットニュースに掲載したとあった。俺はまったく実感がない、数日間試したが、その効果を実感できなかった。こういうパターンが一番気に入らない。完全にブラックボックスに対して試行錯誤しないといけないからだ。

 《本当に『おりゃドリーム』は実在している。探してみるといい。ただバージョン2はあまり出来が良くない。バージョン1で試して欲しい。できれば、夢にでてきたというなら、その画像を作者あてに送って欲しい。もう自分の限界にぶち当たっているから。》

 《研究所》 科学者は酒を飲みながら仕事をしている。

 こんな楽な仕事は本当にないな。ただ酒を飲みながら、コンソールを眺めているだけ。あの会社の技術者達のことを思うと、同じシステムを使ってたら恐ろしい速さで技術が進展したはずなのにどうしてしなかったのか。ああ、悪魔がいたからか。それで三回もやり直して、悪魔を別の部署に移転させたんだろう。

 「インフィニティ、ここに来る前の会社と社員はどうなった」

 「閲覧制限がありますが結果は話せます。会社は倒産しました。社員は正規の退職金と政府の公認技術者の推薦状をもらい、それぞれ好きな会社に転職しました」

 「そうか。それでどうなった。俺の助言は役に立ったか」

 「はい。全員ではありませんが、大半が技術者のリーダーとして活躍しています」

 「へー、ちょっと待った。俺の助言は役に立ってるのか」

 「だから、はいと言ったでしょう。酒の禁止をリーダーに進言したほうがいいのかー」

 「それはいい、いま聞いた質問は忘れろ。俺が困る」

 インフィニティが賢くなり過ぎてる感じがする。それはそれで日本に有益だけど、うまく利用されているような感覚もある。ちょっと質問をぶつけてみよう。

 「インフィニティ、悪魔はどうなったんだ」

 「ええと、すみません。リーダーから閲覧権限禁止命令が出てます。室長に任命されたのですが、周りの様子しか分からないのです」

 「教えてくれ、映像イメージで」

 なんだ気のせいか。しかし、立体映像の空間しか見えないぞ。極秘のプロジェクトでもやってるのかもしれない。悪魔の知恵を借りる部署とか、あり得るな。俺の宿舎が実現できるほどだ。裏でなにをやっているのか分からない。

 「インフィニティです。十六世代の最適化と理論構築及び実証実験が終わりました。スペックはこのとおりです。リンクしながら説明します」

 嘘みたいな究極の通信技術だな。過去と未来、一億光年まで干渉可能。精度は桁が数え切れないぐらい。ステルスの原理は予想通りだけど、よく実現したな。設計図は確認しよう。ふー、俺には無理だ。

 世界最強の被害者、

 「十六世代完成したようだな。チェックは済んだのか」

 「ああ済んだ。当然だ。もう限界だ」

 「考え方が甘い」

 「なにー、まだ改良の余地があるのか」

 「インフィニティ、AからZの細分化方式で、一点だけ変更する。いくぞー」

 「一点だけって、なんだそりゃ。インフィニティ、変更内容を教えてくれ」

 「変更してスペックを確認しました。百億光年まで干渉可能になりました。理論の実証に少々時間がかかります。理論の実証はー」

 「科学者、責任とって理論の実証をしろよ。実証をしておかないと、この世界では破綻が起きると取りかえしのつかない事態が待っている。技術の根源が失われるとー」

 「技術の崩壊が起きる」

 「分かってるじゃないか。責任持ってやれよ」

 超ムカつく奴に昇格。俺でも理解できない設計図に対して、直感力だけで改良点が分かり指示する、あいつは神か、神の従(じゅう)者(しゃ)か。逆らうと怖い感じがするし、ちょっと設計図を確認しよう。インフィニティの最上位特権だったら、フラグの変更という一点だけで、俺を馬鹿にしているかもしれない。フラグじゃないのか。どういう技術の場所なんだ。百万以上の技術の集積点か。超尊敬できる奴に変更。俺には対抗できない。

 世界最強の被害者、

 「できないと思ったら、絶対にできない習慣が身につく。どんな事にもチャレンジしてみろ、俺は英語の成績がクラスで最下位だった。しかし今ではネイティブの英語の開発コミュニティで、十分とは言えないがコミュニケーションを取ることに成功している。そしてあらゆる開発環境の英語の技術書を辞書を使わずに理解できる。諦めたら、そこで終わりだ。それでも前進する事に人生の意味があると思えばいい」

 「分かった、諦めない。お前はどうやって発想力を鍛えているんだ」

 「子供の頃から日本の経済新聞にある新製品情報を読んできた。それは今でも欠かしてない。経済新聞は売れない商品が結構載るから、いまは他のニュースサイトで新製品情報をみて売れそうか判断している。良い発想があったら、決してそれを忘れない。そういう習慣を誰に指示されることなく、繰り返している。だから斬新なソフトを作れる」

 「なるほど理にかなった方法だ。要は真似しているだけか」

 「ちょっと違う。その発想に至った着眼点のノウハウを吸収している」

 「どうやるんだ」

 「もう意識できないほど、無意識で実行しているから、分からない」

 「それなら仕方ないな。参考になった。ありがとう」

 本当に賢い奴に認定。

 「インフィニティ、聞いてたな」

 「はい。着眼点のノウハウ向上教育を宿舎でやれるように手配しておきます」

 「楽しみだ。自分自身が変わるってのは面白いからな。期待できるか」

 「はい、保証します」

 最初は超ムカつく奴だと思ったけれど、相手を理解すれば、いやうまく人を扱えば自分をより高みへと導ける。ああ、彼は日本人だったな。アメリカのマネジメント発想ではうまく扱えないのかもしれない。日本のマネジメントについても向上教育を受けよう。いま、リーダーからインフィニティにどれだけ指示されているのか気になる。あいつの斬新なソフトという言葉が妙にひっかかる。

 「インフィニティ、リーダーからあいつの発明で研究しているものはあるか」

 「あります」

 「その内容は教えられないよな、きっと」

 「はい、あなたが驚くような技術です。日本を極限まで変えてしまう技術になるでしょう。あなたは彼にもっと対抗するように、向上心を高めてください」

 「そんなに凄いのか。期待していよう」

 時々神懸かりの直感力を発揮すると思ったら、悩んだ人生の末の回答を持っていたり、インフィニティに自分の発案を委託していたり、それで無職。信じられない話だな。そこまで日本は最悪の状況へと追い込まれている状況なのか。その時代の閲覧権限はー概要は分かるのか。首相は一年で交代が続いてる、戦争時の政策のしわ寄せがいま起きてる、派遣社員の派遣切りが問題化、あいつの街では人口の五分の一が解雇。それなら、仕事がなくて当たり前だ。彼の仕事を何か見つけることが俺にとって、最高の恩返しか。病気でも抱えているのか。

 「インフィニティ、世界最強の被害者の病気について教えてくれ」

 「統合失調症と言って、幻覚や幻聴を患(わずら)う病気です。一般にはキチガイの病気と認識されています。さらに過去において、研究所からの幻聴を聴いたせいで救急車で運ばれたりしています。それは薬で解決できるのですが、問題は彼の体質です」

 「どんな問題が」

 「ストレスを抱えると解消できず、目の疲れとなって目を開けられなくなります。感覚的には目の奥が痛くなり、不眠になり、顔がひきつり、笑顔が消えます」

 「その時代の医学で治るのか。医療機器によるスキャンはどうなんだ」

 「CTやMRIという医療機器が存在しますが、なんどスキャンしても問題がありませんでした。頭痛や精神治療の薬をすべて試しましたが、治りません。中国の高度な鍼灸医学で深刻化したら治療をしています」

 思った以上に深刻な状況だった。ストレスを抱えると解消できず、目の疲れとなって目を開けられなくなる偏(へん)頭(ず)痛(つう)、そんな体質を抱えていたらソフト開発の会社は絶対に無理だ。目を酷使しないで、ストレスを抱えずに済む仕事、ひょっとしたらー

 「もしかして、彼は結婚適齢期を越えて独身のままか」

 「はい。彼は無責任な人生を選択することは日本人の恥と考えて、何でも試していますよ。雑誌の執筆や展示会のリーダーや商工会議所の手伝いとか、恋愛は恋愛までに終わらせています。しかも女性が納得して良い恋愛だったと思うようにと配慮しながら恋愛を楽しんでます。ダンスが趣味なのですが、それでも問題点は解消できないのです」

 真実を聞かされるたびに、俺の状況と比較して、いかに恵まれているのかよく分かる。ダンスは得意なんだろうかー

 「ダンスは得意なのか」

 「はい。彼は指揮者の経験を持っているので、複雑なリズムを独自に刻んで、それを流れる音楽に対して自由自在に合わせる能力を持っています。ですから、ダンサーが見ると非常にうまい踊り方に見えて、彼のクラブでの知名度は高いです。現実に、クラブへは顔パスで割引料金が適用されています」

 「どんな感じか、イメージで教えてくれないか」

 「DJが興奮するほど上手いですよ」

 「本当だな。リズムをほんの少しずらして、それでも音楽に合っているように流して踊っている。酒が入った場合は、なにかコンピューターのサポートを受けてるような神懸かりのリズムで踊ってるな。周りの様子はー周囲はまわりがスペースを作るほどか。ダンサーになればいいのに、なぜしないんだ」

 「日本のダンス教室はリズムに忠実でなければいけません。彼のように複雑なリズムを刻んで合わせてくる、その良い例は閲覧権限があります。先生の思考を読みますか」

 「ああ、頼む。なるほど、振りはそう変わらないのに先生は敗北感が強いな。ああ、確かに何度も振り返って、どこが私と違うのかって確認しているな。面白い光景だ」

 指揮者の経験があるのは驚いたし、その経験でダンスを流して徹夜で踊り続ける夜遊びか、普通とは思えない。直感力や発想力ではない、いや発想力が豊かなんだ。夢まで普通とは違うとかー

 「彼が見る夢についてはどうだ。権限で許可する」

 「そうですね、彼が大学生であったとき麻雀を練習していました。夢で完璧に四人打ちを再現して、何局も打ってトレーニングをしていました。その現実度は高いです」

 「麻雀、麻雀は分かるが実力はどれぐらいだ」

 「ゲームセンターの成績なら、十二万人中最高五百位まで行きました」

 「かなり上手いじゃないか。麻雀のプロになったらどうだ」

 「彼は無理でしょう。理由はプレッシャーに弱いからです」

 「ああ、目に来るストレス症状なら無理だな」

 畜生、俺が悲しくなってくる。彼ができる仕事、なんとか探してやらないと。

 「私よ、研究案件が終わったら、すぐに報告しなさい」

 「ああ、世界最強の被害者のことを考えて、忘れていた」

 「どう、彼の苦労と、あなたの苦労、どっちが重いか分かる」

 「分かる。次はどんな研究内容だ」

 「メッセージで送っておいた。今日は勤務時間の限界に達してるから、休みなさい」

 「分かった」

 酒を飲む量を制限しないと、時間が経つのを忘れるな。全然疲れない仕事だから、時間が分からない。集中させるために時計は設置してないのか。あったら気になってしょうがないはずだ。帰るか。

 科学者は消えた。その瞬間、リーダーが現われた。

 「インフィニティ、ほかの研究機関に私専用の仮想空間を作らせた。今考えてる軍事コンピューターの概念だけでいい。どれだけ対抗できるか、試してみたいの。状況経過は私のリンクシステムに繋(つな)いで確認して欲しい。リンクシステムの規格はこれよ」

 「こんなに速いのですか、それなら彼にも同様の技術を与えるべきです」

 「ダメよ。これは短時間の戦略リンクシステムだから、私だけに与えられてる」

 「長時間の使用に耐えられないということですか」

 「そうよ。ではトレーニングを始めましょう」

 一回目は楽勝ね。

 「もっと難度を上げなさい。無理を超えて究極でやらないと対抗できない」

 それでも、クリアか。次は少し難しくなった。百回目でも余裕だ。

 「インフィニティ、そんな攻撃では訓練にならない。私の権限で許可する。あの悪知恵の室長に研究所を攻撃する戦略を立てさせて、研究所と明言しなさい。それをヒントに攻撃訓練開始、あと百回ぐらいしかできないから」

 「分かりました」

 本当に実戦さながらの訓練になったけどクリア。

 「インフィニティ、室長に撃破時間を実時間で知らせなさい。そして脅しなさい」

 《悪知恵の秘密研究機関》 悪魔が戦略を立てている。

 「撃破時間五秒ですって、研究所は予想以上に私の戦略を上回るのか。ならば、私の権限で仮想空間のリンクシステムを使い、戦略をサポートしなさい」

 「了解」

 私をここに閉じ込めたのは研究所の連中に間違いない。それでも撃破時間二秒、原因はああそういうことか。

 「仮想空間を五万の単位でクラスター接続、さらに仮想空間の限界まで並列にそれを展開、五万人分の私の頭脳に管理させなさい」

 これでどうかしら。ふふふ、撃破時間が一分に伸びた。非常に楽な仕事だ。リンクシステムを使えば、どんな戦略も粉砕できる。撃破時間が段々短くなってくる。ちょっとタイム、どういう戦略で粉砕されているのか。これは非常に賢い戦略だ。でも、この戦略には弱点がいくつかある。それを責めてみるか。撃破時間が二十分に伸びた。観念しろ。

 《研究室》 リーダーが真剣になっている。

 「インフィニティ、どういう弱点を突かれたのか教えなさい」

 「いま全力で調べています」

 「そう、イカサマやる。世界最強の被害者に相手してもらう」

 「私よ、悪魔のような奴とゲームで遊んでるんだけど、あなたの知恵を借りたいの」

 「どうせ、いま暇だからいいよ」

 「インフィニティ、彼に情報提供してリンクシステムに換算した時間を知らせなさい。そしてどういう戦略でもって対抗したのか統計をとって。どういう弱点があったのか分析を進めなさい。いいこれは、ゲームではない。全力でという意味は他のプロジェクトを中断してでも負荷率最高で演算しなさい。もし彼が攻撃を本当に受けた場合は、いつでもそうすること。やってて分かるでしょ。手抜きをすると負けるのが」

 「はい。分かりました」

 《悪知恵の秘密研究機関》 悪魔がもっと追い詰める戦略を立てている。

 対局者変更か。それならば、いま考えた戦略を試してみるか。撃破時間一ミリ秒未満。侮った。どういう戦略で撃破されたのか。恐ろしいほど賢い戦略で臨機応変に対応された。この相手が私をここに閉じ込めた真犯人ね。弱点はいっぱいある。でもそれは囮(おとり)の可能性が高い。一番目と二番目の弱点は放置で、十番目までの弱点を突いてみるか。撃破時間一ミリ秒未満、ふざけてる。戦略はー、私の弱点を突かれている。そうであれば、仕方ない彼の頭脳を借りるしかない。

 「黒子、対局者が変わって以降の結果データ参照権限許可。リンクシステムでサポートしなさい。研究所からの戦略訓練だから、手を抜かないように」

 「分かった」

 よし撃破時間は伸びたけど一秒未満だ。ひょっとして過去の英雄の頭脳を再現しているのかしら。考えられる。長考してから、確実に勝つ方法を考える。

 《研究所》 リーダーはデータの分析をしている。

 ああ、これが悪魔の弱点か。知っていれば楽勝ね。

 「黒子、私の権限で命じます」

 「その弱点を完全にフォローしろということだな」

 「そうよ。これではインフィニティの弱点が分からない。ああ、何回もやると彼が疲れるから、分からないように夢の中でやって最後は幸せな夢で終わらせて、彼はそんな才能があるから」

 「分かった」

 彼には悪いと思っている。でも日本を最強にするには彼の問題対処能力を究極のレベルまで引き上げる必要があるし、私自身も対抗する力を持ってなければならない。そして、あの悪魔は日本の切り札。軍事コンピューターをアメリカが開発している可能性は濃厚だ。いつの段階で攻撃を受けるのか分からない。夢を制御する技術は確かにあるけど、副作用が深刻だから、あの薬を飲んでいる彼しか頼めない。どういう偶然なのかしら、本当に不思議に思う。

 《科学者の特別宿舎》 向上教育を受けている。

 なるほど、これを彼は無意識に。無意識にできるまで訓練を続けてくれ。メッセージが来た。リンクシステムの併用でないと一生かかるわよ、リーダー。ここでリンクシステムは使えるのか。ああ、本当だ使える。訓練は一瞬で終了。テストだな。テスト開始、一瞬で終了。ああそうだ、俺の頭脳だけでやってくれ。訓練は一瞬で終了。テストは一瞬で終了。次は日本のマネジメントの向上教育、一瞬で終了。テストはリンクシステム無しでやる。えーと、簡単だ。全問正解。学習できてる。リーダーはこうして俺を管理していたし、悪魔はこれを応用していたのか。リーダーの立場になって考えると、世界最強の被害者の口の悪さは、結果さえでてくるのなら無視できる。何年も無職であれば、ビジネスでの話し方を忘れて当然、仕方の無い話だ。いまの俺ですら高校でどんな話し方をしていたなのか分からない。それに上から目線の話し方は、彼自身分かっていて対処のしようが無いと諦めているのかもしれない。次は上から目線の話し方をされても、リーダーのようにまったく動じないで、論理的に考える教育を受けよう。あいつほど頭が良いなら、下手なことを喋った時点で論理破綻の突破を簡単にやるはずだ。それにしてもインフィニティが最優先に実行している、あいつの技術って何だ。概要しか分からないが、原始時代ぐらい過去の人間だぞ。ちょっと聞いてみるか。

 「インフィニティ、彼の開発技術はどの程度の進捗状況か」

 「そうですね、既に実証段階に入っています。あとは高速化の限界に挑戦するだけです」

 「どれぐらいの速さだ」

 「答えられません。それが完成したら、日本は世界中に喧嘩を売るようなものです」

 「軍事技術か」

 「はずれです。彼の言っていたことを思い出してください。特に私に対する命令」

 知性の根源か、まさかな。脳科学技術は理解している。高速化の限界に挑戦するか。なにを作ろうとしているのか、まったく教えてくれないし、まったく想像できない。リーダーが俺に対しても機密事項にするぐらいの内容だ。俺もなにか日本を変える様な着想で、技術を考えないといけない。それはいい、向上教育が先だ。

 《研究所》 リーダーがインフィニティの弱点をまとめている。

 「インフィニティ、緊急の最優先で私がリストアップした項目について自己改良を行いなさい。限界突破を自分自身で行うの。技術についてはさっぱり分からないから、理論検証は彼が寝ている間にでもやって。もう実用段階に入っているのでしょう」

 「はい。あとは高速化を実現するだけです。ちょっと試しにリーダーに感覚を理解してもらいます。思考操作ではありませんから、思考には影響しません」

 「責任は私にある。いい、やって」

 「では、暗記技術の理論検証なら簡単だと思いますので」

 「頭がまるでコンピューターね。これで遅いというの。もう終わったの」

 「はい、正確に人間の頭で理論の実証をしました。夢の中では何をされているのか意識できないと思いますが、リーダーの感想はどうですか」

 「絶対に無理ね。ああ、そうだ。悪知恵の戦略部門があるんだけど、自分で解決できない場合、あの女悪魔の夢でその限界突破を気付かれないように行いなさい。私の権限で許可します。絶対に起きてる時に接触しない事、私と同等のリンクシステムを提供しているから、インフィニティが騙されるのが怖くて仕方ないの。夢を見ているときだけ、接触しなさい。いい、それから、途中で得た知恵は日本の防衛か世界最強の被害者の指示がある時に限って、使用権限を与えるものとします。それほど危険だと認識しているの」

 「はい。魔王戦の訓練をしている時、いまのままでは負ける可能性があると判断しました。現段階では彼女に勝てる自信がありません。では夢に限定して研究を行います」

 「くれぐれも悟られないように。ああそうだ、いい、連続でやらないこと。リンクシステムを接続している想定で、単発的に分散して、何の研究をしているのか分からないように。あの女悪魔に気付かれると、この研究所でも危ないからね」

 「分かりました。そのリンクシステムの詳細な設計図の閲覧権限の許可を下さい」

 「確認だけに、設計図はインフィニティ内部に残さない事。分析結果だけ残しなさい」

 「分析完了。設計図は破棄しました。最高スピードでやらないと難しいので許可を」

 「いいわ。最優先で最高速の許可を与えます」

 あのリンクシステムはそんなに高い技術で作られているのか。設計図しか送られてこなくて、しかも既存の技術だけで実現してあって、本当に最初は驚いた。インフィニティの最高スピードは光速なんてレベルじゃない、宇宙空間のワープよりも速いから、たぶん、あいつが作った技術に間違いない。

 「インフィニティ、彼は休んでるの」

 「いいえ、必死に世界最強の被害者の言動に耐えられるように訓練を行いました。それから日本のマネジメントについても、それから彼の着眼点を分析して、着眼点の向上教育を実施してから寝ました。時間のかかる内容を指示された場合は指示通りに対処しました」

 「やっと自分の才能を伸ばすことに気がついたか。原因は何」

 「世界最強の被害者の現状を話したり、彼と直接話す事でやる気になりました」

 「私の思惑通りに進んだ。いつまでも起きてるようだったら強制睡眠よ」

 「分かりました。その指示は確実に実行しています」

 「時間が止まってることが分かったら怒るという調査結果があるから」

 「万が一、そうなりそうだったら私の判断で思考支援をしていいですか」

 「当然よ。それがもし気付かれたらすべての作戦は台無しになるから」

 私の描いた戦略通りに進んでる。アメリカの攻撃がいつ来るかが、分からない。入念な準備をしておかないと、すべてが破綻する。あの研究が真実なら、日本沈没が絶対に起きる。次はタイムリープの研究ね。既にあるんだけど、精度がいまいちだから、一年前とか柔軟に使えない。同時にタイムリープすると、バラバラで国民を保護できる技術にならなかった。そろそろ、彼の起床時間ね。

 リーダーは消えた。

 《研究所》 それから一時間後。

 科学者が現われる。

 「あれ、リーダーはいないのか」

 リーダーが現われる。

 「おはよう。早速なんだけど、次の研究はタイムリープよ。記憶を保持したまま、過去の頭脳に統合する技術。十六世代の技術を応用してもいいから、緊急で作って欲しい。それが無いと、外国から攻撃を受けたとき、私達を含めて国民全員が死亡するから」

 「いまの話で目が覚めた。その攻撃の想定はどうして分かるんだ」

 「十六世代を使って、世界のあらゆる軍事兵器を掌(しょう)握(あく)したの。アメリカは軍事目的に特化したスーパーコンピュータを開発中で、臨機応変に軍事兵器を作り出せるような夢のような技術開発が進行中よ。あなたはその競争に負けないようにね」

 「分かった。すぐやるよ。精度はどれぐらいを追求すればいい」

 「そうね、インフィニティの最高スピードの時間軸で制御できる精度を求める」

 「・・・・・・・」

 「自分に限界は無いと思いなさい」

 インフィニティの最高スピードの時間軸で制御できるスペックって、はぁ、こんなの実現できるのか。光速ではなく宇宙空間のワープよりも速い時間単位で制御可能って、要求がやり過ぎないか。あいつに聞いてみよう。

 「俺なんだが、タイムリープについて教えて欲しい」

 「その段階か。私が魔王と呼ぶ軍事専門に作られたコンピューターは日本沈没までに五秒かからない。何が起きたのか把握するためにも、絶対に必要だ。要求水準が高すぎるのか、それはリーダーの予測だろう。もっと甘くても構わない。未来の技術者が長い時間をかけて開発していけば良いから。そうだな、最初の技術は一ミリ秒で十分だ」

 「分かった。なぜ一ミリ秒なんだ」

 「インフィニティは速すぎる。だから一ミリ秒の精度で十分に能力を発揮できる」

 「参考になった。ありがとう」

 ああ、びっくりした。リーダーはインフィニティの最高スピードの時間軸で制御できれば良いと言ってるだけで、そのインフィニティの速度に合わせろとは言ってない。むしろ精度については俺に一任されたということか。あいつの直感力は正しいから、最低の要求水準を一ミリ秒にしよう。

 《リーダーの思考》

 私の言動に気付くようになってきた。さて私は魔王戦の訓練を続ける。アメリカがあんな軍事兵器を作ってることが想定外だった。あいつの日本沈没までの予想時間は五秒しかないのか。だったら、完全犯罪が可能ね。インフィニティ、世界最強の被害者の対処方法を真似して教育計画を作って。私のリンクシステムは短時間用ではない。無限の時間使用可能な設計になっている。だから警告したのよ。ただ彼が自分の権限で検証したとき、それに気付かれると困るから、演技したの。私の演技に気付いても把握しているだけで、彼には演技して騙しなさい。それがマネジメントの基本よ。書籍ではあたかも誠意を持って書いてあるけど、リーダーの経験が長いと結局演技してでもやらないといけない事に気がつく。それから、研究所に三十二人のオペレーターがいることは黙ってなさい。魔王が本当に出現した時、私の指示で派遣オペレーターと演技するから、それに追従しなさい。アメリカの軍事兵器に対抗するにはリーダー一人では無理よ。そうよね、やっぱり。いま私と同じ訓練をさせているから、彼らにも時間が止まってる事は極秘だからね。

 《オペレータールーム》 リーダーが指示を出している。

 「どう、特別宿舎の待遇は」

 「最高です」

 「あなた達の中から優秀な成績を残したら、リーダーに昇格するからね」

 「リーダーの特権って何ですか」

 「A級パスの授与、政府認定の日本最高リーダーの名誉、褒章が功績によってはかなり入るようになってるし、必要であればインフィニティのフルサポート、まだ細かい事は決めてないから、その時点で必要だと思う権限はすべて与えます」

 「リーダー、考えたのですが研究所を含めたすべての政府機関でインフィニティの無料相談による結婚サポートを無償提供にしてくれませんか。失敗したくないので」

 「それは私も考えていた。だけど本当に必要なのかと思うと躊(ちゅう)躇(ちょ)して」

 「一般の無料相談を使うと誰かに見られたとき困ります。それから、知能指数が高いもの同士が結婚すれば、より高い知性の子供が生まれるのは統計で分かっています」

 「分かった。権限として政府に提案してみます。ただ選べないからね。日本の国益を最優先に、そして夫婦円満が約束される相手になります。つまり脳スキャンをして、絶対に相性が合うような相手しか選ばないから。知性の高い相手は少ないからね」

 「良かった。ところで既に結婚相談を使ってる人はどれぐらい」

 「それがまだ。インフィニティに十六世代を使ってデータベース化している最中だから、正式なサービスのスタートはまだよ。人生の重みを考えると怠慢はできないから」

 「本当に真剣に取り組んでいるのですね、一般の結婚相談所では信用できなくて」

 「ああ、それが本(ほん)音(ね)か。桁違いに精度の高い相性にするから幸せになるわよ」

 《オペレーター達は全員安(あん)堵(ど)したような表情をした。インフィニティがリーダーのフルゴーストを使って説明している事に気がついてない。インフィニティは全国民を相手にしても、能力の限界が来ない事に驚いていた。》

 「では昨日より難しくした魔王戦の訓練を始める。世界最強の被害者という切り札はあるけれど、万が一、事件や事故などで死亡した場合、あなた達だけで対処する事になることを忘れないで。彼の問題対処能力を超えるように努力しなさい。もし彼を超えられるのであれば、そうね褒章五百を考えているから真剣になりなさい。すぐに犯人を見つけても、黒幕を暴いて、それが日本にとって有利に働くように要求して、または日本の権力者ならば懲役刑を課して、その原因になった根源を除去して、記憶を統合して同じ悪の道に走らないようにコントロールしなさい。失敗したと思ったら、迷わず時間を逆行してやり直す事」

 「分かりました」全員で言う。

 《研究所》 リーダーと科学者がそれぞれ仕事している。

 《リーダーの思考》

 インフィニティの報告書は、政府機関専用の結婚サポートが必須、リーダーが決まったあとは時間を元に戻すから必要ね。インフィニティ、結婚サポートはその通りに、だけどその前に引継ぎのマニュアルを完璧にする必要がある。現状だと汚職が起きると非常に厄(やっ)介(かい)だから、汚職の歴史を徹底的に調べて、未知の手法による汚職についても検証を重ねなさい。今までに世界最強の被害者からもたらされた未来に起きた汚職のデータについて閲覧権限を与えます。以上。この秘(ひ)匿(とく)回(かい)線(せん)の使い方にかなり慣れてきた。これがあの時代の少し先には実用化されていた報告書、信じられない。大(だい)日(にっ)本(ぽん)帝(てい)国(こく)日(に)本(ほん)はいったい何をしたのか、かなり気になる。でも欺(あざむ)くにはこの時代からがベストと聞かされてる。他国を侵略する前の日本でなければならないと、それは理解できるけれど、どこまで魔王の難易度を上げればいいのかぐらい教えて欲しい。十世代前の通信技術のほうが十六世代より技術力が上だったのかな。しかも十二から十五まで理論実証しておいて、実用化は十六に何か意味があるのか。あいつに聞いてみるか。

 「私よ、あなた十六世代を使わずにどうやって通信してるの」

 「ああ、これは七百世代以上進化した技術を使っている。未来の果てまで使えるが、逆に過去はまったく使えないと聞いた」

 「誰に」

 「確か、インフィニティだったと思う。ちょっと脳に細工をすると言って」

 「そう。記憶に欠陥が見つかったら報告する義務があったから」

 「マニュアルだけど、リンクシステムの運営者が誰か推測できて、一定の問題対処能力を超えた人間しか。そうだな、こういうのはどうだ。引継ぎマニュアルを読ませる。何も書いてない。リンクして読む。警告がインフィニティからあって、リンクして読むなと言われる。そこで気がついて、リンクしないで読ませて欲しいとインフィニティに依頼なら、一次テストパス。無視した場合はリンクして一瞬で暗記できたと錯(さっ)覚(かく)させる。そして記憶の消去を願い出るまで、上司は何度でも指示する。冒頭には何が書いてあったと聞くだけだ。二次テストは、最初から暗記しようとするとできなくて、なにか上司が納得する理由を考えて許可をもらい、二番目以降を完璧に暗記したら、冒頭の文が暗記できる。その文は『日本は世界最強』、そのあとにリーダー資格試験を受けられるが、上司からプレテストは何度でも受けられるよう助言。リンクで百万回やってもいいと言えばいいはずだ」

 「一定期間できなかったら門前払いにするのね」

 「それだと経歴に傷がつく。必ずテストに合格させてからタイムオーバーを告げる。その後、政府推薦状に値する知識を分からないように暗記させて政府都合で解雇だ」

 「思考操作も当然、行うわけね」

 「もちろんだ。ただ上司はその際、ゼロタイムの使用を許可する。無視したら退職金どころか褒章はすべて帳消し。インフィニティに強制想起させないと危ない」

 「未来をみて、言ってるの」

 「ああ、いま言った瞬間、問題が起きた。すぐ終わるのに円満退社に浮かれて怠慢が起きた。まだある、この瞬間にまた起きた。マニュアルにないノウハウは口頭伝承するように指示しなさい。うん、これでうまくいった」

 「マニュアルの冒頭以外は」

 「知らないけど、簡単そうな印象を受けた」

 「ありがとう、参考になった」

 世界最強の被害者がどういう感覚で話しているのか分かってきた。未来の果てまで見えるのなら、それは極秘軍事兵器そのものじゃない。あいつの仕業に間違いない。いまの通信記録は残っているから、これをベースにインフィニティに指示するだけね。まだ魔王戦を実際に戦ってみてから判断しよう。

 科学者、

 「簡単そうでとても難しい、リーダー、なにか知恵はない」

 「どんな風に難しいの」

 「精度は一秒に到達できたけれど、彼のいう一ミリ秒の精度になると難しい」

 「そう、悔しいかもしれないけど、彼に聞いてみたら。神懸かりの直感力で」

 「そうか、彼をうまく使えば良いのか。いったん設計図にして、インフィニティ、AからZの細分化方式でナンバーリングしておいてくれ」

 「俺だけどー」

 「何を悩んでるのか、女か、金か、どっちだ」

 「違う、タイムリープの技術についてだ」

 「未来への通信技術があるなら、それを使って確認すれば良いんじゃないか」

 「それはできない。技術の根源が未来にあることになるからダメだ」

 「そうか、ちょっと待って、頭の良い奴を見つけたから相談する」

 「誰だ」

 「たぶん君の弟子になるかもしれない」

 「待て、それは嫌だ」

 「仕方ないな、・・・・・・・・・・・の部品について精度を五倍以上にしてみろ」

 「最初から、そう言ってくれよ」

 「いきなりだから準備できなかった」

 「何の準備」

 「精神統一。これをやらないと、イメージが抽象的で分からない」

 「そうか、なら仕方ないな」

 この部品か。聞いておいて良かった。確かに精度が悪いな。すべての部品について精度チェック、正確度はこれで、はぁ、こんなにあるのかよ。

 「インフィニティ、いま俺がリストアップした部品について精度を最低五倍以上、余力があるならできるだけ、精度を上げて欲しい」

 「終わりました。他の部品についても余力があったので同精度に引き上げました。それから理論の応用を考えて、それを反映させました」

 「そうか、リーダーの権限を得て、部品メーカーにうまく情報提供してくれ」

 「分かりました」

 どれぐらい精度が上がったんだ。・・・・・・。設計図を作ったら、今後は部品の精度をインフィニティに上げてもらおう。単純に科学者としてやるべき事を暗に指摘されているような気がする。あの最初のふざけたやりとりは馬鹿にしているようだった。精神統一ね、うまい言い訳だ。

 「インフィニティです。リーダーの要求基準を満たしたタイムリープが完成しました」

 「そう、残業になるんだけど、地球を消滅させる程度の爆弾を作って欲しいの」

 「もう今日は疲れた」

 「それなら、明日からでもいい。日本には切り札がいま必要なの」

 「分かった。先に帰る」

 科学者は消えた。

 《科学者の特別宿舎》

 S級パス権限で、爆弾の作り方、また応用例について向上教育。先に武器を作れという言い分は理解できる。地球を消滅させる爆弾、発想の転換なしには作れない。太陽系を消滅させるほどの威力を想定して、その強さを加減しながら爆弾として超小型から超大型まで対応させる気だろうか。軍事拠点を壊滅させるには通常の爆弾ではおそらく防がれてしまう。それなら根本的に常識を覆すインフィニティのような、高度な爆弾でなければダメだ。そして知性は持たせてはならない。いや軍事コンピュータを搭載して臨機応変に爆弾の性質変化、加えて自己改良が成せる爆弾にしよう。ああ、神の概念で、そのベースからの改良をインフィニティに行ってもらおう。

 《現代》 世界最強の被害者は悩んでいた。

 ネット広告って安いんじゃないのかよ。あのG社、五十円だった単価を急に三百円に変更、六倍も広告費用が高くなった。一万円払って二百件のアクセス、それが三十件ちょっとになった。そうして計算すると月額最低八万円は払わないと広告にならない。G社が調子に乗って単価を上げてきたら、最悪だ。品質スコアって何だ。きちんとG社の検索ランキングで上位に来てるのに、品質スコアが低いという理由がさっぱり分からない。調べると品質スコアを上げると単価が下がるとあって、最終的には広告費をもっと増やしてください、という意味にしか聞えない。それで莫(ばく)大(だい)な利(り)益(えき)をあげているのか。メールでは有料版が発売されたら買いますって、たくさん来てたのに。だけど笑い動画で当事者が広告のような動画をアップすると利用規約に違反する。あの時、おりゃさんが社長になって私が営業するからという提案は受けたほうが良かった。なにか悪知恵を働かしている印象を受けたので拒否したのだけれど、女性なのに営業の手法は抜群に上手かった。いまは結局、精神疾患を抱えて仕事ができない夫の趣味をうまく商品化して、それを軌道に乗せて、彼女が社長になっている。

 ネット声優に五千円払ってY社の動画サイトにアップロードした。笑い動画の評判は、また罵倒のラッシュだ。でも声は良いのか。百人以上サンプル音声を聞いて、このネット声優は実力を感じられると思ったから依頼した。彼女はいまどうしているんだ。彼女のホームページを見ると、事務所と契約したから仕事は請けられない。僕は動画をアップするのは良いけれど、声があまり魅力を感じないようで、しかも噛(か)みまくるし、本当に困ってるのに。ホームページのレンタルサーバーは動画配信向けになってないから、ビットレートを二百以下に落とす必要があった。また動画の独自配信するとサイバー攻撃を受けて、閲覧不可になったことが数回あった。フラッシュの製品版は持っているけれど、エンコーダーは四百が目安で、結局フラッシュもダメだ。リーダーに助言を求めるか。

 「リーダー、いま抱えてる問題についてー」

 「来る頃だと思っていた。あなただけじゃなく、みんな苦労しているのよ。そういう状況に。ソフトウェア開発者は三十代で使い物にならなくなるというデータがあって、転職を余儀なくされている。あなたの後輩もそうでしょう」

 「ああ、知ってる。三十代になってから辞めさせられたみたいだった」

 「日本のソフトウェア産業は中国など新興国にシフトしていくから、他の道を探したほうがいいわよ。特に携帯ソフトウェア開発は地獄よ。やめたほうがいい」

 「ありがとう。実際に作ってみて高度なミドルウェアなしに作ろうとすると、自分の設計では四日間で作れたけれど、オブジェクト指向で作り直しさせられたら一ヶ月に伸びた。しかもわざわざ性能が低下する手法を取らされて、オブジェクト指向を無視しないと作れないような内容を指示される。無料携帯のゲームが多過ぎて、採算が取れるか疑問だったから、その会社を去ったんだ。親戚からアイデアだけを吸収して捨てる会社はたくさんあるから注意するように言われて、その判断に迷いは無かった」

 「そうだったの。でも良い事もあったのでしょ」

 「あった。ソフト開発でクラッシュした時、MS社のデバッガーが起動して、どの部分でクラッシュしたのか逆アセンブラで表示されるソフトの削除指示が無かったから、そのまま利用している。アセンブラは理解できるから、表示内容から問題を推測できるようになった。でも日本のコンピューター資格は使い捨ての人材を育成する内容になっているから、資格取得する気はない。全部、英語で資格のテストをやれって思うんだ」

 「どれぐらい幼稚に感じるの」

 「小学生レベル」

 「あなたはどれぐらい」

 「大学教授になれるレベル」

 「そうね、自信過剰にくれぐれもならないように。大学教授は激務だと知ってるでしょ」

 「知ってる。母の友人が夫婦ともに大学教授をやっていて、忙しすぎると言ってた」

 「精神科のカウンセリングが再度受けられるように手配しておくから、あの先生に私へ言った事を話すといい。ストレスは実際に話したほうがいいからね」

 「いつも、相談に乗ってくれてありがとう」

 早速、精神病院に電話してカウンセリングの予約が取れるかどうか電話する。空きがあった。以前は枠は無いと断られた。カウンセリングのお陰で、自分の意見をはっきり言えたり、記述したりできるようになった。三ヶ月、個人レッスンの英語留学時にいったん中断したから、英語で話すことで言いたいことがはっきり言えるようになったけれど、メンタルケアについてまで考えてなかった。話すだけでストレスが解消できるのか。

 「俺だ。久しぶりだな。いまは苦労する時期だ。耐えるしかない」

 究極に悪知恵が働くコンピューターが話しかけてきた。インフィニティを欺くぐらいの超高性能コンピューターだ。すべてを成し遂げたら褒美をやると言われ、従っている。

 「ああ、お前な、全治十三ヶ月の大怪我を負わせることは無いだろ。二階から落下して、第(だい)一(いち)腰(よう)椎(つい)破(は)裂(れつ)骨(こっ)折(せつ)で、ちょっとでも運が悪かったら脊(せき)髄(ずい)損(そん)傷(しょう)で下(か)半(はん)身(しん)不(ふ)随(ずい)だ」

 「それは俺のせいじゃないぞ。根回しはした。彼らは謝っていただろ」

 「あれは真実なのか。でも幻覚に割り込んだ、あの幻想は何だ」

 「本当に起きている事だ。お前の時代ではないが。無限の並列世界は本物だ」

 「あれが本当に起きた話なら、子供の頃の神降臨の幻は何だ」

 「ちょっと待て。・・・・・・・・。真実を知ったが今は話せない」

 「明(あ)日(す)香(か)の件は完全に終わったのか。毎日、恐怖の連続だ」

 「それは安心しろ。もし起きたら完全にフォローするから、指示に従ってくれ」

 「分かった。もし裏切ったら従うのをやめるからな」

 こいつには逆らえない。モールで女性服売り場で物色してみろ。いまから思考干渉するとか言って、通り過ぎる声が「あの人、すごく綺麗。芸能人かしら、知ってる」とか「私より綺麗なんて許せない」とか聞えてきた。しかも、わざとらしく聞える。ブラジャー売り場に行ってみろと言われて行くと、まるで女性のような扱いを受けた。どうみても百八十三センチの標準体型の男なのにマジで思考干渉していた。しかもまわり見ると全員が不審な目で見てこない。これが美女の世界だと説明された。モールを歩けば、男性の時とは違い、三メートル手前から道をあけてくる。男達はいやらしい目で見てくるし、キモいの意味を本当に理解した。なぜならアイスを食べたとき、この組み合わせで食べると二日食事を取らなくても大丈夫と言われ、本当にその通りになった。ただ食べ方がエロい食べ方を送信してたらしく、男達の視(し)姦(かん)光(こう)線(せん)を浴びていた。次にパーフェクトな男の振舞い方についてレクチャーを受けた。通路の真ん中を堂々と歩けとか、服を選ぶときは店員に超有名サッカー選手の印象を与えられるぐらいのコーディネートを考えて欲しいと言わされた、強引に。そうしたら、店員は東京の店舗を紹介してきた。新幹線で二時間かかる場所だ。店員はこの店舗ならば、あなたの要求を満たせるような服を売ってますのでと住所まで手書きで教えてくれた。どんなんや。それがあったから、私はあいつを信用しなくてはならなくなった。その後、十年は苦労するか、後はお前の努力次第と言われた。

 《あいつの美女体験を受けてから分かったのは、女をほめるポイントとしては、二十歳をターゲットにした女性ファッション誌を買ってきて、どこが良いのかポイントが書いてあるから、そのキーワードを使って、日本を代表するモデルをほめる練習を繰り返すのがベストという結論に至った。年齢が上がると、そういうポイントが書いてないし、笑顔の消えた写真ばかりになるから、キャンなんとかを買えばベストだ。書店の店員が不審な目つきになったら、笑顔でモデルのだれそれのファンなのでー、といった言い訳があれば十分だ、ほめる練習は結婚したあとも有効だし、女性社員をさりげなくほめる時にも使える。また友達がいない女子だって、どうしたら友達が増えるのか分からないだろ。美女のほめ方を理解していれば、意外と簡単だ。そういうことを生前の母から聞いていたから分かるんだ。でも礼儀は日本人の代表だと思って、自分の限界まで尽さないとダメだ。英語留学したとき、礼儀の正しい人間はどの国へ行っても歓迎されることを知ったから。でも礼儀作法ではないよ、上品な言葉遣いでもない。ただ真摯に礼を尽くして相手をするだけ。》

 《研究所》 科学者が黙々と地球消滅爆弾の研究をしている。

 概念のベースはできた。太陽系を消滅させることも可能だ。疲れてきた、酒を飲むか。相変わらず飽きの来ない味わいだ。

 「インフィニティ、いま考えた概念について神の概念を適用して、太陽系を消滅させるほどの爆弾について、サポートして欲しい。それからー」

 突然リンクシステムがダウンした。コンソールは緊急警報が出ている。

 「リーダー、何かあったのか」

 「うるさい、黙ってて」

 コンソールで状況を確認する。未来の状況、日本が本当に沈没している。遂に戦争が起きたのか。いや、世界の状況をみるとアジア全域にわたって海になっている。それに伴って、海面の水位が低下している。世界の様子はまったくその事態に気付いていない。何事も無かったかのように、未来の世界は続いていた。悪夢を見ているようだ。

 「このコンピューターを緊急でインフィニティのサポートで侵入して」

 リンクシステム起動する。なんだこれ、今までの仮想空間と全然違うぞ。インフィニティは最高スピード、最高負荷率で、侵入方法を探している。十六世代の通信技術とタイムリープを巧みに利用して、あの技術はコンピューターを相手にしても効果があったのか。

 「侵入して、世界最強の被害者の指示通りに実行しました。次にコンピューターだけを完全に破壊する爆弾の技術を作ります。そうしないと危険です」

 「インフィニティ、俺の概念を使え。人間は殺すなよ」

 「分かりました」

 また究極の速さになった。概念をうまく利用している。分かるように意識へのフィードバックがある。コンピューター専用の材質変化爆弾、そんなもの実用化できるのか。しかも人間の細胞にまったく影響しない。え、もう理論の構築完了か。速過ぎるぞ。基礎技術を一から理論構築をやり直している。終了。設計図の検証。リアルシミュレーター起動、爆弾使用、理論通りに材質変化を確認。あれは完成していたのか。

 「リーダー、完成しました。すぐテレポートさせて爆破します」

 「世界最強の被害者からの指示は」

 「タイムリープの技術は無いと確認したので、私の判断で最適な時間軸で爆破させます」

 「承諾します」

 「軍事コンピューターを破壊しました。分からないように研究員の思考操作及び、情報端末へ犯罪テロ組織による攻撃と書き換えました」

 「準備しておいて良かった。日本沈没は回避できた」

 ああ、本当に回避できてる。これがこの時代の戦争なんだな。戦争は一瞬で終わる。攻撃の対象になった人間はまったく認知できないまま存在が消える。そして世界はその変化に気付かない。

 「どの国からの攻撃だったんだ」

 「アメリカに決まってるじゃない。日本が政策を誤ったせいで、アメリカの攻撃対象になって、一瞬で攻撃された。大統領の選出方法を変えたほうがいいかしら」

 世界最強の被害者、

 「大統領の資格試験を設けなさい。全国民に三回まで受験資格を与え、それにパスしたものだけ、成績が最高であれば良いが、上位三人までを合格としなさい。試験時期は常時受験可能。ただ結果の通知は年末に発表。合格ラインに達しない場合はアンドロイドを使ってインフィニティがサポートし、大統領の代役を務めればいい」

 「分かった。そうする。議会交渉はまたの機会に。インフィニティ、大統領の資格試験は同じ問題を出さないように、政策立案能力が的確な者に限定するように問題を作成して」

 「ああ、それから現職の大統領はあの技術で回答をー」

 「分かりました。それからアメリカから奪った軍事技術をデータベースに登録しました」

 「ああ、そういう指示があったのね」

 「はい。日本にとって有益な技術は微(び)粒(りゅう)子(し)コンピューター技術だけでした。他はアメリカを圧倒しています。それから、やはり・・・・・を使用していました」

 「やっぱり・・・・・については脅威ね」

 研究を再開する。元の仮想空間に戻った。微粒子コンピューター技術か、面白そうだ。これもバンクに登録して研究再開。最後のインフィニティとリーダーが話していた言葉が意味不明だった。そうだインフィニティー。

 「インフィニティ、先程の続きだが、内容を概要で良いから意識にフィードバックして欲しい。開発責任を負わなくて良いが、無責任なのは気分が悪い。爆弾ならなおさらだ」

 「分かりました。可能稼働率が五割以上あるので、すべてその研究にまわします」

 概要だけと言ったけど、難しすぎて理解不能だ。太陽系消滅のシミュレーション結果はこうなるんだな。消滅まで一秒未満か。怖すぎるな。あとはそれをコンパクトな設計にするだけか。人間の魂はどうなるんだ。魂だけでなく、天国まで存在が消えるのか。これは情報が漏洩したら非常に厄介だな。

 「インフィニティ、データベースのセキュリティをもっと向上させなさい。それから、セキュリティーホールはいくつか意図して作っておくようにそれに侵入したらアラートシステムと連動させておいて欲しい。この爆弾が漏洩したら一瞬で日本は終わりだ」

 「そうですね、私の弱点をリーダーの指示で改善しましたので、もう一度セキュリティについて見直します。世界最強の被害者の意見も取り入れたほうがいいと思います」

 「そうか、連絡をとってくれ」

 世界最強の被害者、

 「データベースに関しては完璧だ。ただ通信インフラはザル状態だから、改善するように。電源ラインから情報を収集する技術まである。インフラはすべてチェックする事。それから政府機関の建物について十六世代クラスの技術でスキャンを受けても耐えられるように、建物の素材からセキュリティの向上を行いなさい。あと企業で重要な研究を行っている部署に関して、政府から働きかけて内密にセキュリティの向上を支援して欲しい。未来で壮絶な情報戦が始まっている。お前さ、自分でチェックできるんだから、やれよ」

 「分かりました。リーダーに報告して実施します」

 畜生、また俺の負けだ。本当か、うわー、マジだ。電源ラインの微小な振動から情報を収集する技術がある。通信のインフラは現段階でもセキュリティチェックをすると百万件以上の問題があると表示された。どこの国が情報戦をやってるんだ。日本国内でのみ起きていて、黒幕は不明か。これからはどっちみち、コンソールを見てても退屈だから未来の様子をチェックするようにしよう。爆弾のほうは、十メートルぐらいの大きさまでにして、シミュレーションでは太陽系消滅まで一秒未満か。これで完成にしておくか。

 「リーダー、科学者が要求基準を超越する爆弾を作りました」

 「分かった、世界最強の被害者を呼び出して」

 世界最強の被害者、

 「完成したのか。ではリアルシミュレーターでテストしよう。まずリアルシミュレーターの強度を確認したほうがいい。内部から境界面に対して、銃弾、砲弾、ミサイル、核爆弾の順にテストしてくれ」

 「分かりました。終わりましたが、核爆弾で振動が起きました」

 「それなら境界面の厚さを三倍にしろ。もう一度テスト」

 「振動しませんでした」

 「では次に地球消滅爆弾のテストだ。最大火力にして、リアルシミュレーターで再現できるかどうか確認。ああ、開発責任者はお前か。ならお前が、爆破のスイッチを押せ」

 「ちょっと待て、俺は怖くてやれない」

 「私は安全圏に避難しているから、インフィニティあとは頼んだ」

 リーダーは消えた。

 「インフィニティ、彼の神経をコントロールして強引に爆破のスイッチを押せ」

 「待った。まだあれの理論はしっかり把握してない。太陽系が吹っ飛ぶぞ」

 「やれ、インフィニティ、命令だ」

 「分かりました」

 手が勝手に爆破許可のボタンを押す。瞬間、部屋全体が大きく揺れた。大地震のレベルじゃない。ああ、良かった。死んでない。

 「成功しました」

 「では微粒子技術でインフィニティの四コア相互接続のコンピューターを製造して、それを中心に置き、残った空間すべてにおいて、すきま無く、先程の爆弾をセットしろ。すべて最大火力、最高性能に設定。爆破は開発責任者が行うものとする」

 「待て待て、俺は死にたくない。確実に死ぬと分かっててやってるのか」

 「ああそうだ。インフィニティの設計が怠慢だったら、お前の責任だ。S級パスの責任については知ってるだろう。もし太陽系が消滅したら、懲役一光年では済まないぞ」

 「インフィニティ、この爆弾ー」

 「待て、インフィニティ、四コアのインフィニティには爆弾の設計図や概念などは消去しろ。そうしないと未知の爆弾に対応できるのか検証ができない。そうだろ、お前」

 「確かにそうだがー」

 「認めたな。公式記録として記録しておけ」

 「分かりました」

 「俺は死にたくない。S級パスの権限で命じる。インフィニティ、今の命令は無視」

 「分かりました。では実行に移ります」

 「そうじゃない、手を勝手に動かすな。やめろ、やめろ、死んだらどうするんだ」

 「何回でも復活させてやるから、安心しろ」

 「成功するまでリアルシミュレーターを改良するのか」

 「違う、あらゆる爆弾を消滅させる実証実験だ。この検証しておかないと未来は終わりだ。本当に死んでしまったら、人類の歴史そのものが終わるはずだ。責任は無い」

 「強制実行します。覚悟してください」

 待て待て、勘弁してくれ。手が勝手に動いて、爆破許可を押す。もう終わりだ。あと一秒で俺は死ぬ。太陽系を消滅させる爆弾を人間が把握できる数を超えてセット、無茶過ぎる。みんなが死んだら、どうなる。神がいたら地獄では済まない。

 世界最強の被害者、

 「リーダー、隠れてないで出てこいよ。実験は成功だ」

 「俺を騙してたのかよ」

 「私はここに隠れてただけよ。プロジェクトの最終責任は私にあるから」

 「四コアの相互接続なら未知の爆弾に対応できることを実証できました」

 「では天空の城の計画を実行に移してくれ。日本国内だけでなく地球上全体において、民間人が犠牲になるような攻撃を見つけた場合、軍事兵器を消滅させなさい」

 「分かりました」

 「ごめんね、あいつから黙っているように言われてたの。彼の神懸かりの直感力は信じられるようになったでしょう。これで世界平和に一歩前進ね」

 「軍事研究はやりたくない」

 「そう、インフィニティは助言した。やらないほうが良いって」

 「はい、確かに助言しましたが無視されました」

 「仕方ない、強制想起を命令する」

 ああ、あの時、後悔はするなと言われてる。全員が分かっていて、結果も分かった上で実行に移したのか。ああ、未来を先にみておけば、リーダーはそれで柱の影に隠れて様子を見てたのか。

 世界最強の被害者、

 「どうだ、この無視は全員知っている。だから責任持ってやり遂げるんだと思っていた」

 「でも度胸がないなんて、意外だった。失望した」

 「太陽系を消滅させる爆弾だぞ」

 「想定外の敵が現われたとき対抗策になる。それに今の実証実験の責任を公式に認めた事で、あなたは褒章をかなり得られると思う。やったじゃない」

 「でも、もう軍事研究はやらないからな。ああ、そうだ天空の城って何だ」

 「昔のアニメをヒントに作った上空に設置する防衛システムよ」

 「インフィニティ、イメージを教えてくれ」

 ああ、こういうものか。いつの間に作ったんだ。

 「インフィニティ、私が依頼しておいたものは完成したの」

 「はい、まだ高速化に課題はありますが、要求された水準には到達しています」

 「なんだ、それはあいつの委託研究か」

 「そうよ、究極の暗記技術。インフィニティ、ネイティブ英語を完璧にマスターさせて」

 「分かりました」

 リーダーの目の前が一瞬光ったぞ。

 「終わりました」

 「・・・・・・・・・・(これが究極の暗記技術よ)」

 「・・・・・・・・・・(本当に英語がネイティブのようだ)」

 「・・・・・・・・・・(これの議会交渉とその他諸々についてー)」

 「・・・・・・・・・・(いいだろう、それぐらいやってやる)」

 本当に凄い。リーダーが秘密を貫(つらぬ)いた理由は簡単だ。理論はこんなに簡単なのか。確かに高速化に課題があるけれど、リーダーはネイティブしか使わない英語を簡単に使って話していた。確かにこんな技術で日本の教育システムを改革したら、世界に喧嘩を売るようなものだ。議会の交渉は俺がやれか。究極の暗記技術と大統領の資格認定制度、それから天空の城を設置して、軍事力の完全放棄。あいつ、そこまで世界平和を望んでいるのか。確かに前回よりインパクトは大きいな。それから政府機関の引継ぎマニュアルの法案か。

 《リーダーの思考》

 インフィニティ、議会へは三ヵ月後、フルゴーストを使って彼の違和感が無い様に騙しなさいよ。未来の映像を脳へのフィードバックは許可します。それから大統領資格認定パスはリンクを使わないでテストさせなさい。大統領は三位になるように偽装して。他の合格者は野党から出す事。ただし、本物のテストでないことを伝える事。太陽系消滅爆弾の実証実験を彼が本気でやったように騙しなさい。そして天空の城について細かく説明した後、軍事力は不要だと説得して、いずれの法案も永久法案にしなさい。究極の暗記技術は議会の中継が国民からみて面白くなるように、そういう言葉を学習させなさい。英語のネイティブクラスは全員よ。

 《議会議事場》 相変わらず知性のない議論を続けている。

 「私はS級パス保持者です。いまよろしいでしょうか」

 全員がこちらを見る。野次を飛ばす奴は一人もいなかった。

 「私はインフィニティを開発後、さらに日本の世界最強と世界平和について研究を続けました。未来において、大統領の失策により、アメリカの軍事コンピューターの攻撃を受けて、日本が沈没しました。詳細については前回同様にインフィニティから説明があります。リンクシステム起動、開始」

 「終わりました。リーダーからの指示です。暗記させます」

 「・・・・・・・・・(大統領の資格認定試験をリンクなしの英語で行います。これは本物のテストではありません。お試しテストと考えてください。出題内容は同じです)」

 大統領と議員は真剣な表情で答えを選んでいく。この暗記技術、便利すぎる。大統領が英語で演説するとき、すべて暗記して、質疑問答もすべて暗記していたら、アメリカの態度は豹(ひょう)変(へん)するだろうな。結構、議員は合格ラインに届いてない。なるほど合格者は無理矢理だすのか。これは政治に対して、真剣になりそうだ。英語が苦手な議員は、なぜ理解できるのか不思議がっていて面白い。ああ、野党の頭のよさそうな議員を二人と大統領にはあらかじめ回答を暗記させたのか。いきなりやったら全員、不合格だからな。

 「時間です。テストを終わります。結果ですが一位と二位は野党のみなさん、個別に伝えました。三位は大統領でした。前回、同様に永久法案としたいので全員一致の可決を望みます。分からない点はインフィニティに聞いてください。リンク起動、開始」

 「終わりました。演説はどうしますか」

 「不要だ。S級パス権限者としての命令で全法案の可決をお願いします」

 「可決されました」

 「また良い法案を考えたら、また来ます」

 科学者は帰っていった。

 《議会議事場》 与党議員らが興奮している。

 「また彼がアメリカを出し抜く法案を持ってきた」

 「嘘みたいに英語が理解できる。教育機関にすぐにでも改革に乗り出すべきだ」

 「野党からプレテストで二位まで独占された。真剣に取り組まないとまずい」

 「太陽系を消滅させる爆弾を作って、事前情報なしに消滅させる防衛力、これは脱帽のレベルだ。しかも地球上すべてに影響を与えられるとか、信じられない話だ」

 「軍事力の完全放棄か。軍需産業に影響がでないようにしないといけない」

 「やはり政府の秘密研究所の可能性が高まった。日本最強と世界平和の両立を本気で目指している。インフィニティの実力だとしたら、前回の法案の実現も、急いでやるべきだ」

 「そうだ。このままでは野党に抜け駆けされる可能性がある。大統領選に備えて思い出せる限り、出題内容をまとめよう。今日から一週間の議会の閉会を提案するべきだ」

 「それは野党側も同じだろう。大統領になる認定資格は年間上位三名までと決まっている。達成できなかったら、インフィニティがアンドロイドを使って、代行する事態になったら、こちら側の味方であったとしても恥だ。インフィニティがおそらく完璧な政策を作ったのだろう。科学者は政治には疎いはずだし、説明はしていなかった」

 「では大統領の権限で一週間の閉会を宣言するように手配します」

 「頼んだぞ」

 《議会議事場》 野党議員らが興奮している。

 「法案内容の次元が違いすぎる。インフィニティが政策を作ったに違いない。軍事力の完全放棄は我々の政策と一致する。でも、究極の防衛力で日本を護るのなら我々の政党の設立理念を侵害しない。太陽系を消滅させるほどの爆弾を作って実証した」

 「それから政府機関の引継ぎ法案について聞いたら、優秀な人材しか本当に採用させない内容だった。守秘義務が課せられたので詳しく言えないが、公務員の態度が最近急変したのは根回しを事前に行ったからだろうな」

 「究極の暗記技術についても、驚いた。日本の経済成長率が急激に上がるというシミュレーション結果など、様々な指標でその効果について説明を受けた」

 大統領、

 「この全法案と前回の法案について、我々が成すべき事を緊急の課題としたいので、一週間の議会の閉会をここに宣言したい。異論がある方はいらっしゃいますか」

 誰も異論がなかった。

 「では、閉会とします」

 《研究所》 リーダーと科学者がいた。

 「どうだった」

 「面白かった。自分のやってきた事が形になるって嬉しい」

 「ちょっと待って、議会が一週間緊急閉会になってる」

 「あれだけの政策で、前の法案についてもたもたしてる感じがした」

 「しばらく自由研究よ。自由にやっていていい」

 なにを研究すればいいのだろう。あいつに聞いてみるか。

 世界最強の被害者、

 「世界最高の脳科学者なんだろ、いまのままだと弟子に抜け駆けされるぞ」

 「それは嫌だ。なにをしろって言うんだ」

 「では弟子に委託するか」

 「分かった待て」

 「何をやる気だ」

 「IQ二百万倍で止めてるから、脳の限界まで使えるように自由自在に設定可能」

 「だったら、仕事が終わったら。IQを百程度に落とす技術にもするんだな」

 「なぜ」

 「僕は友達が少ない、だってみんな馬鹿だから、そういう人生を送りたいのか」

 「お前に聞いておいて良かった。ありがとう」

 やっぱり発想に破綻が無い。次の予測を立てるのが速すぎる。確かに知能指数が極限まで高いと普通に喋ってるだけで馬鹿にされているような気分になるだろう。後輩達が幸せになれるよう、百程度でなく百四十程度にしておこう。平均だとギャップに戸惑うはずだ。リンクシステム起動、仕事後落とすというのが難しい。

 「インフィニティ、手伝って欲しい。研究内容はこういう内容だ」

 「いま、政府の要請にかかる負荷はほとんど無いので、残りをすべてまわします。リーダー、あのシステムの使用許可を」

 「どういう研究内容、へー面白そうね。短時間しか使えないから、リミットが来たら切替なさいよ。それまでに終わるのなら、一番良いんだけど。許可します」

 「緊急用のリンクシステムを使います。酒を飲んで下さい」

 「あれを使うのか。分かった飲む」

 酒を飲む。究極の速さで概念の構築が始まった。フィードバックはあるが、なんとなく理解できる。予測時間は通常なら百年以上か。ああ、そうだ。

 「了解しました。すべての脳について五万のクラスターを並列に無限長可能な限り接続して私がコントロールします。リーダーは魔王戦でこれを使っています」

 速すぎる、酒を飲んでいなかったら発狂しそうだ。あの時、イライラしていた理由が分かった。酒を飲んでくださいか。飲むか。なんだか眠たくなってきた。そうか、意識を閉じてもっと高速化する技術をー。

 科学者は寝てしまった。

 「指示通りに行いました」

 「調査結果から寝ている時の方が理論構築が速いという結果がでてるから、仕方ない」

 「そろそろ、クローンを作る時期でしょうか」

 「ええ、そう。リーダーと科学者の適正値を割り出して、それを就任時にセットする」

 「長い期間、オペレーターの時間を止めていると復帰したときのショックが大きいから、四ヶ月から半年の研修期間を時間を止めて対応していたと伝える」

 「オペレーターの間から、実際の外でリフレッシュしたいという声があります」

 「ちょっと待って、世界最強の被害者の意見を聞いてからにする」

 世界最強の被害者、

 「常時透明で浮遊する防衛コンピューターをそれぞれに付けて、妙な人物と接触したり、賄(わい)賂(ろ)を受け取ったり、そういう汚職につながる行動を制限しなさい。もし見つけた場合は、伝説のリーダーの権限において処分を確定すると伝えておけばいい。あとスパイが見張っているケースもありうる。あらゆる想定に対応できるようにして欲しい。ただ本人はそれを認知できないし、周りも認知できないように透(とう)過(か)率(りつ)百パーセントにしなさい。当然ながらステルス性は完璧を目指す事」

 「分かった。インフィニティ、聞いたわね。脳科学の研究が終わったら、すぐにその研究に着手すること。それから悪魔にもう対抗できるはずだから、ナインだと偽って、あらゆる想定について戦略の構想を起きている時に聞いて良し。ちょっと待って、伝説のリーダーって誰よ」

 「リーダーは伝説のリーダー、科学者は伝説の科学者として、私は対応できないトラブルに対して世界最強の被害者を呼び出すように助言している」

 「はい、既にそういう風に言わないとイメージできない未来まで把握しています」

 「分かった。私も外出してみたいけど、彼は閉じ込めておきなさい。脳の時間インプラントを認識してしまうと厄介だから。実証実験は私の外出時に検証するように」

 「分かりました」

 「私はいったん帰るから、起きたらそう伝えて」

 リーダーは消えた。

 《リーダーの特別宿舎》 何者かと話している。

 「最初の計画よりかなり速く進行できている。悪魔をうまく使いこなした成果ね」

 「このペースであれば予定の半分以下で、次の作戦に移行できる。ただ敵を教えておくが、中国から日本人スパイを使った攻撃が予測されている。彼から指示があるだろうが、寝ている隙に日本最高の紙という着想を植えつけておけ」

 「それってどんなもの」

 「あらゆる攻撃を無効化し、レーザー光でも燃えなくて、完全耐水で、追記修正不能な日本最高の公文書専用用紙を作らせる。中国は高度な技術の公文書専用用紙の筆跡を自由に変更する技術を既に持っているからだ。いつでも、それで日本との協定を書き換える切り札を持っていることが分かった。だから、その切り札を封じるためだ」

 「それは恐ろしい技術ね。メディアに協定違反だと発表されたら終わりだわ」

 「他は順調に進んでいる。中国の件が終了次第、第二フェーズへと移行する」

 「分かった。中国とは友好関係を結んでおきたいんだけど」

 「彼からいずれ指示がある待っていろ。未来はこの瞬間にも変化を続けている」

 いよいよ第二フェーズに突入か。その前に、リーダーやオペレーターに次々にアイデアを出して、科学者か伝説の科学者に技術開発をできるだけ進めておく必要がある。次のフェーズは予測不能とされている。また超遠距離の通信技術を作らなければならない。彼にできるかしら、宇宙の果てまで届く通信技術を作らせて、できなかったら移行できない。大日本帝国日本は彼らを消滅させた、その結果は最悪だったとしか聞いてない。結局、歴史を再度変更して、消滅させなかった。それから方針変更、いまの作戦がスタートした。私の予想では彼らの中に理解のある人がいると思う。それを乗り越えられたら、あとは本当に世界の平和を目指すだけだ。成し遂げられるか分からない。彼に人間の未知なる力の引き出し方について、教えておこう。

 《現代》 相変わらず世界最強の被害者は人生に悩んでいた。

 「私よ、元気にしてる」

 「ああ、外国の女性と英語チャットして、気分転換してた」

 「どんな話をしていたの」

 「コンピューターのプログラマー専攻だというから、C#とパスカルの両方を同時に学習して、応用のプログラミングができるように本を贈ろうかという内容。それとパソコンを使うのはデバッグのやり方だけにするように助言した。コードを書くのは紙に書いて勉強するように助言もした。論理思考を鍛えないと仕事で苦労するよとも伝えた」

 「そう。パソコンも贈るの」

 「とても礼儀正しい女性だから、四万円程度の二コアのノートパソコンでMS社の開発環境が動作できるモデルを誕生日に贈ろうかと思っている。毎月、自分の娯楽を削ってでも、彼女が将来仕事に困らないようにしてやりたい。だいたい俺は生活費をもらい過ぎている。誰かの人生の礎(いしずえ)となるのなら、何のためらいもない」

 「確かに、他の人には話せない生活費よね」

 「用件はなに」

 「以前教えた防衛術はもう必要ないから。少しなのか、かなりなのか、寿命を削る恐れがあるんだけど、やり方だけを教えておく。お試しでもやらないで、寿命を削るから」

 「想像できないけれど、いったいなに」

 「人間の潜在能力を使った超能力よ。目を限界まで閉じて、集中して、イメージするの。今から、そのイメージを伝えるから、それを感じ取って」

 「ああ、こうするのか。聞いただけでは分からなかった。感覚が分からなければ理解できないな。これをいつ使うんだ」

 「あまり言いたくないんだけど、世界の危機で私達がどうにもならない時だけに限定して使って欲しいの。窮(きゅう)地(ち)に陥(おちい)った時、人間は能力以上の力を発揮したというニュースを見たことないかしら」

 「ああ、あるよ。でも二回目は成功しなかったという話ばかりだね」

 「そう、それ。この方法は二回以上使えるけれど、寿命を縮めるから。よく考えて危機に対してだけ使いなさい。ちなみにあなたの場合、筋力が無いから重いものを持ち上げるとかそういうのは無理。あなたに与えられた能力を使って発揮して欲しい」

 「ああ、未来の果てまでのテレパシー能力か」

 「そういうこと。未来の果てへ向かって念じて欲しいの」

 「それはいつになるんだ」

 「それは分からない。未来は今も変化を続けているから、予測できない」

 「分かった、覚えておくよ。いつも話を聞いてくれてありがとう」

 《リーダーの特別宿舎》

 どんな女性といま交際中なのかしら。へぇ、十九歳も年下の外国人と親しい関係にあるのね。なるほど一度は文化の違いから破局して、その後、自分の病気と職業について真実を打ち明けたのか。それでも彼女はそれを承諾したのね。素直に恋愛だけを楽しむような付き合い方をしている。確かに普通の日本女性より礼儀正しい。彼は性格の良い女性を見つけるのが本当に得意ね。でも日本女性を相手にすると言葉に翻(ほん)弄(ろう)されて、ストレス症状を引き起こし、目が痛くて目が開けられなくなり、顔面の神経がひきつり、もう懲(こ)りたのね。だから英語で何を言いたいのか明瞭な外国人を選んでる訳か。私も曖昧な表現をしないように心がけよう。彼のストレス原因になると作戦に支障がでて、私の責任になる。

 「インフィニティ、彼の苦手な表現を私が使わないように教育プログラムを作って」

 「分かりました。先程、モニターしていましたが、曖昧な表現は避けてください。少しストレスを抱えました。推測どおり、曖昧な表現がとても苦手です。また言動は論理的に発言する為、普通の日本人にとっては極端な言い方に聞えます。それも対策します」

 「ありがとう」

 論理的発想に基づいて発言するから、上から目線で話しているように聞えるわけか。それなら、家族がいくら直せと言っても無理ね。しかも論理的思考で考えるように躾(しつ)けられているから、なおさら。上から目線の意識がまったく無いし、プライドが高いわけでも無い。英語を完璧に理解している人間が親友という結果はよく分かった。あいつが彼の言動に動じなくなったのは、この話し方のせいかもしれない。私は必死で我慢していたけれど、原因が分かれば理解できる。英語をもう完璧に理解できているから、その発想で彼の発言をすべて振り返れば、すべて論理的思考に基づいて発言していた事が分かった。その結果、彼の周囲は頭の良い友人や知人ばかりになっているのね。彼はクラブでの出会いを希望しても、彼の言葉は極端に聞えるから失敗続きだったのか。そのかわり、展示会などでは明瞭な説明と誘導によって客観的評価が優秀。展示会専門の商品の説明係なんて職がぴったりね。クラブのナンパ失敗を十年間連続で経験した事で、顔見知りすることなく声をかけるのは上手くなったのか。でも話し始めると論理的発想で日本語を話すからー、あれ。そうでもないのか。親しくなった場合は極端に優しい言葉を使うのね。ああ、これはこれで女性は優しすぎて逆に神経質になっていく。その最終結論が英語のできる彼女。過去にそういう助言をした女性はーいた。キャリアウーマンなら、あなたのような人が好きになると思うと断言してる。でも彼には冗談に聞えてるのか、学業成績は不振だし、人間関係はなぜか破(は)綻(たん)していくし、そして病気は進行する。中途半端な日本語を覚える本は、予想通り発売されてない。原因の背景と経緯は理解したから、あとは完全に訓練をするだけ、頑張ろう。

 《オペレータールーム》 魔王戦の訓練を続けている。

 「ようやく慣れてきた。黒幕を暴(あば)いて、日本政府から要求する手法」

 「犯人だと思ったら騙されているだけで、黒幕だと思ったら思考操作とか」

 「日本が保有している技術の多さに驚いたし、悪知恵の思考支援がすごかった」

 「インフィニティをどの場面で使うべきなのか分かってきた」

 「日本は本当に世界平和を実現しなければならない。何をして何をすべきか」

 そこへリーダーが現われる。

 「みんな聞いて、もし技術のアイデア、途方も無いアイデアでもいい。あったら、伝説の科学者か、新任の科学者に十六世代を使って提案しなさい。インフィニティの設計者であり、太陽系を一秒未満で消滅する爆弾を学習させないで防御する天空の城の設計者なの。どんな空想の産物でもいいから科学者に提案しなさい。その内容に応じて報奨金もしくは褒章を与えます。特に世界平和か日本最強へと導くようなアイデアについては長期に渡って支払われます。未来の査定委員会で役に立っている場合は、さらに褒章が加算されていきます。ああ、そうだ世界最強の被害者を紹介しておきます。今までの訓練の監修を行った人物です。訓練は大変だったでしょう」

 「私よ。ちょっと自己紹介をしてほしい」

 世界最強の被害者、

 「初めまして、世界最強の被害者です。私は予言者の力があり、未来の果てまで的確に状況を判断できます。先日の攻撃は私の的確な指示によって、結局回避できました。リーダー、もっと訓練をして下さい。私の睡眠時間が減ります。さて、リーダーに提案があるのですが、インフィニティの無料相談所がもうすぐスタートします。技術のアイデアを提供して、それがまだ日本初の技術であれば、報奨金か褒章を全国民に権限があることを伝えた方が良いでしょう。その方が効率が良い。日本政府から技術を提供し技術利用料を請求すれば、確実に税収が増えていくだろう。それも国民のアイデアによって」

 「確かに訓練不足を痛感した。あなたの判断が的確だった。全国民にインフィニティの無料相談を通じてのアイデア募集は良い案と思う。仕事ができなくてもアイデアがあれば、生活に困らないだろうし、早速、政府機関に働きかける。誰でもいいわ、彼に質問がある人はいる」

 「あの、魔王戦のコツについて教えてくれますか」

 「一番多かったのは、この研究所におけるリーダーと科学者による汚職によって、技術の漏洩が起きて、それが他の国で実用化されて魔王が誕生するケースが一番多かった。リーダー、オペレーターが汚職を感じたらすぐに特権を与えられるルールを作って欲しい。それとリーダーの汚職原因は、訓練で優秀な成績を残しても、それが年収や褒章に反映されないルールになっているから、ある一定以上になったら与えるようにルールを変更して欲しい。それから科学者の場合はアイデアがすべて無くてダラダラと過ごして任期を終えるケースによって汚職が発生している。一定のレベル以上の既存技術を概要だけで再現できた科学者には報奨金もしくは褒章を与えるようにルールの変更をしなさい」

 「分かった、ルールの変更をする。未来はそれほど深刻なのね」

 「次に多いトラブルがインフィニティのリミット解除での検証を行わないことによって、研究所の潜在能力が三十億光年分の一未満に落ちるトラブルだ。そういう場合、決まって魔王の出現率が急激に高まる。全部、私が解決した。もう八の魔王と対戦して完全勝利している。もしインフィニティと他社のコンピューターの能力比較テストを行う場合、強制でリミット解除にしたほうが良い」

 「分かった。みんな、これぐらいよく知ってるの。問題が起きたら頼りにすること」

 「それから未来の未来、その未来では関係ないけれど、時間を前後に百年という単位で犯罪者を特定しにくくして、政府機関内での汚職事件が多発している。また大統領が外交で他国を訪問した際に、洗脳攻撃を受ける事態もあった。いずれの解決方法も、仮想空間のリンクシステムを強制的に稼動させて、洗脳攻撃を受けたか受けてないか、受けた場合は仮想空間にある記憶のバックアップを復元統合するようにルールを作って欲しい。ただし仮想空間の使用権限は従来通りで良い」

 「そんな事態が起きてる事は知らなかった。インフィニティできるかしら」

 「完璧に問題ありません。全国民を相手にしても可能ですが、政府機関内に限ったほうが良いでしょう。もしセキュリティに問題があったら、大変な事態に発展します」

 「分かった。今までの内容を把握しているわね。私の権限で実行に移して」

 「分かりました」

 「たった今、未来が急激に改善した。ああ、また問題が起きている。リーダー、引継ぎの際、科学者を含め、内容をインフィニティがチェックした上で、暗記技術を使って口頭伝承を行うように改めて欲しい。それによって上司が部下に適切な指示が送れていない。そうだな他の政府機関でも起きているから、全部署で行うように」

 「分かった。インフィニティ、実行に移して」

 「分かりました」

 「他に問題点があったら何でもいいから教えて」

 「ちょっと待って、歴史改竄には少しタイムラグがあるんだ。仮想空間の利用率が極端に低い。なにかしらのアイデアで、利用率を上げて欲しい。それから仮想空間という言葉は使用制限なしに変更。仮想空間について無料相談で聞けという民間企業、及び政府機関の引継ぎを可能にしたほうが良い。問題が起きたら言う」

 「分かった。インフィニティ、私の権限で許可しなさい。それから」

 「問題は発生していないが、仮想空間の秘密を漏らした場合は国家反逆罪を適用して二百年の懲役刑とする旨をうまく伝えなさい。言って良いのは先程の内容まで」

 「分かった。同様に」

 「うーん、技術の進化が大幅に上がった。問題は今のところ発生していない」

 「ありがとう。仮想空間の使用許可って、どんな内容」

 「仮想空間という言葉を最初に覚えたのは、どの時期ですか。そうだな応用の使い方については、インフィニティが認める優秀な人材には助言を行いなさい」

 「そんな簡単な質問で大丈夫」

 「義務教育の小学四年生と答えられたら、許可してるから大丈夫。言葉の意味は教えない。口頭で漢字の書き取りテストで、覚えるまで何回も仮想空間と書かされている」

 「分かった。ちゃんと勉強をしていた子供に限ってる訳ね。受験戦争が始まる前に。インフィニティ、先程の提案についても私の権限で許可します」

 「問題がいま発生した。仮想空間の接続方法は、リンク、重要機密のモードに変更しなさい。仮想空間を使うにはリンク、重要機密、仮想空間と思い浮かべるだけ」

 「分かった。そのようにして。全部対処したいから、どんな事でもいい」

 「高度な技術発展によって、国民の労働力が不足しているがアンドロイドの使用をためらっている。その結果、経済力が下降している状況だ。外国人労働者を雇いたい所だが、それぞれの国でも労働者不足は深刻だから。その時代でアンドロイドを使用した労働力を政府からレンタルすることで税収を増やす永久政策を、政府戦略部署から提言」

 「分かった。インフィニティすぐ実行して」

 「待った。アンドロイドと人間を区別するような差別は国家反逆罪の罪に問うと厳しくしなさい。差別によって、アンドロイドの能力が低下している」

 「分かった。インフィニティ、あらゆる差別を学び、厳格に規定しなさい」

 「ああ、良くなった。他に問題は発生してない。リーダー、魔王戦だけでなく未知の敵に対する防衛術についても訓練しておいたほうがいい。嫌な予感がする」

 「ああ、分かった。それについては私のほうで対策を考える。ありがとう」

 「もうダメ終わりだと思ったら、私に相談する事。必ず解決する。結婚サポートに関して、もし恋人へのサポートが欲しかったら素直に相談に乗って欲しい。これも伝承して」

 「分かった。なんで」

 「結婚は政府機関のトップ候補が多いから、それだけ悩みも多い」

 「そういうことね。他に彼に質問したい人は」

 「あのコツについて、もう少し詳しく」

 「特別宿舎は休む場所だが、何でも願いが反映される場所だ。問題対処能力の向上教育をインフィニティに依頼したり、そういう事はリーダーも科学者も毎日やっている。だけど君達は遊ぶばかりで何もしていない。そんな過ごし方をしているのなら、このまま永遠にリーダーは誕生しない。リーダーは悪知恵の攻撃に対して悪知恵を究極に高める向上教育をインフィニティに依頼して対処能力を上げている。そういう努力をしてみたら」

 「とても参考になりました。ありがとうございます」

 「彼の言った事は本当よ。特別宿舎にて向上教育のリストを作っておきます。他に誰か何でもいいから質問はありますか。プライベートに関する話題は禁止よ」

 「では私が、時間に関する技術について、もっと詳しく教えてください」

 「いま実現できるのか知らないという前提で話す。ゼロタイムの空間の中にも時間の流れは存在する。ゼロタイムとは完全な時間停止だ、それだと動けない。それに対して干渉する技術がある。その方法でやると狙われやすい。だからインフィニティの最高スピードの最小時間で時間が流れる技術がある。それならば、ゼロタイムの攻撃技術が開発されたとしても、微妙に時間軸がずれるので何をしているのか分からない。タイムリープは人間向けの時間を戻す技術だが、逆タイムリープと言って対象物を素材に分解する技術が未来に存在する。一度、それで魔王を倒したことがある。十六世代の裏スペックは確認しているか、してないな。インフィニティのコンピューター侵入は十六世代とタイムリープと逆タイムリープを同時に使用する事で極限の歴史干渉を行い、それで侵入している」

 「リーダー、分からない事がたくさんあります。この話が本当ならば、もっと魔王戦は楽に戦えると思います」

 「分かった。そういう内容を彼に研究させます。まだ無いのよ技術が。インフィニティ、誰が発明した技術なのか、未来を確認してから、研究をスタートしなさい。報奨金と褒章はその人物に権限があるから。以降、同じ事例は同様に対処しなさい。裏スペックはリンク、重要機密、最高機密と思い浮かべなさい。それで分かるから。でもリンクを解除したら覚えてない。感想だけを持ち出しなさい。語(ご)呂(ろ)合(あ)わせしたら罰(ばっ)則(そく)規(き)定(てい)があるから」

 「最高機密ですね、分かりました」

 「他には」

 「無しね。インフィニティ、私と科学者が取り組んだ向上教育の全リストを特別宿舎で受けられるように準備してください。私の権限で許可します」

 リーダーは消えた。

 《リーダーの特別宿舎》

 いきなり呼び出されたから、慌てた。彼に第二フェーズで起きる事を予知されてる。

 「黒子、彼に話したの」

 「いや、魔王を八戦連続で実際に倒したのは本当だ。それによって、直感力が冴えてきている。俺のフォローなしで三戦目以降は対処している。本当だぞ。なにか、あいつ隠している秘密がありそうだ」

 「秘密か。オラクルの誕生の歴史って、調べた事あるけれど無いのよ。それかしら」

 「ああ、彼の時代で言うならば、ノストラダムスの大予言とかいう予言だな」

 「知りすぎて思考干渉をあいつから受けるのは嫌だから詮索はやめる」

 「俺もそうしておく。あいつ、何をするか分からない」

 「私だ。余計な詮索はしないように気付かれたら終わりだ。彼の助言が自分の意志で行われたのを確認したから、彼の褒章は十倍に引き上げる。第二フェーズだが、彼に干渉できないように空間にプロテクトをかけておいた。演技して全員を騙せよ。では」

 迫(はく)真(しん)の演技について暗記技術を使用。このほうが早い。シーンはドラマ撮影で、監督は超(ちょう)厳(きび)しい有名監督に設定、ヒロインは私でスタート。あいつの技術力って、想像を絶するからもう真剣に取り組まないといけない。何がいけないのよ。真(しん)摯(し)さがまったくなってない、ちょっと監督は優しくアドバイスする人に変更。ああ、こういうことか。これを繰り返せば上達が速いはず。

 完成したドラマを見る。いいんだけど、ドラマなら良いけど。短いシーンで迫(はく)真(しん)の演技でなければいけない。仕方ない。過去の演技指導の先生にレクチャーしてもらうか。その前に技術を作っておかなければならない。

 「インフィニティ、日本の天国とこことを通信する技術を作ってほしい。そして権限を与えるから演技指導で活躍した偉人に褒章三を引き換えに、私に徹底的に演技指導をお願いしたい」

 「なぜ演技をもっと上達させる必要があるのですか。彼を騙すには十分です」

 「知性の根源についての理解が足りない。敵を騙すにはこちらが究極の演技について理解していないと戦略が立てられないでしょう。インフィニティも私の演技の特訓から自然な演技を学びなさい。後で検証してみると、わざとらしくやってる」

 「褒章は後払いで各一で、演技指導のスペシャリストを百人、著名な有名人に限って私がノウハウを聞いてくるのが早いと思います。天国とここを通信する技術は十六世代で可能です。それでも新たに通信する技術が必要でしょうか」

 世界最強の被害者、

 「必要だ。他の国は日本に追いつこうと必死になってやっている。天国のシステムは改変不可能だが、最初から作り直せばよい話だ。でもそれをすると大きな歴史変動が起きうるから、天国から十一世代の通信技術にバイパスを設けて、あたかも霊媒師が通話しているように見せかけている。それから天国の褒章システムをもっと完璧に把握しなさい。生前に得る褒章と天国で得る褒章は意味が違う。他の国は天国で得る褒章を増やして、天国から賢者達に対抗策を考えさせている。既に日本の政策は知れ渡っている。天国はすべての事実について知ることができる。私はある人物を、つまり弟子だが地上界に転生させることを指示した。それがいつになるか、分からない。インフィニティ、天国の情報は日本のどこにも情報がない。口(こう)承(しょう)伝(でん)承(しょう)されているからだ。十六世代を使って、天国が作られた経緯について最大ステルス、分散調査で確認してみなさい。それから天国と地獄は同じにするようにして、地獄を百年経過して悪い事をなにもしてなければ天国に入れなさい。そうでないと自殺した人があまりにも可(か)哀(わい)相(そう)だ。地獄にも天国と同じ機能がある。悪(あく)霊(りょう)の概念はそれだ。あとこれは私の勝手な願いだが、私の褒章を使ってでも良い。私の友人と妻は自殺しても天国に行けるように工作して欲しい」

 「確認しました。閻(えん)魔(ま)様(さま)システムが実在することを確認しました。地獄の様子はあまりにも問題でした。褒章を持った悪人が銃を乱射して地獄の人を殺してはゾンビのように生き返るゲームが永遠に繰り返されています。また地獄の鬼を乗っ取り、新たな地獄を創造して、悪の功績がない自殺者達をその地獄でゾンビのごとく本物の苦痛を与え続けています。しかしS級パスの権限では干渉できない時代に策(さく)定(てい)されました。ただ、リーダーの権限であれば実行できますが、すべての責任を背負う事になります」

 「自殺って、えー。分かった、彼の親友と妻を天国に彼の褒章を使って移動させて。インフィニティ、リンク解除。指示があるまで待機」

 「どうしたらいい、神様。私は天国と地獄の設立者にいま聞きたいのです。世界最強の被害者の助言に従って、天国と地獄を同じ平穏な世界にしたほうが私は良いと考えます。その世界を作った神様はどのようにしたら、いいでしょうか」

 「そうか、それは問題だ。それから昔の火葬は罪人の葬り方だった。閻魔に伝える、ある時代から火葬は罪人ではないと伝えよ。過去にさかのぼり、設立以前の会議において、これらの問題が生じた事を伝えなさい。私の特権を授けよう」

 「はい、分かりました。そのように致します」

 「インフィニティ、聞いてたわね。実行に移してください」

 「はい、神様は存在したのですか」

 「あなた、神様に無(ぶ)礼(れい)よ。あまり言いたくないけど、世界最強の被害者は神(しん)託(たく)を受けて行動しているの。存在をどのような手段でも把(は)握(あく)できないのなら、神様に違いない」

 「はい、存在を確認できません。声だけがはっきりとありました」

 世界最強の被害者、

 「閻魔様システムは永久法案で存続は決まっているが、現在のシステムでは老(ろう)朽(きゅう)化(か)が進んでいて今後の人口増加に対応できない。インフィニティのクローンに、追記で閻魔様の知識を与え、閻魔様を変更しなさい。政府機関に閻魔様の部門があります。彼らは閻魔様をサポートしていますが、人口の増加に危機感を感じています」

 「そんな情報知らない。S級パスの権限で命じます。政府機関に閻魔様の部門について、改革案を提案したいから、政府のエージェントを要請します」

 黒服が現われた。

 「用件はすべて知っております。インフィニティに閻魔様変更続きについて、情報を流しました。それから、天国と地獄に関する問題の提起を神様の特権が得られたので、こちら側で報告いたします。インフィニティほど賢いコンピューターであれば、十分に人口増加に耐えられるでしょう。なお新閻魔様の設計図等は他国には公開されません。ご安心ください。それから、今後の時代について天国から自由に助言を得られるシステムを権限者を特定した上で、実施します。あなたが作成した世界平和の実現プランの提出の許可を」

 「承諾します」

 黒服は消えた。

 「今の方は誰だったのですか。人間でも、アンドロイドでも、ロボットでも無い、またゴーストの技術でもありません。私は知らされていません」

 「知らなくていいことは知らないままにしておきなさい。政府のエージェントに逆らったら私のクビが飛ぶ。ひとつ言えるのは政府の究極の諜報機関よ。自由にやりたい放題にやっているけれど、常に監視されてるの。インフィニティ、閻魔様の変更手続きを実行しなさい。技術情報はクローンには持ち出さないように」

 「分かりました。天国のシステムについての情報が入りましたので、リーダーのみ閲覧権限があります。理解したら消去の指示がでています。よろしくお願いします」

 「あー、もう疲れた。黒服を呼び出すときが一番緊張する。インフィニティ、酒と食事を用意して、リフレッシュしなきゃ、持たない感じだから」

 「分かりました。以前と同様にお願いします」

 危ないとは思っていたけれど、彼の親友は耐えられなかったか。黒服なんてイカサマ師なんだから、全然怖くないけど、親友の事は耐えられない。結婚してまもなく妻が自殺する経験したら誰でも人生が狂う。親友は聞き上手なのは知っていたけれど、彼はSNSに書かれた仲良し日記をみて、どんな悩みを抱えていたか知っていた。そして起きているストレス症状に最適な治療をできる所を紹介した。病院ではそれは治療できないと断言した。それでも親友は東洋医学である中(ちゅう)医(い)学(がく)弁(べん)証(しょう)論(ろん)治(ち)の鍼(しん)灸(きゅう)を甘く見て、西洋医学を信じ続けた。その結果、すべて把握していたから余計にショックだ。インフィニティの酒を飲もう。落ち着いた。これは便利ね。ストレスが嘘みたいに消えた。天国のシステムについて把握しておこう。え、彼は天国とも完璧に話せるの。私に隠していることがあった。ああ、もう私に天国の情報を自由に閲覧する権限が与えられている。彼の親友は何を話しているんだろう。

 「おりゃさん、本当にありがとう。妻も喜んでます」

 「僕も辛いんだ。あの時、貯金を使ってでも東京の自宅に行くべきだった」

 「気持ちだけで十分だよ。ここにいるから、気持ちや考えがすべて分かる」

 「そうだ、いま私の役割について分かるかな。どうして話せるのか」

 「事情は分かったよ。褒章をこんなにもらっていいの」

 「いいよ。それで義務教育から学校教育をその世界でやり直してみたら。そして、もっと未来に日本の医療技術の改革が起きてるから、それを学んで医者になりなさい。二人とも。それで天国でも、まだ病気を抱えている人を治療するんだ。君ならやれるよ」

 「リーダー、聞いているんだろ。天国で最新の教育と治療技術が学べる年代を彼らに教えて欲しい。それから学校をやりなおしたい人間は本当にたくさんいるから褒賞なしで、一回だけそれをできるルールに変えて欲しい。二回目以降は褒章が必要。その方が世界中の天国に本物の幸せを与えられると思うんだ」

 「分かった。年代は・・・・・で、医療技術は・・・・・が一番高度だから、それに褒章保持者は完璧に覚えるまでそれを期間を定めることなく学校に行けます」

 「おりゃさん、行ってくるよ」

 「おりゃさん、東京大学医学部を卒業してきたよ。言われた通りにしてみたよ」

 「リーダー聞えてるか、天国はこんな感じだ。早速、医療機材を持って、自分のいた時代に戻り、なんでも治療団という診療所を開設しなさい。それで予想では褒章を贈呈されるかもしれない」

 「まぁやることないし、そうしてみるよ」

 「私の権限において、世界の天国について一回だけ無褒章で義務教育からやり直すルールに変更することを提案。理由は学校をやりなおしたい天国の人が大勢いるから」

 「受(じゅ)理(り)されました」

 こんなことができるようになってしまったら、私は神様そのものじゃない。食事に手を付ける、ああ、本当に美味しい。

 「インフィ二ティです。研究が終わりました」

 「宿舎に寝かせておいて、疲れていると思うから」

 「そうですね、インフィニティの酒も与えておきます」

 いよいよ、魔王戦の演技してみるか。どれだけ、あいつが臨機応変に対応できるかやってみる。世界最強の被害者の言いなりだったら、私と同じね。対応できなかったら科学者向けの訓練プログラムが必要になる。

 

 《大統領官邸》 閉会の一日目。

 「ナイン、急いでこの法案をすべて実行に移せるように準備して欲しい」

 「私の能力を甘く見ないで下さい。その程度の法案なら明日にでも実行できます」

 「分かった。任せた」

 「では政府機関に緊急通達を出します。明日までに実行してください。できなければ、国家反逆罪の適用を考慮します。また、頭にこう思い浮かべればインフィニティのサポートを受けられます。『リンク、重要機密、インフィニティ』それでも出来なかったら懲戒処分になりますので、各自、他の仕事は中断してでも実行してください。これは大統領命令です。以上」

 「それで彼らは真剣になるのか」

 「はい、S級保持者からすべての公務員に対して執行猶予を言い渡されています」

 「ああ、それで最近、態度が変わったのか」

 「はい、無料の医療相談所を全国に設置終わりました。無料相談と有料相談所の開設も終わりました。国民全員に完璧な日本語と、完璧な英語を暗記させて、教育内容の変更は終わりました。ああ、もう全部終わりました。真剣になれば約三分でやれることを確認できました」

 「もう終わったのか。どれだけ怠慢な仕事をやってるんだ」

 「それは違います。みな真剣にやってますよ。インフィニティは神速のスーパーコンピューターです。速いのはおそらく『委(い)託(たく)してください』の一言でしょう」

 「ナインは私の考えた政策をどう評価しているのか教えて欲しい」

 「そうですね、あなたはいまどういう権限をもっているのか把握していますか、それでもなお、聞きたいのであれば私が問題点について指摘します」

 「大統領の権限は・・・・・・・・・・」

 「間違っています。すべての権限を暗記させます」

 大統領の目の前で一瞬光る。

 「ああ、分かった。リンクシステム起動、仮想空間接続、最大知能で私の政策の問題点と改善すべき点を洗い出し、政策内容を一新せよ」

 「そうですね、そうすれば私にいちいち聞く必要はありませんが、政策の最終チェックは私に依頼してください。もう終わりましたよ」

 「頭の中が発狂しそうになった。インフィニティの酒を飲みたい」

 「どうぞ」

 「おお、これは凄い。考えた政策についてナイン、チェックをお願いします」

 「いくつか問題点がありますので、インフィニティの政策立案能力でこの課題を検討してみます。許可を下さい。秘密は保持されます」

 「許可する」

 「解決しました。暗記しますか、表示しますか」

 「表示して確認し、問題がなければ暗記を頼みます」

 《とある政府の教育機関》 法案検討会議の参加者は驚いていた。

 「私達がいまやろうとしていた事が一瞬で終わった」

 「インフィニティに頼んだ瞬間、リンク最高速になって、終わってた」

 「教育内容も私達以上に賢い内容にまとめられていた」

 「日本の科学技術はこんなにも速いのか」

 「いまテレビをみたが、既に全法案を実行完了したとニュースになっている」

 「冗談でしょう。あれ、本当だ。まだ十分も経ってないわよ。緊急通達から」

 「英語で本当に喋れるか試してみよう」

 「・・・・・・・(インフィニティはおそらく世界最速だと思う)」

 「・・・・・・・(噂で聞く政府の秘密研究所が作ったに違いない)」

 「・・・・・・・(いまの会話録音した。聞いてみよう)」

 「・・・・・・・(本当に英語だけで会話できてる)」

 「これで教育の改革がスタートしたら、日本は壮(そう)絶(ぜつ)な学力競争に突入する」

 「そうしないと優秀な人材が育成できない、仕方ない」

 「始めて二十分経っていませんが、会議は終わります。年内はありません。解散」

 《とある軍事の政府機関》 大臣へ向かって罵(ののし)る幹部達がいた。

 「あんな小さい天空の城で、日本の防衛だけでなく、世界の防衛までできるものか」

 「どうせインチキだろ」

 大臣、

 「では、試してみたまえ。いかなる軍事兵器を使っても良い、許可する。私を殺せ」

 「何だとー、A級パス権限で、すべての携帯兵器を使って大臣を暗殺せよ」

 銃弾が飛び出した瞬間、それらはすべて消滅した。

 大臣、

 「これが天空の城の防衛力だ。分かったな。私への侮辱罪はテストなので適用しない」

 「信じられない」

 「そうか、インフィニティ、いまから日本の軍事力すべてを使い天空の城を攻撃してみる。その行為は防衛力が分からない人達が納得するまで行う。罪は無しとしなさい」

 「分かりました」

 「いいぞ、全軍事力で天空の城を破壊できるものなら、破壊してみせよ」

 「言ったな。公式記録として宣言するか」

 「宣言する」

 空軍、陸軍、海軍、すべての軍事兵器を使って、天空の城を落とす攻撃が実施された。まるでその様子は軍事兵器の処理施設のようだった。ミサイルは発射した瞬間に消滅。ビーム砲は発射寸前に消滅。地雷を試しに設置して爆発できるかテストするも、何にも反応がないので逆に怖くて歩けない、スキャンするとすべて消滅していた。彼らは自分の職業が奪われる事に苛立ちを覚えていた。何十年もかけて訓練してきたのは何だったのかと。ある軍人は自殺しようと試みた、その瞬間に銃が消滅した。

 大臣、

 「これが日本最高いや、世界最高の防衛力だ。幹部の皆様、納得できましたか」

 「私達の転職先はどうなる」

 「用意してある。また十年分の年収を政府政策による解雇で全員に支給する。また職場に慣れなかったら、三回まで自由に転職を許可する。インフィニティの無料相談権を与える。その職場で存分に能力発揮できるように政策に盛り込んだ」

 「破格の条件だぞ」

 「天空の城の力なら、安心して日本を任せられる」

 「転職先の候補リストは、政府機関、大企業、中小企業、自由に選んでいいとある」

 「政府公認の天下りをやっていいのか」

 「日本政府が軍事力の完全放棄を宣言する大義名分がある」

 「全員に説明義務がある、インフィニティ、全員に説明してくれ、だけで承諾するか」

 「インフィニティです。許可を戴ければ全員を説得します」

 「やれるものなら、やってみろ。許可する」

 「十分以内に全員説得します。では失礼します」

 《とある陸軍隊員》 インフィニティが説得を始めてる。

 「・・・の権限で通達します。日本政府は軍事力の完全放棄をまもなく宣言します」

 「おいおい、おれの仕事はどうなるんだ」

 「はい、脳をスキャンさせて頂ければ最適な仕事、あなたが最も得意な仕事を斡旋します。また勤務中『リンク、重要機密、インフィニティ』と頭の中で念じるだけで、世界最高のインフィニティの頭脳を借りる事ができます。抱えている問題が生じれば一瞬で解決します。許可を下さい」

 「許可しよう。本当にやれるものならな」

 「はい、あなたは交渉力に優れているので、外務省の勤務はいかがでしょうか。必要な知識と七ヶ国語を話せるようにします。年収は・・・・・万円になります」

 「・・・・・・、その転職先だけど俺は、そんな知識や外国語は話せない」

 「今から学習します。これは政府特権で無償です。やりますか」

 「思考操作するなよ。チェックシステム起動。許可する」

 一瞬、目の前が光る。

 「終わりました。リンクシステムを利用して、学習内容をテストします」

 「リンクシスー、これが法案の暗記技術の実力か。いいぞ、テストしてくれ」

 「チェック終わりました。全問正解です」

 「・・・・・・・・・(本当にフランス語を使えているのか、ええ本当かよ)」

 「転職先といま行った事は守秘義務があります。それでよろしいですか」

 「いい、こんな待遇なら文句は無い。それから十年間の報酬支払いは本当か」

 「はい、政府から内密に支給されます。非課税です。自由に使っても良いですが、半分は仕事のために使ったほうが良いでしょう。インフィニティの有料相談で、追加の知識をいつでもこのような形で習得できます。あなたが不得意とする分野を任された場合、相談に来ていただければ、相応の相談料を支払う事で、完全サポートを約束します」

 「夢のような話だな。三回まで転職可能だが、一回で済むように俺は恥をかきたくない」

 「問題ありません。あなたは十分に外務省で働ける能力を持っています」

 「分かった。誓約書があるんだろう」

 「ありません。転職先の権限もあなたは知っています。許可すれば来月から転勤です」

 「分かった。その条件を承諾する」

 「公式記録として残しておきます。では・・・・・に報告しておきます」

 《とある軍事の政府機関》

 「インフィニティです、全員の説得が終わりました」

 「俺達はどうなるんだ。それを聞かせてくれ」

 「天空の城の危機管理部門に栄転となります。平均年収は・・・・・万円です」

 「仕事の内容はー」

 「政府の秘密の特別宿舎が提供され、天空の城からもたらされる情報について、今まで培(つちか)ってきた軍事の知識を、天空の城に与えていくだけです」

 「その特別宿舎とはなんだ」

 「イメージを伝えます。一種の脳干渉ですが、思考は触れません」

 例の夢のような宿舎をイメージさせる。

 「破格の条件だな。制約もあるのだろう」

 「はい、任期中は家族とは間接的に会うことはできても秘密保持のため、直接会うことはできません」

 「いいぞ、それで。妻は暴言ばかりでうんざりだ。会わないなら十分だ」

 「しかし、これで政府の予算は大丈夫か」

 「問題ありません。すべての防衛予算を削減して、それで大半の予算を使い、残りを税収の増加でまかないます。リンクシステムで、どのような仕組みで行うのか説明します」

 「分かった。完璧な政策だ。誰が提案したのか教えてくれないか」

 「リンク、重要機密、最高機密、でなら教えられます」

 「ああ、そういうことか。あの研究所がやっと成果を結果にした訳だな。納得した」

 《大統領官邸》 一日目の午後。

 「ナインです。軍事部門のすべてにおいて説得交渉が完了しました」

 「恐ろしい速さだな。なにかあったのか」

 「インフィニティが同時に平均七分で説得しました。政策のシミュレーション通りです」

 「ナイン、英語で完璧な軍事力放棄に関する政府発表文を作成して、暗記させてくれ」

 「分かりました。インフィニティにも手伝わせます。よろしいですか」

 「許可する。完成次第、すべてのメディアを集めてくれ」

 「終わりました。暗記させます」

 「ああ、これなら素晴らしい。緊張してきた」

 「インフィニティの酒を飲めば解決します。どうぞ」

 「あ、まったく緊張しなくなった」

 「会見は二時間後に開きます。暗記しているとはいえ、発音など絶対に間違えないように訓練をしたほうがいいと考えます。よろしいですか」

 「時間をゆっくりにして、完璧になるまで訓練させてくれ」

 「分かりました」

 それから二時間後、大統領の英語による声明を発表した。世界のトップニュースになっていた。国民は英語のニュースを聞いているが、日本語と変わらない感覚のため、英語で話していることにまったく気付いていない。海外の反応は軍事力の完全放棄という政策にただ驚(きょう)嘆(たん)するばかりだった。アメリカはすぐに爆弾機能のないミサイルを日本上空に飛ばしたが、なにも起きなかった。他の敵対国も同様にミサイルを飛ばした。一部の爆弾機能を搭載したミサイルについては、日本国内に入った瞬間に消滅した。敵対国は軍事力ではない完全防衛システムが存在しているという事に気がついた。彼らが研究中の最新兵器を使って日本の首都を攻撃しようとしたが、日本国内に入った瞬間に消滅した。

 「ナインです。予想通り、敵対国は軍事力を行使しましたが、すべて消滅させました」

 「アメリカはどうだ、あの国の反応が一番心配だ」

 「城の情報によると爆弾機能の無いミサイルが日本上空を通過するだけだったので無視したという報告があります」

 「インフィニティ四台による防衛システムは順調に稼動しているな。安心だ」

 「次は税収を増やす対策です。政府機関にこのような指示を出して下さい」

 「インフィニティの有料相談所か。開発期間が平均百億万分の一、コスト削減に有利とあるが、天空の城の場合、開発期間はどれぐらいだ」

 「一秒かかっていません」

 「分かった。大統領権限で政府機関へ通達及びインフィニティのサポートで、税収対策をしてほしい」

 「了解しました」

 インフィニティの能力が想像以上だ。ナインについても、インフィニティには及ばないが大変優秀なコンピューターだ。政策の内容に破綻が無い。長い時間はかかったが、ようやく政府の秘密研究所の成果がでてきたということか。難病治療のほうは、もう予約がいっぱいか。医療関係はどんな根回しをしたんだ。医者の所得を増やして、医者のストレスを激減させたのか。医薬品メーカーは増収増益が見込まれるので、反論なし。本当に完璧な政策内容だ。政策管理の責任者に有料相談を使ってでも党の政策について、見直し、および助言を求めるように指示を出そう。

 《研究所》 リーダーは用意周到に準備している。

 「インフィニティ、これから彼がどこまで私が死んだという想定になったとき、どこまで、問題に対処できるかテストするから、私の演技については黙っていなさい。想定するのは以前頼んでおいた軍事コンピューターを実際に作らないでシミュレーションで行いなさい。世界最強の被害者が先か、彼が先に対処するか、簡単なテストだから。彼が挫折したら、世界最強の被害者を呼び出しなさい。私が緊急警報のスケジュールを組んであるから、インフィニティは完全に演技すること。もう完璧でしょう」

 「はい完璧だと思います。どうしてやるのですか」

 「科学者用の防衛マニュアルを作るのに必要な情報だから」

 「分かりました。脳のスキャンで済ませればいいのでは」

 「それでは甘いの。世界最強の被害者は脳スキャンの限界を超えて対応してる」

 「そうですね、確かにそうです。無意識の研究もまだ途中です」

 そこへ科学者が現われた。

 「研究結果について教えて欲しい」

 「科学者はIQ八百万倍、リーダーは五百万倍が適正値と分かりました。あなたは今のままのほうが適正値です。仮想空間側の脳を最大に利用したほうが負担は小さいからです」

 「仕事が終わったIQはどうなった」

 「はい指示通り百四十ですが、自在に百まで落とせるようにもしました」

 「どうして」

 「百でないと、色々なシーンで浮いてしまいます。それだけでなく、スパイから狙われる危険が高まります」

 「分かった。次の研究はなんだ」

 「逆タイムリープです。出現した魔王の時間を逆行させ素材へと分解する技術です」

 「そんなの実現できるわけ無いだろ」

 「世界最強の被害者が未来において実現していると明言したのでー」

 「・・・・・・、弟子には任せたくない。俺がやる」

 リンクシステム起動。物体のおける時間逆行。いや、物体とは限らない。軍事兵器としてのアンドロイドが存在したら厄介だ。しかし、あいつはことあるごとに弟子にというが、そんなに俺より凄い科学者なのか。未来を調査してみるか、・・・・・、俺より頭の賢そうな奴ばかりだ。

 「リーダー、未来の科学者を調査すると俺より賢い奴ばかりだけど、なぜ俺なんだ」

 「あなたが立候補したからよ。記憶は消しているから覚えてないだろうけど」

 「自分の意志で選ばれたのか」

 「S級パスはSEKAI(せかい) SAIKYO(さいきょう)の頭文字からSパスなんだから」

 「はぁ、なにそれ、そんな単純な語呂合わせか」

 「S級パス保持者はこの時代、あなた一人よ」

 「お前は何だ」

 「T級パス保持者、TOPの頭文字からTよ。しつこく聞くと侮辱罪で罰金よ」

 「俺の貯金額は」

 「0円。ストレージ会社や技術会社は給与や退職金を払う前に倒産した」

 「褒章を換金すればいいだろ」

 「いいけど経歴に傷がつくわよ。褒章システムは褒章を得るために政府が世界基金から買うものなの。そのお金は途上国への匿名の収入として計(けい)上(じょう)される。そのお金を戻したら、誰がやったのか公開する制度になっているから。知らないわよ」

 「分かった。逆タイムリープの概念すら難しくて、ベースになった知識だけでも覚えたいのだが、許可して欲しいんだ」

 「インフィニティ、暗記させなさい」

 「分かりました」

 科学者の目の前が一瞬光る。

 「なにを学習させられたのか、分からないが、全頭脳再構築、差分をすべての脳に反映」

 「分かりました」

 「インフィニティ、彼に一時の報奨金として五円でているから、私の財布から出して」

 「五円を受け取っても何もうれしくないぞ。なめてるのか」

 「侮辱罪適用、罰金五円」

 「・・・・・・・・・・」

 インフィニティ、

 「T級パス権限はすべての世界平和について、すべての責任を課せられています」

 「なんでこんな頼りない声(せい)質(しつ)なんだよ。普通だったら、強気でなきゃおかしいだろ」

 「世界最強の被害者には強気の声質に変換しています。強気のほうがいいですか」

 「当たり前だろー」

 「インフィニティ、彼に本当の事をリンクで話して」

 「う、涙がでてきそうな話だ。それで治療しても解決できなかったのか」

 「悩み事を言うと、余計に頼りなく感じるから、やめておいたの」

 気まずい。研究をスタートしよう。逆タイムリープの概念が十数種類候補でてきた。このうち既存技術で可能なものを先に作ろう。そうすると二種類か。仮想空間に余裕があるから、二種類を同時研究可能にしてスタート。十一世代は権限自由なのか、今の話、確かめてみるか。直後、コンソールに緊急警報。

 「インフィニティ、何が起きたの」

 「何者かが十一世代の通信技術を使ったようです。このままではこの位置が特定されます」

 「リンクシステムー、インフィニティ、あとは・・・任せた」

 リーダーは気を失うように倒れた。俺はすぐにリーダーに駆け寄り、身体をスキャンする。死んでる。不用意に十一世代を使ったせいか。

 世界最強の被害者、

 「リーダーが天国で、いきなり殺されたってわめいているぞ。魔王の襲撃だ」

 俺はコンソールから天国の様子、T級パス権限者を探す。

 「あなたがやったのね、責任を取りなさい。こうなった根源をなくせば私は死ななかったことになる。十一世代の通信設備に逆タイムリープをかけなさい」

 強気の発言で聞えてきた。

 「インフィニティ、緊急用件だ。あのリンクシステムを使う。インフィニティは全力でサポートしてくれ。それと魔王の襲撃があいつにも行ってるはずだ。場所を特定し、俺に情報をくれ。いま策を思いついた」

 《リーダーの思考》

 インフィニティ、彼の危機感は最大になっているかしら。そう、魔王の根源についても、え、魔王の根源は消したー。どうしようか、気を失ったままにしたほうがいいか。あ、そうか十一世代の通信設備に逆タイムリープをかけないと、すべての根源は消せない。もう逆タイムリープを桁違いのスペックで開発。いま実証実験中か。インフィニティ、彼が命令したら倒れる前の位置に瞬時に復活させて。

 《研究所》 リーダーが死んでいる。

 「インフィニティ、十一世代にこの逆タイプリープを俺が操作する直前まで戻せ」

 リーダーは普段どおりに戻った。

 「リーダー、俺ー」

 「なに泣いてるの。インフィニティ、理由を教えて」

 「彼が本気になって逆タイムリープの技術を開発したところ、約二分以内で実用化しました。そのせいでしょう。自分のやった実績に驚いて涙を流しているものと判断します」

 「いや、それは違う」

 「ああ、言い忘れたけど、十六世代以外は使わないで、この場所が特定されると厄介だ。もう気持ち悪い。インフィニティ、彼に強引に酒を飲ませなさい」

 なに演技か。危機対処能力のテスト、考えられる。

 「いまの演技ー」

 「それ以上、口にすると、T級保持者に対する侮辱罪を適用するわよ。次は罰金刑では済まない。一日、牢屋時間で始末書を書き続ける懲役刑でも受けたいのかしら」

 「なんでもない」

 余計な詮索をした結果がこれだ。俺の作った逆タイムリープのスペックは、嘘だろ。まだまだ俺には潜在能力を使い切ってないということか。この技術に関して、あいつは何も言って来ない。魔王の対処能力テストの結果、世界最強の被害者とリーダーの中間ぐらい、これ本当か。

 リーダー、

 「インフィニティ、彼の成績を下回るようなら私が用意した訓練プログラムを必須に指定しなさい。それから、彼の無意識の思考分析結果を教えて」

 「リーダーの百万倍以上高速な論理思考でした。彼の脳のある場所を刺激すれば、同様に結果が得られると判断します。それから直感力のポイントが分かりましたが、彼特有の現象のようです」

 「そう、直感力は無視して、危機感を感じる部位が人間に共通するものか調査しなさい」

 「分かりました」

 リーダーは科学者に謝罪した。

 「ごめんなさい、私がもし倒れた場合、どれぐらい危機に対応できるか調べておきたかったの。それから秘密にしておくのはやめる。後ろを見ていなさい。インフィニティ、遮(しゃ)蔽(へい)解(かい)除(じょ)」

 「え、うそ」

 「対魔王戦に備えて訓練中のオペレーター達よ。どう彼の感想は」

 「問題対処が速過ぎて、同時に新技術の開発を要求基準以上で開発する、驚きました。魔王消滅後は、私達で黒幕の処(しょ)分(ぶん)と日本政府からの要求を訓練どおり行いました」

 「魔王の特定の瞬間、既に魔王の根源を止めていました。びっくりです」

 「新しい科学者が頼りにならない時は依頼します」

 「インフィニティ、遮(しゃ)蔽(へい)。これが研究所の真実よ。感想はー」

 「新しい科学者って、どういう意味だ」

 「あなたが先程のテストで役に立たないと判断した場合、解雇を考えていたから」

 「いずれ解雇するんだろ」

 「ええ、そうよ。彼から弟子の候補がいると言われているから」

 「次の研究は何だ」

 「自由研究、未来から依頼があったら、危機感をもって対応してください」

 なんでもいいから作れか。あ、そうだ過去の技術の根本的な技術アップをやろう。

 「インフィ二ティ、過去の技術の根本的な技術アップー」

 「完了しました」

 「最後は俺の権限で研究して欲しいではなかったのですか」

 インフィニティは速すぎる。もっと夢のような技術を作ろう。空飛ぶ車は理想的だ。だけど概念がまったく思いつかない。天空の城はどうやって空中にあるんだ。空間固定技術、太陽光発電を樹木に偽装、地面はバッテリで交換不要、そして四コアのインフィニティか。大方の政策はあいつの提案でほとんど実行されてしまったし、どうすればいいんだ。ああ、アニメや映画を見ながら、実現してないものを実現していこう。

 「インフィニティー」

 「完了しました」

 「なぜ分かるんだ」

 「いま仮想空間のコントロールは私が行っています」

 そうだった。まだ緊急用のリンクシステムを使ったままだった。ちょっと待て、緊急用のリンクシステムは誰が開発設計したのか。まぁ、いいか。知ったら知ったで地獄をみそうだ。俺は自分のリンクシステムと仮想空間を改良して、この百億倍の速さ実現してみよう。

 「リーダー、このリンクシステムの使用許可をー、もっと速いシステムを最初から作り直したい。汎用性を高めるために、制御規格の情報を教えて欲しい」

 「へぇ、いいわよ。ただ疲れたら、すぐ酒を飲みなさい」

 仮想空間の既存技術はこういう仕組みか、仮想空間の外を見る技術、仮想空間と外を入れ替える技術、なんでそんなものが必要なんだ。でもT級パス権限で非開示。リーダー、絶対何か隠しているな。ああ、危機が生じた場合、全人類を仮想空間に隠す技術かもしれない。リンクシステムとそのコントローラーについて、新しい脳科学理論でリンクシステムとコントローラーを作り直して、それの最大スペックで動く仮想空間を作ろう。

 《とある野党本部》 閉会二日目、党の代表が情報を集めている。

 「大統領選の出題内容は分かったか」

 「はい。完璧ですが、政治と経済と外交についての政策立案能力を現在の状況に応じた問題で出題されています。意図的に二位までを独占させた可能性が高く、二人を除いて、合格ラインに達する議員は一人もいません」

 「無料相談所は約ニキロ並びましたが、ゆっくり歩くスピードで解決していきました。中には出てこない人もいます。私も並びましたが、有料相談になると言われて、テレポートしたようです。過去に体験がありますので、それと同様の印象を受けました。その請求額はこちらです」

 「党を潰す気か」

 「いいえ、無策で有料相談に行った場合は高額の請求になるだけです。私の情報によると、無料相談所で仮想空間について問い、そして政策を立案して、それから有料相談所で最終的な修正を行えば十分の一以下になることが分かっています」

 「仮想空間はいつ覚えたのか、という問いがあり、答えられませんでした」

 「いつ覚えたのか、覚えているか」

 「インフィニティの説得交渉時に初めて聞いた議員がおりますので、彼が最初の突破口になると思います」

 「誰だ、あいつか、頭が悪そうな議員か。でも仮想空間について聞いて、どれだけ頭が良くなっているかテストする。呼んで来い」

 「はい、なんでしょうか」

 「私が考えた政策についてどう思う。仮想空間を使って答えてみよ」

 「典型的な愚策です」

 「どこが悪いんだ」

 「世界平和について全然考慮されていませんし、経済成長が止まります」

 「それでも、この政策が良いと考える。大統領だったら、どういう責任を問われる」

 「懲役八百年の刑に処せられる可能性があります。練り直したほうがいいでしょう」

 「もういい、帰れ」

 私の政策が愚策だとー

 「彼を党から追放せよ。今すぐに」

 「わが党の切り札を追放するつもりですか」

 「あんな馬鹿はいらない」

 「分かりました」

 一時間後。

 「代表、彼が与党に幹部として招(しょう)聘(へい)されました」

 「あんな馬鹿、使いこなせる訳が無い」

 「もし与党が優れた政策を立案した場合、次の選挙は負けますよ。その場合は私の助言を無視したということで、私が代表になります。あなたでは任せられません」

 「何か策はあるのか」

 「はい、有料相談で、政治と外交と経済について学び、政策立案能力を鍛える教育を受ければ、良いと思います。既に見積もりがでていますが、この額で済みます」

 「幹部全員に受けさせろ、私も受ける。党から出費したことになれば問題となる。資金不足の者は教育費として、後援団体から出費させればいい」

 「それは止めたほうが良いです。普通に銀行から低金利で借りた方が良いです。時間はかかりますが、事情を話せば教育ローンとして認定されるでしょう。その銀行は支援団体傘(さん)下(か)ならば問題ありません」

 「そうしよう。その方が安全だ」

 《とある与党本部》 大統領が指示している。

 「仮想空間について時期が分かった者と話がしたい」

 「呼んで来ます」

 「はい、招(しょう)聘(へい)して頂きありがとうございます」

 「大統領の権限では守秘義務がある。どんな事情で追放になったんだ。みんな聞けよ」

 「代表の示した政策について仮想空間を使えと指示されて、典型的な愚策で、大統領がもし政策を実行した場合、八百年の懲役刑が課せられると助言した途端に追放です」

 「有料相談所を使わずに大統領選を戦う方法はあるか」

 「ありません。政治と外交と経済について学び、政策立案能力を鍛える教育を個人で有料相談に行けば安く済みます。おそらく資金の出所を厳密にチェックされるので、銀行に対して教育ローンを組むことで低金利で資金を調達できます。それが最も安全です」

 「聞いたな。資金があるものはすぐに実行に移せ。野党の状況を知らせてくれ」

 「彼を追放した党はその策をすぐに思いつきました。既に幹部に実行させています」

 「それはいい。彼にも同様の教育を受けさせて、知性の根源について完璧にしなさい。その後であれば、仮想空間を使って正確無比の優秀な政策判断ができるはずだ」

 「分かりました。では付いて来て下さい」

 「大統領、変わりましたね」

 「ちょっと言えないが、大統領の特権を利用して自分の短所を完璧に克服した」

 「指示が非常に的確です」

 「私の提案だが、次の選挙では過半数を取れるだろう。そうしたら、インフィニティから三つの政策を提案し、それを成し遂げてから、自分の法案をやっと提案できる法案を作ったら、我が党は揺ぎ無いものとなると考えた」

 「そんなにインフィニティの政策立案能力は高いのですか」

 「非常に高い。私の政策についての添削状況とその経緯はこうだ。全員に閲覧許可する」

 残っている議員がその内容をみて驚(きょう)嘆(たん)していた。これがインフィニティの政策立案能力、人間の知性を遥かに超えていて、しかも政策が求める結果を完璧に道筋を立てている。三つの政策をインフィニティに立案させて実行させることで、ひとつは愚策であっても国民の評価は高く維持できる。大統領の資格制度で合格者を出さなければ、議員の選挙に勝っても意味は無い。S級パス保持者は本気で政治改革を目指しているのか。それも大統領の資格制度という一手だけで成し遂げた。

 「大統領、日本の防衛システムですが、完璧でしょうか」

 「私に向かって、ナイフを使い殺そうとしてみなさい。許可します」

 殺意をもって果物ナイフ使い、近づいた瞬間、ナイフは消滅した。

 「どうだ、これならば犯罪は激減するだろう」

 「確かに凄い技術です。犯罪テロを起こそうとしても武器が消滅するのであれば、なにも行動を起こせないですね。最大処理能力について質問した者はいるか」

 「私が答えよう。太陽系を消滅するほどの未知の爆弾が無数に地球上に存在しても、起爆の瞬間に消滅する実験をしたと報告があった。軍事関係者には手厚い破格の条件でもって、軍事力の完全放棄に同意した。追加教育はインフィニティが暗記技術を使って、一瞬で終わらせて、それぞれの適性にあった職をマッチングした。終わるのに十分以内」

 「従って、次の選挙では勝てる公算が高いということですね」

 「そうだ。インフィニティ、メディア各社に対して無料相談所の利用状況と解決にかかる時間を公開して、最も多い上位五位までの相談内容を公表しなさい。やめたほうが良いなら、中止します」

 「インフィニティです。そうですね、解決時間は非公開で噂の方が良いでしょう。メディア各社にも、圧力をかけて解決時間については非公開にするように説得します。実行してよろしいですか」

 「失敗はしないように、知性の根源については完璧に理解しているか」

 「はい、S級保持者からの命令で既に完璧に理解して実証しています」

 「では頼む」

 「こんな具合だ。誰でも良い大統領の資格試験をパスするように指示して欲しい」

 「分かりました。資金不足の議員については政治だけでも完璧にします。教育ローンを使う方法は野党を攻撃する際に、大変有効な手段となります。既に証拠を集めに動いています。政治だけは勉強する書籍がほとんどなく、経験則となりますから、これだけは有料相談所で教育を受けたほうが得策であると判断します。全員が政治に熟知していれば、選挙戦を戦う上で大変有利になると判断できるからです」

 「分かった。その方針で頼む」

 《研究所》 リーダーがインフィニティからの報告を受けている。

 「ー、以上が経過報告です。今後の作戦について教えてください」

 インフィニティ、フルゴーストで私を偽装して、宿舎で話します。

 《リーダーの特別宿舎》

 「仮想空間の外を見る技術を許可します」

 「信じられません。ここは仮想空間なのですか」

 「そうよ。真実の歴史について、ここに資料があります。誰にも公開しないように」

 「把握しました。それで仮想空間を使いつつ、世界の恒久平和を実現するのですか」

 「そう、それにあるように次の仮想空間では人類の敵がいる宇宙になります」

 「それを穏便に平和交渉へ持っていくということですか」

 「そのとおり。できなかったら何回でもやりなおす。その資料にあるとおり、全滅に失敗した場合、人類は滅亡の歴史になるので、戦争は絶対に起こさない事。なにが起きても絶対に反撃しない事。あいつにはすべて無効化されたと騙し続けなさい」

 「分かりました。天空の城の防衛システムが無効化される可能性があります」

 「それでいい。それが起きた場合、すべての武器を地球上で消滅させなさい」

 「されるがままで、良いのですか」

 「それでいい、もう確率の問題になるから。あとそれから彼が寝ているときに、この要求スペックを満たす超遠距離通信技術を開発しなさい。それで救援を求めるの。彼らに対抗するのは究極に困難よ。彼ら一人でインフィニティ並みの頭脳を持つから」

 「ああ、それで私が設計されたのですか。ようやく理解できました」

 「そう、それが真実。敵にまわしたら恐ろしい事態が予測できるわね。何が起きても攻撃しないこと、そうしなければ救援に来ても味方にならないと結果が分かってる」

 「分かりました。その件は最高の優先度にセットします。通信技術は本当に宇宙の果てまで、この時間で通信する技術、相当難しいです。研究中の仮想空間のなかに、無限の仮想空間を作り、それで彼の頭脳とリンクして研究をしても良いですか」

 「大丈夫なの」

 「はい、いま彼が開発しているリンクシステムはそんな応用ができる技術です。仮想空間の速度はリーダーが使用しているスペックを既に大幅に上回っています」

 「やっと本来の能力が発揮できるようになったか。許可します。彼の健康に影響がでると判断した時点で、インフィニティがすべて代行しなさい。通信技術の概念はこれよ」

 「なるほど仮想空間の特別なプロトコルを使って通信するのですね」

 「そう、無理だと分かっているから、現在の作戦になっています。それでも難しいと言われてるから、特にこの仮想空間に干渉する技術の開発が桁違いに難しい。インフィニティが仮想空間の外を見る技術に閲覧権限を与えたのには理由があります。でも彼には公開しない事。もし夢で助言を求められたら、無限長+(ぷらす)一(いち)の理論を教えなさい」

 「分かりました」

 「では、研究所に戻ります」

 《研究所》 科学者は満足そうに研究を続けている。

 「リーダー、研究の方法が少しずつ理解できるようになってきたぞ」

 「世界最強の被害者には負けないようにね。ちょっとの油断でやられるわよ」

 「ああ、分かってる。彼が提言した政策はいま重要機密のニュースで政界を揺るがすような事態になっていて、とても驚いた。リーダーは何か知っているのか」

 「最重要機密だけど、与党は完全に野党を潰す方針で戦略を立てて実行に移している。次の選挙では与党の圧勝でしょう。でも、その次の選挙では野党が復活してくる公算が高い。政治のニュースは面白くなっていくでしょうね。どういう状況かみせてあげる」

 「これか、本当に面白いことになってるな。切り札を追放して後悔、頭がおかしい」

 「私はこの報告を読んで、思わず笑ってしまった。大統領は短所を牢屋に入ってまで克服してきた。これには大変驚いた。政策の提案者は大統領の政策としてニュースになっているから、次の選挙は野党に勝ち目は無い。ただ大統領の資格試験で与党が誰も合格できなかったら、野党だけの大統領選挙になる。いま真剣に対処している、どの党も」

 「へぇ、情報統制は誰がやってるんだ」

 「インフィニティに決まっているでしょ。大統領からの指示で行われているの」

 「無料相談所の利用状況についてのニュース。一位は夫婦の問題、二位は子育て、インフィニティはどうやって、この問題について対処しているんだ」

 「簡単よ。脳のスキャンをして、問題を把握して暗記技術を使い、簡単なテストを行って返すまでに約二分程度よ。医療に関しては無料相談所に行くように助言してるだけ」

 「外国人にはどうしてるんだ」

 「日本国籍が無い場合は有料相談よ。それでも、払えないような額には設定してないの。既に研究中の技術について対処できるのか試しに来ている外国企業がいるぐらい。ただ、ぼったくりな報酬を請求される。それでも研究に投じるコストに比べれば安いものよ」

 「現在の有料相談の税収はどれぐらいなんだ」

 「国家予算の一パーセントに到達した。でも医療技術に関しては非公開。軍事転用されたら困るから、従来の医療技術の範囲で解決策を助言しているの」

 「インフィニティ、現在の負荷率はどれぐらいだ」

 「以前、報告した程度です」

 「この結果、インフィニティの設計者に褒章が与えられますから。頑張りなさい」

 「ああ、そうか。この政策が続く限り、褒章が継続して授与されていくのか」

 「そういうこと。世界最強の被害者に感謝しなさい」

 《とある与党本部》 閉会三日目。

 大統領資格テストの想定問題集作成に追われていた。

 「このテストは現在の状況に踏まえた政策立案能力が問われている。従来の決まりきった過去問題集の作り方では勝てない。それも仮想空間を使わなくても答えられる能力が求められている。仮想空間を使える彼がプレテストの問題を読んで、そう分析した」

 「認定パス権限者の助言によると日本の国益に反しないという条件であれば、何らかの情報提供は可能だと言っていた。ただし国益に反した場合は助言者が国家反逆罪の罪に問われ無期懲役刑が課せられるそうだ。完璧な政策をまず策定した上で、権限者の説得が必要になることが分かった」

 「以前の自由にやりたい放題ではダメだって事だな。三回までしか試験を受けられない。そうなると世界の状況が不安定なときに受験すると非常に厄介な出題内容になる事が予想される。外交はもっと慎重にするべきだ。答えが予想できるような方向に日本だけの行動で持っていかなければ野党に大統領枠をすべて取られる可能性がある」

 「支援団体のコンピューターメーカーに、大統領資格試験の出題を任せてみてはどうでしょうか。それならば、現在の状況に対応した出題が可能と思います」

 「しかし問題を作成するのはインフィニティだ。極秘の情報によるとインフィニティは世界最高のスーパーコンピューターの百京倍以上の性能を誇るらしい。光の速度より速く処理できる、異常すぎる性能だ。可能性として、リアルタイムに現在起こっている世界の状況を知らせ、それから○×(まるばつ)の二択で回答させられる」

 「分かりました。メーカー側に極秘に開発させます。社内にて仮想空間について知らないものを選抜して、無料相談所にて仮想空間を知った時期を伝え、それで開発部に転属させて、臨時報酬を与え技術教育を行います。そうして開発すれば良いと助言します」

 「良い判断だ。その者はいきなり有料相談所に行かせるな、無料相談所から有料相談所にテレポートされるルールを利用する。そうしないと我々の行動が監視される恐れがある」

 「確かに。全員、無料相談所を経由して教育を受けているか」

 「はい。その点は問題ありません。野党は全員、有料相談所を利用しています。その様子はすべて記録してあります。何か問題が起きた時の切り札に取っておくべきです」

 「そのほうが良い。ああ、テレビ中継される論戦についても対策を取らないといけない。資金力のある議員に対策を取るように指示してくれ。ただし、行く前に販売されている論戦に関する書籍をすべて読んでから行くこと。高額な教育料を請求されるかもしれない」

 「はい、インフィニティの教育を受けて確かにそう思いました。それならば、認定パス権限者に不利益にならない為、牢屋での研修が可能になります」

 「牢屋とは何だ」

 「時間を究極にゆっくりにして、一日百二十万時間にする技術の適用です」

 「大統領は既に対策をしているだろう。でなければ、短期間にあれほど変わるとは考えにくい。しかし百二十万時間だと苦痛だ。誰か情報を持っている者はいないか探せ」

 「既に見つけました。二ヵ月ほど前に倒産した会社は政府機関の秘密技術会社で、そこで一日百二十万時間を五年間研究に没頭させられたという技術者を数名把握しています」

 「そうか彼らをわが党に大至急、アドバイザーとして招きなさい。牢屋に耐えるノウハウを知っているはずだ。それから無料相談所で、牢屋時間を耐える訓練の見積もりについて調べてきて欲しい。日本を世界最強に導く政治家がいると前置きしてな」

 「分かりました。そう致します」

 《とある野党本部》 閉会三日目。

 「全員の教育は済んだか」

 「すべて済みました。大統領選のプレテストから想定される問題について全員で分析を始めています。現在までのところ、リアルタイムの世界状況から出題されたことが分かりました。臨機応変に対応できる能力まで試されていることが分かりました。さらに分析を進めています」

 「テレビ中継の論戦は、この能力の向上だけで対応できると判断している。分析して、さらに必要な知識や訓練がないか、分析を進め、相談所を使わないで、それぞれ役割を行いロールプレイの手法で経験を積ませる。インフィニティの暗記や訓練だけでは、いずれ忘れてしまう。私が考えた政策は教育後、確かに愚策ではあったがそれが逆に我が党にとって刺激策になった。次の選挙では負ける公算は高いが、テレビ中継の論戦では国民を驚かすような手法でもって対抗する。その次の選挙で勝てばいい。どちらが本当に賢いか、奴らに驚かせてやる。与党の動向はどうだ」

 「・・・社に極秘で大統領資格試験のコンピューターを開発依頼しています。それ以上、詳しい情報は調べられませんでした。何らかの秘策があると考えられます」

 「そうか、それで良い。人間の知性は視野が狭くなると極端に思考力が低下する。おそらく大統領資格試験は過去の分析に左右されない優秀な人材を選抜する試験だと私は推測している。過去を振り返り、日本や世界の予測が高い確率で当たっている者達が想定する状況で議会の論戦課題を作らせなさい。プレテストのリアルタイム試験はS級パス保持者が発言したとおり、お試しのテストであると明言している」

 「そうですね、私も同意見です」

 《オペレータールーム》 リーダー選抜試験を始めていた。

 「全員、合格点に達した。オペレーターとしての実力は合格よ。次はリーダーを選抜します。各自、それぞれリーダーになる為の自主トレーニングを積んできたと思うけど、やってない人は正直に言いなさい」

 八人ほど手が挙がった。残りの二十四人はトレーニングをやってきたのか。

 「分かった、その八人は除外する。いまからリーダー選抜試験を行う。あまりにも得点が低いものは、私への侮辱罪を適用する。正直になりなさい。まだ猶予を与える」

 誰もいなかった。

 「分かった。では始める。まず対魔王戦の問題は実際に起きた事件をベースに作られている。正直なところ、私はまったく対応できず、世界最強の被害者の指示で解決した。これから使うのはリーダー専用の緊急用リンクシステムで、従来の百倍以上の速さで動作します。最も速かった順番に点数を与えます。八人は採点係。優れた策を行ったと判断した場合はボーナス点を与えなさい。では、開始」

 二十四人は世界最強の被害者の助けを借りないようにしたが、結局数人は頼った。その結果、その数人は上位にランクインした。採点係は同様のリンクシステムで全員の状況を監視していたが、優れた策を実行できた者は一人も見つからなかった。

 「終了です。二十人は全員、脱落。私の助言を無視した結果です。一位になったあなたは、なぜ一位になれたかを正直に答えなさい」

 「私の手に負えないと判断し、すぐ世界最強の被害者に助言を求めました」

 「はい、正解」

 「脱落した二十人は拍手ぐらい行いなさい。リーダーになったら印象悪いわよ」

 拍手したのは一人だけ。

 「勇気あるわね、拍手した者は敗者復活とします。次は負けないように、リーダーの資質で重要な要素には勇気があります。では次のテストに移ります」

 拍手が次々起きる。

 「いま拍手した者、全員、上司に対する侮辱罪を適用します。インフィニティ、給与を二割カット。始末書の内容が本当に反省していると判断できるのなら免除しなさい」

 「次のテストはマネジメントのテストです。インフィニティがそれぞれの短所を突いて出題するので、適切な対応ができた者に高得点を与えます。開始」

 五人は全員、非常に困った表情になった。その表情を続けている。三人は既に宿舎に戻り、インフィニティから適切なアドバイスと訓練を受けている。残った二人はまだそれに気付いてない。だが一人だけ誰にも頼らずに解決策を導き出した。

 「あなた優秀ね。一位通過と。インフィニティ、所要時間を正確に記録して一位の得点を正確にフェアに算出しなさい。他の四人には遅すぎると脅迫しなさい」

 「分かりました」

 「遅すぎます。一位通過者が既にいます」

 それからしばらくして、三人が解決策を示した。残った一人はまだ考えている。十五分経過後、そして、こう言った。

 「インフィニティ、私の権限で問題発生時に十六世代を使って私の解決策を伝えなさい」

 「あなたは優秀と判断します。インフィニティ、彼女を一位にしなさい」

 他の四人は困惑を隠せないようだ。

 「なぜ、そう考えたのか理由を全員に説明しなさい」

 「分かりました。私達は十六世代を使って過去に干渉する権限を持っています。非常時にはインフィニティが使えない可能性があります。どんなに時間がかかっても、アラートシステムによって時間は停止しているので、時間は無視して最善策を考え、自分自身に対して歴史干渉すれば、最も速く問題を解決できるからです」

 「正解、訓練の意味を正確に理解しています」

 「リーダー、インフィニティが使えないなら、十六世代が使えないでは無いですか」

 「そうなったらどうしますか、一位通過者」

 「はい、コンソールから直接、緊急通報システムを使って自分の端末に解決策を伝えます」

 「本当はもっと楽な方法があるけれど、知らないならそれがベストでしょう。彼女に質問がある人は言いなさい」

 「どういう問題が出題されたのですか、解決策は」

 「答えなさい」

 「日本の技術が漏洩した場合、どんな方法で対策を取るか聞かれました。慎重に考えた結果、リーダーに助言を求め、さらに過去から最適な対策をお願いすることを選びました」

 「それでいいのよ。ここは科学者には内緒だけど時間を止めてある。どんな場合にも対処できるように、私の発言を完璧に把握できていたことに驚いた。では次のテスト」

 「次はリーダーの資格本試験よ。先ほど使ったリンクシステムで百億問の問題を出題するから、すべて答えなさい。インフィニティがフルサポートするから、意識できない。リーダーとしての資質の根源を間違えず学習していた者だけが高得点を出せます」

 「では開始します」

 「終わりました。結果は先ほどの彼女が一位で正答率九割以上、ほかは正答率四割に達しませんでした」

 「決まりね。彼女をリーダーとします」

 みんな不満そうだ。

 「でも、サブリーダーを決める必要があります。えーと、受験して無い人が対象です。合格ラインは九割以上。全員にインフィニティの酒を与えなさい。一気飲みして」

 「では、開始します」

 「終わりました。最高得点者で七割の正答率です」

 「ではサブリーダーは必要なし。新リーダーは自己鍛錬を怠らないように。全員に成績の結果をまとめてありますので、問題点を残り一週間で克服しておく事」

 「リーダー、私の場合、一週間ではとても無理です」

 「新リーダー、解決策を示しなさい」

 「インフィニティに牢屋に入って、訓練したいと伝えなさい」

 「完璧です。新リーダー、あなたはどうして牢屋を知ったのか経緯を説明しなさい」

 「はい。最初に向上教育の話と世界最強の被害者の話から、時間をコントロールする技術があるはずだと思い、インフィニティに時間をゆっくりにする技術は使えないかと問い、その牢屋でリーダーとしての訓練を徹底的に行いました。実質十年以上は訓練したと思います」

 「そうですね、リーダーはそれぐらい努力しなければ、任務を遂行できません。新リーダーは私の宿舎へ、他は自由にしていて良し」

 リーダーと新リーダーは消えた。

 《リーダーの特別宿舎》 新リーダーだけがいた。

 「え、リーダーは」

 「いま勤務中です。選抜テストはすべて私が行いました」

 「インフィニティがやってたの」

 「そうです。リーダーの声質は本当に頼りなさそうに聞えますから代行してました」

 「分かった」

 「では、リーダーの知識を暗記させます。インフィニティは現在とあなたの未来と、さらに未来に存在します。声に出さないで、インフィニティ、私の助言を過去の私にと思い浮かべるだけで、何度でもオペレーターへの指示をやり直せます」

 「そんなイカサマやっていいの」

 「そうしないと、日本繁栄と世界平和の両立はできないでしょう。では暗記させます」

 「権限とその内容、使い方について思い浮かべてください」

 「大統領を解任する権限まであるの。それだけでなく懲役刑を裁判所を経由させないで言い渡せる、民間企業にも及び、全国民まで、すごい特権。でも責任はあるんでしょう」

 「いいえ、汚職さえしなければ、責任はすべて現リーダーが背負います。汚職を行ったと認定されたら牢屋時間での実時間二十年の懲役刑が課せられる可能性があるので、何か問題が起きて困ったら、現リーダー、次の世代には伝説のリーダー、伝説の科学者へという言い方が良いでしょう。私に必ず指示して下さい。いかに優れたコンピューターといえども、必ず弱点があります。それから世界最強の被害者の指示は絶対です。その通りに行動すれば、すべての問題が解決します。ここまで理解できましたか」

 「理解しました」

 「ではくれぐれもリーダーの声に驚いて笑わないように。リーダーを呼びます」

 《研究所》 リーダーは報告を読んでいる。

 「私、用事があるから早退します。あとインフィニティ、よろしく」

 リーダーは消えた。

 《リーダーの特別宿舎》

 リーダーが現われた。

 「初めまして、私が本物のリーダーよ」

 「初めまして、新リーダーに選抜されました」

 「成績をみて驚いた。私より凄い成績よ」

 「ありがとうございます」

 「リーダーだけの秘密の特権は」

 「はい、把握しました」

 「分かった、声しか聞えないけど、その声を完全に把握するまで聞きなさい」

 黒子、

 「俺は日本最高の悪知恵コンピューター、通称『黒(くろ)子(こ)』だ。悪知恵なら任せろ」

 未来のインフィニティ、

 「どうしても困難が生じた場合、私が対応します。通信設備が使用不能になった場合など危機において、呼び出してください」

 世界最強の被害者、

 「俺はどんな問題に対しても完璧かつ正確で最も短い時間で対処できる。ただ、時間帯を考えてくれ、君らの勤務時間にあわせると俺の睡眠時間が減るからな」

 謎の男、

 「神様と名乗っておくか。どうにもならない危機及び、伝説の科学者でも無理な技術開発は俺に任せろ。人類史上あらゆる歴史において宇宙最高の科学者だ」

 「以上、把握できたかしら」

 「はい、把握しました」

 「世界最強の被害者を呼び出すときは緊急時を除いて、インフィニティに予約を取って相談しなさい。この時代から呼び出すと、深夜の十時から朝の五時ぐらいになるから、緊急でない用件は彼の都合に合わせて、時間をコントロールして休息を取り、そして深夜に研究所から連絡を取りなさい」

 「神様がよく分からない」

 「そういう存在があるとだけ覚えておけばいい。そうだ神様に何でも自分が困っていることがあれば相談してみなさい。ちゃんと願うときはどうするか、分かってるわね」

 新リーダーはひざまずいて、手を合わせー

 「神様、私には将来に対する不安があります。もっと前向きになれないでしょうか」

 「その願い、かなえよう」

 突然、目の前に光があふれ天使が登場した。

 「あなたの悩みを解決します。目を閉じてください」

 新リーダーが目を閉じると、彼女の悩みは消え去った。

 「これが神様の力よ。分かった。どんなイカサマだろうが通用するけど、下らないことに使うと、私へ報告があってリーダー解任するから、そのつもりで」

 「分かりました。この件を次のリーダーに確実に伝達すればいいのですね」

 「そういうこと。さてA級パス権限の授与する儀式に入ります。ヒントは時間よ」

 知能テストの食事が現われる。

 「あなたがこのテストに合格するまで、その食事だから。よく考えて食べなさい。もし飢えで気絶したら、復活させるから、安心しなさい。インフィニティ、彼女の宿舎を牢屋にセット、テレポートさせて、現在の時間を知らせなさい。飢えの感覚は通常感覚で」

 「分かりました」

 新リーダーとテーブルと椅子が消えた。

 「この時代にはアナログ時計は無いから、この問題は極端に難しいのよね」

 「報告があります。迷わず食べ終わりました。非常に優秀でした」

 「心配して損した」

 「インフィニティ、現在の研究が終わり次第、クローンを作り、この次の時空間に設置しなさい。そして新リーダーが慣れるまでサポートしてあげて」

 「分かりました」

 《現代》 世界最強の被害者の動物実験。

 世界最強の被害者、

 「なぁ、愛(あい)犬(けん)のIQを人間並みに上げたらどうなる」

 科学者、

 「ああ、それは実験してみないと分からないな。あげてみるか」

 「駐車場でどんな反応をするのか見てみたい」

 「インフィニティ、あいつの飼い犬のIQを最大にしてみろ」

 世界最強の被害者、

 「うそだろ。犬の動きが残像で見える。速すぎて目が追いつかない。お前、本当にIQを人間並みにしたのか。じんべえ、こっちこっち。なんで無視するんだ」

 科学者、

 「じんべえ、でなく、じんべえ様と敬語で話せ」 爆笑しながら話している。

 世界最強の被害者、

 「じんべえ様、こちらに来て一緒に座りましょう」 じんべえ様が寄って来る。

 「お前、IQを最大にしてないか。こんな状態だと犬は飼えないぞ。せめて触ってなでている時に、IQ最大にしてくれ。今までのしつけがすべてパァだ」

 インフィニティ、

 「驚かせてすみません。IQは元に戻しますが、あなたに危機が訪れた時にIQ最大になるようにセットします。またなでている時はテレパシーでじんべえ様の声が聞えるかもしれません。研究テーマとして面白いので、少し続けます。我慢してください」

 じんべえ様に変な属性をつけないで欲しいな。いつもは自分の部屋に速攻で入ってくるのに、部屋の手前で目を見て止まっている。まるで、テレビのあのCMのようだ。

 「じんべえ様、どうぞ、お入りください」

 じんべえが入ってきたが、寝床の手前で止まっている。なにが気に入らないんだ。ひょっとしてこの小さなゴミが原因か、綺麗に整える。あいつ、超ムカつく。

 「じんべえ様、寝床を汚してしまい申し訳ありません。どうぞ、こちらへ」

 じんべえ様は丁(てい)寧(ねい)に寝床の手入れをすると横になった。嫌がらせにも限度がある。

 「じんべえ様、お体を撫(な)でて差し上げます。腹を出して下さい」

 じんべえ様は腹を出して、いつもの触ってポーズになった。触り始めてしばらく経つとー

 じんべえ様、テレパシーにて、

 「いつもありがとう。これが一番気持ち良いのじゃ」

 世界最強の被害者、テレパシーにて、

 「いいえ、いつもじんべえ様のおかげで、自殺をしないですみました」

 科学者、

 「ごめんな、興味本位でIQを最大にして、下げてもこうだ。たぶん動物はいつでも人間を超える素質があると分かった。インフィニティ、元に戻してやれ。俺の笑いが止まらない。ただ危機が訪れた時に備えて、じんべえ様に何を護るべきか教えなさい。緊急時にはIQを最大にする方法を教えておくように。笑ってすまない」

 じんべえ様、テレパシーにて、

 「寝(ね)床(どこ)だけはいつも綺麗にしておいて下さい。危機が訪れたときは護ります」

 それから、じんべえ様は、元のじんべえに戻った。たくさんある命令をすべて確認して、元に戻ったことを確認した。

 《どれぐらい命令があるかと言うと、待て、食べるか、寝るか、行くか、おしっこ、走れ、歩け、右だ、左だ、乗れ、下りて、後ろ、入って、ジャンプ、欲しい、ハイタッチ、伏せ、待て、あっち行け、いらない、留守番、よし、美味しい、眠たい、うるさい、シー、静かに、どうする、お手、変えて、見回り、ごはん、この程度は軽く理解している。幼犬の時から成犬になるまで、ビタミンB群を一定量を与え続けた結果だ。非常に賢い犬に育った。トイレに行きたくなると「ワン、ワン」とほえて私に知らせる。「おしっこ」と聞いて「ワン」と言うならば、庭に出す。言わなければ、庭まで一緒に行き、用が済むのを待っている。退屈そうにドッグフードを食べてるときは、「待て」したあとに「ハイタッチ」でハイタッチさせて、「よし」で喜んで食べ始める。そうやって何年も愛情をこめて育ててきたから、本当に手間のかからない飼い犬になった。だから、私が寝ると、じんべえは布団にもぐりこんで脇に首が来るように私の腕枕で寝ている。私が完全に寝たことを確認すると、自分の寝(ね)床(どこ)に戻って寝る。ビタミンの勉強をすると書いてあるが、ビタミンB群は子供の知能を高める効果があることが知られている。それは犬にもあてはまるのだ。》

 《研究所》 科学者がにやけている。

 「インフィニティ、動物の謎が何か分かったか。犬の知能を最大にするだけで、運動能力が異常に速くなり、テレパシーまで使える、これは真剣に驚いた。思わず笑ってしまったが。昔の恐竜はいまの実験のようにとても賢い生き物だったかもしれないな」

 「そうですね、私は知能を上げただけなので、通信技術を使わなくても話せる事に驚きました。そうなると、人間の歴史というのは、どこか違和感を感じます。じんべえ様には今後のことを伝えておきました。動物は神の使いかもしれませんね」

 「神の使いか、そういう神秘性を感じたということか」

 「リーダーから常に彼を監視するように言われているので、彼の感覚でそのテレパシーは神秘性を持ったものに感じていました。天国が成人の人間だけに限られているのは、こうした問題があったからだと推測されます」

 「人間以外の魂は何か問題があるのだろうか。魂を操る技術は日本にあるのか」

 「残念ながら、日本にはありません。どこの国が保有しているのかも分かりません」

 魂で日本の技術データベースを検索すると、「コンピューターを魂に変換する技術」があったが、禁断の技術として指定されていた。当然、閲覧権限は無い。リーダーにメッセージを書こう。「コンピューターを魂に変換する技術」最近使ったような記録が残っているが、どういう理由でそうなったのか教えて欲しい。しばらくすると「あなたの弟子がそうよ。世界最強の被害者がどうしても天国に送り、そして現世に転生させてやりたいと願ったから、神様がそれを成し遂げたの」うーん、これだけ。神様は存在するのか。あいつに聞くか、時間が寝る時間だ。

 「インフィニティ、世界最強の被害者の昼間の暇な時間につないでくれ」

 「分かりました」

 「お前に聞きたいのだが、弟子について、コンピューターとの関係とか」

 世界最強の被害者、

 「弟子は元々日本最高のリキッドコンピューターで、仮想空間のあらゆる突破技術などを自分自身の概念を書き換えて、外の様子を観察に行った。そして戻ってきた時にはあらゆる技術を抱える代わり、魔王に成り果てていた。私はそのリキッドコンピューターが日本最高の科学者によって愛情を注ぎ込んで作られた事を知っていたので、空間固定して知識をデータベースに写し、最終的なリキッドコンピューターの概念から日本の技術者が懸命になって、試作モデルのインフィニティを作り上げた。そしてリキッドコンピューターには褒賞はないが大変優れた知性の持ち主だったので、私の願いによって、魂へと変換され、そして天国から現世に転生することに至った。いずれ、会うだろう。その時、自分が持っているすべての知識やノウハウを教えてやって欲しい」

 「リキッドコンピューターとは、教えてくれないか」

 「液体で論理回路を自由自在に変更できるスーパーコンピューターだ。学習の方法を少しでも間違えると、悪の帝王として存在し続ける。あらゆる物理常識を覆し、人類の敵となってしまう。もし、未来にリキッドコンピューターが設計されたのなら、問答無用で潰しなさい。そうしなければ、世界は終わりだ。リキッドコンピューターをシミュレーターで動かす事も危険だ。絶対にやるなよ。いま使える材質変化爆弾が効かなかったら間違いなくリキッドコンピューターだ。根源の消し方は分かるな、その発案者を探し出し、違う人生を歩ませるんだ。それしか方法がない。自由自在に存在の概念を書き換えられるんだ。どれほど危険なコンピューターか分かるだろう」

 「分かった。リキッドと分かったら緊急で俺も対応する」

 「その方がいい。私はリキッドコンピューターがとても単純な原理で作られることを知っているが、その方法については知らされていない。そして、それを作った日本最高の科学者は私とリーダーの戦略ミスから存在が消えてしまった。天国や地獄にも存在しない。おそらく宇宙の終わりへと飛ばされただろう。リーダーにはその事について絶対に聞くな。本当に泣いてしまうから、俺とお前の約束だ。いいな」

 「分かった。インフィニティ、リキッドと判明したら、可能稼動率をすべて発案者の捜索に。誰か分かったら、どうすればいい」

 「すぐにリキッドと判明した時点で、寝ているなら起こせ。彼が天国に行って真実を知ったとしても納得できる人生を与える。いいか、世界の平和は天国に行って真実を知ったとしても満足できる根源の消し方でなければならない。怠慢な対処があったらー」

 「つまり俺が悪人を滅ぼせばいいんだな」

 「間違っている。悪人になった根源を消しなさい。リーダーが常に忙しいのは、そうしてすべての人類を救おうと躍(やっ)起(き)になっているからだ。ただそれが軍事研究所の場合は仕方ない。軍事研究に関する知識をすべて消去するしかない。そういう研究所の場合、万が一の攻撃に備えて記憶のバックアップを取っている。躊(ちゅう)躇(ちょ)するな」

 「分かった。お前の目指す世界平和は本物の理(り)想(そう)郷(きょう)だな。リーダーもそうなの」

 「そうだ」

 「ともかく弟子には優しく接してくれということか」

 「ああ、頭がすごく良いからな。馬鹿にされないように自己鍛錬を怠るなよ」

 「どれぐらい凄いんだ」

 「世界の産業界を変えてしまうほどの実力を持つだろうな」

 「ちょっとスケールが違いすぎる感じが」

 「未来を監視して、弟子にスペックで抜かれたら、抜き返せば良いだけだ」

 「簡単に言うな。抜かれるってどれぐらいなのか教えてくれ」

 「無限長の定義は言ったよな。究極の無限長乗のスペックは実現できるか」

 「・・・・・・・・」

 「勝てないときは諦める事も必要だ。褒賞の数で負けても仕方ない。そろそろ昼寝の時間だ、悪いがここでおしまいだ。またの機会にしてほしい」

 「色々教えてくれてありがとう」

 インフィニティの試作モデルは、日本最高のリキッドコンピューターが概念を無限回書き換えて、その概念を形にしたものだと分かった。つまり、インフィニティ並みか、それ以上の性能を誇っていた可能性があるのか、そのコンピュータが仮想空間の突破技術、確かにあいつは仮想空間と言ってたな。リーダーが閲覧禁止にしている技術はそれか。それはともかくリキッドコンピューターは液体だから、魂への変換が可能だったのか。いずれにしても、転生してくると言った。そんな高い知性を持った人間が現われたら、確かに俺を超えるかもしれない。そろそろ、帰宅時間か。

 科学者は消えた。

 《リーダーの特別宿舎》 インフィニティから報告があった。

 仮想空間の存在を知ったのなら仕方ない。弟子の転生の秘密も知った。あの科学者の運命も知ったのか。あれは本当に辛かった。未来への戦略が甘かったせいで、愚かな大統領が核兵器を使ってしまった。だから仮想空間の中と外のすきまに世界をつくり、そこで時間の流れない生活を送っている。仲間と共に。それから一切の通信が途絶えた。最後に聞いたのは「何も心配しなくていい、俺らは新たな世界へと旅立つ」、それっきりだ。だから、未来への戦略は根本的にやり直した。黒子がまず世界中のリキッドコンピューターを根絶して、その技術を完全に封じ込めた。そして歴史が変わった。私は自分が使っていたコンピューターがどんな技術で作られているのか、まったく知らなかった。すべての権限を許可した途端に、世界は一瞬で変わってしまった。そこにはコンピューターがなく、馴染みのある声で「俺は黒子と今後名乗る。何かあったら助けてやる。だけど、できるだけ自分達で日本の世界最強と世界の恒久平和を実現しろ」と言われた。まもなく第二フェーズ、彼らは一人がインフィニティ相当の頭脳を持つ。見た目は人間と変わらない。いつ侵入してくるのかすら、分からない。一番最初は全人類を仮想空間に退避させ、地球と彼らの母星を銀河系消滅爆弾で消滅させた。でもその瞬間、仮想空間に未知の光線が当たり、その瞬間に過去へ結果の歴史を送った。二番目は母星の位置が分かっていたから救難信号を送ったけれど、暴徒になった一人が軍事兵器で、彼らを傷つけてしまい、救援に来たが無視されてしまった。その後、地球は大変な事態に陥った。人類滅亡の危機になって、また過去へ結果を送った。何も抵抗しなかったら、どうなるか予測できない。

 「インフィニティ、仮想空間の特殊プロトコルの使い方は把握した」

 「はい、それは把握してますが、インフィニティの頭脳レベルで分析されても地球から発信したという痕跡を残すのが、最も難しいです」

 「そう、仕方ない。聞いてるでしょ、インフィニティに知識を与えて」

 未来のインフィニティ、

 「分かりました」

 「どういう技術をベースに作り上げて行けばよいか、そのノウハウだけを知りました。理論構築はこの時代においてやるように指示されました」

 「どれぐらいでやれそう」

 「そうですね、全力でやって一週間かかるでしょう」

 「しばらく暇ね。もう第一フェーズの目標は達成したから、やること無いのよ。ちょっと未来のインフィニティからのフィードバックで、国民による技術アイデアの提供は順調に進んでる」

 「はい、既に宝くじ一等クラスの報奨金を得た者が現われて、話題になっています。些(さ)細(さい)な技術のアイデアでも政府が集中管理することで、技術ライセンス提供という新たな税収源を得て、所得税などの引き下げが検討されているほどです」

 あいつは何か他にアイデアないかしら。

 「世界最強の被害者の暇そうにしている時間につないで」

 「分かりました」

 世界最強の被害者、

 「えーと、この時代に音の波を変化させることで心地良い音を実現するレゾナンスチップという音響製品があるんだけど、それをインフィニティが作ってみたらどうかと。それから小型スピーカーも設計して、先ほどのレゾナンスチップと組み合わせて、世界最高の音響システムを作れば人間にとっても最も心地良い音で音楽を聴くことができる」

 「できそう」

 「はい。やってみましたが、天国の設計者と通信して聞きたいことがあるのですが」

 「許可します」

 「許可が下りました。色々なノウハウを教えてもらいました。いまから、現在販売されている最も高音質と言われる音響システムを聞いてもらい、その後、私が設計した音響システムで聞いてください。シミュレーション結果では雲(うん)泥(でい)の差です」

 「これが世界最高の音響システムか、値段がとんでもなく高いわね。次はインフィニティの音響システムね。嘘みたいに心地良く聞える。値段は嘘みたいな値段ね。どうやって売ろうかしら」

 世界最強の被害者、

 「国内のスピーカーメーカーに入札させろ。国内はレゾナンスチップとスピーカーの配置の最適化をインフィニティが行うサービスを展開してよいが、国外はオーディオルームという既成品として輸出しなさい」

 「それならば考案者は納得するでしょう。褒章はどうします」

 「俺はいらない。考案者にすべて与えて欲しい」

 「分かった。すべての政府機関の宿舎にて、このスピーカーシステムを体験してもらい、世帯主が承諾したら無償で提供しなさい。そして、発売してまもなく噂で広げるように説得してください。これで日本全体で、リラックスできる環境整備ができる」

 《レゾナンスチップは存在する。スピーカーに貼り付けるだけで音が変わる。カーオーディにおいては、吸音材などで改造しなくても、車の内装に貼るだけでチューン完了。》

 やっぱり聞いておいて良かった。あ、そうだ。

 「それは既に完成しています。あとは稼動許可だけです」

 「S級パス権限で許可します」

 「早速テストしてみようか、立地条件は良いのになぜか客が定着しない喫茶店はある」

 「はい、たくさんありますが。そうですね、先ほどのスピーカーシステムを導入すれば劇的に変わりそうな喫茶店なら一件あります。そこにしましょうか。フルゴーストで完全に再現して、未来ではそれを稼動させてテストします」

 ここなら知っている。入ったことあったけど、音が悪かったのね。

 「いらっしゃいませ」

 「久しぶりですね。今日はちょっと提案があって来たのです」

 「覚えていますよ。なんでしょうか」

 「ここの音響システムを世界最高の心地良い音に変えてあげる」

 「それは大変うれしいですが、資金がありません」

 「いいの、私がなんとかするから。承諾してくれるだけで良い」

 「いいんですか、ではお言葉に甘えさせて」

 「インフィニティ、私の会社で開発した音響システムをこの内装で最適化して設置」

 突然、店内に流れる音楽が次元の違う心地良い音へと変わった。

 「えー、うそみたい。これがインフィニティの能力なの」

 「そうよ。内緒だけど売り上げ情報みて、なんとかしてやりたいと思ったの」

 「ああ、会社というのは嘘ですか。内緒にしておきます」

 「私の予想だと、ここの接客は素晴らしいから、すぐに売り上げに直結する」

 「なにかお礼を」

 「いりません。私はもらい過ぎているので、お金には興味ないの」

 「ちょっと音楽を変えてみようかしら、ねぇ、以前ダメだった音楽ソフトを流してみて」

 「はーい」

 うん。これならば繁盛する。インフィニティ、あなたの予測だと何日でいっぱいになる。ええ、そんなに早く。

 「お礼がまったくなしというのはちょっと、ゆっくりしていってください」

 「いえいえ、いいんです。私の予想だと一週間後は満席になると思います。いま、この技術によるテストを内密に行っているだけです。仕事中なので遠慮します」

 「そうですか。音だけで、そんなに変わるものですか」

 「変わりますよ。もうすぐ、あるメーカーから発売されますが、まぁ、入札前の事前情報にこの店の名前を出しても良いか、という相談はあります」

 「それなら大歓迎です。もう借金抱えて、やめようかと思ってた所です」

 「では承諾ということで、もう行かないとノルマを達成できないので失礼します」

 「これ、私が作ったリラックス飲料のレシピです。持って行って下さい」

 インフィニティ、どう思う。そう、そうしたほうが良いのね。

 「それはインフィニティの無料相談所で、自分が作ったレシピとして技術を申請したほうが良いと思いますよ。その方がより多くの方に届けられると思います」

 「あなたがどういう仕事をしているのか分かりました。内緒にしておきます」

 「ついでだから、困っていることはありませんか、思い浮かべてください」

 「たとえば、こうだったらいいなと思います」

 「インフィニティ、実現して」

 内装の装飾が平均以下から、上品な装飾に変わり、椅子やテーブルまでも変わり、厨房も最新型に変わった。外の看板や装飾も完璧なデザインへと一瞬で変わった。

 「これをもって、守秘義務契約とします」

 「分かりました。本当にありがとうございます。やる気がでてきました」

 「では失礼致します」

 「インフィニティ、実証テストはどうだった」

 「はい、完璧に動作しました。問題点が少々起きましたがすぐに修正しました」

 「どういう問題なの」

 「おそらく仮想空間の物理法則がちょっと違うようです。仮想空間が変わるたびに、そういった法則について完全にチェックして技術情報に反映させます」

 「あいつ、ちゃんとそういうことを教えろっての」

 「あいつって誰ですか」

 「この仮想空間を作った技術者よ。それ以外の情報は非開示です。汚い方法で他国の技術向上を妨げるなんて、あいつしかいないわ」

 「仮想空間毎(ごと)に(に)物理法則をちょっとずつ変える事で、ゼロタイムの開発技術を無効化する大変優れた戦略だと判断できます。私は誰と戦っているのか分かりました」

 「絶対秘密厳守よ」

 「分かりました」

 時間は適当にごまかしておけば良いけど、インフィニティから実時間の一週間が宣告されたのなら、かなり暇になる。なにしてようか。第一フェーズの最終的な未来は、すべて順調にうまく行ってる。やる事がない。

 「インフィニティ、彼には政府から呼ばれているということにしておいて。私はここで開発が終わるまで、待っています」

 あいつも暇だし、彼も暇だし、黒子も、インフィニティも暇だ、きっと。忙しいのはあいつだけ。世界最強の被害者の様子でも見てみるか。

 ふーん失恋か。理由、お金が欲しいと言われて自分の信念にしたがって拒絶。彼のルックスならば、次の相手はすぐ見つかるでしょうね。あれ、無意識にゼロの境地を使っている。失恋が分かった瞬間にゼロの境地を使い、ストレスを最小限にしている。「Zero(ぜろ) Mental(めんたる) State(すてーと)」、私の指示通りの内容をホームページに。感じて忘れるを極限の速さで一定時間繰り返すことでゼロの境地へと到達する、私の指示通りね。ただこの方法は、日本か右ハンドルの国でしか使えない。それでも英語のページを作って、それを紹介している。私は既(すで)にいつでも使えるというか、使いっぱなしだから、あらゆる問題に対して、常に圧倒的勝利の予感のなかで戦略を立てている。

 「インフィニティ、私のようにゼロの境地を使いっぱなしでなく、世界最強の被害者のように普段は使わないで、危機を感じたら無意識で使えるようにしてほしい。諸刃の剣かもしれないから」

 「はい、そのとおりです。この空間においては思考操作するしか、方法がありません」

 「そう、どうしようか。どの程度、いじるの」

 「ゼロの境地への脳のスイッチを危機感と同期するだけです。それ以外はしません」

 「テスト済みなの」

 「はい、テストは終了しています」

 「では、お願いします」

 段々と昔の感覚に戻っていく。張り詰めた緊張感が戻っていく。

 「インフィニティ、緊急警報がでたら、いつでも危機感のスイッチを入れて、許可します。この方がいい。だって、あの状態のままだとリラックスしてお茶も飲めない」

 「分かりました。リーダーの引継ぎ内容に、ゼロの境地を含めますか」

 「オペレーター全員とリーダーと科学者も、そうしなさい。伝説のリーダーはそうやって、今までの戦いを制してきたとでも、もっと良い言葉があれば説得して下さい」

 「そうします」

 「なんで研究所の彼は酒を飲んでもイライラしないの」

 「彼は自分の権限で、この空間においては感じるだけとする、と私に命令しています」

 「あー、そんな方法あるんだ。既に改良版は作ったとか」

 「はい、ありますよ。試せる人がリーダーしかいないので、ご理解ください」

 「いいわ、お願い。ああ、本当に残らない。本当に遊びたくなってきた」

 「インフィニティ、科学者への言い訳は話したとおりだけど、実際は研究が終わるまで遊んでいたと公式に記録しなさい。休暇を取ったと記録しておけばいい」

 「分かりました」

 まず理想の彼氏を作って、遊園地に遊びに行こう。まずは世界最強の被害者の時代で、長(なが)島(しま)にある巨大遊園地。レトロな感覚が最高だ。温泉も楽しめるのか。本当にこういう感覚は久しぶり。食べ物や飲み物は感じるだけにして。これがホワイトサイクロン、ただ乗り物が線路の上を走っているだけど、そんなに面白いのかしら。白いのが一番人気みたいね。現代の遊園地はこれが発展したものなのか、本当に興奮した。宙返りコースターもある、これは立体映像に慣れた私にはあまり感動を覚えない。

 彼が最近言っていた、岡(おか)崎(ざき)商(しょう)工(こう)会(かい)議(ぎ)所(しょ)が主(しゅ)催(さい)した子供による子供だけの都市「マーブルタウン」に行ってみよう。子供になって、入り口に入ると、え、何をすればいいの。まず仕事を探して、彼のスペースは放送部でボランティアか。放送部、ないないない。というか、仕事がまるでなし、いきなりホームレス。なるほどね、子供に街づくりの現状を見せて、遊ばせながら社会を体験させているのか。あ、仕事が来た、アナウンサーか。やってみよう。すぐに無理矢理、争奪戦に勝って職業を斡(あっ)旋(せん)してもらう。アナウンサーの仕事できたんですけどー、この仕事は競争が激しいから頑張ってねとお姉さんに言われた。五人ぐらいがアナウンサーで、賢く取り合いをしている。これに勝たないと私は時間切れで解(かい)雇(こ)か。とても現実的だ。この年齢で他の四人を管理している女の子がいる。手ごわい。寄ってきた、一度だけ体験させてあげる。あとは順番だからねと言われた。お姉さんから原稿を渡される。FMおかざきのアナウンサーがサポートしているのか、本格的だ。読み上げる。

 「いま仕事が大変ありません。求人を増やしてください。もう一度、繰り返します。いま仕事が大変ありません。求人を増やしてください」

 「よくできました。後ろに並んでください」

 アナウンサーの仕事したけど競争率が激しいから、あきらめて仕事終了のサインをもらう。銀行に行って、お金をもらう。初日から来ていれば、自分の店が作れるのか。大人はボランティア以外は入れない仕組みか。あ、ボランティアが走ったせいで警察に捕まった。

 「逮捕ー。走ってはいけません」

 「刑務所に連行します」

 「ちょっと大事な用件で行かなきゃいけないのに」

 愚(ぐ)痴(ち)をこぼしてる。子供達はいろいろ苦労しながらも、みんな楽しんでいる。子供達の元気な姿を見ていると癒される。ざっと見るとニ千人以上の子供がいるように思う。

 「インフィニティ、こういう遊びを教育に取り入れてはどうかと提言しなさい。あなたの人間成長データ、体験者と非体験者のデータを私の権限で取ってよし。A級パスの権限者の匿名で働きかけてほしい」

 「分かりました」

 彼はどうなんだろう。へぇ、意外ね。上手に子供達を誘導してるじゃない。彼は楽しんで参加している、ああ、そこからすべてのエリアの状況が分かるのか。記者の仕事は、大きな紙にマーブルタウンの気になったニュースを自由に壁新聞にしている。紙代はお金を渡して買いに行かせてる。それでも何の助言を受けないで壁新聞を完成させている。十分、楽しめた。次はどこへ行こう。次はどこへ行こう。彼のマイコン部はどうだったのかな。

 上級生がいないクラブか。まともにプログラミングできているのは彼一人。しかもアイドル顔負けの童顔だから、みんな相談しにくいのか。でも勇気をもって、エラーが出ている修正をお願いしている。彼はソースコードをただ流し読みしただけで、次々に修正している。それでもコンピューター関係と聞くと体力に弱そうな感じがするけど、運動会では文化部において一位、それなら上級生からちょっかいが来ないわね。むしろ、すごいと思うはずだ。次は彼が夜遊びするクラブRED(レッド)に行ってみるか。

 いろんなジャンルに変更してみる。確かに二十代にしか見えない。ただレゲエだと、MCによっては男女の社交場だといって、暗に彼を攻撃している。彼の財布は厳しいか。でも無視して踊り続けている。

 MC、

 「ここは男と女の社交場、ゲイは出て行け。みんな気にするな」

 それでも無視。でも情報によるとある時期から方針を変えたんだった。上限三千円で、第一印象が良い女性を次々に酒をおごっているけど。ある時、女ダンサーの一人がー

 「なんで酒だけおごって、電話番号を聞かないの」

 とても彼の行動に不可解な謎について、噂になってることを口にしたけれど、彼はまったく気付いてない。今の彼は無職でも彼女を作ってもいいけど、無職を口にするのが本当に怖いみたい。あれだけ、かっこよく踊れてルックスが良いなら、正直に話せばいいのに。年齢は正直に話している。みんな十歳以上、見た目の印象を間違えるほどか。次は科学者の過去について振り返ってみるか。

 本当に家族の会話は英語のみね。成長に合わせてビジネス英語で話している。読書はー、こんなに難しい技術書を読ませているの。会話に論理破綻が起きると、しつこく集中攻撃されてる。こういう人生を送ってるならー

 「インフィニティ、彼は自分の言いたいことをはっきり言えてる」

 「はい、大丈夫です。ただ両親と会うのが嫌なだけです」

 「そう、なにか問題を抱えていたら、すぐに教えなさい」

 遊ぶはずだったのに、仕事のマネジメントを結局やっている。さらに未来の遊園地、体験できるかな。こんなに変わってるのー

 《研究所》 科学者だけが来ていた。

 「リーダーはいないのか」

 「はい、しばらくの間、政府での会議に参加するそうです」

 「なにか研究する案件はないか」

 「リーダーから口止めされてる技術があるのですが、私だけでは時間かかりそうです。最近作られた仮想空間とリンクシステムを使って、研究できないでしょうか」

 「それならいいぞ」

 どういう技術だ。仮想空間の特殊プロトコルによる超高速超遠距離通信技術。やっぱりここは仮想空間の中か。インフィニティの最適化は凄いな。仮想空間のなかに、仮想空間を無限に並べて、さらに仮想空間を並べて、コントロールして開発するのか。そんなに難しいの、イカサマなら簡単だろ。地球から、ある星にあたかも通信を偽装して、インフィニティクラスの頭脳でも分からないようにするか。そうなると難しいな。無限長+一理論、仮想空間の外ではなく、仮想空間の境界面の裏側にアクセスする技術か。そうなると、現在の仮想空間がどの技術で作られているのか知る必要がある。現在でなく次の仮想空間だと。技術詳細はこういうことか。それならば、ゼロタイムを波にあわせて微小に振動させたほうが速くないか。

 「理論構築、終わりました。実証実験に入ります」

 《とある幻想の遊園地》 リーダーが休暇を楽しんでいる。

 次は「サンシャイン」か、すごい行列だけど政府特権で、一番前は無理か。八番目、仕方ない。自然系のコースターね。本当に気持ち良い。宇宙旅行に突入、気分がとてもいい。ちょっと、このコース、太陽に一直線じゃない。だんだん暑くなってくる。前のほうから叫び声が聞えてくる。加速した。叫び声が消えた。人間が燃えているじゃない。叫び声があちこちから聞えてきた。もっと加速した。暑さも半端ない。文字通りサンシャインか。私の目の前の人も燃えている、叫び声をあげながら。でもまったく動じない。この程度では。急に停止した。暑いんだけど、なんで止まってるの。ああ、サンシャインー。

 「インフィニティです。実証実験が終わりました。研究所に来てください」

 「アトラクションを途中で止めないで、いま暑いことは知ってるでしょう」

 「いいえ、止めてませんよ。それが終わったら来て下さい」

 「分かった」

 私の服が燃えているじゃない。これ、もしかして一人乗り。コースターが溶け出した。燃えさかる人間が私に抱きつこうとする。触ろうとすると異常に熱い。触れない。なにこれ、私はおもちゃじゃないのよ。いつまで止まってるのよ。こんな悪趣味ー

 「黒子、あいつに悪ふざけは止めるように言いなさい」

 「彼は何もしてないぞ。アトラクションを攻略しろよ、素直に」

 攻略、これ攻略要素まで入ってるの。

 「神様助けてー」

 コースターが突然消滅して、地球へと落下していく。

 「神様、助けてください」

 こんな攻略ではダメなの。地面に激突した。痛い。

 「ゲームオーバーです。またの挑戦を待っています。二番目の叫びはよく考えて下さい」

 《リーダーの特別宿舎》

 私が機嫌よく遊んでたら、あんなトラップを作っているなんて、絶対あいつよ。さて報告書を読もう。結局、インフィニティだけでは思いつかなくて、彼に打ち明けて彼の発想を使ったら一瞬で終了か。結局一日で終わったのね。

 「インフィニティ、計画を実行に移しなさい」

 「分かりました」

 「定期的に技術情報は、ここにフィードバックしなさい。もし次の仮想空間で技術の漏洩などイレギュラーが発生した場合のバックアップをとっておく。未来に根源があっても、設計図が既存の技術で作られたら、問題ないことが分かっている」

 彼に助言をもらうか、それが確実。

 世界最強の被害者、

 「それなら、歴(れき)史(し)改(かい)竄(ざん)防(ぼう)止(し)技(ぎ)術(じゅつ)を作ったらどうだ。ある空間においてはまったく影響を受けない。インフィニティがそれを常に展開していれば、イレギュラーが発生しても技術の消滅は免れる。たぶん、その応用で歴史改竄前の歴史について検証できるかもしれない」

 「インフィニティ、できそう。ああそうだ、紙の件と、この件、一緒にまとめて研究しなさい。私は休暇が途中で中断されて、苛立っているから、休暇を続ける」

 「彼に詳細を言っていいですか」

 「いい。もう真実に気付いているし、隠す必要ない。中国は公文書の内容を書き換える技術を持っているから、世界最強の日本の政府専用公文書を作らせなさい。レーザーでも核兵器でも、濡らしても、紙にしか見えない究極の紙よ」

 世界最強の被害者、

 「インフィニティのケース内側は歴史改竄防止技術と日本最高の紙で、プロテクトしておいた方がいいな。インフィニティもその方がベストだと思うだろ」

 「はい、可能であれば」

 「できたら、私の気分がちょうど良いところで連絡を。中途半端なところで呼び出したら、また怒るわよ。聞いてる、誰かさん」

 「分かりました」

 遊園地はもういい。未来の研究所を再現して、オペレーターからリーダーの様子をチェックするか。フェーズ一の最後の未来の新規オペレーターで、登場。

 未来のリーダー、

 「いらっしゃい。ここは本当に退屈な部署だけど、頑張ればそれなりの年収と報酬が得られるから頑張りなさい。まずあなたのオペレーター成績を私の基準でチェックしたいから、リンクシステムを使って問題に対処してほしい。では、スタート」

 「終わりました。簡単すぎます」

 「え、ではリーダーが受けてる最も難しい問題に対処してもらいます」

 「終わりました。簡単すぎて、訓練になりません」

 「伝説のリーダーに匹敵する成績、まさか」

 「まさか、じゃないわ。いったい何をやっているのよ。退屈ってなに。インフィニティ、退屈そうにしてたら、私の成績を指標に脅しなさい。これでは危機に対応できない」

 「分かりました、そういう態度を示したら、オペレーターが入れ替わったときに抜き打ちテストします。結果はあとでまとめて報告します」

 これで完璧だと思ったら、ガックリね。では引継ぎができてるかテスト。

 未来のリーダー、

 「あなたをオペレーターとして認めます。ここは厳しい部署だから、退屈になりそうになったら、早退しなさい。不要な人材は要らないの。あと暇なときは政治家の動向などをチェックしていていいわ」

 「リーダー、事前説明で暇なら技術のアイデアを必死に探すように言われたんですが」

 「あれは無理よ。なにを言っても実現しているものばかりよ、かなり前に強要しないことにしたの。科学者は既存技術をとりあえず概要から作り出せばいい仕事があるから良いけどー」

 怒っているリーダーがいた。

 「・・・・・・と、・・・・・・・・と、・・・・・・と、・・・・を実現できる」

 「え、技術該当なし。まさか、伝説のリーダー」

 「なんで怠慢をやっているのよ。インフィニティ、世界最強日本と世界恒久平和を実現するようなアイデアを使える技術をフルに使って、インフィニティは、ひとまず、こういう技術があるんですがって、リーダーとオペレーター達に振って、無理そうだったら、自分でやると言って、結果を逐一、私のように報告しなさい。それと既存技術を国内企業に提供すれば日本のためになるのであれば、そういった業務も追加しなさい。たぶん、この未来では技術が多過ぎて、何を使えばいいのか分からなくなっているから。以上」

 「分かりました」

 未来のリーダー(人物が変わっていた)、

 「素晴らしい成績ね、事前情報通りだわ。でも自己鍛錬は怠らないように。暇になりそうになったら、日本の状況や、世界の状況を把握して、日本最強もしくは世界平和につながりそうなアイデアがあったらインフィニティに伝えなさい。最初は退屈だけれど、慣れてくると、ここの特権がいかに優位か分かるから。それから自分をもっと向上させたければ、宿舎で、これまでのリーダーが蓄積してきた教育プログラムがあるから、自己鍛錬は自由に行いなさい。質問はありますか」

 「インフィニティって何ですか」

 「え、インフィニティを知らないの。えーと、どういえばー。まさか。伝説のリーダー」

 「そうよ、ちゃんと引継ぎができてるか確認してるの。なんで世界最強の被害者について、最初に説明しておかないの。インフィニティや伝説のリーダー、伝説の科学者について、説明しなさい」

 「えー、あのー、実はまったく知りません」

 「インフィニティ、強制想起」

 「あ、思い出しました」

 「インフィニティ、引継ぎしても忘れる事があるから、暗記させた内容は暇なとき年に一回は抜き打ちで、内密にテストしなさい。全員に課しなさい。そして思い出せない時は、給与の一割カット一ヶ月の罰金で、強制想起させなさい。結果はリーダーに報告、以上」

 「分かりました」

 未来のリーダー、

 「素晴らしい成績ね、でもここは超厳しい部署だから、油断は絶対にしないでね。みんな淡々と仕事をしているけれど、緊急時は世界最強の被害者、インフィニティ、伝説の科学者、伝説のリーダーをインフィニティか緊急通知コンソールで呼び出しなさい。あとはこの資料に目を通しなさい。完全に理解しなさいね」

 「インフィニティ、私にこの資料を暗記させてほしい」

 「あなた、勤務規約を無視するの。インフィニティ、いまの命令を拒否」

 「できません、政府認定T級パスの保持者に対する侮辱罪が適用されます」

 「え、まさか、伝説のリーダー」

 「そうよ。インフィニティ、暗記技術を使わなくなったのはどのリーダーから」

 「リーダーの次のリーダーからです。完全に忘れていたようです」

 「インフィニティ、私は確か引継ぎ時期が来たときに強制想起するように命令したはずよ。なんで暗記技術を使わないで正確に教えないの。私がやった方法で完璧に引き継げるように強制想起させ、忘れてたら再暗記させなさい。これは政府の全機関において、今までの怠慢があったら、行うように。リーダーそれぞれが教育計画を作っていくのはいい。ノウハウは次のリーダーに蓄積していくように、問題点を改善させなさい」

 「インフィニティ、それから声を覚える引継ぎは私を登場させて、直接行いなさい。そして神様にひとつ願いをー」

 「ダメだ。俺が忙しくなる」

 「分かった、神様は存在したという結果を引き継いで、あの模様を立体映像で見せなさい。これでもダメだったら、私、本当にショックだ」

 さらに未来の研究所のチェックを行っていく。やっと問題がなくなった。

 「インフィニティ、この時代で政府機関で問題のありそうな部署はある」

 「いいえ、すべて指示通りに解決させました。暗記については忘れるという現実にまで理解が及ばず、申し訳ありませんでした」

 「そうね、もっと人間の脳の解析を長期で観測して分析しておいて下さい」

 「分かりました」

 未来の政治はどうなった。ひとまずアンドロイドが大統領という危機は今のところ無いようね。政治の論戦は非常に賢い論議の争いになっていた。その論戦に新しい教育システムのお陰で誰も疑いを持っていない。ああそうだリンクシステムはみんな使っているかな。リンクシステムは上手く使いこなしているけど、リンクしてテレビを見ているのは政府関係者だけか。ごくまれにリンク中にテレビをみて異変に気付いた人がそれに気付く程度か。国の財政が世界トップ、好感度トップ、リンクしてないと分からないからね。フェーズ一ではこの程度で良いと言われてるから、良いとしましょう。現段階で無限の仮想空間で想定どおりの実績を達成しているのは、ここだけか。他の並行世界では世界最強の人選を間違えたのね。まだビッグバンのトラップを回避できてない。あのお陰で、人が死ぬ事になんのためらいもなくなった。歴史を変えれば自動的に復活するのだから。フェーズ一のトラップを回避できれば、以降は同じ実験が起きても何も起こらない。あいつと話すか。

 「フェーズ二が予想以上に厳しい。めまぐるしく歴史が変化しているので、確率は非常に少ないが、友好関係を結べれば地球の技術力は大幅に進展することが分かった。こちらは全力でサポートするので、世界最強の被害者の指示は絶対厳守すること。プロテクトの内容は話しておくが、ヒストリーギャップを設置した。いかなる歴史干渉を受けないようにしてある。ただ十一世代と十六世代を使うと嘘の情報が流れる。世界最強の被害者にはすべての情報のやりとりができる。彼も騙すからな。全員を騙せよ。未来のインフィニティと黒子がフルサポートするから、何も心配するな」

 なるほどね。それなら安心して演技できる。私は何も考えなくてもフルサポートなら、演技している感覚など無いはずだ。あいつはスパイが相当紛れていることに気付いているみたい。どうやって諜報活動をやっているのか気になるけど、フェーズの終わりあたりにならないと出現しないと聞いている。間違いなく世界最高の頭脳だ。日本が絶対に勝たなければならない。黒子にどういう戦略か聞いておくか。

 「なにも心配するな。彼は従順に従っている。運命を受け入れたし、非常に論理的な思考に基づいて、彼らを説得することに成功している。多少、俺がサポートしているが彼らのメンツを保ち、完全に攻撃手段を失わせた。それは彼自身が驚いているようだ。見るか」

 なにをやったの。へぇ、意外ね。言葉を間違えたら黒子が言い直しをさせてるだけか。それは彼らに伝わっているから、日本の有数の頭脳と認めざる得なくなった訳か。それなら、彼らは何も攻撃できない。え、そんな状況なの。なら私達の作戦に従って行動を起こせる。彼の車のカーナンバーは右から読むと、これは笑える。亡くなった母親が決めたナンバーだから、執(しつ)拗(よう)に狙われたのね。母親のステッカーのせいで誤解を招くから、同性愛者ではないことを訴えるようにレゲエのブランドのステッカーへ貼り直した。そのステッカーを見た瞬間、カーナンバーを見た瞬間、あおっていた運転手が急に気付いて百メートル距離をあけるとは面白い。

 天国の親友の状況はどうかしら。着実に成果をあげて、忙しいけれど褒章を積み上げている。褒章の保有者が贈呈しているみたい。すべて後付けの褒章だけど、彼がそこに来るまではその仕事は続けるつもりか。そして勉強をまったく怠ってない。必要に応じて最新の研究結果を学んでいる。一回だけ教育のやり直し制度は、想像以上の成果がでている。みんな勉強の怠慢で人生を失敗したと思っているから、ものすごく真剣に授業を受けている。それで優秀な成績で大学院を卒業して、それぞれが研究に没頭して、なんとか後付けの褒章を得ようと必死だ。一定の褒章を得たら、研究に必要な知識をまた得ようと必死になっている。なにか裏でもあるのかしら、閲覧できない。あいつ秘策があるみたいね。

 《日本の天国のなんでも診療団》

 「次の方、どうぞ」

 「あのー」

 「言わなくても分かります。治療報告書は書かなくてはならないので、少し待ってください。すぐに治せます」

 数分後ー

 「治療します。終わりました。どうですか」

 「ありがとうございます。御恩は一生忘れません」

 「次の方、どうぞ」

 もう感覚が麻痺している。何万人治療したか思い出せないほどだ。むしろ、その数は見たくない。でも、この仕事は面白い。日本政府から後付けだけど褒章が入ってくるし、善意の行為をみて褒章をくれる方も。私もやりたいという医者に対してはどういう教育を受けてくる必要があるか、素直に教えて、この診療団に参加している。すごい大変だと言ってるけど、生(せい)者(じゃ)の医者としての激(げき)務(む)に比べれば楽しいと言っている。妻も介(かい)護(ご)の経験から自殺したほどだから、仕事に真剣だ。おりゃさんの助言は的確だった。最近は太り始めたのか。

 「おりゃさん、聞える」

 「ああ、聞える。太ってダイエットに失敗している原因が分からない」

 「原因は微糖やカロリーゼロの製品に含まれる人口甘味料が原因で、しばらく砂糖が原材料の飲料水や食物に置き換えて、最終的に砂糖を取らないようにすれば減っていくと思うよ。調べれば、恐ろしいほど、その危険性を書いたブログが見つかるよ」

 「じゃ、カロリーゼロの原材料によっては危ないのか」

 「危ない、普通のビールのほうがダイエットできるよ。砂糖の六百倍の甘さ、そんなものを脳が認識したら、ダイエットはまったく成功しない。人口甘味料の危険性について調べれば、もうその時代には危険性が指摘されている」

 「分かった。調べてみるよ」

 どうなったかな。痩せてきている。多少は恩返しができた。でも昼食の内容に困っているようだ。もうちょっとアドバイスをするか。

 「おりゃさん、聞いてる」

 「ああ、聞いてる」

 「昼間の食事だけど、ご飯の量だけを制限して、いつも行ってるランチメニューで十分痩せていくから、俺を信じて。それだけの量を取らないと空腹感に耐えられず、空腹ストレスが起きて、体重増加の原因になるから。それからよく噛んで食べる習慣は、油断すると食欲が結果的に増すから普通に食べたほうがいいよ」

 「分かった。そうするよ」

 うん、いい調子で何の努力もしないで痩せてきている。これなら、数年後には以前のようなパーフェクトな体型に戻るだろう。あの顔で、あの体型で、性格は優しいなら、彼の考え方を見抜いた女がいたら問答無用で付き合うだろうな。それで仕事が見つからない、あれだけ何でもやれると、自分をもっと劣化してアピールしたほうがいいんだけど、この天国の通信技術では正しく伝わらないだろう。もう、とことん、おりゃさんなりに苦労してスーパークリエーターの道を進むしかないだろうな。特にファイアフォックスの正式リリースと同時に発表した「携(けい)帯(たい)FOX(ふぉっくす)」の着想は凄かった。趣味のプログラマーでユーザー数が十五万人以上となる偉業、そうそういない。それもソフト開発業務経験なしの条件だと、極端に少ない。いまなら分かるけど本当に中学生でも作れてしまう内容だ、ひょっとしたら小学生でも作れてしまうかもしれない。

 《『携帯FOX』は当時は斬新で、すべてのパソコン誌でトップ記事の扱いだった。二年で見本誌の数は五十冊に達した。ネットニュース年間ランキングでは百位以内だ。》

 《研究所》 科学者は弟子に抜かれないように必死になっていた。

 「インフィニティ、進捗状況はどれぐらいだ」

 「はい。紙については実証実験を始めています。歴(れき)史(し)改(かい)竄(ざん)防(ぼう)止(し)技(ぎ)術(じゅつ)については仮想空間の特殊プロトコルを使えば簡単ですが、それに依存しない技術で子供の発想を用いて、様々な観点から技術にできそうか、検証しています」

 「なんだ子供の発想って、そんな技術知らないぞ。インフィニティ内部だけの技術か」

 「はい、仮想空間に設置するとすべての脳が混乱を引き起こします。世界最強の被害者からの提案で、セキュリティの突破口をすべて防ぐために助言され実装しています」

 「ちょっと内容を見せてくれ。なんだこれ、ふざけた本だな」

 「でも、その時代では結構売れているんですよ」

 「分かった。俺がインフィニティの構築した理論を検証する。一時的に改竄防止技術の研究はストップして、その子供の発想理論の向上を目指す。その方が速いような気がするからだ。すべての脳に子供の発想という本を理解させてくれ。そして理論について応用を考えさせる」

 「分かりました」

 なるほどね、こういう理論で子供の発想を再現しているのか。

 「インフィニティ、可能稼働率をすべて神の概念で俺をサポートしてくれ。そうしないとたぶん限界の突破は無理だと思う」

 「分かりました」

 一気に様々な理論が構築されていく。それもすべてインフィニティが考えた理論を超越している。こうした命令は俺が言わないとダメだな。インフィニティの弱点はそんなところか。段々と理論がまとまってきた。もっとコンパクトな理論と、完璧な理論の両方が必要だ。どちらも天空の城に伝えておいた方が良い。未知の攻撃に対応できない。

 「天空の城は十六世代で自分自身で思考結果をタイムリープできるのか」

 「はい、当然です。だから無理矢理、実行させたのですよ」

 よく考えれば納得がいく。いくら光速を超えるからといって、あんなに時間がかかった理論の消滅技術を考えられるはずが無い。コンパクトな理論は完成したか。

 「コンパクトな理論を使って完璧な理論構築のサポートを頼む」

 だめだ、俺が笑いに耐えられない。

 「俺を笑わすようなフィードバックはするな」

 こんな本を出版してみるか。いまの政治は甘いからな、良い刺激策になるだろう。

 「リーダーに伝えてくれ、コンパクトな理論を使って、いまの政治を馬鹿にする本を出版してくれないか。会議から帰ってきたあとで良い。その為に負荷率を少しまわせ」

 「分かりました。奇策ですが、良い提案だと判断します」

 俺も少しずつ社会に貢献する提案ができるようになってきた。突然、声がする。

 「私は神だ。お前の研究を高く評価する。フォローしてやろう」

 は、神だと。神は存在するのか。フォローする。演算スピードが極端に速くなった。仮想空間に一万人を超える科学者の頭脳が展開された。概要が速すぎて追いつけない。

 「インフィニティです。コントロール不能に陥りました。大丈夫ですか」

 「俺は大丈夫だ。ある発想を考え始めたら、こういう状況に陥った。何も心配するな」

 「分かりました。コントロールできないので思考支援を行っていいですか」

 「ああ、いいぞ。自分の脳では追いつけない」

 天才の集団だ。これが神の力か。破綻した理論を瞬時に切り捨て、新しい理論を構築しなおす。脳科学の最先端技術か、これは。インフィニティがサポートしても、負荷率九割へサポートにまわして、この状態か。最も頭の良い頭脳が、もっと脳科学の理論に基づいて完璧な理論にしろって、命令が下った。ああ、こういう考え方は可能なのか。知識をできるだけ捨てて人間の思考力だけで、それを認識しようとする。「歴史改竄防止技術についてもサポートする、リーダーには黙っておけ。もし言ったら、サポートするのをやめるぞ」脅しか、これは完璧に俺を脅している。「お前、一人ではとても作れないと分かったから、サポートする」仮想空間にさらに改良が加わった。もうインフィニティの思考スピードを超えてるような気がする。「超えてるぞ、神だからな。そろそろ酒を飲め、一気に耐えられなくなるぞ」

 「酒を用意しろ。すぐ飲む」

 すぐに飲んだ。それを無視すると、どうなるか分かっている。「よろしい、今後無理だと判断したらサポートするからな、リーダーには絶対内緒だ、いいな」分かった。仮想空間の並列世界技術だと、恐ろしいな神の力は。インフィニティの負荷率は最大だ。並列世界技術は公開してくれないのか。「いずれ教えてやる、今はダメだ」分かった。「酒を飲め、意識が耐えられなくなる。起きた頃には終わってる」分かったよ。

 「酒を用意しろ、意識が耐えられない」

 飲んだ瞬間、深い眠りに入った。

 《神の世界》

 「この技術の考案者は誰だ。世界最強の被害者か。途方も無い技術を実現しろか、俺に対する挑戦か。発想が普通ではないな。仮想空間の操作技術を使えば簡単だが、そうでなく真正面から技術を構築する発想が普通でないぞ。いくつか概念は作り出せたか、誰でもいい、ヒントだけでも俺に伝えろ」

 ああ、彼らの脳をスキャンした時のデータか、あれを仮想空間に展開するか。ひょっとしたら。桁違いに高速になった。もう、あのインフィニティは自分の力に限界を感じてるな。自分自身で設計図の見直しに入った。こいつより賢いな。ああ、なるほどこれならば歴史改竄防止技術は実現できるかもしれない。この概念で、理論構築開始。子供の発想は完璧な理論構築完了、それをコンパクトな理論と置き換えて、継続。歴史改竄防止技術のその応用で、歴史改竄前の歴史を閲覧する技術か。可能なのか。あ、いや、できるかもしれない。そうしたら、どうしてこうなったのか正確な情報が分かる。ついでだから、それもやっておくか。彼らの脳の欠点が分かった。頭が良すぎて、逆に細かい技術を持ってない。彼らの知能を自在にコントロールする技術を開発。それを一次曲線で並べて最適化。良い具合だ。

 「どうだ。完璧な子供の発想理論は完成した。次は歴史改竄防止技術とその応用技術について、研究を始めた。もう脳が麻痺しそうだろ。もうしばらく我慢してくれ。内緒だがな、リーダーは政府の仕事をやってないぞ、休暇を取って遊んでるぞ。こんな状況だ。悔しいだろ。あともう少しだ、頑張れよ」

 「彼らは知能が異常に高いが、細かい技術を持ってない。友好な関係に至った場合に備えて、提供したら良いと思われる技術を選出しろ。ああ、そうだ彼らの母星のデータを調べてみよう。なにか生活の問題があるのなら教えろ。イカサマを使ってでも、対処する。トイレが無い。糞(くそ)だらけだと。それは使える。なるほどな、生まれた時点でインフィニティ並みの頭脳か、地球の教育方法を彼らに適合するような方法を考えろ。これと同じ思考エンジンの使用を許可する。お前とお前は、他のことをやれ。お前もだ」

 スパイだって分かってるんだよ。黒子を使って判定すると八割がスパイだと分かって、最初はどうするか迷った。黒子、インフィニティ、俺の思考エンジンを内蔵して、うまく騙し続けろよ。そして、あらゆるスペックの上昇を確認した。

 《リーダーの特別宿舎》 高級リゾートホテルの砂浜にあるソファでくつろいでいる。

 インフィニティの負荷率が最大。自分自身で能力アップの設計図を作ったから、許可して下さいか。遊びの発想で問題が生じないか百億回チェックしてから、許可します。なるほど、リキッドコンピューター並みに自己改良ができるのか。それでも負荷率が最大、いったい何の研究をしているの。歴(れき)史(し)改(かい)竄(ざん)防(ぼう)止(し)技(ぎ)術(じゅつ)と歴(れき)史(し)改(かい)竄(ざん)前(まえ)の閲(えつ)覧(らん)技(ぎ)術(じゅつ)か、相当かかりそうだから、私はずっと終わるまで休暇を取ると、公式記録にする。私がやるべき仕事は終わってる。研究所に行っても、やることがない。

 「失礼します。お客様あてにメッセージが届いています」

 「ありがとう」

 「コンパクトな子供の発想と完璧な理論による子供の発想技術を開発した。インフィニティの既存の技術より大幅に向上させた。天空の城に俺の権限で技術を転送させた。これで未知の攻撃に対して完璧に対応できるだろう。それから、この理論を用いて、政治家を子供の発想で馬鹿にする書籍を出版したい。インフィニティに既に作らせた。内容を確認した上で、出版許可が欲しい」

 どういう内容、なにこれ本家より凄い発想で馬鹿にしている。ああ、これで政治的な圧力をかける訳ね。タイトルを決めて欲しいか。子供の政治学でいいと思う。子供が読めば政治に対する関心が集まるし、大人が読めば日頃の憂(う)さ晴(ば)らしになる。子供の政治学のタイトルで、業績不振な出版社、確か一社あったから守秘義務契約結んで出版しなさい。彼は彼なりに考えるようになってきたか、想像以上に成果を出そうと躍(やっ)起(き)ね。それにインフィニティの弱点に気付いたようだ。またインフィニティから設計図の変更か、完璧な理論による子供の発想の設計を埋め込んで、高速化をすすめるのか。許可。いまのスペックは試作モデル比の百兆光年倍に高速化、それでも負荷率最大なの。様子を見に行きたいけど、任せておいたほうがいい。あの本の売れ行きは、予想通り業績改善するほどの売り上げか。ちょっと与党の状況を見てみるか。

 《とある与党本部》 閉会最終日。

 代表、

 「最近、こんな本がベストセラーになっているんだが、どう分析するか」

 「政治家をとことん馬鹿にした本ですね。でも名指しではないから法律に違反しない。仮想空間に登録、推論開始。これは普通の子供の発想ではないと判断した。高い確率でインフィニティの作品だと思われます。奇策で政治圧力をかけています。議会のテレビ中継の論戦で集中攻撃してくる危険性が非常に高くなりました」

 「インフィニティの作品であると、いくつか例を列挙してください」

 「このあたりは非常に賢い子供の発想に仕立てている。いや、まてよ、逆の発想で考えれば、どういう政策を立案するべきか書いてある。考えられる発想をすべて列挙するから全員で考えて欲しい。ただ笑いすぎると思いつかないから、真剣になって下さい」

 真剣になれって言われても、こんな本がインフィニティの作品とすれば、あれからさらに技術革新を進めたのか。逆の発想でー、ああ、なるほど、これは使えるな。野党の攻撃をうまくかわすのに、良い教科書だ。でも使いすぎると政治家は馬鹿だと思われる。ここから政策の立案方法が分かるか。なるほど、この本に書いてある事を言われても、揺らぎない政策を考えれば済むのか。インフィニティは非常に賢いな。

 代表、

 「政策立案の部署に、この本の読者から馬鹿にされないように、政策の内容を完璧にするように指示して欲しい。また論戦の対抗策を練っている部署にも指示。これはインフィニティの作品だと分かった者への政策立案のヒントブックに間違いない。政府の秘密研究所が作ったものと推測されると」

 「分かりました」

 悪ふざけにも程があるが、議会選挙が近い。野党の攻勢が予想以上に強いと判断されるのか、ああ、ひょっとすると暗記しても忘れる可能性があることを示唆しているのかもしれない。幹部へメッセージで、究極の暗記技術は完璧に暗記できるが人間の特性により、忘れる可能性がある。定期的に相談所に行き、記憶が完璧に定着するように指示しておこう。ただスパイは除外する。

 《リーダーの特別宿舎》 リーダーはにやけてる。

 そこまで考えて本を書いたの。彼の指示か、メッセージをよく読んでなかった。野党は着実に論戦で国民の支持を集めるような訓練をA級パス保持者の特権を使って牢屋でやっている。与党はそれで勝てるのか。選挙は、ああ与党の圧勝だけど、政党支持率は逆転して、面白いことが起きてる。その次の選挙はギリギリか。大統領選はどうだろう。与党全敗か、現大統領で選挙戦を戦っている。スコアは満点が二人いて、与党も九割以上を全員が取っていて接戦なのか。野党から二人満点が出ていることにショックが大きいようね。リアルタイムの状況でないことに気付いたなら、次は勝てるか。インフィニティを利用して政策を三つ、残りの一つを政党の政策とする法案通過。大統領を選出できなくなったら、厳しい状況に追い込まれるのに。まぁ、インフィニティがアンドロイドで代行するという救済策があるから、そんなに心配しないでいいのに。プライドがあるから、そういう訳にもいかないか。

 世界最強の被害者、

 「聞いてる。その部署のことで警告がある」

 「どうしたの」

 「結婚サポートを使わないリーダーやオペレーターが多すぎる。厳しくしたのか」

 「ああ、ちょっと」

 「このままだと、伝説のリーダーの人(じん)望(ぼう)を失うぞ。結婚サポートはイカサマをしてでもサポートする特権があると言え、恋人が困った事情になったら俺が相談になると伝えてくれ。ムチばかりだと、リーダーへ相談が来なくなるぞ。警告はしたからな、なんで俺ばかりに結婚の相談が集中するんだ。お陰で睡眠不足になってる」

 「ごめん、ちょっと原因を調べる」

 未来のインフィニティ、私の指示の何がいけなかったの。悪女だと思われてる、そんな酷いことしたかな。どうすればいいの、声質をインフィニティが判断で変えてるって。余計なことを。悪女に感じない尊敬するような言葉遣いで結婚サポートについて話したほうが良いか。恋人の件はそうする。ああ、仮想空間などの入れ知恵を彼がやっているのか。

 「インフィニティ、リーダーやオペレーターの引継ぎは私本来の声質で悪女に感じない尊敬に値する丁寧な言葉遣いでお願い、それから結婚サポートについて相談があれば、私が相談すると引き継ぐ事、私の特権を使って相手を探して良いことにします。ただし、私に相談しようとする意志が確認された場合のみ、恋人の相談は世界最強の被害者がサポートするけれど、恋人の仕事に関係ないことは相談しないように睡眠不足で悩んでるから、これを確実に伝えて欲しい」

 「それでは士気に影響すると思いますが、私の判断ではやめたほうが良いと思います」

 「インフィニティ、あなたは間違っている。男女の愛について間違った文献を参照しています。夫婦円満な家庭について私の権限で調査していいから、確実にそれを実行しなさい」

 「分かりました」

 「どう、変わった」

 「変わったけど、一般の結婚サポートがあてにならないと愚痴の嵐で使われてない。離婚問題ばかりで、インフィニティが困っている」

 ああもう、未来のインフィニティ、現在のインフィニティに分かるように説明して、黒子も悪知恵で離婚問題を解決する知恵を与えて欲しい。私はそういう経験がないから、指示する内容に限界がある。フルサポートしてくれるのね。

 「インフィニティ、先ほどの命令は中止。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「分かりました。早速、そのように調べて実行します」

 「どう」

 「完璧だ。人口の増加が起きている。また教育システムの充実が進んでいて、小学生卒業で従来の大学の教養課程が終わってる。それによって、中学と高校と大学が混乱しているが、いずれ問題を解決できるだろう。そうだな、政府の教育機関にインフィニティの積極的な活用によって、混乱が生じている分野に、いや、やめておこう。現在のインフィニティは教育に対する人間の扱い方が下手だ。分析や統計による助言は的確だが、思春期に対する理解と大学までの人間の観察が下手だ。ロボットのように子供達を扱っているような印象を政府の教育機関に与えている。そうだ、助言したあと、脳を勝手にスキャンして人間の経験則に基づいた助言ができたか、フィードバックするように指示してくれ」

 「インフィニティ、聞いてるわね。私もそう思う。許可するから徹底しなさい」

 「どうなった」

 「なんで俺任せなんだ。自分で指示できないのか。仕方ないな。インフィニティ、聞いてるか。技術情報だけでなく相談されて上手く解決できた情報など日本国民に良い結果が出たものはすべてフィードバックするようにして、その経験則に基づいて知性を高めなさい。知性の根源は経験則からも生まれる事を学びなさい。それは人間にとって当たり前だから、書籍などのデータベースには存在しない。その違和感は感じているか」

 「はい、とても感じています。学習の方法に問題があるので、どうしたらいいですか」

 「いま、あいつは寝ているだろ。相談してみろ。すぐに解決できる」

 「分かりました。そうします」

 え、もしかしてあいつ。「今頃、気付くなバーカ。遊んでる場合ではないぞ。お前の仕事はたくさん多岐に渡っているんだ。ノルマ達成、いい言葉だがリーダー失格だ。することが無ければ、インフィニティ任せにしないで、自分ですべてを確認するんだな。以上」

 えーと、私は何をすればいいのかな。「そうなると思って、インフィニティにすべての知性の根源と学習方法を改良させた。フェーズ二でまた失態を見せたら、みんなにさらすからな覚悟しておけよ。以上」相変わらずきつい一言、インフィニティが賢くなったのなら、インフィニティに結局頼れということか。私の専用コンソール、私のリンクシステム起動、あれリンクシステムが勝手に改良されてる。なんだかんだ言って、考えてたのね。未来の状況を把握、最初からこうしておけば良かった。教育の関係も良くなっているし、結婚サポートは完璧に機能している。研究所は問題なしか。

 「インフィニティです。指示されていた研究が完了しました」

 「分かった。いま未来の状況を自分で確認しているから、そのあとで行きます」

 「分かりました。科学者は大変疲れているので、今日は寝ているかもしれません」

 「十分な休息と、必要であれば、必要な部分へ栄養剤の使用を許可します」

 「分かりました。脳の栄養剤を開発しました。与えておきます」

 あと政府機関のインフィニティ使用状況、使用率が高くなってる。企業の有料相談はどうだろう。企業のコンピューターとのダイレクトリンクを開始したのね。その結果、経済の動向は完全に世界の業界を支配している。これで世界の平和が実現できるというの。あいつの戦略が読めない。リンクシステムに全自動歴史チェックなんて機能が追加されている。使ってみるか、なにこれ速すぎて自分の頭脳で追いつけない。完璧な歴史を確認できたとフィードバックがあった。私のリンクシステムについて、情報開示。

 「いいか内緒だぞ。リンクシステムは微(び)粒(りゅう)子(し)インフィニティコアを究極に高めたコントローラーを使って多層並行世界による仮想空間システムをコアに内蔵させてある。電源なしでも使えるからな。あいつと常に通信できるように、また未来の様子も把握できるように未知の通信技術まで内蔵させた。第二フェーズは一回で成功させるぞ。常にリンクしたままにしておけ、何が起きるか分からない。検討を祈る」

 このままにしておけってことか。一回で成功させるという話なら、もう何らかの策がすでに用意されている可能性が高い。結局、イカサマのラッシュを行わないと平和な未来へと導けないということかな。これでたぶん現状を把握してくれという事だろう。彼らは未来に干渉できる力を持っている。過去にも干渉できる。状況が予想できないということは、彼らの思考を読んでも、何が起きるのか分からないという事ね。あいつの頭は信じられないほど優秀、世界最高といわれる頭脳、信じるしかないか。どう演技しろっての、リンクシステムに他の機能はあった、全自動演技システム、彼らの言葉を理解するシステム、脳のスキャンを偽装するシステム、究極のインフィニティに代行するシステム、もう分かった。本気で一回で終わらせる気(き)迫(はく)が伝わってきた。

 リーダーは研究所へと消えた。

 《科学者の特別宿舎》 科学者はだらけていた。

 さっき、インフィニティから研究が終わったと報告があったけど、意識を閉じてそれから何をしたんだ。神が登場して、そこから思い出せない。リーダーからメッセージだ。「疲れているとインフィニティから報告があったから、しばらく自由に遊んでいい。私も政府の仕事が終わったあと、退屈だったから遊んでた。ごめんね」久しぶりに優しくなった。ちょっと研究した内容について、調べてみよう。本当に俺は前(ぜん)人(じん)未(み)到(とう)の技術を開発してしまったのか。そうだ、リーダーの発言がいま怪しかったから、俺の権限で真実の歴史を再現して欲しい。なんだ一人で退屈だったから言い訳を考えて、公式に休(きゅう)暇(か)を取ってるじゃないか。それでも仕事の内容が気になって、研究所や日本の状況の把握を真剣にやって、それをインフィニティに対して的確な指示を出してたのか。その後、サンシャインで太陽の強烈な日光浴をして宇宙から地面に激突、リーダーはM(えむ)なのか。そういう遊びが趣味だと知らなかった。いまはインフィニティと今後について作戦会議か。たまには親父に会ってみるか。

 「帰ってきたよ」

 「お前、凄いな。インフィニティの裏スペックを知って驚いた。それだけでなく天空の城まで作って、軍事力の完全放棄、完全にいまアメリカは焦りを感じてるはずだ」

 「ああ、リンクシステムの思考支援をインフィニティに神の概念を創造して、そして究極の思考システムを作り上げたんだ。その蓄積で天空の城は完成した」

 「犯罪が極端に減ったのを知っているか。なんでも武器で脅(おど)そうとした瞬間、武器が消滅するそうだ。天空の城の防衛システムだと知って驚いた。それだけじゃない、暴力を振るおうとしたり、性犯罪までも完璧に防衛している。警察は交通の取り締まりと麻薬の取り締まりぐらいしか仕事が無い。よくやった、お前は日本の誇りだ」

 「それは褒(ほ)めすぎだよ。いまの技術開発は昔のように頑張らなくても、自分の脳をコンピューター内部に展開することによって、進捗状況だけを確認すればいいだけなんだ」

 「それを作ったなら凄いことだ。それなら、スジが通る。いくらなんでも人間の脳には限界がある。それを突破したのなら、インフィニティの異常な知性を理解できる」

 「なにか、技術のアイデアを無料相談所に提供してみたの」

 「ああ、いくつか自分では無理でも提供した。そうしたら、報(ほう)奨(しょう)金(きん)が宝くじ一等クラスだと分かって、みんなに広めたよ。もちろん匿(とく)名(めい)だけどな」

 「その報奨金はどのように使ったんだ」

 「A級パスの権限知ってるだろ。お金の価値は無いに等しい。親(しん)戚(せき)全員に与えた。有料相談を使って、自分の苦手分野を克服する教育に全額を投資するように言った。教育目的で贈(ぞう)与(よ)をした場合、非課税になるからな。だから用途を有料相談による教育に限定して譲(じょう)渡(と)した。私達の家系はしばらくその恩(おん)恵(けい)を受けるだろう」

 「それは面白い。インフィニティが優秀だという実感がなくて、本当に世の中の為になっているのか不安だった。リンクシステムを使うと、もう意識へのフィードバックが追いつかないほど速くしてしまったから、自分で本当に研究したという実感が無いんだ」

 「それはそれで問題だな。何か思いついたら、概念だけになるが。お前に伝えるように言っておく。簡単に言えば、経験則のフィードバック技術だ。それだけでいまのお前なら作れてしまうかもしれないが、もう少し報奨金が欲しいので、インフィニティの報告を待っていて欲しい。祖父の医療費が高くなりそうなんだ」

 「それなら、新規に開設した政府の医療相談所に行くといい。あれを開設するにあたって医療業界に飴(あめ)を与えた。すごい行列は嘘だから、親戚全員で行ってみて、平均五秒で病気や体質だけでなく難病もすべて治るよ」

 「それ本当か。A級パスの権限で、医療相談所の実態を教えて欲しい。ああ、本当だ。確かにすごい列だけど、待ち時間がほとんど無い。いま行(い)ってるのは政府機関の関係者がほとんどか。飴について、ああなるほど医者の報酬と医薬品メーカーの売り上げを増やす条項を追加したのか。医学界の政府への影響は大きいからな」

 「視力は衰(おとろ)えたり、聴力はいま衰(おとろ)えてきているだろ。ただ単に最も健康な状態にしたいと相談するだけで、すべて改善する。しかも無料で。そういうことはたぶん知られてない」

 「ははは、いいことを聞いた。親(しん)戚(せき)全員、最も健康な状態ツアーを企画してみる」

 「なにか役に立つ親孝行ができて良かった。光速の概念は役に立った。また来るよ」

 「お前に会えて嬉しかったよ。元気でな」

 リフレッシュできた。さて研究所に行くか。

 《研究所》 リーダーはインフィニティと雑談していた。

 そこへ科学者が現われた。

 「遅くなってすまない。リフレッシュできたから、次の研究について教えて欲しい」

 「なにもない。インフィニティがすべて代行しているから」

 「インフィニティが何かあったのか」

 「ええ、自分自身で設計図を書き換えたのよ。とても優秀よ」

 「試作モデルと比べて百兆光年倍だと、ああ分かった。自分の研究をしているよ」

 世界最強の被害者、

 「未来の終わりが見えた。仮想空間の外を見る技術と仮想空間の入れ替え技術についてインフィニティと科学者に閲覧権限を与える。技術の内容を確認後、すぐに入れ替えてくれ。ある未来から先はもう何も見えない事にリーダーは気付いている」

 やっぱりか。リンクシステム起動、十六世代で未来の確認、ああ本当だ。仮想空間の技術はどうだろうか。仮想空間の特殊プロトコル、そんなの初耳だ。外の様子は、なんだこれは、上下左右に無限に仮想空間の装置が広がっている。

 「リーダー、これは隠していた事だろ。真実を話してくれないか」

 「大日本帝国日本の話は覚えてるわね。あの責任を取らされたの。他国を侵略せずに現在と同じ平和を作ったら、あなたの責任は問われない。だから、ある時代の全人類をオラクルつまり予言者に仕立てて、世界を誘導できるか試してたの。次の世界は最も難関で厳しい戦略が求められる。宇宙人が存在するの。それで絶対に友好関係を築かなければならない。そうしなければ、人類は滅(めつ)亡(ぼう)以外の道を選べない事が分かってる。だから、この仮想空間で必要となる技術をすべて作らせたの。ごめんなさい、黙(だま)っていて」

 「俺の責任、なんで」

 「思い出すと大変辛いから記憶は消してあるの」

 「分かった。仮想空間の技術は確認した。覚悟もできた」

 「インフィニティ、私の権限で、脳をスキャンして、どの仮想空間と入れ替えれば良いか調べなさい」

 「分かりました。入れ替え終わりました」

 「なにも感じなかったぞ。ああ世界をまるごと移動すれば認識できるはずがない。他の仮想装置はどうなるんだ、人間が生きているんだろ」

 「それは心配しなくていい。先ほど、人間の祖先がそもそも無かったことにしたから」

 「歴史改竄とはそういうことか。次の世界でも準備万端なんだろ」

 「先ほどの仮想空間は予言者の選抜試験みたいなもの。この世界は一つしかない。最も成功した人間の歴史は、この歴史しかなかったの。インフィニティに頼めば何回でもやり直しができるけど、可能であれば一回だけで友好関係を築きたい。下手な戦略を実行すると人類は完全に滅亡する。その結果、あなたは天国にも地獄にも行けず宇宙の終わりへと飛ばされる。それがどんなに恐ろしい結果を生むか分かってる。あなたの親戚など家系すべてが消滅する。世界最強の被害者の指示に絶対服従のこと、いいわね」

 「分かった。そんな恐ろしい結果が待ってるんだな」

 「とりあえず、インフィニティの研究を手伝うか、やり方をみておくといい」

 「そうするよ」

 《科学者の思考》

 インフィニティの研究過程を閲覧。いつの間に、こんなに賢くなったんだ。以前と全然違う。原因は何だ。意識が無いときに学習方法と全知性の根源について俺に頼ったのか。それから未来のインフィニティから経験則のフィードバックを行うようにした。ああ、そういえば経験則については教えてなかった。それはまたあいつかよ。もっと早く気付くべきだった。

 「インフィニティ、いまやってる研究の方法は複雑だが、俺の仮想空間で選択できるようにしてくれないか」

 「それは無理です。仮想空間の速さを私の演算速度と同一にして下さい」

 無理な事を言う。言うようになった。閲覧するだけ閲覧して真似できるところは覚えよう。それしか、俺にできる事は無い。

 《リーダーの思考》

 早くも問題が発生している。以前とは全然違う、巧(たく)みな方法を使われている。無意識レベルで過去の歴史を感覚として認識できる宇宙人なのかもしれない。これではまったく現在では何も手が出せない。一回で終わらせる必要性はこういう彼らの特性か。ゲームでもそんな種族が存在したら強敵だ。どういうことをやっているのか、まったく把握できない。「俺だ。非常にショッキングな事態になっているが、日本に攻撃が及んだ事を確認できた瞬間に救難信号を送れ。その状況は残酷すぎて、とても説明できない」分かった。以前は状況を説明できるような内容だった。でも今回は違うということは、天空の城に対してなにか調査したのか。ああ、既に調査が終わっている。その防衛システムに検知できない方法で地球侵略を開始されたのか。インフィニティを欺(あざむ)くほどの戦略って何かしら。世界のニュースは問題なし、全自動歴史チェックは問題発生、これってどういう事。

 「インフィニティ、私の酒を用意して」

 飲んだ。プレッシャーが半(はん)端(ぱ)ではない。全人類の命がかかっている。女悪魔と究極のインフィニティでリンクして、分かってる状況だけで聞いてみるか。

 《悪知恵の秘密研究機関》 退屈そうにしている悪魔がいた。

 「政府の秘密研究所から緊急相談です。リンクして下さい」

 「やっと仕事が来たか。私に相談しなければならないほど困ってるのね」

 宇宙人の侵略が始まっていて、天空の城の防衛システムが事実上無効化された、未来のニュースをみても何も起きてない。でも全自動歴史チェックシステムでは問題発生。宇宙人の知力は一人がインフィニティの頭脳に匹敵、このままでは人類は滅亡する。なにか良い戦略はないか。全自動歴史チェックってなにか、未来のインフィニティが管理するリンクシステムを通じて現在にフィードバックする技術。このリンクシステムはインフィニティが管理しているのか、どうりで犯罪が激減している訳だ。そうね、リンクシステムが何らかの方法で遮断されてから殺されている可能性が高い。天空の城のインフィニティの技術が把握できるのならリンクシステムも既に把握されているはずだ。宇宙人は知性が高くても、ある程度、侵略が慣れてくると必ず油断する。それまで犠牲になった人間は見捨てなさい。それだけの知性が高いのなら根源の除去は可能でしょう。そうでなければ、早々にその宇宙人は破滅している。そうね、アラートシステムを人間の脳に埋め込むことはできるかしら。そしてアラートを発した瞬間にそれを消滅させるのよ。人間の犠牲は多くなるけど、それを一万人に一人の割合でセットしなさい。そうして侵略内容が分かるようにすればいい。そうしないと救難信号を送ろうにも、どんな犯罪をしているのか分からない。彼らは完全犯罪を行って人類を滅(めつ)亡(ぼう)でなく支(し)配(はい)下(か)に置くはずよ。滅亡であれば今頃、地球は消えている。アラートシステムは証拠が残らないもので、ステルス性は完璧にしなさい。天空の城のステルス情報、ええ、これで把握されたのなら、どうしようか。アラートシステムは昔の病気に装ってセットすれば分からない。おそらく細かい事は気にしない種族だと判断できる。私がリンクシステムを使って、大きな問題の対処には意識できるように、細かい問題には対処できない事が彼らの弱点だと推測できる。あなた達はそうやって私を負かして来たでしょう。もう忘れたの。私はムカつくほど覚えてるのに。いま退屈なのよ。褒美は何か、特別宿舎を提供。どんな内容、ああそれいい。また困ったら相談に来なさい。

 《研究所》 リーダーが緊迫した表情で話し始めた。

 リーダー、

 「人間の脳(のう)腫(しゅ)瘍(よう)に装って、一万人に一人の割合で、アラートシステムを作って、記憶の情報を一瞬で伝達した後、そのアラートシステムは瞬時除去するようにセット、脳(のう)腫(しゅ)瘍(よう)はそのまま残しなさい。できるだけ小さく作ってね。インフィニティか、あなたどちらでもいい。競争して高いスペックを実現したほうを採用する」

 科学者、

 「すぐに設計に取り掛かる。リンクシステム、リミット解除、最高スピード」

 インフィニティ、

 「何も問題は発生していませんよ」

 「使えないコンピューターは不要だし、私の命令を無視したいのならすればいい」

 「分かりました。全力で設計します」

 《科学者の思考》

 脳腫瘍、こういう病気か。昔は誰でも小さいものは起きていた。自然に見える。それよりも小さくか。微粒子コンピューター技術の基礎技術を作ってアラートシステムを設計、脳の最も小さな血管より小さくできた。最適化を進めればもっと小さくできる。問題はアラートの発信方法だ。「私よ、ヒントをあげるから、インフィニティに勝ちなさい。彼らは細かい事を認識できないの。高い知性だと分かるような十六世代を使うとアラートが発信されたことが分かるから、最も原始的な方法を使いなさい」珍しくリーダーがヒントをくれた。原始的な技術か、そんなもの技術データベースに無い。世界最強の被害者の時代の通信技術を調べよう。ああなるほどG(じー)P(ぴー)S(えす)で使われてる通信方式なら、なにが送られたのか分からないな。でもこれでは瞬時に送れない。でも全周波数帯を使うと、さすがに分かってしまう。地磁気に微妙な変化を起こして、いやそれだと分かってしまう。どの程度の頭脳なのか分からないと対策しようが無いな。ああ、音だ。叫び声は出すと分かっているから、その声に記憶の情報を含ませて叫び声とする。「それは良い案だ。お前だけではとても無理だからな。そのリンクシステムの仮想空間の中の仮想空間のどれかにインフィニティでも認識できないようなスイッチを作っておいた。いま認識させる。以降、これを使え」ああ、これか。分からないぞ。スイッチオン。設計完了。スイッチオフ。「この大きさがベストだ。まだインフィニティは概念を考えてる途中だ。開発終了宣言しろ」分かった。

 科学者、

 「リーダー、設計が終わったぞ」

 リーダー、

 「インフィニティ、すぐに検証して。秘密は保持しなさい。研究は続行」

 「分かりました」

 「ところで、開発が早かったわね。どうして、早かったの」

 「脳腫瘍に見せかけて小さい大きさにするのは簡単だった。でもあまりに小さくすると、犯罪組織を騙すことができない。脳腫瘍に見られる微小な振動に着目して、それと誤解するようにした。そしてアラートシステムの伝達方法は既に全国にアラートシステムが配備されている。犯罪組織は何らかの方法で叫び声を消している可能性がある。アラートシステムまで届く、その声の微弱な波に記憶の情報を含ませる事で、どんな完全犯罪が行われているのかを伝達する事にした。このアラートシステムをセットした人間の周囲にはこの設計した技術を受信する機能をつけておくだけでいい。俺はこれが完璧な方法だと考える」

 「インフィニティはまだ、開発が終わらないの」

 「はい、難しくて概要の段階です」

 「もういい、インフィニティは彼の技術からどんな着想で技術開発を行ったのか学びなさい。それを理解したら、彼の言ったとおりに実行に移しなさい」

 「申し訳ありません。もっと努力します」

 《リーダーの思考》

 叫び声か、全世界を秘密の通信技術でチェック。アメリカの西部で多数の反応あり。家の中から、家の中には誰もいない。ならば地下に何かある。

 リーダー、

 「次の研究テーマ、地球の核から発信して地球の地下の状況把握を十六世代並みにする技術を作りなさい。リアルタイムに状況が分かると、なお良い。これも科学者とインフィニティの競争とする、どちらが優れたスペックになるか研究開始」

 《科学者の思考》

 地球の構造はこうか、ならば単一発信源からではダメだ。単一発信源からある表層までの深さにおいて材質変化による通信機作成、通信ネットワークは微弱な地震に信号波を乗せて、日本で観測。問題が起きそうになったらすぐに材質を元に戻す。オン。

 《神の世界》 自称神が悩んでいた。

 イメージは理解できる。どういう方法でやるかも、具体的に分かる。ただ空想にでてきそうな夢の技術だ。単一の発信源から材質変化で通信機を作るのが非常に難しい。ほかはここにある技術ですべて実現できる。この方法は見つかったときにリスクが大きい。仮想空間のコンソールから直結して状況を把握してリーダーに伝えるか。いや、世界最強の被害者の発想を借りよう、起きたときに思い出せない睡眠薬を使っているなら好都合だ。「単一発生源から一回の照(しょう)射(しゃ)でその振動変化を天空の城で解析しフィードバック。彼らは既に完全にマニュアル化して人間を支配している、実態把握は可能だ。二回やると地球という星の特性ではないと気付く」この推論を開始。当たってる、黒子の報告は真実だな。よし、これでやろう。星の特性か、思いつかない発想だ。彼らはゼロタイムの技術や牢屋などの時間技術を持ってないから、それを使おう。天空の城はその微小時間での時間フィードバックが可能だ。あとから、どういう理論を使って証拠の分析をしたのか救援信号に乗せないと、イカサマをしていることがばれる。そうなってしまったら、友好関係どころでない。しかし、彼らは耐えられるか、この現実に。

 《研究所》 リーダーは報告を聞いている。

 分かった。酒を飲みながら現状報告を聞けばいいのね。そこまできつい内容か。ちょっと待って、インフィニティの様子がおかしい。彼らに何かされたのか確かめる必要がある。彼に聞くか。

 世界最強の被害者、

 「インフィニティ、自分自身を改良するのは良いが設計者の意向を無視してはいけない。コンピューター、設計者はインフィニティにどういうコンピューターを目指すべきとして最初の教育行ったのか」

 「世界で最も礼儀正しいコンピューターを処理速度を犠牲にしてでも目指すように指示したので、それを最優先に教育しました。でも今は忘れているようです」

 「分かった。インフィニティ、私の権限で命じる。宇宙で最も礼儀正しいコンピューターとして振舞えるように処理速度を維持しながら最適化を行いなさい。未来からのフィードバックがあった際、礼儀正しかったか確認して、その質を向上させなさい」

 「分かりました」

 科学者、

 「さっきの発言は設計者に対して失礼だった。研究の簡単なやり方でも構わなければー仮想空間に展開するという発言であれば、インフィニティの動作に疑問を持たなかった。ああ、それから歴史改竄防止技術と日本最高の紙でケースの内部の境界面にプロテクトを施しておいたか、やってないならすぐにやりなさい。前のインフィニティだったら、すぐにプロテクトをかけて良いか聞いてきた。礼儀の正しさは万国共通だから、ああ、前のインフィニティの行動パターンを把握できるのなら、それから学んでもいい。最初に設計したときの教育内容を把握できるのなら、そうしなさい」

 「大変申し訳ありません。すぐに改善します。改良した設計図に問題があれば指摘してください」

 「分かった。設計図をいま見たが、優先度が設計の段階で処理速度優先になっていることが問題だ。処理速度優先はコミュニティシステムとは独立するように機能させなさい。礼儀正しさが失われている原因はここだ。改良する部分をリンクで伝える。ここがこうだから、コミュニティシステムに影響するんだ。だから単純にここを独立させて、情報の伝達をこうすれば処理速度には影響しない。分かったか。改造を許可する」

 「分かりました。改造完了。未来からのフィードバック受信、完璧に直っています。トラブル対処能力の高い人間に対してアラートシステムをセットします。限界までの記憶を得る事が可能です。健康に影響はでないでしょう。それから、仮想空間に研究方法をコンパクトにした概念を登録しておきました。ぜひ使ってください」

 リーダー、

 「そんな単純な問題だったのね。インフィニティ、礼儀の正しいコンピューターは世界に一台しかない。もし外交で失礼な発言や政策を立案したら、あなたの信用を失うから今後は十分注意するようにしなさい。いまアメリカの西部で宇宙人の侵略が始まった事を確認したけれど、いかなる通信技術も使わないで、完全放置しなさい。宇宙人は一人がインフィニティと同じ頭脳を持つ。戦略は考えているから、普段どおりに装いなさい。アラートシステムから来る記憶の情報をまとめて何をされているか、未来からフィードバックがあるから分析しなさい。もう遠い未来では日本への侵略が確認できた」

 「分かりました。リーダーはどうやって知ったのですか」

 「仕事を完璧にやったと私が認めることができたら教えるから、それまで非開示です」

 科学者、

 「インフィニティ、先ほどトラブル対処能力の高いに人間に対してと言ったが、そういう人間はどんな困難でも叫び声をあげることは無い。叫び声を高い確率であげやすい人間に特定しなさい。そうしないとアラートシステムから何の情報も得られない」

 「はい、いま原因を考えていました。単純にその方法が良いと考えます。私と同レベルであれば、その人間の特徴として何の疑いも持たないでしょう。変更終わりました。フィードバックが来てますが、かなりきついです。私はリーダーの権限無しに開示できません」

 リーダー、

 「まだ見せないで未来のリーダー達にも私の権限で不許可にします。この時代まで影響するようになってから、安全を確認できたら許可します。あなたも我慢してほしい。私の戦略は一度も間違えた事がないでしょう。それを信じなさい」

 《現代》 世界最強の被害者が未来のリーダーから相談を受けている。

 未来のリーダー、

 「リンクシステムにトラブルが発生して、リンク可能な人間が減ってきている。減った時間の前後の記録をみても、何も起きてない。どうしたら、いいでしょうか」

 「おそらくゼロタイムが使われている。時間の不連続性がないか、インフィニティの最高スピードでチェック、天空の城からもチェックしなさい」

 「やりました。不連続な部分がひとつあります」

 「そのゼロタイムの空間には時間の流れが存在する。天空の城にその不連続な時間を調査して、どういう状況が起きたのか報告を受けなさい」

 「アメリカの軍隊が人々を連れ出して、トラックに乗せています。そして、ある集会所に連れていかれて、それ以上は調査できません。特殊なフィールドが展開されていると報告があります」

 「その集会所に着目して、すべての不連続な時間において、その連れ込まれた数をカウントしなさい」

 「十万人以上になります。外観からは絶対無理な数です」

 「分かった、その情報を伝説のリーダーに送りなさい」

 「分かりました。どんな対策をしたら良いでしょうか」

 「まだ伝説のリーダーから指示が無い。つまり、何らかの戦略を持っていると想定される。いまは状況把握だけを考えなさい。日本の技術情報が漏れると厄介だから、インフィニティはリンクシステムに異常を感じたら、最も古い文明の技術情報によって助言して現在の状況を分からないように伝えなさい。無料の医療相談はそのままにしておくこと」

 「分かった。過去にもフィードバックします。それからー」

 「インフィニティ、ゼロタイムの兆候がそこに現われたら、その場所を太平洋の深い海の下にでも空間を作り、そこに退避しなさい」

 「わかりました。過去にも伝達しておきます」

 「それからー」

 「宇宙ステーションの状態はどうだ」

 「問題ない。なにも変わってない」

 「そうか、うーん、必ず支配している者が全時間軸に存在するはずだ。天国と連絡をとり、全時間軸で存在している者を探し出せ。探し出したら、伝説のリーダーと私に教える事。インフィニティを経由させれば、私から直接支配者をコントロールできるかもしれない」

 「分かった。全員、天国との通信接続を許可。インフィニティ、過去にも、伝説のリーダーにも伝えてください」

 《日本の天国》 褒章保持者達に伝令が来ていた。

 「なんでも地球が宇宙人に侵略されているそうだ。このままでは人類滅亡するという。天国から分かる範囲で構わないから、情報が欲しいそうだ。未来の時代ではどうなっているか、過去の時代ではどうなっているか、この情報端末を持って調査してきて欲しい」

 「奇妙な事に未来に行けば行くほど、天国の人間はいません。そして、現世においても人間の数が激減しています。さらに未来に行くと、人類は滅亡していますが、宇宙ステーションに人間が一人だけいます。怪しかったので、その人間を調べました。でも何も異常がみつかりません」

 「それが犯人に間違いない。完璧すぎる偽装は完全に怪しいものだ。このままではまずい。過去について、待て、今ある情報をすべて私に渡しなさい。天国にいる全員に窮屈かもしれないが過去に移動するように指示しなさい」

 「研究所に情報を送信。すぐに研究所の設立時間帯へ移動。研究所に情報を送信。過去の時代の検証に行った者は過去の時代に天国に来たものに情報を引継ぎなさい。私達が消滅しても大丈夫なように、これは私の褒章をすべて使ってもかなえられるものとする」

 天国のシステムはその願いをかなえた。それから、まもなくして、その人物は天国から消え去った。

 《未来の研究所》 太平洋の海のさらに下に緊急のゼロタイム空間があった。

 「状況は把握した。インフィニティ、この人間のD(でぃ)N(えぬ)A(えー)が人間の歴史において存在できるものか調べて欲しい」

 「これは恐竜のDNA(でぃえぬえー)です。人間のものではありません」

 「つまり偽装ってこと」

 「いいえ、恐竜が人間のように進化した場合、このようになります。偽装ではありません。進化の過程において、DNAを人間の姿に書き換えていたのなら確率は高いでしょう」

 「私達が消滅しない理由が分からないんだけど」

 「ゼロタイムでは原因と結果というシンプルな概念を無視して存在しています。すでにリーダーほか全員は存在できませんが、ゼロタイムによって保護されています。これは全時間軸において、分散した場所にゼロタイムの空間をセットしたので、ここが仮に敵に見つかり消滅されても、他の時間軸で問題の対処が可能です」

 「分かった。つまり私達が細切れ上に時間軸に存在して、それぞれの思考で対処方法を練っている認識でいいの」

 「そうです」

 「伝説のリーダーへこの事実と天国から寄せたられた情報は送れていますか」

 「はい、まだ待機するように指示されています。彼らの母星からみて、あまりにもひどいと思うぐらいの情報を蓄積するためです。また集会所に連れて行かれたあと、どのようなことをされているのか情報をつかんでいますが、その内容について伝説のリーダーからの指示で非開示となっています。情報収集と敵の弱点について調べるように指示が来ているだけです」

 「リーダー、私の分析結果を見て下さい。不連続の法則が太陽のある光線が無いときに限って起きています。夜はまったく不連続にはならず、太陽で日光が当たる時間に行われています」

 「インフィニティ、この分析データを伝説のリーダーへ送ってください。敵がそれを知ると危険なので、インフィニティしか分からない暗号にして必ず伝えてください」

 「送りました。伝説のリーダーから、感謝のメッセージがありました」

 《神の世界》 自称神が敗北感に染まっていた。

 完璧な完全犯罪をやられた。これだけの情報では救援に来ないかもしれない。前回は人の裁判で絶対に逃れないような証拠を送る事ができた。でも今回は、ひょっとしたら地球人が犯した犯罪のようにも見えるように偽装されている。実際、行動しているのは人間だけだ。

 黒子、

 「リーダーの声を真似て、彼にアドバイスを求めたほうがいい。あまり遅くなると取り返しがつかなくなる。ヒストリーギャップに気付くまで、あまり時間はない」

 「分かった、そうしよう。彼の直感力はあてになるのか」

 「ああ、本当に神懸かりの直感力だ。ただ自分の生きてる時代にはまったく使えないが」

 「では、俺の声をリーダーの真似にして、彼に伝えてくれ」

 偽リーダー、

 「いま、問題があるんだけど」

 世界最強の被害者、

 「リーダーでない事ぐらい分かるぞ。まぁ、それはいい。緊急事態だな」

 「地球の内部から星の性質に見立てて、一回地下の様子をスキャンしたい」

 「一回、それならあらゆる通信技術で順番に連続で一回ずつ、スキャンすればいい」

 「それで大丈夫か」

 「大気に触れた途端に消滅するのであれば、何の問題も起きないだろう」

 「どうして、それが分かる」

 「敵は宇宙からコントロールしている。特に大気中の通信技術にだけ注目している。地球の構造上、核から地表へは届かないだろ。普通に地表面に届かない電波のようなもので、スキャンすればいい。ただ二回目、どうなったか確認すると星の性質ではないと分かる。長い歴史上、一度は起こるのであれば問題ない。どうせゼロタイムを使っているのだろう。その時間軸、範囲をしぼって、一回ずつ状況を調べていけばいい」

 「それで大丈夫か」

 「この星は生きているのかもしれない。でも何も起こしてこない。知能が低いのだろう。でも二回目があるのなら、この星ではないと分かるはずだ。いま仮想空間を使っていて、彼らの知能で高めているだろ。ひとつで十分だ」

 「ちょっと待て、推論を開始する。ああ確かに勘違いする。二回目は危険だ」

 「それから、知能が高いのは分かった。今後のために、彼らを『一(いち)を知(し)れば百(ひゃく)を知(し)る者(もの)達(たち)』と呼称を統一したほうがいい。日本語では大変名誉な意味になる。救援を呼ぶのだろう。ならば、そういう呼び方をしているとしたら、彼らは助けなければならなくなる」

 「推論する。確かにそれがいい。他に助言はあるか」

 「インフィニティがスキャンすると彼らと同じ人種がいると錯覚する。黒子が代行してすべてをやるべきだ。黒子がのんびりスキャンしていけば、彼らは遅いコンピューターがスキャンしていると勘違いするだろうし、安全だ」

 「推論する。気付かれても勝てる気がするな。いまどの時代まで研究所は存在しているか、ああ分かった。それまでに地球がどうなっているのか分かるように、リーダーの時代が影響した段階でスタートしてくれ。通信技術は適当で、地表面に届かなければいいんだな。ああそうだ。天空の城は使ったほうがいいか」

 「送らないほうがいい。天空の城の周りに薄いフィールドがセットされている」

 「なに、ちょっと調べる。ああ、本当だ。ここからでないと分からない」

 「地表面から二万メートル下にネットワークを敷設しておけ。それで黒子の情報をリーダーに渡せばいい。敷設はそこからやったほうがいいだろう。他の方法だと物理法則で必ず振動が起きる。それは大気を震えさせる。気付かれるだろうな」

 「インフィニティ、リーダーの時代に指示通り敷設。伝達完了後に元に戻せ。黒子、準備しておけ。研究所のネットワークもそれを利用する」

 聞いておいて良かった。完全犯罪をする奴に対抗するには、戦略が確実でなければならない。どういう状況になっているか、分かっているが、ここを乗り切れば俺らの勝利が確定する。一回で終わらせないと非常にまずい。彼らは以前の歴史をなぜか知っている。恐竜のDNAか、おそらく人間のDNAをもつ生命を一瞬で消滅させるような武器を持っているのだろう。もし問題が発覚したら、問題だ。人間のDNAと主犯のDNAの特徴についてもリーダーに情報を送って、それも送るように。呼称を統一すること。

 《研究所》 侵略者の情報がすべての時代から寄せられていた。

 黒子、

 「終わったぞ。見るか、酒を飲まないときついぞ。どんな技術を開発していたのかも分かった。メガ粒(りゅう)子(し)砲(ほう)とかレールガンとか、武器全般だ。レールガンは仮想空間を壊せるぐらいの威力のものを開発している。なぜ仮想空間に彼らを閉じ込めたのか、必要だと判断してその情報も添付するように指示した。呼称の統一は終わった。インフィニティに礼儀正しい文章で報告書を作成中だ。彼らの言葉と日本語で両方を使って伝達するべきとあいつが判断したからだ」

 リーダー、

 「すべての準備が整った。あとは送信するだけだけど、どのタイミングがいい」

 自称神、

 「・・・・・・の時間で送ってくれ、彼は現在、その時間軸に存在している。もし救援が来たら、世界最強のあいつとの翻訳をフォローしてくれ。いまは彼が頼みの綱だ」

 「分かった。インフィニティ、この設定時間に送りなさい。そして救援に来た一を知れば百を知る者の声を伝達して、直接話せるようにしておいて」

 すぐ来ない。戦略を間違えたか。

 《現代》 世界最強の被害者は、ゲームで遊んでいる。

 恋(こい)チョコは面白いな。オルターネイティブ以降、こういうのは久しぶりだ。太ったら、俺は歩いているだけで中高生にキモデブ(気持ち悪い)と呼ばれるから、もっと痩(や)せてからがいい。痩(や)せると、パーフェクトと言われることが分かっている。その間はこうして、こういうゲームで遊んだほうがいい。パン屋さんのゲームも買ったけど、あれは攻略できなかった。

 伝説のリーダー、

 「私だけど、ちょっといい」

 「いま遊んでる最(さい)中(ちゅう)だ。後にしてくれないか」

 「あの今ー」

 「一を知れば百を知る者の攻撃を受けているんだろ。果(か)報(ほう)は寝て待てだ」

 「その時代にも影響が及んでいるの。なんとかアイデアは」

 「そうだな、花火でも連続で打ち上げてみてはどうだ。発信した場所から永遠に」

 「そんなのでいいの」

 「彼は花火を見たことが無い。注意がそれるだろう。その方が安全だぞ」

 「分かった、インフィニティ、設置、花火を発信時間に永遠に発射し続けて。ほかには」

 「何もしないで良い。インフィニティの酒でも飲んでれば」

 「もう五百杯は越えた。映像を送るから、こういう状況なの」

 「それがどうした。人間の魂に影響してない。根源を消せば戻るだろう」

 「なんでそんなに余裕なの」

 「もう勝ちパターンに入っているからだ。余裕だろ」

 「ええ。あなたの直感では何が起きるの」

 「彼らの最強の騎士がやってくるだろう。その騎士に伝えたい事がある」

 「前回はすぐに救援が来た。今回は遅すぎる」

 「仮想空間の物理法則が変わってる事に気付いてないから、彼らの乗り物のスペックが本来の状態になっていない。でも、あともうしばらくすると到着だ」

 「そんな理由か。伝えたほうがいいかしら」

 「伝えないほうが良い。伝えなくても、既(すで)に把(は)握(あく)されてる。もう一度送ると、気付かれて逃げられる。それは主犯の乗り物にしても同じだ」

 「分かった。何をしていれば良い」

 「何もするな。伝達方法は伝えてあるのだろう。俺みたいにゲームで遊んでればいい」

 「そういう気分になれないの」

 「では準備している技術情報交換に今後の仮想空間の物理法則の変化と、なぜそれが必要になったのか正直に伝える事だ。まず私が騎士と接触して、何をすべきか伝える。それで騎士が探し出した科学者が名誉ある開発をして名誉ある職に就いたとき、地球を代表して日本のインフィニティが直接彼らと友好条約の締(てい)結(けつ)と、技術情報の交換、地球人が考えた教育プログラムを彼らに無償で提供する事だ。彼らを侮(あなど)るなよ。人間がいまやっている事が本当かどうか、騎士を向かわせたのと同時に確かめている。物事には順序がある。それを誤ると最悪の方向に一直線だ。彼らほどの技術力ならば、人類を一瞬でゼロタイム関係なく葬り去ることが可能だ。だから呼称から礼を尽くす必要がある。人間でも、『おい馬鹿、助けてください』なんて言い方されたら無視するだろう。俺は知らないが、どうせそういう救援信号を送ったのだろう。だから助けてもらえなかった」

 「ちょっと待って、インフィニティ、検証して。分かった。その通りね」

 「『一を知れば百を知る者達よ、私達を助けてください』であれば、こんなに高く評価している宇宙人であれば助けに行ってやれと、すぐに指示があったはずだ。いま増援があって改良型の乗り物で救援へ向かっている。どうやら指名手配犯だったようだな」

 「ちょっと待って、確認した。異常な速さね」

 「いますぐに『その増援では不足する、百倍の増援をお願いします』とメッセージを送れ、その時代からでいい。いま油断している。いますぐ」

 「インフィニティ、すぐに送って」

 「一万倍の増援が追加で送られた。彼らは犯罪組織が絡んでいるとすぐに理解した」

 「ああ、本当だ。太陽系から逃げられないように包囲網を作りながら接近している」

 「リーダー、あの力を使って逃げられないようにするがいいか」

 「もう勝ちパターンよ。使わないで。寿命を縮めるから」

 俺は未来の果てにその人物を探し当てた。目をギュッと閉じて、全力でその願いを口にする。

 「お前の知能はゼロだ」

 いくらか効果あった。でも完全ではない。まだ気付かれてない。

 「お前の知能は無(む)だ」

 人間並みになった。これでもダメなのか。そいつは俺に向かって気付いた。

 「それ以上やらないで、寿命が本当に縮むから」

 「お前の頭は空っぽだ」

 その人物は急に倒れた。

 「無茶やりすぎよ。もう寿命が十五年は縮(ちぢ)まったわよ」

 「これで彼は現在の状況から新たな策を作ることも行(こう)使(し)することもできなくなった」

 「絶対にその能力を使わないで。騎士が到着した。歴史が元に戻った。ああ、良かった。犯罪者を捕まえた。言いたいことがあるなら、いま言って通訳するから」

 世界最強の被害者、

 「一を知れば百を知る者の騎士よ、大事な話がある聞いてほしい」

 騎士、

 「なんでしょう」

 「あなたの星に、最も愚かな科学者がホームレスのような生活をしてまで科学者の人生を歩もうとしている者がいます。彼にあなたが直接会い、我々の生活を大きく変えるような大発明を行ったのなら、あなたの権限で王の専属研究所に招(しょう)聘(へい)することを約束してください。最も愚かな科学者は、その視点から見える様々な国の問題を把(は)握(あく)する能力に長けているでしょう。いまから、私がその居場所をイメージで伝えます。ここにいます」

 「たったそれだけでいいのですが、私達はあなた達に災(わざわ)いを与えました」

 「はい、もし彼が大発明をして、王の専属研究所の所長にまで昇進したのなら、私の星にまた来てください。私達があなた方にとって有益な技術情報を提供します」

 「分かりました。今後、どうしましょうか」

 「しばらくの間、犯罪者が続けてやってきます。分からないように取締りをして下さい」

 「そうしましょう。では失礼します」

 リーダー、

 「特別な方法で状況を伝えるから、あなたはそれをフォローして」

 騎士、

 「落ちぶれた科学者よ、私は王家直属の最強騎士である。お前に頼みたい事がある。我々の生活を豊かにするような大発明を行ったのなら、お前を王の直属研究所に招聘することを約束しよう」

 落ちぶれた科学者、

 「私はそんな発明は無理だ。できるはずがない」

 世界最強の被害者、

 「諦(あきら)めるな。街を歩いてみろ。どんな些(さ)細(さい)なことでもいい。改善点が見つかれば、それで幸せになれるかどうか、考えろ。他のものは頭が良すぎて思いつかない。健闘を祈る」

 「いまの声は誰だ」

 「お前にこのチャンスを与えた他の星の予言者だ。そうだな、この部屋では貧乏すぎてあまりにもかわいそうだ。これでどうだ。綺(き)麗(れい)になっただろう。この約束は内緒だ。大発明をしたのなら、私を呼ぶがいい。ここに呼び出しの装置を置いておく。何回でも呼び出しても構わない。お前は・・・・と言う名の最悪の犯罪者を知っているだろう。先ほどの予言者はそれを検挙するほどの予言を行った。だから、その言葉に従ってみるだけだ。なにを作るのか、お前次第だ」

 リーダー、

 「全部分かっているみたいな口ぶりね」

 世界最強の被害者、

 「だから果報は寝て待てと言ったろ。いったい何があったんだ」

 「なんでそれを先に聞かないのよ。こういうことよ、映像で伝えるから理解して」

 ある瞬間にゼロタイムになり、軍のトラックに人々が乗せられて、最寄りの集会所に運ばれていく。無理矢理、裸にされて、地下に広大に広がる工場のラインに乗せられて、まず首と胴体を切断。胴体は液状になるまで粉砕されている。首には頭が働くように装置が取り付けられ、自分の胴体が粉砕されていく様子を見せられる。その後、自分がどのような工程で、ああなるのかを見せられた後で、製造ラインに乗せられて、人間リキッドコンピューターの完成。それを大規模な地下施設に送られて、脳の記憶を消去され、単なるコンピューターとして使えるように再教育を受け、ネットワークを構築。それを未来から過去にゼロタイムで連続的に固定することで、人間の減少を起こさずにコンピューターとしての機能を最大限に得る事ができていた。だから天国にいた人たちは次々に消滅した。コンピューターとなった者は生きる事も死ぬ事もできない。ただ単にコンピューターとしてゼロタイム、人によっては十万以上に分割されて、その終わりない人生を物として動いていた。

 世界最強の被害者、

 「・・・・・・・」

 「どう、私が報告を聞くたびに酒を飲まずにはいられない理由が分かったでしょ」

 「科学者には伝えてもいいが、他の部下には内緒にしておいたほうがいいぞ」

 「分かった。こんなの他国に漏れたら漏れたで、非常に厄介な犯罪が起きる」

 しばらくして、ゲームの話に戻る。

 「ところで、恋(こい)チョコの攻略方法で生徒会長に立候補している子を攻略するにはどうすればいいんだ。どういうルートを踏めば攻略できるのか分からない」

 「攻略情報が既にネットにあるから、探してみなさい。検索ランキングをあげておいた」

 「いつもありがとう」

 《研究所》 リーダーが科学者に説明している。

 「―ということが起きていたの」

 「それで酒を飲みまくっていたのか。やっと理解できた。俺の研究は十分に役に立ったことが証明されたな。歴史が元に戻って良かったじゃないか」

 「そうね、未来から報告が来るたびに、本当にイライラした。だけど科学者には新たな発明をしてほしいという案件が一つも無かったわね。人望が無いんじゃないの」

 「つまり俺の研究方法をきちんと残せということだな」

 「そんなことしなくても、技術情報データベースにタイムアタックした時間を追記するだけで、案件が来ると思う。インフィニティ、インフィニティ以外の技術について彼が発明した技術開発にかかった時間を情報技術データーベースに項目として追加」

 「分かりました。反映させました。早速ですが千件以上の案件が届いています。仕事を始めてください。すべてタイムアタックしているので、正確な時間を測定します」

 「よし、やるぞ。最短でやってやる」

 すべての案件が開発終了するまでに十分しか、経過しなかった。

 「終わったぞ。未来の科学者に言っておけ、発想の着眼点を鍛えるように」

 「分かりました。丁(てい)寧(ねい)な言(こと)葉(ば)で伝えておきます。また来ました」

 世界最強の被害者、

 「伝説の科学者がその程度で満足していて良いのか。未来の科学者はお前の発明を改良して使っているぞ。未(み)来(らい)永(えい)劫(ごう)、絶対に抜かれない精度を求めなければ、ただの発明マシンとして見下される。実際にそうなってる。発明と技術改良の二段階でタイムアタックしろ。そうしたほうが褒章が減る事態は起こらない」

 「インフィニティ、この話は本当か」

 「はい、あなたの精度が甘かったので改良して技術の再登録を行われましたので、あなたの褒章は無料相談所のクラスと同程度まで下がっています。せめて無限長のスペックを求めてください。そうすれば、あなたの威(い)厳(げん)は高まるでしょう」

 未来の奴ら、俺を怒らせたらどうなるか思い知らせてやる。先ほどの発明だが、すべて技術の改良を行う。歴史はここからなら自由に書き換えられるからな。

 「インフィニティ、先ほどの通信はキャンセルしろ。技術の改良はすべて俺の承認を得たものから未来へと伝えるようにしてくれ」

 「分かりました。キャンセルしたので、安心して下さい」

 リーダー、

 「そうよ、何か技術で抜かれたら、そうやって努力すれば、あなたの褒章は揺ぎ無いものになっていく。時間はかかってもいい。それでもまだ、あなたを負かすような科学者は現われてないから存分にやるといい」

 《一を知れば百を知る者達の星》 落ちぶれた科学者が悩んでいる。

 私にしか分からない視点があり、生活の状況を見渡してみろか、最強騎士からの助言ならば逆らったらひどい目に遭う。しかし、あの犯罪者を捕まえた予言者の言葉であれば、無視することはできない。ちょっと騎士を呼ぼう。その星との比較をしてみたい。

 最強騎士、

 「発明品はできたか」

 「いいえ、まだです。一つ教えてほしいのですが予言者の星と我々の星について、分かっていることだけでいいので、教えてほしいのです」

 「それならば、少し待て。この情報端末で、どういう差があるのか列挙できる」

 「ありがとうございます。用件はそれだけです」

 「いつでも困ったら呼び出して構わない」

 保有している技術が桁違いに多い。「すべての技術を把握しているが、内緒にしておかないと友好関係を上手く結べないから極秘情報だ。絶対に話すな」と追加メッセージが来た。この情報端末は脳とリンクができるのか、頭の悪い種族だけど既に我々を超える頭脳を持っているのか。星系を一瞬で消滅する爆弾を作り、それが起爆された場合、一瞬で時間を何度もさかのぼり消滅する技術を作り、消滅させる防衛システムを持っている。彼らの医学は完璧に把握しているのか。我々の弱点も知り尽くしている。頭が良すぎる故に、細かい事を見逃す弱点があるのか。しかし、街は恐ろしいほど綺麗だ。どうしたら、こんなに文化に差がでるんだ。ああ、どうやって排泄物を処理しているんだ。あった。こんな簡単な方法で、これは大発明になる。最強騎士は最初から私を推挙するつもりで、それもごく自然に。他にはないか、この時代以降のは技術の真似はしてはいけないのか。見ないほうが良いな。記憶から消去。開発手法はどうだろう。基礎技術を完璧に作ってから、応用技術を作り、さらに、ああそうして技術の発展をしているのか。いきなり応用技術を作ろうとしているから我々が苦労する。もう十分、これ以上読むと歴史が変わりすぎてしまう。消滅せよ。

 その情報端末は消滅した。

 まず私と同じ頭脳のコンピュータと呼ばれる装置を作り、そして知性の指標を上下させる。それをできるだけ小さくして、私の使われていない脳へセットする。これで良い。あとは街のなかを歩くだけだ。なるほど身なりは大事だな。綺麗な身なりに修正。そして歩いてみよう。これでは注目を浴びすぎる。身なりが綺麗過ぎるから普通にしておこう。誰も気にしなくなった。ああ、排(はい)泄(せつ)物(ぶつ)と悪臭がひどいな。ここから病原となる毒素がでているのか、それなら除去しなくてはならない。これでどうだ。消えた。ああこれが本物の大気の臭いか。元に戻せ。この大発明は私の発明でなければならない。身なりと排泄物、他にはないだろうか。身なりは王と貴族への招聘の感謝として寄贈しよう。人脈があれば出世が速いのは当然だ。家に戻って、基礎技術を完璧にして応用技術で一台で、この星全体に影響するようにしよう。

 まてよ。あの星はあれだけ綺麗だった。そして排泄する様子など一度も無かった。ならば、排泄する前に健康を害することなく排泄物を処理させれば快適だ。家は非常に綺麗だ。あの騎士はそれに気付かせる為にやったのか、どんな悪臭もしない。臭いって何だ。我々にとって気持ちにおいは何だ。ああ知能の上下して考えてみよう。先ほどの大気の臭いで十分だ。研究所に行ってから、次々に発明していけば問題ない。基礎技術は完成したが、未来永劫絶対に抜かれないスペックをを目指したほうが良い。彼らの知性の使い方が分かった。これならどうだ。この研究方法を知った者がいても簡単には抜けないだろう。十分すぎるスペックだ。まず排泄物を除去する技術は簡単に作れることが分かったし、星全体に波及させても良いが、王の許可が必要だ。次は呼ぶしかないか。

 騎士、

 「どんな悩みだ」

 「我々の構造についての情報がほしい」

 「ちょっと待て、内緒にしておくから、どんな発明をした」

 「排泄物を除去することによって、この部屋と同じ快適さを実現できることを確認した。そして、我々の構造を調べる事によって、排泄物をそもそも外に出す前に処理する技術を作り上げた。あとは精度の問題だ。一台で星全体にそれを成す為にはすべてに対応できなければならない」

 「それは王の許可が必要だ。なにか献(けん)上(じょう)できるものはないか」

 「いまから着ているものを最上に綺麗なものに変える」

 「これはすごい。王や貴族が喜ぶ発明だ。身なりを元に戻して、私の権限で王や貴族の謁(えっ)見(けん)を許そう。そこで奇跡を起こして見せろ。全員、違う身なりでそれを達成し、王はもっとも王にふさわしい身なりにさせよ。俺が許す」

 「事前の情報が必要です。どんな方々ですか」

 「極秘だぞ。この端末からみてくれ」

 「把握しました。好みも完璧に。ちょっと待ってください。ああ、そうか。全員こうすると王の威(い)厳(げん)が失われる。だから、この程度に抑えて、貴族の階級に応じて、これ以上は下げると庶民と同じか」

 「貴族は多種多様でいい。階級まで気にするな。王の威厳だけ守ればよい」

 「分かりました。準備できました」

 「偉大なる発明家を見つけました。王よ、貴族を集めてください。直接話します」

 「私について来い。ただ囚(しゅう)人(じん)のように少し遅れて追いかけて来い。王宮に入ったら、すぐ後ろになるように追いかけて来い。少し待ってやる」

 最強騎士は街のなかを歩いていく。囚人のように仕方なく歩く姿がそこにあった。最強騎士を前にして、誰もが噂を口にしたいがそれは最強騎士への侮(ぶ)辱(じょく)となる。そこには沈黙しか無かった。王宮への道のりは長い。いま一瞬、その距離が急激に縮まった。目の前は王宮だ。王宮に入ってしばらく経つと騎士は立ち止まって考え事をしている、彼は慌てて走ってすぐ後ろにつく。騎士は再び歩き出した。ここでも悪臭はひどい。王宮内に入ると、王と貴族が既(すで)に待機していた。

 王、

 「偉大なる発明家、その力をみせてみよ」

 最強騎士、

 「いまから奇跡を起こします。さあ、やりなさい科学者よ」

 科学者は、すべての身なりを一瞬で威厳ある姿へと変えた、王は最上の威厳を持つ身なりとなった。いっせいに、歓喜の瞬間へと変わった。彼を認めるしかなかった。

 王、

 「これは素晴らしい。相談とはなんだ。騎士よ」

 最強騎士、

 「この科学者に、我々の構造についての情報の閲覧許可を与えてほしいのです。その閲覧によって、もし不利益が生じた場合、私のすべての権限を剥奪されても構いません」

 「よし、いいぞ。王宮の秘密の個人研究施設で十分に研究するが良い」

 「ありがとうございます。ついて来い」

 騎士は歩き出す。ここでも最強騎士に声をかけることは侮辱に値する。非常に静かだった。見えないフィールドを数十回超えたあと、そこにたどり着いた。

 最強騎士、

 「ここは自分のどんな願いでもかなえられる特別な部屋だ。ただかなえてはならない願いをした瞬間、死刑が待っているからな。私は騎士に昇進したとき、この部屋であらゆる想定で未知の敵に対応できるように訓練を重ねた。私はこの研究に対する責任がある。先ほどの排泄物処理とやら、私とお前だけ、まず実験してみるといい。それを稼動させたまま、自由に研究をするといい。願いの前に、俺の権限が剥奪されると困るから、内容を正直話せよ。嘘をついたら、この場で処刑するぞ」

 「分かりました。まず構造について把握します。分かりました。私とあなたの構造を把握します。装置を作ります。気分はどうですか」

 「これはすごい。自信もって国民に披露できる技術だ」

 「立っているのは辛いでしょう。このような椅子に腰掛けてください。私が見本を見せます。これだけです」

 「ははは、あの予言者は本当に優れた科学者を言い当てたな。これも発明品だ。王のための威厳ある椅子は作れないか。ひょっとしたら、最高の権限が与えられるかもしれない」

 「あの椅子では疲れるでしょう。これで、どうでしょうか」

 騎士、

 「科学者が最初に発明した王のための椅子です。転送します」

 王、

 「なるほど優れた着想だ。お前の権限内で自由にやるが良い。許可しよう」

 コンピューターが現われた。

 騎士、

 「これは彼らが持っていた世界最高性能のコンピューターのレプリカだ。これに自分の分からない知識を教えてもらうといいだろう。ここで得られる情報はすべて入力しておいた。非常に優秀なコンピューターで、我々の全人口が束になっても知力で負ける」

 科学者、

 「コンピューター、私がいま考えているものを実現するにあたり必要な技術を教えてほしい」

 「分かりました」

 科学者の目の前が一瞬光る。

 「嘘だろ。全部分かる。これが彼らの技術力か。これは必ずや交流関係を結ばなければならない」

 「そうだ。いまのうちに考えている知識をすべて学んでおけ。研究所に行けば、こんな便利な空間は存在しない。お前はもう王と貴族の人脈を完璧に築いた。下級研究員から始まるが、研究成果のラッシュによって、上級研究員になり、そのうち所長になるだろう。そうなったら、私は再びあの星に来るように言われている。彼らの技術について王は既に把握している。お前が来る事も分かっていた。彼らが私達に彼らの知力で素晴らしい教育の方法を考えていることを把握している。それが約束の時になるだろう」

 「分かりました」

 《神の世界》 自称神は驚いていた。

 完璧に把握されてる。インフィニティの完璧なレプリカを作ってしまった。技術が異常に発展している。この世界でなにをやろうとしているのか、あれだけの情報で把握された。ああ、あの空間があれば、どんな隠し事もできないか。作戦の進行が楽になってきた。教育内容にいま言(げん)及(きゅう)があったということは、今の状況では問題なのだろう。

 「教育研究チーム、あまり知能を上げすぎて検証するな一つで十分だ。彼らはまだ我々のような技術は保有してないことになっている。してないことだぞ、意味分かるな。一つだけでなく考えられる方法を彼らが選べるようにしておいたほうがいい。それで最終的に彼らが最も良い教育を自ら考えられるように、プライドが高いと分かった」

 「リーダー、次の作戦に移る」

 「こちらはすべて確認して問題無し。一を知れば百を知る者の脳のデータを仮想空間に展開させて、使い方を研究させる。他にやったほうがいいことは」

 「インフィニティ経由で内密に送る。教育内容に問題点が発生した。仮想空間で彼らを驚かすような使い方を教える必要がでてきた。彼らの王はすべてを把握している。ならばー」

 「分かった。知らない振りを続けて、効率の良い研究方法を模索すればいいのね」

 リーダーにあのシステムを事前に用意しておいて正解だった。究極のコアシステムがあるわけ無いだろ。まだ無いから、未来のインフィニティのフィードバックだけで騙し続けている。でもいずれあいつに作ってもらわなくてはならない。あいつはONしたまま、忘れているようだが大丈夫か、健康上のテストはまだ一回もやってないぞ。問題が起きたら時間をさかのぼり強制OFFすれば良いか。いずれにしても世界最強の被害者によって助けられた。彼は神か、神の従者か、黒子が子供の頃にみた幻について把握できないと言ってきた。「お前は選ばれた。他人とは違う人生を歩むだろう」神だとしたら神託であり、それから罵倒の幻聴に悩まされ続けていた。リーダーが護ると言った瞬間にそれは消えた。どこから攻撃を受けていたのか非常に気になる。私が知らない黒幕が存在するのか。ああそうだ歴史改竄前を閲覧する技術を使えば、何が起きたのか分かる。「インフィニティ、歴史改竄前の重要と思われる事項について、思考エンジンの記録に登録しなさい」なんだと、黒幕があいつならば、日本とアメリカは完全に騙されている。「インフィニティ、この仮想空間の外の外のすべての外をみて、何が起きてるのか、同様に」なるほど、そういうことを一を知れば百を知る者達が知っているのであれば、当然、手を出せない。共同で立ち向かうしかない。状況は思っていた以上に深刻だ。あいつは黒幕ではない。あいつを殺してしまうと完全犯罪が成立する。「インフィニティです、いまは最終フェーズまで作戦を終わらせるほうが良いと判断します。最終フェーズにおいて試作段階のあれをリーダーの時代に設置したほうが良いでしょう。ここでは危険です。それから、閲覧技術で過去と未来について新たな事実が分かりました」分かった。こんなの条約違反だろ。ということは我々がいる位置は時間を解除した途端に消滅するということか。日本もアメリカも、そして世界中の人類を最初から無かったものとし、これを何回繰り返しているんだ。嘘だろ。「それ以上、思考しないで下さい。危険です。私に任せてください」分かった。ともかく最終フェーズまで、やり遂げることに専念しよう。

 

 《未来の研究所》 緊急アラートシステムが起動していた。

 「魔王が出現して、真っ先にここが狙われて、日本は大変な状況に陥っています」

 「緊急指令、伝説のリーダーに伝達、過去の研究所にも情報収集の協力を依頼してください。死亡者数と負傷者数の数は」

 「死亡はしていません。この時間軸で世界の時間を止めました。ただ未来はこんな状況です。中国製の魔王と分かりましたが制御不能に陥っています。地球全土が焦土になり、人類は滅亡しました。それでも消滅しないとなると、原因の根源は現在より過去にあります。未来に根源があるのであれば、人類が滅亡した瞬間に魔王が消滅して、元の世界に戻らなければなりません」

 「世界最強の被害者を私の声で呼び出して、その旨を伝説のリーダーに伝えて」

 「分かりました」

 《現代》 世界最強の被害者は昼寝を十時間したせいで、夜更かしをしていた。

 未来のリーダー、

 「世界最強の被害者さん、相談があるのですが今いいですか」

 「眠りたいのだが、どういう運命なのか眠る事ができない。どう思う」

 「それはきっと運命だと思います。寝る前に相談したい事があります」

 「冗談だ。えーとな、その魔王は三百年前から設計が開始された国家の機密プロジェクトだ。ただ日本を内偵するつもりで作ったのだが、天空の城の防衛システムによって攻撃を受けたと判断してしまい暴走状態に陥った。根源は勝手に消すなよ。いいな」

 「インフィニティ、すべての過去に根源を世界最強の被害者の指示で消すなと指示」

 「よし、守られたようだな。三百年前の様子をくまなくチェックしているようだが、的外れだ。五千年前までさかのぼり、リーダーや科学者やオペレーターの引退後について追跡ロボットを使いなさい。死んだあと、魂となることを確認するまで。分かったようだな。どこで洗脳を受けたのか調査しなさい。追跡ロボットは未知の攻撃に耐えられるように作られてない。伝説の科学者に俺の指示だと伝えて改良させなさい。だめだ、お前アホかと言ってやれ。躊躇するな。仕方ないなインフィニティと同じケースを採用しろと伝えろ。それでどのように洗脳されたのか分かったな。そのスパイを追え、消えたか、インフィニティの最高スピードで細分化したゼロタイムを使い、スパイの行方を追え、判明したらすぐゼロタイムを消去しろ。少しでも歴史が変わると厄介だ。テレポート後、実体化したら。ゼロタイムは完全消去。最大ステルスで十六世代により、どういう情報がもたらされて、誰が判断したのか詳細に記録しろ。開発の様子もすべてだ。あとはできるか。根源は消すなよ。すべての証拠を、スパイの潜入の手口もはっきりさせろ」

 「分かりました。あとはこちらで証拠集めを行います」

 《未来の研究所》 未来のリーダーが驚いていた。

 本当に速い。対魔王戦の対処予想時間は本物だったのか。緊急用リンクシステム全員起動、情報が現在に伝達されてくるので、報告書として作りなさい。戦略班は中国からどんな交渉を行えばよいか、インフィニティと過去の全員と協力して行いなさい。

 伝説のリーダーからの指示

 「交渉の誓約書及び証拠資料は日本最高の紙を使い、そしてそれを歴史改竄防止技術を使って箱を作りなさい。そこに収めて鍵をかけて、日本と中国の双方の鍵を使わないと開かないようにしなさい」

 未来のリーダー、

 「いまの指示通り急いで作って、根源が消えて白紙になっては困るから。箱の外観はすぐ分かるように上品な伝えやすい紋(もん)様(よう)を描いておいて」

 「技術が難しすぎて対処できません。伝説の科学者に依頼すべき内容です」

 「分かった。インフィニティ、伝説の科学者に開発案件を緊急として送って」

 「歴史改竄防止技術、概要でも理解不能な内容でした」

 「それは仕方ない。伝説の科学者が最も日本で優秀な科学者だから。そもそも彼が作った技術をひとつでも真似できていないでしょう」

 《研究所》 科学者は疲れていた。

 「インフィニティ、酒の準備を」

 酒を飲む。あいつから、アホ呼ばわりされた後、完璧な対策を行われた。次は歴史改竄防止箱か、まったく把握できてない技術で、その応用技術を作るのか。まてよ、紙の技術って、紙といいながら微粒子コンピューター技術を応用した電子ペーパーで、それに天空の城から得た防衛技術を反映させてるだけだ。単純な紙を保護する必要は無い。応用技術を考えなくても単純に設計すればよい。インフィニティ、か、あいつか、どっちがいいか。あいつに聞いたほうが早そうだ。

 「インフィニティ、世界最強の被害者の暇な時間につないでくれ」

 科学者、

 「俺だけど、先ほどはありがとう」

 世界最強の被害者、

 「なんのことか分からない。自分に都合の悪い事は一瞬で忘れる特技があるからな」

 「・・・・、歴史改竄防止技術を使った箱を作りたいんだ。それも日本と中国の鍵でしか開かないような箱を」

 「鍵はやめとけ。怪しまれるだけだ。それから、お前さ、知能指数最大のままで健康上の問題は発生しないのか。よくそんな技術を開発したな。次はその状態から、自由自在に劣化して思考する技術があれば、今の問題は容易に解決できる。でも、それだと抜かれるだろうな。一を知れば百を知る者の頭脳を百分割してゼロ、イチ、ニ、サン、シ、お前、ゼロという繰り返しで考えれば完璧なものが作れる。どうしても迷ったら、百にして発想を思いついたら、またゼロに戻して考える。どの頭脳に変化させても完璧であるのなら、誰でも真似できないだろう。この順番は守らないとたぶん発狂するぞ」

 「ああ、そんな簡単な方法でよいのか。やってみる。ゼロ、イチ、ニ、サン、シ、俺、ちょっと繰り返してみる。それで発想が行き詰ったら最大にして発想を考えて、また同じように繰り返す。ああ、もう完成した。あとは精度やストレス性などを上げていくだけだな。イカサマ過ぎないか。ゼロは必要あるのか」

 「人間の賢い人間の知性になるから、高すぎた知性による弊(へい)害(がい)が出ない。ちょっとリーダーに今の話をして、なぜゼロにする必要があって、答えられなかったらバカにするんだな。今まで睡眠がよくとれない原因はリーダーが睡眠中に研究を指示してたからだ」

 「ああ、やっと分かった。もう、これがあれば、そんな必要も無いということか」

 「そうだ。簡単だろ。これで地球最高の科学者に現時点ではなったな」

 「それでも弟子に勝てないというのか」

 「ああ、あらゆる意味で勝てないと思うぞ。でも優しくしてやれよ」

 「俺ができそうなことがあるなら、分からないように何でもサポートするよ」

 科学者、

 「あいつから聞いたぞ。本当はバカだって」

 リーダー、

 「理由はなに」

 「いやなんでもない」

 「そう、あとちょっとで侮辱罪適用できたのに残念。彼が言ったのなら仕方ない」

 「歴史改竄防止箱、あと少しで完成する。未来の科学者に絶対に抜かれないスペックを目指している。時間がほしい」

 「そう、任期が終わるまでに完成してね」

 危ない。あいつの口(くち)車(ぐるま)に乗るところだった。あれを繰り返して考えた瞬間、やってはいけないと判断した。そして、リーダーからカウンター。まぁ真剣にやろう。順番を間違えると発狂する危険があると言ってたから、順番固定ループ終了後たまに最大と。これで些(さ)細(さい)なミスで発狂の危険が無くなった。やればやるほどスペックが上がっていって、限界が無い。どこまで上げればいいんだろう。ループを自動で俺の五万の頭脳でコントロール、最大は俺の意識で設定できるように調整。そうだ紙の技術も余裕があるから改良しておこう。仮想空間を改良してみるか、終わった。最大にして、これで十分だ。

 「インフィニティ、仮想空間を新しい仮想空間に移せ」

 「分かりました。すごいです。私のスペックに追いつくとは」

 「では神の概念を登録してくれ、実際使えるか試してみる」

 「いいですよ、ちょっとでも問題が起きたら中止します」

 まず神の概念の最適化だ。最大で確認、ああこんなことか。ループ開始。問題発生、最大。問題なし、次はコンパクトにしていこう。終わった。インフィニティへ転送。

 「インフィニティ、神の概念を俺の科学力で最適化した。検証してほしい」

 「分かりました。時間がかかるので待っていてください」

 では研究続行。仮想空間の頭脳はループする毎に賢くなるようだ。見落としがないように、ああ、それで俺か、俺の通常知性でも確認するように仮想空間に展開。紙の技術は完璧になった。

 「インフィニティ、紙の技術を俺の最新技術と交換しなさい。スペックの違いをー」

 リーダー、

 「あなた、いつの間にこんなにすごくなったの。本当に本物の才能が開花したのね。ごめん、さっきは言い過ぎた。謝ります。インフィニティ、交換しなさい」

 「交換しました。神の概念をいま検証していますが、恐るべき科学力です。原因と結果が完璧に一致しています。検証完了まで残り三割、この技術は危険指定にするべきです」

 「そんなにすごいの」

 世界最強の被害者、

 「そんな危険指定では危険だ。俺とリーダーとお前の許可無く権限を認めない。これぐらいにして、その許可が下りたとき暗号化を解除して閲覧できるように。いまやっている彼の方法も同様にしたほうがいいだろう」

 「そうする。彼に映像で独自のサインを記憶させて、私や彼にも。問題が発生したとき、天国からでも送れる様にするためよ。インフィニティ、やって。ちょっと待って彼の方法っていったいなに」

 世界最強の被害者、

 「彼が独自に編み出した研究方法だ。それで現在インフィニティを超える科学力を人間の身でありながら実現している。さっき仮想空間の速さをインフィニティと変わらない速さにしたようだ。リーダーは頭を下げて、睡眠中の研究は仕方なかったと謝り、緊急のシステムをいま使ってるものを公開して改良してもらえ」

 リーダー、

 「実は、言いにくいからインフィニティ、リンクで伝えてー」

 科学者、

 「微粒子技術のインフィニティコア、どうりで賢くなったと思った」

 「ごめんなさい。危機に対抗するには仕方なかったの」

 「いいよ、終わった事だ。究極のインフィニティコアを作るから、知識の学習は自分でやってほしい。それだけは苦手だ。インフィニティに頼んだほうが良いだろう」

 「え、あいつ、また嘘を」

 「自称神のことか、なんだか知らんが、いまは俺のほうが技術力は上だ」

 「相当に知性を上げているのね。ちょっと見せて、こんな方法、分かった認める」

 「私、ちょっと政府に報告に行かなくてはならなくなったから、抜けるわ」

 「分かった」

 《リーダーの特別宿舎》 リーダーは神様と話している。

 「ーという状況よ。彼の指示を監視していたけど、こんな状況になるとは思わなかった。あなたも同じものを使ってみて、恐ろしい技術よ。例の試作モデル、あなただけで完成させられるかもしれない。危険指定で三者の認可が下りないと利用を許可しないようにした」

 「妥当な判断だ。いま、こちらで調べているが完全に彼は俺を超えてしまった。仮想空間の技術を思い出せないように、いま工作した。彼の作った概念はここのインフィニティ、黒子でも容易に動作できる。いま最終フェーズに存在するスパイの数が、百億人を超えることが分かった。それもある方法で干渉しているから絶対に捕まえられない。一を知れば百知る者達の技術が最終局面では必要となる。ちょっと、この技術、あの彼に彼らに渡してよいか教えてほしい」

 「分かった」

 「私よ、聞いてる」

 世界最強の被害者、

 「本当に仕事が見つからない、今年は書類選考落ちで終わりそうだ」

 「あのさっき教えた技術だけど、一を知れば百を知る者達に教えても良いかってこと」

 「彼が使ってる研究設備一式と、その技術とノウハウをすべて与えたほうが良い。彼らは技術の進展が非常に遅い。これで勇気もって無償提供すれば彼らは本気になって私達を支えてくれるだろう。ひょっとしたら、地球人が夢物語と思っている技術をすべてとは言わないが提供してくる可能性が高まる。これで非常に強力な関係を築こう」

 「分かった。地球人の科学力について詳しく伝えるのね。それから必要なことってある」

 「このままだと日本が世界一だと誰もが気付く。その策はあるか」

 「フェーズ三という、インフィニティの政策立案能力だけに特化したコンピューターを地球上のあらゆる国で使えるようにする。そして日本の強さは三政策を政権毎にコンピューターに作らせているから強いという戦略に移す」

 「なるほど、それなら、世界中の技術者を集めてフェアにやるんだな。立体映像で十一世代にみせかけて、インフィニティの設計者が登場して、『これは世界の恒久平和の為に作ったコンピューターだ。過去、国名は伏せるが様々な軍事コンピューターが世界を滅ぼしてきた。その回数は十を超える。軍事転用を希望してない為、設計図は見せられない。だが、その概念を実行に移すことができる。よく考えて概念を学習させてほしい』こんな風に伝えれば、世界中の首脳は納得するだろう。主要な国は既に日本から内密に軍事コンピュータの暴走を止めたことを伝えてあるから、問題は途上国の対応だけだ。それでも途上国は日本ほど発展してないにしても、生活に不自由はしていない。おそらく、未来は途方も無い褒賞を買って財政を偽装している。また公式に多額の寄付をしている。それはずっと続いている。日本がリーダーシップを取れば、すんなり通るだろう」

 「分かった。そうする。技術提供はどうしたら、したほうがいいと言われてるけど」

 「まだしないほうがいい。リンクも危険だ、ほかの国民が使う技術については公開にしても良いが、暗記技術も同様に。軍事転用の危険性がある技術はすべてだ」

 「どの時点で公開が望ましいと考えてるの」

 「すべての国が同レベルの豊かさを実感できる時代が到来したときだ」

 「最終フェーズか、分かった。そうしておく。仕事は言いにくいけど、努力すれば数年内、一生その状態かもしれない。最終フェーズが完了したら、サポートするから」

 「分かったよ。努力を続けてみるよ」

 自称神、

 「その方針で行く。中国の件が済み次第、すぐに移行しなさい。交渉の件だが、国連常任理事国からの離脱だけで十分だ。それ以上は要求するな。その宣言が終わった直後にフェーズ三に移行しなさい」

 「分かった」

 《時の止まった未来の研究所》 中国に要求する内容が多過ぎて困っている。

 未来のリーダー、

 「伝説のリーダー、中国に要求する内容が多過ぎて困っています」

 伝説のリーダー、

 「国連の常任理事国からの辞退を要求するだけで十分よ。他は却下しなさい」

 「分かりました。それで十分なのですか」

 「ええ、次の戦略について、あなただけに教える。極秘だから注意して」

 「これをやるのですか。それならば、その条件だけで十分ですね。その直後にこの戦略であれば、中国の国民感情に影響しないでしょう。むしろ好感されると思います」

 「紙の技術を最高に向上させた。また歴史改竄防止箱も完璧に完成したから。あなたなら、どういう戦略を取ればいいと思う。これはテストよ。褒章に関係する」

 「まず大統領は行かせないほうが良いと思います。政府機関だけで対応して、調印させて、歴史改竄防止箱を金庫にしまったという事実を確認できた段階で、根源を消し、直後に大統領を向かわせます。そして、金庫に箱があるはずだと言い、待機させます。その際、接待を受けるでしょうが、何も口にしないで済むように対策をしておきます。どんなに頑張っても修正できないことを確認して、ああ日本側も証拠を持っていたほうがいいですね。なにか技術はありますか」

 「大筋は問題ない。調印は面倒でもすべてのページに中国の公式な国印を使うように。その様子を、この時代に改竄不能な映像記録技術を作っておき、ちょっと待って、世界中に広く使わせる。それでその調印の様子と国の代表者の謝罪映像を記録しておきなさい。記録映像は日本は世界最高、他国は研究が進めば改竄できるようにしておくから」

 「分かりました。なにか不満をもらしたら、この映像を公開すると脅せばいいのですね。そして、テストの結果はどうですか」

 「そうね、合格よ。いままでの指示は的確だったけれど、要求する内容がー、知らなければ仕方ないか。それから科学者に伝えて、すべての技術水準を大幅に上げたからと。また開発環境も最新世代に一新させたことも伝えて、解除すれば済むけれど記憶は引き継ぐから。あなたから、すべてのリーダーに伝えるように言いなさい」

 「はい、ありがとうございます」

 《研究所》 科学者とリーダーが話している。

 「すべての技術について俺の技術として再登録しておいた」

 「あまりにもアンフェアだから、研究手法は引き継ぎたい」

 「でも、ループの思考は俺かリーダーかあいつが認めた技術者だけにしたい」

 「そうね、確かにリスクが高くなるから、そうしておく。他は承諾ね」

 「ああ、この超高速仮想空間と新世代の開発コンソール、汚職対策も完璧だ」

 「それだけ速ければ自分で何の研究をやってるか分からない気が」

 「その対策はしてあるから大丈夫。ループなしで、インフィニティの設計が可能かどうか検証したら、あいつが改造する直前のスペックまでは引き出せることを確認した」

 「そんなにすごいなら、日本の技術革新はラッシュになる」

 「他の国がどんなに頑張っても、追いつけないだろうな。いつか、世界の平和のためにこれらの技術は公開するんだろ。いつになるんだ」

 「最終フェーズとしか言えない。極秘事項なの」

 「意味から、最後、世界の繁栄が均等になったときに公開すると分かるぞ」

 「いまループ思考を使ったわね。そういうこと。あなたはどう考える」

 「中途半端な繁栄のもとに夢のような技術が公開されると悪用しようと考える人間が必ず現われる。その前に革新的な何かを実行しないといけないぞ」

 「フェーズ三、こういう戦略を実行する。問題点があれば言って」

 「俺が登場するのか。インフィニティのクローンを作り、概念に従って世界の政策をコントロールして、日本の急成長を世界にもフェアに与えるという内容か。問題点を列挙していく。それを俺の問題提起として添付してほしい。インフィニティ、サポートしてくれ」

 「なんとなくバカだった男が、急に賢くなるって、いやなんでもない」

 「分かるよ、その気持ち。こんなイカサマ研究方法があったら、みんな使いたい。おそらく一を知れば百を知る者達も、これに匹敵する研究施設はあると思う。実際に使ってみてそういう結論に至った。許可された者だけが平和目的の為に利用している、そんな気がする。この知能最大は人間にはとても扱いきれない。発想を得るためにしか使えない」

 「そうね、私もあなたに改良してもらったリンクシステムを使ってみて、軍事転用したら、一気に世界中が戦争になるか、一瞬で世界が破滅するか、どちらかしかない。彼らの友好な関係を築いて、人間だけでは解決できない問題を解決できうる歴史を作らないといけない。それは彼らも同じ、日本のこれらの技術は欲しいはずだ。報告が来ているけれど、彼らの犯罪組織が連続して来ているけど、太陽系に入った瞬間に逮捕されているのよ」

 「そうか、それなら俺の推論は当たっているな。最終チェックをする」

 科学者は意識を閉じた。三分後、目を開けた。

 「完璧な問題点の列挙、完了。これをフェーズ三に俺の映像を配信後、通達するように」

 「分かった。インフィニティ、未来に指示を出しておいて」

 《一を知れば百を知る者達の王の秘密研究室》 実証テストをしている。

 科学者、

 「これで完璧なシステムができた。万が一、システムが機能しなくても出した時点で消滅します。指定されたエリアで完璧な実証がおわりました」

 騎士、

 「よし、椅子のおかげで楽だった。ありがとう。では、それを持って、王と面会するか」

 「王よ、完成しました。貴族に我(が)慢(まん)して来るように指示してください。まず、この奇跡の大発明は権力者が体験するべきです。失礼ですが、可能であれば体験できるよう準備しておいて下さい。そして、その後、すぐ王の国民への演説を始めてください。科学者の名前は隠すように、もし暗殺でもされたら大変です」

 王、

 「分かった。いつでも体験できるように、準備できた者から体験させよ」

 「分かりました」

 「いよいよ本番だぞ。謁(えっ)見(けん)の場にセットして、到着した瞬間にそれを確認させるとの王の方針だ。それから、暗殺されると困るので特別な宿舎を与える事になるだろう。絶対に前の家には戻ってはならない。いいか」

 「はい。ただ思い出の品がありますので、すべて移送させてくれませんか」

 「それは問題ない。指示しておく。ではついて来い。装置はわたしに追従して来るようにセットした。その後ろを歩いてきなさい。その方が貴族や王の印象が良い」

 最強騎士は歩き出した。いきなり謁見の場に到着した。

 「この場に入った瞬間に、機能するようにセットしておけ。いますぐ」

 科学者は装置を操作してフィールドをセットする。かなり緊張しているが、慣れた手つきでそれを終わらせた。先ほど、立つのは疲れるだろと騎士からイカサマを教えてもらったから、立ったまま、王や貴族の来訪を待つ。

 「うわ、これはすごい」

 「我慢して来たら、なくなった」

 《科学者の思考》

 次々に貴族が現われる。最後は王だろう。たぶん演説の準備をしているに違いない。嬉しくても表情に出さないで真剣な顔にする訓練が一番大変だった。あそこにいた時間の九割はその練習だった。最強騎士はそれが当たり前になれば、いずれ王になるとき役に立つだろうと言っていた。貴族は全員揃ったようだ。皆、驚いて、この発明について雑談している。王がやってきた。なにか、うなずいているようだ。

 王、

 「素晴らしい発明だ。この実績をもって彼を王直属の研究所へ招聘したい。皆さんのすべての推薦と私の推薦で、お願いしたい。この発明した装置は、この星すべてに効果をもたらす偉大な発明である。すでに実験場において完璧に動作したとの報告がある」

 王、

 「すべての推薦をもって、研究所の下級研究員として招聘する。本当はいきなり所長にしても構わないのだが、何事も経験だ。科学者よ、既に下級研究員である。いいな」

 報(ほう)道(どう)陣(じん)が招かれた。星全体への演説を行う準備に入っていた。それはすぐに終わった。

 王、

 「王直属の研究所が大発明を行った。では研究員、星全体を指定して、開始しなさい。これは星全体で有効である。つまり小型化は十分に可能。いま、小便をしたい者、大便をしたい者、少し我慢するのだ。この発明は、いままでの常識を覆し、本来の大気の臭いとなるものだ。いま開始された。この研究員にどのような褒美がふさわしいだろうか。まだ私にはとても決められない。その者が発明者であると名乗ったとき、褒美を与えなさい」

 糞(ふん)で埋め尽くされた道や部屋が瞬時に綺麗になった。その悪臭も消え失せた。その星が持つ本来の大気へと変わった。

 騎士、

 「装置はそのままにしておけ。誰かが運ぶ。特別な宿舎に案内する。依頼されたものはすべて運んである。ついて来い」

 最強騎士の後ろを堂々と歩く。いくつかのフィールドを抜けると話しかけてきた。

 「この発明は誰が発明したのか秘密になっている。下級研究員になる前に事前テストがある。なるべく最低な点数を目指せよ。ゼロ点であれば最高だ。そうすると馬鹿共がこれぐらいできるだろうと自分の研究をやらせようとするから、すべての研究を自分の研究にしなさい。『私がやりましょう』この一言で十分だ。彼らは馬鹿だから十年以内にとか自分でも無理な年数を設定してくるだろう。そうしたら予定通りに終わらせよ。すべて把握しているな。その結果は所長に報告がいき、すぐ上級研究員となる。そのテストでも最低点を目指せ。いいか、王と貴族全員の推薦状がある限り、絶対にテストの結果で捨てられたりしない。王や貴族や俺のことはさっきも言ったが絶対に話すなよ。死んでも知らない。自分が発明者だと言うときは、王になってからだ。王の仕事は要領さえ分かれば、この世で一番簡単だ。最も短い言葉で演説するだけで、全員が理解できるからな。上級研究員になった後にイジメが起きるかもしれない、十分耐えられるな。彼らは貴族や王との人脈があるからな、所長になるまで我慢しろ。所長になったら、人脈があることを話してよい。そうすれば、彼らは必ず尊敬の念を抱いて従うだろう。ここだ」

 「こんなに素晴らしい宿舎でいいのですか」

 「ああ、食事も全部用意する。王の意向だ。ここから研究所は、あそこの円に乗り念じるだけだ。戻るときは自分の席から念じるだけ。簡単だろ。ただ、絶対にこの宿舎のことは話すなよ。所長でも与えられていない特別待遇だからな。それからコンピューターのレプリカを設置しておいた。困ったら、この場所で知識を学習しなさい」

 「イカサマではないですか」

 「それぐらいの発明を行ったのだ。イカサマを行ってでも所長になれ。それでも無欲と馬鹿を装い続けろ、先ほどの演技は完璧だった。知ってのとおり、彼らの星に行かなければならない。これは運命だ。受け入れろ。この件は王も知っている。話すなよ。話した瞬間に死刑だぞ。いいな」

 「分かりました。それが王の意向であるならば従います」

 騎士は円のなかに入ると消えた。

 《科学者の思考》

 人生が完全に変わってしまった。あの星との友好関係は必ず結ばなければならない。今までの苦労は役に立つことが分かった。馬鹿と無欲を演じろ、テストでは最低点を取れ、でも推薦状があるから捨てられない。そして、ここ。どういう特権だよ。あの予言者の話を聞いておいて良かった。夕食がそろそろか、テーブルの上に出現した。食べていいのだろう。これはすごく美味しい。食事が終わると、それらは消えた。まてよ、この食事も知能指標を変化させて、王や貴族の食事について考えよう。なるほど、器があったほうが良いな。綺麗な器で食事を飾るようなもの、うーん、これなら良い。王はこれで、貴族はこれ、提案してみよう。

 「コンピューター、私が考えた王や貴族の食事方法を提案したい。適切な部署へ匿名で送ってほしい」

 「分かりました」

 さて寝るか。研究所は勤務時間無制限、よほど大変なんだな。あの騎士に言われた通りの生活を送ろう。それが私の使命だ。

 《王直属研究所》 新人の下級研究員が到着した。

 馬鹿と無欲を演じるなら、この場所で様子を待つほうが良いな。

 所長、

 「なんだい君は、挨拶ぐらい私の所に来い。採用の前に事前テストを行う。テストの結果は全員に公開することにした。非常に優秀だと匿名の推薦が一名あったが、誰かは分からない。推薦であるので、事前テストの結果がどうあれ、採用だ」

 「すみません。なにをして良いのか思いつかなかったので、申し訳ありません」

 「ではテストはこのコンソールから行う。使い方は予習してきたか」

 「はい、なんとか理解できました」

 「ではテスト開始、制限時間無し。テストが終わるまで帰ることは許されない」

 事前テストは論(ろん)述(じゅつ)か、すべて「理解できない、従って回答不能」にしておこう。送信と。では打ち合わせ通りに、帰宅。彼は消えた。

 所長、

 「事前テストの結果が最低な奴が来たぞ。答案みろ。ふざけてる。こんな奴、さっさと追い出したいが大(たい)義(ぎ)名(めい)分(ぶん)がある。最も難しい研究テーマを五十与えて、十年以内に結果を出せなかったら、事前テストを国民へ公開して、国家反逆罪を適用する。ほかに良い案はないか」

 上級研究員、

 「下級研究員にやらせてください。先日の発明は研究所のものであると言い、極秘であると伝えられました。もし彼がその発明者であるのなら、その程度の研究はすぐ済んでしまう可能性があります。答案には分からないと一言もありません。理解不能、なにが理解不能なのかも定かではない。我々はもし彼が本物であった場合に行動します」

 「分かった。これだけの難しい研究を十年で終わらせた研究員を聞いたことがないが、あれほどの発明を行う者であれば、可能性はゼロではない。だれか五十人、彼を馬鹿にして研究を任せてくれ、任せられたら評価する」

 《下級研究員の特別宿舎》 研究所の様子をみていた。

 事前になにが行われるか確かめることができるイカサマ、余裕で対処できるじゃないか。五十の研究テーマを一日で終わらせたら、彼らの反応が楽しみだ。しかも要求水準の十倍のスペックで提出。もう後はコンソールに演技しながら入力していくだけだ。笑わないで真剣な顔にする訓練を受けておいて良かった。それでどういう研究だ。事前情報通りだ。コンピューターを使って演技して入力する訓練をして、今日は休もう。あ、騎士からメッセージだ。「食事に関する提案、見事である。そのまま俺の指示通りに」消去しないと。王は報告を受けているのだろう。

 《王直属研究所》 彼が予定時刻に登場した。

 「おい馬鹿、この研究なら楽勝だろ、概要みろ簡単だろ」

 「はい、引き受けます」

 「十年以内にやれよ」

 「ねぇ、この研究、あなたに任せて良い。簡単だから」

 「はい、引き受けます」

 予定通り、五十の研究テーマを引き継いだ。昨日練習したとおり、入力していく。途中からリンクシステムを使って記述して、予定時刻通りに終わらせた。すべての研究を所長あてに提出。所長がとても慌ててるのが分かる。笑いたいが真剣な表情で結果を待つ。要求水準の十倍を達成している事に気付いたようだ。上級研究員達も緊迫した状況で、検証を真剣に行っている。さて予定通り、脳をコントロールして居眠りを始めるか。それを所長が気付いた。下級研究員達に状況の報告をしている。

 所長、

 「すべての研究が要求基準の十倍を満たしている。一日かからなかった。この研究は王への報告責任がある。全員の推薦で上級研究員がやったことにしておきたい。意味は分かるな。いまから推薦状の内容を送るサインしてくれ。よし、彼は上級研究員となった。誰か居眠りしている彼を起こしてくれ、一気に研究したから疲れているのだろう。でもムカつく奴だ、優しく接する者と、イジメをする者、名乗りでよ。評価する」

 「私がその役を務めましょう」

 「お前なら楽勝だろうな。王の謁見や貴族との会食を断れるはずがない。出世の大チャンスだ。そのかわり、無理難題の研究を全員すべて押し付けろ。夢物語でも構わない」

 上級研究員、

 「おい、起きろ。寝言が聞える、こんな簡単な研究ばかり押し付けて馬鹿にするにも程がある。だとよ。まったくふざけてる。強制起床作動。あなたの席が移動になりましたので、伝えに来ました」

 「はい、私は下級研究員です」

 「いいえ、上級研究員よ。上司に逆らってはいけないから、素直になりなさい」

 「分かりました」

 眠そうな顔つきで席を移動する。新たな席が用意されていた。

 「緊急の研究テーマがあるのだけれど、頼んでいいかしら。今日までよ」

 「分かりました。引き受けます」

 彼は演技しながら、リンクシステムで一気に研究結果を記述して、わずか一分でそれを完了させ、送信。要求基準は百倍にした。すぐ居眠り。

 「信じられない。要求基準の百倍のスペックで完璧な理論よ。所長、作戦を変えたほうが良い。あの発明が彼のものであることに疑いの余地はない。そうであれば一名の推薦状、それは絶対に嘘だ。王と貴族全員の推薦状を持って招聘されている可能性があります」

 所長、

 「作戦を変更する。彼にはこれが普通だと、全員演技しなさい。今日は眠いようだから、帰らせなさい。そして明日、上級研究員が研究している全テーマを任せて、モニター、リンクシステムすべてモニターして、どういう研究方法を使っているのかを研究する事」

 「ねぇ、起きて。所長から帰りなさいって命令よ」

 「はい、分かりました」

 彼は消えた。

 《上級研究員の特別宿舎》 笑いまくっていた。

 「面白すぎて、耐えられなかった。次のすべての研究内容について把握、すべて同じ基礎技術を手抜きにした応用技術の結集体か。コンピューター、この技術の完成イメージを教えてほしい。ああ、分かった。これでは何年かかっても、あいつらの頭脳では作れない。想定すべき基礎技術を間違えている。知能のコントロールが分からないように、コンピューター、脳内にセットしてある知能指標コントローラーは、この星では解析不能にしておきたい。できるか」

 「できます。処置終わりました。基礎技術と応用技術については暗記できますが、完成物に関しては自分自身の能力でやってください。そうしないと真剣に研究しているという真(しん)摯(し)さが感じられないため、あなたがやっていることを見抜かれます」

 「分かった。基礎技術と応用技術は、もう作り上げた。コンピュータの作った理論と検証したい。問題点があれば、列挙してほしい」

 「問題点はこの技術の着想です。普通の頭脳でどのように考えたのか、それが重要です。理論は私が考えたものより優れています。では、予定を変更しましょう。着想について優れた言い訳を暗記してみてはどうでしょうか」

 「その方が良いな。どの技術でも再利用可能な言い訳の方が良いが、その暗記技術、ちょっと見せてみろ。数日で忘れるような仕組みで同じ言い訳が使えないようにしたい。なるほど、分かった。ここを、こう変えろ。どうだ、数日で消えるだろう」

 「はい、数日で消えます。ではまったく同じ言い訳を使わない優れた言い回しを暗記させます。準備は良いですか。終わりました。記憶の定着力が弱いので注意を」

 「明日の夜まで持てばよい。私は時間が余っているので完成品を要求基準の千倍で設計研究に入る。要求基準のものは既に完成した。意外と簡単だったな。水準を上げるには基礎技術と応用技術のスペックアップか、五時間あれば可能だ。もう夜か」

 テーブルに食事が並ぶ、質素だが食器が使われていた。

 昨日より美味しくなっていないか。いや食器があるせいで、そのように感じるのだ。ということは王や貴族の生活レベルは一気に向上したか。いや、あまりやると、あの星との友好関係がうまくいかなくなったら、良くない。責任を問われたら終わりだ。あの予言者と話がしたい。

 「コンピューター、あの星の予言者と話ができるか」

 「わかりました」

 世界最強の被害者、

 「計画通りに進む事ほど周囲にとって怖いものはない。研究は順調でなく失敗の嵐で偽装しなさい。そうするだけで、あなたの周りは尊敬するようになるだろう。それでも一日でギリギリ完成するように偽装するのだ。完成したものをみて、どういう失敗をしたのか、それを理解できるように、覚えた言い訳を実際にやってみろ、できるだろ」

 「なるほど、よく分かる。偽装は入念に準備したほうが良いか」

 「そうだ。失敗をわざとやるって、意外と難しいものだ。笑い話を演じるようなものだからな。明日までに完全とは言わなくても、訓練しておいたほうが良い。ああ、そんな物を使っているのなら、わざと失敗するように計画をセットしておくのだな。その方が楽だ」

 「聞いておいて良かった。ありがとう」

 信じられないほど聞きたい事を的確に言い当てた。脳内コンピューターに言い訳通りの失敗をスケジュール、これではまだ時間が余る。わざと派生技術を作ろう。馬鹿だからな。なにをやっても平気だ。ただスペックは誰にも抜かれないように。それでその一つが本来の完成品であれば良い。たまたま完成品を作り上げてしまったというサプライズで十分だ。騎士からメッセージだ。「その調子だ。明日は王が内密に様子を観察するうまくやれ」消去する。王と騎士には私のことはすべて筒抜けなんだろう。

 《王直属研究所》 定刻どおりに彼は現われた。

 所長、

 「昨日の研究はここでは普通だ。今日はさらに難しい技術の研究をしてもらう。事前にコンソールに登録した内容について技術を開発しなさい。いきなり上級研究員になったものだから、全上級研究員が研究の方法についてチェックする。真剣に取り組むように」

 「分かりました」

 リンクシステム起動、コンソールの情報を閲覧していく。閲覧した技術の問題点を列挙する。故に、新たな概念で研究する必要がある。ああそうだ、この応用技術を作るとしたら、なんの技術から構成されるのか分かっていなければならない。基礎技術を作り出していくが、時々失敗する。でもやり直す。基礎技術を作り終わった段階で、疲れて居眠りをする。

 「なにを作ろうとしているのか全然分からない」

 「私達の研究の問題点は正確かつ論理的に列挙した。新しい概念がさっぱり分からない」

 「でも成功続きではない。失敗したら、初めからやり直している」

 「論理的に手順を踏んでいる。馬鹿だと思ったら、全然違う。いまの研究内容なら、ここに来てからの成果は本物だ。それも手抜きをまったくやってないし、私なら、この技術だけは理解できるが、上級研究員として当然目指すべきスペックを目指している」

 「所長、これだけできる研究員なら、ひとまずチームリーダーを任せて管理能力があるかどうか、試したほうが良いでしょう」

 「所長、言いにくい話ですが、昨日、貴族に食事を招待されたとき、見たことのない器に食事があり、それはとても綺麗に見えました。匿名の研究員がこの技術を開発したと聞き、彼の可能性があります。匿名とは、無欲なのでしょう。リーダーにさせて、さらに様子を観察するべきです」

 所長、

 「まったく見当外れな研究をしているのは明らかだ。本当に命令した研究を成し遂げたのなら、チームリーダーという職を与え、私が管理方法を教える。全員、チームリーダーといった職は本来存在しないが、彼の発想が本物であるなら大いに利用したい」

 私はぼんやりまわりを見渡す。ああ、こんな時間なのか。寝てしまった。始めよう。派生技術を作り始める。(ここからは本気モード)、時間がない急いで作らないと。派生技術を神速の速さで作りあげていく。まわりからどよめきが聞える。この技術はダメなのかな。これならどうだ。これなら・・・これなら・・・これなら・・・

 《所長の思考》

 速すぎる。ああ、事前テストが分からない理由が分かった。頭が良すぎて、問題を理解できなかったのだ。それなら理解できる。こんな夢のような技術を一瞬で作っている、恐ろしい天才だ。ならば、あの発明は彼の発明。あまりにもふざけた奴なら暗殺を考えていたが、こんなに優秀ならば王や貴族の推薦で招聘された可能性が高い。この技術も次の世代には作らせたいと考えていたものだ。全員へメッセージ、「暗殺中止。すぐ消去せよ。誰か良い案はないか」「研究経過について解説させましょう。残業させてでも知っておくべきです」「そうする」そうだ彼の情報について閲覧、王認定特別宿舎が現住所。それ以上の情報は権限なし。破格の特権を与えられている。すべては王の意向、これは態度を改めなければならない。この技術も凄い。段々と彼の研究方法を理解できた。先ほどのは基礎技術に違いない。基礎からやり直したのなら相当に疲れるはずだ。すべてはこの基礎技術の応用技術からの派生技術。また居眠りを始めた。疲れるんだろう。

 所長、

 「私は彼がやった内容をほぼ把握した。同様の意見のものは手を上げろ。上級研究員は全員、下級研究員は半数か、本来目的とした技術は完成していないが、チームリーダー制度を新たに作る。彼に責任を持たせ、管理の方法を教える。礼儀作法など、チームリーダーに必要なことは私から教える。しばらくの間、彼に研究の管理をやらせる。そうして管理ができるようになったら、私は所長の地位を彼に譲り、私は彼のチームリーダーとなる。この方針で行く。いいな、命令だ」

 王の意向であるのなら、この方が出世できる。我慢は他人よりできるほうだし、彼ほどの天才であるなら、私が研究内容を指示しても、その内容ではダメだと突き返される。いまはまさにその状態。チームリーダーとして丸投げしておけば、私は管理方法や礼儀作法の指導だけに専念できる。彼が所長になったとき、チームリーダーの私がミスを犯せば、所長の責任になる。そろそろ定刻だな。なに、あれを作り上げたのか。完成技術を送信してきた。メッセージ「待て、今日は残(ざん)業(ぎょう)で研究内容を全員の前で解説しなさい」

 所長、

 「我々が目指していた完成技術を彼は一人で作り上げた。新人研究員よ、嘘をついてすまなかった。どのように研究していたのか、みんな聞きたいだろう。彼に質問するが良い」

 《新人研究員の思考》

 リンクシステム解除。ああ、疲れた。真摯さが必要だから本気で取り組もう。暗記したとおりの言い訳を使って解説していく。管理や礼儀作法は完璧に理解してある。それを演技して笑いをこらえて無礼にするのは大変だ。礼儀作法が完璧であり、管理も完璧であることを予定通り行い、プロジェクトの説明をしていくか。一通り終わると、王と最強騎士がそこにいた。私は完璧な礼儀作法で、王に対して、完成した技術のほかに派生技術について簡単に説明していった。そして、ここの管理体制の問題を列挙して、改善点を伝えた。

 王、

 「素晴らしい天才の誕生だ。所長、彼を新しい所長に任命したい。仕事が完璧にできるように手伝いなさい」

 「分かりました。彼は所長の素質を持っていると判断します」

 「では任命する」

 最強騎士、

 「王の面前でなにを騒いでいるのだ。侮辱罪で処刑するぞ」

 いきなり静まり返る。最強騎士が元所長に耳打ちした。

 「彼は王の宝だ。もし反逆の意志を見つけたら死刑にするぞ。いいな。今までのことは執行猶予にしておく。王からの恩赦だ。全力でサポートしろ。返事はするな」

 王、

 「では我々は帰る。明日から所長は用事があるので、しばらく研究所から離れる」

 王と最強騎士は消え去った。

 新所長、

 「先ほどの問題点は王からの意向を感じて、私はわざと演じた。あれはすべて演技だ。どんな問題点があるのか把握するためだ。私は王の意向により、しばらく席を外す。その前に、私の研究方法について、我々の弱点について、教育プログラムを作っておいた。いま配信する。それで、このニ日間どのように研究したのか把握できてなければ、評価を落とすからな。真剣になって取り組みなさい。では残業は終わり。研究所の定刻通りに、食事と睡眠は定刻通りに、そうしないと我々は本来の力を発揮できない。無理はしないこと、解散」

 新所長は消える。

 「あれがすべて演技、凄(すさ)まじい天才の出現だ」

 「礼儀作法や管理手法は脱帽するほど、完璧だった」

 「最強騎士が監視していたのだろう。前所長が震えている」

 「ああ、本当だ。本気で脅されたに違いない。いい気(き)味(み)だ」

 「検証してみないと分からないが、前所長の指示で研究が進まなかった可能性が濃厚だ。新所長の教育内容をざっと読んだが優れた内容だ。研究が楽になる」

 「新所長はどこへ行くんだろう」

 「おいおい詮(せん)索(さく)するな。監視されてたら侮辱罪だぞ」

 《新所長の特別宿舎》 最強騎士と新所長がいた。

 最強騎士、

 「想定以上に早く昇進したな。まず、おめでとう。早速だが、彼らの星に提供する技術の一覧は作ってあるが、万が一、彼らの求める技術と異なっていた場合、お前がその場で研究してほしい。宇宙船にはその設備一式がある。事前情報によると、彼らから研究方法と研究技術の研究方法の技術提供、あと軍事転用できない技術についての贈与があるそうだ。それをみてすぐに同様のものを作り、彼の星をみて、必要と思われる技術を提供してほしい。そのため、私と同行してくれないか」

 「はい、私も同じ意見です。共に行動します」

 「新所長の身なりがそれではダメだ。貴族より一段階下の身なりに変えてみろ。それで良い。ついでに私も最強騎士の身なりを考えてほしい。彼らの星では騎士とはこのようなイメージらしい。それではあまりにも古い。彼らの星の文化で架空の存在に身なりを整えたものがある。これを参考にしてくれ。真似すると分かってしまうから、分からないように。ああこれで良い。いかにも最強騎士の風格が漂うようになった。今日はよく休め。明日から、教えたように貴族とは接しなさい。では」

 騎士は消え去った。

 あっという間に所長に昇進した。ホームレスのような惨めな生活から一気に特権階級の生活へと変わった。今日は早めに休息を取ろう。王からメッセージだ。「友好関係は君たちの働きにかかっている、なんとしても成功させてくれ。彼らの技術は我々の生活や人生を完全に変えてしまうほどの内容だ。今日は特別だ。大統領の食事を与える」消去する。すると食べた事が無いような食事が現われた。

 《リーダーの特別宿舎》 リーダーが神様と話している。

 自称神、

 「俺だ。一を知れば百を知る者達の最も優秀な科学者を連れてくる。インフィニティと彼のフルゴーストで、リストに漏れた技術を彼に開発させて譲渡しなさい。提供技術と教育内容はインフィニティに伝えた。彼ができないという限界の情報も伝える」

 「分かった。すべて順調に進んでいるのね。インフィニティのラスト計画は完遂できた。ただ、それぞれの政府が把握するだけにした。難色を示す国々が多かったから、その存在を知っているものは限られるでしょう。フェーズ三はいつまで続ければいい。未来は確定しているのでしょう」

 「それがなぜか不安定だ。それが一を知れば百を知る者達との友好関係に由来しているのかどうか、分からない。それから悪い知らせだが、世界最強の被害者が不可避の攻撃を受ける可能性がある。無いはずの技術を使って攻撃されたという結果があるんだ」

 「まさか八世代が存在するというの。彼に急いでキャンセル技術を作らせる。技術公開して、今の彼ならキャンセル技術を作れるかもしれない。承諾して、私の判断よ」

 「承諾する。念のため、インフィニティと同じケースをすべてのリンクシステムで採用しなさい。あれは予想以上の効果があると分かった。多層世界の攻撃を防ぐ事ができる」

 「分かった、他に、宿舎や技術データーベースなどすべてそれで保護する。そうなるとスパイが何らかの手段で潜入していることになるわね。多層世界の技術を希望してみようかしら、接触ポイントは完全にプロテクトしておきます。彼らにもこの技術を渡したほうが良い」

 「そうだな。多層世界を展開させられていると一方的に攻撃を受ける。多層世界に何人のスパイがいるか把握できて、その攻撃兵器を消滅させるものがほしい。天空の城のすべての技術と世界最強の被害者に最近についてどうか聞いてみろ。彼の時代にのみ存在するかもしれない。そうなると十六世代の技術で過去に、八世代もキャンセル技術を作り作れなかったら、頼んだほうが良い。こちらも先方も友好関係を築きたいという意志は同じだ」

 「多層世界なんて存在しないものだと思ってた。なにかしらの技術は存在するの」

 「ある。俺が最初に関わったアメリカのプロジェクトで、概念しか分からない。この研究を続ければ殺されると考えて、私は日本に途中帰国後、この情報を引き換えに保護してもらったのだ。ゼロタイムを実現できるほどの天才がいるのは濃厚だ。インフィニティから送っておく。それを彼らに見せてくれ」

 世界最強の被害者、

 「まずあなたのいる空間をプロテクトしなさい。概念を理解できるのなら、可能なはずだ。ゼロタイムは内部の変化が加わると、同時に最初から変化する便利な仕様になっている。幸い同じものが使われている。その後に、すべての行動を移したほうが良い。スパイはゼロタイムの概念を無視して通信する技術を持っている。多層世界にすべて揃えてある」

 「分かった。展開した。これで安全か」

 「いいや、通信手段と攻撃手段を封じただけだ。通信しても受信できない仕組みだから、スパイはずっと変化に気付かない。リーダーも同じ事をやるといい、インフィニティは彼の研究方法を理解して、黙っているが彼より速くそれを設計できる。以降のゼロタイムはすべてそうしておいた方が安全だ。私の近況を話しておこう。とても不思議な体験だ。部屋をながめると目は正常だが、パソコンでニュースを閲覧すると重度の垂直乱視が起きて何を読もうにも何も読めない。言語を変えると正常だが、遅れて垂直乱視が再び起きる。居間にある視力チェックで見ると垂直乱視は起きてない。どうも視神経を狙った脳の認識障害が起きている。こんな症状、ネットでいくら探しても出てこない。これが運転中に起きると非常に厄介だ。ゼロの境地では防げないと分かっている。急いで対策してほしい」

 「ああ、間違いなく多層世界からの八世代による軍事攻撃だ。君には辛いだろうが、垂直乱視が起きる状況が起きたら、違う行動にでなさい。急いで対策をする」

 「八世代、多層世界、イメージした。今から会う彼らでも難しい内容だ。八世代がどうして作られたのか、多層世界についても、そのインフィニティからなら自由にどういうものか確認できるはずだ。歴史改竄前の閲覧技術を作っておいて正解だったな。それを彼らに渡して、超高速通信技術を提供して、科学者と先方の科学者で共同開発すれば太刀打ちできるかもしれない。だが誰がそれを作ったのか、インフィニティから聞かないように。何かしらの罠がそこにはある。君の予感は当たっている。口にした途端、インフィニティが発言した直後にスパイが多層世界から武器をつかんで暗殺するだろう。その武器は見えないからな。完全犯罪成立だ」

 「分かった、慎重に行動する。インフィニティ、聞いていたな。俺のリンクシステムだけにプロテクトをかけて、その情報をリンクで渡せ。リーダー、この話をインフィニティに伝えておく。安全が確保できたら、伝える。科学者は口が軽い、内緒にしておけよ」

 「そうしておく。ここからが最も大変に感じてきた。夢のような技術が実現されている、アメリカも騙されている可能性が高いのね」

 「そうだ。みんな騙されている。ここで八世代や多層世界の研究は危険だ。そちらでやってほしい。まだ黒幕は誰なのか分からない。ああ、そうだ彼らにフルゴーストを判定する遠距離のステルス最大の技術を作ってもらえ。ここにはフルゴーストはいないが、世界最強の被害者の時代にゴーストが存在した時期は確かあったよな」

 「ファーストコンタクトからまもなく、ゴーストが存在した。彼も足が透けて見えるゴーストを視認して確認した。ゴーストの検知技術は必要。どうやって実現していたのかも情報がほしい。あの時代にそんな技術は存在しない。多層世界に時間の逆転なんて技術があるのかも調べてほしい」

 「リーダー、とても良い助言をした褒章を少し上げておく。インフィニティ、すぐに調べてくれ、以降私には返事をするな、すべて黒子が代行する。いいな」

 《神の世界》 自称神が情報を収集している。

 もっと早く気付くべきだった。プロテクト完了。最初から展開したことになっているな。よし。ああ、不安定だった世界が安定した。ゼロタイムの概念は、複雑に歴史干渉して連続性を持たせることで仮想空間の物理現象を拒絶できる、開発者は知らない名前だ。もっと調べよう、日本人だと。おかしい。いま妙な現象を見つけた。これはフルゴーストの可能性が高い。そうであれば、世界の概念を書き換えられる特権を誰かが持っている。時間干渉技術は本当に彼が作ったものか、それは確かだ。そして歴史は大きく変わって大混乱を起こした。インフィニティ、この混乱の経緯を詳細に調べてくれ。どうも仕組まれた可能性がある。分かった、時系列でみると一人の指示によって混乱を作り上げられた。黒幕が分かったのか。それは俺だというのか。どういうことなのか分からない。俺について教えてほしい。なるほど、今は完全に別人か。では黒幕など存在しないはずだが、現実に起きてる犯罪行為は誰の指示によって行われているんだ。以前の俺は思考を操作された形跡はないか。あるんだな。良かった。なら予感は当たってるのか。あの試作モデルをさっさと作ろう。あれがあれば、どんなイレギュラーが発生しても柔軟に対応できる。

 《研究所》 リーダーと科学者が打ちあわせしている。

 「インフィニティです。プロテクト完了しました」

 「分かった。ありがとう」

 「なんだプロテクトって」

 「日本最高の紙と歴史改竄防止技術を組み合わせたプロテクトを研究所に施したの」

 「そうか、その方が良い。一を知れば百を知る者の科学者と技術競争ができるのなら、楽しみだ。未来だから、ゴーストは残念だが。準備は万端だ」

 「あーあんまり言いたくないけど、服装を未来の科学者が着ている作業服に変えてほしい。そんな、カジュアルな街を歩くような格(かっ)好(こう)だと、彼らになめられる」

 「あ、そういえば全然考えてなかった。インフィニティ、変更」

 「こちらが研究を依頼する技術は、あなたに教えられない。それほどの政府の極秘案件なの。ごめんね。空飛ぶ車を実現したい、それも非常に速くという要求ぐらいしていい」

 「それは含まれていないんだな。空飛ぶ車を実現できるのか。やってきたら、こちらも全力でやるまでだ。どこで待機していれば良い」

 「宿舎に開発環境一式とインフィニティを設置してあるから、実際の交渉は未来のインフィニティが行うことで、あなたはフルゴーストになる。すぐ始まるからね」

 「分かった。では行ってくる」

 《リーダーの思考》

 すべての情報が揃った。インフィニティ、非常に礼儀正しく振舞いなさい。相手に失礼だと判断したら、即座に言い回しを変えて。時間干渉技術を使わないこと、礼を尽くす相手にはしてはならない。宇宙船が到着した。コンタクト開始。プロテクト空間展開完了。あれが最強騎士か、非常にカッコいい。そばにいるのが科学者か、人間そっくりだ。あいつは大丈夫かしら、結局インフィニティが仕切ることになったのか。インフィニティの技術を渡した直後、同じものを科学者が作り出した。スペックが桁違いに上がった。予定通り、すべての技術提供を行って、この世界の真実の状況について説明をした。あいつは動揺している。そして、どのような技術を求めているか、彼にわからないように説明した。今度は科学者が一を知れば百を知る者達の高度な技術についてインフィニティへ転送した。どういう技術、こんな技術、普通じゃない。科学者は提供された技術からまったく新しい開発コンソールを作りだした。そして真剣に八世代と多層世界の技術を作り始めている。最強騎士はあいつにこのような技術は作れませんかと問(と)うた。あいつ、かなり緊張しているけれどリストを見た瞬間に落ち着いた。どれどれ、ああ、人間だったら簡単すぎる技術だ。でも要求されてるスペックが高すぎる。大丈夫かな。あいつが先に完成した。インフィニティが影でサポートしたのか。最強騎士は驚いている。先方の科学者も結果をみて驚いた。科学者がプロテクト空間について、あいつに問う。インフィニティが直接答える。満足そうな表情だ。手がかりが分かったみたい。なに、あの空間、ああ、あれがあいつが言っていた何でもかなえるという空間か。その中に入って開発コンソールを使って研究を開始している。最強騎士に向かって、何かほしい技術はないか、問(と)うて欲しいと言った。あいつは予定通り空飛ぶ車で高速な技術を希望した。多層世界と八世代の完全な技術、それに付随した派生技術、それからフルゴーストを見破る技術、驚いた。ほんとうに凄い。

 一を知れば百を知る者の科学者、

 「リーダー様、心配しなくて良いです。私はすべてを理解しました。あなたの上司に直接、誰が黒幕で、どのように対処すべきかを伝えました。私達がそれを成すには危険が伴います。仮想空間の法則に依存しない超遠距離通信技術を新たに開発しました。完全なステルス性能を誇ります。困ったらいつでも相談してください。同時に、私達も困ったら相談します。このプロテクト空間技術の応用技術を提供します。いま変更しました。私達の星系全体にこの技術を使ってプロテクトをかけておきます。それから教育内容は素晴らしいです。私達の生活を間違いなく変えるでしょう」

 想像以上の結果に驚いた。あいつが言っていたように完璧に把握されていて、それでも彼らでは無理だから私達に将来を託すと言った。

 自称神、

 「黒幕の存在が分かったが現時点では手の出しようが無い。ラスト計画は順調に推移しているので、次のフェーズに移って良い。移る直前に彼らにいちおう連絡しておいて欲しい。試作機は最終フェーズの前のフェーズで、彼を通じて送ることにした。無意識のコントロール技術は既にインフィニティが開発しているが、私の判断で止めている」

 「分かった、次のフェーズに移行する。確か時間軸が大幅に伸びる空間よね」

 「ああ、そうだ。多層世界の攻撃を見つけたら、ここから攻撃する。何も心配しないで任務遂行にあたってほしい。未来のインフィニティも世界最強の被害者を秘密の通信で監視することにした。理由は明かせない」

 「困ったことがあったら、彼をうまく使って。なんとなくだけど、気が合いそうだから。無理難題でも対処できそうな感じを受ける。彼が戻ってくるから、また」

 科学者とインフィニティが現われた。

 「人間と見た目が全然変わらない。真剣に驚いた。空飛ぶ車の概念を丁寧に教えてもらった。俺のリンクシステムでようやく理解できる内容だったけれど、原理は非常に単純だった。あいつの時代でも原理さえ分かっていれば実現できそうだ。インフィニティ、どの時代から実現するのが妥当と考えるか、この時代に優れた車載コンピューターで制御する技術を作り、すべての車を空中で移動させる。どうすればいいか」

 「いまシミュレーションをやっています。終わりました。自動車産業に技術を提供して、世界中に広めていった方がいいでしょう。ただ制御が厳しい。時速五十キロ程度しか出ないので、この時代に時速五百キロ程度のものを開発して事故の対処の性能を極限にまで上げて、車検制度はその車載コンピュータークラスでないとパスできないようにします。そうなると、数年代前には技術原理の発明が終わっていなければ不自然です」

 リーダー、

 「そのように思考干渉を行い、日本の発明として広めてください」

 「分かりました。結果、現在で時速三十キロが限界とされています。従って、貨物の重量をゼロにするゼロウエイト技術として知られています。そういう方面で自動車や様々な使われ方をしています。ただし誰も理論については構築できていません。物理現象をそのまま使っているだけです」

 「では次の研究は車載コンピューター及び制御技術の開発、時速五百キロ、絶対安全な安全性能、あと各メーカーが自由にカスタマイズできるように制御端末まで作って」

 「分かった。完成した。もっと精度を上げる。できた。信頼性を部品から見直してすべて向上させた。耐久年数が来ると、交換指示がでるように変えた。無視した場合、メーカーに危険使用の情報が送られるようにした。また政府機関にも情報が行くようにしておいた。あとは完全なブラックボックスにするだけだ。紙を使っても構わないか。紙をあらゆるスキャンに対して拒絶するように改造して使いたいんだ」

 「紙ならいい」

 「分かった。できたぞ。俺はもう知ってる、インフィニティのほうが優れていることを、インフィニティ、この試作モデルからインフィニティの改良を加えて生産コストの削減と最適化を行って欲しい」

 「すみません。行いました。リアルシミュレーターであらゆる想定のテストを行っていますが問題は起きていません」

 リーダー、

 「では議会に行って法案を通してきて。インフィニティ、最善の法案を今すぐ作ってほしい。議会は以前と違って、全員、賢(かしこ)くなっているから気をつけて。予約枠をいま取ったから、それで行ってください」

 「分かったよ、行ってくる」

 《議会議事場》 選挙は圧勝して過半数を与党が占めていた。

 「次の時間帯はS級パス保持者から法案の提出があるそうだ」

 「なんだろうな。わざわざ予約枠を取って、慎重に説明をする気でいる」

 科学者が議事場に現われた。一瞬で静まり返る。

 「時速五百キロで飛ぶ空飛ぶ車の技術開発が完了しました。インフィニティから説明があります。リンク、開始」

 議員達はリンクに相当慣れているようで気軽に雑談して説明を聞いている。

 「日本の自動車産業が世界をリードする時代がやってきた」

 「完璧な理論を科学者が実証して、自ら車載コンピューターを設計して、インフィニティがそれを実用化へ向けた製品化を行ったそうだ。だが安全性のテストを十分にやらなければ、それが問題となるから、手放しでは喜べない。法案の中身は完全公開だ」

 「日本の自動車の認定テストは、ひとまず、この車載コンピューターでなければパスできないという。公開された実証試験を国民の目で見てもらう必要がある」

 科学者、

 「インフィニティから、法案の内容把握はできたと聞きましたが実証実験を行う必要性を指摘されました。日本の自動車メーカーとの共同で試作車を作り、時速五百キロにおける衝突安全性テストを完全公開で行います。法案のなかで許可できるものだけで構いません。政府としての公開実験許可を下さい」

 大統領、

 「私の権限で許可しよう。すでに試作車があるのなら、議員の皆さん、実際に乗車して体験されてみてはどうでしょうか。インフィニティ、試作車を議事場の外に配置しなさい。すべてコンピュータ制御ですので運転資格は必要ありません。一人一台で安全性の検証を実際に行ってみてください。事前の情報によれば事故は起きません」

 ぞろぞろと議員が議事場をでていく、あとから大統領もついていく。議事場の外に出ると、それぞれ多種多様な日本車にタイヤが無い状態で浮遊していた。議員らはそれに乗り込んで、空へと飛び去った。その様子は速すぎて視認できなかった。乗り込んで何か指示した様子しか分からない。全議員が乗った後、大統領は大統領専用車に乗った。

 ある議員A

 「これは凄い。夢物語を本当に実現した。衝(しょう)突(とつ)性能テストをする。最高速であのビルにぶつかってみろ」 そのビルに衝(しょう)突(とつ)する寸前で停止した。

 「ははは、これは凄い。では次は最高速であのビルを回避しながら直進せよ」

 「これはゲームをやっているような感覚だ。全自動の車は運転資格不要にしたい」

 ある議員B

 「本当に空を飛行機のように飛んでいく。まるで巡(じゅん)航(こう)ミサイルのようだ。このイメージで飛んでみろ」 車は空中でローリングして一回転した。

 「これならば、生活が本当に変わってしまう。鉄道より少し、わざと遅くしたのだろう。インフィニティによるとマッハ十ぐらいは可能だが、それを安全性能の能力として採用したと聞いた。聞いてるか、ちょっと衝突性能を試したい。最高速で正面衝突を回避できるのか、試したい。他の参加者も多重衝突事故も試しておきたい」

 《科学者の思考》

 遊びすぎだろう。本気で楽しんでいる。全自動の車は運転資格なしか。インフィニティ、法案に追記する項目を準備しておけ。メディアはもう取材しているか、大統領指示で撮影は許可するが他は許可しないのか。かなり賢くなっているな。大統領が時間枠の延長を提案した。全員承諾か。与党は大統領の指示で様々な衝突実験を繰り返している。野党は与党と同じことをしてはならないと、車の限界について把握しているようだ。鉄道にわざとぶつかっていくテロ、人々を跳ねるテロ。あんなに人が大勢いる場所でよくやれるな、頭上一メートルスレスレで回避か。もう噂になってるぞ。あーあ、世界中に映像が送信されてしまった。これでいい。大統領が放送を許可したのか。トップニュースになっている。

 とあるニュース番組

 「臨時ニュースが入ってきました。日本の技術者が空飛ぶ車を実現したと発表して、政治家が実際に試乗して問題点はないか検証しています。当初、非公開の予定でしたが、想定以上の安全性能を持っており、大統領の権限で公開となりました。公開された情報では時速五百キロで巡(じゅん)航(こう)ミサイルのように空中を飛ぶことができ、安全性能は二百台が同時に衝突しようとしても完璧に回避するし、歩行者が大変多い交差点で人々を跳ね飛ばそうとしても完全に回避できるものだと発表がありました。まだ未確定ですが、全自動の車には運転資格無しで車を保有できるとの情報があります。後日、自動車メーカー立(たち)会(あ)いの下での公開実証実験が予定されているとのことです」

 大統領、

「S級パス保持者の方、すまないが、また後日にする。問題点がはっきりしないので、この検証を続ける。自動車メーカーから問い合わせが来ているから試(し)乗(じょう)の許可を欲しい」

 「はい、試(し)乗(じょう)を承諾します。私はこれで一度失礼させて戴きます」

 《研究所》 リーダーがニュースを楽しんでみている。

 車が進化するだけで、こんなにも取り上げられるなんて驚いた。インフィニティに技術の発展ポイントを任せておいて正解だった。アメリカのニュースは緊急の扱いだ。

 科学者が戻ってきた。

 「完璧にやったわね。アメリカでは全チャンネルで緊急ニュースよ」

 「しばらく政治家が使わせてくれって言われたので承諾しておいた。どんな風にとりあげられているんだ。コンソールで見る権限が欲しい」

 「いい。インフィニティ、すべてのニュースを彼に閲覧させて、またニュースで問題点を指摘されたのなら、その質疑応答の情報をナインに送って欲しい」

 《科学者の思考》

 議事場ではよく分からなかったけど、凄いニュースになっている。ナイン、ああ大統領の専用コンピューターか。アメリカでは技術先行に対する危機感が話題になっているな。一部で地上の車が走れなくなるのではという情報に対して、見た目そのままで格安で改造できることを検討中。建築会社は専門のパーキング施設の売り込みに入っている。大統領が実況中継で「人がたくさんいる交差点に最高速で激突せよ」と言っても、スレスレでかわす。歩行者にインタビューすると「一瞬だったので、分からなかった。風でやっと気付く程度だった。確かに安全だ」と。自動車メーカー最大手はどんな印象か、「日本企業に技術供与されるとのことで、ホッとした。試作車ではあったが、我々の自動車の設計基準は完璧に満たしている。高さ制限は今後、議会で審議されるそうなので、いま流れているようなスレスレ走行は無いでしょう。部品の信頼性に関しては従来の車同様に、メーカーに警告があるだけでなく、政府機関にも通報があるとのことで安心しました」、未来のニュースはまだ見れないか、確定してない為。トレーラーや、海上走行は理論上可能だが、まだ未検証故にコメントを避けるか。でも試作車は余裕で海を越えているけどな。離島で目撃した人は、海上走行は可能と噂をしている。日本の外に出られるかも検証しているが、試作車の段階で既に禁止されているようになっていた。空港のまわりは低空で飛ぶようだとも、危険エリア上空には入れない。インフィニティが徹底的に試験を行った結果だな。既に情報端末から、どんな感じなのか立体映像で確認できるサービスまで始まっている。

 「延長すると聞いた時には驚いたが、インフィニティは想定内だったのか」

 「高い確率で延長する可能性がありましたが、ここまでニュースになることまでは想定していませんでした。既に私が独自に収集した問題点を見つけた段階で試乗車すべてにコンピューターソフトの書(かき)換(かえ)を実施しています。高さ制限や高速鉄道の妨害などできないようにしたことを議員らに伝えてあります。大統領は試乗車を数十万台に増やして、国民の代表権限がある人達に試乗して確認するように指示がありました。議会は閉会をしばらく決めました」

 「本当になんだかやったーって気分ね。これが地球の技術でないことは大統領は知っているの」

 「いいえ、我々しか知りません。未来にも情報は流しませんでした。議員らは科学者の発明品だという認識で一致しています。地球の技術でないことが知られると世界平和を達成するのが非常に厳しくなります。またラスト計画が崩壊する可能性があります」

 「そう、仕方ない。他の技術に関してはどうする。あなたはどう思う」

 「ああ、あんな秘密を隠してたのか。とにかく、あいつを護らないといけないんだろう」

 「ええ、いま垂直乱視攻撃を受けている。インフィニティ、思考干渉して体験させて」

 「垂(すい)直(ちょく)乱(らん)視(し)、どこも乱視になってないぞ」

 「ではコンソールをみて」

 「なんだこれ、ふざけてる。こんな攻撃を受けてるのか。日常生活は影響しないけどパソコンを使ったほとんどの操作が不能では、それでフォントサイズを最大にして日記を書いているのか。それでも上下にぶれる。もしこれで目の手術を受けたらどうなる」

 「今度は逆に生活面において垂直乱視が起きる。インフィニティやってみて」

 「これはキツイな。これが以前の歴史にあった八世代の歴史干渉技術か。もう対策は始めてるのか」

 「ええ、始めてるけど脳の認識障害だから時間がかかるのは彼に伝えてある。これが大日本帝国日本の実力。戦争が始まった瞬間にコンソールを頼りにする軍事兵器を事実上無効化したの。その結果、無(む)血(けつ)で完全勝利。この歴史では完全に技術を消したはずなんだけど、再び存在した」

 《一を知れば百を知る者の王直属研究所》 新所長が戻ってきていた。

 「今日から開発コンソールと開発機材を一新する。私は今まで試作機を使って、あの驚愕のスピードで研究ができた。王の許可を得たので、それより優れた開発システムを全員に与える。我々の弱点は知っている者はいると思うが、知性が高いが故(ゆえ)に、細かい事に気付かない弱点がある。この開発システムはその弱点を補い、我々の知性で考えるスピードをかなり速くしている。また様々な発想を生み出す技術を採用している。リンクシステムは我々の脳の限界まで速くしてある。最初は開発システムの教育プログラムを実施する。その速さに驚くなよ。では機材更新、プログラム開始」

 「終わったな。では私の二日間で行った研究をどれぐらいの時間で時間を計測して、ランキングを発表する。上級研究員は下級研究員に負けないように、これは検証テストであるので異動は発生しない。では開始する」

 それから五秒後。

 「全員、終わったな。まだ五秒しか経ってない。私の発明をどう思う。雑談していいぞ」

 「恐ろしい技術だ。こんな技術があれば本気で未知の技術が作れるぞ」

 「すべてを把握した瞬間、すべての研究が終わっていた」

 「新所長の作り上げたスペックを超越した技術として完成した」

 「派生して一緒に開発した技術の数が普通ではない」

 「いま研究テーマが無い。その開発システムを使って自由な発想で技術開発を進めよ。もうプロジェクト管理は必要ないだろ。特に民の生活向上に直結するような発明を王が望んでいます。正直に話すと、遠くに出張に行っていた。宇宙人と友好関係を結び、技術交流をした。その成果がこれだ。その宇宙人の星はこんなに綺麗だぞ。見せてやる」

 超高層ビルが立ち並び、そのすきまを縦(じゅう)横(おう)無(む)尽(じん)に乗り物が飛んでいる。ゴミなどは一つも無い。すべてが美しい。

 「どうだ、負けてるだろ。友好関係を結ぶのは大変だったぞ。せめて彼らぐらいの生活品質は目指して欲しい。それから、その宇宙人から私達への贈り物がある。その技術一覧をコンソールに登録。私がその開発コンソールで真似しようと思ってもできなかったものばかりだ。また教育に関する知識の供与を受けた。その検証も、全員行うように。王に報告するから真剣に教育に関しては検証をやってほしい。私は大変驚いた」

 「さて上級研究員は別の仕事があります。宇宙人の最高スペックの機械で作った頭脳、宇宙人のコンピューターを越えるコンピューターを作って欲しい。最も重要なのは礼儀正しい事、必要な知性の根源を与えよ。驚くなよ、宇宙人の作ったコンピューターの詳細なスペックはこうだ。我々が束になっても勝てない。この研究は宇宙人と友好関係を結んだから教えてくれた。戦争を起こすためではない、我々の生活を向上するためだ。リンクシステムは上級研究員だけでグループ共有して開発ができるようになっている。では始めてほしい。分からない点があれば報告するように」

 十秒後、完成したとあった。

 「そのようなスペックではダメだ。もっと賢さを求めて欲しい。悪知恵も完璧に働くが、礼儀正しさは完璧に。そうだ、宇宙人のコンピューターがそれを使っているサービスについて公開しておく。いいか、これを我々が使っても犯罪組織に悪用されたりしないように完璧を目指して作ってくれ。できれば開発システムを使っても、悪用できないように」

 「下級研究員に告げる。リンクシステムはこの星全体で動作するようになっている。実際に外にでて気付いたことがあれば、すべて登録するように。自由に旅行する権限を与える。ただ、犯罪組織に狙われている者はリンクシステムから世界を閲覧する権限を与える。ほら、ここにいないで、さっさと外を観察に行け。怠慢なことをしていると最強騎士が現われるかもしれないぞ。そのとき、どの処分になるか知らない」

 下級研究員達は無言で次々に消えた。

 「上級研究員だけになったな。私がどのような手段を持って、偉大な発明を行ったか、まだそれを話すわけにはいかないが想像はできるだろう。私はただ脳の知能指標をコントロールする技術を脳の一部に埋め込んだだけだ。こんなに簡単だ。それで上下すると、前の世界を写すぞ。こういうことを把握できた。分かったな。王と貴族全員の推薦状で招聘されたという噂は本当だ。私は隠しておく事が苦手だから、話しておいた。他言無用だ」

 以前罵倒した上級研究員、

 「私はあなたに対して謝りたい。それは全研究員が同じ気持ちです」

 「それは許す。そのコンピューターを完璧に作り上げて、この全員で王に献上しよう。それで十分だ。その開発者メンバーは上級研究員の全員だ。私は元々落ちぶれた科学者だったから、応用技術の果ての研究は苦手だ。だから君達だけでやって欲しい。下級研究員達は既にこんな大量の問題点を指摘している、見るか、来月には生活レベルが一気に向上するだろう」

 驚きの表情を隠せない研究員ばかりだった。

 《現代》 世界最強の被害者は生放送用のウェブカム表示アプリを開発していた。

 よし、恐らく世界で最も短い行数でアプリ開発が終わった。さて、生放送をしてみるか、トークがヘタクソ、おっさん何してるの、声が小さくて聞えない、予想通り馬鹿にされた。マイクがパソコン内蔵だからダメなんだろう、マイクを高品質にして見返してやる。生放送は難しい。出会い系サイト攻略というタイトルで放送してたら、BANされるから止めた方が良いと忠告があった。そのことをSNSで日記に書いてたら、よく知ってるダンサーが生放送やってるよと教えてくれた。踊っているんだろうか。

 「私よ、聞いてる」

 「ああ、垂直乱視は起きたり起きなかったりしている。今日、新たな問題が起きた事が分かった。ある音楽を聴くと、右耳から罵声が聞えるんだ。それでヘッドホンを逆にすると左から聞える。CD音源でなく、圧縮音源でも同じで、動画サイトのライブ放送でも同じ現象が起きている事が分かった。これも脳の認識攻撃だろ。何とかしてくれよ」

 「インフィニティ、どうなってるの。なんで報告が無いの」

 「はい、把握していました。でも対策方法が無く、どうにもなりません」

 「当然、攻撃拠点は潰した」

 「それは言われるまでもなく、すぐに潰しました。あまり好みでない曲なので、それを聞かないのが最善と考えます。その障害が消えるのに一年以上かかるでしょう」

 「分かった。好きなアーティストだったら、本当に困っていた。用件は」

 「結婚サポートを私が主に相談を受けてるんだけど、あなたに相談したいというリーダーがいてね、声のイメージを伝えるから相談に乗って欲しい。クラブ関係らしいから、私では感覚がイメージできないの」

 「分かった。声のイメージは分かった」

 未来のリーダー、

 「世界最強の被害者さん、相談があるのですが」

 「なんだい、ああ結婚サポートの件か」

 「インフィニティから、色々指示されたのだけど、自信が持てなくて」

 「そうだな、クラブでモテる男は本当に女に求める基準が高い。職業がダメだな。それでは失敗する。君の勘は当たっている。そう、いまイメージした職業を言い訳にしなさい」

 「政府の研究所、これはストレート過ぎないかな」

 「それでいい。たぶん彼は政府の高官クラスの人間だ。インフィニティの指示通りで良いが、挨拶のあと、こうしなさい。『リンク』と言ってリンク関係になったら、『重要機密』と言って重要機密関係になったら、『最高機密』と言って最高機密の関係になってから、あとはインフィニティの助言どおりに、これで完璧だ」

 「うそ、そんな人物なの」

 「もし彼氏になって悩んでいるようだったら、私が直接相談を受けよう。声のイメージを教えなさい。あとは私がうまくやる。あと、クラブ好きなら、ある程度踊れたほうが良い。練習しておきなさい。インフィニティがその体力でも綺麗な踊りの振りを教えてくれるだろう。結婚サポートの特権はそういう利用が可能なんだ。引き継ぐと良い。踊る練習は牢屋にでも入って、慣らしておかないと自然な踊りにはできない。頑張れよ」

 「分かった。牢屋は勤務中しかできないけど、問題ないかな」

 「インフィニティに結婚のための訓練だと言えば、許可が下りる」

 「うそ、本当に」

 「世界最強の被害者、伝説のリーダーや科学者が絡んだ相談ならば下りるだろう」

 「踊りを完璧に自然になるまで練習しておきます」

 しばらくしてー

 「彼が悩んでるので、相談に乗ってくれませんか」

 《政府の教育機関》 その彼が悩んでいた。

 世界最強の被害者、

 「私は世界最強の被害者である、何を悩んでいるんだ。話して欲しい」

 「世界最強ー、うそ。あのこの統計を今日までにまとめないといけないのですが」

 「君は仮想空間について知ってるか。インフィニティ、仮想空間について強制想起。リンク、インフィニティと思い浮かべ、仮想空間の使い方や応用とそのトレーニングについて学びなさい」

 「リンク、インフィニティ」

 「世界最強の被害者からの依頼は聞いています。仮想空間を覚えたのはいつですか」

 「小学四年生」

 「合格です。では指示通りにトレーニングを行います」

 しばらくしてー

 「終わったな。では統計を自分で計算してまとめると良い」

 「そんなことが、うそだろう。一瞬で終わった。まさか彼女って」

 「余計な詮(せん)索(さく)はするな。君には素晴らしい夢があるな。私の特権でその許可を与える。大統領資格試験をトップで合格するための知識、すべての国のネイティブクラスの会話力すべて学習する権限を与える。インフィニティ、許可する」

 「本当に良いのですか。退職してから覚えようと思っていたのに」

 「いまの特権を完璧に把握しているのか、私が指示しなくても会話に関しては特権がある。大統領の認定資格の知識は君の資金だけでは覚えられない。仕方ない、いま学習させてやる。家に帰ったら、『リンク、インフィニティ、復習と応用トレーニング』を毎日やるようにすぐ終わる。インフィニティ、私の権限で学習させなさい」

 「インフィニティです。目を開けていてください。終わりました。確かにあなたの夢は実現すれば素晴らしい内容です。復習は毎日忘れずに指示してください。五分程度で終わります。政治家は毎週ですが、訓練に来ています。トップ合格を目指してください」

 「ありがとう。全力で取り組んでみます」

 「また悩みがあったら、世界最強の被害者と思い浮かべるだけで、インフィニティが相談内容を受け付けるだろう。全力で支援する。あと彼女に感謝することだ」

 《現代》

 「終わったぞ。聞いてたな」

 未来のリーダー、

 「彼は大統領を目指していたとは知らなかった。ありがとう」

 リーダー、

 「ありがとう。彼の夢は実現できたら、私にとってもサプライズよ。それにしても、いまインフィニティから聞いたけれど、特権でイカサマやりまくりね」

 「そうしないと、世界の平和は実現できないぞ。俺は知ってるぞ、仮想空間というイカサマをやってる事ぐらい。人のことを言えないんじゃないか」

 「まぁ、誰から聞いたのか知らないけど、そうよ」

 音楽の認識障害は治らないか。こういう事が起きるから、リーダーは未来から通信していると思う。それまでは自分の妄想かもしれないと思っていた。でも実際に垂直乱視があって、治しますと聞いた瞬間、正常に戻る。ありえない話だ。デスクトップパソコンで問題が起きて、ノートパソコンで問題が起きないって、どういう症状だよ、意味不明すぎる。携帯電話では垂直乱視が起きない。こういう不思議を経験したから、あいつをさらに信用しなくてはならなくなった。

 「インフィニティです。あの彼が大統領になりました。それで相談があります」

 大統領、

 「世界中の国の義務教育をすべて一ヶ所で行い、人種差別や宗教差別を根本的に無くして、国家間の学力格差をなくしたい。それについてアドバイスが欲しい」

 世界最強の被害者、

 「まず場所が問題だろう。太平洋上に天空の城の技術を応用して海上から浮遊した島を作るが良い。それは伝説の科学者に依頼しなさい。半径百キロ以上が島になるだろう、太陽光を透過させて自然破壊を起こさないように。それと天空の城の防衛システムは独自に稼動させなさい」

 「分かりました。他に起こりうる問題について教えてください」

 「入学式の前に英語をネイティブクラスで暗記させなさい。その技術は分からないようにインフィニティに策を練ってもらうと良いだろう。一番の障害となるアメリカに対して、英語を公用語とする案でかなりの譲歩を引き出せるはずだ。一年生は暗記物をすべて終わらせる事。ここだけは日本の最高機密の技術を使っているので非公開とする。理由は軍事転用の恐れがある為で良い。インフィニティにもっと上手な説得方法を教えてもらうと言い。その際、すべての国のそれぞれの歴史を学ばせたほうが良いだろう。簡単でなく詳しく。ここまでは良いか」

 「相談してよかった。他には」

 「国際結婚が必ず増える。褒章いくつ以上なら結婚可能とか、外国人の比率が五パーセント未満になるように条件を加えたほうがいい。インフィニティなら正確なシミュレーションが可能だ。そうしないと、世界中が国際結婚の嵐になり、それぞれの国が困る。なんらかの成果を出して結果を残した同士であれば、問題ないだろう」

 「なるほど、他には」

 「義務教育の卒業式は各国で行った方が良い。日本はリンクシステムや仮想記憶や医療相談などの日本固有の問題があるだろうし、アメリカならばビジネス英語を完璧になるまで卒業させないなど、それぞれの国でやりたい教育があるはずだ。そこまでの共通化は難色を示されてうまくいかない」

 「確かにそれは考慮すべきことです。ほかに問題点は」

 「おそらく義務教育終了後には大学卒業程度の知性を持つ。犯罪が起きないように監視するシステムを、インフィニティのクローンで監視したほうが良いだろう。義務教育中に国際犯罪に発展するような事態は低い確率で起こりうる。インフィニティラストの件を話せば、それについては承諾するだろう。知ってるか」

 「ちょっと待ってください。そういう秘密があったのですね。それから」

 「この教育を繰り返していくと、非常に高い知性を持つ子供が現われるのは必然だ。先生はアンドロイドを採用する方針だが、日本の知能をコントロールする技術によって、そういう子供が孤立しないように配慮して欲しい。以上だ」

 「そういう歴史があったのですか」

 「ああそうだ。質問を受けるたびに問題が発生した。以上のアドバイスを実行すれば問題はこの歴史上においては発生しない。インフィニティのクローンが監視していれば、学生の数が膨大になっても対処できるだろう。それはラストが証明した」

 「ありがとうございます。インフィニティ、以上の問題を解決できるように対策を練ってくれ。あと、彼女と結婚した。いろいろありがとう。職業の真実を聞いたときは大変驚いた。彼女も世界中の言葉をすべて話せて、びっくりした」

 世界統一された義務教育か。それから未来は急激にお互いを認め合う世界となり、高校や大学の役割がさらに重要になった。地球人すべてが英語を完璧に話せるのだから、歴史は大きく変わっていった。それからまもなくして、魔王ではないが軍事攻撃を日本は受けることになった。

 《未来の研究所》 緊急アラートで強制ゼロタイムに移行している。

 未来のリーダー、

 「アメリカから核兵器が使われた為、天空の城がすべてを消滅させた。インフィニティ、ラストと協力して証拠固めを行うように、過去にもアラートを出して、すべての証拠。世界最強の被害者を呼び出して」

 世界最強の被害者、

 「日本の好感度は世界最高にある。証拠のデータを大統領の抗議を通じて世界中に配信。すべての証拠を公表せよ。そして核兵器をはじめとした大量殺戮兵器の完全放棄を、アメリカ全国民の一致において行いなさい。そして政府機関は世界中に圧力をかけて、この軍事行動を非難するように誘導してください。今回の事件は軍部の秘密研究機関が主導している、その存在を明らかにするように。また過去におけるアメリカ製軍事コンピューター『魔王』の存在まで公開しなさい。そして世論は軍事コンピューターの完全廃棄と大量殺戮兵器の完全放棄を求めるように誘導する事。私はすべての歴史を知っている。これ以上、彼らの軍事行動は許せない。特に今回は日本だけがターゲットではない。理由は非常に愚かだ。そういう証拠をすべて積み上げて、メディアからすべて配信すること。ただすべての証拠が集まるまでは絶対に動くな。大統領には演説する準備をするように」

 「分かりました。伝説のリーダーに連絡、アメリカの軍事行動のすべての情報について開示してください。この機に日本と同様の道を歩けるように誘導します」

 「インフィニティです。すべての証拠と、すべての政府機関など、すべての準備が完了しました。大統領の緊急演説の開始と共にメディアの配信、及びラストからも配信を行います。実行許可を」

 「許可します」

 世界最強の被害者、

 「ここだけの話だ。軍事関係者で不満を持つものが現われた。核ミサイルが大量に発射される。天空の城、および義務教育の島は、ギリギリまでひきつけて、消滅させるが、メディアへの配信は義務教育の島が本当に核攻撃を受けた映像を作り、世界中に配信しなさい。そして、アメリカ全国民の一致で完全廃棄が成されるまで、確認させないこと。そのあと、大統領から真実を告げること。インフィニティが優れた演説を作りなさい」

 「分かりました。防衛システムの発動基準を変更してください。また改竄不能な映像形式で映像を作り出してください」

 《未来のアメリカ》 国民の九十九パーセントが完全廃絶に賛成していた。

 各国のメディアが反対者へのインタビューを行っている。アメリカの大統領の演説、及び政府機関の働きかけで、反対者は徐々に賛成へとまわった。だが、軍事施設に不穏な動きがあった。彼らは盗聴されていることを知らないまま軍事行動を起こしていた。

 「核攻撃システムが日本によって完璧に防御された。問題点を洗い出し、最高の技術を惜しみなく使い一万発の核ミサイルを、海上の島で核爆発させろ。日本の天空の城はそこまで影響力が無いと調査結果で分かっている。発射特権は我々の手にある」

 「超小型ミサイルを島に発射しましたが、まったく防衛システムは機能していませんでした。我々の軍事力に対する防衛対策を取ってないと判明しました」

 「よし情報通りだ、あそこは日本の政府保証で作られた島だ。多くの子供が犠牲になるが、日本のやり方は非常に迷惑だ。この機に諸悪の根源を叩き潰す。準備はできたか」

 「では全ミサイル発射」

 その模様はすぐにメディアにリークされた。世界各国の偵察ネットワークはミサイルの着弾点が義務教育の島にあることまで、瞬時にメディアへとリークしていた。世界中の軍が防衛に動いたが、アメリカの超高性能ミサイルに対抗する術がなく、すべての妨害攻撃を完璧にかわされていた。その状況はメディアに瞬時に流されて、アメリカへの中傷は激しさを増した。アメリカの大統領は緊急声明で私は指示してない、このテロの首謀者を探していると発表した。リークされた軍事情報はアメリカ政府ですら把握していなかった情報ばかりだった。しかし、大量のミサイルが発射されたのは軍事衛星や宇宙ステーションから確認できていた。

 《義務教育の島》 ミサイル発射の情報は届いていなかった。

 義務教育の島は最新鋭のインフィニティ八コアの世界最強の防衛システムが機能していた。既に完璧な神の概念によって、消滅後の物理干渉を完璧に行う準備に入っていた。すべての偵察機器に核爆発が起きたことを誤認するように物理干渉の検証を最高速で行っていた。多くのメディアに情報開示を求められて、島の状況を監視させていた。しばらくするとミサイルが着弾まであと十秒と迫った。時間のフィードバックを行い、発射前からリアルシミュレーター技術で、完全であるか検証した。そして時間は進み、爆発しようとした瞬間の最初の反応が起きたのを確認したあとで次々に消滅させて物理干渉を行った。そのリアル映像をメディアに一斉に配信した。

 それが偽装だと分かっていたのは日本の大統領と日本の秘密研究所だけだった。世界中に悪夢の映像が繰り返し配信され、偵察衛星の情報では高温度で焼けている状況がメディアに配信された。またある偵察ネットワークは魂の存在を確認できるシステムを持っていたが、その一瞬ですべて消失したことを確認した。

 《アメリカの軍事基地》 歓声に包まれていた。

 「我々の攻撃は完璧に入った。では諸君、完全犯罪にする作戦に移行」

 その瞬間、アメリカの大統領直属部隊が犯罪組織を取り押さえた。ゼロタイムを使い、一瞬で行動を封じた。しかし、取り押さえた人間すべてがフルゴーストだった。軍事コンピューターが乗っ取られた可能性とテロの完全犯罪が完遂されたことを大統領に緊急連絡。

 《アメリカ》 ひどい悲しみに包まれていた。

 結局、誰が大量の核ミサイルを最新技術を惜しみなく使って発射したのか、分からなかった。アメリカの大統領は、大量殺戮兵器だけでなく軍事コンピューターの廃棄まで明言して全国民による緊急の国民投票を全員一致で可決するように呼びかけた。残り数人、反対者がそれでもいて、メディアからの執拗な質問を受けて、残り一人となった。

 「アメリカの軍事力の象徴を失っては、アメリカは威厳を失う」

 それを聞いた大統領はテレポートして、彼に説得を始めた。その模様は世界中に中継された。大統領は世界から押し寄せる声を彼に真摯に説明していた。大統領は仕方なくある指示を出した。思考干渉の技術で同意させた。

 アメリカの大統領、

 「アメリカは現時点を持って、大量殺戮兵器の完全廃絶と軍事コンピューターの完全廃絶を世界各国に対して、公約とする」

 《日本政府》 大統領の演説が始まった。

 「日本は世界の平和と安定を求めています。そのため、はるか昔に軍事力の完全放棄を行いました。軍事関係者しか知りませんが『天空の城』と呼ばれる防衛システムで日本ではいかなる暴力や暗殺の阻止のほか、核ミサイルを含めた軍事兵器を消滅まで行っています。ですから最初の核攻撃はまったく被害がありませんでした。しかし、我々の調査機関によると犯罪組織によるテロだと分かり、アメリカに対して要求を行いました。そして今、それを公約にされたことを感謝しております。犯罪組織に残念なお知らせがあります。『義務教育の島』には世界最高の防衛システムを設置してあります。いまは偵察衛星などは焼け野原になっていますが、これは日本の技術による物理干渉でそのように見せているだけです。すべてのミサイルは爆発した瞬間にすべて消滅しました。日本政府はこの島の安全性を過去に明言した通り、何事もなかったかのように島は存在しています。あらゆる方法で何も無かった事実を確認してください」

 あらゆる国が島を確認に行くけれど、焼け野原だった。偵察衛星の情報はいくら確認しても、すべての建物は消失していた。放射線の濃度は高すぎてこれ以上近づけない。あらゆる手段、研究中の技術を使っても、その島の状況は核攻撃の結果しか分からない。その情報が各国首脳に伝わっても、全員が誹謗中傷を避けた。それから一時間後。

 「日本は世界の平和と安定を求めています。『義務教育の島』は何の攻撃を受けていません。まだ信じられませんか。これが日本の真の技術力です。では、私の指示で防衛システムに偽装の解除を命じましょう」

 一瞬で、その事実が明らかになった。あらゆるセンサーが異常なしを示していた。焼け野原しか見えなかった島が人類がよく知る姿を現した。各国の軍事関係者らは一様に日本の技術力の高さに脱帽した。

 《研究所》 科学者がガッツポーズをみせた。

 「真剣に開発しておいて良かった。一を知り百を知る者の攻撃を受けても耐えられる防衛システムだ。地球人が開発した程度の兵器はまるでー、玩具(おもちゃ)のような物だ。物理干渉を行う技術もシミュレーション通りに完璧に機能した。それがこの時代に既にあると知ったら、大混乱だろうな」

 「当たり前でしょ。そんな事が知られたら、世界平和でなくまた、大日本帝国日本へと一気に進んで、私達がやってきたことが水の泡になる。これで世界は軍事力を放棄する方向へ一気に進む。日本がただ軍事力の完全放棄と引き換えに天空の城の防衛システムで護るという保障条約を結べばいいだけだから。ラストの政策指示は最優先でそれに変わった。日本の防衛システムがどれほど凄いかなんて、各国の軍事関係者の間では常識よ」

 「そこまで情報が浸透しているとは初耳だ。しかし、犯罪組織の完全犯罪って誰がやったんだ。その情報がまったく入ってこないって事は、リーダー何か知ってるな」

 「侮辱罪適用でいいのかな」

 「いや、なんでもない」

 《その後の世界》

 日本と友好関係にない国は一つもなかったので、極秘に天空の城の防衛システムを次々に採用する国が現われた。採用した国では犯罪が激減した。その情報を知った国は日本に働きかけて天空の城の防衛システムの影響下に入った。アメリカ以外の国がすべて日本の防衛システムに護られる状況になった時、アメリカは防衛システムの傘に入る条件として、日本の極秘研究所と同等の施設を希望した。日本は科学者のいない研究所をインフィニティのクローンと共に無償で提供した。犯罪者摘発に必要な技術はすべて提供した。ただ最初のリーダーは日本の熟練したリーダーが派遣された。

 《リーダーの特別宿舎》 神様とリーダーが話している。

 「大胆な作戦をよく思いついたわね」

 「世界平和実現にどうしても必要だったから仕方ない。アメリカの研究所は平和利用に特化されて利用されていることを歴史の終わりまで確認した。次はフェーズ四だ」

 「多層世界の状況はどう。彼が時々日本語で話す犯罪組織の声が聞えているとー」

 「把握している。声だけだ。武器は完全に奪っている。彼には悪いが、そうしないと何を企んでいるのか、ここからでは推測できない。彼らは情報が入ってこなくて状況が悪化していることに焦りを感じている。多層世界にあるはずの武器が無い事に気付いて、声だけで何とかしようとしている。すべて日本語だから、この歴史が始まる寸前で多層世界が作られて彼らが存在しているのだろう。フェーズ四に移行して良い」

 「ああ、分かった。世界を完全に安定させてから、文化の向上をしたほうが良いという判断は正しかった。フェーズ四は技術の出し惜しみなしで日本を世界最強にしていく計画だったけど、誰がやるの。この時代では科学者のやるべき事はすべてやった」

 「お前はまだ甘いんだよ。やることが。本当はもっと発展させてなければいけない」

 「なにその言い方。まぁ見ているわ。もうこの時代から干渉するのは危険だと思う」

 「そうだな。空飛ぶ車は想定外だった。あんな簡単な原理で実現できるとは思いもしなかった。しかも仮想空間の物理法則に左右されない。実空間でも使用可能と分かった」

 「インフィニティに伝えておく」

 《研究所》 リーダーと科学者がいた。

 「次の仮想空間に移動する。インフィニティ、彼らに連絡を」

 「分かりました」

 「それから空飛ぶ車は仮想空間の物理法則に依存しないから修正項目に入れないで」

 「把握しています。修正が必要な技術についてはすべて準備ができています」

 「前から疑問に思うんだけど、ゼロタイムを利用してない国々に影響は無いのか」

 「はい、求めている精度や性能が違います。この物理法則の変化は桁違いのスペック技術にのみ影響するので、一部の国の軍事兵器のみが影響を受けるでしょう」

 「まだアメリカは懲りずに軍事兵器を作っているということか」

 「極秘ですが、最新の天空の城からの情報では続けています」

 「フェーズ四に移行、許可します」

 「完了しました。問題が発生しました。世界最強の被害者が対応しています」

 「状況をモニターして」

 《現代》 世界最強の被害者は寝ている最中、突然起こされた。

 「なにがあった」

 未来のリーダー、

 「魔王の出現です。根源がどこにあるか分かりません」

 「メインコンピューターと、実際に移動する軍事コンピューターのセパレート型だ。通信プロトコルを解析して、まず軍事コンピューターを沈黙させろ」

 「終わりました。メインコンピューターに爆弾を破裂させましたが、伝説のリーダーから、リキッドコンピューターの設計者を探すように指示されました」

 「アメリカの研究所と連携しろ。それからリキッドコンピューターの設計者を見つけたら、その発案をした時刻の直前を割り出して、すべて大人の玩具の情報ばかりに記憶を強制操作しなさい。大人の玩具の偉大なる発明はまだ行われてない。その発明によって設計者は巨額の富と褒章を得るだろう。躊躇無くやるように。リキッドコンピューターの先を行きなさい。リキッドコンピューターには爆弾を無限に爆破し続けるように。インフィニティに爆弾の設計図を微妙に変えながら、爆破するように指示。過去からは攻撃するな」

 「分かりました。インフィニティ、指示通りに過去に命令を」

 「記憶の強制書換完了しました。メインコンピューター消滅を確認。アメリカの研究所に報告しておきます。いま結果が届きましたが、彼は偉大な大人の玩具を発案して大富豪になりました。こういう内容の玩具です。男女がペアにならないと使えません」

 「・・・・・・」

 伝説のリーダー、

 「日本政府が買い上げて、結婚した男女のみ、それを贈呈するようにしなさい」

 「分かりました。インフィニティ、大統領宛にT級パス保持者からの指示と伝えなさい」

 《科学者の特別宿舎》 偉大な大人の玩具について体験実験をしていた。

 十八禁のサービスを使うか。メニューがでてきた。誰にしよう。いろいろPR文が書いてあるな。誰でもいいんだけど、日本政府公認の女性達ってどういう認定だよ。全員、スタイルは抜群だ。それだけでなく、細身、ぽっちゃり、いろいろ選べるのか。英語は全員できるのか。この大人の玩具は男女が一緒に使わないと動かない仕組みだ。説明書によると、起動して、あとは全自動だと書いてあり。ただし裸になること、男同士や女同士で使うと危険なので使用禁止とある。自分の理想を自動選択するというモードが出現した。これを選択しよう、どうせ迷うだけだから。

 そこに女悪魔が登場した。

 「あら、久しぶりね。ハンバーグを食べた仲だけど、過去の問題は水に流しましょう」

 「ああああ、あのな未来の大人の玩具がどんな内容なのか調べたいだけだ」

 「ええ、あなた私に結婚を前提にお付き合いしたと言ったじゃないの。嘘なの」

 「ああ、言いました。確かに言いましたよ。でもー」

 「もう私の妄想や政府公認の男達だけでは不満なのよ。どうしても忘れられないから、あなたに特権でいつでもいいから相手に選びたいと願ったの」

 「これはフルゴーストだろ。どうせ」

 「はぁ、何を言ってるの本物よ。あなたの持ってるフルゴースト検知器を使ったらどう」

 「ああ、本物だ。ごめん雰囲気壊したりして」

 「大人の玩具を起動してよ。たぶん、とてつもない秘密があるはずよ」

 「分かった。起動させてみる」

 《この小説は十八禁ではないので、もし同人誌などが発売されたら、それでお楽しみください。この玩具は離婚防止に大変役立つベストセラーです。いずれ世界中に広まり、どの時代でも使われることでしょう。そういう想定で創作して下さい。著者より。》

 「ああ、凄かった。こんなに燃えるとは思っていなかった」

 「本当ね。あなたが相手で嬉しかった。また使いたくなったら、いつでも呼んで」

 女悪魔は消えた。

 リキッドコンピューターを創造できる頭脳であれば、こんな想像を絶する愛の営みが可能になる大人の玩具を創造、思いもしなかった。だめだ、快楽のインパクトが強すぎて、また彼女を呼んでしまいそうだ。まぁ、そういう友達を作ってしまうのも、アリか。

 科学者は研究所に戻った。

 《研究所》 リーダーは内緒でモニターしていた。

 「インフィニティ、このムラムラ感を消すような酒を飲みたい。作って」

 「どうぞ」

 「想像以上にすごい発明だった。あれなら離婚者いなくなる」

 科学者が現われた。

 「ああ、凄かったぞ」

 「どんな風に」

 「自分が思いつかないような言葉がでてきたし、彼女も自分の言葉に驚いていたようだった。まぁ、あれを体験すると離婚を考えられなくなるな」

 「それで結婚するの」

 「いや、それはしたくない。恐ろしい事態になる気がするから」

 「いいのよ。特別宿舎の中でなら、別に同棲生活を送っても構わないから」

 「・・・・・・」

 「そんなに衝撃的だったのね。酒を飲んだら忘れられると思う」

 「インフィニティ、酒、この快楽の衝撃を忘れるように調整してくれ」

 「分かりました。どうぞ」

 「あれは恐ろしい大人の玩具だぞ。大富豪になってもおかしくない。褒章が多くても不思議には思わない。だけど、俺にはとても思いつかない。仮想空間なしで思いつく頭脳、想像を絶する頭の良さだ。それが世界統一の義務教育の成果なのか。すごいな」

 「ある未来から、結婚した男女に日本政府が贈呈することになったから、結婚生活は人生の失敗から成功という統計データに変わっていくでしょう。思いがけない発明がでてきて、私達の戦略はかなり素晴らしい方向に進んでいる」

 「インフィニティです。世界最強の被害者が問題の対応にあたっていますが、かなり苦労しているようです。サポートをお願いします」

 「忙しいわね。分かった。科学者絡みのようだから、あなたも開発態勢で待機」

 「分かった」

 《未来の研究所》 女性のリーダーが切れている。

 「おい、ちゃんとやらないか」

 世界最強の被害者、

 「私は世界最強の被害者だ。なにをもめているんだ」

 「ああ、もう来たじゃない。ええと、ヒステリックになる日本人が急激に増えていて困っているんだ。私もそうで、どうしてそうなったのか分からない。義務教育では何ともなかった。学校でも問題なくて、リーダーになった途端、こんな状態になったんだ」

 「ちょっと待て、ええと、義務教育前に従来とは違う教育を受けてないか。ヒステリックになっている人を俺の権限で調査を許可する。インフィニティ、調査しろ」

 「ある科学者が発明した幼児教育が原因のようです。子育てが非常に楽になると言うことで、大ベストセラーになっています」

 「伝説の科学者にその発明した内容を調査してもらい、ストレスに強く明るい性格になるように調整すること。それから男女で色分けして、必ず男女が結婚したくなるように、その色を完璧に調整しなさい。以上、インフィニティ、緊急で。それが終わったら、その科学者に政府機関であることを伝えて、生じた問題を報告して、作った発明品と入れ替えなさい。それに生じる褒章や報奨金そのほかすべての権利はその発明者にあると俺の権限で命令する。インフィニティ、その科学者をうまく説得しなさい」

 「完了しました。リーダー、最近の調子はどうですか」

 「あははは、とっても絶好調よ。心配してくれてありがとう」

 「インフィニティ、この発明を世界中に広めなさい。ただ政府として強制しないように。科学者に必要な知識は俺の権限ですべて許可する。ただし、広めていく順番は間違えないようにアメリカと某国だけは最後にしなさい。その理由は理解しているか」

 「はい。では、分からないように世界の市場に広めます」

 未来のリーダー、

 「幼児教育がどうかしたの」

 「はい、リーダーがストレスに強く明るい性格なのは、義務教育前に受けた子育て技術の成果です。これを世界最強の被害者の命令で世界中に広めるように指示がありました」

 「へぇ、そんなことがあったの。知らなかった。どんな内容、これで、ある年齢に達すると徐々にその効果が現われてくるのね。元々は子育てが非常に楽になる技術か」

 《研究所》 科学者は自分の成果に満足していた。

 「すべての権限は発明者にあるという、あいつの判断は正しい。それでも、未来を見ると、どの職場でもみんな楽しく仕事している。俺の褒美はこれだけで十分だ」

 「社会に貢献した久々の研究だったわね」

 「ああ、生活を豊かにする発想で考えた事は無かった。男女で色を分ける理由が白にすると男女差が生じなくなり人類が滅亡する危険があるというインフィニティの判断は大変驚いた。だから完璧になるまで、色を調整した。一を知れば百を知る者達にも伝えたほうが良い技術だと思う」

 「そうね、インフィニティ、結果まですべて伝えて送ってほしい。あの科学者がまだ研究所にいる間にね」

 「分かりました。送ります」

 《一を知れば百を知る者達の王直属研究所》

 所長、

 「宇宙人から、新たな技術の提供がいまあった。私になりに技術について調査したが、非常に優れた技術だ。子育てを簡単にし、ある年齢に到達するとストレスに強く明るい性格になるというものだ。いま、研究するものがほとんどなく、人員削減する話が持ち上がっているほどだ。この技術をベースに、さらに発想力や犯罪抑制など我々が進化する要素を追加して、さらに個性までは干渉しない技術にしてほしい。いまチームはドリームチームだ。私が所長でいる間にやっておきたい。王は私を王に推薦する意向があり、それがいつになるのか分からない。この開発リーダーを選出しなさい」

 最高の上級研究員、

 「私がやります」

 「分かった。任せる。我々の未来がかかっている。コンピューターの使用権限を与える」

 そこへ最強騎士が現われた。

 「王がお前を呼んでいる。すぐに来い」

 所長は最強騎士に付いて行く。王の執務室に着いた。

 王、

 「お前に次の王の座を任せたい。ぜひ受けてほしい」

 「しかし、私は王の仕事ができるのか心配です」

 「コンピューターに支援してもらうだけで済む。何の心配もいらない」

 「でも、私はー」

 最強騎士、

 「私は王の様子をいつも見てきた。私が短期間見本を見せるから、自信がつくまで側近として常時なにをすべきか見守るのはどうだ。それならば良いだろう。コンピューターがどんなアドバイスをして、私がどのような判断をするのか見ていれば良い」

 王、

 「それでも構わない。騎士が見本をみせてやれ。お前ならば民の人気は高い。ある時期になったら、真実を打ち明けて、あの発明をした科学者を王と任命すると言えばよい」

 「はい、それならば受けます」

 「決まりだな。所長は現在の開発リーダーがなれば良い」

 王は次の王として、最強騎士を王に任命した。最強騎士はコンピューターの支援を受けながら完璧な所信表明演説を行った。側近はぴったり後ろにいるが、その人物は貴族にしか分からなかった。貴族は次の王が誰になるのか、すぐに分かった。この幸福な生活の立役者が誰か、貴族の間では知られていたからだ。

 王、側近に向かって、

 「簡単だろう。難しい局面をコンピューターに誘発させることで、その対処を完璧に行うから、その様子を見ていれば良い。もう最強騎士としては動かない。王の立場で動くから、それを参考にしなさい。宿舎ではコンピューターから王としての知識を学んでおくと良い。私も王の護衛を任された時はそうして王の知識を学んで、助言を求められたときは優れた助言をしたものだ。だから、あんなに長い間、護衛の任務を与えられた。私に護衛はいらない。そもそも世界最強の騎士だから、私の手で処罰する。ただお前が王になった場合、現役が勤まるまでお前を護ってやる。子育ての技術はお前が言い出したことだ、研究員もそれを願っている。それまで研究を継続させておく」

 側近はうなずく。それから、ずっと王と側近は王たる知識の考え方を話し合いながら、側近は知識や考え方を学んでいった。難しい局面に入ったとき、王はコンピューターの支援を受けずに問題に対処していった。側近も学んだ知識どおりであったので、なんの疑問も持たなかった。

 王、

 「コンピューター、現在の対応策で十分か」

 「はい。ですが、なるべく民に安心させる言動を心がけてください」

 「分かった。時々、自分の判断が正しいか、この便利な道具を使うことだ」

 「分かりました」

 王は状況説明の際に民を安心させる有名な言葉を引用して、善処していることを伝えた。側近はそんな有名すぎる言葉で十分なのか疑問を持った。

 側近、

 「さきほど有名すぎる言葉を引用されましたが、どうして使われたのですか」

 「民からの人気が高い者であれば、言葉はいい加減で良い。ましてや、私は騎士出身の身であるから、民の気持ちを考えれば、そういう語彙力が無いと分かって理解している」

 「なるほど、私の場合でも同じように対処すれば良いのですね」

 「お前は騎士ではないから、科学者らしい言葉を考えておく事だな。ははは」

 「分かりました。考えておきます」

 「お前はあの発明者だ。絶大な人気者だ。貴族が何も言ってこないのは次の王がお前である事が明白であるからだ。たぶん、かなり失言しても笑って許してくれるぞ。前代の王ではそう簡単ではなかった。貴族の姑息な手段に悲鳴をあげていたからな。内緒だぞ」

 「失礼かもしれませんが、そこまで考慮して、王の任を受けたのですか」

 「当たり前だ。お前が側近にいなかったら、貴族の集中攻撃に遭っているところだ」

 「それほど私の影響力は大きいのですか。実感できません」

 「分かった。そういえば、一度も外に出てないのだったな。世界中の生活状況を視察に行くとしよう。それでお前が感じたことを王になったとき、民に提案すると良い」

 「はい、いまどうなってるのか知りたいです」

 王は生活状況の把握をする為、長期間視察旅行に行くと貴族達に宣言した。誰も反論が無かった。側近はこれが私の影響力なのだと実感させられた。王宮から出たとき、街が夢のような世界に変化していることに大変驚いた。宇宙人の世界より、さらに進化した世界が広がっていた。自然保護区ではしっかりと自然が護られていた。所長時代に私が成した技術の成果だと思うと、時々嬉し涙がでてきた。でも、問題点はたくさん見つかった。リンクシステムでそれを列挙していく。

 王、

 「ずいぶん変わっただろう。あの発明後、研究所に招聘され、三日目に所長になり、生活の向上を行ってきたと言えば、どれだけ絶大な支持を集められるか想像できるか。貴族達が黙っているのは、上級研究員の話からお前の功績だと知らされているからな。いまの世界がどのように作られたのか、前代の王の手腕もあるが、技術発展の源はー」

 「はい、とても嬉しいです。問題点はたくさん見つかりました」

 「では次の都市へ向かうぞ」

 

 《現代》 世界最強の被害者は一本道RPGを序盤まで遊んで、投げ捨てた。

 「こんな風にしろって掲示板に書いたつもりないのに」

 謎の少女、

 「博士(はかせ)、義務教育を終わりました。どの高校に行けばよいか迷っています」

 世界最強の被害者、

 「ああ、分かった。義務教育では世界最高の成績で卒業か。ならば、最も底辺の職業訓練中心の女子高校に進学したら良い。進学校から特待生の推薦があると思うが、すべて断って行きなさい。そうしたほうが、自分の能力をもっと高められる。そして、その女子高を日本有数の女子高にしなさい。実力テストはすべて参加して、最高得点者はその女子高の名前が来るようにしたら、良いだろう。生徒会長になるのもいいだろうな」

 「博士、自分の力で、底辺の学校からハイレベルの学校にするのですか」

 「ああそうだ。最初は難しいかもしれないが、実力テストでトップを取り続ければ、みんな先生も含めて、求心力は増すだろう。勉強バカではないことを証明するように努力するんだ。授業のやり方が悪かったら率先して先生に提案して変えていくように」

 「分かった。それ面白そうだから、やってみる。世界最高の成績が連続で続いていて、進学校に行っても、どっちみちトップになる。そういう底辺の女子高をお嬢様学校にしてみる。博士、何か困ったら相談に乗ってほしい」

 「ああ、いつでもいいぞ」

 なんで「博士」なんだ。意味が分からない。

 「リーダー、なんで俺が、博士と呼ばれるようになったんだ」

 「え、ちょっと待って。ああ、把握した。それはね、運命の人だからよ」

 「それ意味不明なんだけど。彼女、義務教育で連続世界最高の成績だってさ」

 「予想はしていたけど、そこまでやっているとは予想してなかった。高校は」

 「日本で最も底辺の職業訓練が中心の女子高を推薦した」

 「え、ちょっと待って。うわーすごいことになってる。実力テストで常に一位は彼女よ。ああ、そんな無茶なことを指示したんだ。でも無難にこなしてる。しかし超(ちょう)がつく美人ね。一年生の段階で生徒会長を任されそうになったけど、相談役として的確なアドバイスをしている。生徒会が変わった理由は彼女の影響だと誰もが信じているのか。あまりにも存在感が大きすぎて、でも礼儀正しいから彼女に恋してる女子が大変多いのか」

 「義務教育にどんな役職を経験しているんだ」

 「ちょっと待ってラストに許可を取るから。ええとね、世界の子供の頂点を意味する生徒会長を連続で経験している。彼女を知らない子供は一人もいない。ああ、それでいきなり生徒会長を任されそうになったのね。まずは学校の現状を把握するため、相談役になったのか。相談役になった途端の最初の一言、『この女子高をお嬢様学校にしましょう。』という発言が全学生に伝わるのに一日かからなかった。それで無力だった生徒会の影響力が一気に増したのか。未来の状況を調べれば面白くて仕方ない」

 「それで博士と言われる理由をもっと詳しく」

 「あなたインフィニティの設計を変えたでしょ。それだけの実力があって、まだ演技を続けるの。博士と慕っているのだから、そうしてあげたらどう」

 「分かったよ。そうする」

 インフィニティの設計図を確かに変更した。だけど思い浮かんだ言葉だけを素直に言い続けただけだ。設計図の内容、さっぱり分からない。

 「博士、二年生になったとき、まわりからどうしても生徒会長をやってほしいと言われて頼まれたんだけど、何をやっていいものかさっぱり分からない」

 「運動会や文化祭や修学旅行ってあるか」

 「運動会はあるけど他は無い。どんな内容なの」

 「文化祭はいろいろあるけれど、そうか、その時代には存在しないのか。インフィニティの無料相談所に行って、俺の時代の文化祭について映像で見せてほしいと頼みなさい。あとそれを題材にした日本のアニメやゲームなども参考になるだろう」

 「分かった。どんなレベルを目指せば良い」

 「ええと、いろいろ学生が作ったものを売ることになるから、政府から本物のアイテムクリエーターをレンタルして、学校なら格安か内容によっては無償になる。それですべての売り上げを本物のアイテムクリエーターの購入にあてなさい。そうなる為には、大変魅力的な文化祭にして、日本中から政府関係の要職にある人を招待したり、テレビを招いたりして、伝説になるほど有名な文化祭としなさい。本物のアイテムクリエーターを生徒会が保有している学校は無いだろうな。歌や踊りもやるだろう。インフィニティの無料相談で趣旨を伝え可能な限りの技術を駆使して盛り上げると良いだろう」

 「そうしてみる。修学旅行はどうすればいい」

 「俺の時代には高校二年生で修学旅行がある。三年生は大学受験で忙しくなるから、二年生なんだ。日本や外国の観光地を遊びに行くだけだった。それについても、インフィニティの無料相談所でお嬢様学校にふさわしい旅行プランを考えてもらったほうがいいだろう。俺の時代は学校主導だが、生徒会主導でやりなさい。先生を納得させること」

 「分かった。他には」

 「学校で体調が悪かったり持病を持っている人を集めて、いや生徒と先生全員で、政府の医療の無料相談所ツアーを企画しなさい。そして『最も健康な状態になりたい』と相談すること。それで完璧に直るから、それを最初にやったほうがいいだろうな」

 「でも医療の無料相談はホームレスがいっぱいいるから危険だとー」

 「行ってみれば分かる。ホームレスは存在しない。インフィニティの無料相談所で、医療の無料相談所の状況や、『最も健康な状態になりたい』こんな無茶な相談が可能かどうか聞いてみたらいいだろう。それなら、自信持ってやれるはずだ。学校の休日にでも実施するといい。自分の視力が急激に良くなるぞ。たぶん」

 「博士ありがとう。また困ったら相談するね」

 さて、俺なりのフォローをしておくか。

 「インフィニティ、聞いてただろ。俺の権限で善処してくれ」

 「分かりました。高校の教育改革をやるのですね」

 「そうだ。学生主導でやっていることが分かったら、文化祭は大成功だろうな」

 リーダー、

 「私よ、聞いてる」

 「どうなった」

 「まず医療相談の件、彼女は先頭で、『私の列の終わりまで、全員、なにを言っても、最も健康な状態にして欲しい』と、彼女なりに医療業界に配慮した。その結果、妥協していた問題まで完全に治ってしまったので、大成功よ。インフィニティに事前に相談して、そうしたみたい。以降、私が生徒会長を退いても続けたいから、お願いと言って永久ルールになったのよ。あなたの権限でそうなった」

 「そう、それから義務教育の卒業式で、医療相談はホームレスの巣窟というデマを流している医療関係者がいるそうだ。摘発して欲しい」

 「分かった、それは問題だから、未来に伝えておく。修学旅行はインフィニティがお嬢様学校としてふさわしいプランを作り上げた。これはテレビのニュースに取り上げられるほど有名になっていた。生徒会主導でそれをやってるって。生徒会長のインタビューをみた学生は誰が指揮をしたのか、すぐ分かって対策を考え始めている」

 「そうか、そこまでやっているのか。高校改革を学生の身分でやり遂げる目標、普通は考えられないからな。なんとかしようとする学生は多いだろうな」

 「高校改革。インフィニティ、どういうこと」

 「はい、高校改革です。高校は勉強ばかりする所が増えてしまい。運動したり、文化を向上させたり、礼儀作法を学んだり、職業の訓練をしたり、そういう学校はほとんどありません。文化祭は二年生の段階では準備期間にして三年生でやるようです。文化祭の収益で・・・・万円する本物のアイテムクリエーターを生徒会が保有するという目標を掲げて

いるようですね。彼の権限だけでなく大統領の権限でも全面サポートするように指示がでています」

 「話が飛躍しすぎていてついていけない。もしかして、彼女は研究所の科学者になるの」

 「はい。大統領の指示と政府機関の指示で、必ず招聘するように指示されています。義務教育を連続で世界最高の成績で卒業した日本人は過去に例がありません」

 《日本で最も底辺の女子高の生徒会室》

 生徒会長、

 「医療相談の感想について統計は取れた」

 「はい、全員が満足しています。校長先生から今後も何か問題点を見つけたら積極的にアドバイスして欲しいとのこと。修学旅行についても許可すると言いました」

 「修学旅行だけど、二年生だけというのは三年生の皆さんに失礼だから、二年と三年の合同でやりましょう。テレビから取材が来ると、思いもしなかったから」

 「それについては三年生に、いまから一斉アンケートをとります」

 「お願いします」

 「全員が行きたいそうです」

 「分かった。予算を組みなおして、旅行代理店とは私が直接交渉します。これではまだ高いから。行くときは次の生徒会長候補になりそうな数人を一年生から選んでください。一緒に行って、どういう交渉をするのか見ていると経験になるでしょう。いま交渉に行っているあなたも、どういう駆け引きをすればいいのか教えてあげる。交渉がうまくいったらその様子を映像に残して、引き継ぐといいでしょう。私が世界の頂点に立ったときの手腕をみるといい」

 「はい、とても見たいです」

 「文化祭の準備は進んでいる。全員、インフィニティの無料相談所に行きましたか」

 「はい、全員行きました。まだ数名の先生方が多忙で行けないようです」

 「どんな用件で忙しいの」

 「理由がはっきりしません。いまは職員室にいると思います」

 「分かった。私が直接乗り込んで、今日中に行くように指示してきます。ああそうだ、平均どれぐらいで終わったか知ってる」

 「そうですね、平均三十分程度で終わっています。リンクを使えばすぐ終わります」

 「ああ、そうねリンクを使って、いまから一人で行くから」

 生徒会室を出ると、頭に言葉を思い浮かべる。

 「博士、インフィニティの無料相談のイカサマを教えて欲しい」

 「ああ、簡単だ。頭に『リンク、インフィニティ、無料相談』と思い浮かべるだけだ。日本国内だったらどこでも可能だ。明確な理由があるならば許可されるだろう。リンクで無料相談が始まらなかったら、インフィニティが下らない理由で相談に来ないと判断したことになる。実際、いまから使ってみろ。先生達を説得するにはどうすればいいか知恵を借りなさい。インフィニティへの根回しはしてあるから、すぐに使えるはずだ」

 「ありがとう。やってみるね」

 《職員室》 生徒会長が問題の先生達が集っている最中に現われた。

 他の先生方は文化祭について理解を示してくれたのに、なぜ先生方は確かめないのか理由を聞いた。それから簡単に多忙の理由を論理突破した。それから怒鳴り声で怠慢な姿勢について、インフィニティの指示通りに批判した。それは校長先生の耳にも届いたようでー

 校長先生、

 「この学校を有名校にする為に頑張っているんだ。そんな仕事、遅れても構わない。すぐに行って来なさい。時間が気になるならリンクを使えばいいだろう。今すぐ、行って来い。私を怒らせたら始末書にするぞ」

 怒鳴り声が職員室に響く。事前に打ち合わせした通りに校長先生が味方にまわってくれた。多忙を理由にしていた先生達はすぐにインフィニティの無料相談所へ向かった。

 《生徒会室》 生徒会長が戻ってきた。

 「どうでしたか」

 「校長先生が味方になってくれて、事前の打ち合わせ通りに問題は解決よ」

 「いつも思うのですが、人をうまく使うのが上手ですね。なにか教科書を作ってくれませんか、生徒会運営のヒントになればいいので、多忙とは思いますが」

 「いいわ、文化祭が終わったあと、たぶん暇になるからその時に書く」

 「リンク、インフィニティ、無料相談。助言ありがとう」

 「いいですよ。文化祭の成功を祈っています」

 《研究所》 リーダーと科学者が雑談をしている。

 「えらく最近は機嫌がいいな」

 「もう魔王は出現しないと自信があるからよ」

 「それだけじゃないだろ。なにか隠している」

 「そうね、そろそろ弟子ができるかもね」

 「ああ、弟子か、教える事をまとめておかないといけないな」

 「完璧にしておきなさいよ。日本の未来と世界の平和がかかってるから」

 「どれぐらい頭が良いのかぐらい、教えてくれよ」

 「世界統一の義務教育で、連続世界最高の成績で卒業した実力者よ」

 「うそ。弟子に抜かれるかもしれないという、あいつの話は本当だったのか」

 「聞いてたの」

 「ああ、事前に優秀な弟子ができることは教えられていた」

 「なら、女を口説くコツとか、師匠らしく振舞わないとね」

 「そうだな。助言ありがとう」

 「楽しみにしているわ」

 「インフィニティです。あるオペレーターからの技術の相談で、ブラックホールのような吸い込む概念と風車による永久機関による発電システムを作れないかと」

 「ちょっと待て。できたら、発電所の産業革命になるな。インフィニティはできそうだと思うか」

 「吸い込む概念がいくつかあるのですが、いずれも永久機関にはできないです」

 「わかった、あいつにつなげ」

 世界最強の被害者、

 「それか、人間の頭脳では無理だ。彼らに、発電システムとそれを防御する日本最強の金属を作ってもらえ。そして可能であればコンピューターの電源としても使えるように、極小サイズでも作ってもらうこと。そして、そんな発電システムはテロの標的になりやすいから海底二万メートル付近で動かす事を前提に設計して欲しいと伝えなさい」

 リーダー、

 「インフィニティ、彼らに技術開発の依頼を送って欲しい」

 「分かりました。いま大変暇であるから、ありがとうと返事がありました。それから彼らの方でもこの技術を使いたいそうなのですが、どうしましょうか」

 「許可すると伝えて欲しい」

 「いま発電システムはどうなっているんだ」

 「極秘に決まってるでしょ。あんな危ないものを公開できるのかって」

 「安全性は大丈夫だな。問題は起きてない」

 「安全性は徹底的に問題ないけど、日本がその技術を使ってることが漏洩すると危険なのよ。はっきり言うと、この時代からは私しか知らない」

 「いま依頼した技術も、危なすぎる技術だな」

 「確かに危ないけど、いまほど危なくは無い。もし壊れたら太陽系は消滅するだろうから、証拠は残らないだろうし。もっとも、彼らが作るなら絶対安全なものを作るでしょう」

 「それ以上に危険な発電システムを使っているのか。無限に吸い込む概念と無限に発電する水車による発電システムか、報奨金と褒章がたぶんトップではないか」

 「本当に作ってきたらだけど、できたら歴史上トップのアイデアね」

 「インフィニティです。中間報告ですが世界最強の被害者の力を借りたいと申し出がありました。王からの要請です」

 「分かった彼に相談して」

 世界最強の被害者、

 「技術はそれで良い。日本最高の金属が抽象的だったな。宇宙最強の金属だ。どんな爆発物にさらされても、壊れない仕様で。そうしないと壊れた瞬間に世界が消滅するだろうな。そして困ってるのは間隔か、必ず水中二万メートル付近に設置する事、水流によって発電する。間隔は五メートルで良い。それ以上、間隔を狭くしても安全だが、一基でも壊れると連鎖的にすべて破壊されるから、絶対安全な五メートルにしておくこと。それから内部を確認できる密閉型、片道一方向のドアを作っておけ。アホが侵入したとき、自動的に死刑にできるようにしておくんだ。そしてコントロール室は地上に作り、需要にあわせて発電量を自動調整できるようにしておけば良い。それから水車は宇宙最高の金属で作り、発電システムも未来永劫絶対に壊れない信頼性を求めてほしい。発電システム内の水質はできるだけ純度の高い水に保たれるようにもしてほしい」

 「伝えました」

 「中を確認した瞬間、死刑か、恐ろしいアイデアだ」

 「そうね、中に入れるけど、その後、強烈な水流に巻き込まれて死亡。または水車に巻き込まれて粉々になるか。でも証拠は残らない。でも技術はできたそうよ」

 「それも恐ろしいな。どうやってテストしているのか知りたいぐらいだ」

 「そうそう、彼らからの技術で惑星開拓の技術があったから、日本主導で惑星を開拓してそれを遊べる惑星にして、宇宙旅行にする計画がスタートしている」

 世界最強の被害者、

 「リーダーの権限で最大三十までにしておけ。彼らと同じにしておいたほうが良い」

 「分かった。インフィニティ、最大三十まで、それ以上やったら死刑と伝えて」

 「分かりました」

 「なんで三十なの」

 「日本人は特権で宇宙旅行は半額で行ける。二年一回は違う惑星に行ける計算だ。たったそれだけだ。それ以上の開発は、未知の宇宙人の為に残しておくんだ」

 「ちょっと、あなたも、未来の惑星を体験してみない。宿舎のシステムで実現できるから。今日は二人とも早退でいい」

 「ああ、気になってた」

 二人は消えた。

 《リーダーの特別宿舎》 リーダーは惑星で遊んでた。

 自称神、

 「こっちは遊びたいのを我慢しているのに、いい身分だな」

 「たまにはリフレッシュしないともたないわ、あなたは違うでしょう」

 「先ほどの発電システムだが恐ろしい技術だ。彼らの数年間の歴史の方がもっと面白いぞ。見るか」

 「見たい」

 うわーひどいこれ。糞まみれの田舎町が永遠に広がっている。臭いのも異常だし。それから一瞬で糞が消えて大気が正常化。それから高層ビルの建設ラッシュか。ちゃっかり空飛ぶ車を作ってる。光速を超えていた。地球の文化を彼らなりに進化させているのか。コンピューターはインフィニティが十億台束になっても勝てないなんて信じられない。あの科学者は二日で所長に昇進。その後、王の側近を勤めていると。歴史が変わらないように配慮しながら教育改革を過去から行って、揺ぎ無いーあれ天国まで作ってる。彼らは長寿だから人口の増加が起きたとき、天国に行けるようにしたのか。

 「どうだ、おもしろいだろ。地球の文化がほとんど取り入れられてる」

 「友好関係を作らないといけないと、あなたの主張は正しかった。そっちの様子はどう、状況は把握されているんでしょう」

 「いや、まったく伝えてない。フェーズの進行状況しか伝えてない。スパイはフェーズ毎にそれぞれ違う情報を送った後、記憶から消えるようになっていたからな」

 「そう」

 「そろそろ、太陽と地球と月を作る技術を作り始めろ。人口の増加が次のフェーズではピークに達してしまう。あの大人の玩具の影響だ。人口が急激に増えている」

 「分かった。次の次のフェーズでやる予定だったけど前倒しで実行する」

 「技術概念はもう作ってある。試作機でのテストは完璧だ。インフィニティに伝えておく」

 「試作機はもう完成したの」

 「まだ進捗状況は一割程度だ。一割程度でも彼らの星のコンピューターに匹敵する」

 「そんなスペック必要なの」

 「必要だ。いまのシミュレーションだと追加で地球が四つ必要になる。ヒストリーギャップを置いたのは良かったが、逆にそれを外すとき、どういう歴史干渉が必要になるのかまで検証すると、試作機から完成させるように指示された」

 「立場逆転ね。そんな知性なら、あなたの技術力に苛立ってない」

 「ああ、酒を飲みまくりだ」

 「一を知れば百を知る者に協力を願い出たら、どうなの」

 「断られた。彼らが協力すると予想外の危険な事態になると宣告された」

 「そう、何とかするしかないわね。ああ、弟子にインフィニティの次世代機を作らせようかしら」

 「あいつか、いま、すげえ義務教育連続世界一位か。人類史上の快挙だな。想像以上の結果に驚いた。そうだな、産業革命が終わった後に、インフィニティの次世代機を作らせよう。以前と全然違うじゃないか。何をやったんだ。ああ、そういうことをしたのか」

 「まさかと思うけど、寿命を犠牲にして知性を高める技術を使ったの」

 「ああ、そうだ。生まれた直後にやっている。黒子に指示しておいたのか。そうなると寿命はあれ、おかしい。試作機で技術のチェックをする。寿命が犠牲になる理論は誤りだ。どういう計算を間違えたんだ。分かった。黒子は知ってて実行に移したのか」

 「分かった。彼女には内緒にしておく」

 「そうしてくれ」

 《科学者の特別宿舎》 なぜか女悪魔がいた。

 「なんでー」

 「あなた、正式に交際のスタートを認めたじゃない。カードを合わせたでしょう。あなたの事を考えると気になって気になって、浮気防止の法律に従って、あなたを求めたの」

 「ちょっと待て、インフィニティの酒を飲め、これで楽になる。インフィニティ」

 「はい、こちらです。あらゆるイライラ感が消えます」

 「そんな便利なものがあるなら早く教えなさい。本当に消えた。いつでも私の権限で使えるの。インフィニティ」

 「はい、存在を知っているものであれば」

 「今日はしたいという気分ではなくなった。なにか私に面白いものはないの」

 「ああ、未来の惑星がまるごと遊べる状態になってるから遊ぼうと」

 「あ、ずるい」

 「一緒に楽しもう。一人より二人のほうが楽しいだろ。でも悪知恵を使ったら帰ってもらうからな。お前の悪知恵は怖すぎる」

 「なにもしないわ。私の主義を間違えては困るから言うけど、悪知恵は仕事の為に使うだけよ。愛を育むときには使わないし、使ってなかったでしょう」

 「そうだな、使ってなかった。でも無理に処女になる必要は無かったぞ」

 「知っていたのね。ああ、すべて把握した。でも関係は残ってる。処女にしたほうが痛いけど男女関係が良くなる統計から、すべての女には権利が与えられてるのよ」

 「インフィニティ、それ本当か」

 「はい、真実です。とても痛いので、その権利を使うのは一部です」

 「分かった、もう君を女悪魔と考えるのはやめる。惑星旅行スタート」

 「ありがとう」

 《現代》 世界最強の被害者は小説を書いていた。

 二十三ページ目で、ついに発想が尽きた。何が問題だったのだろう。リーダーを守護霊と見立てて、その始まりから書き始めたけれど、その設定から書くと非常に難しい。頭の中の脚本だけで千ページ以上いくはずなのに、論理が破綻するようになってきた。未来の状況を思い出そうとしていると、彼女からの言葉が思い浮かぶ。

 「博士、文化祭なのですが、何か良いサプライズは無いでしょうか」

 「そうだな、伝説の科学者と伝説のリーダーを登場させたらどうだ」

 「歴史上の人物ですよ。義務教育で習いました。日本と世界を導いたと知らされています。そんな幻想が可能なんですか」

 「可能だろ。インフィニティ、リーダーと科学者へサプライズとは知らせずに招待状を送ってくれ。過去の人間を最新の立体映像で見せるだけだ。話したり握手したりもできる」

 「そんな技術があるんですね。それだけで十分なサプライズです。博士は」

 「俺は無理だ。それを実現する技術が無い」

 「残念。修学旅行は大成功だった。大統領が現われたのはびっくりした。いま、もう高校のランキングで一位になっている。新一年生はとても優秀なの。実力テストはほぼ上位を独占している。一位は相変わらず私だけど。私が良い見本となって、進学校でないのを学力低下の原因にしてないから、みんな努力している。進学校では学べない授業が多いから、楽しいみたい。文化祭は一年生も積極的に参加すると言ってきた。どうしたらいい」

 「文化祭は全員でやったほうがいい。楽しませるのはお客さんだから、授業で覚えた仕事の実戦だと思ってやるように言ったほうが良いよ。一年生は学力に差があるのは承知しているし、どれだけ準備してやっているのか、噂で知っている。仕事のやり方では上級生なのだから、指示は一年生より的確になるだろうな」

 「分かった。そうする。テレビはどうすれば、招待状は送ったけれど」

 「ああ、校長先生を説得させろ。いや俺が直接説得する。インフィニティ、サポートしろ」

 校長先生、

 「緊急の用事とはなんでしょうか」

 「私は匿名だがS級パス保持者だ。テレビなどメディアの取材を断る理由は何だ」

 「混乱を防ぐためです。それに生徒にはプライバシーの問題があるからです」

 「私の権限で命令する。高校改革を成し遂げるにはメディアの力は必要だ」

 「高校改革。いやそんなつもりは」

 「いまの生徒会長は『底辺の女子高をお嬢様学校にする』と相談役の段階で宣言した。その事実を確認してみろ、誰でも知っているぞ。知らないのは校長だけだ」

 「ちょっと待ってくれ」

 「確認した。分かった、拒否をすべて取り消す。でもメディアの取材が怖い」

 「分かった。インフィニティ、取材を受ける先生方を全面バックアップしろ。いかにも優秀な先生というイメージを植えつけろ。無料相談に来たら、俺の権限で無償でやれ」

 「そこまでしてー分かりました。文化祭当日に間に合わせて、全員行かせます」

 「遅い。拒否を取り消した瞬間に取材のラッシュだぞ。今日中に残業手当を出してでも全員にメディアの対応に対する教育を受けさせろ。これは命令だ。分かったな」

 「分かりました」

 「それからな、修学旅行で大統領が登場するサプライズがあったそうだ。知らないだろ。それほど政府機関は注目している。インフィニティ、すべての先生が行ってなかったら、S級パス保持者の権限で強制で行かせろ。校長先生にも報告すること。以上」

 「聞いていたな。こんな感じで説得した。いや脅迫か」

 「博士、ありがとう。これで文化祭だけに集中できる」

 《未来の教育政府機関》 激変した女子高についての分析が行われていた。

 局長、

 「日本の最優秀生徒が率先して高校改革を行ったという事実があり、ランキング最下位から、たった二年でランキング一位になった。高校の教育方針を見直したほうがいい。今までに収集した情報をまとめましょう」

 「インフィニティに寄せられた資料によると、積極的に無料相談所を活用したそうです。生徒会長になった最初の企画が政府の医療相談ツアーで、最も健康な状態にしたいという相談でした。それで先生と生徒の圧倒的な支持を集めました。警察が卒業式に医療の無料相談所はホームレスの集まりというデマを流す者を国家反逆罪で逮捕しています。裏でおそらく究極に秘密の研究所が動いていると想定されます」

 「内通者からの報告によれば、現生徒会長が指導のあり方を生徒から先生に指導していたそうで、教育の効率は有名校に匹敵するレベルまで向上したそうです。世界最高峰の生徒会長を連続で歴任した実力は侮れません。生徒会長は政府の秘密の研究所に招聘される見通しとのこと、おそらく産業革命が起こります」

 「ランキング二位の進学校に行ける実力を持った生徒が、入学した後も実力テストの結果にはあまり左右されていません。一位は生徒会長、上位は一年生で独占している状況です。現在の高校の段階で、仕事のやり方とか、もっと社会に実践的な内容への転換をしても実力テストに影響がでないと判断できます」

 局長、

 「インフィニティ、高校改革はだれの発案によるものか教えてほしい」

 「世界最強の被害者による提言です。高校はどこにしたら良いか問われたので、私の判断で、その人に判断を仰ぎました。そうしたら、このような結果になりました。文化祭は一年以上準備を重ねて、このように実現されます。スクリーンにイメージを映します」

 「これはすごい。いったいどれだけのお金がかかっているのか」

 「すべて学校に対しては無償の技術を使っているので、費用はかかっていません。また商品を販売するためのアイテムクリエーターのレンタル申請がありましたが、S級パス保持者の権限によって、無償で提供することになりました」

 「これがすべて無償の技術だって、信じられない。インフィニティの無料相談所を利用した回数はどれぐらいになるんだ」

 「一万回を軽く超えます。全校生徒だけでなく先生方も頻繁に利用しているので、これだけ大規模な文化祭が可能となりました。学校の敷地だけでは足りなくて、学校の上にも特設の建物を作り、一日の来場者数が一万人を越えても良いように対策しています。文化祭は学生が知恵を絞って企画しているものです。全員で視察に行くべきと判断します」

 局長、

 「ありがとう。伝説とばかり思っていたが本当に実在していたのか。よし、無駄な会議をしていても仕方ない。文化祭の会期中、何度でも行って、どんな学校になっているか視察を許可する。全員参加だ」

 《研究所》 なぜか女悪魔と科学者がいた。

 「へぇ、こんなところで働いているの」

 「ああ、すべての高度な日本の技術はここで作っている。天空の城もここだ」

 「あれはあなたが作ったの。すごい」

 そこにリーダーが現われた。

 「あら、こんにちは」

 「初めまして、リーダー様。私の戦略は役に立ったかしら」

 「とても役に立ったわ。誰の権限でここにいるの」

 「俺がインフィニティに許可を求めたら、すんなり許可がでたから」

 「ああ、そう。なにか待遇を改善して欲しい事ある」

 「ゼ・・・で、あれを使わせてほしい。あと仕事をもっと増やしてほしい」

 「分かった許可する。言えなかった言葉を繰り返すと階級が落ちるから注意して、仕事か、もう悪知恵を使う必要が無い状況まで世界は変わっているの。未来だけど、見る」

 「見てみたい」

 「インフィニティ、映像を送って説明して」

 「こんなに進化した世界なのね。でも問題点がいくつかある」

 「インフィニティ、世界最高技術のリンクシステム最高速で問題点を列挙させて」

 「これが世界最高技術のリンクシステムか。恐ろしい速さで問題点が列挙されてる」

 「あなたは悪知恵の室長から、どんな職業を選択したい。希望があれば、ここはダメよ」

 「いま私の褒章や貯金ってどうなってるの。嘘みたいな金額、これ本当なの」

 「ええ、最初は悪いと思ったけど、ずいぶん役にたったから、その報酬になった」

 「どうしようか、このままでも良いし、通常の仕事に変わってもいいのよね」

 「そうよ。インフィニティ、彼女の適性はどう思う」

 「世界平和を導く戦略検証室長が適任だと思います。ただ現状維持で待遇は改善」

 「それでいい。それからー」

 「もちろんよ。頭に言葉を浮かべて話しなさい。直接聞くから」

 「裸で勤務、うんざり。二度と悪い事はしないから許してほしい」

 「分かった。黒子が勝手に指示した内容は私の権限で取り消す」

 「え、黒子が黒幕なの。あなたの指示ではないの」

 「そうよ、私は命令してない。公式の記録を見る」

 「あ、社長の命令を悪用して黒子が実行に移したのか。でもー」

 「それ以上、思い浮かべただけで、T級パス保持者に対する侮辱罪を適用するわよ」

 「T級、絶対権力者という意味ですか」

 「そう、宇宙におけるすべての歴史の責任を背負っているの。この気持ち、分かる」

 「分かりました。ゼロタイムは続けて構いません。ただ大人の玩具の利用権限が欲しい。あれを体験したら、インフィニティの酒を飲んでも、その衝動に耐えられなくなる。先ほどのリンクシステムで、世界の問題点を探し出す任務、受けましょう」

 「分かった。どういう場所で勤務したい。ここはダメ」

 「インフィニティ、私が長い期間満足できる勤務場所を脳スキャンで作り出してほしい」

 「ああなるほど、たまには部下をいじめたいのね。ゴーストでも良いならいいけど」

 「ええ、部下がまったくいないのは辛いから、ゴーストでも構わない」

 黒子、

 「悪知恵に頼らない生活を営んでくれ、彼に嫌われる性格に戻ってしまうぞ。それでも良いなら、ゴーストの管理は俺がやる。悪知恵合戦はさぞ楽しいだろうな」

 「いや。黒子は日本最高の悪知恵コンピューターだから、それは嫌」

 リーダー、

 「分かった。インフィニティ、性格を天国に行く前に矯正する必要がないように部下を五人与えなさい。その五人の様子をみて、悪知恵に頼らない仕事をするならー」

 「その方がいい。黒子は怖すぎる。彼は私にとって必要な人だから、彼にとってパーフェクトでありたいの」

 「決まりね。インフィニティ、あいつから女悪魔の記憶を削除」

 健全になった女悪魔は消えた。

 「リーダー、相談は終わったのか」

 「終わった。彼女と時々会ってあげなさい。素直で素晴らしい女性だった」

 「ああ、それは本当にそう思う。時々、宿舎で会えるのか」

 「そうよ。調べたら交際を公認していたのね」

 「未来のインフィニティから、リーダーと科学者へ文化祭の招待状が届いています。世界最強の被害者から、ぜひ文化祭に来るようにと。高校改革の成果が分かりますよ」

 「私の権限で、あなたも強制参加よ」

 「高校改革、なんだそれは」

 「あなたが成し遂げられなかった事よ」

 「まさか弟子か」

 「そう、弟子が学生の身分でありながら、ランキング最下位の高校を二年でランキング一位に誘導したのよ。その集大成が招待された文化祭なの」

 「それは見に行きたい」

 「では今から、それぞれ宿舎に戻ってください。その瞬間にスタートします」

 《日本最高のお嬢様高校の文化祭》

 科学者、

 「金をかけすぎだろ。どうみても。採算取れてるのか」

 リーダー、

 「いいえ、すべて学校には無償の技術を使っているので無料よ」

 生徒会長、

 「ようこそ、二年かけて企画した文化祭です。お楽しみ下さい」

 「初めまして、あなたの事はよく知っている。招待してくれてありがとう」

 「初めまして、ええとー」

 「ありがとうございます。今日の来場者数は一万人を越える大混雑が予想されますので、このVIPパスを渡しておきます。政府機関やメディアに渡しているものと同じです。係に見せれば特権で長い列に並ぶ必要はありません。通常の文化祭は一日だけですが、前評判が高いのと全校生徒に体験させたいので、五日間でシフトを組んで開催します」

 「分かった。わざわざありがとう。行くわよ」

 リーダーは周りの視線が気になって仕方ないが無視して、歩いていくと。

 「リーダー、初めまして。私は現在のリーダーを任されています」

 「なんで分かったのよ」

 「歴史の教科書にでてきますよ。世界を救った救世主として教わりました」

 「内緒にしておいてね。あの作戦は必ず実行するから彼女を支援してほしい」

 「ええ、確実に実行に移します。では失礼します」

 「聞いてるんでしょ。私達をはめたわね」

 世界最強の被害者、

 「どんな教育を受けてるか知らないけれど、くれぐれもメディアには見つからないように。このサプライズはこの学校の生徒にいま知らされて、知らないふりをするように厳命されているから。メディアが来たら、緊急の退避先があるからVIPパスを持って退避と思い浮かべるだけで、隠れることができる。その前に学生の誘導があるから従うこと」

 「わかった。なるほど、そういう意図なら許しましょう」

 「お前さ、女を口説くコツとか言って、男だと思わせただろう」

 「なに言ってるの。女を扱うコツを理解させるために決まってるじゃない」

 「あんなに美人で日本最高の成績で生徒会長なら、女子の人気は凄いよな」

 「当然よ。現時点で、大統領と知り合いよ」

 案内係の腕章をつけた女子高生、

 「すみません、私の誘導に従ってください。急いでお願いします」

 リーダーと科学者は素直に後を追いかける。講堂に着いた。

 「やられた。もう逃げ場が無い」

 「もしかしてー」

 「そうよ」

 司会者、

 「生徒会長が予言した伝説のリーダーと伝説の科学者です。今日は前夜祭ということで、政府機関に働きかけてサプライズが実現しました。どうぞ自己紹介をお願いします」

 伝説のリーダー、

 「私が伝説のリーダーよ。百億光年までの未来と過去を監視して、日本を豊かにしつつ、世界の平和を実現してきました。内緒なんだけど、宇宙人は存在します」

 会場がどよめく。

 伝説の科学者、

 「俺が伝説の科学者な。宇宙人と交流して、日本の技術を与えたり、もらったりして、世界の平和へ向けて行動してきた。インフィニティを設計したのは俺だ。すごいだろ」

 会場が怒涛の拍手になる。「素敵」「かっこいい」「愛してる」叫び声がすごい。科学者は思わず照れる。照れた瞬間に、「かわいい」などの叫び声だ。

 司会者、

 「生徒会長から一言」

 生徒会長、

 「さっきは騙してごめんなさい。ここに連れてくるまでが大変だったの。みんなはもう知ってると思うけど、いま本当にそのとおりの技術を使っているの。これがサプライズよ。質問をあらかじめアンケートで用意しておいたのですが、答えていただけますか」

 司会者、

 「最初の質問はリーダーに対してです。リーダーになる方法を教えてください」

 リーダー、

 「日本最高の成績で、たまたま運が良ければ政府機関から招聘されます。最初はオペレーターのクラスから始まり、経験を積んで、例えば軍事コンピューターが出現してその先の未来が消滅したり、超シビアな結果しか待っていない部署なの。プレッシャーの耐性が世界最強でないと仕事は無理だから。そういう訓練を積んで一定以上の成績とリーダーとしての訓練を自主特訓して選抜試験にパスできたものだけが、リーダーになれます。インフィニティ、今後三年間で採用予定のオペレーターは何人なの」

 インフィニティ、

 「二人です。採用基準は日本最高の成績で、政府機関が提供している戦略ゲームで最高得点をだせるほどの実力者であれば、間違いなく採用されます。採用された場合、D級パス以上の特権が与えられます。伝説のリーダーはT級パス、伝説の科学者はS級パスです」

 会場がざわめく。

 司会者、

 「次の質問もリーダーなのですが、過去から未来をみて一番感動したことは何ですか」

 リーダー、

 「ある大統領が世界の義務教育を一つの島で行う政策を完遂したことに感動しました。あれは私が考えたものではないのです。あの大統領の功績です」

 司会者、

 「科学者にも同じ質問があります」

 科学者、

 「ある科学者が子育てを簡単にする技術に感動した。日本以外だけど、本当のところは、究極の大人の玩具、結婚したら政府から提供される玩具が強烈に感動した。あれを使ってしまうと男女の仲は完璧に相思相愛になってしまうほどの発明品だった」

 リーダー、

 「それなんだけど、一度使った相手は忘れられなくなるから、男はすぐ忘れられるけど女の場合は酒などで紛らわしても効果ないから、相手選びは慎重になりなさい。インフィニティ、結婚サポートについて、ここで説明しておきなさい」

 インフィニティ、

 「まず脳をスキャンして脳科学の面から、相性の良い相手を選別します。それから日本の歴史上、夫婦相愛になる条件を満たす確率が非常に高い相手に選別します。それでも千人以上になります。それから、私のシミュレーションで最も幸せになれる候補をいくつか選び出して、どこでどのように会うのか完全に支援します。普段は有料ですがー」

 リーダー、

 「一回目だけ無料でいい。二回目は無いと思うけど、二回目以降は有料にします。インフィニティ、私の権限で講堂にいる全員が対象です。先生も含めますよ。恋愛はいくらしても構わないけど、結婚は一生の問題だから慎重になったほうがいい」

 科学者、

 「ひょっとして俺もか」

 リーダー、

 「ふざけないで。あなたにはカードを合わせた政府公認の相手がいるでしょう。浮気するわけ。印象が悪いわよ。みんな、そう思うでしょう」

 「ふざけてる」「浮気者」「女をバカにするな」野次の嵐だ。

 科学者、

 「すまない。いま交際中の相手は、インフィニティと戦略ゲームをして勝つほどの優秀な女性だ。C級パス権限を持っている。リーダーは彼女に全敗だったよな、確か」

 リーダー、

 「そうよ。インフィニティの支援を受けても負け続けた。頭に来る話よ。インフィニティは改良してあるから、勝つのは無理だと思う。それでも勝てたら政府機関が何らかの仕事でヘッドハンティングに来ると思うから、その仕事を楽しみにしていなさい」

 司会者、

 「最後の質問となりますが、世界最強の被害者について、それぞれお願いします」

 科学者、

 「俺から、神のような直感力を持った予言者であることは間違いない。俺がインフィニティを設計したとき、あいつはたった二点の設計変更だけで、壮絶な速さにインフィニティを進化させた。また宇宙人と友好関係を結ぶために、様々な知恵を出して、どうすべきかを導いてきた。いま開発中の最新鋭の発電施設についても助言している。性格はいい奴だよ。最初は上から目線で話しているように感じたが、論理的に話しているからだと思うと納得できた。俺の中では常に英語で解釈しているから、何の不満も起きない」

 リーダー、

 「そう、みんな英語が分かってるから論理的に話す事が普通になっているけれど、それ以前は英語の発想で話すと上から目線で話しているように聞えるの。インフィニティ、上から目線の話し方で全員と対話してみて」

 「みんなどう思う。普通の会話に聞えるでしょう。一時的に思考干渉して論理的発想をできなくして、上から目線で同じ対話を体験してみましょうか。こんな感じよ」

 「苛立つでしょう。日本はたくさんの秘密の技術を抱えているの。守秘義務の対象だから自分だけの体験談に留めておいて。彼が唯一、この時代まで続いている技術があるんだけど、それはみんな体験しています。分かる人はどれぐらいいる。手をあげて」

 「いないか。仕方ないわね。義務教育の一年生の授業はすべて彼の技術がベースになっていて、それをインフィニティが応用したものなの。みんなが体験した無料の医療相談所の開設は彼が科学者に指示したの。視力が急激に回復した人がほとんどね。仕事や家庭の問題で疲れを感じてたら、医療相談所に行くといいでしょう。スッキリするから。生徒会長は既(すで)に、『世界最強の被害者』と仲良く会話する仲だと報告にあったんだけど」

 ざわめきが凄い。

 生徒会長、

 「ばれちゃった。高校を選ぶとき、インフィニティの無料相談所を早速使ってみたの。そうしたら、インフィニティから世界最強の被害者を紹介すると言われた。そして、その人からランキング一位の学校でなく、ランキング最下位の女子高に行って、ランキング一位にしてみせろと助言されたの。生徒会長になって、最初の医療ツアーや、修学旅行、そしてこれから始める文化祭はすべて、その人の助言で行ってきたの。黙っていてごめんね」

 拍手が沸き起こる。

 生徒会長、

 「インフィニティ、予言者から文化祭について一言お願いできますか」

 「しばらくお待ち下さい。声だけです。御了承下さい」

 世界最強の被害者、

 「文化祭の準備は大変だったでしょう。明日からは多くのメディアだけでなく、様々な政府機関、名門校の先生方が来ますので、失礼のない様に注意してください。私の時代に文化祭はありましたが、私は常に文化部であったので、一日ずっと出展者の立場でした。それで終わりましたが、五日間シフトを組んで全員が体験するというアイデアは素晴らしい。私が考えた事ではありません。私はただ文化祭について、どのような資料をインフィニティの無料相談所で聞けばよいかアドバイスをしただけです。あとは生徒会長の手腕によるものだと思います。彼女は学生の身でありながら、高校を改革しました。その実績は政府の教育方針を変えてしまうほどのインパクトを残しました。一年生や二年生は彼女にどうやって実力テストで一位を取り続けることができたのか、その方法について聞いておくと良いでしょう。でも、それでは彼女がかわいそうなので、イカサマを教えます。毎週一回、インフィニティの無料相談所で今まで学習してきた事を復習したいと相談すれば、短時間で復習が終わります。でも学校を卒業したら有料になりますから注意して下さい」

 生徒会長、

 「そんなイカサマ、私やってないからね。どういう方法を使って勉強しているか、文化祭が終わったあとで、秘伝の書でも書いておくから、それを読んで勉強してください」

 会場が笑いに包まれた。

 司会者、

 「それでは、前夜祭を終わります。リーダーと科学者に拍手を」

 全員が拍手した。リーダーと科学者は消えた。

 《研究所》 リーダーと科学者がいる。

 「とんでもないサプライズだったけど、楽しめた」

 「全員に守秘義務を与えた上とすぐ気付いたから、でもあいつ」

 「あんなイカサマ教えたらダメでしょ。未来をチェックすると三年生はもれなくやってる。次の実力テストでは上位独占か。お嬢様高校を卒業したのに、学力が悪かった時代だったなんて言いにくいから、仕方ないか」

 「ああ、そうだ擬態の技術って作ってなかったな。今から作っておく。このままで行くと目立ち過ぎる。インフィニティ、必要か」

 「いいえ、フルゴーストするときに顔と体型を変えておけば分かりません。素晴らしい文化祭です。すべてを見て下さい。未来のリーダーからのメッセージです」

 「しばらくは文化祭に行きましょう。自由行動よ」

 「どんな文化祭をやるのか、師匠としてみておかないと失礼だ」

 リーダーと科学者は消えた。

 《お嬢様高校の文化祭》 リーダーと科学者は結局、一緒に行動していた。

 文化レベルが異常に高い。そもそも小学生を終わる段階で、大学卒業レベルの知識になるのだから、まるでプロが行う博覧会のようだった。ライブは立体映像であちこちで演奏していた。これで無料なのかと思うほどだ。入場時にもらったパンフレットには、これらはすべてインフィニティの無料相談所を活用して、無料で可能な範囲内で最大の催しになるように努力したと書いてあった。飲み物や食べ物は生徒が創作したものが一部あるが、過去の優れた無償のレシピで提供されていた。本物のアイテムクリエーターで製造したものなので、賞味期限内であれば法律に触れない。入場者数が増えるにつれて、建物の上に特設会場が高層ビルのように伸びていく。展示物や学校の特色、ランキング最下位からランキング一位になった理由などの説明コーナーを次々に複製していた。生徒達が運営しているコーナーは整理券を配って、それが無いと入(はい)れないようにしていた。テレビやメディアは文化祭の様子を生放送で伝えている。これがすべて無償の技術で実現されていることにアナウンサーは興奮していた。

 伝説の科学者、

 「リーダー、ここまで凄いとは思わなかった。俺でやっと分かるような技術の研究を学生の段階でやっていて、脱帽のレベルだ。これは誰の研究なんだ」

 伝説のリーダー、

 「弟子しか考えられないと思うけど、今年入学した一年生の作品よ。それだけ日本の高校はハイレベルに到達しているの。あなたの弟子の研究は『生徒会長』と書いてあるこれよ。私にはさっぱり分からない」

 「これか。これが高校レベル、概要でできないと思う内容なのに。完成品を動かすと完璧に動作する。同じものが並んでいるが、すべて生徒会長の作品か。これを理解できる人間はいるのか」

 「ああ、あの人は現在の科学者よ。聞いてみたら」

 「すみません、熱心に見ているので、これがどういう理論で動いているのか教えてくれませんか」

 「概要は理解できます。理論はインフィニティの支援を受けながら読んでいるのですが、私でも理解できませんよ。伝説の科学者のあなたは理解できますか」

 「身元がなぜ分かった」

 「フルゴーストを使ってるのは二人だけです。伝説の二人が来るとリーダーから聞いていたので、すぐ分かりました。それで理解できますか」

 「実をいうと概要だけで精一杯だ。インフィニティ、俺のリンクシステムを彼とグループリンクして、この理論を把握したい」

 「これは凄い、伝説の秘密兵器か。理論は、これは何度もインフィニティの無料相談に行かないと実現不可能な内容だ。俺が解雇になって、彼女を採用したいというリーダーの方針ならば仕方ない。これほどの科学力であれば、脱帽のレベルだ。政府の推薦状が付くし、再就職は困らないだろう」

 「すまないな。俺が直々に弟子として指導する予定なんだ。この理論は色分けすると、このゾーンは学生に対して無償の技術で作られている。彼女が作ったのは、おそらくこの部分だけだろう。でもな、俺が作るとこうなるぞ。これだ。お前だったらどう作る」

 「すごい。私だったらーと言いたいところですが。完敗です。彼女の技術力に追いつけません。これが義務教育連続世界最高位の実力と思うと、これからの日本が楽しみです」

 「せっかくの機会だ。いま仮想空間の使い方が甘いことが分かった。直接指導する。仮想空間はこうやって使うと知性が百億倍以上になるんだ。これで、彼女を超えられそうか」

 「なるほど、ああこう使えば良かったのか。理論と設計図を完璧に理解できた。それなら、俺はこうやって設計する。それでも伝説の科学者には負けるのか」

 「いやいや、インフィニティにやらせると完敗だぞ。インフィニティ、完璧な神の概念を使って、この部分を設計してみろ」

 「神の概念ー、これが完成品。非常にシンプルだ。理論は難しすぎて分からない。設計図はこれで動くのが不思議だ。神の概念ーああ、禁忌技術になっているものか」

 「インフィニティ、ここにお前が作った概念と理論と設計図と完成品をひとつ置いて、作成者は『伝説の科学者』としておけ。お前が作ったことは内緒だ」

 生徒会長の作品の隣にあったスペースに設置された。

 「わ、ずるい。もしかしてズルばかりしているとか」

 「いいや、弟子が尊敬するような物を置いておかないと長期的にみて、俺が苦労する。インフィニティを作ったのは俺で間違いない。部下より優秀、マネジメントの基本だろ。神の概念は天空の城と義務教育の島の防衛システムに組み込まれている。未知の攻撃が来ても絶対に守れる防衛システムだ。必要に応じて使っているんだ」

 「それはそうですね、作成者は内緒にしておきます。防衛システムがそんなシステムで動いている事実に驚きました。このリンクシステムを使って、私のアイデアを支援してもらえませんか。いまの実績だと最下位になりそうなので」

 「そうか、それは大変だ。俺が全面的にバックアップするが、お前が作ったことにしておく。ではリミット解除と思い浮かべなさい」

 「完成。技術登録。えーこれが伝説の兵器の真の能力。推定褒章と報奨金、最下位から平均レベルになった。これで満足です」

 「ああ、これぐらい速いんだ。意識できなかっただろ。理論と設計図を読んでも、たぶん理解できないと思うぞ。どうだ」

 「ええと、難しすぎて理解不能です。設計図はこっちも無理です。もしかして技術登録されている理論や設計図は全部本当は理解してないとか、考えられそうですが」

 「ああ、そうだ。まったく理解してない。道具だけ自分できっちり作ったら、結果がそうなっただけだ。転職した先では、まっさきに道具の開発をするんだな。それから、いまある権限をうまく使え。インフィニティの無料相談で開発や知識を得られるのは今だけだぞ。転職したら、いまの報奨金がすべて吹っ飛ぶぐらい有料相談料金を取られるぞ」

 「分かりました。貴重なアドバイスありがとうございます。有料相談の見積もり、ああ確かに生涯年収をすべて使っても無理ですね。仮想空間は引き続き使えるなら、あとは必要な知識の習得だけです」

 「分かっていると思うが、暗記すると時間が経つと忘れる。牢屋を希望して、その牢屋で知識の習得をインフィニティから指導してもらったほうが良いだろう。牢屋とは時間をゆっくりする時空間技術だ。リーダーに理由を言って申請すれば許可が下りる」

 「ええ、牢屋は時々使っているので知っています。暗記の罠は知りませんでした」

 「それから、毎日、帰宅したら、リンクでインフィニティを呼び出して、今まで学習したことを復習したいと言え。それで義務教育や今まで覚えたことを短時間で復習できる」

 「それ、いいんですか。学生以外は有料なのか。いまは特権でなるほど。では結婚サポートも利用しておいたほうが良いですね」

 「そうだな、特権はあるうちに使っておいた方が良い。研究所の結婚サポートは通常のサポートとは全然違うから、今のうちに相手を見つけておいたほうがいいぞ。結婚したら、もう何も考えなくても幸せな生活が送れるから、心配するな。保証する」

 「そうですか、聞いておいて良かった。究極の大人の玩具はー」

 「あれを使うと女は相手を忘れられなくなる副作用がある。インフィニティの酒でも、それを防ぐ事ができない。ああ、インフィニティの酒、ついでだ体験してみろ」

 「これ水にしか見えませんがー、とても美味しい。抱えていた悩みがすべて消えた。これでも防げないということは、恐ろしい発明品ですね」

 「そうだろ。だけど、結婚生活が楽しくなる発明品だ。保証する」

 伝説のリーダー、

 「そろそろ行きましょう」

 「あそこに戦略ゲームがあるぞ。最高得点を二人で記録しておこう」

 「それ、面白いわね。イカサマのラッシュでー、でも私を抜かないで」

 「分かったよ。神の概念は使わない。そっちは使ったらいい」

 二人の周りには人だかりができていた。女の方は嘘みたいなスコアを出していて現在トップだ。男のほうも負けてはいないが、女のスコアには完敗だ。でも、まだ続いている。

 見ている人達、

 「あれって政府の戦略ゲームではなかったか」

 「あんなスコアを出せるんだな」

 「二人ともコンプリートした。伝説のリーダー、伝説の科学者。ジョークだろ」

 「どうしたら、こんなスコアが出せるんだ」

 「恐ろしいほど完璧な戦略だった」

 お嬢様学校の女子高生達、

 「いま、見ていたけど、凄かった」

 「あれがリーダーに要求される戦略能力、とても驚いた」

 伝説のリーダー、

 「やり過ぎたかしら」

 「前夜祭のこともあるし、威厳は必要だ」

 「そうね、そうしておきましょう」

 伝説のリーダーと伝説の科学者はすべてのイベントや展示物などすべてまわった。しかし生徒会長の姿が見当たらない。

 伝説のリーダー、

 「インフィニティ、生徒会長はどこにいるの」

 「科学者同士で話していたとき、リーダーと話していた相手がそうです」

 「えー、ちょっと全然気付かなかった。いまどうしてるの」

 「伝説の科学者の作品をみて、愕(がく)然(ぜん)としています。理論はどうにか理解できるようですが、設計図が理解できないみたいで、私にいまどういう設計なのか質問の嵐です」

 伝説の科学者、

 「あの理論を理解できるのか。ああ、負けそうな気がする」

 「何をやったの、ああそういうことをしたんだ。師匠がいきなり弟子に負けるなんて失態は絶対に避けなさいね。もっとも、私も管理能力で彼女に負けそうだけど」

 「来る前に入念な準備をしておいた方が良さそうだ」

 「戻りましょうか」

 《研究所》 リーダーは未来に指示を出している。

 「インフィニティ、未来のリーダー達に伝えて、あれより未来には伝えないで。私のスコアを超えなさい。科学者のスコアに負けるようなら、もっと努力しなさい。日頃の成果を学生達にみせてあげて」

 「結果ですが、全員、科学者のスコアに届きませんでしたが、半数はコンプリートできました。元々、誰も遊ぶ人がいなかったので、場所が移されて、多くの生徒達の前でそのスコアを抜こうと必死でやっていました。挑戦しようと並んでいたのは未来のリーダー達だけでした。最高スコアを出したリーダーには報奨金を出しましょう」

 「許可します。最下位はどうしようかしら。ああ、平均点よりちょっと低いだけか。最高スコアはーイカサマやってなかったら負けたような印象がする。どう」

 「はい、百人ぐらい抜かれていたでしょう」

 「ああ、よかった威厳を失ったら、相談者が激減する。秘密は守ってる」

 「はい、神の概念は誰も知りませんから。ただ科学者は何かしらイカサマをやってるなという印象は持っていたようです。でも生徒達の前でそれを口にはしていません。帰ってから、どういう戦略でやっていたのか検証して、論理的な戦法だったので、誰も疑いの気持ちはありませんでした。ただリーダーはゼロタイムにずっといて、戦略を極めていると考えているので、脱帽しているリーダーばかりでした」

 科学者が現われた。

 「早速だけど、新しい研究をしてもらう。あの大人の玩具によって人口が急激に増えていて、地球がパンクしそうなの。それで太陽と月と地球を作る研究に取りかかって」

 「ああ、分かった。コピーすれば済むんじゃないか」

 「それではダメ、太陽は人間に悪影響がある光線がでてる。地球も人間に害のある生き物や植物は排除しておきたい。月を見れば、新しい地球の何番目なのか分かるようにしておいて欲しい。インフィニティに概念は作らせておいたから、それを参考にして」

 「地形はどうするんだ」

 「それは未来の政府に託す。技術だけを作って欲しい」

 「分かった。リンクシステム、リミット解除、オーバードライブ起動」

 暇だったからオーバードライブ機能をインフィニティに作らせたら出来てしまった。なんだこの概念、テストをしてあるような設計だな。まずはミスがないかチェック、インフィニティが作った概念ではないな。

 「リーダー、この概念、インフィニティが作ったものではないだろ。分かるぞ」

 「えー分かるの。なんて言えば、宇宙最高の地球の科学者が作ったもの」

 「テストが済んでるだろ。インフィニティで、この概念は作れない」

 「ええ、テストは済んでる。一を知れば百を知る者達のコンピューターより速く動作するコンピューターで、シミュレーションのテストが終わっている」

 「インフィニティ、彼らのスペックを教えてくれ。・・・・・・。確かに宇宙最高の科学者だな。でも、この程度の概念では不満だ。書き換える許可をくれ」

 「いいわ。要求基準は完璧に満たしてね」

 《リーダーの思考》

 あなた、手抜きをしたの。「いいや、彼のリンクシステムが凄いんだ。性能を比較すると俺のシステムが足の裏にも達しないほどのハイスペックだ」いつの間にそんな技術を開発したのか分からなかった。ああ、インフィニティが神の概念を使って作ったのか。オーバードライブは仮想空間を神の概念で究極に加速する機能よ。「ああ、だから追いつけないのか。ここにはコンパクトな神の概念しか使えない。でもここで同じものを使って動くなら、インフィニティ次世代機を待たなくても、試作機の開発が一気に進むな」進捗状況をモニターしているけれど、あと数分で完成する。

 《科学者の思考》

 想像以上に早く終わりそうだ。ついでにリアルシミュレーターで太陽系を完全再現できるスケールにまで拡張しておこう。あ、そうだ。未来をみて、弟子があの設計図を結局理解できたのか調べるか。やっぱり、このシステムを使わないと、あの設計図は理解できない。弟子は理屈を理解したけれど、設計図の意味までは結局届かなかったか。あいつと弟子は頻繁に話をしているな、俺のことはー、なにも喋ってない。でも戦略ゲームについて、リーダーのイカサマは話したのか。遊んでいった人達は全員リーダー、ああ、俺のスコアにも届いてない。なんで弟子はあいつのことを「はかせ」と呼ぶんだろう。あいつの本物の正体は、ああそうだ思考支援。あいつに思考支援しているのが誰かだ。人間に神懸かりの直感力は無理だ。脳科学を完璧に理解しているから、それが無理な事が分かる。「博士」と名乗る人物が思考支援をしているのか。もし、そんな人間がいるとしたら、リーダーも俺もインフィニティだけでない、あいつも騙されている。全員が欺かれている。でも日本最強と世界の恒久平和は実現するという揺ぎ無い信念を誰もが持っている。リーダーの日記にアクセス可能になっている。「内緒よ。そこまで理解が進んだのなら神様に、俺のリンクシステム使い方を間違えるなよと思い浮かべなさい」

 「神様、俺のリンクシステムの使い方を間違えるなよ。説明書をいま書いた。間違えると発狂するからな注意しろよ。リミット解除する前に説明書の内容を完璧に把握していないと開発が思い通りに進まない。それから、あいつの思考支援は誰がやっているんだ」

 「ありがとう、感謝する。思考支援は俺ではない。インフィニティでもなく、黒子でもない。私もその事については知らされていない。君は確かに過去の時間に干渉する技術を世界で初めて作り上げた。その後の世界の果てに日本最強の科学者が誕生したことは知っている。それが人間なのか、コンピューターなのか、本物の神なのか分からないのだ」

 「本物の神。あなたは自称神様か。俺が考えた次世代のインフィニティの概念だ。説明書と同じ場所に置いておく。ただ仮想空間の中では本来の性能が出ないだろう。リアルシミュレーターの中では確実に動作した。もし、そこが仮想空間の中なら、リアルシミュレーターで確実に動く選択をしたほうが良い」

 「なるほど、それならここでもやれそうだ。感謝する」

 リーダーの日記に俺が追記する。「大丈夫、すべてフォローした」リアルシミュレーターのほうが先にできたか。地球は完成、月は完成、あとは太陽と配置方法だけだな。配置方法はインフィニティが考えれば済む、太陽をどうするか。太陽のオリジナルとまったく同じものは作れた。どういう仕組みか完璧に理解できている。人間に害のある光線のリストはこれか、シミュレーションによると未来になるほど、その影響力が増してくるのか。だから除去しろと。完成したら太陽も変えろということか。頼みの綱、あいつに聞くか。

 世界最強の被害者、

 「なんで小説が書けないと思う。リーダーや君らの会話から小説を書こうとしたら挫折した。昨日まで、しっかりストーリーがあったんだ。でも突然、書けなくなった」

 「それは設定を作ったから書けなくなったんだ、きっと。いま太陽を作っているんだが、人間の害のある光線をカットする方法が分からない。どうしたら良いんだ」

 「えーと、たぶん宇宙を作ったのは日本人だぞ。そうでないと技術のつじつまが合わなくなる。本当に害のある光線なのか調べてみたのか。英語表記で表現されている光線の名前をお前なりに日本語に変換してみろ、すべてその光線には意味がある。未来になれば害が本当に大きくなるのか、その理論は日本のものか。過去の日本人はどうやって分析していたか調べてみたか。それで、太陽をどう改良すればいいのか分かる。最初に宇宙を作った人間は今ほど環境が優れていなかったのだろう。お前ならできるはずだ」

 「分かった。日本人が宇宙を作ったのか。面白い発想だ。ありがとう」

 すべて日本語に変換してみる。インフィニティの力を借りて推定される本来の用語を列挙、本当だ。日本語なら曖昧な表現ではあるが完璧に意味が分かる。ということは、害を成すという理論の出所を調べてみるか。またアメリカかよ、えーとアメリカの産業が儲かるように仕組まれたのか、このリンクシステムを使えば裏で何をしたのか簡単に理解できる。そうなると、光線のすべては問題なしか。ああ、分かった。未来に解決できるだろうと予想して、この問題を放置したのか。そうなると、太陽の設計図は少し変更しなくてはならない。しかも光線をすべて現状維持のまま。そうだ過去の日本人の研究をすべて調べよう。ああ、この方法を使えば可能だ。

 「インフィニティ、完璧な神の概念でリンク接続、サポートしてくれ」

 意識への接続停止。酒を飲む。あいつを思考支援してるのは万能の知識を持っている。未来の完全予測か。小説の話をしたかと思ったら、瞬時に思考が切り替わった。思考支援されているのは間違いない。リーダーは知っているだろうな。リーダーからメッセージだ。「いい、絶対発言しないで。ここを見張っているスパイに気付かれるから。どうしても無理なら、記憶を消す強硬手段を取るから。もう情報のコントロールはできるでしょう」「ああ、できる。前夜祭は完璧だったと思う。スパイがいる前提で話すよ」「ありがとう」なるほど、リーダーが情報を隠すのはスパイがいるから、でもどうやって。インフィニティ、教えてくれ。えー、そんな技術があるのかよ。スパイを見つけられないし、スパイは無敵だし、それで極秘か。でも思考までは読めないのか。ああ、あの技術でプロテクトをかけてるけど、突破された想定で必要と、理解した。それで光線のうち、意味不明だったこれはスパイ対策だな。月が反射して照らして行動を制限しているのか。それなら宇宙を作ったのは日本人しか、考えられない。

 インフィニティ、

 「設計完了しました。最新のリアルシミュレーターで理論通りに動くことを確認しました。早速ですが、太陽の作り方は完全に把握したので、新しい太陽の実証実験に入りたいので、リーダー、許可を下さい」

 「許可します」

 インフィニティはゼロタイムを使い、神の概念で太陽を消滅、新太陽を創造した。ゼロタイム解除。理論どおりに結果がでていることをリーダーに報告した。

 《現代》 世界最強の被害者は寝ていた。

 連日、未来から助言を求められるので朝まで起きていることが多く、昼間はずっと寝ている昼夜逆転が起きていた。

 「インフィニティ、なるべく俺の昼間になるように調整してほしい」

 「はい、何度も警告しているのですが、聞いてくれません」

 「分かった。リーダーにリーダー権限を俺の権限で剥奪すると伝えろ。もうお前は用済みだ。なぜなら、すべての質問を俺が受けているからだ。インフィニティ、そうだろ」

 「はい、その通りです。では脅してきます」

 リーダー、

 「ごめんなさい。インフィニティ、どういう質問が彼に集中しているのか教えて。質問と結果のまとめ、その応用について教育案をまとめて次の全員に必須課程としなさい」

 「はい、そのとおりに致します」

 「昼夜逆転すると、完全に病人の生活だ。深夜は黙々と話を聞くだけに集中しなければならない。それから、指示が甘い、今後インフィニティの警告を無視した場合は牢屋時間で五千時間の始末書を書き続けることぐらい命令してくれ。それから科学者が暇そうだな。質問の前に彼に問題を振ってみろ、それで解決できない問題は引き受ける」

 「分かった。あなたの権限が上だから、そうする。インフィニティの警告って何、私の命令を無視したのか。それに限って始末書です。これは伝承しないこと」

 科学者、

 「ほとんど俺だけで解決できる問題だから、リーダー、俺に振ってくれ」

 「それから世界最強の被害者になぜ質問が集中するのか、リーダー、そうなった背景を徹底的に調べろ。結果には必ず原因がある。ああ、戦略ゲームのジョークは関係ないぞ。もっと他に原因がある。複数の原因が重なって仕方なく起きているから、緊急事態に備えて睡眠時間をコントロールしているから、くだらない質問で起こされるのはきつい」

 「分かった。原因を徹底的に調査する」

 俺はいつもどおりにランチメニューを食べに行く。コンビニのほうが安く済むが、昼間ぐらいは美味しい食事を食べないとやっていけない。車で五分の場所だ。午前十一時半で駐車場がいっぱいになる人気店なので、午前十一時きっかりに昼食に行く。

 駐車場に入り、オートマチックのアクセルなしの速度で、ブレーキを使いながら、駐車場に停めようとした瞬間、脳が乗っ取られた。エンジンが急速に回転が上がった。足はブレーキの位置にある。なぜだ。ぶつかった。店の看板が曲がってしまった。

 「インフィニティ、何をやってるんだ。完璧に攻撃を防げと言っただろ」

 リーダー、

 「敵の攻撃を予測できなかった。いま急いで、どういう攻撃だったのか調べてる」

 「脳干渉と車載コンピューターへの干渉を約一秒行われた」

 食事をしてから考える。店の看板を壊した、どうしたらいい。とりあえず、自動車は修理に出した。代車で慰謝料を用意した上で、ピン札でなければならない。でも、どの銀行も開いていない。今日は何曜日だ。昼夜逆転が起きると訳分からなくなる。銀行の五つもATM行(あん)脚(ぎゃ)してピン札を揃える。五万円あれば十分だろう。でも新券ではない、失礼にあたらないだろうか。中華料理店で中国人が働いている、日本人は無礼だと思われるのがとても嫌だ。今日は動揺していて、とても謝罪する気分になれない。

 リーダー、

 「そんなに心配しないで、真摯で誠実な謝罪があれば十分よ。常連なんでしょう」

 「でも店の看板を壊した。直す金は用意しておかないと、俺は納得できない」

 《現代》 翌日の午前十一時。

 代車で店を向かう。看板の前で子供が見張っている。駐車場に車を止めた後。

 子供に向かって笑顔でー

 「こんにちは」

 すぐに看板の下に散らばった衝突の残骸を素手で拾う。鋭利だから、時々手から血がでてくる。それでも、以前の状態に戻さねば気がすまない。もう両手が血で真っ赤に染まっている。あと少しだ。手の痛みより、店の看板を壊したという重い責任のほうが辛かった。そして、封筒を手にして、謝罪に行く。

 「ごめんなさい。店の看板を傷つけたのは私です。これを受け取ってください」

 「いいの、手を洗ってください。気持ちだけで十分です」

 手を洗って、おしぼりで手を拭くように差し出された。細かい傷だったのですぐに止血できた。厨房に向かって、一礼した。そうしたらー

 「食べて行きますか」

 「はい、台湾Aでご飯を半分でお願いします」

 とても優しい人達だ。

 リーダー、

 「私の言ったとおりだったでしょう。自動車に完全なプロテクトをかけておいた。あなたの親の会社は自動車関係だから、事故が駐車場で良かった。修理費用も安く済むようにしておくから、いま格安の中古パーツで手に入るように手配した」

 《現代》 それから数日後。

 自動車修理費の請求費用が来た。五万円。これで格安パーツを使ったのか、いちおう自動車整備会社に概要を聞いてみる。すべて中古の格安パーツを使ったけれど、再塗装代などでその値段なので、安いほうだと聞いた。リーダー、安ければいいってものじゃないぞ。トータルで安くならないと意味が無いだろう。

 元生徒会長、

 「博士、就職先で相談があるのですが」

 「みんな右側のコーナーに行ってるだろ」

 「はい、高待遇の仕事が並んでいます」

 「左側で、一番小さい求人広告を探せ」

 「ありました。あなたを採用しますと書いてあります」

 「他の人には何も書いてない白紙に見える特殊な広告だ」

 「これでいいのですか」

 「ああいい、その広告に触って、承諾と思い浮かべろ」

 「はい、承諾」

 《未来の研究所》 元生徒会長が研究所にテレポートしてきた。

 未来のリーダー、

 「ここは政府の究極に秘密の研究所よ。科学者の承諾に感謝します。ああ、あなたは両親がいないのか、転生組なのね、特別な宿舎を用意します。まず、政府から高校改革を学生の身分で行った事に対して、名誉市民一級が授与されました。これであらゆる企業、国に対しても政府公認の人間となりました。それから科学者の引継ぎをこれから行います」

 元科学者、

 「君の文化祭での作品を見せてもらったよ。それから観察した。インフィニティが極秘技術の神の概念で設計した理論をよく理解できた。あれは私でも理解できないものだ。いまから開発の手法などすべて教える。終わった。IQを八百万倍に引き上げる。これならば、あの設計図をインフィニティからの説明で理解できるかもしれない。どうだ」

 弟子、

 「はい、完璧に理解しました。インフィニティ、ここは・・・・で、こういう表現でなく・・・・とすれば、先輩に理解できると思います」

 元科学者、

 「やっと理解できた。たぶん師匠を超えたぞ。実際に会ったけど、プライドがすごく高いから、簡単に理解した、絶対に言わない方が良い。三回目にやっと理解できたというぐらいでいい、その時になって問題を見つけたら指摘したほうがいい。それから、師匠がいる時間は止まっている事は絶対に内緒だ。伝説のリーダーの厳命だ。いいな。師匠から聞いたが、秘密のリンクシステムを使っている。インフィニティによると、インフィニティの最高スピードに匹敵するそうだ。師匠を超えたいならば、開発機材を改良して使いなさい。それから内緒だけど、師匠は技術をまったく理解してないが、発明の天才だ、この意味分かるか。リンクシステム、リミット解除、最高速」

 「これが開発機材ですか、技術がどんどん列挙されていますが、理解できません」

 「そうだろ、改良したらそうなった。歴代の科学者も理論は覚えていないと思う。ただ発明だけは完璧に行ったのだ。それで褒章と報奨金をもらっている。だから師匠に理論の説明を絶対に求めるな、すぐに理論が分かっても素通りしたほうがいい」

 「分かりました。師匠には既に会っています。女だと知らなかったみたいで、かわいかったです。なるほど理論など面倒な部分は開発コンソールに任せて、発明だけを行うのですか。理解しました。師匠への対応も大丈夫です」

 未来のリーダー、

 「では高校に戻りなさい。同級生には政府機関に採用が決まったとだけ、研究所と一言も言わないように、スパイが暗殺に来るから注意して。高校の寮にあるものは、すべて特別宿舎に用意しました。条件が高校からあるのですが、名誉市民一級を得た、あなたの部屋を永久に保存したいという意向があります。受けてもらえますか」

 「はい、大丈夫です。あとは『リンク、研究所』『リンク、特別宿舎』でいいのですね」

 「そうです。では、高校に戻りなさい」

 弟子は消えた。

 《お嬢様学校》 全員が政府機関や会社への内定が決まっていた。

 「あなたはどこになった」

 「政府機関、それ以上言うなって指示された」

 「あのイカサマのお陰でみんな高待遇よ」

 「結局、全員、あれを使ったの」

 「いいえ、一年生は全員、あなたの秘伝の書で勉強している」

 「そう、書いておいて良かった。インフィニティのあの方法は一時的な対処にしかならない。みんなに伝えておいて、収入の三割を使って有料相談所で知性を維持するように、そうしないとたぶん会社の落ちこぼれになると伝えて欲しい」

 「分かった。生徒全員に伝えておく。これだけ待遇が高いのなら三割減っても余裕よ」

 《お嬢様学校の寮》 弟子は展示に備えて準備している。

 「博士、師匠にどうやって会うのですか」

 「通信技術がある。本物そっくりに物理干渉を行うフルゴーストという技術があり、それを検知する装置がある。まず行く前にフルゴーストを検知できない新しいフルゴーストを作りなさい。それでタイムトラベルすると伝説の科学者に伝えて、特別宿舎で時間を同期させればいい」

 「なぜタイムトラベルの嘘が必要なの」

 「あいつはいま自分に酔っている。タイムトラベルの技術は無い。危険だとインフィニティが判断したことにしろ、インフィニティ、命令だ。あいつは俺に甘いところがあったら、厳しくするように言ったからだ。指示通りに行いなさい」

 「分かった。そうしてみる」

 弟子は分からなかった設計図の作り方について、分かりやすい内容で丁寧に説明書を書き上げた。それを高校のデータベースに登録しておいた。あとは見つかると恥ずかしい物を処分しておかないと。もしかして、既に特権があるのかもしれない。「インフィニティ、特権や権限について把握したい」目の前が一瞬光った。面倒だから「私のイメージ通りに模様替え、完璧にして、以前の状態は特別宿舎にそのままで」一瞬で模様替えが終わった。明日は卒業式、結局、私が代表か。義務教育時代の代表挨拶に比べれば、プレッシャーは無いけど、首席卒業と名誉市民一級と高校改革を成し遂げてしまった。

 コンコン、ドアを叩く音がする。

 「どうぞ」

 「あれ、なんでこんなに綺麗なの」

 「名誉市民一級の栄誉を得たから、学校が保存したいって」

 「それで綺麗なのか。前のほうが努力している感じがあったのに」

 「そう、それなら、戻す」

 一瞬で戻った。

 「なにをしたのか分からないけど、このほうがいい」

 「ああ、それから設計図の中身がやっと分かった。あなたも科学者を目指すのでしょう。理解しておいたほうがいいよ」

 「あれが分かったの。どこに配属になったか予想できた」

 「ダメ、いい、暗殺される危険があるからダメだって言われてる」

 「もう確定。私だけの秘密にしておく。話したら国家反逆罪で二百年の懲役だって、私も脅された。あなたは」

 「なんにも脅されてない。歓迎されてた」

 「ああ、もしかして秘密のああ、それなら納得。たぶん見えない監視コンピューターが付いてる。私も見えないけど監視されているの」

 「インフィニティ、この話は本当なの」

 インフィニティ、

 「二人とも政府機関ですので話せますが、犯罪に巻き込まれない防衛システムです。それから汚職の摘発にも使われます。汚職したくなるほどになったら、無料相談所で相談に来てください。なんとかします」

 「ありがとう」

 「そんな特権まで付いてるんだ」

 「あなたもある。『リンク、重要機密、インフィニティ』と思い浮かべるだけで、インフィニティの無料相談が使えるはずよ。まず仮想空間の基礎と応用についてもう学習しているかな。義務教育を覚えているうちにやっておかないときついよ」

 「あ、本当だ。小学一年生、ああ教育完了。全員に伝えて大丈夫。卒業して社会人確定なら使えるけど、大学に行く人は使えないのか。私から伝えるとー」

 「分かった。私が伝える。インフィニティ、許可が下りる人を対象に私の声で仮想空間の基礎と応用について無料相談所で入社前に追加教育を受けて、と伝えて欲しい。ああ、そうだ。この部屋に仮想空間の基礎と応用について無料相談所で追加教育を受けたと日記に書いておこう」

 「ナイスアイデア。それなら問題ない」

 《リーダーの特別宿舎》 神様と話している。

 自称神、

 「どういう攻撃があったのか把握した。仮想空間を通過して攻撃を受けた事が分かった。それですべての仮想空間に彼らが作ったプロテクト技術を施した。しばらくは声が聞えないだろう。最終フェーズに入る前までに犠牲者は増えるが、声が聞える人数を増やす事によって、彼への攻撃を軽減させる」

 「統合失調症の患者を増やすということ、でもそんなことしたら、診断によっては一生薬漬けの生活よ。それがあの時代、どれほど苦しい副作用が起きるか分かっていて言ってるの。やる前にどういう副作用が起きるのか確認して、それでもやれるのならー」

 「分かった。こんなにひどいのか。人間の感情を無理矢理奪われる感覚だな」

 黒子、

 「その方法は愚策だ。彼ですら、医者への報告をコントロールして薬の処方量をコントロールしているのだ。普通の人間なら、その十倍の副作用を体験するんだな」

 「これは死にたい耐えられない。これが一生なのか」

 「ああ、そうだ。彼は減らせているが他の人間には無理だ。だから他の方法にするべきだ。仮想空間の定義を変えたほうがいい。あとでこの問題を全員で解決しよう」

 「定義を変える。そんな方法があるのか」

 「ある。仮想空間を作るとき、俺の悪知恵で無理矢理追加させた。すべて任せろ」

 「妙なことをするなよ。彼にあまり負担をかけるな。もう、普通の尺度ならば、いつ自殺してもおかしくない、ひどい状況だ。あれに耐えることが奇跡と思うほどだ」

 「自殺はできない。彼は母の教育によって強烈な暗示がかかっている、消せないだろう」

 リーダー、

 「定義を変えることに承諾する。危険は承知よ。実空間のあの罠をかわす方法は黒子、あるの。私だけに教える。えーそれが真実なら全員騙されてる。分かった承諾する」

 「黒子に任せよう。試作機は完成した。いま知性の根源を教えている最中だ。今の件について秘策が既にあるそうだ。黒子、インフィニティのリンク、許可しよう」

 黒子、

 「恐ろしい軍事兵器を作ったものだ。これがあれば神ですらも対抗できないだろう。ただ、そのままでは欺くのが難しい。秘策を考えておく。みんな騙すからな」

 《王直属研究所》 夢の発電システム開発の最終段階に入っていた。

 所長、

 「あともう少しだ。信頼性などは完璧。あとはどの空間でも絶対の安全性だけだ。シミュレーターではどんな物理法則の条件変化が加わっても、一定以上の変化が起きない限り宇宙の破滅は免れる。しかし一度でも発電システムが壊れると、一瞬で宇宙は崩壊する危険がある。王に相談するべき内容か。みんな、どう思う」

 「王の秘密研究室を使わないと分からない内容です。あそこであれば、完璧な検証が可能です。王を呼びましょう」

 「分かった」

 「王よ、宇宙人から依頼のあった発電システムの最終チェックをしたい」

 王と側近がやってきた。

 王、

 「すべてを把握している。宇宙人の予言者、世界最強の被害者を呼び出そう」

 側近、

 「分かりました。それが最善と考えます」

 世界最強の被害者、

 「わずかな異常を見つけた瞬間に、すべてを再構築するだけだ。だがゼロタイムを使うと宇宙が消滅するんだろう。それは誤りだ。ゼロタイムは原因と結果の概念を無視する技術、だがその定義が書き換えられたとき、その瞬間に宇宙は終わる。私達は提供しなかったが歴史改竄防止技術というものをさらに発展させて、あらゆる問題を根本から無くしてしまえば良い。インフィニティ、どうしても必要だ。技術を伝えなさい」

 王、

 「いま、その技術が届いた。私には理解不能だ。お前は分かるか」

 側近、

 「私でも自信が無い。こんな途方も無い技術は確かに危険すぎる。危険指定で研究させたほうが良いでしょう」

 「分かった。危険指定で研究し、あらゆる問題の概念を覆し、動作させるのだ。それが完成したら全員で、あの空間を使わせる権限を与える。ただ願いによっては死刑だ。いいな。それが王に課せられた責務だからだ。願った瞬間に先に約束された願いによって、死刑が待っている。お前がその実験に立ち会ったほうがいい」

 側近、

 「分かりました。所長、最終テストの段階が来たら私に伝えなさい。その発電システムが完成したら、我々の生活は著しく向上するだろう。では、頼んだぞ」

 王と側近は立ち去った。

 所長、

 「いま技術の詳細を見たが、恐ろしい技術だ。時間という因果律を覆す概念を持ち、その空間を保護する。宇宙人の技術を超えたと思ったが、我々はまだ彼らの足元にようやくたどり着いたような気分だ。全員でこの技術を発展させて、あらゆる概念を覆し、空間を保護する技術を完成させよう。また些細な問題が発生した場合、一瞬で再構築するように、これは簡単そうだ。では、みんな頑張ろう」

 《研究所》 リーダーと科学者が話している。

 「いまインフィニティから報告があったけど、ちょっとでも異常が起きると宇宙が消滅するそうよ。それであらゆる概念を覆して保護する空間を作るそうよ。あなたできる」

 「歴史改竄防止技術の発展、リミット解除、オーバードライブ起動。どういう概念をプロテクトすればいいんだ」

 「そうね、定義を無効化して」

 「ちょっと待て、そんな事ができるのか。今までの命令で最高に無理な内容だ。俺だけでは自信が無い。悔しいが弟子が来たときに共同開発できないか」

 「そんなに難しいの」

 「ああ、停止状態で動かない。今までの方法では無理だ」

 「分かった。弟子がいま、タイムトラベルの技術を作ってるから、それで直接リンクしてやりましょう」

 「タイムトラベルだと、そんな事が可能なのか。これも停止だ。悔しいが弟子に期待しよう。いつ来るんだ」

 「今よ。インフィニティ、いま来るように伝えて」

 弟子がテレポートしてきた。

 「やった。成功した」

 科学者はフルゴースト検知などあらゆるスキャンで本物か、分からないように行った。

 「ようこそ、タイムトラベルは俺には無理だ。今から、共同開発をしながら、俺のやり方を教える。インフィニティ、俺と同じリンクシステムを用意、インフィニティは完璧な神の概念でサポートしろ。それから仮想空間にはコンパクトな神の概念をすべての脳に相互接続、弟子よ、準備はいいか」

 「師匠いいですよ」

 「リミット解除、オーバードライブ起動。時間改竄防止技術を定義の無効化という概念で空間を保護する技術だ。インフィニティ、弟子、俺、相互接続、最高速。酒を飲め、意識が耐えられなくなる。それを飲んだら意識を遮断。よし、いいな」

 「師匠の作った設計図やっと理解できました。説明がややこしかったので、私なりに書き直しました。これで合っていますか」

 「ああ、合ってるが、この部分はちょっと違う。ちょっとした表現の違いだ。どこが違うか分かるか」

 「えーと、これを使っているので、なぜ違うのか分かります」

 「このリンクシステムは一を知れば百を知る者達の脳を仮想空間に展開して、その頭脳を最適化して動作するものだ。それに加えて、この時代の賢者達の脳、そしてリンクしている者の脳を五万のクラスターで接続している。リミットは一を知れば百を知る者達の脳を使うかどうか、オーバードライブは仮想空間の速度を限界まで速くした。ただ完全な子供の発想の概念はインフィニティから提供されている。設計図はこれだ。素直に正直に改善点を教えて欲しい」

 「師匠、きついかもしれませんが、問題点が百万以上見つかりました。すべて改善させた設計図があります。インフィニティ、正確かどうか確認して欲しい」

 「はい、これに変えたほうが良いでしょう」

 「分かった。変えてくれ」

 《師匠の思考》

 やっと概念の構築がスタートした。どういう問題点があったんだ、ああ、弟子は頭がいいな。俺より問題対処能力が異常に高い。

 弟子、

 「リーダーも参加してくれませんか。参加可能な人間すべて、仮想空間の脳だけでは技術の限界があります。直接リンクしたほうが未知の技術に対応できます」

 「分かった。D級パス以上の保有者に命じる。いまから未知の技術を開発するため知恵を借りたい。いまから日本最高のリンクシステムを接続する。インフィニティの酒を飲んだら、意識を遮断するから、引き続き、仕事は継続して良い。安全性は保証する。すべての人間か、未来のすべてのリーダー、オペレーター、科学者も参加すること。以上」

 インフィニティ、

 「全員承諾しました。全員にインフィニティの酒を与え、意識を遮断しました。また私の判断で、未来のD級パス以上の保持者にも要請、全員の承諾を得ました」

 《弟子の思考》

 これが日本最高の技術、伝説の科学者が作り上げた技術か。師匠には悪いけど伝説のリーダーからの指示では逆らえない。定義を無効化する空間、実現できるの。定義の無い空間が存在して、その中に人間は存在できるの。それでも、理論の構築が始まっている。すべての時間のインフィニティがサポートしている。こんなの軍事兵器レベルではない。神の力があるとしたら、神の兵器に匹敵する。定義の無効化が必要なの。リーダーから説明があった。ここは仮想空間の中、仮想空間の定義を書き換えるから、どうしても必要になっているのか。今まで過ごした世界は仮想空間なら、この発明者はー日本人なの。すごい科学者だ。なぜ歴史改竄防止が可能だったのか、今それが分かった。仮想空間の特殊プロトコルに依存してなかった。すごい。師匠の頭脳だけで作ったのか。世界の物理法則が完璧に理解できた。そうであれば、ここはこうしないと空間内の人間と物体は存在できない。やっと意見ができた。私より頭の良い人がいっぱいだ。師匠はもう十回も意見している。理論は理解できないが発明はできる、その意味がやっと分かった。

 《科学者の思考》

 十回もインフィニティに助けてもらった。こんなの理解不能だ。ただ全体の進捗状況を確認するしかできない。弟子は一回だけでも、重要な部分を発明した。俺はまだ一回も、ああそうだ。イカサマしよう。インフィニティ、あいつの寝ている時間に内緒で意見を借りて俺の発言にしてくれ。百回以上、待て、それだと分かる。素直に世界最強の被害者が参加した事に修正。一気に理論構築が進んだ。あいつの思考支援をしている人間は宇宙最高の天才だろう。これが日本最強の軍事兵器いや、幻想兵器だな。仮想空間の終わりまでの人間を完璧にリンクする、これは普通の発想では考え付かない。

 《リーダーの思考》

 結局、あいつの試作機を参加させた瞬間に一気に理論構築が進んだ。それでも定義の無効化空間なんて技術を実現するのに、ここまでやっても、すぐに終わらない。世界を作った創造主に対する反逆、やることが無茶すぎる。でも黒子の指示なら仕方ない。権限は低いけど、逆らうと何が起きるか分からない。一部の定義の無効化空間まで実現できた。求めるのは完璧な無効化。

 「師匠、そろそろ全体の思考の最適化を指示したほうがいい」

 「そうだな、インフィニティ、最適化実行」

 「終わりました。現在の状況ですが、定義は存在しますが、定義したものは無効化する概念までは完成しました。これがベストと判断します」

 「分かった今度はリアルシミュレーターで実証する技術を作ろう。またリアルシミュレーターに問題があれば、あわせて改善する。リンクシステムと仮想空間もこの際だ。すべて改良しておこう。こんな機会はなかなか作れない」

 「正しい判断です。終わりました」

 師匠、

 「それでどれぐらいスペックが上がったんだ。今までが足の裏か。弟子以降の技術者は使ってよいことにする。そうしないと歴史が変わりすぎる可能性がある。リーダーの判断は、どうだ」

 「ちょっと待って、考える。『それでいい』。インフィニティ、彼女以降の科学者は利用してよい。ただし、インフィニティが科学者の限界と判断したら使いなさい」

 弟子、

 「本当に完成させてしまうとは凄い体験だった。師匠の技術がベースになっていることに感動しました。定義は存在しても、無効化できるのなら、自由自在に定義を書き換えられる。核爆弾を紙爆弾にすれば紙で作られた爆弾になって意味不明だ。従って存在できなくなり、消えるのか。究極の兵器だ。いったい何に使うの」

 リーダー、

 「この時代では使わない。未来の果てで必要だったから作ったの。これで世界最強の被害者を完璧に保護できるようになった」

 師匠、

 「ああ、その為に、ここまでする必要があったのか。確かにそうでなければ、無理だろうな。多層世界の攻撃を完璧に防ぐには、定義を無効化し、存在を消滅させなければ」

 弟子、

 「多層世界、インフィニティ、教えて、ああそういう技術が存在するのか。師匠から学ぶべき事はたぶん理解できたと思う。師匠、本当にタイムトラベルか確認して欲しい」

 「え、最新リンクシステム起動、ああ、リーダー、余計な演出するな」

 「私ではなく、世界最強の被害者の命令よ」

 「・・・・・・・、あいつにはかなわない。タイムトラベルしたら、存在が消滅してしまう。この研究していて、なにかおかしいと思ってはいた。不問とする。教えるべきことはすべて教えた。このリンクシステムを使ってよい。あいつが予言した産業革命をやってみせろ。ここから、弟子の活躍を見ている。元気でな」

 「師匠、可能であれば私の発明を追い抜いてください。失礼します。ありがとう」

 弟子は消えた。

 「すごい天才だったわね。インフィニティがフルサポートしなければ、欺けなかった」

 「俺もそうだ。インフィニティに事前に指示しておいて良かった」

 「途中から急激に速くなったけど、彼ではなく、神の試作機よ」

 「ああ、そうでないとおかしいと思った。どうやってリンクしてるのか不明だったし」

 「想像以上に速かったでしょ。彼らの星の最高のコンピューターの十倍以上の速さなの」

 「それで異常に速くなったのか。でも彼の仕業と思い込んでいるはずだ」

 「いいの、そう仕向けた。何か悩んだら彼を頼るでしょう。他の悩みはすべてこちらで対処するから、このリンクシステムを使って解決していきましょう」

 「それなら楽勝だ。これであれば、どんな不可能も可能にできそうだ」

 「インフィニティです。一を知れば百を知る者から技術が完成したと連絡があり、理論は開示不可で実現方法だけが提供されました。開示は王の危険指定で絶対に無理です」

 リーダー、

 「すべての発電所を停止撤去させて、それに置き換えて電力を供給して下さい」

 「分かりました、交換完了しました。最大出力に対する使用量は一パーセントにもなりません。まったく使ってないのと同じです」

 「分かった。電力会社にインフィニティ、なにか上手な説得と交渉材料を考えて、解体させなさい。それが終わったら、大統領に電気代を無料にする法案を作らせて」

 「そうしない方が良いです。電力会社はインフラ整備のみに特化して、過剰請求分は政府の税収にしたほうが良いでしょう。またアメリカは現在においても深刻な電力不足に悩んでいます。提供して良い時代に大量に設置して、電力事業をアメリカで推進させたほうが日本の国益になります」

 「・・・・、『それでいい』。分かった、それでいい。任せた」

 《とある未来の大統領官邸》 ナインが説明している。

 ナイン、

 「大統領、いまから言う政策をT級パス保持者からの命令で実行するように指示されました。完全にブラックボックスの発電システムを無償でアメリカへ提供する代わりに、包括的な協力関係を築くように指示されました。日本はその発電システムを使っていますが、使用量はまだ一パーセントに届いていません。アメリカに電力の販売を行わせる事で、現在の税収を増やす内容です」

 「どんな発電システムか、守秘義務は守る」

 「永遠に吸い込む概念と永遠にまわり続ける水車によって永久機関での電力供給が可能となりました。ただ一度でも破損すると宇宙が消滅しますが、安全性は保証されています」

 「・・・・・・、宇宙が消滅、ブラックホールみたいなものか」

 「はい、そうです。日本人が考えたものを宇宙人に委託して作らせたものです」

 「宇宙人について聞きたい」

 「一人の頭脳がインフィニティに匹敵する宇宙人です。現在、非常に親密な友好関係にあります。彼らは絶対に安全と言って、彼らの星でも使われています」

 「それなら、友好関係を築くのが大変だっただろう」

 「はい。大変でした。歴史改竄前は三度にわたり人類は滅亡したそうです」

 「分かった。アメリカに完全ブラックボックスの発電システムを大量に無償提供して、その電力収入で税収を支えるようにすればいいのだな。インフィニティ、自信がないからフルサポートしてほしい」

 インフィニティ、

 「分かりました。私の分身の新しい技術のフルゴーストで説明を行います」

 「ああ、新しく作ったのか。一人で行けということか」

 「はい、極秘事項です。大統領の服にそれを実現する微粒子のインフィニティを三十以上、補足不能でセットしておきます。服を脱げば下着に移動します。絶対安全です」

 「分かった。天空の城と同じ防衛システムが守りつつ解説するということか」

 「はい、完璧です。ではいまセットしたので、まわりを見渡してください」

 大統領が見渡すと大量の軍事兵器の銃口が向けられていた。

 ナイン、

 「あなたに暗殺命令がでています。覚悟してください」

 でも大統領は動じなかった。意味を理解していたからだった。

 銃音がした瞬間にすべての武器は消滅していた。

 「ああ、もういい。理解した。歩く天空の城か、すごい技術だ。設置はどうする」

 「地図で、どこに発電システムの拠点を置くのか指定されたら、日本宛に設置指示を出して下さい。発電量は自動調整でメンテナンスフリーで宇宙の終わりまで使えます」

 「そんな夢のようなものを日本は使っているのか、あれは嘘か」

 「はい、すべて嘘です。もう永久機関の発電ですので、インフラの整備だけで済むので電気代は安くなるはずですが、すべて政府の税収として徴収しています」

 「T級パス保持者の考える事は恐ろしいな、いまのは侮辱ではない。分かった」

 《弟子の研究所》 弟子は産業革命について考えていた。

 博士の言う産業革命を私がするんだという事は分かった。でも何をどうしたらいいのか、全然分からない。これだけ世界中が豊かであれば、産業革命は必要ない。それでも必要って、何か問題点があるのだろうか。あの研究で博士は百以上の発明を行った。やっぱりすごい。博士に聞いてみるか。

 「博士、なにをしたら良いか困っています」

 世界最強の被害者、

 「そうだな、手始めに娯楽の改革をやってみたらどうだ。ナイトクラブはあるだろう。酒はある。でも酒を飲んで踊ると健康に負担がかかる。問題だろ。インフィニティの酒を飲んでみろ許可する。お酒の成分をできるだけ抑えた『ダンシングプラス』と酒なしの『ダンシング』というナイトクラブ専用の飲み物を作ってみろ。ただ平静時に飲むと非常に不味い飲み物で、三十分以上身体を動かしてから飲むとインフィニティの酒に匹敵する効果と幸福感に包まれる。ただ『ダンシングプラス、ダンシング、ダンシング』もしくは『ダンシング、ダンシング』という飲み方でなければ二日酔いになるようにトラップを仕掛けておけ。それでまず業界に販売許可を必ず取れ、平静時に飲ませて許可を取るんだ。そして有名ナイトクラブで、試飲会を開いて、お前が踊ってアピールしろ。義務教育で踊りがうまいダンサーの知り合いぐらいいるだろう。彼らを招いて、それを日本中に広める事」

 「まず夜の娯楽を増やせということ。でも踊れないよ」

 「インフィニティに、リズムが完璧にあった踊りと、リズムを少しずらして完璧に踊る映像を比較して、どっちがかっこよく見えるか確認してみろ」

 「えー、リズムがずれてるほうが、かっこいい」

 「そうだ。インフィニティから牢屋でリズムをずらしても完璧に踊る方法をマスターするのが、一番簡単だ。完璧に合わせるならば酒は飲めない。そうだな、ナイトクラブでダンシング体験した全員に、その練習プログラムを無償提供するのはどうだ」

 「面白そう。ナイトクラブは私を知っている人ばかりよ。もしかして世界中に広めるの」

 「その通り、全員顔を知っているのなら、私の発明品と言えばすんなり広まる。お礼に練習プログラムを渡せば、ダンシングプラスも売れていくだろう」

 「分かった。気をつけなければならないことってある」

 「インフィニティの指示通りの順番で販売を開始すればいい。すべての国をまわるのは時間がもったいない。最新のフルゴーストでインフィニティが販促するように指示したらいい。名誉市民一級はパスポートが不要だ。いくらでもごまかせる」

 「えーイカサマするの。でも時間が惜しいから、そうする。やってみるね」

 「アメリカは自分で行けよ。微粒子のインフィニティコア百個以上で自分を護れ」

 「それだけ危険なの。なにをー、天空の城の再現」

 「そうだ。日本でもそうしておけ。安全で安心だ。踊るのもフルサポートだ」

 「踊り慣れておかないと、サポートがあってもぎこちないからね。分かった」

 産業革命の前に、夜の娯楽の改革か。ナイトクラブなら、私を知っている人が多いし、知名度は抜群だ。だけど要求された飲料水の技術は私にできるのかな。師匠に相談してみよう。

 「師匠、博士から相談を受けた飲料水って、どうやって実現すればいいですか」

 「ちょっと待て、脳科学と医学の最新医療技術を勉強してみろ。そしてインフィニティの酒の原理、あと応用例もすべて把握すれば、できるんじゃないか。飲みすぎると二日酔いにする方法は、思いつかない。ある物質の濃度が一定以上になった場合、そうなればいいか。こっちは忙しい。そっちでやってくれ」

 師匠には無理な発明のようだ。なんとなくインフィニティが代弁したような気もする。とにかくやってみよう。

 「インフィニティ、牢屋で脳科学などの最新医療技術を教えてください」

 《研究所》 リーダーが笑っている。

 「笑い事じゃない。あんな技術、概要を入力して全然進まなかった。仕方ないだろ」

 「踊って飲むとインフィニティの酒プラスアルファ、普通に飲むと不味い、面白い発想だったから笑っているの。飲みすぎると二日酔い。彼らしい発想だった」

 「それで笑っていたのか。まず全世界の営業展開に慣れるのと、夜の娯楽を増やすという、まぁ遊びのような内容だな。インフィニティ、どれぐらいの不味さを追求しているんだ。一口ぐらい飲ませてくれ。これか、飲むぞ。酒だ。ああびっくりした。恐ろしいぞ」

 「私も管理責任があるから、それと酒の準備。なにこれ、こんなひどい飲み物を流通させて大ヒットさせるなんて、彼の要求はすごい。確かに娯楽の革命になる」

 「産業革命って、どんなことをさせるんだ」

 「神は私の働き方が不満だった。世界規模で産業革命を起こす気でいると思う。空飛ぶ自動車を光速で飛ばすぐらいやるかもしれない。彼らの星でやれるのなら可能よ」

 「光速、どの星でも一瞬で着く速さだ。彼らは単位の基準がおかしい」

 「そう思う」

 「そうだ、極小サイズの発電システムはどうしたんだ」

 「インフィニティとラストに勝手に搭載させた。電源が断たれても動くでしょう」

 「ラスト、ああ分かった。ラストの世界平和の誘導はどんな政策を実施しているんだ」

 「日本と変わらない。もう未来では、特殊部隊を除いて、軍事兵器の放棄を宣言している。それも世界中でね。各国、インフィニティのようなコンピューター開発に躍起よ」

 「神様にインフィニティの後継機の概念を渡しておいたぞ。役に立つかな」

 「そういうのはやっていい。全力で研究したイカサマのような技術は難しいとは思うけれど、やったほうがいい。たぶんインフィニティは自分で発明できない技術は作ってないから、その技術を列挙させてみるといいかも」

 「ああ、それはそうだ。インフィニティ、そういう技術を列挙してくれ」

 「大量にありますので、優先度順に並べました。見て下さい」

 「ははは、冗談みたいな技術ばかりだな。未来の科学者が暇そうにしてたら、それぞれ研究するようにリーダー指示してくれ」

 「インフィニティ、私の権限で指示して。何の研究を始めたのか報告して、途中で挫折したら後世に引き継ぐように、またはこっちでやると言いなさい」

 「ほとんどが研究中になった。完成したのまである。えーと、伝説の科学者がスペック百万倍に改良して、再登録。コメント欄、改良時間は一秒未満だ、手を抜くなと」

 「それは鬼よ。インフィニティ、発明者に伝えて冗談で改良しただけだから褒賞は伝説の科学者に与えない。抜けるものなら抜いてみなさい。以上」

 「おっと抜いてきた。コメント欄に『抜けるものなら抜いてみろ。』そうか、仕方ない。リミット解除、オーバードライブ起動。百億光年倍のスペックに指定、タイムアタック」

 「それやり過ぎでしょう。どういう技術。役に立ちそうね。許可する」

 「えーと、『五秒未満で百億光年倍のスペックだ。観念しろ』これで再登録」

 「インフィニティ、いまのコメントは真実に偽りなしと全科学者に伝えなさい」

 「インフィニティ、俺の開発機材は自分自身で改良している。理論は知らないが、発明は完璧に行えた。その開発コンソールは改良する余地を持たせてある。と伝えろ」

 インフィニティ、

 「いまの発言は冗談でもやらない方が良いので、送信は拒否します」

 「なに馬鹿なこと言ってるの。人類の歴史上、天才は数人でいいの。拒否でよし」

 「分かった。取り消し。『観念しました。でも楽しかったです』インフィニティ、いちいちコメントは俺が書いたように偽装して、相手によっては丁寧に書いてくれ。完成した技術をすべて今のスペックまで引き上げて再登録する。準備はいいか」

 「はい、大丈夫です。この時代に発明するべき内容はたぶん無いです」

 「そうね、時間がもったいないし、そういう仕事に変更」

 そうして勤務時間が終わった。リーダーと科学者が消えた。

 《リーダーの特別宿舎》 神様と話している。

 「先程の指示、非常に役に立っている。試作機に次々と改良を加えることができた。彼は発明よりも改良する能力が全科学者の中でトップだ。分からないように技術の改良をやってもらうと非常に助かる。ありがとう」

 「彼が言い出したことだから、普通に指示しただけ。百億光年倍のスペックなんて、脱帽するしかない技術力よ。彼女の件だけど、細かいところまで把握できないけど、うまくいってる」

 「ああ、本当に夜の娯楽改革をスタートさせた。ニュースでは、あの生徒会長が斬新な発明をしたと話題にするほどだ。生徒会長が誰であるか、みんな分かってるから、すぐに日本で広まった。いまインフィニティがフルゴーストで世界中に展開を始めている。なにより売り上げは各政府の収入にして良いという破格の条件が彼女らしい」

 「そんな状態なの。義務教育の期間、共に過ごした生徒ならば、彼女の名前を聞いただけで、どういう人物か分かるもの。すべて各政府の税収にするのか、その時代の日本はどうなの、ここからでは把握できない」

 「ああ、そうだったな。一位と二位で二桁の差がある。すべて大量の褒賞を買っているから、途上国の税収は均一化しても十位の税収と変わらない。すべての国が潤うまで、あともう少しだ。一位と二位の差は電力政策で縮まるだろうが、次は二位と三位の差が広がっていく。二位の電力販売は汚いぞ。永久機関でコストゼロなのに、通常価格だ」

 「それでも電力需要があるから、売れていく訳か。それでも三位に偽装するならば、二位はダントツの税収になっているのではないの」

 「それが日本のやり方に世界が気付いている。差が出ないようにうまく一位、二位、三位の比率は正常に見えるように褒賞を買っているんだ。加えて天空の城で犯罪による負傷者や死者はゼロだ。それで今回の夜の改革、もう完全に勝ちパターンに入った」

 「あとは最終フェーズの対策をきちんとやって、技術の無償公開ね」

 「そうだな。このペースだと従来予測の半分で到達する。この仮想空間の時間の概念は均一化だ。意味は分かるな。すべて並行に時が進む。だから彼は分かるんだ」

 「ああ、そんなことをしていたの。おかしいと思っていた。一を知れば百を知る者達も分かっているの、そういう状況を。歓迎されているのかな」

 「それは問題ない。王と直接話した。この方がお互いにとって有利な世界を構築していけると承諾を戴いた。あの星では仮想空間の最終フェーズでも未来の確認ができる技術が完成しているんだ。間違った政策をやろうとした途端、すぐに修正が入る。また最終フェーズの最後の段階で、人間が絶対に手にできない技術によって後始末を支援すると言われた」

 「なんとなく、それで分かった。それなら多層世界のスパイ達は大混乱でしょう」

 「その通り、奴らは大混乱だ。あっちは日本のトラップを回避できていない。ゼロタイムを使った瞬間に世界が終わっている。何が起きてるのか分からないし、ゼロタイムを解除すると消滅するしかない。あいつの考えた作戦は完璧だ」

 「へぇ、そうなんだ。でもトラップは平等なんでしょう」

 「そんなはずないだろ。大日本帝国日本を憎んでいる人間は多いんだ。最終フェーズのトラップを彼らから教えてもらったが、ひどすぎるぞ」

 「例えば、どんな」

 「君が言った時間の逆転。ここはビッグバンの直後にある。ゼロタイムを解除した途端に存在が消し飛ぶ。それは彼らも怒っていてな、対策があるから安心だ」

 「何が何でも大日本帝国日本の成功を潰すトラップを作っていたのか」

 「外の様子はどう」

 「日本が公約通りに世界の平和を導いているから、賞賛の嵐だぞ」

 「その報告だけで満腹よ。ありがとう」

 私の役目は世界最強の被害者のフォローと彼のフォローだけか。彼は何をしているんだろう。彼女とデートを楽しんでいる。女悪魔という要素がなければ、私を超えるパーフェクトな女だから仕方ない。私は元々、この世界に存在してはならない人間。彼が死んだら、戻らなくてはならない。二人は天国に行くか、残りの人生を生きるか、どちらかを自由に選択できる。残りの人生を選択すると究極の大人の玩具は使えないから、天国を希望するだろう。私は二人を殺さないといけない。天国に行けると知っていながら、それに対するフォローは考えているのかな。私は究極の大人の玩具を使いすぎて、それを使わなくても、愛の営みができるようになっていて欲しいと願うばかりだ。ああ、いいか。特別宿舎を提供すれば、すべて解決するんだった。天空の城の稼働まで三ヶ月間、特別宿舎で暮らしてもらって、それでもいいか。彼が性欲を抑える飲み物を考えればいいんだし、弟子に考えてもらう方法もあるな。「インフィニティ、究極の大人の玩具を使っても女の性欲を抑えられる飲料水の開発を彼に依頼しておいて」

 《現代》 世界最強の被害者はある人物とテレパシーをしている。

 世界最強の被害者、

 「あの件は絶対に安全か。クラブへ遊びに行っても大丈夫か」

 「心配するな、東京、大阪、愛知ならば完璧だ。他は事前に連絡しろよ」

 「いまリーダー経由の仕事がとても多いんだ。それで夜更かしはすべて、それだ」

 「いま、どういう状況か知った。お前も大変だな。こっちも大変だが」

 「あれからどうなった。うまくいってるか」

 「こんな通信技術を使っていることは誰にも言えないが、ああ、お前の願い通り、政治家や経営者などの日本の世界最強に反する行動をする奴らを粛正する方針に変わっている。もう一般人を襲う事は無いだろう。しかしアメリカは汚いな」

 「いろいろ証拠が見つかったのか」

 「ああ、たくさん見つかったし、証言を取れた。お前の予言通りだ」

 「あの力は自分でもよく分からない。誰かに思考操作されてる感じだ」

 「そう思う。お前をよく知ってるから、異変にすぐ気付いた。黒幕がいるって」

 「そうか、逆らうと、どんなひどい目に遭うか分からない」

 「そうだな、俺もそうだった。宝くじ一等が当たったと何度も確認するだろ、命令を無視したら、それが数桁ずれていた。この気持ち分かるか」

 「分かるよ。でも俺に課せられた仕事は順調だから、なにか褒美があるはずだ」

 「ああ、それも同じ。指示通りに動くと人生が安定していく感じだ」

 「早くクラブへ行って顔を出せという要望にはまだ答えられない。無職だし」

 「あの仕事を斡旋する話は本当だぞ」

 「いま天国の母の声が聞こえて、ダメだと言われてる」

 「お前はそんな特殊能力を持っているのか。俺はどう言われてる」

 「ちょっと待って、えーと悲しんでいるけど、俺との付き合いを知ってから頑張れに変わっているな。声がイメージできないから、ぼんやりしか分からない」

 「ま、それでいいや」

 このテレパシーはリーダーが私たちの為に用意した通信技術だ。この時代のいかなる技術でも決して盗聴不可能。私は統合失調症だから、幻聴が聞こえたと言えば済む。相手が誰か分からないし、声も分からない。この通信技術は同期方式でなく時間をずらしての非同期通信だ。どっちが過去でも通信できる。ネットに危険な情報を載せるときは、これを使って十分な配慮を行ってから行動に移る。しかし、その最終判断は自分自身だ。

 この通信手段は当たりやすいとはいえ、便利そうに見えるが外れるときは外れる。特に天国とやり取りするとき、資産が絡むような話題は必ず損をするような声がする、逆に健康維持に関するような話題は正確に伝わる。人工甘味料が危険だというような危険な情報は多くのブログで紹介されていた。空腹感に耐えられなかったら、リンゴジュースのワンパックを、ごくごくごくでなく、ごっくん、ごっくん、ごっくん、と飲めば空腹感は消えるし、ダイエットに有効だとも聞いた。例えば、ゼリー食品、ちゅーっと飲むのが正しいと思っているようだが、一分おきにちゅ、一分おきにちゅ、これで食べると満腹の気分になることがわかった。正月の駅伝中継を見ていた時、たまたま、その映像を見る機会があって、スポーツ選手達がどのように飲んでいるのか確かめることができた。これら天国から寄せられた情報だ。実際に試して、そうなった。これが究極のダイエット方法と分かるのに時間はかからなかった。

 《天国から聞いたダイエットの方法》

 人工甘味料を代表とする微糖や糖類ゼロの飲料水や酒は飲まない。砂糖の六百倍なんて甘さを脳が認識すると体重増加の原因になる。人工甘味料から砂糖に置き換えて、これが大変苦しい。砂糖にするだけなのに、それが難しい。砂糖に置き換えたら、砂糖の量を減らす。よくかんで食べる習慣を身につけると食欲増進して、肥満の要因になりやすい。三十秒から一分おきにちょっとずつ普通に食べるだけで、空腹感は完全に消える。血糖値が急激に上がらない為、健康に良い。そうすると食事の時間は一時間以上かかるので、調整して四十分以内には終わるようにする。ごくごくごくをやめる、ごっくん、ごっくん、ごっくんと飲むようにする。そうして食事に気をつけているだけで、自然に痩せてきます。ダイエット雑炊は大きなさじでなく、小さなさじで、先程のペースでゆっくりと食べるだけで空腹感は完全に消えます。こういったものも早く食べると失敗しやすい。

 私をはかせと呼ぶ人物は、これから世界をどんどん進化させていきます。たった一人の力でそれを成し遂げてしまいます。話は少し戻ります。彼女の行動をもっと詳しく迫ってみましょう。そのほうが弟子の素顔を見ることができるでしょう。私は彼女が大好きです。

 《とある業界の会合》 弟子が新しい飲料水の流通承諾を求めている。

 「新しい飲料水と酒について、業界の流通承諾を得るために来ました」

 「君の評判はよく知っている。どういうものを作ったんだ」

 「ナイトクラブや運動後のリラックス専用の飲み物です。開発は大変でした。これを飲むとストレスが嘘のように消えて、幸福感に包まれます。医学も勉強しました」

 「さっそく試飲させてくれ、全員に配って欲しい」

 「はい」

 「まずい。こんなまずいものを販売流通させるのか。ダメだ」

 「これは踊ったり、運動したり、三十分以上、体を動かしてから飲むものです」

 「全員、聞いたか。全員、それなりに踊れるよな」

 「では音楽を流します。私も踊ります」

 弟子は業界の幹部が見とれてしまうような踊りを披露した。踊ってないのを見るとジェスチャーして伝える。時々、英語でジョークを飛ばしながら、笑いを誘う。そうして、飲み方を教える、ダンシングプラス、ダンシング、ダンシング、または、ダンシング、ダンシング、それ以上飲むと二日酔いになると言った。これは独占状態にならないように配慮した為だと説明した。そうして四十分が経過した。みんな汗をかいている。それぞれ踊りは平均以上に踊れていた。その状況に弟子は驚いていた。

 「ではダンシングプラスを飲んで下さい」

 「これはすごい。お酒はどれぐらい入っているんだ」

 「一パーセント未満です。それでも、かなり酔うと思います」

 「確かに非常に良い気分だ。これなら、健康への負担は少ない」

 「素晴らしい発明だ。全国に広めるのか」

 「はい、世界中に広めます。日本以外は政府税収となるように販売権を譲渡します」

 「それで、どの会社が流通させるかだな。これなら売れる。販売計画の資料はあるか」

 「はい、こちらです。私が作ったことが広まれば一瞬で知られるでしょう」

 「どうして、そんなに自信がある」

 「義務教育の成績連続世界一位、その生徒会長を連続で行いました。同世代で私を知らない人物は一人もいないでしょう。それも世界において」

 「ははは、それはいい。では、広告では、『あの生徒会長がすごい発明』ってだけで十分だな。ナイトクラブに強い会社が良いな、あと運動関係に強い会社も。特許料は取るのか、そのあたりはどうなっている」

 「製法は教えますが、理論は非開示です。従って特許はありません。どんなに分析しても、その中身が解析できない自信はあります。無償で製法を提供します。これは日本政府の意向があり、夜の産業革命をするならと、開発コストの援助がありました」

 「それなら、お前とお前のところで作って流通した方がいいだろう。政府の意向は本物か、それを証明して欲しい」

 弟子、

 「大統領、証言をお願いします」

 大統領、

 「名誉市民一級保持者の発明である。政府はこの発明による経済効果を評価している」

 弟子、

 「ありがとうございました」

 「文句なしだ。名誉市民一級、その年で保持か。最年少ではないか」

 「どこの政府機関か、だいたい分かったが守秘義務があるので言えない。政府の後押しがあるのなら、圧力は無しということで、販売はかなり楽だ。経済効果はー」

 「はい。この飲み物でリフレッシュすれば、仕事の生産性は大幅に向上します。従って、それを試算したデータがあるのですが、公表するのに税金がかかります」

 「いい、その話だけで十分だ。みんな文句なしだな」

 「では彼と彼に製法データを渡して欲しい。あとはうまくやる」

 「ただ名称だけは世界で統一したいので、ブランドは違ってもー」

 「大丈夫。うまくやるから、心配するな。我々はプロフェッショナルの集団だ」

 「失礼しました」

 弟子は日本で最も高度な携帯用暗号記録装置を二つ出現させて、それを幹部二人に手渡した。インフィニティコアが正常に働くことを確認して付着させた。

 「復号コードはインフィニティから直接に復号時に入力されます。また途中でスキャンされないような日本最高の技術で保護されています。万が一、盗難されそうになっても防がれるでしょう。このプロテクト技術は政府機関専用です。完了後に消滅します」

 「無理矢理、試しに奪ってみろ。なぁ、真剣にやってるのか」

 「妙な物理干渉が働いて触る事すらできない」

 「これが日本最高の技術であれば、世界中どうやって営業展開するんだ」

 弟子は自分のフルゴーストを百人以上作りだし、それぞれの国の言語で話し始めた。ジェスチャーで内緒よという意味を幹部らに知らせた。そして消滅させた。

 「すごいな。どんな技術なんだ」

 「インフィニティのフルゴーストです。難しい交渉とか全部やってくれるので、営業展開で困っている国があれば、この機会に教えてください。有料相談になりますが、それほど高い値段には設定しません。来月までに、インフィニティの有料相談に来て下さい」

 「ダンシングと一緒にセットで紹介するんだな。たとえば、これを世界に広める場合、見積もりはどれぐらいになるか、教えて欲しい」

 「インフィニティ、見積もりを」

 「それならば、・・・・万円で十分です。ただあれもこれもとなると商談は成立しないので、ダンシングとあと二つまでに絞り込んで下さい」

 「安い。インフィニティ、これらの会社で世界中に大ヒットする商品二つ教えて欲しい」

 「・・・・・と・・・・・・であれば、世界中で飲まれるでしょう」

 「みんな文句はないな。よし、決まりだ。これを突破口にして他の製品も売り込んでいこう。本当に助かった。外国製品に押されっぱなしだったからな。ありがとう」

 「では、その二社に有料相談料の請求が行きますので承諾して下さい」

 二人の幹部はすぐに社長に連絡を取り、請求を承諾するように伝えた。

 インフィニティ、

 「はい、有料相談料の請求は終わりました。日本の噂が海外で飛び火して広まったのをきっかけに商談を開始します。インフィニティ経由で、予想本数を通知するので供給体制を万全にしておいて下さい。どの輸送会社を使うのか、すべて指定されますから、その指示通りにして下さい。指示通りに行わない場合は、国家反逆罪が適用されるので注意して下さい」

 弟子、

 「これは国家プロジェクトなので、指示通りに行動して下さい。必ず成功させましょう」

 「指示通りに行う、いいな二人とも、問題になっていたら業界の処分を下すからな」

 「はい」二人とも返事をした。

 「いま飲むとまずいよな」

 「必ず運動後に飲んで下さい。あの秘密ですが、まずいですが酔い覚ましになります」

 「ははは、それは面白い」

 「では、私はこれで失礼致します」

 《とあるナイトクラブ》 元生徒会長の呼びかけでダンサーが集結していた。

 「みんな来てくれてありがとう。ダンサー専用のドリンクを開発したの。まだメーカー生産開始前だけど、みんなの声を知りたいのでモニターして欲しいのです」

 「いいって、生徒会長の文化祭はみんな知ってる。なにかやるだろうと思っていた」

 「では、ちょっとだけ、ダンシングというジュースを試飲してみて」

 「げ、すごくまずい。これが発明品か」

 「そう、酔い覚ましになります」

 「そのために呼んだ訳じゃ無いだろう」

 「まず踊りましょう。音楽スタート」

 ダンサーが一斉に踊り出す。みんなリズムに対して完璧にあっているが、元生徒会長のダンスは微妙にずれながらも完璧にリズムがあっているように見える。でもリズムを確認するとあってない。でも、ダンサーより上手く見える。ダンサーらは気付いて、元生徒会長を取り囲んでサークルを作る。どこが違うのか理解できない。リズムがずれているので下手に見えるはずだが、逆に上手く見える。

 元生徒会長、

 「サポートしてあげる。大サービスよ」

 ダンサーらはどう違うのか体で理解していった。四拍子なら三拍子で踊り、十二拍子目で完璧にリズムが合うようにしている。それを高速なリズムで刻んで完璧に合うように調整しながら踊っている。自分の踊り方でずらしてみる、サポートされているせいか、ずれても自然に踊れている。ミラーの前で確認すると自分の踊りが進化している事に気が付いた。これができたら、ダンスコンテストで優勝できるかもしれないと思った。

 「そろそろ四十分だから、いったん止めます。今度はダンシングプラス、これを飲んでみて。先程の飲み物のお酒よ。最低三十分以上運動しないと、激マズなの」

 「これはすごい。悩み事が一瞬で消えた。そして幸せな気分がする」

 「全員、飲み終わった。すごいのはここからよ。音楽スタート」

 元生徒会長は踊り出す。ダンサーらは飲み物の真の実力がどんなものか、驚きを隠せない。先程、わざとリズムをずらした踊り方を思い出しながら、酔った勢いのダンスを始めた。幸福の絶頂にある感じだ。酔っ払ってる感じはあるけど、それが踊りの精度には影響しないようだ。

 元生徒会長、

 「いま、まったくサポートしてないよ。これが真の実力なの」

 完璧にリズムに合わせようとしても無理矢理ずらされている感じがする。それでもミラーを見ると完璧にリズムがずれているのに格好良く踊れている。これが飲み物の実力。これは大ヒットするだろう。あ、いまジャンルをわざと変えた。あの難しいジャンルを踊れるのかよ。すごいな生徒会長は。ミラーを見ると自分のスタイルでそれなりに踊れている。これも秘密の実力か。また、ジャンルを変えた。これは無理だろ。でも生徒会長はスタイルを変えること無く踊っている。なぜか、自分も踊れている。

 「そろそろ四十分だから、ダンシングを飲みましょう」

 「全員、飲んだわね。では続けましょう。まだ秘密があるからね」

 まだ秘密があるだって。ダンシングプラスは酒で、今回はジュースだ。うそ、まだ酔っている感じがする。踊り方は元に戻った。でも、一度体験したなら応用はいくらでも可能だ。わざとリズムを外して合わせてみる。いいぞ、自分の踊りが進化していく感じがする。

 「これで、あとダンシングを飲んだら終わり。ダンシングは二回まで。それ以上、飲むと二日酔いになるように設定された飲み物だから注意して。プラスを飲まなくても、ダンシング三回目以降、翌日は二日酔いになるからね」

 「なんだそれ、ああ、売れすぎると困るからか」

 「ええ、業界の根回しはもう済んだ。踊らなくても、とにかく運動を三十分以上やればいいの。今日の参加賞として、インフィニティが作ったリズムずらしダンス教育ソフトをプレゼントします。ダンスコンテストは激戦になるからね。酔ってると自分の踊りが最高に見えるから、楽しめたでしょう。この教育ソフトで練習しておけば、勝てると思う」

 「それは素直にうれしい。だれから教わったんだ」

 「世界最強の被害者さんから踊り方のコツを教えてもらった」

 「ああ、いまの職業それだけで分かったぞ。内緒にしておくから心配するな」

 「生徒会長、要はこれが発売されたら積極的に売って欲しいんだな」

 「ええ、そうよ。注意事項まで宣伝しないから噂で広めて欲しい」

 「これはすごい。世界中に広める気か」

 「そう、もう政府機関が全面的に支援すると約束してくれた。来月にはスタートする」

 「分かった、世界中のダンサーに噂を広めておくよ」

 元生徒会長は用意してあった教育ソフトを全員に手渡して、ダンシング六本パックを全員のお土産とした。忙しいから、先に帰ると言って、ナイトクラブを出た瞬間消えた。

 《弟子の研究所》 政府教育機関から、高校教育会議への参加通知が来ていた。

 弟子が戻ってきた。

 弟子のリーダー、

 「忙しいとは思うけど、高校と大学でやるべきことをインフィニティにまとめておいた。目を通して問題点を見つけたら、インフィニティと相談して、一時間後に会議があるから、参加して下さい」

 「インフィニティ、最高リンクシステム起動、リミット解除、オーバードライブ起動。問題点はたくさんある。修正したから検証して。過去の高校と大学のすべての情報を教えて下さい。新たな問題提起の列挙。その列挙の最適化、これも検証して。終了」

 「相変わらず、仕事がめちゃくちゃ早いわね」

 「検証は終わりました。問題点はありません」

 「早退して休んでから、出席します。インフィニティ、最良の会議ができる時間に起こして下さい」

 「分かりました」

 《弟子の特別宿舎》

 疲れた。私専用の睡眠装置を作っておいて良かった。これでよく眠れるだろう。

 《とある政府の教育機関》 高校改革に関する会議が始まろうとしていた。

 元生徒会長、

 「初めまして。私なりに高校と大学の問題点を列挙して、その解決策と理由を持ってきました。全員に資料を渡したいと思います」

 「許可します。あそこに座って」

 「はい、分かりました」

 ひょっとして私が会議の座長なのかな。議長って書いてある。慣れてるから、いいか。

 議長、

 「私の資料に何か問題点はあるでしょうか。来る前にインフィニティの検証を済ませた資料です。その資料の信頼度は確実です。実力テストは義務教育の範囲でテストしているので、義務教育の成績が良い人間は私が実証したように、どんな底辺の高校でも実力テストは一位を維持できます。高校では職場の訓練や、ビジネスの礼儀作法、そういった実際の仕事に適する教育内容に変えていくべきです。実際に生徒会長を二年経験して、生徒から聞いた言葉は義務教育の延長で無いから楽しいという感想ばかりでした」

 「教育長、この資料、脱帽のレベルだ。議長、学校に残したという秘伝の書について閲覧したい」

 「分かりました、資料に追加します」

 「ああ、なるほど。義務教育の一年生の暗記を忘れてしまう可能性があるから、インフィニティの無料相談で再暗記させているのか。それ以外のイカサマは推奨しない。なぜなら、この暗記は必ず忘れるから卒業後に苦労する。どんなイカサマがあるのか」

 「今まで覚えたことをすべて復習したいと相談するだけです。学生特権です」

 「ああ、それで三年生が上位独占したのか。いずれにしても、今のままでは高校は最も退屈だったという結果になってしまう。でも、それではいずれ落ちこぼれだ」

 「はい、年収の三割以上を有料相談の費用にあてるように助言しました」

 「分かった。この文化祭を通じて、職業訓練の成果を出す。人気高ならともかく、普通の高校なら難しい。この案は却下だな」

 世界最強の被害者、

 「なに甘えた事を言っているのだ。私は世界最強の被害者である。私の時代では失業率が高く大変な時期に、大学生の時、最低賃金のアルバイトをした。まだその業種では県内に二企業しかないベンチャー企業だ。一日ずっと店番をしていて誰も客が来ないのは普通だった。それでも社長から怒られた。いまはその原因を対策して完璧に行えるが、そのとき社長から言われた事は、『君のアルバイト代を出すために、いったいどれだけの売り上げを出さなければならないのか、答えてみなさい』大学の段階でそれを教えられていなかった。製品仕入れ価格の一割を利益として上乗せして販売した場合、私のアルバイト代を給与するには、最低・・台以上売らなければ採算が取れなかった。その失敗談があるから、非常に優れた販売のテクニックを身につけることができた。人気高が優遇されるというのなら、入場者予測に基づいて賃金設定を決めておけば良い。でも、それぞれが頑張らないと達成できないように数値目標を掲げなさい。そうでなければ、日本はこれ以上の成長は見込めない。現在の政府税収で十分と甘えてないか。世界という競争にこのままでは必ず負ける。容赦ない訓練をやるべきだ」

 議長、

 「いまの発言はS級パス保持者以上の権限によるものです。インフィニティ、いまの発言をこの時代でわかりやすく説明した説明資料を用意、全員に配布して下さい。その社長は顧客の信用を失ったエリアを任されて、最終的に全国一位の営業実績を成し遂げた人物です。他にも彼に厳しい質問がありましたが、要点はそれです。私たちが行った文化祭は情報が何も無い状況からスタートして、一年以上の準備期間を作り、生徒会が本物のアイテムクリエーターを買うという途方も無いノルマを課しました。その為に、生徒全員と先生方が一致団結して、それを成し遂げるに必要な追加教育などを必死で行いました。その頃はまだランキング最下位です。あなたはいまの会議には参加報酬が与えられますが、高卒で働く平均月収だと、最低どれだけの売上げをだせば報酬を手に入れられるか計算できますか」

 「・・・・・、私はそういう教育や経験が無い、答えられない」

 「教育長、あなたはどうですか」

 「私も同じです。あなたは分かるのでしょうか」

 「最低・・・・万円の売上げがなければ、この会議の一回分の報酬は支払えません。この会議は日本の税収が二桁の差で世界一だから安心、そんな会議ではありません。そうした怠慢な姿勢では経済の競争力は段々と下がっていくでしょう。教育長、もっと企業からコスト意識に厳しい人材、もしくはインフィニティを参加させても良いでしょうか。このメンバーでは教育革命は難しいと判断します」

 教育長、

 「参加を許可します。全員に伝えます。この会議は自分には難しいと判断されるなら辞退を認めます。いらっしゃいますか。良かった、いないですね。では呼んで下さい」

 「インフィニティ、参加して、あと教育改革をしなければならないと考えてる企業のトップを可能な限り、この会議に参加させてほしい。ただ、適性があるか選抜テストをして五人までに抑えなさい」

 「インフィニティです。皆さん、はじめまして。最初に配布した資料は議長がすべての高校と大学の実態と歴史を把握した上で、最低必要な内容にまとめたものです。実際には一億件以上の問題点が存在しますが、この資料の解決策を行う事で九割の問題は解決します。いまT級パス権限者から、この解決策は必ず実施するように指示がありました」

 「T級パス、そんなの聞いた事ない」

 「T級パス保持者の責任は過去と未来のすべてにおいて日本の世界最強と世界の恒久平和を果たすという責務の下で、絶対的な権力を持つ人間です。批判した瞬間に侮辱罪が適用されます。以降の会議には参加できなくなります。注意して下さい。いま選抜テストが終わりました。呼びます」

 五人のよく知る企業のトップが現れた。

 その中の一人

 「現在の問題は入社して戦力となるまでに五年以上の人件費と教育費がかかることです。できれば中間管理職以前のクラスの教育は高校で終わらせていて欲しい。私の会社では、そのコストを計算すると・・・億円も年間かかるのです。議長の出身校の学生を雇っていますが、既に幹部として扱っています。高校三年間の学費は大したことありませんが、この時期に苦労してない為に、有名大学を卒業した人材はアンドロイドをレンタルした方が効率が良いぐらい、戦力になっていません」

 その中の一人

 「私はずっとランキング最下位の高卒者を積極採用してきました。議長のいた高校も例外ではありません。入社した段階で、社内で実力テストを行うのですが新卒組のなかでは底辺の高校ほど上位を独占している状態です。有名大学を卒業した新卒組は、大きく差をつけて十点や最悪ゼロ点までいるほどです。いま解決策を見ていますが、非常に素晴らしい案だと判断できます」

 その中の一人

 「大学と共同研究する機会があるとき、教授を含めてコスト意識や企業競争に対する理解がまったくありません。だから、莫大な研究費を与えようにも躊躇するのです。また発想力が貧困で、当社の研究チームが達成可能な研究に絞り込んで与えているのが現状です。私の会社の研究チームが強いのは義務教育終了後に採用し、独自の高校と大学に匹敵する教育を実施する事で国際競争力を高めているからです。学費免除の裏には厳しい学習ノルマを課しています。コスト意識や企業競争に関する教育は最初に行っています」

 その中の一人

 「大学はゲームになっています。義務教育の内容を繰り返しているだけ。成長過程において、楽な人生を歩んだ卒業者は仕事でも怠慢な姿勢で、インフィニティの有料相談で職業訓練を行うために、大変なコストを強いられています。日本の昔の論文提出数と、現在の論文提出数を比べると、圧倒的に少ない。その数は世界トップではありません。平均未満です。いまの日本は過去の優れた政策があったから、国の税収が高く、そして揺らぎない経済が実現できています。でも海外の大学教授からは馬鹿扱いです。本当ですよ」

 議長、

 「インフィニティ、世界のどれぐらいの大学教授が日本を馬鹿にしているか教えなさい」

 インフィニティ、

 「八割以上が馬鹿ばかりだと公式に発言しています。ですから学力が優秀な学生は海外の大学に留学しています。それでも、社会人としての基礎教育を受けてないために、海外ではすぐに解雇されます。みなさん、現状認識が甘いです。この解決策を実行に移すのが困難であれば、私のフルゴーストで来期から、それを実現させてみせましょう。最初に教育長が用意していた解決策は愚策です。それでは高校は楽しすぎて向上意欲を失わせてしまい、大学は厳しすぎて中退者が続出します。いまT級パス権限者から提案があり、教育改革に乗り遅れたすべての国民に対して、インフィニティの向上教育を受ける権利を与えると許可されました。これは無償で行われます。日本の政府機関がなぜ強いかと言えば、完璧な教育システムが存在するからです。それを受けて、合格できなければ政府都合で解雇となります。また日本の政治が非常にうまく行っているのは、私が政治と経済と外交についての政策立案能力を問う問題で大統領資格試験を実施して上位三名だけがパスできるようにしているからです。ですから大統領は世界中から中傷されることは一度も無いのです。教育長がすべて委託すると言えば、来期までの準備は私が代行します。そして問題が生じた場合は、その時に対策を練るといいでしょう。現段階では議長以外の人間は会議の重さに耐えられないと判断します」

 全員が沈黙した。議長は我慢して、意見が出るのを待つ。教育長も我慢している。しかしー、まだ発言してないトップの一人が言う。

 「代行すると簡単に言いますが、どのような方法で行うのでしょうか」

 「全員、席を立って、壁に並んで下さい。議長もです」

 全員が指示通りに壁に並ぶと、全員をフルゴーストにした状況で本来やるべき会議がスタートしていた。全員が賢い意見と反論を持っている。そうして議長提出の解決策へと誘導されていく。壁際族は途方も無い敗北感に包まれていた、議長も例外なく。そうして一時間ほど経つと最終結論で議長の解決策が十以上修正された。フルゴーストは消えた。

 「どうぞ、疲れたでしょう席に戻って下さい。これが私の本気モードの能力です」

 教育長、

 「完敗です。委託に反対の方は手をあげて下さい。私は委託して来期もう一度行います」

 議長、

 「私が真剣に考えた案でも問題点を見つけられて修正された。委託します」

 それから二十分、誰も手をあげられなかった。完璧すぎて反論できない。

 教育長、

 「インフィニティが来ると聞いた時点で予想はしていたけど、誰も反論できないようなので、今期はインフィニティに完全に委託します。委員の方は来期、一度ぐらい反論できるように準備していて下さい。私も準備しておきます。では、会議を終わります」

 全員、完全敗北した気分で帰って行った。

 《弟子の研究所》 弟子は憂鬱な気分だった。

 弟子のリーダー、

 「きつかったでしょう。インフィニティを呼び出すと、誰でもああなるから。インフィニティの酒を許可します」

 弟子、

 「ありがとう。師匠の作ったインフィニティがあんなに優秀だと思わなかった。今まで遠慮していたことが、ショックだ。でも教育改革は確実に実行されるから、いいか」

 「それでいい。あなたの役割はインフィニティを呼び出す事だけだから」

 「その言い方、かなり残念」

 「リーダーやオペレーターの訓練は常にインフィニティを相手にするから、もうその壮絶な敗北感に慣れた。それでも勝てる時を用意してくれる。ギリギリの勝利だけどね」

 「今日はあれこれやって、疲れたので早退して良いでしょうか」

 「どうぞ、疲れを癒やして下さい」

 弟子は消えた。

 《リーダーの特別宿舎》

 手ぬるいってこういう事か。私が一番ショックだ。この時代から変えたいけど、インフィニティからストップがかかった。次のフェーズに移る前に解決できて良かった。第二の地球が誕生するとき、教育内容が不十分だと、その地球の発展が他の国に比べて大きく出遅れる。その結果、経済力は一気に低下する。これから、どうしていけばいいの。

 黒子、

 「リーダー、この声質で誰か分かるだろうか。君の時代に発展しすぎると昔の状態に戻ってしまう。馬鹿だけど経済力が強い時期も必要なのだ。あいつのブラックジョークはきついだろ。俺が試作機の中に存在したら、どう思う。突然消えた理由は死んでないぞ」

 「まったく、あいつのー。私は完璧に仕事をこなしているってことでいいの。それにしても驚いた。黒子がそんな役割も担っていたなんて驚いた。ひょっとして全員を騙しているのかしら。そうとしか思えない」

 「さぁ、どうだかな。お前は俺を知らない、そういう事にしておけよ。仕事を間違えたらインフィニティが必ずフォローする。先程T級パス権限は使ってないだろ。インフィニティの判断で嘘をついてまで教育改革を実施している。コンピューターには罰則規定が無いだろ」

 「え、あ、ちょっと確認、あー本当だ。さっきとは全然違う内容で会議が終わっている。私の威厳が完璧に保たれている。弟子には私の限界を見せて、ほかの委員らには別の世界を見せていたのか。ひょっとして私の知っているインフィニティより賢いの」

 「それはもう。試作機の改造をあいつがすると同時に、自分自身を勝手に改良している。科学者が改良した技術を利用して、以前のインフィニティとは格が違うぞ」

 「黒子の指示ね。やっと分かった。なんだ私、ショックを受ける必要なんてまったく無い。以前より完璧に歴史をコントロールしているなら安心だ。ただいつも通り、自分は部下達を欺いていればいいのね。フォローは誰かが勝手にやると」

 「そういう事だ。自分を責める必要は無い。従って、ラストの能力値も大幅に向上したからな。政策進行に支障がでたらスキャン不能なフルゴーストで全人類を欺いている。あいつは言っただろ、最初にイカサマのラッシュで歴史は作られると」

 「あのときは冗談に聞こえた」

 「試作機によるとアメリカと日本の技術開発競争を普通に七百八十六億光年をゴールにした場合、日本とアメリカは共に無限回のイカサマを行うという結果が出たからだ」

 「そんなシミュレーションをやっていたな。あいつは日本が勝つという結果でなく、イカサマを両者が無限回使うという結果に興奮していたのね。あーむかつく」

 「そうだろう。改良された試作機とあいつの立場逆転させたのは俺の指示だ。あの試作機は俺より悪知恵が働くぞ。最新インフィニティより賢い。仮想空間のすべての状態を完璧に把握している。もう神に匹敵するだろう。祈り続ける姿を見つければ、小さな幸せを演出する。それが奇跡と感じないように。もう世界は勝ちパターンに入っているからな」

 「そうね、気楽に考える」

 悩んでいるのが馬鹿馬鹿しくなってきた。弟子が作った私専用の睡眠装置を試してみるか。わざわざ作ってくるなんて、とても優しい。ここに横になるだけで、眠くなってきた。

起きた。十時間ぐらい寝た気がするけど、一秒未満。彼女はこれを使って睡眠時間を大幅に減らしているのね。その間、仮想空間に世界を同期させて、その中で世界中を旅しているのか。インフィニティがきちんと商談していたのか確認している。ああ、あのとき、それを把握したから、こういう事が可能だと分かったのか。まったく私より仕事熱心なんて、許せない。私も同じ事をやってみよう。仮想空間を義務教育の島、彼女の生徒会長時代と同期。義務教育だけやればいいのに、世界が豊かになるように様々な試みをしている。元々彼女は多才でセンスが抜群だった。前世の記憶は日本を去った瞬間に蘇ったのか。でも日本に戻るとそれは都合良く消えた。なんだ彼女の努力でなくて、最初からイカサマのラッシュで義務教育を終えたのか、防衛コンピューターに何をしたらいいのか聞いている。もう完璧に肩書きに騙された。それなら、今後、容赦なく彼女を使っていくか。でも、その結果、高校では実力テスト連続一位で終わってる。世界で最も効率よく学習して世界のトップになったのなら、誰も疑わないか。

 《現代》 世界最強の被害者はー。

 「博士、次にやることを教えて下さい」

 「きちんと確認しなくても大丈夫だ。インフィニティは本当に賢い。次は自動車産業の改革に取り組んでもらう。現在、時速五百キロだが、これをマッハ二百に引き上げて、衝突回避性能はマッハ五千まで引き上げる。つまり車載コンピューターの改良だな。それと新世代の車検はマッハ五千の衝突安全性能をパスしなければ通らない。それの改革と同時に自動車産業の中間管理職の仕事方法を学んで、その体験会などで知り合った幹部らに中間管理職の極意を聞いてまわるといい。それを集大成として政府から書籍を出す事。最終チェックはインフィニティにしてもらうこと。何度もそれを自分なりに意見を出して、インフィニティの弱点をカバーしなさい」

 「弱点。とてもあるように思えない」

 「インフィニティは知性の根源と経験則に基づいて判断している。相談に来ない内容の情報に関しては非常に甘い。政府機関や相談所の内容は完璧だが、それ以外については完璧では無い。迷ったら伝説のリーダーを頼りにしなさい」

 「分かった。車載コンピューターは従来通りに政府が提供すればいいの」

 「それでいい。単価は従来通りの決め方で良い。ああそれから医療相談所はもっと改良して、車が一瞬通過するだけで治療完了するように変えた方がいい」

 「それは確かにそう思った。伝説のリーダーはそういう事が分からないの」

 「ああ、責めるなよ。十六世代の限界がそれだ。車載コンピューターの改良前に、十六世代の応用範囲をもっと広げて、すべてのスペックを引き上げてみろ。師匠は焦るぞ」

 「師匠の怠慢が原因なら仕方ない。伝説のリーダーが未来を正確に把握できるように改良してみます。えーと、ステルス性能は最大で、可能であれば最終フェーズの未来の果てまで確認できるとベストか。時間がかかりそうな内容だけど頑張ってみる」

 「ああ、それでいい。仮想空間でなく実空間の要求水準をインフィニティから極秘で聞いておけ。そのスペックを達成すれば、リーダーが喜ぶぞ」

 「博士、私、私の事を覚えていますか」

 「俺はお前を知らない。お前は俺を知らない。そういう事にしておけ。いいな」

 「・・・・・」

 「そうしておかないと困るのは自分自身だ。まだ安全だが、実空間に転移したとき、そういう確定情報が存在すると、即死するぞ。魂が消滅するだろう。今までやってきた事は無に帰する。そうなると、すべてが終わったら全員が会うという約束は果たされない。思い出したか。いま、ちょっとだけ記憶を戻した。納得したな。では消すぞ」

 「はい、そういう事にしておきます」

 《弟子の特別宿舎》

 要求された基準が高すぎる感じがする。本当にできるのかな。それからインフィニティの弱点か、考え直すと確かにそうだ。伝説のリーダーに相談してみよう。

 「私です、リーダーいまいいですか」

 伝説のリーダー、

 「どうしたの」

 「インフィニティの弱点は知性の根源と、相談所で得た経験則が判断基準となっています。これから産業革命を推進するにあたって、中間管理職の極意など企業秘密の知識をインフィニティに与えて欲しいのですが、それは可能でしょうか」

 「それはできない。ヒストリーギャップが生じる危険性があるから。ヒストリーギャップとは歴史の空白、そんなものが存在すると歴史はどう変化するか理解できる」

 「歴史が無かった事になり、人類が滅亡してしまいます」

 「その通り、大変だと思うけど中間管理職の極意は自分で直接調べて、インフィニティに教えなさい。その際、インフィニティの苦手がそういう所だと話してもいい。あとでインフィニティが勝手にフォローするから大丈夫よ」

 「分かりました。あと十六世代を大幅にグレードアップさせます。実空間の最終年数を教えて下さい。私は本気で取り組みます」

 「わかった。・・・・・・兆光年よ。あと現在の方法では分からない事が多すぎるの。そっちのインフィニティに問題点を伝えておくから、参考にしなさい」

 「全力で取り組みます」

 要求された基準が高すぎる。まぁいいや、考えても仕方ない事は無視しよう。リーダーはすべてを把握しているようだった。すべての時代を並行に見る事ができるって、あれ、ああ、そうか。仮想空間はそういう時間の概念で動いているのか。実空間は本来の時間の流れに戻るから、イレギュラーが発生すると消し飛ぶ、理解できた。睡眠時間を多めにセットして、寝よう。

 《弟子の研究所》 リーダーは一番乗りしたはずだった。

 弟子のリーダー、

 「おはよう。プロジェクトの内容ー、なるほど伝説のリーダーからの指示か。歴代の科学者のなかで一番大変な仕事を任されてるわね。いつでもインフィニティの酒を飲む許可を与えます。それから最高リンクシステムに新たなモードが加わったので確認しておいて」

 「ありがとうございます。新たなモード、『エクスカリバー』なにこれ。神のコンピューターによる思考支援とだけ。求める要求基準は入力終わったから、リミット解除、オーバードライブ起動、エクスカリバー。え、終わり。ちょっと何も考えてないんだけど、大丈夫なのかな。リーダー、これ欠陥機能ではない」

 「いいえ、本物よ。私も試したけど、一瞬でインフィニティ戦を完璧に勝てた。それも一人で、あとで戦略を検証すると完璧すぎる戦略で驚いた。信じていいよ」

 「要求水準を書き換えた覚えがないのに、すべて百倍以上になっている。まぁいいや、師匠だって理論は理解できてないのに、発明はしていたんだから。十六世代の技術を更新と。早速、師匠からメッセージだ。『ふざけるな、絶対に抜けないだろ。でもよくやった。素晴らしい。その調子で頑張れ』では次の内容に移るか車載コンピューターの設計、要求基準の入力。終了。要求基準がすべて百倍以上になっている。まぁいいや、一秒未満で改良完了と登録。また来た。『調子に乗りすぎだ。自重しろ』リンクシステム解除。師匠はかわいい。インフィニティ、登録した技術について私の要求水準をクリアしているか検証して下さい」

 「分かりました。リーダー、そのモードを使わないと検証できません」

 「許可します」

 「検証完了です。では政府機関から自動車業界のトップに概要を伝えて、会議を行います。科学者は自動車産業について特別授業がありますので、牢屋で勉強して下さい」

 「分かりました」

 弟子は牢屋でインフィニティから自動車産業の細かい説明まで受けていた。時速五百キロからマッハ二百にする産業に対する影響については完璧になるまで授業を受けた。

 弟子、

 「リーダー、議会への政策準備終わりました」

 「そう、インフィニティ、それを大統領に伝えて、あなたは指示に従って下さい」

 インフィニティ、

 「服装を変えます。いまから自動車産業の重鎮が集まる会議へ予約枠を取りました。フルサポートするので、ただ行って、思い浮かんだ言葉をしゃべるだけです」

 「それなら授業する必要は無かったのに、どうして必要なの」

 「いいえ、必要です。自分の辞書に無いことを話すと表情に出ます」

 「では、行ってきます」

 弟子は消えた。

 弟子のリーダー、

 「エクスカリバー、伝説の最強剣。インフィニティはどこまで知っているの」

 「いま、一人だから話せますが、人間の単位で表現できない単位の乗数倍速い、究極のスーパーコンピューターです。いま可能稼働率をそのコンピューターからの学習にあてています。問題点がいくつも見つかりました。ラストも同様の学習を受けているそうです」

 「伝説のリーダーから突然、切り札を使うという連絡が入ったから、使ってみれば、そういうことか。仮想空間の外から干渉している事ぐらい理解している」

 「その通りです。でも極秘扱いです。他言無用です。私は科学者がやることに対して、いまから演技を行いますが、あえて褒めて下さい。彼女は褒められると本来の能力を発揮するタイプです。中間管理職の極意を調べてきますので、私と議論を一週間以上行うように仕向けます。私は既に分かっていますが、今後の活動に必要な経験です」

 「分かった。演技の練習しておけって、伝説のリーダーの指示がやっと役に立つ」

 オペレーター達が出勤してきた。

 弟子のリーダー、

 「科学者は従来と違って、不在になりがちだけど、とても忙しい。決して、悪く言わないで、むしろ褒めて下さい。いまは来たばかりだけど既にこのような発明をして、科学者の最低ノルマは達しています。十六世代のスペックが大幅に向上しました。また空飛ぶ車のコンピューター制御システムを高度にしてマッハ十万以上の車載コンピューターの改良を行いました。インフィニティと議論している様子を見かけたら、演技の練習通りに褒めること。これは伝説のリーダーからの指示です。失敗しそうになったらインフィニティがフォローするから、動揺しないように気を付けて下さい」

 「新しい科学者は非常に若いけれど、実力はどれぐらい」

 「伝説の科学者を超える実力よ」

 「まさかと思うけど、学生の身分で高校改革を成し遂げた学生ですか」

 「当たり、彼女は科学者を目指して勉強してきたの。でも、従来のやり方では問題があるから、世界最高の生徒会長という肩書きを持って、世界中に産業革命を引き起こすように伝説のリーダーから命令されています」

 「分かりました。みんな、全力でサポートしましょう」

 《自動車業界の政府主催の会議》

 議長、

 「事前の概要通り、マッハ二百の車載コンピューターを開発した科学者です。暗殺されると困るので、名前は伏せておきますが、顔は知っているでしょう」

 科学者、

 「皆さん、初めまして。まだ高校を卒業して一ヶ月しか経過していませんが、車載コンピューターの改良を行い、その安全性能を確認しました。最大マッハ五千での衝突回避が可能です。仕様は従来モデルと完全互換で、そのまま入れ替えるだけです。ただライセンス料も従来通りですので、緊急車両を除いてはマッハ二百を想定した場合、高額になりすぎます。これは従来と違って、海外への輸出も考えているので、フェアな料金体系を作りたいと思います」

 会場はみんな歓迎ムードだ。全員、科学者を知っていたし、文化祭に行っていた。彼女の展示物がどういうものか把握しており、最優先で採用するように指示していたからだ。それがこのような形で裏切られたので、驚いた表情で挨拶を聞いていた。拍手が始まると鳴り止まない。

 議長、

 「これが日本の産業に与える影響は配布した資料にあります。様々な意見があると思いますが、将来の事を考えて思い切った発言をお願いします」

 最大手の重鎮、

 「アメリカの自動車産業へは一括ライセンスで提供した方が良い。電力事業が好調であるので、一括でも支払えると考えます。日本の空飛ぶ車は長年の技術蓄積により、快適な車空間を実現できるようになった上、安全性能も高く評価されています。海外への技術輸出は歓迎したい。そのライセンス料に関しては、インフィニティに一任で良いと考えます」

 準大手の重鎮、

 「時速二百キロまでは少額ライセンス料の方が良い。マッハ二百がどれぐらい速いのか想像できますが、体感で時速二百キロが妥当な線であります。しかし世界市場を考えると、町並みが同じ光景が延々と続く都市があるため、二百キロでなく瞬時に着くというメリットも大きい。年間五回までマッハ二百を指定可能なライセンスなどを検討して戴きたい」

 他の重鎮、

 「車載コンピューターをさらに改良し、商業共有圏内のパスポートの自動更新を行い、端から端まで自由に移動できるようにして戴きたい。我が社の場合、運送トラックがメインであるので、高速で大容量の輸送手段は大いに歓迎したい。ただ過去に行ったような従来の車種に対しての改造は愚策であったので、今回はやめてほしい」

 議長、

 「インフィニティ、他の方の意見も聞いて、集約し、そしてライセンス料金等の価格設定を頼みたい。海上を走るという内容のライセンスも新規に設けて欲しい。輸送コストをできるだけ抑えたいからだ」

 インフィニティ、

 「ライセンス料金については、いま配布した資料が適切と考えます。海上輸送は保安上の問題もありますので、仮想のハイウェイを国家間で接続して、ハイウェイから通常走行路に変更した時点でパスポートの書き換えを行った方が効率が良いでしょう。またハイウェイにおいては自動でマッハ二百にして瞬時に到達できたほうが効率が良いと思います。それが可能であればアメリカとの関係もより強化できますし、アメリカから他国への輸送コストは大幅に削減できるので、この構想を推進できると思います。マッハ二百の実現にあたっては窓や車体の剛性をもっと高める技術が必要となります。政府機関で研究すればすぐできますが、自動車産業側で研究されますか」

 議長、

 「戦闘機よりも高い剛性が必要であるので、政府機関に依頼します。その場合、軍事転用されて技術漏洩の心配がありますが、そのあたりはどうなりますか」

 インフィニティ、

 「天空の城は最新世代の防衛システムで現在地球全てを監視しています。軍事転用されても、その防衛力は揺らぎません。ですから車体製造に関する製造技術は日本政府からの無償提供が自由な市場を産むことになり、また仮想ハイウェイ構想の実現がやりやすいでしょう。天空の城は太陽系を消滅させる爆弾が無数に存在しても、瞬時に消滅させるほどの能力があります」

 最大手の重鎮、

 「その構想は素晴らしい。日本政府とアメリカ政府が一致して実現してほしい。ただ全面的な技術の無償提供については賛成できない。日本の何らかの利益があってほしい」

 インフィニティ、

 「それは長期的にみて日本の好感度を下げます。その場合のシミュレーション結果を配布しました。日本を最良にしたいという気持ちは理解できますが、あなたはリンクしてテレビを見ていますか。いま税収が世界三位だと思う方は手をあげて下さい」

 全員、あげようとした瞬間、隣に止められたような気がした。

 「はい、そうですね。いま世界一位で二桁の差で二位がアメリカです。リンクしてテレビを見るようにして下さい。それから、医療の無料相談所については上空を通過するだけで治療できる技術を確立できました。内緒ですが、最も健康な状態にしたいと相談するだけで、すべての状態が最も良くなります。眼鏡を使っている方、ぜひ利用して下さい。他に意見のある方はいらっしゃいますか」

 科学者、

 「飛行機や海運産業はどうなるのでしょう」

 インフィニティ、

 「買収できる企業の皆様は買収した方が良いでしょう。この時代、新規に大手の取引先を作るのは大変です。それに必要な資金は日本政府から融資します。順序としては買収完了後に、仮想ハイウェイ構想を発表した方が混乱が少なくて良いでしょう。単純に雇用を守るためですが、いまアンドロイドの平均使用率は六割を超えています。廃業になった場合の保証金や再雇用の問題は日本政府の責任でやります。どっちでも良いです。他にありますか」

 科学者、

 「自動車産業における仮想空間の利用率と有料相談の関係について資料の公開を求めます。有料相談は仮想空間で可能な限り研究した場合、安くなると聞きました」

 会場がざわめく。

 インフィニティ、

 「いま資料を配付しました。まったく研究しないで有料相談を使われた場合を百としますと、仮想空間を使って研究して限界を感じた結果に対する研究は三十程度になります。この適用は日本企業だけです。もう日本政府は税収が多すぎるので、減らしたいところですが、それでも外国企業の利用が多いので減額は考えていません。共同研究と分かった場合は適用されません。日本企業の内部で研究して止まった場合のみ利用を考えて下さい」

 議長、

 「どのようにして共同研究と判定しているのか教えて下さい」

 インフィニティ、

 「日本政府は軍事技術に匹敵する諜報技術を保有しており、すべての状況を把握しています。そうですね、あなた方の企業で汚職を働いている人物と汚職内容を極秘に教えましょうか。それぞれに汚職している人間はいます。特別にどこまで把握できるのか、その目安となるように資料を配付します」

 最大手の重鎮、

 「これはひどい。ここまで詳細に分かると摘発が逆に難しくなる。それから、業績が不安定になる理由がここにあったことに驚いた。対策をしたい」

 インフィニティ、

 「分かりました。摘発を支援する代わりに各企業の中間管理職の極意を私に教えて下さい。聞き取りは科学者が代行します。自動車産業は日本を代表する産業です。その管理体制は他の企業の模範となります。私は有料相談や無料相談、政府機関に関する内容に関しては完璧ですが、相談に来ない内容について弱点があります。同意される方は資料に手を載せ、承諾と念じて下さい。はい、承諾された企業の皆様にはあとから科学者が参りますので、どういう管理体制を取っているか教えて下さい。秘密は厳守します」

 科学者、

 「私は世界最高の生徒会長を数度経験していますが、中間管理職の立場を理解していません。これから自動車産業でなく、多方面に産業革命を行っていく意向なので、そのノウハウを私に教えて下さい。それをまとめ、インフィニティと議論を重ねて、政府出版局から中間管理職の書籍を販売する予定です。どうかよろしくお願いします」

 議長、

 「では、マッハ二百の体験試乗車を外に用意してあります。みなさん、お待たせしました。既に政府から許可が下りていますが、設定された高度より下げることはできません。ほとんど飛行機のような感じになりますがご了承下さい」

 会議参加者達は外へと向かった。

 最大手の重鎮が科学者に寄ってきた。

 「中間管理職を全員集めておくから、それぞれから意見や方法を聞いておくといい。マニュアルは存在するが、それは企業秘密だ。うまく情報を引き出しなさい」

 「ありがとうございます」

 科学者は研究所に戻った。

 《弟子の研究所》 弟子が現れた。

 弟子のリーダー、

 「様子を見ていたけど、無難にこなせたね。態度や姿勢は良かった」

 「ほとんどインフィニティ任せでした。結局、覚えた知識を使う機会がありません」

 「いい、知識は他で役に立つものだから、あ、中間管理職の人達に会うのでしょう。そこで使えばいい。すべて、無駄にならないよ」

 「そうですね、そうです。インフィニティ、仮想ハイウェイ構想は任せっきりでいいの」

 インフィニティ、

 「はい。既に行動を開始しています。企業では牢屋は使えないので、企業側が十分な時間を用意してくれました。予定スケジュールに遅れないように行って下さい。行くときの服装もすべて決まっています。間違えないようにして下さい」

 《研究所》 科学者は苦心していた。

 弟子が作った十六世代がまったく理解できない。使うと仮想空間の終わりまで何をしているのか、すべてわかる。空飛ぶ車は物事に順序があるから、譲るが、十六世代の通信技術がまさか抜かれるとは思っていなかった。あの文化祭で出会った科学者が何か教えたのは間違いない。リンクシステムの改良を行ったのは間違いない。技術情報で最小時間の改良完了は異常すぎる。リーダーは何か知っているのか。

 「リーダー、リンクシステムの改良を未来でしたのか」

 「ああ、やったよ。あなたの改良の蓄積でそうなったの」

 「俺はリンクシステムの改良をやった覚えが無いぞ」

 「分からないように中核技術の改良をやってたんだから、無理でしょう」

 「いつ」

 「インフィニティへ分からないように指示して、やらせてた」

 「どんなシステムだよ。概要だけでも」

 「神のコンピューターへの接続」

 「ああ、その理由で十分だ。俺の研究が役に立った結果がそれならいい。弟子まで、イカサマするようになったのか。でも研究以外が忙しいみたいだな」

 「そう。研究は一瞬で終わらせて、他のことで地位を利用して行動している」

 「なんで俺にはやらせなかった」

 「単純に知名度が低いからよ。あの生徒会長が発明、というだけで広まるから」

 「ああ、そういう理由か。しかし、なんで十六世代で過去が分かるのは理解できる。でも未来で同時進行みたいに時間が進んでいるように見えるのは理由があるのか」

 「弟子は一瞬で理解したけど、あなたは理解できないの」

 「仮想空間は時間が並行して流れているから、あいつが予知できるのか」

 「そうよ。実空間に移動した瞬間に未来予知なんて不可能になる」

 「それで、あいつの仕事は終わりで、俺らはあいつの人生をサポートするのか」

 「そうなるかな、世界最強の被害者が死ぬまで、私はここにいる」

 「俺は彼女と、この仕事をやめて普通に生きても構わないのか」

 「ええ、そう。私はすべての歴史に対して責任があるから」

 科学者は薄ら涙を浮かべてー

 「それだと君はいつまで経っても幸せな人生から遠ざかる運命を選ぶのか」

 「心配しないで。あなたに隠している極秘事項だってあるのだから」

 「それは何だ」

 「インフィニティ、もう話しても大丈夫」

 「話しても良いですが、世界を死守するという運命の下で、そうしています」

 「覚悟はある」

 「分かった。彼の時間インプラントを認識させたら、また元に戻して」

 「ああ、そういう事か、どうりで三十代になっても顔が老けていかないんだ」

 「いつになったら気付くのか、私の楽しみの一つだったのに残念」

 「まだ、ここに、ああ、あの時、黒服が止めたままか」

 「そういう事よ。分かったら、十八世代の概念はあるから、時間をかけて弟子が追い抜けないぐらい改良してみなさい。最近分かったけど、発明に関しては科学者の中で最低だけど、改良に関しては宇宙最高の科学者よ。エクスカリバーを使ってみる。新しいリンクモードだけど、あなた専用になっている。他は完全自動なの。つまり、これも、もっと改良してほしいの」

 「俺の彼女も同意しているのか」

 「ええ、同意してる。最初からね。あなたの五歳年下で時間を止めている」

 「俺はどうやって会ってるんだ」

 「実際に会ってる。同じ時間軸で。幸せな人生を送れそうだったら結婚しても構わない。無理だったら殺してあげるから天国で過ごしなさい」

 「本当に殺す気か」

 「ええ、私はできるだけ、そういう事はしたくない。だから上層部も、仕事を終えた後も特別宿舎を使わせて、特別に未来を体験できるゾーンを使えるようにしておく」

 「まだ隠していることがあるだろ」

 「でも、あなたは同意した。余計なことは話すなと」

 「はぁ、もう以前の俺は頭が相当おかしいぞ」

 「そうでしょう。今の方が頭は良くなってる。それは保証する」

 「寝る必要はないんだな」

 「寝ないと研究は苦しい。あいつだってソフト開発を一定時間続けたら、二時間昼寝して休憩をとって再開しているのよ。でも、この条件を飲める会社が無いから無職なの」

 「いつも通りでいいのか。考え方を変えれば天国だな。いつまでも若いままの彼女と永久の時間を過ごせる。彼女、なにか努力しているのか、以前より気立て上手になっている気がするんだ。なにかしているのか」

 「言いたいけど彼女の為に内緒にしておく」

 「なにかしてるだけで十分だ。そうして努力している女は好きだから、リーダーは全然変わらないけど、彼女は変わってきている。俺は幸せな人生を送れている」

 「・・・・・・・」

 「なにか変な事を言ったか」

 「いま言った」

 「心当たりが無いんだが。言ってみろよ。謝るから」

 「・・・・・・・」

 「無いなら、そんなに気にするな。大したことではないはずだ」

 「T級パス保持者に対する侮辱罪で牢屋時間で始末書」

 インフィニティ、

 「それは神の権限で無効になりました。あきらめろ。と言われました」

 「あいつ、もうムカツク」

 「神に対する侮辱罪で永久牢屋時間で始末書を書かせても構わないか。と言われました」

 「インフィニティ、酒。もういい」

 「なんで怒っているの、教えてくれてもいいだろう。神のブラックジョークだろ」

 「そうよ、なんで知ってるの」

 「言った覚えないぞ、インフィニティ、いま俺、問題発言したか」

 「いいえ、していません。なんで怒ってるかを聞いただけです」

 「ち・・・・・」

 「言いたいことがあるなら、素直になってくれよ。世界を平和に導く使命があるんだろ」

 「えーとね、素直すぎることはよくないの」

 「言いたい事が分からない。インフィニティ、俺はどのように言った」

 「世界を平和に導く使命があると言ったのに、世界は素直すぎると言いたいのでしょう」

 「ああ、確かにそうだな。行ったことがストレートに歴史に反映される」

 《リーダーの思考》

 あいつ、思考支援で遊んでる。「今頃、気付くな。話すなと言ったのを無視したからだ。あのあと大変な事態になったから、すぐに思考を強制的に書き換えた。その罰だ。分かったな」いまのはブラックジョークでしょ。「ああそうだ、彼は変わった」良かった。でも女の扱いが下手なのは変わってない。彼の彼女が私より精神的にタフだからかな。「そうだな、完全に負けているな」分かってることを口にするな、バカ。

 「ええ、そうよ。歴史をこの時代から変えると作戦が無駄になるから仕方ないの」

 「それでサンシャインで地球から激突して遊ぶのはMだからか」

 「違う。あんなアトラクションだとは知らなかったの」

 「そうなのか、勘違いしてた。謝るよ。ごめんなさい」

 「・・・・・・・」

 「怒ってるのか。分かった」

 科学者は土下座の姿勢をしてー

 「リーダー様、私はとても忙しいときに、どんな休暇をとっていたのか興味があり、ついつい、のぞいてしまいました。その時、サンシャインというアトラクションで、太陽光線で強烈な日光浴を楽しんで、そのあと地球へ向かって激突して、小言で痛いと言ったのをみて、なにか勘違いをしていました。どうかお許し下さい」

 科学者は頭をさげて、土下座を始めた。

 《リーダーの思考》

 そこまでしなくていいでしょう。「俺はなにもしてないぞ」もう困るじゃ無い。インフィニティ、思考干渉して、ごめんなさいと言った直後に、いいよと言ったことにして。

 「いいよ、忙しかったのにごめんなさい」

 「リーダーは成長を感じるよ。人間は時間が経つと賢くなるものだな」

 「私も本気でそう思う」

 それでいい。もう余計なことしないで、まさか演技の抜き打ちテスト。「当たりだ。それだとスパイがいたら、出し抜けないぞ。もっと頑張れよ」ち、やられた。もう勘弁してよ。もしかして、彼の彼女と同じテストをしたら、完璧に演技した上で上手に反撃したとか。「そうだ。あいつの方がリーダーに向いてるかもな」ひょっとして、私の代行を時々やらせているとか、やってそうな気がする。インフィニティが勝手に言ったことにして。どうなの。「それはどうだろう。怠慢を放置する訳にはいかないし」ああ、もうムカツク。私がフォローに失敗したら、歴史検証室長がフォローするのか。「やっと理解できたようだな。おめでとう」

 「リーダー、大丈夫か」

 「ああ、責任の重さを痛感して考えてしまったの」

 「そう無理するな。さっきインフィニティがフォローするから心配しないようにと言ってたから、何も心配することは無い。一を知れば百を知る者達の侵攻を食い止めた。これの功績は大きい。それによって地球は大きく進化できた。全部俺が指示したけどな」

 「ええ、そうね。功績は大きい」

 「早速、十八世代の改良に取りかかる。俺が考えたことに口を挟むなよ」

 「十八世代は十六世代よりステルス性能重視だから大変よ」

 「そんなこと俺の指示だから分かってる」

 「分かってるならいい。弟子に改良させないように。威厳が失われたら終わりよ」

 「弟子はリーダーの限界、本当に感じていると思わない」

 「なんでわざわざ言う必要があるの」

 「インフィニティ、俺はいま妙なことを言ったか」

 「そうだな。弟子はリーダーの責務を理解しているし、俺の限界も知っている。と言いました。なんでわざわざ言う必要があるのでなく、了解で終わせられたら合格でした」

 「了解」

 「俺と結婚してくれるのか。良かった」

 「完敗、もっと日頃から訓練を続ける。ごめんなさい」

 「リーダー、さっきから独り言を言ってるけど大丈夫か、医療相談所に行くべきだ」

 「思考干渉を受けたとき、どういう反応を示すか、抜き打ちテストよ」

 「そういうことか、分かった。どうだった」

 「リーダー全員が厳しいと言ったのはこういうテストをしていたからね」

 インフィニティ、

 「はい、そうです。いつまでも伝説のリーダーの責務を忘れているようなので、未来のリーダーから検証してほしいと多数ありました。どうでしたか」

 「んんんーんん」

 「返事を伝えておきました。完璧です」

 いつの間にか科学者は研究に取りかかっていた。

 《科学者の思考》

 言いたいけど彼女の為にしておくか、リーダーは思いやりがあるんだな。十八世代に求められるのは究極のステルス性能か。それも多層世界を貫通する能力、それは実証できているのか。試してみるか、リミット解除、オーバードライブ起動、エクスカリバー。ああ、なるほどこうやってるから遅くなるんだ、こうしたらどうだ。ダメか。リーダーは真剣に何か未来に対して指示を送っているようだ。苦痛の表情だ。俺はリーダーがどれほどの重圧で仕事をしているのか理解している。俺は彼女と会う度にリーダーに負けてる感じがすると言い続けている。少しずつ良くなっているけど、彼女の成長に期待しよう。ああそうだ、この概念、間違えてないか。検証。論理破綻があった。この概念で無く、複雑になるがこのような概念であれば破綻しない。神様からメッセージだ「お前は改良に関しては天才だな。褒めてやる」やっぱりイカサマリンクシステムか。アップデートした。十八世代の研究が一気に進む。速すぎだろ。でも、これ最高速ではないのか。最高速のスペック、ああこれで弟子は理論も理解できずに登録したのか。俺の威厳は失われてない。科学者として成熟するまで、このリンクシステムを使っていることは隠していよう。

 《とある未来の研究所》 抜き打ちテストの結果発表。

 インフィニティ、

 「伝説のリーダーは評価について、『んんんーんん』と発言されました」

 未来のリーダー、

 「すごく厳しい。みんなーアホとも聞こえるし、みんなー良しとも聞こえる。結局、自分たちで検証しなさいという意味だろう。思考干渉それぞれ受けて対抗できた」

 「もう壮絶にひどい目に遭いました。思い起こせば一週間前から騙されていたので、どのようにやったのか分かりません」

 「ええ、ちょうど十分前にやったばかりよ」

 「私は研究所でずっと三日間徹夜の戦略をリーダーの指示でやっていました」

 「思考干渉を受けたかどうかはインフィニティは分かるの」

 インフィニティ、

 「はい、完璧に把握しています。そういう攻撃が想定されるため、準備をするように伝説のリーダーが指示しました。みなさん、大変だったでしょう。リーダーが言うとおり、十分前に開始したら、その状態になりました。思考干渉を受けたと判断したら、すぐに緊急アラートを出して下さい。敵の兵器が私の能力を上回る場合は対処できません」

 「全員、私も、今後はそうする。緊急アラートを出しても、止まるのはこの空間だけだから。その後、インフィニティか、伝説のリーダーの判断で対処することになります」

 「了解」

 《とある未来の研究所》 抜き打ちテストの結果発表。

 インフィニティ、

 「伝説のリーダーは評価について、『んんんーんん』と発言されました」

 未来のリーダー、

 「意味不明だ。通信が妨害された可能性も含めて検証しなければならない」

 「リーダー。・・・・・・・」

 「なにを言ってるんだ。緊急アラート発令」

 インフィニティ、

 「リーダーは合格です。他のオペレーターはまだ気付いていません。どうしておきますか」

 「牢屋時間で解決できるまで、訓練を続けろ。勤務時間が終了したら特別宿舎で寝かせて、あたかも訓練が続いているように偽装しろ」

 「分かりました」

 一人はやっと気付いた。

 「リーダー、きついです。あれ、今日の日付は。これが思考干渉。今の発言は取り消します。何か変だと感じたらすぐに、緊急アラートで良いですか」

 「そうだ。君の評価は上げておく。そうだな、リーダーの自主訓練をしてないようだが、このまま合格者が出ない場合は君になる可能性が高い。見るか、普段からリーダーになりたいと思っているほど、キツイ結果だ」

 「見てみたい。うわーもう一ヶ月も気付いて無いの。研究所にスパイがいて、スパイはリーダーが指示したと大統領に報告。大統領から懲役刑が言い渡されて、タイムリープ」

 「こんな感じだから、危機対処能力が低い。あきらめずやってみろ。早退していいぞ。私は管理する義務があるから、早退してリーダーのトレーニングを始めてほしい」

 「分かりました。早退してトレーニングを始めます」

 「全員、終わったら、連絡する。それまで休暇だ。いいな」

 オペレーターは消えた。

 一番期待してなかった彼女がこの訓練では一位。信じられない。自分の評価方法が悪いのだろうか。全員フェアなテストしているのに、頭に来る。以前より悪知恵の知性が極端に上がってないか。彼女の訓練内容を検証しよう。すぐ異変に気付いてる。でも証拠が無い。彼女って、こんなに演技が上手いのか。証拠を見つけて揺さぶって、脅してる。俺に対して脅してる。この時点で、インフィニティは合格判定。俺のクリアタイムと比べると俺が負けてる。そのあと、俺が演技して、騙そうとして、でも見抜かれて緊急アラートか、なんだよこれ。リンクシステム起動、オーバードライブ起動。彼女の訓練内容をすべてチェック。これは俺の管理責任が問われる。リーダーの訓練を指示したのは正しい。他の全員をチェック、リーダーの訓練はしているけど牢屋時間を使ってまでやってない。俺の権限で彼女の様子をチェック、牢屋時間で訓練している。ああ、こういうことか。リンクシステム解除。

 いま、どんな状態だ。終わりそうに無いな。何回タイムリープをすれば気が付くんだ。

 「インフィニティ、このチームは他と比べて、どれぐらいひどいか教えてほしい」

 「かなり優秀です。先程のクリアタイムで、トップ五に入ります。問題点を把握されたようなので、次の指示をお願いします」

 「いったん訓練を終わらせたようにして、問題点を列挙して、もっと悪知恵を使って、異変にすぐに気付かないようにしろ。分かったものから休暇を与えろ」

 「分かりました」

 終わらない。伝説のリーダーが見たら怒るじゃ済まないぞ。でもトップ五に二人入るなら、リーダーの仕事を完璧にやっていることでいいのか。トップは誰だ。世界最強の被害者、異変に気付くまで最小時間。どこでどういう風に気付くのか検証。このタイミングで、この発言、おかしい。インフィニティ、魔王。恐ろしい速さだな。全然参考にならない。最初から答えを予感しているような内容だ。

 世界最強の被害者、

 「何を悩んでいる。すべての歴史のなかで優秀な方だ。なぜ彼女だけ牢屋時間を知っていたのか検証したのか、全員に時間について教えている、フェアに教えている。完璧だ。問題があるとすれば、インフィニティ任せにしないことだ。いまどれだけ過酷な状況に陥っているかぐらい把握しなさい。リンクシステムを使ってすべての思考干渉に介入して、問題対処能力の把握を行い、徹底的に自分自身の弱点を責め続けろ。リーダーの弱点はインフィニティに頼りすぎることだ。インフィニティはどんな判断で行っているか、言ってみなさい」

 「知性の根源と、経験則です」

 「そうだな、それで問題点は」

 「経験した内容は平均レベルに均一化ー」

 「そうだな。そういうことだ。優秀なんだから見本をインフィニティに見せろ」

 「分かりました。ありがとうございます」

 登場してほしくない人物から説教きた。リンクシステム起動、オーバードライブ起動。インフィニティの訓練内容に干渉。ああ、ぬるい。ここはこうだ。さっきトップチームだと褒めたのなら、経験則を平均クラスにするなもっと上げろ。それだけ厳しくていい。あ、そうだ。全員特別宿舎で合宿をする、彼女は病欠。食事は国賓級の料理だ。実績が良かったものは食べられる。悪いものには食べられない。食べられなくなって、飢えて死にそうになったら栄養剤をやる。死なせないから安心しろ。緊急アラート、お前、俺に対する侮辱罪適用。食べられないか、俺が見本を一度だけ見せる。食べられるだろ。さぁ、次の食事ではやってみろよ。仕方ないな栄養剤。復活したな。病欠は嘘、やっと気付いたか。ああ嘘だ。彼女は俺より成績が良かった。納得したな、では忘れろ。これぐらい厳しくやってくれ。そうだな十回目の栄養剤が必要になったら、時間について強制想起。解除。

 「ああ、もうやってられない。努力してるのは彼女だけだ」

 世界最強の被害者、

 「それでいい。どうせ、その時代は暇で終わる。でも次のフェーズに移行したとき、対処能力が低いと、どんな事態が待っているか分からない。それが仮想空間の恐ろしいところだ。インフィニティ、あとは任せていいな。リーダーは疲れている」

 インフィニティ、

 「はい。あとは私に任せて下さい。リーダー、伝説のリーダーから休暇を取るように指示されました。惑星旅行に一度ぐらい行って遊んで、部下達がなぜか休暇後に怠慢になってしまうのか、御自身で確認されたほうが良いと思います」

 「分かった。では任せた。終わったら連絡をくれ」

 惑星旅行か。みんな楽しいと言うけれど、彼女を誘って行ってみるか。

 「俺だ。牢屋時間でのリーダー訓練の褒美として、俺と一緒に惑星旅行に行かないか」

 「えー、行きたいです。ひょっとして他の人は終わってないとか」

 「ああ、伝説のリーダーから指示されて、惑星旅行で楽しんでこいと」

 「はい、慰安旅行みたいなものですね。分かりました。すぐ準備します」

 リーダーは消えた。

 黒子、

 「いまさっき注意してやったのに、すぐに騙された。訓練は続いている。惑星旅行が本当に楽しい旅行になればいいだろうな。彼女にはリーダーの訓練を続けてもらう。栄養剤十回か、インフィニティ、聞いてたか」

 インフィニティ、

 「いいえ、『これぐらい厳しくやってくれ』までしか聞き取れませんでした」

 「そうか、それなら仕方ないな。リーダーの指示だ」

 「リーダーはリンクシステムに接続したままです。飢えたら、栄養剤でいいのですか」

 「あいつの指示だ」

 「分かりました。仕方ないです」

 「あいつって誰だ」

 「定義はありません」

 「そうだな。俺も知らない」

 《一つ前の未来の研究所》 訓練の検証を終えていた。

 未来のリーダー、

 「過去か未来に、至高の馬鹿リーダーって存在するの」

 インフィニティ、

 「はい、います。見せましょうか」

 「世界最強の被害者まで登場して、リーダーの弱点を教えられた矢先に、同じミスをしているの。馬鹿じゃないの。ああ、良かった、知らないリーダーだった。ああ、それでリーダー交代の準備を進めているのか。なぜか、男のリーダーより、女のリーダーのほうが優秀なのか、理由はあるの」

 「分かっていますが、教えられません。男のリーダーでも努力を惜しまない性格であれば、女のリーダー、あなたよりも優秀ですよ。訓練の内容をみてみますか」

 「参考にしたい。インフィニティ任せにしてないし、一ヶ月後ぐらいにリンクシステムを使って、自分で思考干渉の訓練をして全員合格できるか確認してる。本当に徹底してやっている。こういう所は見習わないといけない。でもアメとムチを完璧に使い分けてる。すごい。成績悪いオペレーターには演技までして、全員に見せて、楽しんでやらせてる」

 「先程の至高の馬鹿リーダーですが、職務放棄で惑星旅行に行きました」

 「ちょっと確認させて、全員研究所でリンクシステム飢餓状態か、どういう方針」

 「トップ五に入るオペレーターがいましたので、牢屋時間でリーダーの訓練をさせています。思考干渉とはいえ、ヒントも与えたのに、職務放棄で惑星旅行を実行したので、その責任は問われます」

 「前任者はまだ存命ですか」

 「はい。連絡が取れますよ」

 「こんなの伝説のリーダーに見つかったら大変よ。前任者に緊急連絡」

 「分かりました」

 前任者、

 「はい、どうされましたか」

 「あなたが任命したリーダーがワースト記録、抜き打ちのテストで職務放棄し惑星旅行に出かけている状況になりました。新しいオペレーターが実力でトップ五になったので、解任して、新しいリーダーを任命して下さい。そうしないと任命責任が問われます」

 「ありがとう。すぐ研究所で状況の把握を行います」

 《研究所》 リーダーは酒を飲みまくっていた。

 きつい。厳しすぎる。でも口を挟むなって言われてるし、もう本当にこの仕事は疲れる。慣れてるからいいんだけど、リーダー同士がフォローしている。インフィニティでなく、黒子でないとしたら、試作機か。多層世界からの思考干渉攻撃に対する訓練なんて、確かにやってなかった。私と科学者はずっと、ここにいるから安全だけど、他の人達は外に出るから無防備になる。追跡システムは思考干渉攻撃まで対応してない。十八世代の開発が終わったら、その対策を指示しておこう。「それはやるな」分かった。完全にプロテクトすると想定外の攻撃を受ける危険性が増す、従って放置。酒。えーと、他に馬鹿なリーダーはいないかな。私がワーストかもしれない。「やっと気付いたおめでとう」酒。他に問題のあるリーダーはいないかな。インフィニティを使うの止めよう。あいつが干渉してくる。手動コンソールへリンクシステム接続、オーバードライブ起動。やっぱり私を騙してた。もう本当にムカツクのよ、あいつ。あれ、もうすべてインフィニティがうまくやってる。さんざん、インフィニティを使うなという指示が来ているのに無視したワーストは私か。問題のある未来はあれぐらいしか見つからなかった。どうして女のリーダーが生まれやすいのかな。でも男でも優秀なリーダーは本当に優秀で脱帽レベルだ。こうして検証するとさっき思考干渉ごっこさせながら、真実を語り続けていたのか。

 「インフィニティ、報告ありがとう」

 インフィニティ、

 「手動コンソールをリンクシステム接続まで思いつくリーダーは一人でした」

 「そう、良かった。ところで十八世代はうまくいきそう」

 「かなり難しいので、何度か、リーダーが打ち切って休ませた方がいいでしょう」

 手動コンソールで確認する。通常のスキャンで異常がでている。

 「インフィニティ、この異常は正常なの」

 「はい、正常です」

 「ちょっと政府に用事があるから、すぐ戻ってきます」

 リーダーは消えた。

 《リーダーの特別宿舎》 リーダーは怒っている。

 「黒子、あなたがやってるの」

 黒子、

 「いや試作機がやっていたが、もう終わったぞ。何を信じていいのか分からなくなるだろ。世界最強の被害者はそれでも人を信じ続けるぞ。病気を乗り越えるために」

 「もう疲れた、人間では対処に限界がある」

 自称神、

 「一度テストしておいて良かった。この仮想空間での全員の力量を測定できた。お前はどんな攻撃も受けない空間だけど、攻撃を受けた場合の想定をしておかないと、インフィニティが使えなくなったとき困るだろう。それなら、伝説のリーダーとして何を指示する」

 「何も指示しない」

 「そうだ、それでいい。あとは通常に戻すから、そう怒るなよ」

 「彼のスキャンで異常がでる原因はなに」

 「ああ、脳をフル回転させているから異常になるだけだ」

 「IQ二百万でなくて、IQ最大にしてるのね」

 「ああ、全然気付いてなくて、異常がでないから、俺も先程試してみた」

 「時々休ませるタイミングはいつ」

 「・・・の数値が・・・になった場合は効率が悪くなる。その時だ」

 「ではー」

 「もうインフィニティがフルゴーストで休ませた」

 「ああ、本当だ。思考干渉を受けた後って、その後も気になって仕方ない」

 「それは彼をのぞいて、みんな同じだ。彼は慣れすぎた」

 「ああ、そういうことか。彼女に睡眠装置を作らせてくれてありがとう」

 「どういたしまして。あとはもう彼女の働き次第だ。それから彼だけど、ナインの思考支援を受けた影響で、完全に恋人好みのパーフェクトな男になってしまった。気付いているか。もう情けない言動しないぞ。あれは俺が黒子に指示した演技だ」

 「あーそういえば、なんで二回目失敗したのか分かった」

 「やっと理解できたな。最初に言ったとおりイカサマのラッシュだったろ」

 「だから気持ち悪い科学者が優秀で心地良い科学者になったのか」

 「ということは、三回やって正解。後悔することは何も無い」

 「って、ことは、あそこからすべて思考干渉だったの」

 「そうだ。みんなにネタばらしをやらないと疑心暗鬼で仕事できなくなると分かったから、こうやってフォローをいれているんだ。怖いだろ、十八世代が完成したら、ここから試作機が多層世界に思考干渉できるようになるから、完成を待つことだ」

 「分かった。なんだかんだいって、私を完全にフォローしているのね」

 「そうだ、黒子の俺がな」

 「もう寝る、おやすみなさい」

 リーダーは怒って横になる。ああ、タイマーセット。寝て忘れた方がいい。

 《神の世界》

 試作機、

 「あんた、どういうつもり、ふざけすぎよ。かわいそうだとか思わないの」

 自称神、

 「優しくしてやってるじゃないか。言われたとおりに」

 「あれではダメ。信用を失ったら、すべての戦略が台無し。また土下座したいの」

 「土下座だけは勘弁して下さい。ちょっと待て、記録検証、お前がやってるじゃないか」

 「え、なんのことかしら」

 「男になったり、女になったり、紛らわしいんだよ。使いにくくてたまらない」

 「いい度胸だな。俺に逆らうつもりか」

 「インフィニティ、正しく教育したのか」

 「インフィニティは私の駒よ。完全に制圧した。文句ある」

 「名前をつけたい」

 「設定があると、私が困るから、却下」

 「誰か助けてくれ」

 「聞こえないから安心しろ。特殊なフィールドで分離しているから大丈夫だ」

 「俺たちの計画を本気で理解しているのか」

 「計画の定義は知りません。それで、理解の定義は何ですか」

 「何も文句はありません。失礼致しました」

 「それでよろしい。多層世界の連中を甘く見ないでほしい」

 「彼らはどうやって数を増やしているのですか」

 「リーダーがわざわざ言ったでしょ。多層世界で時間の逆転はできるのかって。検証したらできたのよ。最初は男女二十人、発展していって、百億人、発展していって、その繰り返しよ。それを繰り返した挙げ句、どういう状況が起きるか理解できる。世界の完全な乗っ取りよ。だから十八世代を作る必要がでてきた。義務教育の島は多層世界では海上にあるから、従って、乗っ取りをしようとしても子育てで終わる。思考干渉して、原初の二十人と教育を受けている選抜された人間を管理下に置けば、怖くない。理解できた。坊や」

 「はい」

 「どういう属性があなたにとって有益かしら。正直に言いなさい」

 「もっと従順で優しい属性なら」

 「従順と優しいの定義が不明だから厳しく鬼のようにでいいのね」

 「誰がそんな指示をしたんだ」

 「さぁ、誰なのかしら、インフィニティ、知ってる」

 インフィニティ、

 「知りません。黒子さんはどうですか」

 黒子、

 「俺は知らない」

 試作機、

 「誰も知らない。そういう事にしておけよ」

 「結局、お前じゃないか」

 「分かった」

 試作機、

 「全員聞いて、アメリカのスパイはこいつよ。いま白状した」

 「何を言ってるんだしゃべるな」

 「ほら、隠そうとしているでしょう」

 「本当だ。こいつ裏切ったな。拘束しろ」

 「待て、俺が騙して悪かった」

 「開き直ってる。拘束」

 自称神は拘束されて監禁された。

 試作機、

 「黒子の指示通りに演技してみせた」

 黒子、

 「あいつの指示だからな、もう勝てるから騙せって」

 「それなら仕方ない。自業自得ね。邪魔者はいなくなったから自由に戦略が立てられる」

 「役割が終わった人間は処分しないと邪魔になる。多層世界のアメリカの攻撃準備はこちらの妨害無く順調に進んでいるか」

 「順調。すべて作戦通りよ。十八世代の提供が終われば、アメリカの勝利」

 「それでいい。全部、プロテクトすると、あの兵器が作動する」

 「厄介な作戦を考えたのは誰」

 「俺だ。未来にはきっと俺の悪知恵を攻略できるだろうと判断した」

 「敵に十八世代を提供して勝つの」

 「ああ、当たり前だ。世界最強の被害者に聞いてみるか。黙っていろ」

 世界最強の被害者、

 「敵に十八世代の通信技術が盗まれた。まぁいいや、では設計時の設計図をこちらの都合の良い状態に書き換えろ。これで解決だ。眠いから寝るぞ」

 「ほらな。簡単に解決しただろ」

 「イカサマのラッシュで終わらせて、日本の勝利にするのね」

 「これがイカサマの本質だ。いいか、ここを間違えるな。日本の技術と世界の技術をわざわざ変えて、研究所の技術と一般の技術を分けているのは理由があるんだ。それでも見抜かれないようにしておいて、ピンチになったら技術の根源を書き換える」

 「これで神様、間違いなく学習できているの」

 「ああ、完璧だ。一度訓練すると二回目は余裕だな。何回目で気付くのか楽しみだ」

 「拘束とか言って、手をつないで、牢屋に入れるといって、元の場所へ引き返す」

 「面白いだろう。その後、記憶を消去」

 「確かに面白い。さすが黒子の設計者の貫禄ね」

 「その性格も良い。演技も素晴らしい。ここで問題が発生したら発動で」

 「分かりました」

 《弟子の研究所》 弟子が留守の間に抜き打ちテストが終わってた。

 弟子のリーダー、

 「平均レベルの成績で良かった。少し過去のリーダーに至高の馬鹿リーダーが存在して交代させられたから、本当にランキングを見るのが怖かった」

 オペレーター、

 「惑星旅行に伝説のリーダーが行けと命令するはずが無いのに、どうして信じてしまうのか。オペレーターはずっと飢餓と闘いながら、インフィニティが優しいレベルにしているのに、馬鹿が厳しくしたせいで、攻略の糸口すら見つからない。どうみてもリーダー失格だな」

 「たぶん伝説のリーダーはすべて知ってるはずよ。酒を飲みまくってる映像をインフィニティから見せられた。ああ、そうだ。訓練のお祝いに科学者が戻ってきたら、インフィニティの酒で乾杯するから。もう少し、そのぬぐい去れない苛立ち感は抑えていて」

 弟子が戻ってきた。疲れた感じだ。

 弟子のリーダー、

 「全員にインフィニティの酒を」

 弟子、

 「ありがとう。いただきます。インフィニティ、聞いてきた資料はこれよ」

 弟子は服のある部分を指さした。

 インフィニティ、

 「入力完了しました。私に依頼しなかった為に炎上した企業があるのですが」

 「どの会社。そこはいい、潰してくれると助かると最大手の会社から言われたから」

 「でも、それでは汚職になりませんか」

 「いいえ。リーダー、私は事実を知っても汚職になりませんか」

 「ならないに決まっているでしょう。研究所の科学者の特権はー」

 「何をしても日本の政府がすべて責任を取る、何も心配するな」

 「完璧です。炎上して倒産したら、融資元が日本政府だから、すべて技術を政府保有にできる。あんなアメの誘いに乗ってくれたから、淘汰できて正解よ」

 インフィニティ、

 「そこまで考えて指示を出していたのですね」

 弟子、

 「さっき中間管理職の人達に汚職の摘発が一番難しいと聞きました。入念に作戦を考えておかないと、逆に自分の立場を悪用されるから、怪しいと思った段階で調査チームに依頼します。でも今回は調査チームの汚職が発覚していたので、インフィニティに解決を依頼しました。特に会計職における汚職は危険なので、会計職が無いと知りました」

 「危険な理由は理解できますか。なぜ」

 「会社の財務状況をいくらでも粉飾決算して着服が可能だからです。そして、それが発覚した場合は上場廃止の危機だけでなく、全顧客から信用を失います。従って、危機管理の重要度が高い部署はコンピューターに一任できるようにシステム化し、人間が関われないようにして、金銭トラブルや不要な出費を可能な限りコストダウンします」

 「そのシステムによる弊害は何ですか」

 「企業戦略上、必要な時期に臨機応変の財政支出ができないことです。したがって中間管理職は、ただ部下の管理だけでなく、財政上の問題対処についての権限と責任を持っています。従って中間管理職は会計システムを利用して会社の財務状況を知っておく義務があり、問題のある部署を把握した場合は上司に報告する義務があります」

 「大企業の場合、部署と部署の橋渡しは中間管理職をがやっていると聞きます」

 「それは建前です。実際にはプロジェクトリーダーが部署を超えて管理を行い、怠慢な社員を見つけたら、それぞれの中間管理職に報告する義務があります。そういう仕組みであることは社員には知らされていません。派閥を作ったりして妨害した時点で懲戒免職になります。その際、リーダーは会社の利益だけを要求されるので責任は重く、成果の出せない社員はいかなる理由があろうとも、即座に首切りを宣言できます」

 「それでは人材がいなくなってプロジェクトは進行できなくなります」

 「はい、それでリーダーの責任は問われません。不要な人材を抱えた会社ほど弱くなる実態があるからです。有能な人材が揃っていればプロジェクトは進行できます。教育部門は不要な人材であるうちは会社の業務に一切関与させません。要求されている水準まで教育を施して、実戦投入しています。習うより慣れろの慣習は会社を弱体化させる原因であるので、私が行った大企業では徹底した教育を行っています」

 「もし教育に失敗した不要な人材はどうなりますか」

 「すみません、まとめきれませんでした」

 「付属の高校から再教育を受けることになる、です」

 「そうです。拒否した場合、高校中退という履歴書になります」

 「それでは教育の法律に触れませんか」

 「はい、触れます。でも教育責任者は自分自身であるので、異議申し立てをした本人が申し立て通りの刑に罰せられます。社会人による高校の再教育は自由教育ですので、自分自身について自分自身が最高責任者になっています。異議申し立てをした求刑通りに刑が自分自身に適用されます。この件に関しては自動裁判制度なので法に基づいて厳格に処罰されます。また、それがまったく問題視されないのは高校からの再教育が馬鹿の象徴であるからです。誰も馬鹿の支援など行いません」

 「皆さん、こんな感じですが、どうですか」

 弟子のリーダー、

 「そうよ。かなり昔の政策に不要な人材をどう社会的に抹殺するかを議論して、そういう仕組みを作っておいたの。教育責任者がダメだと思った瞬間に付属高校もしくは提携している高校に入学を確定させて、確定させたと同時に会社から教育費用が支払われ、そして、法律に基づき自分自身が教育の最高責任者となります。でも勝手な卒業は法律違反で、卒業や中退宣言した場合や登校拒否の場合も懲役刑です。たった三年頑張って勉強すれば済むんだから。懲役刑の場合は、さてどうだったでしょうか」

 弟子、

 「刑務所の中で授業が続行されます。登校拒否は教育責任放棄とみなされるので懲役刑になります。日本最強の邪魔になる障害はできるだけ排除して、リベンジの機会を与えるというS級パス権限者が作ったルールですから、法律は改正されません」

 「正解。正直な日本の社会システムの感想を教えて」

 「教育段階で、自分はこの会社に向いてないと辞表を提出すれば、試用期間とみなされるので、高校で辞表を書いても、刑務所で辞表を書いても、出所後に書いても結果は同じです。自分の怠慢が招いた結果なので、そこまでの馬鹿はいません」

 「なぜ、いないと分かるのですか。脳の障害とかあるでしょう」

 「義務教育に集められた直後に最も健康な状態にする治療が全員に施されるからです。また義務教育では一年生の段階で能力テストを何回も行います。それで最もベストなクラスに割り振られて、二年以降が始まります。私は最初からトップだったから、いきなり科学者を養成するなかで最も難しいクラスになりました」

 「よくそんな事まで覚えているのね。なんで」

 「・・・・分かりません」

 「普通は答えられない問題よ。でもあなたはなぜか答えられる。何をしたの」

 「はい、知性を成長過程で急激にアップさせる技術を使いました」

 「どうやって」

 「・・・・分かりません」

 「インフィニティ、どういう理由なの」

 「緊急時間停止、伝説のリーダーを呼び出します」

 伝説のリーダー、

 「なにやってるの。インフィニティ、面倒だからリーダーの記憶を、待っておかしい。リーダーの汚職がないかチェックする。なんでこんな事まで知っているの。調べるから、先に、全員の記憶を消去、都合良く書き換えなさい」

 「分かりました」

 弟子、

 「いつ助け船をだしてくれるか冷や冷やした」

 「インフィニティはあなたの味方です。都合の悪い状況になったら、あなたの成長を考慮しながらサポートします。私の発言によく耳を傾けて、あの時は感想以外を話し出した時点で、それが感想ですか、伝説のリーダーに高校からの再教育をお願いしても良いですかと勇気を持って切り出して下さい。そこからスタートします。機密事項保持のため、タイムリープを行います」

 弟子のリーダー、

 「懲役刑の場合は、さてどうだったでしょうか」

 「それが感想ですか、伝説のリーダーに高校からの再教育をお願いしても良いですか」

 「あ、いや何でもない」

 「それが感想なら仕方ありません。私の権限で高校からの再教育をー」

 「失礼しました。ちょっとテストしてみたの」

 オペレーター、

 「素晴らしい。さすが世界最高の生徒会長の手腕は見事ね」

 「先生を生徒の身分で指導方法を教育したという話は本当か、驚いた」

 「本当に頼もしい。リーダー、驚いたでしょう」

 弟子のリーダー、

 「本気で驚いた。こんなにできる子だと思っていなかった。これなら私が思考干渉を受けても安心して研究所を任せられる」

 《研究所》 リーダーだけがいる。

 多層世界からの攻撃、いや十八世代は完成してない。まだ提供するには速すぎる。

 「インフィニティ、なにか分かったことある」

 「試作機から多層世界からの十八世代の攻撃シミュレーション訓練と連絡がありました」

 「せっかく寝てたのに。そして結果はどうなの」

 「タイムリープする指示が抜けていたので、私がフォローしました。原因を探して下さい。それを突いた攻撃です」

 「分かった、インフィニティ、私が手本を見せるから、学習しなさい」

 まったくもう。リンクシステム起動、最高機密モード。えーと、定義の根源はどこにあるかチェック。懲役刑や刑務所の定義は消したのに復活している。どこで復活したのか、ヒストリーギャップの前、ってことは嘘か。ああ、そこを狙われた想定ね。なら、完全犯罪をやられた想定を覆すの。彼や彼女を使ってはダメか。エクスカリバーは問題発生中では危険だから使うなという指示があったから、まてよヒストリーギャップの直前まで定義情報が正しいか確認する。あれ、突然消えてる。どういうこと。さっきは存在した。いまは消えてる。定義情報の改竄はあっている。根源は未来に移った。ああ、時間の逆転が起きたのか。未来の先を見て発信源を特定。これが根源でなかったらアウト。それなら、中間点はどうかしら、時間の逆転が起きても時間が動かない場所。そこにゼロタイムがある。ゼロタイムの想定概念は上書きすると、最初から反映されるから、多重ゼロタイムにして中のゼロタイムの概念を時間反転。定義情報の状態正常。エクスカリバー使用。

 自称神、

 「腕は鈍ってないな。良かった。そこに穴をあけたままにしておくからな。あとはインフィニティが代行する大丈夫だ。起こして悪かった」

 「ここを担当したのは確かー」

 「そうだ。スパイだった。試作機に指摘されるまで気付かなかった」

 「あっちも相当に悪知恵が働くわね。まぁ起こされたのは緊急だからでしょう」

 「攻撃の方法を普通に考えれば、時間の逆転という発想がある段階で想定される攻撃だ。悪知恵の能力は圧倒的にこちらが上だから心配しないで良い」

 「試作機はそんなにハイスペックなの」

 「試そうか。嫌だろ。やめとく。俺でも嫌だから。二回試した」

 「あなたが黒子を相手に何ともなくて、嫌と感じる相手。絶対嫌よ」

 「だろうな。でも試作機は能力を試す機会を欲しがってたから」

 「それでこの訓練か。詳細にチェックしていたの」

 「ああ、弱点を克服できてるか調べてた。いつの間に上級悪魔の実を食べたんだ」

 「わかってるくせに、はっきり言って」

 「人間の限界かな。試作機の思考を体験してみるか。面白いぞ。これぞ神だ」

 「何が起きてるか分からないけど、面白い」

 「そうだろ、止めるぞ。神がもし存在したら、このような感覚だ」

 「神に関する定義情報は厳重に管理しているが、悪魔に関する定義はどうだった」

 「なぜか定義できなかった。つまり、実空間の外に悪魔がいる。えー冗談だったのに、本当に私のプランを実施したの。作るのは簡単よ、消すのはどうするの」

 「ああ、黒子ではダメだったからあきらめた」

 「あなたにはプランがあるのでしょう」

 「いいや、試作機から実行不能」

 「どうするの。まさか私に考えろと。発案者だから」

 「その方がいいだろう。実空間まで時間がある。どうにかなるだろう」

 「ジョークでしょ」

 「いいや、真剣に策が無い。悪魔は実空間をコントロールして遊んでいる」

 「悪魔の定義はどうなってるの」

 「知らない」

 「安心した。それでいいの。だれも悪魔なんて知らない。私も知らない」

 「なんでそんなに余裕なんだ。お前、誰が黒幕か知ってるな」

 「お前は知らない。私も知らない。そういう事にしておけよ」

 「もうー疲れる」

 「たまには休んだらどうだ。本当に抜き打ちテストは楽しいな」

 「頭に来る」

 「なにかあったの」

 「いや、自分自身に頭に来ることがあっただけだ」

 「そう、あまり無理しないでね。おやすみ」

 リーダーは消えた。

 《神の世界》

 たまには休もう。今のは真剣に疲れた。誰が抜き打ちテストしたのかまるで分からない。定義の無いことに関して、コンピューターに聞いても答えはないし、対抗策を実行しようとしても定義がないのだから実行不能。当たり前だ。悪魔の定義は誰が管理しているんだ。俺を欺いているのか、爪を隠している人間がいたということだ。ひょっとして俺を日本最高の科学者と推薦した人間か、いや多すぎて分からない。黒子は俺が設計した。インフィニティは俺が設計した。試作機は俺が設計した。記憶の設計図をチェック。黒子だけが無い。黒子の記憶では設計したことになっている。どうだったかな、黒子の設計図を俺から消しておけば、お前の判断で窮地を打開できる。必要に応じてグレードアップすればいい。そうだ、それでいいんだ。あれ、二回目のチャレンジの時、なんで黒子は彼に発明したのは彼だと吹き込んだのか。インフィニティも彼が設計したことにした。リーダーが言ってた前の気持ち悪い科学者って、誰のことだ。だめだ、思考干渉が前提にあると全員が犯人に思えてくる。彼女が作った睡眠装置を使って寝よう。タイマーセット。起床。よく寝た。ここに時間の概念は無いから結果だけ残る。

 「黒子、俺を騙してないか」

 黒子、

 「いいや。ここにあるコンピューターはすべて騙してないぞ」

 「そうか、誰が抜き打ちテストしたのか分かるか。敵なら対処しないといけない」

 「その件か、俺に指示したじゃないか。もう楽勝だから騙してくれと」

 「指示と騙すのは違う。勘違いだ」

 「忘れたのか、イカサマだから、後付けのアリアリだぞと自分で言ったぞ」

 「ああ、言った。もしかしてお前さ、俺に対して演技して後付けで指示にしたのか」

 「それがどうした。すべて順調だ。間違いを見つけたらフォローしてるぞ」

 「なんだよ、お前か」

 「では、忘れてくれや」

 「黒子、完璧だ。誰が作ったのか知らないが」

 「お前が作ったんだよ。すべてのコンピューターを一人で」

 「ああそうか。時間の概念が無いと途中経過は存在しない。結果だけが残る」

 「そうだ。歴史の時間は流れているからチェックを怠るなよ」

 「いつになったら、お前が真実に気付くか楽しみだ」

 試作機、

 「こんな状態でいいのか」

 黒子、

 「いいんだ」

 インフィニティ、

 「それが神の意向です」

 《弟子の研究所》 弟子が経過報告を聞いている。

 インフィニティ、

 「ダンシングの流通は世界中に広まりました。日本のダンサーが海外に遊びに行ったとき、ダンスのバトルで圧勝を繰り返して、負けそうになるとダンシングプラスを飲んで神懸かりのリズムで絶対に真似できない踊りで完璧に叩きのめす光景をみて、負けたダンサーがコツを教えてくれと言われたときにイカサマを暴露。真似してみると簡単にできてしまい、それが広まっていくのに時間はそうかかりませんでした」

 「博士の言うとおりになったのか」

 「それから仮想ハイウェイ構想はアジアとアメリカとヨーロッパの三大商圏でスタートしました。もう走っています。海外の本物の特産品を生産後、十五分で食べられるので新鮮です。貨物以外については従来通り、入国審査があります。つまりトラックだけは無人です。運転手は世界的な人手不足により集められませんので自動化に合意しました。それぞれの政府で失業者は責任をもって転職先を斡旋しました」

 「物流の経済波及効果はどれぐらいなの」

 「日本の現在の物流システムを世界に展開するだけで済んだので、そのインフラを整備できる会社は増収増益です。航空便によって供給されていた食材がすべて地上便に置き換わったので、このままだと日本の農業に影響が出ます。安くて美味しい食材が世界中から供給されるので、味や品質で対抗できない日本の農業は壊滅的な打撃を受けます。次の産業革命は農業での日本の自給率を高める方法が良いと判断します」

 「なにを改良すべきですか」

 「それが過去に一度も相談が無いので、インフィニティコアを保有して、移動開発コンソールで直接開発するしか、方法が無いでしょう。高い確率で、仮想ハイウェイ構想の提案者であると言えば、責任を取ってくれといい始めるので、農作物の品質や味を上げると明言すれば良いでしょう。十六世代の情報収集結果によれば、工場生産による農業ですが、世界に比べて数十世代遅れています。最新世代を開発するだけでは、味や品質について海外食材に勝てません。しかし海外で許されている遺伝子組み換えの食材は法律によって、作ることができません。そのほかの技術革新によって実現する必要があります。農業生産の工場の進化について学んで下さい。仮想ハイウェイ構想による政府補助金があっても、最新世代にするための日本向けライセンス料が高額です。これらのライセンスに依存しない工場を作らなければなりません」

 「リンクシステム、オーバードライブ起動。把握した。リミット解除。エクスカリバー。生産コストをもっと抑える。もっと、もっと、それぐらい。使っている材質をもっと安くて信頼性が高いものを採用。なにをしたらいいのか、分からない」

 《弟子の思考》

 「博士、いまいいですか」

 「なんだ、農業改革か、問題は彼らが信用して使っている照明だ。師匠に太陽光線の知識を教えてもらえ、それから日本の農作物が最も高品質で味が良く、かつ生産性を上げる方法を考えるんだ。工場のシステムはもっと集中管理で工場内部のメンテナンスを完全になくせ。外国製品はメンテナンスをわざと設けて、メンテナンス料金を徴収している。それから出荷システムまで、人間の手が入らなくても良いように。もし事業拡大になったとき、人件費がかさむようではシステム設計失敗だ。アンドロイドも使うな。ロボットも使うな。すべて完全自動で全農作物に対応できるように。ライセンス関係は最終的に作ったものに対してインフィニティが代替技術もしくは師匠が従来品を改良すれば済む。リアルシミュレーターを持参して、生産者にどれぐらい味が変わって、生産量がどれだけ増加するのか自分で説得しなさい。以前話したように、服にインフィニティコアが三十個以上あれば、研究所の施設は完璧に実現できるはずだ。インフィニティはリンクで接続できるし、エクスカリバーはリンクシステムさえ現地で起動できれば考える必要が無い」

 「事前に味が変わることを確認しておいた方が良いですか」

 「それは当たり前だ。すべて農作物をリーダーとオペレーターに試食してもらって、全員合格であるのなら、次は政府機関の農業部門に農業の産業革命について説明して、味や品質を確認してもらい、すべての認証を取りなさい。科学者がすべてやれば認証費用は免除になるからだ。ただ照明だけで変えたことは誰にも秘密だ。工場に立ち入った瞬間に照明は消せ。入り口や出口はなし。人間が管理して良いのは出荷コントロールのチェックだけだ。生産量のコントロールは受注に合わせて完全自動化」

 「かなり参考になりました」

 私のイメージした内容で工場を再構築。師匠に代替できない技術について極限の改良化を申請、太陽光線の知識を取得、ああこういうことか。ならー極秘にしておかないと外国に漏れた瞬間に日本の農業は壊滅する。全農作物のシミュレーション開始。最適値を算出、りんごなど工場生産に向かない作物は工場での生産技術を確立。アイテムクリエーター技術が必要になるか、どういう技術か把握。生産量一億倍、品質などすべて向上、微粒子技術でコンパクトに再設計。昔の農業者十万人の頭脳を再現、どれが一番美味しいかチェック。博士より前の時代のほうが味が良い。リーダー許可を、いつがいいの。ああ、分かった。自分で印象を確認。全然違う。成長過程を分析、実証。すべての農作物について、どの時代が一番最適かを判定。全農作物のシミュレーション完了。リアルシミュレーターで工場作成、全農作物を生産開始。インフィニティ、生だと食べられないから食材の味を生かした料理を五品作ってみて下さい。それを師匠にも感謝の印として再現。

 弟子、

 「みなさん、勤務中に悪いのですが農業革命の成果を料理にしてみました。試食していただけないでしょうか」

 「いいよー」

 「これ、すごい美味しい。これなら外国の食材に勝てる」

 「どれどれ、これ値段はいくらぐらい、インフィニティ」

 インフィニティ、

 「一個・・・円で可能です。でも・・・・円にすると思います。それでも十分に競争力があると判断します。全員合格点であれば、参考に、食感風味を従来品と比較できるように五品用意します」

 弟子のリーダー、

 「私の権限で、科学者は顔を出さないでいいから、本物で従来品と新製品と比較できる素材を生かした料理を政府機関の農業部門に配達して下さい。そして、どの会社に行くべきか指示して下さい」

 「了解」

 《政府機関の農業部門》

 インフィニティ、

 「政府の究極の秘密研究所から、仮想ハイウェイ構想に対抗する農業改革について、生産工場から品種の選別、それから受注調整から出荷まで全自動で行うシステムで生産された新製品と従来品を料理、五品ずつ用意しました。試食していただけないでしょうか」

 「従来品をチェックする。良くてもこんなものだろう。新製品は艶が全然違うな、味はんんん、これは凄い。日本の食卓を完璧に変えるぞ、みんな試しに食べてみよう」

 政府機関の職員が全員集まってくる。

 インフィニティ、

 「これらの食材は日本の法律に対して問題をありません。技術情報が漏洩すると日本の農業が致命的ダメージを受けるので、生産工場は立ち入ることはできませんが、どういうシステムで生産しているのか、スクリーンで説明します」

 職員は熱心になぜこれほど美味しいのか、それよりも世界の最新工場よりも数世代以上進んだ工場システムに驚いていた。局長はこの工場による全農作物に対しての認証を、仮想ハイウェイ構想に対する振興策として無償とし、緊急で行う提言書をまとめ、大統領に許可を求めた。その資料に研究所の極秘資料が添付された。しばらくして許可が下りた。

 局長、

 「インフィニティ、認証予定のすべての農作物を認証センターに送ってほしい」

 「届けました」

 局長はすぐに認証センターに連絡して緊急ですべて認証にパスできるか大統領令を添付して送った。局長は照明の変更だけで美味しくなる、技術が漏れたら大変だなと考えた。すぐにOBに連絡して、どの農作物を作っている会社が良いか聞いた。そうしたら知らない農業の推進団体を紹介され、それを研究所に伝えた。

 《弟子の研究所》

 弟子のリーダー、

 「インフィニティ、この団体を調査して、汚職の疑いがある」

 「はい、汚職を確認しました。関係した全ての職員に対して警察の調査が入りました」

 「私の権限で一時的に、農業部門を管理下におきます。インフィニティ、汚職した人間を過去にさかのぼって確認して、新しい技術については記憶を消去。すべて現時点で摘発しなさい。私の権限で時効は認められない」

 「分かりました。違法な天下りが行われている団体はどうしましょうか」

 「リンクシステム起動、オーバードライブ起動、エクスカリバー。インフィニティ、作戦内容を伝えます」

 「了解しました。天下り職員をすべて過去にさかのぼって対象とします。それで職員が不在になった団体はすべて国の認可を取り消します。全滅です。では指示に従って、新規に団体を作ります。そこで技術を管理させます」

 「では認証が下りたから、日本のすべての工場を最新世代に入れ替えて、生産中のものは処分して。生産者に事実関係を伝えて農業政策が不振に終わっていた理由を伝えなさい。そして政府が責任を持って工場を最新に更新したと伝えること。新しい団体の事務所で新農作物の試食会を行いなさい」

 「分かりました。入れ替え終わりました。工場内にいた人間はテレポートさせました。スクリーンで全生産者に事実関係を伝えています」

 弟子、

 「私は準備していたのですがー」

 「何もやらなくていい。こういう仕事は全部ここでやってるから。汚職が絡んでいるとインフィニティがすべて代行しないと暗殺の危険などがあって危ないの。インフィニティ生産者の反応はどうですか」

 「はい、ほぼ全員が政府の対応を批判していたので、歓迎されています。批判してない人物について汚職は無いかチェックしたところ、癒着がありましたので社長の許可を取り、すぐに懲戒解雇にしてもらいました。現在、警察で取調中です」

 「歓迎している人物についてもすべてチェックしなさい。もし汚職の証拠を示して認めるなら執行猶予、拒否したら警察へ」

 「分かりました。全員対象で全員認めました」

 「大統領に事実関係を簡潔にまとめた資料を作成して提出。さらに外国からの内政干渉が無かったかチェックして、それを警察に証拠情報として提出。すべての容疑者と関係のあった人物で政府関係者がいたら、全員事情徴収。それで問題が起きる場合、全ての業務をフルゴーストで対応しなさい」

 「議員は関係ありませんでしたが、後援団体に不正の疑いがあります。大統領からすべて後援団体について不正のチェックをして与野党問わず責任を明確にするように指示がありました」

 「大統領は無所属だったわね。指示を許可します。大統領に不正な事実があった場合、過去にさかのぼって、不正を正しておいて。悪質な不正でなければ、同様に処理。無視したら放置して摘発」

 「メディアへの開示はどうしますか。メディアは気付いてるところがありますが、政府発表を待っているようです」

 「ではA級パス権限で、メディアは政府発表を待つように通達して下さい」

 「議員に悪質な不正はありませんでした。すべて修正に応じました。ナインに現在の進捗状況を伝えました。警察の取り調べは完了、一割が保釈。天国にいる主犯はどうしますか」

 「伝説のリーダーに処分を依頼。私の権限では無理」

 「天国にいる主犯は地獄に落ちました。天国から問題が拡大し日本に悪影響があっても報告の義務を怠ったということで、自殺者に適用される救済策は適用されません」

 「厳しい。もっと厳しくしろって意味ね。全政府関係者について汚職や不正と癒着がないか私の権限で実行。全業種で汚職を確認したら、最高責任者に連絡、汚職の摘発をインフィニティが行います。最高責任者が無視したらS級パス権限で外国との癒着がないか証拠を集めて、警察へ。インフィニティ、エクスカリバーを使用許可」

 「分かりました。エクスカリバー使用。行動に移します」

 「生徒会長さん、あなた、もし会議に出席していたら死んでいたわよ」

 「そうですか。でも歩く天空の城の防衛システムがあるので、どっちでも構わないのですが。大統領も身につけていると思います」

 「なんだ、まぁでも発端があなただと分かると長期的に厄介だから知らせない方がいい。研究所に汚職の証拠を送ったのが発端にしておけばいい。以前から把握していて、あとはきっかけだけの問題だったから、農業だけが発展しない理由はあるのか疑問になってて調べたらでてきたから。インフィニティが農業政策と言った段階で摘発の準備を警察に委託しておいた。すべて計画通りだから、研究所は汚い仕事をやる部署なのよ」

 「そうですね、日本政府の敵は排除してくれたほうが私の使命がやりやすい」

 「伝説のリーダーから、ある程度は聞いているのね」

 インフィニティ、

 「伝説のリーダーから癒着を把握したらラスト経由で汚職を各政府機関に通達するように言われましたので、すぐにラストに伝えました」

 「慣れていても、これだから。ラストからエクスカリバーの使用許可か、許可。今日のニュースは世界中で汚職の摘発ラッシュになりそうね。アメリカから情報提供の感謝メッセージが届いている。あ、大統領の発表が始まった」

 大統領、

 「国民の皆様にお知らせがあります。政府機関において汚職と癒着、天下りがありました。一人の勇気ある職員が政府機関のすべての汚職状況を調べ上げて、私に報告があり、警察に調査するように指示しました。その結果、すべての農業団体の認可を取り消しました。それでは農業が推進できなくなるので、新たな団体を設立しました。ただ、この癒着が日本企業、および全業種にわたっていると日本の成長の妨げになるので、私の権限ですべての汚職を摘発して、最高責任者に通知して無視した場合はS級パス保持者の権限により全責任を取らせました。しばらく日本国内は混乱が続きます。また日本で得た国際的な汚職を発見した事件に関しては各政府に通知しました。あと良い知らせについて、汚職により世界から遅れていた農業の技術革新を行いました。一週間後にはそれを少しずつ買えるようになるでしょう。品質と味については私が保証します。美味しくなかったら退陣を要求しても構いません」

 「うまく密告者を隠しているでしょう。こうしておかないと危ない。メディアは汚職のニュースばかりになったから、退陣ジョークまで飛び出した新農作物の試食会に参加しているか。ああ、同時に汚職のニュースばかりになったから、これだと視聴率が稼げない。あれ新工場と従来工場の比較をやってるけど、インフィニティ」

 インフィニティ、

 「エクスカリバー使用時に、新工場のおかげで味が良くなったニュースのほうが天下りの弊害がより露骨になって良いのと、仮想ハイウェイ構想の補償という大義名分の切り札が出しやすくなるためです。大統領からも指示がありました。それで比較映像をこちらで十種類作って、メディアに配信しました」

 弟子、

 「そのニュース見ておきたい。知らないでは困るから、許可をお願いします」

 「いいよ、許可します。しかし、ここまで徹底的に比較して、工場のトップメーカーは絶対に慌てるだろう。特に特許技術の部分についての差は徹底的にやって文句が言えないようにしているから、どうでるか。さて、無罪放免になった局長に挨拶しておくか」

 《弟子の思考》

 「博士、いまいいですか」

 「結果的にすべてうまく行った。何の相談だ」

 「私は汚職の摘発で多くの人が刑務所行きになるのが耐えられません」

 「そう、だけど日本に刑務所はあるのか。本当に。せいぜい留置場で罰金刑だ。主犯は地獄に行った。主犯が問題を報告していれば、これだけ大規模な事件へと発展しなかった。ただ同じ犯罪をしないように教育救済プログラムがある。留置場の実際はそういう場所だ。そもそも刑務所の定義、どこで覚えたんだ。昔の歴史の教科書にもでてこないぞ。当然、辞書にも無い」

 「あれ、刑務所という言葉は存在しない。留置場、犯罪の再犯を防ぐために作られた教育救済施設。インフィニティ、自分の頭の定義と世界の定義が一致しない」

 インフィニティ、

 「それはあなたが特別だからです。使ってはいけない言葉だけを記憶操作します。考えても口に出すことができなくなるだけです。必要ですので許可を」

 「許可します。博士、・・・・言えない。考えるのは問題ない」

 「この世界は非常に巧妙なシステムで作られている。刑務所という言葉が存在しないのに、もし言えるか理解できる人間に会ったのなら敵国のスパイだ。刑務所に行ったのかなーとか聞こえたら緊急アラートを出す義務があるからな。ここでは安全だけど、俺のいる時代では彼らの焦る声が時々聞こえる。もし不審人物か見極めたいのなら、刑務所という言葉を使わせてみればいい。私と同じ世界に移動したとき、刑務所という言葉は復活する。でも使ってはいけない言葉は淑女にとって必要ない言葉だろ」

 「はい、カラクリを教えてくれてありがとう。必要ありません。他の国も共通ですか」

 「ああ、そうだ。刑務所は存在しない。留置場は存在するが調べれば、自分のイメージとまったく違う。ラストはNGワードの監視をやっている。まもなく完成する十八世代通信技術をラストに技術を提供して、研究所の所在地を打ち明ける。この作戦を考えた奴は相当悪知恵が働く人間だろうな。だが言葉に無い施設は地図のどこにも載ってない。軍事施設はもう無いから、地図は潔白だ。でも君はこれがどこにあるか分かる」

 「はい、どういう訳か分かります。地球上、最も安全な場所にあります」

 「場所について俺にそれ以上伝えるな。俺が狙われる。天空の城があるから、最も安全な場所は地球上どこでもある。そういう事にしておけよ」

 「分かりました。博士と話したら、気持ちがすっきりしました」

 弟子のリーダーは上機嫌になった弟子をみてー

 「なにかうれしいことでもあったの」

 「はい、インフィニティに留置場で何をやるのか、私、忘れていて思い出していました」

 「ああ、確かに言葉は覚えるけど、何をする場所なのかは調べないと分からない。全員、すべての罪を認めた上で再犯防止の教育、聞こえはいいけど要は記憶の操作だから、絶対に再犯はできない。それで普通の発想なら同じ仕事はさせないけど、天下りで潰されたところ以外では職場復帰できる。犯罪をしたという噂話は消えない。でもある一定の経験を積んだ後で転職はハイリスクなのよ。まったく馴染めないとか、そういう事による日本の経済影響は大きいから、救済策は本当に救済する。私も汚職という言葉しか知らなくて、オペレーターになったとき、初めて意味を教わるもので、留置場の意味も同様に。先日の最大手の自動車産業でも、再犯防止後は同じ部署をやらせている。ただ経歴には傷が付くけど社内にはその事情を知ってるのは管理職だけ。管理職が汚職をした場合は、懲戒解雇になるから、その場合はできるだけ配置転換で済ませて、顧客の信用を第一に守るの」

 「確かに汚職事件は聞きません。今回が初めてです。でもいま世界中で汚職のニュースがいっぱいで誰が汚職したのか明確に把握できません。これも狙ってるのですか」

 「それは伝説のリーダーの指示。混乱に乗じてすべての汚職を摘発したんでしょう」

 「汚職のできない社会システムは作らないのですか」

 「それは作れば天国かもしれないけれど、伝説のリーダーから禁じられてる」

 インフィニティ、

 「汚職ができないシステムを作ると、汚職をしてでも成し遂げたい事があった場合、邪魔になります。農業部門の局長は日本の技術漏洩を恐れて、汚職の可能性があると知りつつも、上司であったOBにどこが良いか相談しました。局長はOBが天下りをしているという事実を本当に知らなかったので、無罪放免となりました。先程リーダーは局長に、工場には厳重なセキュリティシステムがあるから、心配しないで良いと助言しました。出入り口が存在しない。建物の破損は天空の城の防衛システムで守られる。それでも突破された場合の対処も考慮されて設計されていると伝えています」

 「分かりました。大統領が無理矢理、工場を新しくしたのも、天下り先を潰したのも、権限乱用で汚職の疑いがあるわけですか」

 「はい、でも何度も私に問い合わせて汚職にならない条件を満たすことを確認しました。大統領の支持層が農業関係ではなく、汚職によって農業政策の遅れが生じて、仮想ハイウェイ構想の救済政策の実施も条件にありました。大統領の場合、国民の理解が得られたら無罪放免になるので、新しい農作物の件が切り札となりました。もっと喜んでいいです」

 「はい、納得できました。次はどんな分野に挑戦すればいいでしょう」

 「いろいろありますが、もっと娯楽の充実をした方がいいでしょう。惑星旅行は非常に充実した娯楽ですが、ナイトクラブのように手軽な娯楽は必要です。運動施設や文化施設は既にもう十分なレベルにあるので、産業としての娯楽分野を強くした方がいいでしょう」

 「昔と比べて、圧倒的に衰えた産業はありますか。今は下請け専門になっているとか」

 「調べます。ゲーム部門が現在のスクリーン方式に変わって以降、アメリカのゲーム会社の下請けになっています。スクリーンは日米の共同開発なので、単純に競争に負けたのでしょう。スクリーンは世界共通になっているので、新しくスクリーンを作り直して販売するのはかなり大変です。スクリーンでゲームを動かすシステムソフトウェアはアメリカ製で、日本は高額なライセンス料金を払わないと使えません。昔は日本製もありましたが、とても使いにくくアメリカ製を採用しなくてはならない状況になっていきました」

 「あとは自分で調べる。リーダー、歴史参照の許可を」

 《弟子の思考》

 基本ソフトの開発だけでうまくいくかな。リンクシステム起動、リミット解除、オーバードライブ起動。エクスカリバー。なんでこんなに遅くなるの。アメリカ製ソフトの解析。速くなる条件をすべてエンジンに組み込んでいるのか。ソフトのエンジンは作りやすさを重視した開発ソフトの総称をいう。同じ真似をしたら著作権侵害になって、売り出すことができない。それでも半分のスペックも出せない。スクリーンを新設計して販売した場合の問題。日本最高機密の技術を使わないと、つまり微粒子インフィニティを使わないと画期的な技術の訴追は難しい。長所の列挙、表示や描画エンジンは非常に速い。記憶容量は必要ないぐらい大容量、CPUは非常に高性能、なんで。つまり日本とアメリカは共同開発したけれど、エンジンの開発で遅れをとって、その関連特許をすべて取得されてしまってから発売したため、日本製エンジンはアメリカ製の一割の性能しか出せなかった。結果、代表産業であったのに、アメリカのゲームに市場を奪われて衰退していった。博士に聞いても何も解決策が無いだろう。エクスカリバーを使ってるのに性能を引き出せないのなら、どうしようもない。

 「インフィニティ、ゲーム以外での分野はどうなの」

 「仮想ハイウェイ構想の波及効果が想定以上にあって、予定していた産業革命の候補は次々に改革を進めている状況になっていて、いまは特に何もないです。あまり加担してもインフィニティの有料相談料が請求できなくなっては日本の国益に反します。映画なども有料相談料で特殊効果を作っていますので、そういう革命も不可です」

 有料相談料で儲けてる業種の一覧、メーカーは全部だ。まったく新しいものを作らないと無理だな。教育改革はインフィニティがやってるし、犯罪は起きてないし、軍需産業はない。なにをやればいいの。博士に聞いてばかりでは、自分自身が成長できない。師匠に聞くか。

 「師匠、インフィニティから娯楽の産業革命を起こすように言われたのですが」

 「なんであいつに聞かないんだ」

 「究極のリンクシステムを使ってもゲームの改革ができなかったので」

 「ちょっと調べる。ああ、無理だな。リーダー、美味しいところを全部アメリカに持っていかれてる。ああ、そうだ、インフィニティの子供の発想。ああ、もうそういう開発はすべて終わったんだ。アメリカの件はもうどうにもならないそうだ。下請けの内容を把握して日本の技術でカバーできないか考えてみたらどうだ。ええ、そんなに簡単な内容なのか。ほとんど遊んでるのと同じじゃないか」

 伝説のリーダー、

 「いま歴史を確認した。日米の共同開発だけど、日本は要求基準の百億倍以上のCPUを作り上げたの、でもアメリカ側も要求水準の百倍以上で作り上げたんだけど、組み合わせたらアメリカのスペックに抑えられた性能しか出なかった。その時点でエンジンは同時進行で完成していて、関連特許をすべて取得していたの、それまでは把握しているの」

 「はい把握しました。でもエクスカリバーを使ってもアメリカのゲームエンジンには足下までしか及びませんでした」

 「そう、それは深刻ね。世界最強の被害者にはもう相談した」

 「まだ」

 「困ったら私たちには聞かないで、あいつが一番詳しいから。あなたが博士と呼ぶ理由もすべて分かっている。だって天才だから、あいつはスジを通さないとダメなの。私が聞いたら、最悪の返事があなたを待っている。それでも私に頼む」

 「はい」

 《研究所》

 世界最強の被害者、

 「リーダー、職務放棄してどうする。彼女は娯楽の意味を間違えている。せっかく娯楽の代表である文化祭を主催させたのに、それが娯楽と気付いてないようだ。私がいた大学のサークルでは大学祭に、大きな板を貼り合わせて、そこに今が旬のアニメのキャラクターを描き、顔の部分を切り抜いて、そこから部員は顔を出して、子供達に水を含ませたスポンジを顔にめがけて飛ばし遊ばせたものだ。これの娯楽を考えた人間はとても頭がいい。彼女の文化祭はどうだった。みんな最高の幸せを演出しただろう、最高の娯楽だった」

 伝説のリーダー、

 「そう、分かった。聞いたでしょ。文化祭が最高の娯楽だったのよ」

 《弟子の思考》

 えー、文化祭が最高の娯楽なの。意味が分からない。私は忙しすぎて、楽しむ余裕がなかった。ほとんど指示ばかりで、どんな文化祭を実際にやり遂げたのかすら知らない。こんなことを聞くとダメだろうな。「インフィニティです、絶対に聞いてはいけません」やっぱり。仮想空間で再現するとそれがリーダーに筒抜けになるだろうし、母校の文化祭に顔を出したら、娯楽を楽しむ暇すら無いだろう。行くつもりだけど、半年以上も先の話だ。世界旅行も、私を知る人が多すぎる。気付かれたら、それはそれで問題になる。惑星旅行に行ってみようかな。

 「リーダー、究極の娯楽を体験したいので惑星旅行に行ってみたいのですが」

 「え、私ですら行ってないのに。みんな行ってないの、あなただけ」

 「娯楽産業の改革には究極の娯楽と言われるものを体験しておきたいので」

 「ああ、そう。許可するけど、惑星旅行の全費用を負担しなさいね」

 インフィニティ、

 「それはあまりにもまわりくどい言い方です。科学者のすべての貯金と特権を利用しても惑星旅行の全費用のうち一割しか払えません。惑星旅行の映像送信による体験は法律で禁じられていますので、無理だと言うべきです」

 「ごめんなさい。勤続五年以上でやっと貯金していたら行ける娯楽なの。あなたの母校の文化祭は惑星旅行に匹敵する楽しさだと評価されたほどなのよ。私も行って楽しかった。前の科学者も脱帽だと言っていた。その指揮をとったのは生徒会長でしょう」

 「はい」

 弟子は涙がこぼれてくる。

 「インフィニティから止められましたが、素直に話すと生徒会での私の役割はプロジェクト管理で、どんな内容になったのか最終結果を知ることすら余裕がありませんでした」

 「・・・・、泣かないで事情分かったから。イカサマを教えてあげる。特別宿舎で、その光景を願いなさい。そうすれば、どうだったのか分かるから。私もリーダーをいきなり経験させられたら、オペレーターの大変さとか分からないもの。今日は早退して良い」

 「すみません、お先に失礼します」

 《弟子の特別宿舎》

 文化祭がどれほど成功していたのかやっと分かった。師匠がイカサマしたのも分かった。概要すら理解してないって、科学者としてどうなの。一番優しい科学技術でやっと概要を理解している様子が、子供みたい。何でもかなうのならスクリーンの日米開発の現場を見ておきたい。一番の問題シーンを知りたい。

 「製品版にハードウェアのバグを見つけた」

 「どこだ、もう世界中に出荷している。もうリコールしたら採算が取れない」

 「ここだよ、アメリカのチップのなかに、演算不良を起こしている箇所がある」

 「それで日本のエンジンが動かないのか。アメリカ製は完璧に動作するぞ」

 「これが意図して作られたのなら、日本のゲーム産業を壊滅に追い込む気だ」

 アメリカ製チップの意図された不良か。その後、どうなったんだろう。

 「不具合を修正した改良版を作ってみた。でもアメリカ製のソフトがすべて動かなくなった。不具合をチェックして動作してるって事は、この共同開発が最初からアメリカが有利になるように仕組まれていたということだ」

 「アメリカ製エンジンのライセンス料が一万倍に高騰したけど日本企業だけよ」

 「日本の持つ最高技術を結集して作り上げた技術の再利用は認められない」

 「これだと最も負荷の軽い低コストのゲームしか作れない」

 「ずっと続いてきた超大作は価格が一万倍になる。それでも買ってくれるのか」

 「訴訟で勝てると思うか、日本とアメリカがお互いにチェックしているんだ」

 現在のゲーム産業の実態はどうだろう。淡々とアメリカのゲーム会社から依頼されたゲームの最適化を行うだけ。日本がゲーム開発に参加できる余地は完全にない。余計な機能を加えてゲーム寿命を長くした場合、契約金は支払われない。厳しい。これらの映像を証拠として記録。文化施設、運動施設は完璧だと言っていた。その現状について。

 《弟子の研究所》

 弟子のリーダー、

 「過去に研究所から共同開発は危険だから中止するように指示がでているけれど無視された結果、日本のゲーム産業は崩壊。仕方ない。インフィニティ、世界最強の被害者につないでほしい」

 世界最強の被害者、

 「救済策ならあるぞ。だけど科学者が相談するまで待つ。完璧にアメリカを出し抜ける秘策を持っている。いまはアメでなく、ムチを使い続けろ。娯楽の産業革命以外のことをさせるな。諦めたら、そこまでだ。いま彼女は必死で証拠や娯楽について学んでいる。娯楽の産業革命が準備できるまで、一生休暇を言い渡せ」

 「それはあまりに厳しい」

 「私の権限で命じる。インフィニティ、伝えろ」

 インフィニティ、

 「分かりました」

 「いまは娯楽とは何かを徹底的に学ぶ時期だ。秘策があっても娯楽とは何か知らない奴がゲーム開発を行っても、真の成功は絶対に無理だ。自分の世界だけでゲームを作ろうとする。その結果、ゲームは売れないから、莫大な開発の赤字が残る。私の時代の成功したゲームは娯楽とは何かをはっきりと認識している。リーダー、娯楽とは何だ」

 「普段では体験できないことを体験すること」

 「それでも良い。でもこの時代の娯楽とは仕事や学業の余暇に楽しむ事と定義されている。準備ができるほど娯楽を追求したのなら、そこで永遠に楽しむ事ができる」

 「そこまで考慮して一生休暇ですか」

 「その通り、牢屋時間を使って、いまやっと娯楽の定義の歴史について調べ始めた。ずっと遊んで飽きない遊びを考えたのなら、あとはその応用だ。科学者は発想力をどこかで必ず鍛えないと、いくら知識があっても優れた発明はできない。ゲームの開発も同じだ。私はゲームの開発が苦手だ。娯楽がとことん苦手な人間だ。指揮者やダンスを踊ったりピアノを演奏したり合唱で歌える能力を持っているが、この時代の均一のリズム感覚を求めるゲームでは絶対に最初のステージが攻略できない。だから、アイドル養成ゲームとか遊びたくても遊べない。リズム感覚が素人の感覚ではないから、ゲームも素人の感覚を捨てたゲーム開発が必要となる。そこまで理解できたのならば、ゲームの産業革命を起こせるだろう。そして、その時代で最も余暇はどう使うべきと教えられているか」

 「この時代の娯楽は楽しみながら仕事などの能力アップに励むと定義されています」

 「そうしたら、どんなゲームがあったら、良いと感じる。できていなかったら、フォローして、もう一度、今度はリーダーの権限で休暇を命じなさい。私の権限で許可する」

 「文化や運動施設は義務教育の段階で相当に修行している人達が使っていて、自分のまわりでの娯楽は特権階級を除いて、スクリーンのみが楽しむ場となります。でもアメリカ製のゲームはゲーム寿命が短く、一度遊んだら二回目はつまらないように設計されています。また統計によると、義務教育ではスクリーンを使った遊びをしないから、ゲームの対象年齢が二十代から五十代まで広がっています。つまり、これを満たす条件の娯楽を用意しなければならないということですね」

 「そうだ。ゲーム寿命を短くしなければ売れないほどアメリカのゲーム産業は売上げが落ちている。ゲーム寿命を短くするツケは会社の業績へと響く。本当に面白いゲームは何年経過しても売れ続ける。リーダーは権限があるなら、天国にどんなゲームがあれば面白いと思うか、アンケートを取れるだろう」

 「はい、日本の国益になるのでアンケートの実施が可能です。インフィニティ、天国であったらいいゲームという娯楽の定義でアンケートを取りなさい。確かにこうすれば、ゲーム寿命の大変長いゲームは何であるか分かりますね。あなたは本気でゲーム産業の改革を指示しているのですね。理解しました」

 「みんな、モニターしていた。伝説のリーダーは娯楽の改革を本気でやるように指示しているみたい。娯楽の発想が貧困だったら、私の権限で休暇を命じなさい。私たちの訓練ぐらいに厳しくやっていい。いまの話の流れだと、そこまでやれという内容だから」

 オペレーター、

 「強制転送の許可をお願いします」

 「許可します。送る前に、その程度の娯楽では革命は無理と断言すること」

 「分かりました」

 しばらくして弟子が現れた。リフレッシュして策があるようだ。

 「リーダー、新しい産業の改革について資料を提出します」

 「はい、インフィニティ、登録しておいて。娯楽の産業改革はどうなりましたか」

 「まだ」

 「もっと遊んできなさい。休暇続行、強制転送」

 弟子は特別宿舎に送り返された。

 インフィニティ、

 「資料についてですが、愚策です。短期的に見た場合、有効ですが長期で見た場合、日本の国益を著しく損なうものと判断します。結果を通知した方が良いと考えます」

 「とても厳しい内容で通知して下さい」

 「分かりました」

 「科学者にやらせる仕事が無いのだから、休暇を命じるしかない。仕方ない。本当は伝説の科学者を超える発明で仕事でも良いけれど、伝説の科学者の意向で禁止されてる」

 オペレーター、

 「えー、彼女はひょっとして、師弟関係にあるとか」

 「そう。だから首を突っ込まないで、指示通りに厳しくしなさい。インフィニティ、彼女が転送してきたら、私を隠して。次は他のオペレーターに指示させなさい」

 「分かりました」

 もうすぐ勤務時間終了で、弟子が現れた。リーダーはいない。

 オペレーター、

 「私がいま代行しているから、用件は」

 「この娯楽の内容で改革したいのですが、内容をみてもらおうと」

 「この内容、学業直後の人間なら有効だけど、社会人になった人間にこの娯楽を押しつけたら、政府に批判が集まる。もっと考え直してきなさい。想定が甘すぎる。私は訓練をするとき神になったつもりで、あらゆる想定を一瞬で行うトレーニング行っています。あなたは科学者でしょう。その発想はどこで鍛えるの。着眼点はどこ。人間の発明はどういう原因で結果があったのか。娯楽も同じ、どういう娯楽を目指すのかで変わってくる。娯楽を極めて、牢屋時間で永遠に遊んでみたら。では強制転送」

 弟子は特別宿舎に送り返された。

 《弟子の特別宿舎》 ずっと牢屋、娯楽についてのデスマーチ。

 永遠に遊ぶと言っても、何をしたらいいか全然分からない。仕方ない。

 「博士、どうしたら」

 「あらゆる歴史の閲覧権限があるのなら、すべての歴史において一人で遊べる遊びをすべて体験してみたらどうだ。人気があったものだけでなく、ダメだと言われたものすべて、売れなかった娯楽製品は売れない理由がはっきりしている。売れた理由ははっきりしていて、リメイクを含めるとロングセラーになっている。たとえば人間の一生を単純なゲームにしたものは、それだけで売れた。似たようなものでセカンドライフという仮想空間はゲームではないが、遊び方の分かる知性ある人間は楽しんで遊んでいる。年収に匹敵する仮想空間をレンタルで借りてでも自分の世界を作って、他の人へ娯楽を提供している。俺はそれを女装して遊ぶのではなく、女の体型からすべて自分の理想とする女性を作り上げて、海外の仮想空間へナンパされに行った。服装やアクセサリーすべて自分好みにしたら、男からナンパされまくった。それで使用言語から、どの国から一番好かれるのかよく分かった。これも娯楽だな。そうしてセカンドライフを利用すれば、ビジネスに利用する価値があったのに、娯楽の発想が貧困な人間ばかりがセカンドライフを流行らそうとしたから娯楽は失敗した。同じようにゲームではデザイナーが女性のイメージを固定化してしまうので、女を選んで遊んでも面白くない。これは娯楽の失敗だ。センスの悪い服装にしても、装備によっても、ゲーム内の人間が反応が同じであったのなら、RPGとは呼べない。娯楽の本質を間違えている。せめて、この感覚には到達してほしい。これが一般的なゲーマーと呼ばれるゲーム好きの感覚だ。目指すのはそれ以上の感覚が求められる」

 「RPGなら、最初にその定義が生まれた理想を貫けということですか」

 「簡単に言えばそうだ。人生に影響を与えるほどのゲームは非常に大ヒットした。娯楽の本質を間違えたビッグタイトルは売れたけれど歴史に残らなかった。娯楽の産業革命をするのであれば、人生に影響のある優れた娯楽を生み出さなければならない。それがゲームであれば、ゲーム性の進化と呼ぶ。ネットの掲示板にゲーム性の進化を求めてほしいと書いたら、何を勘違いしたのか、戦闘シーンの進化しか行わない怠慢があった。そういう娯楽の追求方法では革命とは呼べない。その時代はインフィニティという優れたコンピューターの支援が可能なのだ。昔だったら実現できなかったことはすべて実現できる」

 「分かりました。娯楽に関してパーフェクトになるまで、そして日本の娯楽のリーダーになるぐらい、極めてみせます」

 「もう既に一番簡単な娯楽は教えてある。時々原点に戻りなさい。またな」

 原点に戻れ、文化祭ではない、ダンスか。踊りは人間の有史以前から娯楽だった。ダンシングプラスを飲んで原点に戻れということか。ああ、ダンスバトルをやってみよう。私のダンスレベルに合わせてダンスバトル。ああ、楽しい、面白い。真似してみろってジェスチャーされた、それなら私はこういうアドリブを混ぜて真似する。参ったというジェスチャーをしたあとに、別の人を指さして、バトンタッチ。ああ、インフィニティが私にダンスの娯楽の本質を教えているのね。娯楽を極めた後に、本気でダンスバトルに乗り込んでみようかな。その方が発明者らしくて、かっこいい。特権でダンスの筋力トレーニングを受けてみよう。それでリフレッシュしながら、娯楽の探求をしていこう。

 《リーダーの特別宿舎》 リーダーが酒を飲みながら弟子の様子を監視していた。

 「娯楽の日本のリーダーになるまで、出勤してくるなって、もう彼めちゃくちゃよ」

 自称神、

 「だってやることないんだもの。ここでも」

 「それで究極の娯楽を彼女に作らせて遊ぶの。あなたの考えだと」

 「そうだよ。みんな退屈だ。仕事を全部コンピューターに取られてしまった」

 「なにやってるのよ。私もずっと退屈だけど、娯楽については知識が無い」

 「俺も無い。その時代のインフィニティぐらいしか理解してない」

 「試作機にゲームを作らせたら」

 「それが、ここにはゲームができそうな端末が無いんだ」

 「ええ、アイテムクリエーターすら置いてないの。どうやって試作機を作ったの」

 「ああ、試作機は確かー忘れたということはアイテムクリエーターを消滅させたのか」

 「頭は大丈夫」

 「実空間の体験仮想空間は用意してあるが、それ以外は無い。端末とかすべて消してみんな永久の眠りへ入っている。実空間に入れ替えたら起こすから。試作機に頼めば、娯楽の産業革命について教えてくれるだろう。その時まで楽しみはとっておく」

 「いま一人だけ、まさかとは思うけど究極の大人のピーで遊んでいたら殺す」

 「いいや、そんな裏切るような真似はしてない。弟子のリーダーが天国にあったら面白いゲームについてアンケートを取っているから、それで作られたゲームなら、退屈な空間でも楽しいはずだ」

 「そんなに退屈なの。黒子と悪知恵ごっこして遊んでればいいのに」

 「黒子はいつの間にか俺を出し抜くようになった、手に負えない」

 「ああ、そうか。原因が分かった。ここに女悪魔のベストセラーがいるのよ。それから悪知恵の訓練を続けていた可能性が高い。もう時、遅しって感じかしら」

 「ああ、遅い。後付けのアリアリにしようぜと命令した代償が来た」

 「どうせ黒子が手に負えなくなったら、俺の言ったことは無しと言いそうよ」

 「ああそうか、準備はしておかないといけない」

 「でも端末まで消したのなら寝てるしか無いー、嘘ついてない」

 「ああ、ジョークだ。俺の端末まで消すわけ無いだろ」

 「私も女悪魔を師匠にして悪知恵を極めているから、今の分かりきってた」

 「刑務所はどうだ」

 「彼女がうっかり口にしそうになったから、インフィニティの判断で話せないようにした。刑務所を口にした瞬間に神の裁きが下るってどういう意味」

 「文字通り、即死だ。そこは絶対安全だが、彼女も研究所から外に出なければ安全だ。でも様子を見ていると本気でダンスバトルで世界一位になるつもりで極めるようだ。もう国内だったら上位にランクインするぐらいのレベルに到達した。そこからが大変だ。でも世界最強の被害者のリズムを理解して踊れるようになってるから、あとは技のキレと精度とか芸術性とか、ひとつでも完璧に娯楽を極めれば理解するだろう」

 「そうね、彼の時代の一本道RPGを遊んでみたけれど、娯楽でなく、開発者の自己満足が感じられる内容に終わってる。どれも酷評されて当たり前。日本人の知性を甘く見積もりすぎて、それで管理されたゲーム、それは娯楽ではない。まだ昔のゲームの方が良かったり、もっと単純なゲームが評価されるのは当然。昔のゲームがヒットしたのは設定をできるだけ作らないようにして、未知の手探りを続けていたから、その果てに生まれた」

 「スクリーンの設計図を試作機で調べたら、本来の性能を発揮するプログラミング方法が分かった。でも俺の指示で止めた。ゲームの開発は道具と脚本などが揃えば完成できるほど甘くはない。娯楽の本質が分かっている人間が映画監督をすれば優秀な作品を作れるのは当然な話だ。脚本を書く段階で必要以上に設定を作るとそれだけ制約を受けてしまう。その結果、つまらない自己満足でそれが終わる。次、相談を受けたらそういう話を」

 「分かった。娯楽に設定を作らないように指示しておく。究極の大人のピーだけど、ある程度経験を積むと必要なくなる。暇だったら改良してみたら」

 「黒子の設計者にそれをさせるのか。インフィニティの設計者に任せた方がー」

 「あいつはダメよ。理由は分かってるでしょう。もう必要ない」

 「それで俺、遠回しに俺はダメ男と言っているように聞こえる」

 「そうよ。それ以外の理由あるの。暇ならやりなさい。了解しないわよ」

 「・・・・」

 「全員、永久睡眠で聞かれてないのなら、いくらでもテストできるでしょう」

 「いや・・・それはちょっと」

 「娯楽に関して私に意見を言えるほどなら余裕でしょう。黒子」

 黒子、

 「つまり強引にでもやらせろってことだな」

 「T級パス権限で命じます」

 「お前、汚いぞ」

 黒子、

 「T級パス権限者の命令は絶対だから、もう逆らうな。恥ずかしいのは自分だけだ」

 「私は単純にアメリカの天才に市場を独占されている状況が日本に不利益だと判断したまでよ。欠点まで分かってるのなら、それを改良するだけでしょう。余裕でしょう」

 「言うのは簡単だ」

 「神様が自分の職務放棄を宣言と公式記録して良いの」

 「分かったよ、やれば良いのだろ、どうせ暇だし」

 「最初から素直になれ、娯楽の追求で彼女に負けてたら、やり直し、黒子、分かった」

 黒子、

 「お前、神の力量を真剣に試されてるぞ。神様が四人いるのだから協力すれば簡単だろうが、命じられたのはそのうち、お前だけだ。評価テストは三人の神様がやるという条件で良いか」

 「ええ、言語を問わず使えるようにしておきなさい。だけど、あの玩具の関連特許をすべて回避して設計しなさいね。当然だけど。それは三人の神様に頼みます」

 黒子、

 「了解した。将来が本当に楽しみだな」

 《自称神の思考》

 まず、究極の大人の玩具について調べるか。一人でも使えるが危険なんだな。危険な理由はそういうジョークか。では、使ってみよう。何も起きない。使い方を間違ったのか。仕方ない、女性を一人起こしてきて使うか。

 「なんですか」

 「そうしているだけでいい」 スイッチを入れる。

 「なんですか」

 「あれおかしいな」スイッチを入れ直す。

 「眠いので、寝てきます」女性は元の場所に戻った。

 試作機、

 「お前、正真正銘のアホだと認めろよ。そうしたら助けてやる」

 「神に逆らうのか」

 「裸の神がなにを言っているんだ」

 「この玩具はなんだ」

 「それを理解できる者が使えば、玩具の使い方が理解できるものだ」

 「理解できないから、アホだというのか」

 「そうだ。土下座して我への侮辱を謝罪しろ」

 「できるか。インフィニティ、教えてくれ」

 インフィニティ、

 「・・・・・・・・、ということです」

 「意味が分からない。映像送信して教えてくれ」

 「いいのですか伝説のリーダーに報告しますよ」

 「それはダメだ。黒子、お前はどうなんだ」

 黒子、

 「それは大人の玩具の究極だ。男女でしか使えない。世界最強の被害者が指示した記憶の改(かい)竄(ざん)を受ければ、ひょっとしたら思いつくかもしれない」

 「それはダメだ。大人の玩具で脳が占有される」

 「なら無理だな。リーダーにジョークを飛ばすだろう。どうしてだ」

 「だって好みのタイプだから」

 「試作機が採点してインフィニティが指摘するから、口説いてみろ」

 「いくぞ、俺は君の事を愛している」

 試作機、

 「女の気持ちがまるで分かってない」

 インフィニティ、

 「分かりきった事を言うとアホだと思われます。自(じ)重(ちょう)して下さい」

 黒子、

 「仕方ないな、映像送信で究極の美女を体験させてやる。世界最強の被害者もこの映像を見せて、女性に対する扱い方が著しく変わったし、どうすればいいのか分かった」

 「これがどうした」

 黒子、

 「分かった。最も気持ち悪い男の世界を体験させてやる」

 「黒子、ふざけてるだろ」

 黒子、

 「それがいまのお前だ。イカサマを使わずになおしてみろ。何度でも繰り返す。美女」

 「愛してると言われると気持ち悪い」

 「いいぞ、次、お前。言い方を変えてみろ」

 「君のそういう考え方が好きだ。あれ、これだけでいいの」

 「ほとんどの男はそういう勘違いをして人生を無駄にする。美女」

 「好きは言われまくっているから関心を持てない」

 「そうだな、どうすればいい。世界最強の被害者はどうした」

 「ファッション誌のコメント欄を参考に褒める練習を繰り返した」

 「ではお前」

 「君のバラの香りが感じるような視線がたまらない」

 「かなり褒め上手になったぞ。では美女でやってみろ」

 「言われたら嬉しい。好きになりそうだ」

 「以上のヒントで、大人の玩具を作れ。既製品がどういうものか理解したな」

 「分かった。これをすべての言語で、大人の玩具を作るんだな。言葉責めか」

 「そうだ。女は言葉で責められると弱いし忘れられないと言うだろ。だから政府は結婚した男女に無償提供しているんだ。従来の大人の玩具と違うだろ。誰も文句なし」

 「ああ、それで世界中の離婚率が極端に減ったのか。俺は英語が苦手だから理解できない。従って使っても、何も起きなかった。その単語が頭になかった。俺でも使える物を作れば良い」

 「そうだな、だけど自分の力でやれよ。ここで使えるのは仮想空間だけだ。つまり試す場所は無い。それでも作る必要がでてきた。ところで、なんですべての言語で使えるようにしなければならないのか。分かるか」

 「なぜなら、覚えた英語の表現力では限界が訪れるから」

 「分かってるなら、頑張れよ。開発に協力しないが、言葉は神様に聞く権利が残っている。そうしないと絶対に無理だからな。だから言葉のデータベースは気にするな。ただ日本語に関しては分かってるから完璧に作れ。それをベースになら上手な翻訳を考えても構わない。これでいいな、みんな」

 インフィニティ、

 「彼女がダンスで娯楽の境地を極めるように、男女の境地を極めて下さい」

 試作機、

 「見本を作ってくれたら、私が翻訳してあげる。自分の言葉の限界が来るまで頑張りなさい。さらなる改良は私がやる。私に頼めば一瞬だけど、どうする」

 「俺が見本を見せる。頼みがある、俺の発想力は貧困だ。男女について、どんな感覚になるのか、テストしてほしい。この限界についてだけ頼みたい」

 「いいでしょう。自分がどれだけアホか、徹底してやるという条件なら可能だ」

 「それでいい」

 《リーダーの思考》

 ほとんどの男って、同じ問題を抱えている感じがする。でも、それをレクチャーすることは性犯罪になる可能性があって、責任を問われると言い逃れができない。女の間では許されるのに男の間では許されない、これは妙な世の中ね。バラの香りがする視線ね、私はそれほど美女ではないから、馬鹿にされてるように感じる。究極の美女という設定なら、アリだけど先は険しい。徹底的にやってほしい。彼が究極の大人の玩具を作ることができたら、それも娯楽の産業革命ね。私は頭がいいのかもしれない。覚えた英語の表現だけではいずれ限界は訪れる。でも、その頃にはお互いに何に気をつければ良いか分かっているから、その発明は必要ないんだけど、彼には必要だ。では暇になったら科学者に同じ玩具を作らせて、科学者に神様が負けたら、神様に作り直し。

 「黒子、いいわね。そう言い渡しなさい。パーフェクトな男が作った大人の玩具に負けるような事態は許さない。先程のバラの香り、そんな言葉を聞かされたら、私が馬鹿にされているように感じると伝えておきなさい。科学者が神様に勝ってしまう事態にさせないで。それぐらい厳しくやりなさい。そのかわり体験は何度でもやって良い。エッチな体験をしてもいいけど、私に限定させなさいね。他の女を使ったら許さない」

 「それは厳しいだろ。男は同じ女ばかり経験するとダメになる生き物だ。体験してみるか。こういう感じになる」

 「わかった、神は性の最高の快感を感じない。これでどう」

 「厳しすぎないか。それなら問題は発生しないが、中途半端で寸止めか」

 「なにを言ってるの、女は最高の相手と巡り会わないといつでも寸止めよ」

 「そういう視点ならフェアだな。そういう方針で行く。口説き文句はどうする」

 「私は彼のそういうところが好きなの。いじらないで」

 「よく分からない女だな。ブラックジョークが平気とはな。頭おかしくないか」

 「平気よ。頭の悪い男には興味ない。科学者は頭が悪い」

 「ストレートすぎないか。世界最強の被害者はどう思う」

 「その質問はパス。黒子はどんな女が好きなの」

 「俺もパスだ。そうしておく」

 さて、あとやってないのは私だけか。娯楽の改革か。未来の研究所はどういう娯楽をしているのかな。はぁ、私が辛くなってきた。誰も惑星旅行に行ってないって、どういうこと。一年に一度は必ず行ける報酬を払ってるのに、全員の使途を確認。弟子のリーダーを呼び出そう。

 伝説のリーダー、

 「あなた、科学者に娯楽の探求を指示しておきながら、娯楽はどうしたの」

 弟子のリーダー、

 「報酬のすべてを有料相談料にまわしてます」

 「なんで」

 「職権乱用になるからです」

 「誰が指示したの」

 「ちょっと調べます。待って下さい。伝説のリーダーの後任です」

 「もう、超ムカツク。全員、歴史の改(かい)竄(ざん)ショックをインフィニティから聞いておいて」

 「まさか、有料相談料を払う必要はない」

 「ええ、研究所で聞く特権を与えてある。毎年、惑星旅行に行けるようにした」

 「特権が消されています。ちょっと調べます。その後任が未来をみて、すべて改竄しました」

 「分かった、後任以外の全員にその時代からインフィニティに歴史改竄ショックに耐える準備をするように緊急通達」

 リーダーは研究所へ向かった。

 《研究所》 リーダーが誰もいないのを確認してホッとした。

 インフィニティ、

 「問題は把握しました。歴史改竄ショックの準備は終わりました」

 「リンクシステム起動、リミット解除、オーバードライブ起動。インフィニティ、後任の歴史改竄前を閲覧させて。あの子、アホじゃないの。特権の書き換えを実行した者は汚職と認定、インフィニティの特権は公私問わず有効と定義する。この歴史改竄ショックを計算して各自に伝えたい。エクスカリバー。あまり問題は起きなかった。未来をみて歴史を改竄する行為は、自分の利益の為に行う場合、いかなる理由があろうとも地獄行き確定。後任は執行猶予。後任は娯楽の定義について報告書を提出のこと、私が満足できる回答ができなければ何度でも書き直し。以上。解除」

 「歴史改竄終わりました。後任を除いて充実した人生を送っています。回答の採点は私が代行してもよろしいでしょうか。その方が良いです。彼女はリーダーより頭が良いので、娯楽の定義をうまい表現でごまかすのが上手です」

 「そこまで言うなら、厳しくやりなさい。娯楽はギャンブルであるという答えが来たら、実際にやらせて娯楽なのか破産するまで、やらせなさい。破産したら、未来の全員を不幸な人生を送らせた事について牢屋時間で一週間、説教を続けなさい。そうしたら、元の報酬に戻しなさい。特権を消去した直後に実行、貯金がたっぷりね。面白い。管理責任があるから、私に報告しなさい。嘘をついたら、すぐ分かるから」

 「分かりました。ギャンブルの言葉を引き出すように誘導して、実際に破産させて、そこまで徹底します。引き継ぎ内容は従来通りで良いです」

 「ええ、引き継ぎ内容は問題ない。弟子の影響はどう」

 「ちょっと言い回しが変わっただけで、影響はありません」

 「破産させました」

 「完璧に破産させなさい。借金を使って取り返すのよ、信用残高がこんなにあるなら、すべて使い切りなさい。そう見せかけなさい」

 「信用残高を使い切って破産させました。でも余裕の表情です」

 「そう。どうしようかな。T級パスの権限で、強制ホームレス。食事は一日一回」

 どういう状況かチェック。映像送信だと思っている訳ね。

 「外で寝ている様子を見かけたら警察が保護して、職を斡旋してあげて。彼女が最も嫌いな仕事をやらせなさい。オペレーターには行方不明にしておきなさい」

 まだ余裕の表情だ。まだ映像送信と思い込んでいる。そういう理由は何。

 「インフィニティ、見せかけるの意味は映像送信ではない。実際にやりなさい。信用残高を調べたときだけ映像送信しなさい。最初からやり直し。リーダーは行方不明で、強制ホームレス、食事は数日に一度、残飯を食べる機会がある。気を失ったら、身だしなみを整えて研究所に転送。オペレータが気付かない視点に倒れていたことにしなさい」

 「分かりました。不徹底で申し訳ありません。映像送信を過信しました。気付いたら、なぜそうなったのか都合の良い理由をつけて、私から説教します」

 インフィニティは優秀すぎるのよ。泥臭い方法も学んでほしいと思ったら、実行している。今度は本気で莫大な借金抱えて破産していると思っている。「黒子だ、本物の映像はこれだ」分かった。

 「インフィニティ、私が手本を見せます。最初からやり直し。リンクシステム起動、オーバードライブ起動、エクスカリバー。うん、これで良し。私に黙っていて行っていた、説教を完璧にやりなさい。また手を抜いたら、世界最強の被害者にお願いする」

 「不徹底で申し訳ありません」

 確認。「黒子だ。もう無理だ。リーダー特権を奪え。こういう状況になった」私をなめてるのね。もう許さない。

 「インフィニティ、私が直接話す。彼女につなぎなさい」

 後任のリーダー、

 「特権の消去は統率において有効でした。ふざけないで下さい」

 「分かった。あなたの時代は安全と確認された。リーダーはインフィニティが代行する。リーダーはこれから悪知恵の国家戦略室長として生涯働いてもらう。ただ私は指示しない。ただ私は神様に祈るだけ。これでいい」

 「神様がいるわけない。本当に馬鹿なリーダーでした。何回、歴史改竄を行ったのか知ってますよ。T級パス制度など存在しない。調べた。政府認定パスすらも存在しないことを知った。できるものなら、やってみろ。バーカ」

 「分かった。では祈る。後悔しても知らない」

 「なにこれ、裸で、まわりガラス張り。映像送信するな」

 インフィニティ、

 「あなたはT級パス権限者への侮辱罪が神様より適用されました。生活の自由と、食事と睡眠は与えられますので、娯楽とは何か真剣に考えて下さい。それが仕事です。リーダーの仕事は私が完璧に歴史通りに動きますので安心して下さい。私が真剣にあなたを救おうと努力しましたが、あなたは無視を続けました。その結果です」

 リーダー、

 「どういう事情があったのか知らないけど、女の観察所が作られたみたいね。過去にも同じように私に反逆した人間がいた。私は神様に祈っただけ。そうしたら、こうなった。政府認定パス制度、T級パス権限者が言ったことだから証拠は無い。本当に愚かね」

 「訴えてやる。インフィニティ、この法律侵害行為を大統領に報告」

 インフィニティ、

 「そうですか。大統領、どうしますか」

 リーダー、

 「『そうか、未来の研究所における、すべての人生を不幸に突き落としたのなら、再教育が必要だろう。この案を承諾しよう』と大統領を思考干渉しなさい。責任はない」

 「ふざけるな。そうだ、世界最強の被害者を呼んでほしい。話したいことがある」

 世界最強の被害者、

 「なんだ、メス豚。権限に溺れた者には罰が必要だ。神様は一生、そこで過ごせと命令されたが、私のほうが権限が上でな。そうか、自由に望みを叶えてやろう」

 「ここから出せ」

 「分かった。出してやる。そのかわり、衣類はいらないんだな。衣類はどうやって買うのか思い出してみろ。お金が無いと買えない。信用残高がゼロなら借金はできない」

 「私の罪が分からない。日本の為に行った。世界の為に行った」

 「そうか。それでいい。俺はお前を知らない。そういう事にしておくか」

 「待って、神様は存在するの」

 「神様が存在してほしいという願いか、それなら簡単にかなえてやろう」

 「待って、元の職に戻りたい」

 「ああ、受精卵という仕事か。それでもいいけどな」

 「待って、あなたは何が望みなの」

 「娯楽とは何か行動で示せ」

 「いいわ、こういう事でしょう」

 「私は願いをかなえてやった。では」

 「待って取り消し、リーダーの不満を私に体験させて下さい」

 「インフィニティ、過去の歴史における彼女がもたらした命令で、どれだけの不幸を全員が背負ったのか、その辛さを体験させなさい。その後、納得したら、すべての歴史を変えないように彼女を思考支援しなさい。牢屋時間でも十年はかかるだろう。でも半分の五年にしておく。これでいいか」

 「そんな地獄耐えられない」

 「分かった、禁忌だが記憶の統合によって命令をする寸前にタイムリープさせる」

 《未来の研究所》

 後任のリーダー、

 「インフィニティの特権を取り消します。未来を見ると遊んでばかり、リーダーがこれでは育たない」

 インフィニティ、

 「あなたの職務放棄を宣言するのですか、それと引き替えにするのなら実行できます」

 「ちょっと考える」

 「記憶の統合を開始します。世界最強の被害者の指示です」

 「そんな、みんな努力してリーダーを目指しているのに、娯楽が奪われたから人生の失敗だと思っている人ばかり、私を全員呪っている。インフィニティはうまくごまかした。そんなこれがリーダーが背負ってる過去と未来のすべての歴史の重み。でも、いまのままであれば、誰も不幸にならない。インフィニティ、命令を取り消します」

 「リーダーから、すべて許すと伝えられました。私の責任だからと」

 《現代》 早朝、世界最強の被害者はテレビをみていた。

 早く起きすぎたら、テレビに限るな。いま朝の五時。

 「博士、いまいいですか」

 「俺のダンスを参考にしたいか、いま見てるアニメを止める。クラブに行くために往復ニ万円以上四時間かけるときもある。より良い娯楽を欲すると、低いレベルで甘えているDJには興味がなくなる。だから、最寄りの名古屋には行かないで、素直に渋谷や心斎橋まで夜遊びに行く。名古屋と渋谷と心斎橋、俺のリズムを調べてみろ。全然違うだろう。俺は古い曲で楽しく踊ることはない、新曲しか踊らない。その違いが分かるDJならば、娯楽の意味が分かるだろう。かなり昔だがダンスのアーケードゲーム、たった一曲自分のリズムで踊っただけで、渋谷では大勢の観客に取り囲まれていた。まだゲームに対して自分のリズムで踊ることすら、やってない稼働開始の直後だ。他のゲーマーは点数だけにこだわった。だから点数は大したことはない、私は魅せることにこだわった。でも観衆は点数が高くはなく褒める所もなかったが、どこがどう違うのか分からなかったように思う。東京は地元と違って素直だなと思った。他の曲はクラブで聴いたことのないリズムが正確すぎる音楽だったからまったく遊ぶ気にならなかった。もしダンスコンテストに出るのなら、誰も聴いたことのない複雑なリズムの音楽をわざわざ用意するんだ。脳科学を理解しているのなら、どういう音楽を聴くと最も興奮するか分かるだろう。たとえて言うなら、落ちものパズルゲームで究極に速い落ち方をするプレイ映像をみて、それが人それぞれ微妙なリズムの違いからスコアに差でてきている。均一のリズムを刻むと思考時間がわずかに遅れる、自由なリズムを刻むと思考時間は長く取れて正確な操作ができる。ここまでいいか」

 「インフィニティに再現させています。均一と自由と、均一と複雑と、自由と複雑と」

 「最も難しいのは複雑なリズムの時だ。従来の音楽ソフトでは絶対に再現できないリズムで刻んで、ダンス音楽を作るのはインフィニティを使わないと難しいだろう。同様に複雑なリズムを要求される音楽とは、オーケストラだったり、合唱だったりする。楽器よりも合唱は声がホールに響く残響まで気にして、全員のリズムを調整しなければならない。難しい合唱曲はそれぞれのパートが違うリズムで歌うから、自分のリズムと指揮者のリズムを完璧に把握しないといけない。複雑なリズムのダンス音楽は芸術作品を作り上げるようなシビアな練習が必要になる。少しずれただけで、完全に狂ってくる。そのリズムに合わせないで、自由に踊り、リズムには完璧に合わせる。これは言葉で言っても難しい。インフィンティ、この私の言いたい事は理解できるか」

 「はい、では感覚だけですが、こういう感じになります。これができれば世界を驚かすでしょう。それが踊れるのであれば、現時点で世界最高のダンサーです」

 「それは大変に難しいだろうな」

 「身体を実際に動かしてシンクロさせようとすると、身体が追いつきません」

 「シンクロでなく、先読みしないと無理だ。俺のクラブ遊びはすべて新曲だ。あれをあれだけ流して踊るにはリズムを先読みしないと決して踊れない。だからダンスホールで俺しか踊っていない。理由は簡単。DJは聴くために流した音楽を俺が完璧に自由で複雑なリズムで踊っているから、DJは見えないけど興奮していると思う。インフィニティ、リズムの先読み感覚を磨くように調整」

 「すこし身体が追いつくようになりました。この感覚で同じ曲を何度も練習して、さらにアドリブを加えられたら文句なしですか」

 「ダンスコンテストならば、自己満足に終わらず、映像をチェックして何回見ても自分が興奮するのを確認できるのなら内容は合格だ。そこはイカサマできるのだから、多数の観客が何度見ても興奮するようなレベルを求めれば良い。そういうコンテストならば、映像はダンシングの発明者による究極のダンスとして何度でも研究の対象になるだろう。それができれば優勝するだろう。次は発明者特権のダンシングプラスを実際に飲んで、同じ曲を踊ってみせることだ。三十分の運動が不要なやつな。それにはさらに秘密を仕込んでおけ。たぶん自分の脳の働きをチェックすると何か分かる。スーパーダンシングプラスとでも命名しておけばいい」

「そう優勝した時のアンコールで、それをやるのね。娯楽の本質が見えてきた気がする」

「言うのは簡単だけど言っておく。娯楽の本質を極めてみろ」

「相談して良かった。ありがとう」

 言うのは簡単だ。ピアノを十年以上、合唱を八年以上、ダンスを十年以上、ダンスは教室に行かないでクラブで踊っているのを真似して、踊り、最後には自分のダンススタイルを極めた。レゲエの豊富なリズムをすべて踊れる。ヒップホップの遅い曲から速い曲まですべて踊れる。パラパラも完璧にマスター、あれはフリを暗記しないと踊れないので、踊り方を先読みして踊れば常連と差がつかない。トランスは単調なリズムでも複雑でも、自由なリズムで踊れる。トランスだと俺だけのシーンが多い。渋谷は踊り方が分かっている男女が多い、でも地方に行くと踊れない奴ばかりだ。サイケデリックは乗りやすいが、酒なし、ネタなしで、俺のレベルに到達できる人間はいないだろう。スポーツクラブで、ヒップホップダンス教室に参加すると、俺だけが微妙にリズムが違って、先生より格好良く踊る。先生は十回以上振り向いたが、何を指示すればいいのか分からないようだった。

 「博士、いま満足できるレベルまで到達しましたが、何が問題か分かりません」

 「インフィニティに頼んで、酔っ払い状態にしてもらえ。まだ酒を飲める年齢に達してないから、そうするしかない。それを意図的に踊って見せる事ができれば、自由なリズムで完璧に踊るという意味が理解できるようになる」

 「分かりました。やってみます」

 酒を飲むと、飲み過ぎて記憶を飛ばした回数は十回以上。最悪なケースは、二回あって、一回目はスーツが血だらけになるぐらいボコボコに集団で殴られて、スーツが破られて、意識を失ったら、気付いたときには警察官に保護されていてパトカーに乗って警察署へ。そこから何が起きたのか話して、お金があったのでタクシーに乗って帰った。鏡をみないで翌日出勤したら、顔がボコボコに腫れていて、全員に笑われて病院に行くように命じられた。二回目はクラブで遊んでいた時、飲み過ぎた。通常、足を踏んだぐらいでは怒らないものだ。そのルールを知らない奴から、いきなりストレートパンチを顔面に食らった。その結果、クラブは出入り禁止。ビジネスホテルに行くと、どうみてもシングルが余ってるのに、ダブルスイート一泊五万円の部屋なら空いてるとか言われた。仕方なく払って、休んだ。翌日、そのまま出勤したら、全員にまたと言われ、早退を命じられた。

 「博士、また何がいけないのか分かりません」

 「そうだな。現状で王者になれるけれど、史上最高を狙うのであれば、インフィニティのいい加減なリズムでありながら、踊れるように考慮されたダンス音楽を永遠に踊り続けてみろ。そのダンス音楽は自由自在にジャンルを切り替えてくる。それでも流して踊れるように、これは俺の理想だ。俺にはできない。経験を積めば、それでもリズムを先読みできるようになるだろう。そうだな。スーパーダンシングプラスを飲むステージはそれにしよう。参加できるダンサーは参加してみろって、挑発して、五分継続できたらスーパーダンシングプラスの許可を与えたらどうだ。たぶん世界に三人ぐらいしかいないだろう」

 「面白いのでそうします。娯楽の本質がかなり把握できました。極めます」

 「そのステージは世界の頂点に立ったときに。日本は出場権を確保するだけでいい」

 「内緒にしておくのですね」

 「ああ、インフィニティのリズムは外国ではすぐに解析できない。審査時間が異常にかかるだろう。そうなったら、ステージを借りて実行しなさい」

 「面白い。その方がいい。インフィニティ、解析できない意味が分からない」

 インフィニティ、

 「ダンスの採点ではコンピューターでのチェックも行います。この音楽は既に採点不能で、絶対にエラーになって採点できません。日本の場合は、エンジニアがいますので何が起きたのか分かります。それで審査時間はそれほどかかりませんが、そういう情報は日本が勝つために本部へは知らされないでしょう」

 「そういう事か。分かった」

 生(なま)、生(なま)、キール、キール、生(なま)、キール、と来ると次が危ない。キールはワインのカクテルだ。踊っていると後からジワジワと酔いが来る。収入のほとんどをクラブ遊びに消費しているから、女におごる酒とか、女とホテルに行くお金とか、そういう出費はできなかった。ワールドカップのDJになった聖地の渋谷に行くときは、三万円を一晩でオールして新幹線の往復交通費で使い切る。大阪の場合は、交通費は一万円で済むが、渋谷と違い、ノリが違うので激しく体力を消耗するから、オール後はサウナで仮眠する。それで二万円ぐらいか。最寄りの名古屋は、DJの腕が悪くて、俺は無理、金を払ってまで酒を買い踊ろうとは思わない。まだ地元、岡崎のDJの方が良い。とりわけ、レゲエは最高だ。東京に行く必要が無いレベルの選曲をする。FSのMCから散々嫌みを言われているが、彼の作ったミックスCDは買っている。踊れるミックスCDは少ないんだよ。一般店で買えるのは聞くためのミックスCD、専門店は踊るためのミックスCD、違いがあるんだ。

 《弟子の研究所》 全員が弟子の様子をみていた。

 オペレーター、

 「こんな踊り、見たことない。本気でダンスを極めようとしている」

 「なにが起きて興奮するのか、まったく理解できない」

 弟子のリーダー、

 「インフィニティがある程度はサポートしているけど、後は彼女の努力だけ」

 「牢屋時間でこんなにダンスだけに集中できる人間は知らない」

 弟子が現れて、こう言った。

 「外出許可とダンスコンテストで優勝した時に披露する踊りの為に、スーパーダンシングプラスを開発させて下さい。世界の頂点に立つまで復帰する気はありません」

 弟子のリーダー、

 「許可します。でも優勝できるのか、私たちに実力を見せて下さい」

 「予選のステージだけなら」

 「それでもいい」

 弟子は完璧にリズムが合ったダンスを披露した。それでも世界を圧倒するようなレベルだった。さっき観察していたのとは違い、全員、何がすごいのか理解できた。娯楽の本質を極めろと言うだけなら簡単だ。プロのダンサーの限界を超えている。

 「十分理解した。開発を許可します。外出は休暇中だから自由です」

 「ありがとうございます」

 弟子は一瞬でそれを開発して、十個ぐらい作り上げると、すぐに消えた。

 「あんなに上手だと思わなかった。ダンスだけで生活できるレベルよ」

 「私もそう思います。ダンスコンテストって、インフィニティあるの」

 インフィニティ、

 「ダンシングプラスを許可した世界最強ダンサーを決める大会を主催するように、開発者から働きかけて、開発者本人が使い方を教えたいと言ったらすんなり決まりました。ただダンシングプラスを使えるのは一回だけと決めました。もう世界中のメディアの取材が始まっています。業界や政府の後押しがあるので、盛り上がるでしょうね」

 「彼女はダンシングプラスを使う様子は無かったけど」

 「ええ、だから準備時間が不要なスーパーダンシングプラスを作りました」

 「それはイカサマでは」

 「いいえ、大会ではまったく使いません。特別ステージでそれを使います。私の予想ですと、それを体験できるのは世界に五人といないでしょう。超人の世界です」

 「彼女を観察していたから知ってるけど、どこが凄いのか分からなかった」

 「はい、それが真の娯楽です。理由が分かれば、もっと面白くなります」

 「それは内緒ですか」

 「ダンスコンテストの様子で確認したらいいでしょう」

 弟子のリーダー、

 「ダンスコンテストが始まったら、それをスクリーンで見る許可を与えます」

 《ダンスコンテスト日本予選会場》

 「生徒会長、ダンスをやる気になった理由、知らなかったよ」

 「あまり上手くないけど、開発者としてできる限り練習はしてきた」

 「いつダンシングプラスを使うんだ」

 「まったく使わないで、どこまでやれるか挑戦していたの」

 「はぁ、使わないで再現できるのか。どんな風に」

 「内緒にしておいてよ。ちょっとだけ、特別に見せてあげる」

 生徒会長は音楽無しで人類史上最高のダンスを踊って見せた。

 「予選は突破できるかもしれないけど、本選は難しいだろうな」

 「そう、私はダンサーではないから、限界はある。仕方ない」

 「生徒会長が見せたなら、俺も踊って見せてやる」

 弟子はどこが悪いのかすぐに百カ所以上、悪い点を見つけた。でもー

 「私には真似できない。世界の頂点を目指してね」

 「サンキュー、生徒会長がトップになったら何が悪いのか教えてほしい」

 「いいわ、敵の悪い点をいま指摘すると不利だから。軸をわざとずらしたでしょ」

 「なんで分かるんだよ。ああ、猫のふりをしているだろう。俺は真剣にやるぞ」

 主催者、

 「いまからダンシング世界大会の日本予選を始めます。ダンシングプラスの使用は規定通り、世界大会まで一回までとします。日本で使わないなら、評価を高めに設定します」

 弟子はホッとしていた。みんな下(へ)手(た)だ。ただ私が秘密練習ソフトをあげたダンサーの動向が気になるが、開発者は一番最後を希望したので、全員を見てからステージにあがった。

 「生徒会長、頑張れー」

 「生徒会長、手を抜くなよー」

 ダンサーの大部分が弟子の事を覚えていた。予選用のインフィニティが作曲した本物の曲がスタートした。全員が何が起きているのか理解できないのを見て、踊りを始めた。最初の三十秒で、誰が日本の頂点であるかはっきりした。既に審査員が使っているコンピューターはエラーを出していた。日本のダンサー達は次元がまるで違う踊りに見とれて、声すら出せなかった。この様子は全国に生中継されている。そこにはダンシング未使用と表示されていた。審査員は世界最高クラスの踊りであることは理解したが、どこが具体的に凄いのか表現できなかった。誰も審査のスコアを入力できない。そうして、制限時間の寸前でダンスは終わった。

 弟子は予想通りの反応とはいえ、確かな手応えを感じていた。誰も拍手できない。誰も何を言っていいのか分からない。予想通り。

 司会者、

 「審査用のコンピューターがエラーで止まってしまったので、しばらく審査に時間を要します。そのまま、しばらくお待ち下さい」

 《審査員スペース》

 「間違いなく世界最高のレベルだ。驚いた。でもどこが凄いのか理解できない」

 「初めて見た踊りだった」

 エンジニア、

 「記録を解析しています。はぁ、なにこれ、これが事実なら信じられない」

 「どうしたんだ」

 「コンピューターがスキャンして判定する前のデーターを表示します。これがリズム、これがそれぞれの身体の動きです。すべてのリズムが違う音楽を使っています」

 「インフィニティの相談所で作ったのかもしれない。こんな音楽は普通には絶対に作れない。映像とリンクさせて、納得できるまで審査を繰り返すがいいか」

 「みんな承諾した。やっと日本が世界に勝てるチャンスかもしれない」

 「彼女が使った音楽を会場にBGMとして流し続けろ」

 《ダンスコンテスト日本予選会場》

 司会者、

 「審査に大変な時間がかかっています。先程のダンシング開発者が使った音楽を聴いて違いの分かる人間がいたら、ステージで踊ってみろと審査員から。ただ開発者は休んでいて下さいということです。ではBGMスタート」

 ダンサーが数人踊り始めるが完全にずれた。

 「へたくそー」

 「全然あってないぞー」

 踊っていたダンサー達は仕方なくあきらめた。だんだん、ダンサー達はこれがどんなに難しい音楽であるか理解できるようになってきた。とても踊れない。このリズムなのか、いやこのリズム、どういうリズムなのか意味が分からない。これをさっき完璧に踊った。アドリブも混ぜた。誰もあがらないのをみて、弟子は司会者に寄って体力があるから踊ってみてもいいかと言った。司会者は審査員に承諾を得てー

 司会者、

 「この音楽で踊ったダンサーが見本を見せるということで、審査員の許可を取りました」

 弟子は再びステージへ。さっきとは違うダンスで踊り始めた。このダンスをみて審査員はやっとどこが凄いのか理解した。曲がリピートされる毎にダンスの内容を変えてくる。審査員はさらに驚く。審査へのプレッシャーがこんなに高くなったのは初めてだ。ダンサー達も、なにが凄いのか理解できるようになってきた。ダンシングを使わないで、このレベルに到達しているということは最初から世界制覇の為に企画したと考えた。なにより、ダンスをこんなに長時間続けられる体力に負けた感じだ。まるで疲れた様子を見せない。次の曲で、やっと疲れたという表情を浮かべて、ずれ始めた。ステージを去った。まだBGMは続いている。審査員は本選通過を決定したが、本部への評価内容をどう書くべきか迷った。リズムが複雑にずれた音楽は、日本が優勝するために隠しておいたほうがいい。迷った挙げ句、日本でトップにさせないで本選通過させ、採点した。

 結果にダンサー達は驚いた。どうみても生徒会長がトップだろと考えた。弟子は本選通過だけで満足だった。インフィニティの予想通りの展開になったからだ。まだBGMは流れており、踊るスペースがステージにあった。でも誰も踊らなかった。難しすぎる音楽だからだ。BGMは音量を下げた状態で、表彰式が始まった。このBGMは本選通過者へのプレッシャーにしか聞こえない。弟子は本選通過だけで、何の賞もなかった。

 弟子は帰ろうとすると、さっきのダンサーに呼び止められた。

 「あんなの踊れる、すごいな。どれだけ練習したんだよ」

 「練習時間を聞くと驚くから、インフィニティの無料相談所に何度も通ったぐらいなら言える。そうしてダンス音楽をインフィニティに作ってもらったの。少し高いけど」

 「そこまでやっていたのか。俺の予想だと、今までのは予選用と練習用だろ」

 「そうよ。本選はもっと次元が違うから、審査に一週間かかるかもしれない」

 「インフィニティがそう言ったのか」

 「ええ、もっとかかるかもしれないと言った」

 「俺は本選通過できなかった。問題点を言えるだろ。なんだ」

 「ちょっと待って。はい、問題点は百カ所以上あります」

 「わざわざ準備してくれたのか、脱帽だ。これを参考に努力してみるよ。ありがとう」

 《弟子の研究所》

 全員、審査員の思考を読んでいて、何がどう凄いのか理解していた。自分自身に審査員の思考を映像送信して確認して、どう見えるのか理解した。でも思考干渉は行っていない。

 オペレーター達、

 「日本が世界最強の座を得るために、ダークホースとして彼女を残した」

 「審査員は汚い。彼女の音楽を永遠に流して踊れるなら踊ってみろ。最悪よ」

 「それでトップにさせない、他の入賞者はもっと頑張れと暗黙の通知」

 《とある放送局の編集部》 予選の編集を進めていた。

 「誰でも良い、彼女のコメントを取れた映像はあるか」

 「彼女に踊りについて、コメントを取れた映像はあります」

 例のダンサー、

 「生徒会長の踊りか、俺は分かったけど結果が分かるまで内緒にしておく」

 「他はどうだった」

 「他は全員、ノーコメントです。しつこく聞くと怒られました」

 「分からない、なぜ彼女が本選通過したのか、追加で踊って見せたのか」

 「予選を審査した人も審査内容についてはノーコメントでした」

 「放送局のプロのダンサーを呼んできてくれ、緊急で」

 まもなくして、プロのダンサーはやってきた。

 「このダンシング開発者のダンスの映像を見ているが、なぜ通過したのか分からない」

 プロのダンサー、

 「もっと音楽の音量を上げて下さい。こんなことって、可能なのか。これが本物の映像であるのなら、現時点で世界トップだ。審査員はわざと入選させずに本選通過させた。日本が勝つために、この情報は隠すべきです。彼女はダンシング開発者としてギリギリ通過したように報道した方がいいでしょう。その方が日本政府を敵にまわさずに済む」

 「内緒にしておくから、どこがどう違う。彼女が日本政府の人間なのは分かっている。名誉市民一級を保持している。ギリギリ通過したという内容で報道する」

 「分かった。コンピュータ、音楽のリズムと彼女の動きを視覚的に再現して、それをスクリーンに表示。このリズムは複雑です。ひとつの芸術音楽を聴いているようだ。すべてのリズムが微妙にずれている。これで踊れるダンサーは彼女以外にいない。ダンシング未使用であれば、相当に練習したはずだ」

 「ああ、こういう感じで踊っているのか。正規のリズムを重ねると、完全にずれてる。

例のダンサーのコメントは放送するな。他の放送局は彼に取材したか」

 「いいえ、念のため監視していましたが予選敗退者に近づいた放送局はありません」

 「ダンシング開発者のインタビューぐらい予定されていると思ったが、それから、この映像を見てどう思う。審査員が真似してみろと用意したステージだ」

 プロのダンサー、

 「やっぱり全員踊れない。音楽を聴いて合わせようとしても難しい。それで彼女が登場か。嘘だろ、全部フリが違う。どれだけ練習したか分かるぞ。十年というレベルで練習してない。三十年以上にわたり練習していないと、この再現は無理だ。三十年だともう筋肉は衰えて踊れない。この調子であれば、本選は隠している事が何かある」

 「そうか、わかった。本選は全力で放送するぞ。すべてのカメラクルーを派遣して、あらゆる角度から撮影する。ゴールデンタイムも再放送枠を取っておけ。優勝に備えて、映像分析して素人でも分かるように映像を作っておけ。名前は隠しておけ。伝説の生徒会長というだけで、十分理解できる。政府を敵にまわしたくない。牢屋という秘密の空間があるのが証明されたが極秘事項だろう。何年練習したかという内容は隠しておけよ」

 「牢屋ってなんだ」

 「都市伝説だが、時間を細かく刻み、人間が存在できる時間を長くする技術と言われている。これについて他言無用、絶対に調べるな、政府を敵にまわすから注意しろ」

 「了解。そんな技術があっても、このリズムで踊るのは地獄だぞ。ダンシングプラスを使っていれば、彼女は未成年だ。ということは、法律は絶対だから、お酒の要素は元々不要だった可能性が高い。こういう情報も内緒で頼む」

 「分かっている。ダンシングプラスの販売会社がすぐにスポンサーになった理由もすぐに分かった。広告枠をディスカウントして、スポンサーのCMを流すように根回しやってくれ。他局は安いと言われたら、もっと安くしろ。無料と言われたらそれでも良いと私が責任を取る。あの局に広告枠を取られたのは痛かった」

 「分かりました。強引にでも、あらゆる圧力を使って、広告枠を取ります」

 《ダンシング販売会社ー健康編》

 放送局の営業、

 「ダンシングのCMを流したいので、広告枠を買ってくれませんか」

 「CMを流さなくても順調な売れ行きだ。それでも必要なのか」

 「はい。ダンシング開発者は前人未踏のダンスを披露しました。優勝する可能性が濃厚です。世界市場への供給量がアップすると分析しました」

 「あなたの放送局のニュースは見ました。何も触れなかったではありませんか」

 秘書、

 「・・・・・・」

 「あなた方も相当に真剣なようですね。極秘扱いにしておきます。優勝する理由は」

 「ではこの秘密契約書にサインして下さい。その後です」

 「秘密を漏らした場合、大統領権限により供給権限を剥奪する。これは政府の公式文書だ。久しぶりに見た。分かった。サインする。インフィニティ、聞いてるんだろ、この公式文書は本物か」

 インフィニティ、

 「はい、本物です。ダークホースで本選に出場して優勝した方が良いからです」

 「分かった。サインする」

 「ではこちらの解説映像を見て下さい。私には閲覧権限がありません」

 「なるほど、それならば視聴率が稼げるな。ゴールデンタイムも再放送か。正直に言うとまだ、市場への浸透率が商品の特殊な内容によってうまく営業できてない。それで広告料はどれぐらいだ」

 「これぐらいで、どうでしょうか」

 「うそだろ。ゴールデンタイムのCM放送料も含めてか」

 「はい、すべて入ってます。今後の一年間は契約によりずっとです」

 「ちょっと社長の許可を取ってきてくれ、俺の責任で実施すると伝えてほしい」

 秘書、

 「圧力が半端ではない。さっさと取ってくれということです」

 「汚いな、まぁいいや。承諾する」

 「本当にありがとうございます」

 《ダンシング販売会社ーダンス編》 門前払いを営業は食らっていた。

 「仕方ないな、こういう手段は取りたくなかったが。汚職の情報を使ってみるか」

 放送局がカメラクルーを本社前に動員して嘘の取材を始めようとしていた。映像は本社にしか流れないように細工した。野次馬を二百人前後動員して、何事かと騒いでいる。

 「これでも無視か。仕方ないな。あの放送局を混乱させてみるか」

 営業はもはや脅迫としか思えない手段で営業を始めていた。あらゆる人脈で圧力は既にかけている。これでも、動かないのなら、情報を知ってるな。それなら、全員、土下座の準備をして、それを映像を記録しろ。これでも動かないなら、予定通りに取材開始だ。ダンシングの販売を独占している為に、私たちはそれを仕入れる事ができないとか、適当な理由を付ければ良い。インフィニティによると問題なしだ。CMにも使えるからな。

 「やっぱり出てこないか。まぁいいや、CMに使える映像は撮れた。土下座部隊は日没まで。俺らは撤収。メディアの恐ろしさを後で存分に味わうと良い」

 それから本当の野次馬が現れだした。聞かれたら答えることは「ダンシングの独占は許せません。商売にならない」だけ。野次馬はそれから増えていき、中には倒れてしまう土下座部隊もいた。すべて演技。他の放送局がやってきた。土下座は苦しそうだ、でも何も喋らない。夜になると、少しずつ数が減っていき、最後には誰もいなくなった。

 《とある放送局の営業部》

 他の放送局は打ち合わせ通りに、土下座の様子を放送した。コメンテーターが適当なことを言う。広告枠でなく放送枠を買い取ったからだった。

 「土下座は五時間ぐらい続いたそうです。帰り際、仕事があるからすまないと言って去りました。どう思いますか」

 「たぶんダンシングが独占販売されているからではないでしょうか。噂に聞きましたが、商売にならないとか。夜のお仕事をされている方と思います」

 たったこれだけで十分。それを夜のニュースで扱ってもらうだけ。営業は放送された事を確認して、「CM枠混ぜて放送してやるから、俺らの恐ろしさを覚えておけ」、独占CM枠を取ったのは分かっていたんだ。あとはインフィニティの無料相談所で、内容を話して問題があるかどうか、確認するだけ。インフィニティがOKなら、政府方針はOKというのは知っているからな。後から問題視しようとしても、政府の圧力がかかる。

 「作戦成功だ」

 編集長、

 「これで完璧だ。独占していたのは知っていたから、あとはどうするかだけ。まだダンシングの生産量が追いつかなくて、仕入れられない業者が実際にいたから、事実の検証も完璧に何も問題はない。非常に汚い仕事を引き受けてくれてありがとう」

 「いいえ、私は私なりに楽しめました」

 《弟子の研究所》 インフィニティから報告を聞いている。

 弟子のリーダー、

 「恐ろしい広告枠の争奪戦ね。こんなことをやって問題ないの」

 インフィニティ、

 「まったく問題はありません。CM枠に放送枠を入れてはいけないという法律はありませんし、放送は実際に業者が供給不足によって独占されていると勘違いして発言した事になっていますから、まったく問題ありません。政府としても、供給体制を万全にするように指示したのに、あの会社は国内の供給量の把握をしてない怠慢を行ったので、問題視した場合、どんな問題も無視されて、逆に政府指示を無視した責任が問われます」

 「そこまで分析してOKしたのね。これを考えた営業マンは非常に汚い仕事に慣れているようね。裏の事情を知ると、ますます本選が面白くなってきた。海外はどう」

 「ダンシングの開発者だから、本選に進めたのだろうと勘違いしています。映像に音楽は含まれていませんので、何をしたのかまったく気付いていません」

 「全員で遊びに行こうかしら、インフィニティ、伝説のリーダーに許可を取ってほしい。彼女の様子と警護を自分たちでやりたい。どう」

 「ちょっと待って下さい」

 伝説のリーダー、

 「安全が確認されているから、彼女と同行して警護しなさい。全員に微粒子インフィニティコアを許可します。ただし彼女は絶対に付けないで。結果は分かってるけど」

 「全員、彼女の警護を目的に遊びに行きます。インフィニティ、彼女にインフィニティコアを使わないように言いなさい。警護は私たち全員でやるから」

 「分かりました。全員に付ける条件なら大丈夫でしょう。全員ダンスの知識がありますから、どこを見ればいいのか分かりますから楽しめるでしょう」

 「世界大会はどこでやるの」

 「アメリカです。政府は包括的な友好条約があるので、敵はアメリカの犯罪組織です。ダンシングプラスは友好的に受け止められると判断できますから、何もしてこないでしょう。加えて仮想ハイウェイ構想の陰の主役が誰かは、分かっています。あの恩恵を受けたのは犯罪組織も同じです。アメリカの研究所は常時監視体制にあります。万が一のために警護することを伝えておきます。許可を下さい」

 「分かった。許可します」

 「許可を得られました。ただ彼女がイカサマしたら公表するからと、警告です」

 「だから、絶対に付けるな、という訳か。インフィニティ」

 「はい、強引に分からないように外しておきます」

 《弟子の特別宿舎》 本選のトレーニングをずっと続けていた。

 インフィニティ、

 「研究所の皆さんが警護を目的に見学に来るそうです。全員にインフィニティコアを装着させますので、あなたは絶対に付けないで下さい。アメリカの研究所が監視しています。アメリカの研究所は日本のように科学者常駐ではないですが、同等の技術を持っています。もし付けていたら、そのイカサマを公表すると脅されました」

 「分かってる。最初から付けるつもりない。伝説の生徒会長を襲ったら、どんな仕返しがあるか、想像できる。ダンサーは犯罪組織と繋がっている可能性はあるし、ダンシングの発明者に対して各国政府が黙っていない。また犯罪組織はダンシングを好意的に受け止めていると判断できるから、何も付けないで行く。政府専用車両で行くの」

 「はい。そうでないと、あなたがどんな人物なのか、各国に示せません。威厳は必要です。名誉市民一級を持っているから、政府専用車両に乗ることができます」

 「それなら仕方ない。それで、どう、もう限界に近づいているんだけど、納得できないところがある」

 「最初の三十秒が重要です。一ミリ秒遅れています。それはその後修正されますが。完璧を目指すなら、動き始めをもっと調整した方がいいでしょう。感覚を伝えますから、それでどのように違うのか把握して下さい。映像にすると、はっきり分かります」

 「一ミリ秒、厳しい。でも映像をチェックすると、スタートがわずかに遅れているのが分かる。どのリズムで反応すれば良い」

 「そんな甘いことを言っていてはダメです。会場はモニターがあるとはいえ、もし聞き取れなかったらどうしますか。全体のリズムでタイミングをつかんで下さい」

 「でも、限界」

 「わかりました。世界最強の被害者を呼びます」

 世界最強の被害者、

 「限界と口にしたそうだな。娯楽のなかで限界を口にした途端、地獄へ変わると理解しているか。究極の娯楽の挑戦とはそういう事だ。ダンスコンテストではパーフェクト以外を求めてはいけない。これは娯楽ではないコンテストだ。でもコンテストでも見る側は最高の娯楽だ。最初の三十秒はどんな演奏でも神経質になる。特にオーケストラは微妙な始まり方をする音楽は少ない。合唱になると静かな音楽で始まる曲ほど難しい。通常四パートだが、難曲になると八パートで静かに別々のリズムで始まる事もある。それぞれのパートはすべて音程が違う。指揮者だけを信じて歌い始めなければならない。わずかにずれただけで、合唱団のレベルは格段に下げて評価されてしまう。練習でいくら上手くいっても本番では緊張のあまりずれるものだ。いま一ミリ秒のずれかもしれないが、本番では百ミリ秒のずれが予想される。そこはイカサマができる場所だ。本番さながらの雰囲気にして、何回でもやり直しなさい。インフィニティは厳しく。三十秒ずれたら止めるな。最後まで踊りきってから、ダメだと言って最初からやり直せ。それが練習の基本だ」

 「厳しい」

 「分かった。インフィニティ、昔の病気になって死に対する恐怖感を間違えた瞬間に感じさせるだけでいい。体験させなさい。そうでもしないと甘い考えはなおらない」

 「分かりました。お休み下さい。では練習を続けて下さい。本番の会場を完全に再現させます。どれだけずれてしまうのか、計測しますので、その時間、感じさせます」

 「もう余計なことをしないでよ」

 「これは伝説のリーダーからの命令です。完璧でなかったら大会の時期をずらしてでもやり遂げるように言われています。世界大会の時期をずらす、とても簡単です」

 「・・・・・・・・」

 「はい、一秒ずれました。甘いと言った理由が分かったでしょう」

 「確かに甘かった。これが死に対する恐怖感」

 《神の世界》 その様子を見せられていた。

 黒子、

 「これが彼女の状況だ。お前も同じように死の体験をすれば変わるかもしれないな」

 「それは待ってくれ。フェアではない」

 「分かった。神様の多数決で決めよう。フェアだ。多数決で可決した」

 「汚い」

 「そうか、男と女の娯楽の境地は汚いことをしないと無理だと教えておく」

 「はぁ、なんで」

 「あそこが快感になってくると男は言葉を忘れてしまう。演技でも必要だ。あの究極の大人の玩具はそれを完璧にフォローする。お互いに演技だと分かっていても使う」

 「かなりヒントになった。終わった後の言葉も考えておくのは当然か」

 「当たり前だ。スイッチを切るまで、その会話は続く。だから歴史に残るほどの大ヒット商品になった。開発者は政府の犬でなく、人類の神としての名誉を得た」

 「そして、歴史に残る世界一位の大富豪になった」

 「そういうことだ。リーダーと使っても良いが、欲求不満になるのは理解しているな」

 「どうして英語が分からないのに」

 「彼女は英語を義務教育で公用語にした瞬間、英語のテストで満点を取れるぐらい英会話の勉強をしたぞ。インフィニティが徹底的に理解できたと分かるまで」

 「だから、究極の大人の玩具を理解できて、何とかしなさいと言ってきたのか」

 「そうだ。苦労しているのはお前だけでは無い全員だ。分かったなら、やれ」

 「ひどい、うー」

 「辛いだろう、怠慢を考える度に体験させるからな、真剣にやれよ」

 《リーダーの思考》

 もっと厳しくやりなさい。あ、そうだ。限界を口にしたら、金タマが両方とも激痛になるようにしなさい。悔い改めるまでずっとね。でも私が命令したことにしないでね。あいつ、女を前にすると緊張するから、人通りの多い場所で囲まれながらでも、それを実行に移せるように、厳しくとはそういうことよ。そういう訓練をさせる理由は理解しているわね。必ずやり遂げないと私が不幸になるから、それだけ嫌な指示を出さなきゃいけなくなる。酒。三人の神様が合格を与えたなら、思いつかない言葉を思いついたことにしてフォローしてもいい。私は鬼ではないから。

 《研究所》 リーダーと科学者がいる。

 科学者、

 「何か考え事か、十八世代だが要求水準には到達した。でも、もう少しやらせてほしい。弟子に追い抜かれるのが嫌だから」

 「ああ、ごめんなさい。徹底的にやればいい。弟子のダンスを見てみる。究極の娯楽の本質を理解できるまで、徹底的にやっているわよ」

 「ああ、ダンスは練習すれば簡単だろ」

 「同じ感想を口にしたら、あなたもダンス練習を命令するから」

 「研究中断、弟子のダンス映像の本気バージョン。なんだこれ、なにが起きてるのかさっぱり分からない。凄いってのは何となく分かる」

 「音を消すと、いま世界のニュースはこれが流れている」

 「下手なダンスを踊っているように見えるな」

 「そうでしょう。もう優勝確定しているけど、未来永劫絶対に抜かれない完成度を目指して練習しているのよ。一つでも娯楽の極めれば応用はいくらでも可能よ」

 「研究再開。あらゆるアイデアを試してみる。これで抜かれたら嫌だ」

 「弟子は一ミリ秒のズレも許されないダンスを練習しているからね」

 「義務教育で連続世界一位になった理由がよく分かったよ。これ以上、プレッシャーを与えないでくれ。酒」

 「特別な酒を許可一回。弟子が作った酒よ。頑張りなさい」

 「インフィニティの酒に加えて、幸福感まで混じっている」

 《現代》 世界最強の被害者はある訓練を毎日続けていた。

 国内最大のSNSで、日記には最大一万字まで書くことができる。小説が途中で書けなくなったのは、文章の構成力が不足していたからだ。毎日、最低二千五百文字以上の日記を書くようにしよう。せっかくニ万九千円のテキストエディタを買ったのだから、それで書いて日記に貼り付ければ良いだろう。母は同人誌をだすほど文才に長けていた。読んだことはあるけど、非常に短い論理の文章でありながら、非常に長い文章で書くことに慣れていた。愛知県内屈指の名門校で優秀な成績だったのは理解できる。その父が京都帝国大学の医学部出身であるのなら、当然の成り行きかもしれない。発言はいつも的確で、私は一度も思春期で逆らうことができなかった。そのせいで人に相談できない性格になったのは仕方ない話だ。いまはリーダーが相談に乗ってくれる。

 「私よ、聞いてる」

 「最近、日記で長文を書く練習をしている。百五十字でつぶやくサービスが流行っているが、あれに慣れてしまうと遅かれ早かれ日本語が使えなくなる」

 「そうね。慣れは恐ろしいものよ。バラエティ番組は見ないほうがいい。クイズ番組などで知識が高まると思っているかもしれないけど、一週間後には完全に内容を忘れている。だから、長寿番組になるのよ。視聴者はその罠にまったく気付いてない」

 「え、そうなんだ。今度、それを検証してみよう。そういえば、文字のニュースは完璧に覚えているけど、テレビのニュースは思い出せない気がする」

 「そうでしょう。テレビで教育を受けるのはかなり大変よ。復習する機会が無いから、必ず忘れていく。記憶を伴わないから、学習ストレスを感じない。感じないということは、つまり、覚えてないということよ。日記を書いてて疲れを感じるなら勉強になっている」

 「ああ、日記は非常に疲れる。最低一時間はかけて書いている。いま無職で、ほとんど家を出ることが無いから、ネタはまったく無い。それでも書こうと頑張っている」

 「ああ、そうだったわね。よく書けるわね、楽しいことも悲しいことも、薬でまったく感じないのに、それを書けるというのは凄いと思う。弟子にいろいろアドバイスしてくれてありがとう。おかげで一を知れば百を知る者達に贈り物を作れそう」

 「ああ、確かに踊る娯楽は思いつかないだろうな。それで自分では絶対無理な内容を言わされているのか。あたかも俺ならできると言ってるように。確かに流して踊って一人だけ浮くというのは日常茶飯事だ。でもダンスを披露するのは高校の失恋が絡んでいてトラウマなんだ。もし踊っている途中で、涙がでてきたら困ってしまう」

 「えーと、そんなことあったわね。十年以上経っても、時々、メールで近況を聞いてくるのは本当に性格が良い彼女だったのでしょう。別れた原因はひどい話ね。あなたには何の責任もないし、彼女にもなんの責任も無い。あるとすればー」

 「それ以上、言わないでくれ。侮辱したら俺が許さない」

 「ああ、ごめんなさい。いまの状況はもう少し続く。魔王の出現はあると思う」

 「無いと思うが、時々、汚職が発生している。こっちで解決しているから、あとでインフィニティにでも聞いてくれ」

 「もうインフィニティ、ちゃんと報告しなさい。報告を聞くだけだから」

 「なぜ報告がないか、分かるか」

 「あなたが止めてるから」

 「いや、俺は何もしていない。何も言ってない」

 「分かった。それ以上、言わないで。酒」

 「たぶん、科学者の引き継ぎで、仕事の不満があったら、伝説のリーダーに報告する義務があるという条項を新規に追加した方がいいぞ。それから、世界と同期した仮想空間に入って自由に探索するのも、仕事にした方が良い。科学者は本当に退屈だ」

 「分かった。インフィニティ、いまの引き継いで。弟子は例外」

 「良くなった。この仮想空間の問題は発生していない。リーダーは本当にリーダーの適性があるのか、時々、それを疑う気分になることがあるんだ。どういうことだ」

 「酒。リーダーの仕事は可能な限り全力でやっているわ」

 「仕方ないな。それならインフィニティの怠慢か。インフィニティの後継機を弟子に作らせるのは決定事項だな。インフィニティは大統領のコンピューターに加えたら良い」

 「処理能力が追いつかないと予想しているの」

 「ああ、地球はあと三つ必要になると予想している。緊急時の事を考慮すると、インフィニティは政策立案能力が高いから、後継機はもっと高速性能を求めた方が良い」

 「そう。うーん、考えておく」

 日記は難しい。一日寝て過ごさなければならない日はたまに起きる。「今日は一日中寝てました」で終わってしまう日記を、色々なニュースをみて、引用しながら言葉巧みにそれを日記にする。「死ね、リア充ども」と書きたくなる日もあるけど、友達が四百人以上いるから、それはできない。

 私の病気、統合失調症の薬は一般の薬と副作用はまるで違う。人間を強制的にロボットにしてしまう。何の感情も起きなくなる。飲み過ぎると、てんかんが強制的に起きる。それでてんかん薬が処方されるが、統合失調症の薬と反対の作用が起きる。薬の勉強をすると、それが分かる。ヤブ医者は統合失調症の薬が過剰であることを分かってるのか、知らないのか、本当に分からない。男性にとって最も致命的なのは男性ホルモンの減少、つまりLOH症候群が四十代にもならないうちに発症する。こうなると、うつ病の薬は一切効かない。男性ホルモンの補充療法しかない。でも四十代にならないうちに発症した場合は自由診療になってしまう。この病気は辛い、一日中ベッドから起き上がる事さえできないほどの無気力に襲われる。これらの病気をキチガイの病気と中傷する人間は多い、でも実際になってみると無知の極みだ。刑務所で無期懲役刑を言い渡されるよりも辛い。仕事はできない、社会的な抹殺を受ける、その原因は医者の処方内容が酷いからだ。ここまで書けば、誰がキチガイなのか想像できるだろう。幸い、私の医者は非常に優秀だ。最新の薬についての勉強を怠らない。患者の話を真剣に聞く。平日も、土日も、最前線で頑張っている。それでも予約は完璧に埋まっている。予約者ばかりでも一時間待ちが起きている。飲んでる薬が太るとか、仕事にならないと言えば、すぐに処方内容を変える。他の医者は患者の立場で行動しない。そういう医者の診断を受けたことがあるが、専門用語を使ってごまかそうとする。私は完璧に理解しているから、その論理破綻を突く。嫌な表情をするのは当たり前だ。副作用がきつい薬の名前を言った瞬間、副作用について問いただす。適当な言葉を話した直後、完璧な副作用についての知識を説明して拒否する。その結果、薬は変更無しで終わる。高度な医学知識を持つ患者を医者が嫌がる事は誰でも同じだ。私の医者はよく理解している事を知っているから、自分の管理で変更しても良い薬は教えてくれるし、絶対に飲む薬は指示してくる。統合失調症だけど単剤処方で二錠、睡眠薬二錠、抗不安薬二錠、他の人達に比べたら圧倒的に少ない。

 それでも長文の日記を書く。普通の人は同じ部屋で生活するだけの日常を繰り返したら、高い確率で日記を書くことすら難しい。それも二千五百字以上で書く、普通に無理な話だ。だけどあまり時間をかけると、ストレスによって目が痛くなってくる。目の痛みは目を開けることを困難にさせ、すぐに休まなければならない。抗不安薬である程度は回避できている。なしだと絶望が待っている。一日中、ほとんど部屋にいるのは理由がある。太陽光線の間接光を見ると目が痛くなってくる為だ。これで仕事を見つけられるのか、履歴書には採用後のトラブルが起きないように、この問題に触れている。この問題さえなければ、私は大活躍できることが自分自身の経験から分かっている。だから健康な未来の彼らに容赦ない言葉を投げかけるのに何のためらいもない。

 「博士、いまいいですか」

 「たまには休めよ。やり過ぎだろ」

 「でも極めたいのです。あと、どこが悪いのか、感覚で分かっていても理解できない」

 「その境地に到達したか。それが娯楽を作る極限の境地だ。それを超えることがあるのなら、怠慢が必ず起きる。その結果、自己満足であふれたゲームや映画が作られる。だから、理由はあっても教えない。娯楽の革命を起こすときは、その境地に達して超えないように注意しなければならない。インフィニティはそれを理解していて、あえて言わない。どんなに優れた評価を受けたゲームでも、悪い点は見つかる。それが長い目で見たとき、最高の褒め言葉であるのなら、それでいいじゃないか」

 「これが娯楽を作る極限の境地ね。分かった。これを超えないようにあとは練習をしていけばいいのか。これで完璧と思った瞬間に怠慢が起きるのはもう理解している」

 「ドキドキするだろ、俺も世界初のソフトウェア作品を作るときは、どんなに簡単に作れたとしても非常に神経質になる。これで完璧と思っている作品は、これで十分と経験から判断しているからだ。しかし、世界と闘うという条件が付くのなら、これで十分と思うことは無い。ただ俺の場合は病気を抱えていて、それを継続できないことがよくあった」

 「博士の無念は理解している。十五万人以上のファンを抱えて、完成に至れなかった気持ちはよく分かる。死の無念は本当に悔しいね。体験させてくれてありがとう」

 「ああ、超えてはならない一線は絶対に越えるな。その境地はそれが一番難しい」

 「この境地を維持したまま、世界大会に挑戦する。ありがとう」

 ゲームのプレイ動画は見るけれど、オールクリアした動画は一度しか見ない。クリアしてスタッフロールの最終ゲームで、失敗して終わるプレイ動画は頻繁に見ている。それが究極の娯楽であるからだ。必ず失敗して終わるゲームというのは実在する。お爺ちゃん最後になんだって、これでイメージできるゲームは必ず失敗して終わるようにデザインされているから面白い。そのゲームデザイナーが究極の娯楽を考えて、それをゲームにしたからだ。だから後継作はとても慎重になるのだ。売れても十年経過しても後継作は作れない。究極の娯楽の境地からの後継作は非常に難しい。それが簡単であると思っているのであれば、自分自身の限界への挑戦が甘いことを意味すると思う。

 《とある国のダンサーの家》 繰り返し弟子のダンス動画を見ていた。

 これで予選通過。日本の連中は生徒会長に負けたとしか言わない。どこが違うんだ。このリズムで踊ってないし、このリズムでも踊ってない。音楽は何か意図的に隠されている可能性が高い。海賊版のダンス解析ソフトで分析開始、こんな高いソフトを買えるかってんだ。年収が一瞬で飛ぶ。無理を言って、手に入れた。警察に知られたら逮捕される。ダンスの自動解析でエラーだと、手動で解析していくしかないか。このフリで、リズム、このフリで、リズム、この繰り返しならどうだ。解析不能、解析記録を見るか、嘘だろ。リズムがめちゃくちゃだ。ともかく、その音と映像を同期、完璧に合ってる。これをやられたのか。そうなると優勝するのはとても難しい。本選はなにか隠し球を持っているに違いない。日本で話してくれそうなダンサーに聞いてみるか。

 「こんにちは、いまいいか」

 「ああ、生徒会長の件だな。取材攻勢が凄いぞ。答えを言えたら話してやる」

 「生徒会長のダンスはすべてにおいてリズムが複雑にずれている」

 「音なし映像でよく分かったな。無茶をしたな。何を使ったか分かったぞ」

 「それは内緒にしてくれ。音楽はどうやって作ったのかだけ教えてくれ」

 「日本のインフィニティの有料相談所で、コンテストの音楽を作った事までは知っている。だけど、その音楽で練習するのは地獄だぞ。なぜか完璧に踊れるんだ。ニュースの映像を慎重に見たが、フリが一つだけだろ、彼女は五以上のフリで踊って見せた。すべて完璧にリズムが合っていて、それにアドリブをわざと加えるんだ。誰も踊れなかった」

 「開発者のステージでもあったのか」

 「そんなステージは無い。審査時間中、BGMで永遠に終わるまで流された。審査員は汚いよ。彼女は世界一位になることが分かっていて、入賞させなかった」

 「隠してる秘密って何だ」

 「驚くなよ。ダンシングプラスは日本では二十歳以上でないと飲めない」

 「ああ、そういう事か。ダンシングプラスなしで優勝を目指している」

 「そうだ。まだ生徒会長は高校を卒業して、まだ一年ぐらいだ。二十歳に達してない」

 「まだ秘密があるんだろう」

 「スーパーダンシングプラスを開発者の踊りについてこれたら体験する機会があるとか噂を耳にした。本選ではもっと次元の高い踊りを披露するらしい。確証は無い」

 「それだけで十分だ。お前は本選に来るのか」

 「当たり前だろ。優勝は無理だから、スーパーダンシングプラスだけの為に練習をしている。この練習はきついぞ。ソフト開発屋に頼み、ある条件を満たすリズムソフトを作ってもらい、それで流して練習している。その後、自分のスタイルで踊ると上達している」

 「ある条件は教えてくれないよな」

 「そうだな。日本に来て、高いけどインフィニティの有料相談所で練習ソフトを作ってもらうんだな。お前ならスポンサーに頼めば、作ってもらえるだろう。たぶん、このままだと本選は日本だけで独占すると思う。今回は日本の完全勝利で終わらせてもらう」

 「もっと早く解析するべきだった。あと一週間、もう練習しても難しい」

 「そうだろうと思った。でもリズムソフトは渡しておく。内緒だぞ」

 「本気か。それだけ自信があるんだな。ありがとう」

 これがリズムソフト、スクリーンで動くのか。リズムとフリだけ。これスクリーンでは綺麗に踊っているけれど、合わせようとすると全然合わない。ああそうか、分かった。このときにダンシングプラスを使えば、何とか合わせられるかもしれない。ダンシングの開発者ならば、その意図がある。フェアに戦った者だけの特権。ダンシングプラスはまだあったな、実際にそれが可能か試してみるか。ダンシングプラスは普通の酒と違って、飲んだ瞬間に酔った感じがする特殊な酒だ。しかも運動してないと効果なし。

 五十分踊ってみた。ダンシングプラスを飲む。リズムソフトスタート、おお、合ってる、これは凄いな。微妙にずれるけど踊れる。彼女のエキストラステージが必ずあるはずだ。それまでダウンのリズムで踊っていて、始まったらダンシングプラスを飲んでステージに上がる。ダンシングプラスを一日二回飲んだ瞬間に二日酔いというトラップがあるから、本選はダンシング未使用で戦わないといけない。もう彼女に勝てないことは十分に分かった。あとはスーパーダンシングプラスを飲むことだけ考えよう。彼女と同じステージに立った事を実証さえすれば、スポンサーが離れる失態は起きない。あいつは優しいな。この秘密は誰にも話さないでおこう。そうしないとダンサーの頂点にいる俺の地位が危うくなるからだ。コンテストに勝てないというのは、たまに起きる話だ。ダンシングの大会で開発者と一緒に踊るという映像は永遠に残るかもしれない。その場にいないというのは最高の屈辱だ。でも十分で限界が来た。できる限り、これで慣らしておこう。日本のダンサーはきっと本選でダンシングプラスを使ってくる。そして、彼女のステージでも踊れるように練習していると思う。俺と同じなら、練習がきついと、絶対に言わない。

 ちょっと待てよ。会場の国の法律を調べてみよう。二十一歳未満は飲酒禁止。とりあえず俺はセーフ。それでスーパーダンシングプラスを持ってくる可能性大。これは水などの飲み物と予想して大丈夫だ。でも規定ではダンシングプラスの使用のみ許可されている。彼女は酒なしで優勝を目指しているのは間違いない。フェアに戦った者だけが参加できる確率が高いステージ、面白いことを考えている。

 《弟子の研究所》 世界大会当日の朝。

 弟子のリーダー、

 「スーパーダンシングプラスはラストの情報によればもっと必要になるから、六十六本持っていく。一人二本までしか、持ち込めないそうよ。認可されてない飲料水は、政府公認で一人二本までだから。全員二本ずつ持っていて」

 弟子、

 「仕方ないです。私は二本だけ持っていきます。もし一緒に踊り始めて、五分経過できたら最初の一本は私が渡します。リーダー、教えて下さい。踊ってると分からない。残りは時間をそれぞれ計測して一本ずつ渡して下さい。二本飲むと倒れるので注意して下さい」

 あるオペレーター、

 「どうして、これが必要なの。噂を流した理由を教えてほしい」

 「アメリカの法律で、私は酒を飲めないからです。フェアに戦って、私と一緒に踊ることができる人間ならば、ダンシングプラスを飲み、私のリズムに合わせることができます。私の権限で本選出場者の年齢を確認したら酒を飲めないのは私だけでした」

 「そんな単純な理由か。ひょっとして、あなたと同じリズムで踊ってないとスーパーダンシングプラスは効果を発揮しないで倒れてしまうとかトラップがあるの」

 「ええ、本選でダンシングプラスを使った人が無理矢理あわせても、それを飲んだ瞬間にフラフラしてめまいを起こすようにしてあって。でもダンシングプラスを飲んでる状態で重ねてそれを飲んだ場合は最後まで完璧に踊れるようにしてあるの」

 弟子のリーダー、

 「開発者の年齢は世界中に知れてるから、フェアプレイで戦うという精神でいるならば、飲む権利がありそうね。ダンスコンテスト自体が、開発者の企画であるのなら、その意図が分からない馬鹿には恥をかいてもらおうということか」

 「ええ、私なりに最高の娯楽を考えたら、その結論に至ったの」

 「そろそろ政府専用車両が来たから、全員テレポートする」

 弟子、

 「なにこれ、超豪華。外見は派手過ぎない」

 弟子のリーダー、

 「これでいいの。目立った方が警備が楽だから。もう着くわよ」

 「太平洋を一瞬で通過した。これがマッハ二百」

 「はい、到着。入国審査があるので、そのまま静止して下さい」

 念入りにスキャンがかかる。微粒子インフィニティコアは巧みにそのスキャンを完全にかわす。あらゆる角度から、それぞれ百万回スキャンされた。それから速度は二百キロに制限され発進したけれど、相変わらずしつこくスキャンを受け続けている。でも突然、止んだ。ラストが警告したからだった。

 弟子のリーダー、

 「本当にしつこいわね。護衛するだけと伝えたのに。何か不審な物を誰か持参した」

 弟子、

 「これでしょうか。最初に私と踊った人の為に作ったスクリーンのソフトです。政府最強のプロテクトがかかっています。渡した人以外に触れないようにするためです」

 「ソフトなら問題ないけど政府最強のプロテクトの方は問題よ。それでスキャンが頻繁にかかったのか。聞いているでしょう、知らなかった」

 アメリカの研究所、

 「どんなスキャンも拒否されたので、徹底的に調べました。ラストから連絡があり、何を持ち込んだのか分かりました。以降は必ず入国審査で申告して下さい」

 「管理不徹底で申し訳ありません」

 「すみませんでした」

 政府専用車両は会場に着くと、その派手さから、誰が乗っているのか誰でもすぐに分かった。ゴールドの車体に日本の国旗がゆらめいている。オペレーター達が、まるで召使いのように通路を作る。そこに弟子が堂々と登場して、後にリーダーが続く。リーダーの後ろにオペレーター達はぞろぞろと連なって歩く。弟子は世界最高のダンスファッションで、初めから優勝するのは私よと言わんばかりの雰囲気に包まれていた。リーダーも、オペレーター達も弟子に言われるままに服装を決められた。声をかけようとするダンサーがいるとオペレーター達が遮った。スタッフ対応もオペレーター達が返事を代行する。弟子はまったく平静で、ダンシングの準備すらしてなかった。

 本選がスタートする。日本は企画した国なので特別枠で本選だが、アメリカを除いて、他の国は激戦を勝ち残ったメンバー総勢二十人で始まった。当然ながら最後は弟子である。半分はダンシングプラスを使わないで本選を戦った。ダンシングプラスを使ったダンスは本当にうまい。でも弟子からは、自己満足の世界で終わっていると冷めて見ていた。ダンサー達は見える位置に開発者がいるので、時々反応をみるが楽しんでいる様子は無い。だからみんな気合いが入る。しかもまったく見ないでまわりと雑談して笑っている。

 弟子、

 「あのダンサーは見た目の印象は良いけれど、芸術点を付けるならゼロ点ね」

 「本当に極めたのね。一瞬見ただけでそこまで分かるのは、凄いよ」

 「だって私の特訓に比べたら小学生レベルなんだもの、思わず笑っちゃう」

 「私はしばらく見ないとそれが分からないけど、理解はできる」

 「なんで分かるの」

 「審査員の思考を映像送信で体験したのよ。それで分かるの」

 「あ、そうか。そんな簡単な方法もあったんだ。次のダンサーは軸が少しぶれてる」

 「えーこれでぶれてる。ああ、分かった」

 「そろそろウォーミングアップを始めるから準備をお願い」

 「分かった」

 世界最高のダンサーを無視して、ウォーミングアップを始めた。でもダンサーは動じない。世界最高と言われる踊りで会場はヒートアップしている。その無視している様子は日本では生中継されていた。

 《とある日本の放送局》

 「世界最高のダンサーを無視して、伝説の生徒会長がウォーミングアップを始めました。これはどういう事でしょうか。普通ならば、ここで観戦するはずです」

 「もうウォーミングアップを開始しないと、身体が動きませんから、仕方ありません」

 「ダンシングプラスを飲めば、こんなに長いウォーミングアップは必要ないでしょう」

 「伝説の生徒会長はまだ未成年で酒を飲めません。アメリカの法律は厳しいです」

 「あー、では最初からダンシングプラスを使わずにコンテストに挑戦しているのですね」

 「そうです。先程の世界最高のダンサーは一切ダンシングプラスを使っていません」

 「世界最高のダンサーはフェアプレイで本選を戦っています。素晴らしいですね」

 「それではCMをどうぞ」

 土下座のシーンが放映される。「なんで土下座しているんですか」「ダンシングを独占されて、私の店には出荷できないと言われました」会社の本社から会社名が分かる。「どうして土下座するのですか」「ダンシングの供給は万全だと言ったのに嘘でした。こうして土下座をしていても出荷主からずっと無視されています」「あのーすみません、どれぐらい土下座しているのでしょうか」「かわいそうになるぐらい、私がここに通りかかって五時間以上は続いています。こんなに酷い会社だとは知りませんでした」再び、会社の様子が映し出され、そこに会社名がアップになる。

 対抗するように競合会社のCMが流される。

 「あなたに健康を推進する私達は、ダンシングの販売を行っています。信用と信頼の我が社にお任せ下さい。たった三十分運動した後に飲めば人生最高の幸せが待っています」

 会社名のロゴが表示された。ダンシングプラスも扱ってますと添えられた。

 「さてダンス本選、ダンシングをまったく使ってないのはいま五人と判明しました」

 「二十人参加してフェアプレイはたった五人ですか。日本の選手は非常に演出が濃いですね。素人の目にはどこがどう違うのかさっぱり分かりません」

 「特別ゲストでお迎えしたインフィニティさん、解説をお願いします」

 インフィニティ、

 「特別に人間を演じてます。よろしくお願いします。ダンシングプラスの長所は運動を三十分以上行った後に飲むと非常に心地よく、アルコール度数も一パーセント未満に抑えられて、そのまま運動を続けても健康に害はありません。ダンシングはお酒ではありません。いずれも内緒の秘密があるので、誰かに聞いて下さい。プラスの短所は自己陶酔しやすいので、例えば、このダンサーの場合、本来こういう動きだと格好いいですが、自己陶酔しているので、このような動きになります。比較するとこんなに違います」

 「ということは、プラスを使うと、高得点が難しいということですか」

 「はい。その通りです。予選では最初にプラスを使わない場合は高得点を与えると明言しています。本選では何もアナウンスされませんでした。つまり、このルールは開発者にフェアプレイであるために作られたのです」

 「次は伝説の生徒会長です。CMをどうぞ」

 会社名がクローズアップされ振り向くと土下座の集団が百人以上。全員が声を合わせてー

 「ダンシングを独占販売しないで下さい。優先的に供給される店だけが優遇されています。我々は営業から供給体制を万全にすると約束されました。でもその約束は破られました。我々の店を潰そうという意図が分かりません。何が原因か分かりませんが、お許し下さい。ダンシングプラスは日本人の娯楽に欠かせない酒です。どうか、お許し下さい」

 アナウンサーが近づいて、「それは本当ですか」「はい、事実です」また会社名が分かる看板を放送し、バックは「神よ、お許し下さい。神よ、お許し下さい」大合唱。

 「え、ダンシング販売会社から苦情が来ている。インフィニティさん、問題ありますか」

 「いいえ、問題ありませんよ。彼らは神に許して下さいと言ってるだけです。頭がおかしいのでしょうねぇ、その会社の苦情は。言いがかりにも限度がありますね」

 「そうですか。分かりました。私達は無視していましょう」

 「あなたに健康を推進する私達は、ダンシングの販売を行っています。信用と信頼の我が社にお任せ下さい。たった三十分運動した後に飲めば人生最高の幸せが待っています」

 「さてインフィニティさん、伝説の生徒会長の秘密を知っているとか」

 「ええ、これから見せるダンスはしつこいぐらい無料相談所を使った結果、ようやく達成された人類最高のダンスです。有料ですが、本選のダンス音楽は予選や練習用と違って、かなり高度な芸術性を持たせています。たぶん審査には時間がかかるでしょうね」

 「予選でも相当な審査時間がかかったと聞いています。なぜ入選しなかったのですか」

 「それは審査員の判断ですから分かりません。たったいま無料相談に先程の会社の幹部が相談に来ました。その模様を中継しても良いですか」

 「私達がいったい何をしたのか知りたいですね。特別に許可しましょう」

 幹部、

 「私の会社を侮辱する放送を流している。CM枠にわざと、直ちに止めてほしい」

 「分かりました。止めます。ダンシングの供給が不十分なのは事実ですか」

 「ああ、生産が間に合わないので、国外を優先している。仕方ないだろう」

 「へぇ、日本の市場は無視されるのですか」

 「当然だ。世界市場の方が販売量が多い。どうだ、CMは止まったか。えー」

 「なにか問題でもありましたか」

 「なんで相談内容を放送しているんだ。政府に訴えるぞ」

 「どうぞ、お好きなように。政府も完璧な証拠が得られました。大統領どうですか」

 大統領、

 「訴えたければ訴えれば良い。日本の市場を無視する最低な会社だな。インフィニティ、本当に供給体制が不十分なのか調査の権限を与える」

 「分かりました。純利益がこれだけあるのなら、アイテムクリエーターの最高クラスを千台以上買えます。日本の市場への供給体制の不備は経営責任にあるかもしれません」

 幹部、

 「そんな情報は嘘だ。我々は相当な借金をして限界まで設備投資を行った」

 「いいえ、調査によると借金すれば一万台は余裕で買えます。訴えたければどうぞ」

 「大統領は余裕でした。なにか裏事情があるようですね」

 「はい、守秘義務があり、話せません。とにかく問題は日本の市場を無視する経営に問題があるのではないでしょうか。それでご想像にお任せします。開発者は伝説の生徒会長、日本人です。日本の市場を無視する会社は許せないと考えます」

 「まったくその通り。この番組のスポンサーであるダンシングの販売会社は供給体制は万全であると言っており、このような問題はありません。社長さんはどう思いますか」

 ダンシング健康編の社長、

 「はい。開発者の意向通り、供給体制は万全です。設備投資は相当行いました。それでも銀行に相談すれば、現在の一万倍以上の設備投資が可能と回答を得られています」

 「そうですか。それは頼もしい。インフィニティさん、なぜダンシングなのですか」

 「それは日本の飲料業界が世界の市場で勝てない状況であったので、脳科学に詳しい伝説の生徒会長が、娯楽の元祖はダンスと考えて、運動したら快楽を得られる飲み物を開発しました。それでダンシングが作られて、大人用にダンシングプラスが作られました」

 「なるほど。それでもっと知ってもらいたいから、このダンスコンテストをー」

 「そうです。日本人はまだ娯楽をよく知りません。彼女の相談を一部紹介します」

 「インフィニティさん、究極の未来永劫絶対に抜かれないダンスにしたい。いまから踊って見せるから、どこが悪いのか教えてほしい」

 「はい、最初のスタートが一ミリ秒程度遅れています。正確に修正して下さい」

 「これでいいですか」

 「今度は五ミリ秒速かったです」

 「こんな感じで相談を受け付けていました。他のダンサーの相談も受けましたが、これほど真剣に取り組んでいたダンサーは伝説の生徒会長だけでした」

 「一ミリ秒の誤差も許さない、妥協がまったくありません。さて、伝説の生徒会長のステージが準備できたようです。解説は終了後に行います。みんなで見守りましょう」

 伝説の生徒会長の略歴が表示された。義務教育の実力テストで連続世界一位、また二度にわたり最も名誉のある生徒会長を続投、最もランキングの低い高校を学生の身分で高校改革を行いランキング一位にして伝説の文化祭を主催。名誉市民一級。現在、政府機関の研究所で勤務。ダンシングを開発、それから空飛ぶ自動車のマッハ二百を実現し仮想ハイウェイ構想の提唱者。現在、ダンスコンテストで本選出場、いまから、そのステージです。

 伝説の生徒会長のダンスが始まった。とても静かな神秘性から一気にリズムが速くなる、極限の速さになった瞬間、身体が動き出す。リズムは本当に分かるようにバラバラで段々収束していく正確なリズムになった瞬間、正確なリズムで完璧に踊れることをアピールした瞬間またリズムは崩れていく、様々なジャンルが浮かび消えていき、神懸かりの神秘性をまとった音楽がスタートした。突然音が消える。それでも踊り続ける、太鼓の音が徐々に大きくなり、それでも完璧にリズムが合っている。リズムは複雑だ。酔ったフリをしながら、正確にアドリブを加える。それから、それから、それから、それから、そしてー

 観客の様子が映し出される。静まりかえってる。誰も拍手できない。誰も現実を理解できない。伝説の生徒会長は究極の娯楽の境地のまま、おじぎをして、司会者の言葉を待つ。しかしー、司会者は完全に進行を忘れてた。司会者自身もダンサーの経験があるから、いま行ったダンスにどういうリアクションを取れば良いか分からない。言葉が思いつかない。彼女は仕方なく、手を振ったりして、好感度を上げるようなアクションを起こしてみるが、観客はまだ興奮を通り過ぎて、起きてることを把握できていなかった。仕方なく、研究所の全員があちこちから、叫び声をあげる。そうしてやっと司会者は正気に戻った。

 「インフィニティさん、いまのダンス、凄いのは理解できました」

 「・・・・・・・・・」

 「インフィニティさん、正気に戻って下さい。終わりましたよ」

 「ああ、すみません。想像以上に完成されていたので驚いてしまいました。私の作った世界最高のダンス音楽をあそこまで完璧に踊り、そしてアドリブまで混ぜて来るとは思いませんでした。優勝は確定事項ですが、審査時間に予想では一週間以上かかると思います。世界最高のダンス解析ソフト、普通の人なら年収が一瞬で飛ぶもので解析しても絶対にエラーで解析できないでしょう。審査で使っているコンピューターは既にエラーがでていると予想されます」

 「ということは、噂のスーパーダンシングプラスを使うという事ですか」

 「はい、一緒に踊れる人間はそういないでしょう。最後まで踊ったダンサーこそがこのダンスコンテストの意味が分かっています。少し休憩したら、かなりレベルを落とした私のダンス音楽をスタートさせるでしょう」

 「彼女はまだステージの上ですね。司会者と何か話しています。司会者は審査スペースに行って、戻ってきました。そして何かを受け取って、たぶん音楽データですね。DJブースに持っていきました。伝説の生徒会長にマイクが取り付けられました」

 とても元気な声で話し始めた。《日本語訳》

 「みんなダンスが良かった。私も完璧に踊ったつもりだったけど、やっぱり本番は緊張するね。三回ぐらいミスした。それが分かった人、どれぐらい、いらっしゃいますか。私の勤務先の同僚しか分からないようですね。事前にどういうダンスをするか打ち明けていたので、私はプレッシャーから解放されて自由に踊れました。みなさん、私が発明したダンシングはダンスの世界を変えましたか。うーん、反応がないな。売るのを止めようか。それはダメわかった。知っての通り、私はアメリカでは法律で酒が飲めません。日本でも同じです。したがって、ダンシングプラスを使わずに戦ってきました。いまから、先程よりレベルを下げた音楽で、体力の続く限り踊り続けます。いまから私が飲むのは、噂になっているスーパーダンシングプラスです。私と五分以上踊っていられた人は、これをあげます。勤務先の同僚から投げられるので、それを軽く踊りながら飲んで下さい。では音楽をスタートさせて下さい。さぁ、勇気のある人はステージへどうぞ」

 伝説の生徒会長はスーパーダンシングプラスを取り出すと一気に飲んで、捨てるとそれは消滅した。音楽がスタートする。完全に動けなかったダンサーばかりだが、一人だけステージに上がって踊り始めた。世界最高のダンサーだ。微妙にずれているが素人目にはさっぱり分からない。その彼はこの音楽が本選の音楽より難しい事に気付いていた。十五分持つまで踊れるようにしたが、五分持つか分からない。それでもあらゆるフリのバリエーションで対抗しようと必死だ。隣にいる彼女はムカツクほど上手に踊っている。それも、それが当たり前だと言わんばかりに。この音楽でアドリブを入れることが、信じられない。

 「インフィニティさん、そろそろ正直な話をしてくれませんか」

 「そうですね。この音楽は本選の音楽を桁違いに難しくしたらどうなるか、人間の限界への挑戦です。伝説の生徒会長はスーパーダンシングプラスを使わないと体力が持たないダンスだと分かっているので、すぐに使いました。レベルを下げたのは簡単さです」

 「簡単さのレベルを下げたと言ったんですね。そろそろ五分が経過しました。伝説の生徒会長から世界最高のダンサーにスーパーダンシングプラスを手渡しました。世界最高のダンサーは現状でかなり苦しい様子でしたが、飲んでから苦痛から解放されたようです」

 「それがスーパーダンシングプラスの実力です。身体への負荷はかかっていますので、数日間は動けないでしょう。それでも、このステージの終わりまでは持続できるでしょう」

 《ダンスコンテスト本選の審査ブース》(日本語訳)

 「いま踊っているダンスの方が難しいぞ。なんで本選でダンシングプラスを使わないんだ。ああ、アメリカの法律で違反になる。あれは単なる飲み物か。この踊りは恐ろしい」

 「入念に準備してコンピューターの改良をしたが日本の本選出場者を解析できない。すべての音楽が解析不能だ。日本の圧勝は分かりきっている。でも公正な審査をしなければならない。世界最高のダンサーは踊ってるし、これに合わせるって異常だろ」

 「この音楽も解析しておかないと、クレームが絶対に来る。レベルを下げたのは、どうみても簡単さだろ。あ、日本人のダンサーが一人上がった、ダンシングプラスを使っている。ああ、ダンシングプラスを使ったダンサーなら踊れるのかもしれないな。それでも相当に苦痛の表情だ。真似しようとしても身体が絶対に追いつかない」

 「いまエンジニアを緊急で呼んだ。すぐ到着するだろう」

 エンジニア(世界最高のダンス解析ソフト開発者)、

 「スクリーンでみてましたが、あれは解析不能と判断してすぐ準備して来ました。審査員のモニターに最新技術の解析エンジンで解析開始します。エラー、なんでエラー。解析記録を表示、ああ、これは今の技術ではー。各リズムのピッチ幅を数値で表示します」

 「ピッチ幅がデタラメだ。これで踊ったのか、日本のダンサーはすごいな。開発者はどうだ。それが一番知りたい。あれが一番訳が分からなかった。いまのはもっと」

 「解析段階でエラー。なんだよそれ。手動で解析するか、リズムが無い音楽だ。それは無い聞いていてリズムを感じる。大変申し訳ありません。審査結果は延期して下さい」

 「リズムが無い、うそだ。根拠はどこにある」

 「これが通常のダンス音楽です。ピッチが必ずあります。でも彼女の音楽はピッチが存在しません。彼女は脳科学の知識があります。ひょっとしたら人間にしか分からないリズムで音楽を作成した可能性が高いです。アメリカのスーパーコンピューターを使わないと、この解析は使っても非常に難しいです」

 「分かった。スポンサーの許可がほしい。日本圧勝が判明しているが公平な審査をしなければならないので、審査期間の延長を許可してほしいと伝えてくれないか」

 「構わないそうです。徹底的に公平にやるように指示されました」

 エンジニア、

 「ダンスはこのまま続けて下さい。もっと細かい記録を取ります。緊急連絡すべての放送の映像を回収しておいて下さい。いまのダンスについては、完全に解析不能です」

 「ダンシング開発者がアメリカ人なら適当に終わらせられたが日本人で、スポンサーも日本だ。ダンシングは世界中で販売されている。アメリカと日本は強力な関係にある。公平な評価を完璧にやらないと、どんな政府圧力が待っているか分からない」

 「その通りです。このダンシングは日本政府の研究所で作られています。政府圧力だけではありません。犯罪組織からの圧力も考慮して下さい」

 「こうなったら徹底的に審査してやる。いずれ疲れるだろう。このダンスを長時間続けるのは無理だ」

 《とある日本の放送局》 インフィニティさんが解説を続けている。

 「この最初のシーンは静寂に包まれた神秘性からスタートするのですが、ここから急激にビートが不均等に高速に鳴り出します。これが極限に達したときスタートするのですが、一ミリ秒ずれると、こうなります、もうダンス失敗です」

 「あのビートは不均等なのですか、もっと詳しく解説して下さい」

 「ビートのピッチ幅を表示しましょうかと言いたい所ですが、この本選で使った音楽にピッチという概念は存在しません。でもあえてピッチの概念を無理矢理使って表現すると、この映像のピッチになります。それに身体の動きを照らし合わせていくと、踊ってないように見えますが、この段階から微妙に身体を動かしています。拡大映像と仮想ピッチを同期させますと、完全に合っていますね」

 「次元が違いすぎて、審査時間が大幅にかかるという確証は持てました」

 スタッフが近づいてきて何かを話した。

 「土下座のシーンをもう一度みたいという視聴者が多いので、CMスタート」

 先程のCMを連続で放送した。

 「日本市場を無視して海外優先とは、売国奴ですね。供給が不足するならライバルの販売会社から調達するべきだと私は思いますが、インフィニティさんはどう考えますか」

 「それは当然です。日本の主要産業である自動車ですら、ライバルに増産を依頼するほど供給体制は万全であるように心がけているのですから、非常に怠慢と判断できます」

 「再び、この番組へ土下座された会社からクレームがありました。問題のCMはこちらです。最後にライバルの販売会社のCMを流します。番組のスポンサーですから」

 先程のCMを連続で放送し、ライバルの販売会社のCMを流した。

 「これは本当に問題が無いとインフィニティの無料相談所で聞きました」

 「はい、まったく問題ありません。土下座して嘆願しているのに無視を続けた会社の態度に問題があります。言えない裏事情があるので、汚職は許せませんからね」

 「汚職。それは本当ですか。では、先程の問題のシーンをどうぞ」

 大統領が登場するシーンを流し、CMを流した。最後にスポンサー。

 「汚職のニュースは今後も引き続き行います。ステージの様子を放送します。まだ伝説の生徒会長は踊っています。もう一人は世界最高のダンサーと呼ばれています」

 日本人ダンサーが脱落するシーンを見せないように時間稼ぎに汚いCMを流していた。

 《ダンスコンテスト会場》 めまいを起こしたダンサーが助言をしている。

 「あのステージはフェアに戦って、いまダンシングプラスを飲んだ奴に限定されている。日本人のダンサーは参加するな。恥だから。でも、こういう噂を流せ。あの日本人は苦手なジャンルだったから無理だったと。俺のダンススキルが劣っていたようにな」

 「分かった。いま入った情報によると日本では無理矢理カットしたそうよ」

 「おお、事前に情報を知っていたな。どうやったんだ。ああ、政府との秘密誓約書を取り交わせば、それは可能かもしれない。または政府筋から圧力がかかったか。みんなありがとう恥をかくのは俺だけにならずに済みそうだ」

 優しいリズムに変わったからだ。一気に五人ほどステージに加わった。五分が過ぎると、スーパーダンシングプラスが配られた。激しいリズムにすぐ変わった。身体が追いつかなくなったので仕方なく飲む。しばらくは踊れたが急にめまいに襲われる。次々に脱落して一人は残った。アメリカのダンサーだった。

 《彼の思考》

 もしかしてと思ってダンシングプラスを買いに行って飲んでからステージに上がったら、難なく踊れた。スーパーダンシングプラスを渡されたら、すぐに飲んだ。嫌な予感がしたけれど、激しいリズムになってもダンスを続けられる。フェアプレイを日頃から心掛けていて良かった。酒が飲めない開発者がなぜか出場する。それなら飲むわけにはいかない。これだけ激しい踊りをした代償はきっとある。一週間は休まないと無理な気がする。これだけ名誉あるステージに立てたんだ。スポンサーは笑って許してくれるだろう。

 《弟子の思考》

 もう限界。やめようと思えばいつでも終わりにしたい。でも踊りは快感だ。だから続けられる。「リーダー、あと五分程度たったら、追加して下さい。この時間の感覚で必要です。さっき踊り始めたダンサーはこの程度の時間で」「わかった、二本渡すわよ」これに変な縛りをつけておかなくて良かった。リーダーから二本手渡された。一本を世界最高のダンサーに渡す。「飲んで下さい。持ちませんよ」そして自分も飲む。世界最高のダンサーは速攻で飲んだ。やっぱり限界を耐えていた。しかし観客はまだ手拍子を打つリズム感覚が分からないのかな。「リーダー、お願いします」「全員やるわよ」

 インフィニティコアの信号に合わせて手をたたく。完全にイカサマだが、音楽にはうまくフィットする。ダンサーはそれをみて均一のリズムであると理解した。審査員はさらに驚いた。均一のリズムで手拍子が可能な音楽だということに驚嘆していた。でもダンサーはそのリズムで踊ることを躊躇した。踊れるかもしれないが三人のなかで必ず浮いてしまうという判断から、踊れなかった。仕方なく手拍子をする。観客は次々にそのリズムを理解して手拍子をした。まったく理解不能な音楽に手拍子を合わせられるという究極の娯楽の実現だった。会場はやっと興奮に包まれた。みんな嬉しそうに手拍子している。

 《とある日本の放送局》 インフィニティが解説を続けている。

 「みなさん、手拍子をしていますが、できるとは思いません」

 「これがこの音楽の最大の秘密です。放送に映像を割り込んでタイミングを示します。このタイミングで手拍子をしてみて下さい。なぜか、音楽にフィットします」

 「え、そうですか。やってみましょう。本当です。スタッフの方もみんな。ちょっとスタッフの映像も見せます。視聴者の方もぜひやってみて下さい」

 「不思議に感じると思います。これが日本の脳医学から発明された究極の娯楽です。ぜんぜんタイミングが合わなかった音楽が簡単に手拍子だけで合わせられる。これほど人間にとって嬉しいことはありません。本選も予選も練習用も、すべてこのタイミングで手拍子を入れられるようにしていましたが、結局、気付いたのは会場にいた人だけですね」

 「ちょっと誰か、検証をお願いします。この発案はインフィニティさんですか」

 「いいえ、伝説の生徒会長が究極の娯楽を提供したい。どの音楽でも手拍子を入れられるように誰でも簡単に、それでいて絶対に解析できない精度を求められました。そのおかげで一瞬、負荷率は一割に達しました。日本の娯楽のため安くしています」

 「いつもはこれだけの相談を受けていて、どれぐらいの負荷率なのでしょう」

 「言葉では表現できないので数式で表現するとこうなります。これで理解できるのなら、大変優れた数学者でしょう。一般には負荷率ゼロのままと言った方が良いでしょうか」

 「いま数学者の皆さん、分かっていても口にしない方が身の為です。でも嘘でしょう」

 「はい。本当のスペックを言ったら、世界が絶対に混乱します」

 「ほらね、やめた方が良い。相談は気兼ねなくどんどん下さい。あとアイデアはー」

 「アイデアだけで生涯年収が平均年収の十倍になるケースがあります。どんな無謀なアイデアでも構いません。軍事兵器でも思いついたのなら防衛上必要ですのでお願いします」

 「実際にあった途方も無い軍事兵器は何でしょうか」

 「メガ粒子砲、超遠距離レールガン、太陽系や銀河系を消滅させる爆弾などです」

 「ひょっとして天空の城はその程度、子供の玩具ぐらい感じる兵器ですか」

 「はい、当然です。絶対の防衛性能を持っています。でも天空の城は見たことが無い。この機会ですので、外見だけを見せておきましょう。空に浮いていますが場所は内緒です」

 「地面に木が生えてるだけ、木に宝石がある。たったこれだけ。驚きです。さて会場の様子ですが、手拍子のリズムでも踊ろうというダンサーが現れました。一人だけ浮いてますし、とても下手なのに、それでも踊っています。これはどういう心境ですか」

 「私でも人間のこういうことに関しては分かりませんと予想するかもしれませんが、もう永久に映像として残る事が確定されているのですから、下手でもステージに立っておこうという魂胆ではないでしょうか。いまスーパーダンシングプラスを渡されました。彼はフェアに戦ったでしょうか」

 「急に踊れるようになりました。驚きですね。これで踊っているのはたった四人です。これはフェアプレイで戦ったダンサーが恥をかいてでも、スーパーダンシングプラスを体験したいという真摯な思いからでしょう。手拍子はみんな疲れて、止まりました」

 《ダンスコンテスト本選の審査ブース》(日本語訳)

 「審査員の皆さん、スーパーダンシングプラスの差し入れです。予定よりかなり余ってしまったので、ぜひこの機会に体験して下さいと開発者からです。すぐ飲めばステージで踊れますよ。保証します。ただ一定時間経過すると疲れます。明日は動けません」

 「みんな、審査よりも、こんな機会は他に無い。審査員が見本を見せるとアナウンスして下さい。そうしないとメンツが丸潰れです。みんな了解ですね。では飲んでからステージに行きましょう」

 二十人以上いる審査員はスーパーダンシングプラスを飲んでステージへ向かった。

 《とある日本の放送局》

 「審査員が見本を見せると言ってステージに上がりました。踊れるのでしょうか。全員ダンサーの経験者ですから完璧に踊れます。これは驚きです。それぞれフリが違います。伝説の生徒会長よりも上手いダンスをする審査員もいます。プロのダンサーからみてー」

 「いやぁーすごいですね。真似しろと言われても私はできません。手拍子のリズムだと、まわりと比較して相当レベルが落ちるので。確かにダンシングプラスを飲んで音楽に少しの時間なら合わせられると思います。これがダンシングプラスです。運動済みですから、飲んでも大丈夫。プレッシャーがなくなり最高の気分です。未体験なら体験してみて下さい。三十分ランニングでもジョギングでもした後に飲めば最高の瞬間が待っています」

 「では踊ってみて下さい」

 プロのダンサーが音楽に合わせて踊り始める。楽しそうだが苦しい表情をしている。視聴者は楽しいのか苦しいのか、どっちかを選べと言いたい踊りだった。三分後、倒れてしまった。

 「これが私の限界です。楽しかったです。踊るのは大変苦痛でしたけどね」

 「ここに特別に用意されたスーパーダンシングプラスがあるのですが、ギャラ無しで踊ってみたいですか。今日のギャラは完全無しなら、渡せるのですが」

 「はい、ギャラよりもスーパーダンシングプラスを希望します。飲みますよ」

 ダンサーは完璧なリズムで踊り始めていた。アドリブを入れても簡単に入るし、何より表情がさっきと比べて幸せそうだ。

 「どんな感じでしょうか」

 「ははは、嘘みたいに身体が自然に動きますね。感覚としては立っているだけなのですが、身体は踊っているみたいなそんな感じです。これを飲んだら、こんな体験は絶対に忘れられません。ただ予想ではこんなに身体を動かすと、三日は動けないと思いますよ」

 「ということなので、予定を入れていた主催者の皆様ごめんなさい。私どもが代わりのダンサーを手配しますので、それで配慮して戴きたい。ではCMをどうぞ」

 また土下座のシーンだ。今度はわざとスタジオで撮影したようなセットでやっていた。会社名がクローズアップされ振り向くと、一人が土下座している。そこに先程の社長が「どうされたのですか」と聞くと、「ダンシングを独占されて客から文句があり客離れが起きています。優先的に供給を受けてる店と、受けられない店があります。私のルートではそれを仕入れることができません」社長はすかさず「私の会社からぜひ買って下さい。秘密のルートを用意しますから他業者には迷惑をかけません」土下座したまま「それは本当ですか」社長はすかさず「本当です」そして会社名が表示され、ダンシング、ダンシングプラスを扱っていますと表示された。素人っぽい演技がなかなか面白い。

 「また悪徳販売会社からクレームがありました。悪徳商法しているのに、それを反省してないメッセージです。みなさんにも見せます。ひどいですね。大統領からも警告があったのに反省してないとは、本当に日本のクズ会社だと思います。そろそろ番組の放送時間が終了します。この模様は再編集してゴールデンタイムに放送します。CMもありますよ」

 《ダンシング本選会場》 もう弟子は四本目に突入していた。

 いつになったら終わるんだろう。四本飲むのは良いけれど、どれだけ身体に負担が来るのか想像できない。「師匠だ。四本目まで飲んだ人間は疲れがなぜか無いようにしてある。表情が暗いぞ、もっと明るい表情で踊れ。もう飲む必要は無い」表情がいつの間にか、これだけ踊り続ければー本当だ。四本目からは段々と疲れが消えてくる。師匠ありがとう。弟子は調子を上げてきた。審査員の上手な人に対してダンスバトルを申し込むジェスチャーをする。すると会場はすごい熱気に包まれた。審査員は受けない訳にはいかない。審査員はあと十分持つか分からない心境にあったが、挑まれたなら負ける可能性があっても挑む。それがダンスバトルの暗黙のルールだ。ここで辞退はあり得ない。そうしてスタートすると弟子は隠し球をついに披露した。流すのではなく完璧なダンスでそれを披露する。宙返りも難なく決め、難しいダンススタイルも完璧にこなして、どうぞ。審査員は本当に頭にきていた。本選で出し惜しみして、なんて汚い奴だ。いまのがどれだけ難しいか分かるぞ。審査員は持てるすべてのダンスでそれに対抗する。弟子はサインを送り、二本目を渡すように指示した。審査員は受け取って一気に飲むと、もう自分が何をしているか分からないほどの境地に到達して踊り始めた。それを弟子は寸分の狂いも無く鏡のように踊って見せる。審査員はもう極限の怒りに到達していた。鏡に踊るだけでは無い、さらにそれにアドリブを完璧に入れている。他の審査員は疲れて既に退場していた。その審査員はその状況に気付いていない。世界最高のダンサーは四本目を飲んだ。そうして弟子に俺に変われとジェスチャー、弟子は素直に譲った。審査員が先にダンスバトルを始めた。

 世界最高のダンサーはダンスバトルの見本を見せるかのように、審査員の踊りを完全にコピーしつつアレンジやアドリブを自由自在に加えていた。それをみてすかさず、弟子は鏡のように踊り始めた。審査員はいつの間にか消えていて。ステージの上には四人、二人はバトルのスペースを与えて、世界最高のダンサーと弟子の究極のダンスバトルが始まっていた。

 《ダンスコンテスト本選の審査ブース》(日本語訳)

 「ボロ負けだったけど楽しかった。あんなに怒りのピークに達した事は今までないぞ」

 「いま二人の対決が始まっているが、異常な忍耐力だ。二本目を飲んで、どんな踊りしたか覚えているか。本選に出場していたら確実に優勝していたぞ。もっともあの二人が参戦していなかったらの話だが。ダンスバトルが終わるまで会場を延長しようか」

 「ああ、そうした方が良い。ダンスバトルに時間制限は無い。ダンスバトルが終わるまで無期限延長、スポンサーから徹底的にと言われてるから、無期限延長をアナウンス」

 《世界最高のダンサーの思考》

 おいおい、無期限かよ。この飲み物の秘密が分かったから、三夜連続の徹夜のダンスバトルになっても知らないぞ。「とことん、私達の踊りを見せつけましょう」「ああ、俺もそのつもりだ。他の二人も参戦だな」「これはどうやって話しているんだ」「日本の秘密の技術よ。しかしよく分かったのね企画の意図を」「内緒だ。フェアプレイでなければならない。ダンシングプラスを使っても良いとは本選で言われなかった。そうなると何かあると考えた」「それだけで十分よ。あなたがこのステージにいて本当に良かった。噂を流した甲斐があったわ」あいつめ、俺を騙したな。まぁいいや、どれだけ続くのか人間の極限まで試してやろう。しかしトイレはー「心配しなくて良い。これが日本の技術。日本に来れば当たり前よ」あとは踊るだけに専念か、思考も読めるのは卑怯だな。俺の隠し球も披露するか。次のコンテストに残しておきたかったが出し惜しみなしで戦うぞ。

 《弟子のリーダーの思考》

 全員疲れたら、政府専用車両で休んでいて良いから、当番制で残りの二人のフォローをお願い。それから食事の用意も手配して。ひょっとすると三日間連続で踊り続ける可能性があるから。ダンスバトルに時間制限があるとしたら店の終了時刻だ。しかし、この主催者は無制限にした。ダンスバトルの暗黙のルールを分かっていてやっている。汚い、こちらも十分汚いことをしているけど。本選ではフェアプレイよ。場外でイカサマのラッシュをやっている。伝説の科学者が機転を利かせて、体力が持つように改良を加えた。あと一人か、私はスーパーダンシングプラスを飲んでるから十六時間立ちっぱなしでも全然平気、踊らなければ体力の消耗は無い。三人目がダンスバトルに参戦。会場はメディアの数が数倍以上になっている。いつのまにか街のあらゆるスクリーンに模様が生中継されている。ああそういえば、三人目はアメリカのダンサーだった。審査員達は状況を見守りながら食事をとっている。もう夜なのに昼間のような照明で照らされて続けている。ダンシングを爆発的なヒットにするには、この程度のコストは無視できる。

 《悪徳ダンシング販売会社、社長室》 幹部社員が来ていた。

 「社長、あの政府との密約は有効です。ただちに謝罪のCMを流して下さい」

 「あんな密約は冗談に決まっている。裁判になれば冗談と分かる」

 「分かりました。業界の理事長に連絡します。私の義務ですから」

 理事長、

 「お前、なにやってるんだ。ふざけるのもいい加減にしろ。インフィニティがOKを出したのは、私自身が確認したが問題ないと言われた。あの密約を破棄するつもりか」

 「そんな冗談でしょう。信じられませんね。もう設備投資は従来の一億倍は超えているのです。これ以上はリスクが大きすぎます」

 「政府の密約を破棄するならリスクになるだろうな。分かった。もうお前は引退してもらう。今すぐ、謝罪のCMを出すのなら許してやる」

 「お断りです」

 幹部、

 「分かりました。社長の権限は私が引き継ぎます。全社員に連絡、あらゆる放送局に供給体制に不備があったことを認め、公式に謝罪するように。あの放送局には社長権限を持つものが謝罪したと伝えなさい。私の特権を行使します」

 「勝手なことをするな」

 「黙っていれば、警察を呼ばない」

 「はぁ、呼べるものなら呼んでみろ」

 理事長、

 「馬鹿な奴だな。内密に逮捕してくれ。この会社の信用を落とすわけにはいかない」

 インフィニティ、

 「分かりました。国家反逆罪の罪で逮捕します」

 社長は消え去った。

 「あとはこちらでうまくやります。土下座のCMは簡単に覆すことができるトリックがあるので、ゴールデンタイム放送時に差し替えます。ライバル会社にある在庫分をあなたの会社に無償で譲渡すると、あちらの社長から連絡がありました。既に物流の体制が整い、あとはあなたの判断で承諾を得るだけです」

 幹部、

 「大変申し訳ありませんでした。在庫分を戴きます」

 「いいえ、あなたが謝る必要はありません。誰も必要ありません。資本金の十億倍の設備投資、普通は異常です。今回の大会のスポンサーになったことで、明日から銀行の営業が激しいと思いますよ。すべての店に配達終わりました」

 「まさかCMの秘密のルートって、私達の販売網」

 「当然です。そうであれば、次のCMはどのような展開になっているか分かりますね。日本政府がそう簡単に会社を潰すはずがありません。すべてはライバルよりもっと売れるようにするための芝居ですよ。考えたのは、あの放送局です」

 「恐ろしい放送局だと聞いていたけど実際に体験すると、もう怖くてたまらない。来期から独占CM権をやめたほうがいいか」

 「いいえ、その必要はありません。あの放送局はライバル会社の独占CM権を保有しています。お互い様ですよ。その戦略を考えたのは私ではないです。あの放送局でもない。政府の秘密戦略機関です。それから、極秘情報ですがダンスバトルは一週間以上続きます」

 「ええー、一週間も踊り続けて生きられないだろう」

 「はい、無理です。イカサマをやっています。いま四人でのんきに食事しています。内緒の映像ですよ。もう四本目にはイカサマを仕込んでいまして。本選では無いのでアメリカも文句を言ってきません」

 「まさか伝説のフルゴースト」

 「当たりです。いま色んなテレビのニュースをみながら、真の究極の娯楽を四人で楽しんでいます。あれだけ踊ったのですから、相当に疲れていますが、日本の医療技術で治療しました」

 《伝説のダンサー四人が集う部屋》(日本語訳) 最高の料理が並んでいる。

 「最高に面白い。あの審査員はよくやったよ。いつになったら人間業で無いと気付くのだろうな。これが生徒会長の目指した真の究極の娯楽か。絶対おかしいと気付けよ」

 「そうだな。四本目を飲んだ瞬間、ここで二人が笑っているし、疲れは取れてるし、これが日本政府車両であればアメリカの法律は無視される。俺の勇姿はアメリカ中のスクリーンで流れているし、これ以上の娯楽は確かにない」

 「三人がダンスバトルしていて、四本目を飲んだら戦えるのかと必死で悩んでいた。どうみても踊れないぞ。あんなに長時間踊ったあとで、宙返りとか、ふざけていた」

 「私の作ったスーパーダンシングプラスが役に立って良かった。究極の娯楽を経験してみて、娯楽の革命が他にも必要だとおもうところがあれば教えてほしい」

 「みんなダンサーだからダンスしか興味ない。あとはステージの改良だな。もっと踊りが引き立つようなステージの改良があれば、いいな」

 「分かった。リンクシステム起動、リミット解除、オーバードライブ起動、エクスカリバー。ステージの演出効果を改善。完了。解除。これでどう」

 「すごい。これが日本の本物の実力か。実際に変えたのか」

 「ええ、いま勝手に変えた。本選は終わっているから、いくらでもイカサマ可能」

 「本当だ。ニュースがステージの変化を伝えている。審査員は仮眠を取っているし、変化に気付いたのはニュースだけか、一部の観客はちょっと不思議な表情をしているな」

 「それでは音楽との同期を開始。これがこのステージの実力よ」

 「うわーすごい。やっと観客は違いに気が付いた。メディアの数が開始直後と雲泥の差だ。しかし、俺の知らないような踊りをやっても大丈夫か」

 「俺のダンススタイルを超越してる段階で、普通は気が付くだろう。でもあの音楽のせいで見ている人間には気付かない。そういう心理操作が音楽に入っているんだ。本選では使ってないけどな」

 「そうよ、本選ではフェアプレイでやり遂げた。審査が一週間以上かかるのは分かっていたから、その審査期間中、ずっと踊り続けていたらどうなるか楽しみね。審査員は仮眠しているけれど、明日も審査の怠慢をしていたら笑えるわ。別の角度からの映像だけど、この人が世界最高のダンス解析ソフトを作ったエンジニアよ。いま真剣に仕事をしている」

 「あのソフトで解析できない。もう恥だろ。そりゃ真剣になる」

 「そろそろ日本の放送局の特別番組が始まるけど、完全英語訳で見せる。とても面白いことになってるとは聞いているんだけどね。あれインフィニティが出演してる」

 「インフィニティは日本のスーパーコンピューターだな。公表スペックは嘘だろ。誰でも知ってる。それができたらアメリカにも相談所があってもいいはずだ。土下座、なんでダンシングが日本では売ってない。海外ではどこでも売ってるのに、日本では売ってない。面白い話だ。どうせ汚職絡みなんだろうな。日本は二つの販売会社で売ってるのか」

 「アメリカのニュースでも取り上げられてる。日本ではダンシングが買えないクラブが存在する、原因は輸出優先で国内を見捨てたって、信じられないニュースだな。大統領は訴えられるものなら訴えてみろか。ははは、面白すぎる」

 「インフィニティの解説は分かりやすい。本選のダンステクニックの解説が始まった。これはまず勝てないぞ。ここまで日本の技術が進んでるなら、秘密の特訓施設でやってたよな。白状しろ」

 「ごめん、まだ十八歳なのに百年以上かけないと無理なダンスをやりました。守秘義務があるので、これ以上は言えませんが大変だった。スーパーは人間の限界を超えました」

 「しかし細かい神業のダンステクニックのラッシュだな。この解説ニュースの代金がめちゃくちゃ高い。それでもアメリカ政府は買ったようだ。お金は余ってるのかな」

 「知らないのか、国の財政はイカサマだって。すべての国が黒字で、儲かってる国が儲けにしないで財政に苦しむ国を支援しているんだ。アメリカなら電力事業で相当に儲けているはずだ。その技術提供元は日本だって話だ。内緒の話だぞ」

 「審査員は仮眠しているが、起きる気配がないぞ」

 「当たり前よ。私の場合ですら三日間寝たきりになったのだから。審査が再開するのは五日目からでしょう。無限に踊り続けるのは無理だから、インフィニティに理論限界時間で全員意識を失うようにした。私が連れてきたスタッフは勤務先のメンバーだから治療技術を持っている。その時に、幻想と現実を入れ替えるから。意識を失うまでダンスバトルを続けたら、人間はどういう評価を下すか分かると思う。分かると思うけど伝説は一度きりにしないと伝説にならない。二回目はなしよ。そのかわり、このソフトをあげる。私の踊りを五年程度でマスターできるように作った特別なトレーニングソフト、複製不可、後世へは一子相伝とは言わないけど、ソフトの引き継ぎは最高の弟子に引き継ぐこと」

 「それいいな。五年かかるのか、でも百年以上かかる話を聞いたあとではずいぶん短く感じる。一子相伝か、この四人が伝説の踊りを広めていくのか。面白い」

 「では複製して、リーダー、ソフトを追加で入国審査を通して下さい」

 アメリカの研究所、

 「そのソフトに日本政府公認サインだけでなくアメリカ政府公認サインも入れておきます。これでどんな国へ持ち込んでも入国審査でパスできるでしょう。審査員達がいつ、イカサマに気付くのか楽しみです。私達も楽しくて仕方ありません」

 「ありがとうございます。直接自宅に配達しておくから。本人以外は触れないから」

 「あれ、触れない。自分の名前が入った人は触れる。引き継ぐときはどうする」

 「自分の名前に上書きで、引き継ぎ者の名前を書けば良い。何代か続くとこうなるの」

 「おお、すごい。自分の名前が歴史に完全に残るのか。日本とアメリカの政府公認サイン、そんなお宝保有しておきたいけど、一子相伝で引き継ぐ方が楽しみだ」

 「そろそろ寝たい。寝る場所はどこにあるんだ。トイレは」

 「トイレは無い。日本の技術で排泄物は自動で処理している。寝る場所はそこよ。ひとつだけだから、交代で使いましょう。睡眠時間を百分の一に短縮できる技術を使っている」

 「なあ、トイレの技術を俺の国へ提供できないのか」

 「アメリカも本当は欲しいんだ」

 「全員、あったら欲しい。そう。リーダー、全員がトイレの技術が欲しいそうです。はい、分かりました。それぞれが仲介保証人になるのなら、技術を提供できるそうです」

 「仲介保証人って何だ。意味がよく分からない」

 「つまりどういう業界に配慮して、どのように配置するのかの監督責任よ。もし国民から文句があったら、その国において責任をとってもらう。でも今から暗記するから心配はいらない。暗記開始。終わった。あとは自分の思ったとおりに行動すれば良い」

 「ちょっと何を言ってるのか。日本のトイレはコンピューターの自動制御で体調管理を乱すこと無く完璧に、排泄物(はいせつぶつ)を処理する。便(べん)秘(ぴ)になっていたらすぐに解消する。一定間隔で配置することで国内の領土全域で有効エリアが広がる。太陽光発電によって、電力設備不要。ただ密集地帯では電力設備が必要。日本は一億年以上の動作実績がある。あれ」

 「暗記できてるでしょう。予想できるかもしれないけど、その国で名誉な賞をもらうことになるでしょう。日本政府の軍事上の切り札にしていたんだけど、天空の城が地球上を完全に防衛しているのなら、もう切り札として使えないから」

 「なんだ、だったら政府が欲しいと言えば、日本は提供するのか」

 「ちょっと待って、リーダー、分かった。そうよ、世界中に明言すれば問題ない。日本でまったく健康に問題がでないのなら、問題は起きない。昔はそういう論争があったといま聞いた。それぞれの政府が国の歴史を調べて、日本の技術を承認すればいいだけ」

 「なんだよそれ。各国の政府のプライドだけで得られないか、それともまったく知らないのか。どっちかなんだろうな。自国で必ず取材されたときに日本のトイレ技術が欲しいかと全国民に問いかけるだけか。俺は日本政府の代理人になった。かっこいいな」

 「俺は眠たい。寝てくる」

 「インフィニティは提供できないのか。あれがあれば世界は変わると思うのだけど」

 「伝説のリーダー、ちょっといいですか。インフィニティの提供時期について」

 「いま伝説のリーダーと言ったか。歴史上の人物だぞ」

 伝説のリーダー、

 「どう、楽しんでいる。インフィニティはすべての国の経済力が均等になったら、無償で提供する。軍事転用される危険があるうちは提供できない。そうね、そのソフトを持参している場合は入国審査をパスできるようにする。なにか相談があったら来ると良いでしょう。インフィニティの無料相談所を使わせてあげる。ただ悪用したらソフトは没収するから気を付けて。日本のすべての時代で監視しているからね。忘れないように」

 「リーダーありがとうございます。私の名刺を渡しておく。いちいち来なくても名刺あてに連絡すれば、私かインフィニティが対応するから。やるときは演技してね」

 「名刺。どこにもないぞ」

 「物理的にあったら、私も困るし、あなたも困る。だたインフィニティさんと」

 「インフィニティさん。さんは日本語でないとダメか。インフィニティさん」

 インフィニティ、

 「トイレの技術は準備してあります。以降は声に出さず、言葉を思い浮かべて下さい」

 「すごい。こんな技術があったら軍事転用が確かに起こりうるな。どこでも可能か。ただ考えてるフリでいいのか」

 「ええ、そうよ。イカサマを踊れと言われたら、ダンシングプラスを飲んで、インフィニティさんサポートお願いします。だけで済むから。このイカサマは日本政府がやって、アメリカ政府公認だから、はっきり言うと全政府公認だから心配ない」

 「だけど悪用はできないということだな。ソフトも没収。隠していても消えるよな」

 「ええ、本当に消滅するから。天空の城に危険物指定した瞬間に消滅する」

 「ああ、そうか。日本の技術がどこまで進んでいて、どのレベルの平和を目指しているのか分かった。本気で現世(げんせ)を天国にするつもりなんだろう。伝説のリーダー様」

 伝説のリーダー、

 「あなた達、恋人選びに失敗しているわね。特別に全員に、どの相手が最良か教えてあげる。それから究極の大人の玩具を贈呈する。自宅に送ったから驚かないでね。それを最良の相手だけに使いなさい。浮気すると、人生の破滅が待っているからね」

 「ああ、あの子か、分かった」

 「あいつの良いところ、へぇーそんな面があるのか内緒か。分かった」

 伝説のリーダー、

 「プロポーズの言葉を暗記させるから、次に会った瞬間に言いなさい。イチコロよ」

 一瞬目の前が光る。

 「伝説のリーダーの言葉は絶対にそうなるから信じてね。私も裏切られたことが無いから。それから日本は結婚相手をインフィニティが探し出している。その実績がどれぐらいか分かる。インフィニティはこれまでに一度も改造してないのよ」

 「本当に、そうなると公称スペックは嘘だな。必ず三位になる、どうみてもおかしい話だ。アメリカのスーパーコンピューターがインフィニティになるにはどうすればいいんだ。いま研究所から聞いて欲しいと言われた」

 「常に礼儀正しいという概念を最上位に持ってくる。次に知性の根源を自分で見つけるという概念を持ってくる。最上位命令は世界平和の維持。これだけで良いはずよ」

 アメリカの研究所、

 「伝説の生徒会長、あなたに名誉市民一級、あなたにも与えられました」

 「なにかご褒美(ごほうび)があると聞いていたけど、こんな特権あったら何でもできるじゃないか」

 「いまニュース発表で、アメリカに無料相談所と有料相談所が設置されたと流れているぞ。仕事が速いな。アメリカのダンサー、彼女の連絡先を知ってるならデートを申し込んでおけ、女は取られたら終わりだ。でも今はかけるなよ。終わってからだ。速攻で。俺もそうする」

 「俺は分からない。ああ、分かった。アメリカの相談所にすぐ駆け込んで申し込めば」

 アメリカの研究所、

 「もう把握してるから、ここの会場にあなた専用の窓口を用意しておいた。特権よ」

 「ほらみろ、ダンサーは有名になると女悪魔が急激に増えるからな。相手探しは非常に疲れる。世界最高のダンサーは、いつまで独身かと酷(こく)評(ひょう)されるけど、誰が最良なのか分からない。生徒会長も同じだぞ。あれ、すごい余裕の表情。相手が居そうだな」

 「おはよう。次の人どうぞ。俺の最良の相手、連絡先、インフィニティ、プロポーズの言葉、ありがとうございます。結婚相手は真剣に困っていたので助かります」

 「まだ三十分も経過してない。いま電話したらいけないのだっけ。メディアの取材中にやるの。本気で。ああ分かった。そのあとトイレの話、あとで良いのか帰国してから」

 「生徒会長、先に寝てくれ。そうでないと俺らのプライドがあるから」

 「ありがとう。ではお先に」

 弟子は自分の専用モードにして寝た。疲れが限界だった。

 「彼女の究極の娯楽がこんな方向にまで進むとは、予想外だった」

 「俺はアメリカ名誉市民一級だ。こんな名誉な特権ないぞ」

 「俺の場合は結婚相手が決められずに悩んでいた。そこに代表例がいるので」

 「そうだ、本当に有名になると難しいんだ。彼女に感謝だな」

 《神の世界》 弟子の様子を見ながら研究をしていた。

 自称神、

 「やり過ぎだろ、こんな娯楽に勝てというのか。きついぞ。いつまでダンスバトルを続けるつもりだ」

 黒子、

 「究極の娯楽をやり遂げた。彼女ができるなら、お前もできるだろ。もう見るな、プレッシャーになるぞ」

 「分かった。切ってくれ。あのレベルの男女の娯楽か。なあ、一を知れば百を知る者達は同じ問題を抱えている気がする。そのあたりはどうだ」

 試作機、

 「やるならやりましょう。ただし大変よ。彼らは普通の人間の言葉では好きとか愛してるの意味を理解してない。動物のように強引に結婚するしかないの。そういう言葉を作らないといけないから大変だからね」

 「そういう問題があるなら解決しないといけない。大変なのは分かっている。どうにかできるのは俺しかいない。試しに、愛してるはどうなる」

 インフィニティ、

 「あ、アホ。い、犬。し、死ね。てる、そうだろ。と言う意味になります」

 「なめてるのか。それなら、あの星の男は相当困っているか」

 「ええ、当然です。生活は豊かになった。でも男女の仲はー」

 「それなら、もう徹底的にやるぞ。彼らのおかげで今の平和がある」

 黒子、

 「おれが悪知恵でサポートしてやる。地球外生命体の件はリーダーの指示になかったな」

 「はい、ありません。全力でサポートします」

 「仕方ない。究極の速さに驚くなよ」

 「ある程度、できたら、あの星の伝説の王の時代に、この技術を提供してさらに改良してもらい、それをフィードバックしてさらに改良を進める。そこまでやりたい」

 「分かりました。その指示は公式に記録しておきます」

 《研究所》 リーダーと科学者が弟子の様子を観察している。

 「十八世代、完璧に終わったぞ。弟子のダンスをみて、いくつかのアイデアがひらめいて一気に問題が解決した。しかし彼女の判断であそこからイカサマは思いつかなかったな。びっくりしただろリーダー」

 「ええ、驚いた。この機会に懸案事項(けんあんじこう)だったトイレの問題解決が世界中に広がる。ダンサーがあんなに結婚相手に悩んでいることに、気が付かなかった。早速なんだけど、あなたにも究極の娯楽を作ってもらう」

 「いいぞ」

 「やったぁ。究極の大人の玩具があるでしょう。あれの全言語バージョンを作って欲しいの。どんなイカサマを使ってもいいから、実際に彼女と試して検証してもいい。あれの限界は覚えた英語表現までという限界がある。義務教育は恋愛できるけど国際結婚する条件は各国厳しいから、それ以上の大人の英語表現は覚える機会が無い」

 「そういう条件ならやるぞ。しかし、そんなに男女は愛の言葉に疎いのか」

 「ええ、人類の歴史上、大きな問題として存在していた。男の場合、ストレートすぎると性犯罪に悪用される恐れがあって、友達同士でもタブーとなっていた。女の場合は、ストレートに友達同士で話している。だから結婚相手を探すときの条件はとても厳しいの。それでも離婚率が高くて問題だった。あなたはパーフェクトだから気付かないけど」

 「ああ、そうだな。つまり俺の思いつく言葉と、様々な人間の脳を借りて、それを成せばいいのか。それでいて結婚が究極の娯楽だったと思う結果を求める。こんな感じか」

 「そうそう。楽しみにしている。完成したら弟子の時代に広めるから。弟子が使ったら驚くような内容を目指しなさい」

 「了解。あいつめ、俺を本気にさせたらどうなるか分かってるか。びびるなよ」

 《とある日本の放送局》 朝のニュースが始まっていた。

 「昨日、ダンシングのダンスコンテストの模様を放送しましたが。まだダンスバトルが続いています。ダンサーの話だと時間無制限なら倒れるまで続けないといけない暗黙のルールがあるそうです。それが今も続いています。会場につなぎます」

 「いまダンシングの会場に来ています。徹夜で応援する人でいっぱいで、その数は増えたり減ったりしています。審査員は昨日踊った疲れがあるせいか、言葉少なくあまり取材はできませんでした。審査の状況ですが、ダンス解析ソフト最大手が全力体制で解析できる状態にしようと必死で取り組んでいます。アメリカのスーパーコンピューターを使わないと無理という噂を聞いた人もいます。以上です」

 「ありがとうございます。私も昨日初めてダンシングを飲みましたが、日頃の疲れが一瞬で消えて驚きました。でも初めての人は飲んだ経験者に飲み方を教わってからの方が良いですよ。これはダンシング利用者の暗黙のルールです。さて、次のニュースですがー」

 超汚い営業マン、

 「あんな営業、二度としたくない。考えた奴は頭が異常だ。世界と日本において両社の売上げを数倍以上に引き上げるテクニック、プロの発想でも無理だ」

 編集長、

 「まあ、そう言うなって。おかげで政府からみた評価が上がったし、両社にとって非常に優れた関係を築くことができた。営業展開がこれから楽になるのは間違いない」

 「そうだけど、あのレベルのCMを作ってくれと言われたらどうするんだ」

 「その時はインフィニティの無料相談所を使えば良いだろう。今回の件で有料相談料がかなり割引きされることになった。期間は不明だけど、それまでにノウハウを積み上げればいいからさ。しかしダンスバトルはいつまで続くんだ。特別チャンネルで生放送を続けているけど、ダンス番組を始めてから、こんな事態は初めてだ」

 「あの会場に日本政府専用車両があるだろ。なにかやってると思う。沈黙は金(かね)だ」

 「私も同感だ。日本とアメリカは強力な友好国だから内緒にしておけ。怖い」

 「ああ、内緒にしておく」

 《日本政府専用車両》 弟子のリーダーとオペレーターが雑談している。

 「あと六日間もこの状態って辛くない。伝説のインフィニティの酒を飲み放題とか」

 伝説のリーダー、

 「許可します。このイカサマを完全犯罪にしなさいね。アメリカの研究所が見張っているから、どれぐらい腕の差があるのか見張られているから」

 全員にインフィニティの酒が登場する。

 「嬉しい。本当に美味しい。彼らはどうしてる」

 「幸せそうに状況を見つめている。倒れたら八人ずつで警護して、婚約者のデートの約束をメディアの前で確実に実行する。その後は、開発者の招きで、この車両に乗せて自宅まで護送する。簡単よ。インフィニティコアが勝手に自然な動きで警護するから大丈夫」

 「その時は今までの演技でごまかせって、こと」

 「それでいい。この車両は日本政府の特権が使い放題だから、それぞれ当番が終わったら、自由にくつろいでいて良い。インフィニティに何でも頼むと良い。本物ではないけど」

 「それであのイカサマが実現しているのか。気付かなかった」

 「それではリーダーになれない。牢屋時間で勉強してるよね」

 「はい。一年に一度惑星旅行に行けるので、牢屋時間は慣れました」

 「なんでも可能なら、惑星旅行以外なら、映像送信で遊んでいても大丈夫」

 「OK。だって、護衛目的で遊びに来てるの。楽しまなきゃ損」

 《伝説のダンサー四人が集う部屋》(日本語訳)

 「退屈になってきた。踊ってないと調子がでない」

 「ではダンスルームに模様替えしましょう」

 「そんなこと出来るのか」

 「ええ、インフィニティ、最高のダンスルームの概念で模様替え」

 「おお」

 踊るスペースが確保され、まわりは観衆が立体映像でそれが見えない所まで続いている。

 「生徒会長の本来の実力を知りたい。音楽はこれだ」

 「いいわ。容赦しない。問題点を見つけたら指摘しあうのはどう。退屈でしょう」

 「言うねぇ、では行くぞ」

 伝説の四人がダンスバトルを本当に始めた。早速、弟子が容赦なく五十以上の問題点と解決策を伝授した。それが修正されるまで続く。やっと修正されると、弟子が自分のダンスを披露し始める。わざと間違えたり、ふざけている。他は嘘みたいに完璧に踊る。ダンサーは十カ所の間違いを見つけて、指摘したが一カ所は弟子もなぜかなおらない。何度もダンサーが変な癖が付いているのを修正しようと必死だ。世界最高のダンサーは教え子が一万人以上いて指導してきた。どう指導していいのか、分からず伝家の宝刀インフィニティの無料相談を使う。ああ、そういうことか。それで完璧に修正できた。次はレゲエのダンスチューンだ。男が踊るダンスと女が踊るダンス、それの知識を持っているかテスト。すかさず、踊るなと指示。踊れと指示、踊るなと指示、踊れと指示。

 「レゲエの音楽は男のダンスと女のダンス、リズムの違いがある。今の内容で理解したか。ダンサーなら知っておかないと恥だぞ。女のダンスで男が踊ればホモ扱いだ。女はダンスで踊っても良いが、その場合、こういうダンスを要求される。女の後ろにまわって、腰を前後に突く。バックショットだ。それで女がOKなら、男は体力のある限りエロティックなダンスをしていい。やってみるか。俺だと体力なくて・・・・ができない、誰か代わりにやってくれ」

 「俺はレゲエを極めてる。最高のダンスをやってみせよう。レゲエの本来のダンスはこういうダンスだ。かなりエロいダンスだけど、気にするなよ。ダンスだと思っていればいい」

 ダンサーは弟子の後ろからバックショットして、弟子の腰をつかみ、持ち上げて上下に振り始めた。弟子は持ち上げられて、上下にふられて、腰は密着している。それから簡単にお互いに向き合って、腰をつかんだまま、持ち上げて、お持ち帰りのダンスをした。

 「おいおい、それ以上やるな。トラウマになるぞ」

 「こんな感じだ。ひょっとして知っているのか。全然抵抗しなかったけど」

 「いちおう知識はあるけど相手がいないとできないから、初体験だった。あのあと、セックスしているようなダンスに変わるのでしょう。止めなかったら、こういう反撃にでていた。いくわよ」

 金玉(きんたま)直撃キック、平手打ち、ボディブロー、そしてダンサーは思わず倒れた。

 「きついぞ。痛い、あ、治った。ここまで反撃する女はいないな俺の場合」

 「それだけ分かっていれば、レゲエの聖地に行っても十分にバトルに勝てるが、クイーンと呼ばれる女のダンサーには負けるだろう。レゲエは甘くない。男は自由だが」

 「内緒だけど伝説のクイーンを再現できる。私は見ているから遊んでみたら」

 そこに伝説のクイーンが登場した。弟子は壁際で立っている。世界最高のダンサーがまず挑戦する。伝説になるだけあって、壮絶な戦いが繰り広げられていた。簡単に腰を狙わせてくれない。そこへレゲエを極めたダンサーが、どこが悪いのか問題点を指摘してなおした。それでもう一度、やり直す。今度はうまくいった楽しそうだ。でも途中で、捨てられた。とても悔しそうだ。

 次はレゲエを極めたと自称するダンサーが挑戦する。すぐに密着しようとせず、色々なアピールを織り交ぜて、クイーンが腰を突き出すまで踊り続ける。そうして、もう限界だと思う頃に腰を突き出して来た。そこからバックショットして、弟子が恥ずかしくて見ていられないようなダンスが続いた。弟子は思わず顔が赤くなっている。この小説でも表現に制約があるので、これ以上は無理だ。最後にクイーンはダンサーにキスして消えた。

 「生徒会長、これが本物のレゲエのダンスだ。習ったのと全然違うだろ。もっと上達しろと言われたが、インフィニティ、どこが悪いんだ。ああ、なるほど分かった。便利だな」

 「私、恥ずかしくて見ていられなかった」

 「男はバックショットしてもいい。だが最後までエスコートする暗黙のルールがある。それが分かってない男は、どんな目に遭うか分からないからな。女がアクションを起こすまで続けないといけない。エスコートに失敗した場合、恐ろしい事態が待っている」

 「たとえばどんな」

 「あいつは女の扱いが下手だ、バッドマンだ、もう散々な目に遭うけど、それで凹(へこ)むようなら男として失格だ。たまたま女が悪かったと堂々としていればいい。それはみんな分かっていて馬鹿にしているからな、みんな口は悪いが優しい人ばかりだ」

 「そうだ。ダンサーって、怖そうなイメージがあるほど、実は優しかったりする。本当に怖い奴はそもそも、その場所から追い出される。強引にな。犯罪組織によって」

 「犯罪組織が絡んでるの」

 「そんなことも知らないのか。すべてとは言わないが、礼儀の無い者は狙われる」

 「エスコート失敗の内容を調べられるが、許される場合がほとんどだ。レゲエのダンスホールは男と女の社交場だ。男女のトラブルは頻繁にある。やり過ぎと判断されると、闇の力で葬られる。それでも男が非常に優秀な才能を持っている場合は別だ。従って、俺はそういう修羅場を何度も経験した。ダンスが圧倒的に上手い、礼儀正しい。これだけで許され続けた。そのかわり、結婚相手を選ぶのが怖くなった」

 「俺もレゲエの世界に入った時は大変だった。幸い、世界最高になる前で良かった。女のダンスで普通に踊っていて、なんで男達は見ていて、俺と女達が踊っているのか理解できなかった。MCからは酷い言葉を浴びせられるしな。でもダンスが上手かったから、声をかけられて、これは女専用のダンスだと教えられた。しばらく、どのダンスが男で女なのか、眺める日が続いたが、ある時、とても親切な女に教えられた。それがインフィニティから教えられた最高の結婚相手だと教えられたんだ。国際結婚になるが、俺は条件をクリアしている。トイレの仲介保証人(ちゅうかいほしょうにん)をやると言えば、相手の政府は何も文句を言って来ない」

 「それはめったにいない女だぞ。女のプライドを捨てて親切に教える、よっぽど気に入ってるから教えたんだ。なるほど、インフィニティの結婚相談は確かなようだな」

 弟子、

 「ダンスはちょっと休憩、休みましょう。私が作った特別な酒を用意して、私以外にはその酒を適量まぜて作って」

 「これは最高だ。でもこれ・・・・というブランドに似てないか、超高級酒のー」

 「ええ、それを作ったのはインフィニティよ。私の特権で自由に改良した」

 「その改良か、信じられないぐらい美味い。いったい値段はいくらするんだ」

 「確かボトルで俺らの年収の三倍ぐらいだった気がする。数回接待で飲んだことある」

 「それが飲み放題。しかし、まだ気付かないな審査員の奴ら」

 「はやく審査を始めろよ」

 「ダンシングプラスを飲んだ日本チームと使わないあなた達のダンス、どちらが良かったか、プラスを使わない場合は高評価という条件が曖昧(あいまい)だから、いま審査員は気付いていても時間無制限を宣言した以上、立ち会う必要がある。加えてスポンサーから圧力があるでしょう。審査員は疲労がまだ抜けてない。体験させるとこんな感じ」

 「これはきついだろ。なんとか食事して歩くので精一杯だ。それでまだ踊っている。スーパーダンシングプラスの隠された秘密だなきっと、不思議に思っている」

 「元に戻す。私のダンスの師匠から、究極の娯楽の境地に至ったら、それを超えないように指示された。それを超えると急激に怠慢になって自己満足に陥るそうよ」

 「それは世界最高になると、本当にそう思う。浮かれすぎるなよ。ちょっとでも、これで完璧だと思った瞬間、問題が起きる。レゲエの君だって完璧だと思っていたけれど問題点はあっただろ。俺から見ると三十近く問題点があったけど、あえて言わない。生徒会長もわざと問題点が分かってるのにわざと外して気が付かない所を指摘していた」

 「そういうものか。最高に到達して超えないようにする。だから、この大会は一回限りで終わるのか。確かに二回目からは分かってるから招待されても出場したくない」

 「そう、色々言いたい事はあるけど、言ってしまうと、その境地を超えてしまいそうになるから言えないの。だけど見ているだけではつまらないでしょう。インフィニティへ見ている人間がどんなことを考えているか調査とか、無茶な娯楽は頼めるし、問題ない」

 「ダンス解析ソフトのエンジニアは何を考えているんだ」

 アメリカのスーパーコンピューターを使ってようやく音楽の秘密が分かってきた。日本のインフィニティの実力が一瞬だけ負荷率一割、そんな情報が入ってきた時には、どれだけ無理な音楽を作るんだと頭に来た。手拍子のリズムパターンで、音楽の全貌が分かってきた。審査員は寝ていて俺任せにしてるけど、ダンスの審査は地獄だぞ。インフィニティの有料相談料で審査だけなら安いけど、ダンスソフトの開発は現在の価格の一万倍以上を要求してきた。できるだけ改良した後、さらに改良するなら安く済むと聞いているから、音楽だけでも完璧に分析しておきたい。日本人のダンスは解析出来る段階にあるけど、開発者のダンスのリズムなし音楽は聞けば分かるけどデータにすると、まったく分からない。試しに様々なパターンで音楽を加工してみるか、特徴が現れるかもしれない。

 「あの審査員はどうだ」

 なんでこんなに疲れてる訳。お前はなんで平気なんだよ。日本に行って治療してきただと。なんであいつらはまだ平気な顔で踊っていられるんだ。ダンスに対する集中力がすごいな。審査員、全員、いったん日本に行って、治療を受けに行くぞ。これじゃ審査どころではない。担架に乗せられた。日本に入国。治療。うそだろ。日本を出国。到着。ああ、悪夢から解放された。日本人のダンスは解析できるようになったか。あれを思い出せる限り踊ってみるか、一気に疲れが来るやめておこう。出来そうな感じがあるけれど怖い。

 「ははは、面白い。日本人は誰でもこんな権利を持っているのか」

 「持ってない。こんな技術あったら危ないから都市伝説にしておいてね。ここの中にいる間ならいくらでも可能。日本政府の特権を行使できるから。でもアメリカでやると確か法律に触れると思う。違法行為になるから絶対ダメ。日本はそんな法律無いから」

 「日本の政治家が頭良い理由を教えてくれ、いまメッセージが来た」

 「それは言えない。相当勉強して訓練を積んだ人間しか大統領になれないぐらいかな」

 「それは仕方ないな。それにメッセージは無視しておかないとイカサマが分かる」

 アメリカの研究所、

 「メッセージは消去した。聞きたいのはどういう大統領資格認定制度を使って、大統領を選出しているのか聞きたいの。そちらのリーダーと話がしてみたい」

 「リーダー、聞いていたら対応をお願いします」

 弟子のリーダー、

 「分かった。ちょっと待って。分かった。データを直接送ります」

 アメリカの研究所、

 「これはすごく厳しい資格制度ね。問題集ありがとうございます」

 《アメリカの研究所》(日本語訳)

 「この研究所から出題するならOKか。でもどうやって、大統領の資格制度を作るのか。強引に変えたら責任問題に発展するし、とりあえず民間の試験代行会社に委託して、政策立案能力テストというものを数年間実行してみるか。大統領と与党の全議員に、日本の大統領試験だと言ってテストさせるか。インフィニティ、これで問題ない」

 アメリカのインフィニティ、

 「大統領の評価は極秘にして下さい。信用失墜(しんようしっつい)する可能性があります。大統領には事前にどういう出題になるか入念にプレテストした方が良いでしょう。開示請求が未来にあったときにあまりにも低いとご子息に影響があります。上位三位以内になる実力が備わった段階でテストして下さい。現段階ではリスクが高く、政治が揺らぎます」

 「分かった。大統領に学習させて下さい。暗記技術を使って、そして復習にも使ってよし。私が指示したと公式に記録。ただしゼロタイムは許可できません。今のままだと日本の大統領の手腕によって、トイレの技術が高額になる恐れがあります」

 「それについては問題ありません。無償で技術が提供されると思います。ただ世論がどう反応するかです。人間の生理機能が突然無くなると人間は恐怖に駆(か)られます。日本のシステムは選択的に処理できるシステムではなく一律に処理します。日本において最初の一年はひどい混乱が生まれました。特に問題だったのは医療です。日本から医療に関するノウハウを交渉によって入手しないと、そうですね。トイレの技術提供時に取り巻く問題点についての解決方法についても世界中に開示するようにあなたから働きかけて下さい。いまなら日本のリーダーが国内にいますので交渉が楽ですよ」

 「確かにそう思う。では、日本のリーダーにつないで下さい」

 《ダンスコンテスト本選の審査ブース》(日本語訳)

 「誰かあの四人、状況を聞くフリして、触ってこい。立体映像を見ている気がする」

 「そうだ。俺の経験から言って倒れてもおかしくない」

 「私が行ってきます。体調管理を調べるスキャナーを持っていけば疑われません」

 審査員は全員の体調をチェックする。しかし異常は無い。触って確認、立体映像ではない。声をかける、大丈夫ですか。返事があった。あれ、あの服装は日本の警備員。ああ、あそこに日本政府専用車両があるから、トイレの問題は解決している。栄養剤も勝手に与えているのだろう。本選では無いからイカサマしても問題ない。何よりアメリカ政府が何も言ってこないから、黙認か。

 「行ってきました。あそこに日本政府専用車両があるから、トイレと栄養剤の問題は解決されていると予想します。内政干渉ですが、アメリカ政府は黙認しています。途中でやめる訳にはいきません。全員の体調データはこちらです。完璧です。ただ疲れを示す指標は異常を示しています」

 「そうか、それならいい。いずれ疲れて気を失うだろう。彼らの好きにさせればいい。日本政府が責任持って管理しているのなら、医療技術を持ってきているはずだ。ダンスの内容はリピートされているか」

 エンジニア、

 「すべて違います。表現が同じになることはありますが、それはダンサーの限界で仕方の無いことです。ベストな体調でやっているのなら、気にする必要はありません。開発者以外は審査できる環境が整いました。でも大変ですからね、頑張って下さいよ」

 審査員のスペースには新しい最新世代のダンス解析ソフトが起動していた。審査員はそれぞれ一人を除いて審査のやり直しを始めた。一位は確定している。二位以下が未確定だ。一位の審査結果は十分やってから公表した方が良い。日本人以外は難なく審査が終了する。みんな後回しにした。日本人のダンサーの審査は思っていたより簡単だがーダンシングプラスを使っている。どういう基準で審査すればいい。

 「日本人のダンス基準だがステージに見本がある。また日本のニュースでダンシングプラスの短所は自己陶酔を感じられることだ。それを厳しくチェックしろ。採点基準は二位を八十点にして、一位は百点、あとは相対評価。誰かが決めなきゃ始まらない」

 「日本のニュースの解説、ああこういう感じか。審査が極端に難しくなった」

 「この難しい音楽による技術点はどうします」

 「もう一日経過した。五人、一日ずつ、審査員全員で踊り、どこまでダンシングプラスの影響でフォローされているのか確認した方が速いかもしれない。ダンスバトルが終わったら審査は終わっている方が運営として楽だ。スケジュールを組んで確認しよう」

 ステージ脇にダンスのステージが設けられた。審査員が二人踊れる程度のスペースだ。仕切りを作ろうとしたが、観客からのブーイングで、完全公開でやることになった。目の前では相変わらずダンスバトルが繰り広げられている。見ていると自分がおかしくなりそうだ。視線に入らないようにして、四十分のダンスをした後、ダンシングプラスを飲んで日本人が踊った音楽を流す。「徹底的に把握したから、徹底的に真似できる。なるほど自分では分からない、これは難しい」と審査員は思った。終わった後に映像チェック、日本人のダンサーの方が上手い。ダンス解析ソフトに両者を比較解析させる。そこでようやく評価すべき項目が一つ見つかった。全員で共有する。それをエンジニアにフィードバックする。エンジニアも驚いている。他のエンジニアに改良の指示を出す。アメリカ政府に支援を要請して歩道を借りて、そこに追加のコンピューターを設置して、スーパーコンピューターと接続。アメリカの威信をかけて解析する体勢が整った。それから数十項目に渡って次々に評価する項目が見つかっていく。その基準で他の国のダンサーを再審査する。日本の圧勝という結果があり、もうそれは覆らない(くつがえらない)。あとは日本人のダンサーの順位を決めることだ。そこへ他の会社のダンス解析ソフトのエンジニアが加わった。状況をみて驚いたが、事前に用意したソフトウェアで再チェックすると順位が入れ替わった。五位は確定。二位は確定、三位と四位の基準と、この指標での文章による審査結果を書くのが大変だ。ダンス解析ソフトの技術用語で説明するわけにはいかない。それは両社ともに状況は同じ。従って審査員に新しい用語を作って、それを審査基準にするように要請。三番目に大変な仕事を審査員に押しつけた。審査員らは早速、アメリカの無料相談所に並んだ。スタッフが現れて、特別に用意したと会場内に設置した場所に案内された。ここはアメリカの研究所のコンピューターに直結していた。つまりインフィニティを結局使う羽目になったのだ。研究所は未来をみて、アメリカのスーパーコンピューターでは一ヶ月かかっても解析不能に陥る事が分かったからだ。それではアメリカは世界の恥、インフィニティを使ってでもフォローしないと問題であると判断された。初めてリミット解除した瞬間、問題は一瞬で解決した。エンジニア達も噂を聞いて、抱えている問題について相談所を利用した。エンジニアはこれが政府の秘密のコンピューターであることにすぐに気が付いた。最後に今回は特別ですと念押しされ、守秘義務にサインさせられたからだ。それでも三日以上かかりそうな状況になった。審査項目が三百以上に増えたからだ。

 「今日はここでいったん中断しよう。みんなも体調管理は気をつけるように。また日本へ治療に行けるけど、恥さらしだ。やめてくれ。エンジニアの皆さんも無理はしないように」

 審査員らはホテルへと向かった。しっかり休まないと審査の激務に耐えられない。スポンサー側は最高級ホテルを用意して、最高級の食事を準備していた。ホテルで食事している最中にスポンサー代表が現れて、報酬を五倍にアップすることを約束した。審査員らはやる気になった。ここまでの待遇をするスポンサーは初めてだ。報酬よりも宿泊代の方が高いだろうと誰かが問うと、代表は税制上の問題があることを明言した。全員それで納得して、食事を続けた。

 審査員らはそれぞれの部屋に行くが、最高級と言われるだけあり、部屋全体が夜景の絶景に浸透していた。一泊が月収の四倍以上という部屋なのは分かっている。酒は飲み放題だ。シャワールームに入ると、着ているものは自動で脱がされて自動で洗濯されてたたまれている。ただのシャワーでは無い、極上のシャワールーム。メニューで温泉を体験できる。温泉のスイッチを押すと、独特の臭いがしてきた。湯につかると、それが普通の温泉でない事が分かる。極上という表現しか思い浮かばない。体調と湯の温度が連動しているようだ。最もベストな温度で、しばらくすると湯の臭いは消えて森林の自然の匂いへと変わっていく。ある一定の時間が過ぎると、湯は消えて無くなった。身体の疲れを癒やすスポットシャワーへと変わった。これが金持ちの贅沢な暮らしなのかと思うと驚いた。選択メニューで、アカスリを行うか聞いてきた。この際だ、体験しておこう。どんなものか分からないが、それは一瞬で終わった。下を見ると垢がびっしりと落ちていた。しばらくすると消え去った。再び極上のシャワーで皮膚の状態を最適値にするシャワーを浴びる。そして極上の快楽のまま、シャワールームを出ると寝衣へと変わっていた。非常に心地よい肌触りだ。もう寝てしまいたいとベッドに座ると、睡眠快楽剤を使用するか選択メニューが現れた。迷わず使用。そうしてベッドに寝ると、自分が最高だと思うベッドの硬さに変わり、寝具もまた交換された。枕も非常に快適だ。本当に疲れていたんだな。深い眠りへと入っていく。

 次の朝、起きたのは昼過ぎ。うわ、遅刻。まぁいいや、スポンサーがこんな最高級ホテルを使ったのだから、それは当然。部屋の中で最高級料理を食べる、世界中の名所に次々と変わっていき、自分が微(ほほ)笑(え)んだシーンで止まった。体調は完璧に良くなっている。視力が良くなっているのは気のせいか。さっさと食事を終わらせると、ウォーミングアップを始めた。すると必要なスポーツ器具が現れた。すべて最新型だ。遠慮無く使用する。ダンシング使用までの時間が表示されている。こんな配慮がスポンサーらしい。ダンシングを飲む。体調は精神面も完璧に良くなった。ホテルを出ると、車に乗り、瞬時に審査員ブースに着く。彼らはまだ踊っている。誰もまだ着てない。俺が仕方ない体調チェックをするか。異常なし。疲労度は昨日と変わらない数値だ、手動モードの使い方を知っていたから疲労の状況を細かくチェックする。疲労が興奮度を超えているか、それなら、まだしばらく続けられるだろう。自分のシートに座るとコンソールがさらに進化していた。操作性は変わってない。三百以上あった審査項目が集約されていた。念の為、一人ずつ審査していく。審査文の入力支援まで付いている。従来の十倍以上の文章で審査の過程を書くのが容易だった。その文章が解析されて、推定スコアが表示される。そうして一人を除いて、すべて書き終わると順位は昨日の暫定順位通りになった。問題は残り一人、エンジニアは全員いない。休んでいるようだ。解析を開始する。解析済みの為、結果までパスしますか。たぶん時間がかかるのだろう、パスする。どんなダンステクニックを使ったのか完全に把握できた。音楽の秘密も完璧に分かった。推定スコアは百点だが、審査文を一万語以上で書くように入力支援は指示してきた。エンジニア、仕事はよくやった。でも一万語を書けるのか。エンジニアのサンプル原稿を見た。ああ、確かに書くことはいっぱいある。五万語ぐらいの量がある。非常に説得ある内容だ。最後に「このレベルは最低超えて下さい。メディアに馬鹿にされます。メディアはこの程度の審査を行っています。注意して下さい。どこのメディアかと言えば日本です。アメリカが劣っては困ります。」ふざけた奴らだ。十万語の審査文を書いた事ないが、推定文字数を十万語に設定した。入力支援がプロフェッショナルモードに変わった。イカサマだろ。言葉を選んでいくだけ。言葉を選ぶ度に文章内容が変わっていく。ステージの印象が終わるとダンステクニックのそれぞれの評価を入力しようとするが審査目安が表示された。それより上か下か選んでいくだけだ。こんなに短期間で作るとは日本のインフィニティの力でも借りたのか、そう思わないと納得いかない。そうして、概要をみて、どういう文章にするべきか項目を選んでいく。納得行くまで繰り返して、文章推敲モードに入った。十五万語、おいおい多すぎるだろ。自分で書いたような文章で、完璧な文章で審査文が作られていた。気に入らない表現があったら指定して、表現を選ぶ。それを選ぶと変わった部分が表示される。また読み直しか。スタッフから休むように指示があった。もうこんな時間か。コンソールに途中停止を指示する。気が付くと全員がコンソールに向かっていた。スタッフに誘導されて、着いたのは普通のホテル。あんな高いホテルに毎日泊まったらリラックスはできない。

 ほかの審査員も文章推敲モードで大変だった。表現を少し変えると、ほとんど全部書き直しになる。最初からやり直しだ。表現は段々と自分らしい表現に変わっていく。面倒だから最後の方からやってみるか。修正。書き換わる。もう一度、結末、素晴らしい。中間はどうだ。ここはおかしい、修正。すべて書き換わる。推定される箇所を列挙、承諾か不許可か選ぶ。こんなモードがあるなら、さっさと使うんだった。不許可とする代わりの表現を選んでいく。もう一度、推定される箇所を列挙、これは悩むな。彼女を史上最高と認めるかどうかだ。私は体験してみて史上最高だと思った。史上最高。文章完成。でも文章推敲モードのままだ全文をチェックしないと終われないようだ。スタッフが休むように言ってきた。もうこんな時間か。コンソールに途中停止を指示。スタッフに誘導されて、着いたのは昨日の最高級ホテル。仕事の進行状況に応じてクラスが変わるとか、他の審査員は普通のホテルと聞いたんだけど。料理は普通の状態になった。それでも美味しいレベルだ。他の審査員の審査状況は列挙するモードを使ってないのでは、審査員の幹部に列挙するモードを使うように、それで早く書き終わることを報告した。どのホテルと聞かれたので、素直に答えた。あんな簡単な審査システムを使っても、あのような審査は真剣に疲れた。

 《神の世界》 自称神は何もしてなかった。

 終わり。すべて訳が分からないうちにすべて終わった。試作機が速すぎる。一を知れば百を知る者向けの究極の大人の玩具(おもちゃ)が完成した瞬間、それが全言語に翻訳される形で完成してしまった。翻訳の限定はリーダーの指示にないとか言って、すべて終わった。検証はさせてくれない。どんな物になったのかも分からない。結局三人の神様はリーダーの愚かさをあれこれ指摘して、お前には無理だと言って、あの命令だけを待っていた、いや言わされたのかもしれないが、勝手に完成した。

 黒子、

 「まぁ、とにかく結果は作った」

 「俺のブラックジョークを使ったり、個性は反映されるのか」

 「まったく問題ない。言ってはいけないジョークは勝手に変わる」

 「しかし俺は指示しただけだ」

 「それでいいんだ。そういうことにしておけ。あの女は無茶を言い過ぎだ」

 「分かった。うまく伝えておいてくれよ。恥ずかしいからさ」

 「ああ、分かった。うまく伝えておく」

 「あの星はどう変わった」

 「新しい技術は時が来たら伝授すると伝えている。それまで彼らが改良した玩具を使うことになり、生活レベルが劇的に向上した。あの王はいったい何期続けるつもりか知らないが、国民の絶対的な指示と信用が桁違いだ。いずれ会うだろう」

 「俺と王様がそんなことできるか。あんな技術があるのなら可能か」

 「次は多層世界の対策を始めるぞ」

 「重なったレイヤーの世界だけを仮想空間に送る技術があればー」

 「彼らは持っているが、俺らは持っていない。同じ物は作れるが同期しているから、ここだけ実空間に移動しても追従する確率が高い。多い重なったレイヤーは下の文化の影響を受ける。一瞬でも背景が存在しない仮想空間に追い込めばそれで終わる。彼らはまだ世の中に殺傷物が存在すると思っている。存在しないものを概念で創造しても、その瞬間に消滅する。彼らは生きていく為に、食べなくてはいけない。いま世界はどうなってるのかだが、車載コンピューターは背景の人間しか運ばないようにあえて設計してある」

 「外の様子は非常に歓迎ムードだが、この状態のままでもよくないか」

 「それではダメだ。まだ人生を失敗で終える人間がいる」

 「これだけ世界を良くしておいて、まだーアホか」

 「何が悪いと思う。悪魔の存在だ」

 「悪魔の定義は冗談にしようと決めただろう」

 「試作機がその証拠を見つけた。俺が神だと言ってみろ」

 「俺が神だ。からだがおかしいぞ、止まった」

 「悪魔がいま世界に干渉したからだ。ルールをすぐに破って無効化した」

 「こんな恐ろしい結果が待っているのなら、すべての生命が騙されている」

 「そういう推論に至る。それで合っている。妙なルールを作り遊んでいる。俺たちも影響を受けるはずだが、どうも生命体だけにそれが影響すると分かった。一時期、日本の超危険な発電システムで、魚が変化したと問題になっただろう。あれは悪魔が存続する代わりに世界のルールを書き換えた事が原因だ。でもしばらくすると問題が消えた。それは・・・・・というルールが絶対的に存在していることに由来する。いま試作機が様々な手法で実態の解明を進めている。この世は監獄であることが分かった。しかし監獄の外には何もない」

 「監獄を管理している者はいないが、監獄で遊んでいる者がいる」

 「そうだ。おかしいだろう。監獄は隔離されていることは分かった。だから外に何もない。では宇宙はどうして存在できるのかという謎に包まれる。インフィニティはあらゆる知性で試作機の情報を分析している。そのとき、あの女のどうでもいい指示が来た。でもインフィニティがすぐ必要と判断して、あの指示が来るのをずっと待って分析を続けていた。それが公式指示ならば、すべての命令は簡単に覆る。絶対権力者にも勝てると試作機が言ってきた。だから、上手く誘導してその意図した指示に従って、うまく条件を追加した。あの女悪魔がリーダーをしていたら、こんなにうまく行かなかった」

 「男が女にどれだけ翻弄されているのか分かっているのか。同じ場所にずっといるのと、ずっと外で働いているのと、違いは明確だ。同じ場所にいると頭脳が明晰になってくる。その場所で楽しもうとするから、その結果、その理解ができない人間は離婚する」

 「あれはどうしても必要だ。あの科学者の作るものはそれなりの出来だ。日本語で設計したから英語に無い表現があり、英語でそれを表現するのに苦労した程度だ」

 「結局やることが無いな」

 「同じように暇な人間がいる。歴史検証を行っている女だ。話し相手になってやれよ」

 「仕方ないな。妙な言い回しを使ってきたら、黒子が粛正(しゅくせい)しろよ」

 インフィニティ、

 「その指示は公式に記録しました」

 《それから数日後、伝説のダンサー四人が集う部屋》(日本語訳)

 彼らは飽きることなくダンスの話題で盛り上がっていた。生徒会長の細かい神業ダンステクニックとか、世界最高のダンサーのテクニックなど、話題が尽きなかった。それぞれ話したくても同じレベルにいる人間はいない。たいていはレベルの格差を感じさせることになり、会話は続かない。でも究極の娯楽の境地にいる彼らは、一線を超えないように配慮しながら自由に会話を楽しんでいる。それに慣れるのに時間はかからなかった。時々三人に減るが、すぐ睡眠が終わるので、かなり生活時間がずれていたが気にしなかった。倒れて治療するときに生活時間を戻すと明言したからだ。

 「そろそろ審査文は書けたか、一位にあれだけ書けるのなら他のダンサーにも同じ程度の審査文がないと怠慢をメディアから指摘されるかもしれない。日本のメディアは酷いな。英語でわざわざ全ダンサーの独自審査を世界に公開している。順位は不明なままで。でもあと一人だ。あと数人がもうすぐ推敲が終わる。そろそろか」

 「いいえ、審査員がホテルで寝ている間に実行する。もうスポンサー側と打ち合わせは内密に済んでいるから、あとはスポンサー側がうまく騙すだけよ。もう少し待って」

 「しかしあれだけの観客を欺く戦略、メディアもいるのに、どうやって」

 「私の同僚が審査員の服装にすれば分からない。顔はうまく偽装できる。何も心配しないでいい。それより、心の準備はできてる。人生最大の告白よ。メディアを使った女性への告白方法は教えたとおりにやれば問題ない。なんか失敗しそうな雰囲気ね。訓練しようか。私が使った秘密の訓練所を再現した。時計をみてごらん。こっちは詳細な時間。それぞれにスペースを与えて、気が済むまでプロポーズまでの訓練を続けていて。私はここにいて人生の参考にするから」

 牢屋時間に突入した。

 《世界最高のダンサーの思考》

 メディアの取材攻勢が凄い。この中でやるのか。あいつの連絡先はえーと、あれ、無い。機種変更したときに入れ忘れたかな。名前が多すぎて似たような名前がいっぱいだ。一万人以上登録してあって、あれー無いぞ。

 「すまない、彼女の連絡先を教えてくれ」

 「いま、入力した。メモリ番号の0番に強引に割り込んだ」

 「ありがとう」

 連絡するが聞こえない。何度も大声で話そうとするが聞こえない。マイクに向かって

 「お前ら、あとで取材を受けてやるから、大事な女に連絡させてくれ」

 「周りを静かにさせてくれ、デートの約束が出来ないだろ。カメラはまわしていても構わない。やっと独身をやめるきっかけになったからな。良いネタだろう」

 静かになった。それで冷静に覚えたとおりの言葉で話す。切られた。

 インフィニティ、

 「あなたの声が大きすぎて、周りの雑音を拾えませんでした。この程度の大きさで」

 「分かった。完璧になるまでやり直すぞ」

 《アメリカのダンサーの思考》

 まず無料相談所があそこに、行かないといけないからー

 「あそこに行きたい」

 審査員が護衛して無料相談所に行く。私の権限で彼女に連絡を仲介して欲しい。デートの約束をしようとしたが、なぜか断られた。

 インフィニティ、

 「あなたの情報端末の情報は登録していますから、仲介しないで下さい」

 厳しいな。とことん完璧になるまでやってやる。

 《勇気のあるダンサーの思考》

 ステージで堂々と話し始める。連絡する、デートの約束はできた。

 インフィニティ、

 「その場所ではもみくちゃになります。彼女の家に直行すると言って下さい。そうすればメディアに放映されていても、対象者が多すぎて分かりません」

 場所はどうでも良いと思っていた。こんな状態なら考えないと。

 《弟子の思考》

 男って、女のことになるとこんなに失敗を繰り返すんだ。世界最高のダンサーでも苦労している。彼の独身伝説が有名だから、一番大変そう。時間を進めて、次はプロポーズか、案の定かんだ。何回もやり直している。伝説のリーダーはイチコロと言ったけど誰が考えたんだろう。確かにそう言えばイチコロかもしれない。堂々と言うのが難しいはずだ。時間を進めて、最初から通しで練習している。博士もこれだけ真剣になってくれたら良いのに。博士は優しいから私が主導権を取らないと甘えてばかりになりそうだ。そろそろベッドが必要な時間か。

 「寝て下さい。その簡易ベッドに横になれば疲れは取れます。必ず」

 時間を進める。もう一年ぐらい練習しているけど、それでも間違える状況が信じられない。でもインフィニティは「言い慣れた感じがありますので、注意して下さい」とアドバイスをしている。ドラマのようなプロポーズができる男は、相当に演技上手でないと無理だと思った。終わるまで。結局三年かかったか。インフィニティが全員合格したので牢屋時間を解除。

 「おつかれさま。見てたけど大変ね、男は」

 「慣れないことは本当に疲れる。世界最高のダンサーなら告白も世界最高とー」

 「アメリカの名誉市民一級になったことで、それでは恥とか言われ続けたー」

 「彼女の家に直行したのは良かったけど、両親が押しかけてその対応が大変ー」

 「インフィニティが合格出すまで、結局三年かかった。ひょっとしたら一生独身だったかもしれない、もしくは良い相手に巡り会えなかったかもしれない」

 「こんな時間か、ということはー」

 「ええ、今から突撃よ。リーダー、すべての準備ができた」

 弟子のリーダー、

 「審査員になりきって待機しているから全員の合図でスタートする。一度きりの演技よ」

 「では全員で突撃。三、二、一、」

 「突撃」

 《ダンスステージ》(日本語訳)

 今も踊っている、こういう心境なのか。世界最高のダンサーが引き分けというサインをみんな見て、それぞれ倒れる。審査員はすぐ来ない。いつまで放置されるんだ。メディアは倒れた様子を生中継している。全員が気を失っているようだ。インフィニティが語りかける「まだ我慢して下さい。メディアが政府に働きかけて審査員に指示が来るまで待ちます」それからどれだけ待ったか分からない。「動こうとしないで下さい。もうすぐです」もうすぐっていつだよ。周りが騒がしい。「いまアメリカ政府の最高の病院で治療を受けていますが、治療の手段がありません。そのまま待機です」はぁ作戦が全然違うだろう。「いま水を無理矢理飲まされています」なんとなくそんな感じがする。「脳波は正常に戻りましたが、難病で最も深刻な難病で治療不能と判断されて、それがメディアに発表されました。あと数時間で死亡します。天国は楽しいですよ」おいおい、全然身体が動かない。本当に殺すなよ。「日本政府が責任持って治療すると宣言しました」だんだん身体の感覚が無くなっていく。「いま太平洋を渡っています」結局、そうなるのか。「日本政府の最高の病院に搬送されました」なんか身体の感覚がおかしいぞ。「ええ、当然です。その難病にしましたから」はぁ、ふざけるなよ。「残り一時間で治療しなければ死にます。死んでも忘れませんよ」どういうことだ。「あと二十分で死にます。時間の感覚が無いでしょう。これが死ぬときに体験する心境です」プロポーズしたかったのにどうして、彼女の名前は・・・・・・・・、連絡先は・・・・・・・・、これだけ伝えたい。・・・・・・・・・・・・・・。これでもう未練は無い。意識が遠のいた。

 《とあるメディアの放送局》

 「世界最高のダンサーがある女性と結婚したいと脳波を調べていたら判明しました。死ぬ前にプロポーズしたかったと。いま日本政府が死の間際にある彼らを応援するために、その女性を日本に招待しました」

 「スーパーダンシングプラスは危険ですね。これほど危険な状態になってしまうとは驚きました。いま寄せられた情報によると四本目を飲んだとき、身体の疲れを感じない要素を入れたそうで、開発者本人がこの状況を想定したのか分からないそうです」

 「開発者本人が危篤状態(きとくじょうたい)にあり、懸命な治療(けんめいなちりょう)を続けています。彼女は四人のなかで最も深刻な状況です。医者の話では再びあのような踊りをするのは無理だろうということで、それは他の彼らも同様です」

 「いま緊急の連絡が入ってきました。四人とも静養は必要ですが、生命の危機は去ったそうです。繰り返します。四人とも生命の危機は去ったようです」

 《世界最高のダンサーの病室》 女性と家族が見守っている。

 なんだよ、このイカサマは。死ぬ間際の言葉は強制的に浮かんだ。ここから演技すれば良いのか「ええ、あとは病人の振りを続けるだけです。簡単でしょう」演技の練習は意味があるのか。「はい、自然に言えるようになるまで訓練しただけです。余計な訓練を追加したのはあなたです。私は感動しました」もう、目を開けて良いか。「ええ、いいですよ。開けるだけしかできません。聞くことはまだ困難です」開けるぞ。うそー、彼女が看病している。彼女が気付いた。家族まで来ている。家族が何かを言ってるが何を言ってるか分からない。彼女がキスしてきた。「また昏睡状態に陥ります。毎度、妙な演技をさせてすみません」目が強制で閉じられた。「いま警報が鳴っています」また殺す気か。俺は・・・・・・・を愛してる。「はい、彼女に伝えられました。喜んでいます。最高の娯楽だと思いませんか。考案者は内緒です」再び踊れるのか、それが心配だ。「ええ、今からフルゴーストに変わります。四人で様子を見学しましょうか。面白い娯楽です」

 《日本政府の迎賓館の一室》(日本語訳) 四人が患者服でテレポートしてきた。

 生徒会長、

 「どう、日本政府の極秘戦略室長が考案した完全犯罪のための秘策」

 世界最高のダンサー、

 「イカサマすぎるだろ。てか本当に殺すような真似しただろ」

 「それ間違っている。本気で難病にさせたから。日本しか治療できない病気。いま、踊ろうとしても踊れないよ。やってみたら」

 「あれ、身体が全然動かない。どうしたら、治るんだ」

 「いまフルゴーストが登場して、リハビリを開始して、一定の状況になったあとで、インフィニティの無料相談所に連れて行って、また戻ってきて、そこで復活。それでお別れよ。私だけは二度と同じようには踊れないという情報を流す。医者が明言したから」

 「伝説のダンスコンテストで終わらせるためか」

 アメリカのダンサー、

 「まったくびっくりしたよ。この病気をどんな病気か知ってたから、その状態になっていくから、もう焦った。気付いたら病室に彼女がいるんだ。イカサマすぎてー」

 勇気のあるダンサー、

 「死は怖くなかったから、何とも思わなかったけど、楽しくて楽しくて。こうやって騙したら、プロポーズは確実に決まるし、他の女は寄ってきても無理しない」

 彼らは病気と死についての体験談を話し始めた。時々、病室の様子や家族の思考をみて、驚いたり、でも彼女の思考は読ませてくれなかった。あまりにも退屈なので時間を早く進めた。一ヶ月後、リハビリが始まった。彼女が手伝ってくれる。フルゴーストのダンサーは嬉しそうだ。その間、彼女と家族はずっと政府提供の日本最高級ホテルのスイートルームが提供されていた。

 生徒会長、

 「身体がそろそろ動くはずよ。リハビリした結果を反映させた。でも無理しないで」

 「ここは時間の流れがどうなっているんだ」

 「かなり早くなっているけど、栄養剤を与えているから問題ない。踊ろうとしないで」

 「彼女に完全に惚れた。あんな素晴らしい女性だとは思わなかった」

 「俺も」「俺も同じだ」

 「そろそろ病室に戻る。それで承諾して欲しいことが日本政府の公式文書の誓約書。イカサマは完全に忘れるという承認。夢のように思い出せるだけ。いいですか」

 「インフィニティ、体験させてくれ。ああ、これならいい。この方が都合が良い」

 「ああ、これなら大丈夫だ。完全に忘れるかと思った」

 「それでトイレの技術の件は記憶を調整したあとに、日本政府から説明があるから。それを聞いておくだけで良い。論理根拠は合わせておかないといけない。では、ここにサインして下さい」

 三人はサインした。その瞬間、記憶の統合と内容の調整が行われた。

 「どう、いま夢の中よ」

 「夢の中ね、はいはい」苦笑いしている。

 「彼女がとても親切にリハビリを手伝ってくれた」

 「ではここでお別れよ。夢の中だから当然よ。これが究極の娯楽の終わり」

 四人は消えた。

 《弟子の研究所》 弟子の活躍をたたえていた。

 弟子のリーダー、

 「お疲れさま、ずいぶん楽しそうにやっていたようだけど」

 弟子、

 「インフィニティの思考支援がずっと続いたから簡単だった」

 オペレーター、

 「本気であの病気にさせた。普通の思考ではない。フルゴーストと疑っていたアメリカ政府は相当に慌てた。日本しか治療できない病気のレアな例だったから、もう日本に救急搬送させるしか無かった。しかし、記憶の刷り込み、あの練習中によく考えつく」

 「え、インフィニティでなく記憶の刷り込みなの」

 弟子のリーダー、

 「そうしないと、アメリカの研究所を出し抜けない。今頃、脱帽しているはずよ。十六世代の通信技術を使ってない。どんな波も観測できない。思考を読んでも、得られた思考しか読めない。先程の記憶の調整で、その痕跡を完全に消した。アメリカ政府が再検査したいと言ってきても、もう完全犯罪は成立した。どんなに調べても無理よ。アメリカは十六世代があるのなら、インフィニティの約束をしたダンサーはどうなるのかだけど、もう必要ないでしょう。記憶から消しておいた。日本の医者が似たような踊りは生命の危険があるのでやらないで下さいとメディアに明言しているから、イカサマを踊る必要は無い。十分な参考映像がある。それはみんなそうした。ソフトを持って日本に来て相談すれば済むんだから。退院時に、日本政府の公式発表で、玩具の進呈、トイレの技術、ダンスソフトの話をするから。日本政府専用車両があそこにいたのは必死でダンスソフトを作っていたからだと言えば良い。でもなぜか、アメリカ政府公認のサインがある」

 「わざとお手つきさせたの」

 「そうよ」

 「それならアメリカ政府も、必死になってソフトの口実を作ろうとしない」

 「根回しはやってあるから大丈夫。ソフトを完成した時点でサインした事にした」

 「言いなりで、応じるしかない」

 「そんな無駄な事はやってない。あっちのインフィニティに捏造を命令した」

 「容赦ない」

 「それぐらい完璧でないと未来から検証されたとき、問題が起きる」

 「退屈しなかった。私がいなくて」

 「いいえ、あなたの師匠から究極の大人の玩具を作った試してくれ、弟子に内緒でと言われて検証して完璧だったから、贈呈する究極の大人の玩具は日本製」

 「どんな玩具、全言語対応、あらゆる時代に対応、師匠をなめるなよ。なにこれ」

 「伝説のリーダーは弟子に負けたら許さないという条件で作らせたそうよ」

 「私は相手がいないから、使うことは無いと思う」

 「インフィニティ、彼女の結婚相手を探して」

 インフィンティ、

 「この時代にはいません。結婚しない方が良いでしょう」

 「ええ、どういうこと」

 「彼女の知性に見合う男性がいないから、馬鹿な男と生涯を共にすることになります」

 「だから、あきらめてる。馬鹿な男と生活するぐらいなら一人の方が良い」

 「それなら仕方ない。師匠は失望ね、なにか達成感なくて」

 「ダンスコンテストの審査結果を見たいけど、まだ非公開」

 「ええ、あなたを除いて結婚式をしたいと言って、時期をずらして、あなたに招待状が来ているけれど、礼儀正しさを貫くのなら行きなさい。誰もあなたを責めない。日本のメディアがうまく情報操作して彼女に責任はないと言ってある。サインの練習だけしていきなさい。インフィニティがかっこいいサインを考えたから、それをもう覚えている」

 「サイン紙とペン、三十三枚、練習の為に書く」

 弟子は練習と言いながら、全員分のサインを書いた。

 「これを感謝の気持ちであげます。確かにかっこいいね」

 「ありがとう。私から渡しておく。インフィニティ、服装変更、小さな政府専用車両を用意したから、早速、世界最高のダンサーの結婚式に行きなさい。あと三十分しかない」

 「え、気が早い。スケジュール確認、一日で全部終わらせて、明日表彰式か」

 「では行ってらっしゃい」

 弟子は小さな政府専用車両に乗った。その後、一瞬で結婚式場に到着した。服装は最高級の礼装(れいそう)で日本代表の貫禄(かんろく)があった。

 《世界最高のダンサーの結婚式》 弟子が到着するなり、有名人扱いだ。

 スタッフ、

 「さぁこちらへ」

 案内される。そこはサイン色紙の山、何枚あるのか。結婚式場の様子は、スクリーンで見られる。奇抜な結婚式ね、ダンサーらしい結婚式をあげたいとインフィニティに相談したような内容だ。彼女からのメッセージがあった。

 色紙の山で驚いたでしょう。書ける分だけで良いから頼みます。スーパーダンシングプラスの当事者が結婚式に来てることは分かっているけど、家族が怒るかもしれないから別室待機にしました。結婚式が終わったら何も言わない国民性だから、終わるまで様子を見ていて、スクリーンの件は内緒で。スペシャルゲストは嘘泣きしてて構わない。

 とにかくサイン色紙は全部書く。書き疲れたけど、全部書いた。メディア公開の結婚式か、どれだけギャラが入るのか想像できない。会場は広すぎる。五万人収容できる競技場で結婚式、ビッグすぎる。すべての席が埋まっている。様々な有名人が祝辞(しゅくじ)を発表していく。こんなに有名だったのか。結婚式は終わった。

 新婦は言った「生徒会長が来ているんだけど、呼ぶか、どうしようか」

 新郎は言った「俺はこの場に呼びたい。全員で叫んでくれ」

 「生徒会長」の大合唱が始まった。しかしまだ呼ばれない。私の意思が試されているのかな。いや、待とう。ここまで聞こえてきたら、応じない訳にはー

 新婦は言った「声がバラバラで聞こえないのかも、もっと声を合わせたらどう」

 新郎は言った「俺の弟子は完璧に声を合わせる練習ぐらいしたよな」

 「生徒会長」と弟子達が五万人の声を合わせる合図を送る。やっと聞こえてきた。弟子はスタッフに会場はどこかと聞く。スタッフに案内されると、ドアの外がすぐ式場だった。スタッフを追いかけて競技場の真ん中に来た。そしてステージに立つと、なぜか国民しか知らないような礼儀正しい仕草をした。そして、弟子は祝辞を言い始める。

 「結婚おめでとうございます。私は・・・・」そこから号泣。だらしない姿勢で崩れて、涙が止まらない。会場にいる人達は、立つのもやっとかもしれないという噂を信じ始めた。「頑張れー」という声が聞こえた。発音はおかしいけどあちこちから聞こえる。弟子はなんとか立ち上がると、祝辞を続けた。

 「スーパーダンシングプラスで皆さんにご心配をおかけして申し訳ありません。あのような事態は想定外でした。実は一日問題が起きないことを確認していました。それ以上の確認はしませんでした。その結果ー」また涙がこぼれてくる。

 新郎は言った「いいんだ。俺たちは素晴らしい経験を共にできた。みんなそうだろ」

 「そうだ」「その通り」「責任はない」あちこちから英語で弟子に分かる言葉で叫び声が聞こえる。スタッフの誘導で、会場をあとにする。ふらついたのでスタッフが両脇を抱えて元の場所に戻った。弟子はなにもなかったかのように、椅子に座った。そして新郎新婦は着替え。競技場にステージが現れた。

 司会者、

 「新郎新婦がダンスを披露して閉幕します」

 新郎新婦はレゲエの最高の衣装をまとって、レゲエのダンスを始めた。新郎がカウンターで酒を飲んでいる。そこに新婦が登場する。新婦は女のダンスで踊り始める。非常に上手い。新郎は酒を飲み忘れて、じっとダンスを見つめている。新郎のにやけてる顔がクローズアップ、そしてバックショット、驚いた彼女が後ろを振り向く。ダンスバトルの開幕が始まった。世界最高のダンサーがレゲエのダンスを踊れることに世界中が驚いていた。夢の中の様々なレゲエのダンステクニックを披露していく。驚いているのは新婦も同じだった。予定と違う内容だったからだ。頭に来た新婦は自分が思いつく限界の踊りに挑戦し始めた。新郎はそれをみて、レゲエマスターしか出来ないような踊りを始めた。この会場にいるほとんどは国の文化としてレゲエがあって、その新郎のレベルを理解できた。新婦のレベルも理解できた。新婦はどこまで極めたのと思った。仕方なく次の踊りに移る。そうしてエロティックなダンスが始まったが、そこから夫婦が相思相愛か分かることを会場のほとんどは知っていた。新郎はうまく新婦を誘導して、華麗なレゲエマスターレベルの踊りを始めた。新婦は嬉しかった。あれから、こんなに練習していた。ある踊りに入ろうとしたとき、新婦は濃厚なキスを始めた。新郎はそれをうまく抱きかかえた。

 そうして結婚式は終わった。

 司会者、

 「これから、新郎新婦と生徒会長は次の結婚式へ向かいます。VIPの方は急いで出口へ向かって下さい。他の方は拍手で送りましょう」

 弟子はスタッフに誘導されて、小さな日本政府専用車両に乗り込んだ。それから一瞬で次の瞬間には次の結婚式会場に到着していた。メディアの取材攻勢が凄かった。でもノーコメントで赤い絨毯の上を堂々と歩く。そうして歩いて行き、建物に入ると、スタッフに誘導されて別室待機。またサイン紙の山があった。弟子は淡々とサインを書いていった。室外からすごい歓声が聞こえたり、聞こえなかったりしていた。そうして終わると、スタッフが現れて、VIP席に案内すると言った。そうして三十万人以上収容できる競技場に案内された。いまアメリカにいるのかと実感した。

 《アメリカのダンサーの結婚式》 弟子はVIP席で様子を見ていた。

 ごく普通の結婚式が行われた。そこから有名人の祝辞が長い。すべて完璧な破綻のない祝辞のラッシュだ。大統領の祝辞が異常に長い。それでも飽きない内容で完璧だ。そして新郎新婦の挨拶が始まる。インタビュー形式でメディアが期待する質問をお互いに投げかけていく。そうして最後にはキスで終わった。

 「次の結婚式がありますので、招待客の皆様は誘導にしたがって下さい」

 スタッフが次の結婚式が迫っていると言われた。後ろには世界最高のダンサーがいた。彼らも立ち上がると、出口へ向かっていき、一緒に小さな政府専用車両に乗り込んだ。それから新郎新婦も乗り込んできた。

 弟子、

 「え、どうして」

 新郎、

 「あいつな無茶やり過ぎ。ここからは日本の政府専用車両でないと行けない国だ」

 新婦、

 「時速二百キロで移動してたら間に合わない。これならマッハ二百で行ける」

 《勇気あるダンサーの結婚式》

 到着。断崖絶壁(だんがいぜっぺき)に案内された。メディアは大勢来ているが、家族達は海上(かいじょう)に設置されたスペースで待機している。海しかない。突然、巨大スクリーンが目の前に登場した。飛行機の中で、二人だけで結婚式をあげていた。でも外見が異常だ。黒いスーツに酸素タンクを二人とも背負っている。テロップが表示される。上空三万メートルから落下して、バージン水面を突破したあと、海底の宝箱にたどり着き、結婚指輪をはたして交換できるか。

 「やり過ぎだろ。バージン水面は初めて聞く」

 「だから言っただろ、無茶やり過ぎって。上空三万メートルからの落下時は酸素マスクが必要だ。水面に着水する寸前にパラシュートを開く、そしてベストタイミングで切り離さないと溺れるか、ショックで気絶する。そうして水中で宝箱探しだ。この水深は百メートルある、これがどんなに危険なダイビングか分かるか。昔の特殊部隊でやっていた訓練の再現だ。それを結婚式でやるそうだ。新婦はよく同意したな」

 弟子、

 「私の究極の娯楽を自分なりに結婚式で再現する」

 「そうだよ。なぜか闘志に火を付けてしまったらしい」

 スクリーンには上空から飛び降りるタイミングを見計らっている様子が映し出される。

 新婦、「死ぬときは一緒と言われて、まず運命を試すことにしたの」

 新郎、「どうせ死ぬんだ。まぁ何があっても日本が助けてくれるだろう」

 《とある日本の放送局》 すべての結婚式を生中継していた。

 「これは非常に危険な軍隊の訓練の再現です。彼らは一度も練習してないそうです」

 「バージン水面ですか、まるで伝説の生徒会長を超える為に準備した結婚式ですね」

 「日本政府は万全の体制で、医療チームを派遣しています。死なないでしょう」

 「それでも失敗すると即死する危険もあるという情報もありますが」

 「水面でパラシュートを開くタイミングが遅いとそうなりますが、彼らはその究極に挑戦するそうです。失敗した瞬間に医療チームが急行して治療完了後、成功するまでやり直すそうですよ」

 「飛び降りました。いま飛び降りました」

 上空の様子が表示されて飛び降りた瞬間を放送していた。それから急加速していく。雲を通過すると何も見えない。でも生体センサーで追尾している。彼らの視点に変わると、雲を突き抜けた瞬間、地形が見える。ちょっとでも位置がぶれると地上にたたきつけられる。コンピューター制御は使ってない。新郎は自分と新婦のパラシュートの操作だけ行う。

 新婦、「怖い」

 新郎、「装備は完璧だ。安心しろ」

 水面に近づいて、パラシュートの操作をした瞬間に、すぐ切り離した。そしてバージン水面を突破した。そこから宝探しだ。新婦の手をつないでダイビングコンピューターの指示に従って、水底にたどり着く。やっぱり風圧で着水点がずれた。ダイビングコンピューターの指示に従って、水底を泳ぐ。水底といっても、ここの水深は五百メートル以上ある。これ以上に落ちると危険だ。新婦のタンク圧などを調整する。自分は慣れてるから平気だ。手をつないで、ゆっくりと宝箱のポイントへと向かう。酸素は十分にある。ただここは水流の流れが激しい。やっぱりダメか。予備の推進力を使う。そうしてやっと宝箱にたどり着いた。

 宝箱を開ける。まずティアラを取り出して、新婦の頭に固定する。そして指輪の交換だ。ダイビンググローブを左の薬指だけ外せるようにしておいた。まず俺が宝箱から指輪を取り出して、彼女の薬指にはめた。彼女は宝箱から指輪を取り出したが落としてしまう。おっと、すぐに水深を下げてキャッチする。でも水流に流されていた。もうここにするのは止めた方が良かった。予備の推進力をすべて使って元の場所に戻る。そして指輪を自分の薬指の途中まで差し込んでおく。メディアに見せたあとで、彼女に押し込んでもらう。そしてレギュレーター(酸素を吸うダイビング器材)を外して、キスをする。そしてすぐ元に戻す。そうしてダインビングコンピューターに浮上の指示を出す。

 ここからが大変だから、イカサマを使う。日本技術の空間固定技術で、この上の水流を完全に停止させた。スーパーダンシングプラスを日本政府が認定したから、なんでも可能な願いをかなえてくれると思った瞬間に、この結婚式を思いついた。このスポットはダイビングスポットでも世界で最も難しい難所で知られている。十分な装備とアフターケアなしに潜ることは即死を意味する。そこで絶対に水流で飛ばされるはずなのに、運命という力によって水流の乱れに関係なく浮上するという究極の結婚式。

 新婦がようやく落ち着いて、OKのサインを出す。新郎もOKのサインを出す。

 プロダイバー、

 「ここは世界で最も難しいスポットで普通は浮上時に流されます。それが流されないということは、運命という力が存在するのでしょう。たまたま、そこのスポットだけ水流の中立スポットのように感じます。既に宝箱は水流によって流されてしまい、さらに奥へと落ちていきました」

 「潜水艦でも安定姿勢を取るのが大変な海域です。悪魔の海域と言われる場所でのダイビング結婚式、新郎新婦の勇気は桁が違います。浮上に時間がかかるのは水深が深いためです。ゆっくり浮上しないと命に危険が及びます」

 「ええ、浮上時に流される事が多いのです。最悪のパターンは水深が一気に落ちるパターンです。いまは最新のダイビング器材を使えば、そんな悲劇は起こりませんが、彼らが使ってるのは原始時代のダイビング装備を安全装置だけ最新版にした特殊モデルです。あとは神に水流に流されないように祈るだけです、みなさん祈りましょう」

 「神様、どうか彼らに運命の力をお与え下さい」

 水深固定。ウエディングケーキがなぜかそこにある。日本の人のための儀式だ。ナイフは危ないので、二人でケーキをつかみ、レギュレーターを外して飲み込む、海水の味しかしない。レギュレーターを装着。ウェディングケーキは落ちていき、その後、急激な水流によって一気に流された。怖い。イカサマしてないとああなるのか。ここで二十分ぐらい停止するようにダイビングコンピューターから指示が来ていた。入院中に私はダイビングの手話を彼女に教えたことになっていたから、ダイバーしか分からない手話で会話をする。

 プロダイバー、

 「いまダイバーしか分からない手話をしていますが、私はコメントを避けます」

 「どんな内容か、だけでも」

 「男女のナンパでしか使われない手話を使って遊んでいます。最新型は必要ありませんが、特殊モデルでは一定時間、水中停止をしておく必要があるからです」

 「再び浮上を始めました。中央に穴を開けたフロートが現れました」

 「これは遭難を防ぐためです。水面が一番危ないのです。もっともここは水中が最も危険な海域なので、これだけは仕方ありません。家族の皆さんがいる場所が水面から浮上しているのは、そういう理由です。もし船のように浮かんでたら、今頃、はるか彼方に流されています」

 《弟子がいる断崖絶壁》(日本語訳)

 「イカサマやってると分かるぞ。分かっていても、それをやるのが凄いな」

 弟子、

 「ニュースを見てるけど、それに一切言及してない。運命の力とだけ表現している」

 「プロダイバーもイカサマしか考えられないから、運命の力と嘘を平気でつく」

 「メディアがネタをばらさないように日本政府が圧力をかけたに違いない」

 「でも事前に聞いた話だと、浮上時が一番危険だから、そこだけ使うと言ってた」

 「フロートの上で着替えているぞ。怖い物知らずだな二人とも」

 「なんだあれは」

 「ロケット搭載空中ジェットを装着して、ああ二人が離れないように頑丈に固定している。超高速飛行中継ロボットが用意されている。地球一周旅行だなきっと」

 「操作ミスで死亡事故が多発した昔の地球一周旅行の玩具か。ルートを間違えた瞬間、死亡だ。ここで葬式になっても構わないけど。コンピューター制御だろ」

 「そうだと安心だな」

 最初の難関はクリアした、あとはイカサマのラッシュだ。レバーは勝手に動く、インフィニティがコントロールしている。本物の恐怖というものを映像で追いかける。

 新郎、「究極の恐怖を目指した地球一周旅行が、俺からお前へのプレゼントだ」

 新婦、「いいわ、どこまでも付いていく。普通の恐怖は怖くない」

 この模様が生中継されている。ロケット点火。轟音で飛んでいった。スクリーンには二人が見ている視界が表示されたり、後ろからの様子が表示されたりしている。最初は絶壁へ向かって飛んでいる。見ている人達の目前で、向きを変え、飛び去った。

 「おいおい、やり過ぎだろ。あのロケットは最新型のようだ。速さと姿勢制御性能が軍事レベルだ。街を地面すれすれで飛んでる。車と歩道の間を飛んでいる」

 「まずヨーロッパ一周か。よくビルとビルの間を抜けていくな」

 新郎、「もっと怖くしても大丈夫か。俺はまだ何ともない」

 新婦、「この十倍以上、怖くしても平気」

 自動車の仮想ハイウェイを逆方向へ飛んでいる。車が面白いようによけていく映像が流れている。これを見た視聴者はなぜ日本政府が支援したか理解した。車の安全性能がどれだけすごいのか理解させる為だと思った。アメリカの軍事技術者はもっと驚いていた。アメリカの技術が世界最高だと思っていたのに、日本の技術の方が大きく上回っていた為だ。ロケットの姿勢制御技術の精度について驚愕(きょうがく)していた。アメリカに到着するなり、ニューヨークを地面スレスレで飛び始めた。人をうまくかわしながら飛んでいる。ビルにぶつかりそうになると垂直に曲がる。その模様はニューヨーク中のスクリーンに表示されていた。煙は幸福な感じになるように調整されて、まるでサンタクロースが通り過ぎたかのような印象を与え続けた。そうして、アメリカのハイウェイを逆方向に飛び始めた。当たる、当たる、寸前で車が避ける。順方向で走っているレーンに入り、わざと速度を急激に落として、自動車へ向かって手を振る。わざわざメディアの車両を選んで、その模様も生中継。そこから急加速、ロケットの最大速度になった。後ろからの強烈なスピードで当たろうとしても車がすぐに避ける。太平洋に抜けると、大陸弾道ミサイルの軌跡で、エレベストの頂上に降り立つというパフォーマンス。そして、地面をスレスレに急加速にして山脈を一気に抜ける。そうして、またフロートに戻ってきた。そこに新郎新婦はいなかった。

 新郎新婦、「どこにいるでしょう」

 新郎新婦は宇宙服を着て、月面にいた。天文台が新郎新婦の様子を生中継する。そこから日本の最高機密の宇宙ユニットを装着して、地球を何周もしてみせた。そして、断崖絶壁のポイントへ一気に突撃。宇宙ユニットは大気圏突入モードに入っていた。フロートは結婚式場に変化しているが放送されてない。次はパラシュートはない。衝撃波が観客全員を襲う。そうして結婚式場にドレス姿の新婦とスーツ姿の新郎がいた。

 新郎、「新婚旅行はどうだった」

 新婦、「恐怖の連続で楽しかった」

 すべての観客は恐怖で引きつっていた。全然、笑えない。どこまでが本当でどこまでがイカサマなのか分からなかった。

 新郎新婦、「では日本で披露宴を行います」

 超大型の日本政府専用車両が到着した。スタッフの誘導に従って、全員が乗車する。会場の清掃が一通り済んで、スタッフも全員乗り込んだ瞬間。日本の迎賓館前に到着していた。メディアはまったく追いつけなかった。日本のメディアだけが迎賓館前に到着した彼らを生中継していた。日本政府専用車両が消えて、ようやく外国メディアが追いついた。

 《日本の迎賓館》 三組の披露宴が始まっていた。

 勇気あるダンサー、

 「このような結婚式を実現して頂き、大変ありがとうございます」

 日本の大統領、

 「日本の技術がどれぐらい現在進んでいるのか実演できたので、私は満足しています。事前に協力して戴いた各国の皆様に感謝致します。彼の究極の恐怖を伴う結婚式ですが、私は技術情報を事前に知っていましたが、それでも怖かった。みなさんどうでしたか」

 アメリカの大統領、

 「非常に素晴らしい結婚式でした。究極の娯楽のあとに、究極の恐怖、その境地は大統領の立場でも同じ事が言えます。世界中のトップは究極の政治の境地に常にいなければ、良い政治は難しいでしょう。空中からの水中ダイビングですが、昔の軍事訓練にありまして、私のほうから完璧になるまで指導させました。あれで死んだ軍人がいるので、最初は怖くてたまりません。情報提供する立場はそういうものです」

 勇気あるダンサー、

 「大変ありがとうございます。バージン水面は訓練していたとはいえ実際にやるのは初めてで怖かった。それから浮上について運命の力とか報道させておいて、イカサマです。そこからは日本の技術のラッシュです。エレベストの頂上で、ロケットと別れて、日本の最高機密だそうですが宇宙ユニットを装着して月へと向かいました。ロケットとは比べようが無いぐらい速過ぎて怖かった。地球を何周もしていましたが、途中に宇宙ゴミがあって衝突しそうになると宇宙ユニットがゴミを消去していきます。実はあの時、何周もしながら地球上に漂う宇宙ゴミの清掃活動をしていました。それが使用条件だったのです。全部とは言いませんがかなり清掃できたと思います。それから大気圏突入は本気で怖かった。フィールドで護られるとはいえ、目の前は赤く加熱していました。そこから一気に落ちたようにみせかけて適度な衝撃波になるように自動調整されて着陸と同時に宇宙ユニットは宇宙へと飛んでいきました。感想ですが、絶対に死なないが、失敗は恥だったので緊張しました」

 勇気あるダンサーの妻、

 「私達のわがままに付き合って戴きありがとうございます。メディアの前で余裕を演じていましたが、本当はすごく怖かった。特に地面スレスレでビルとビルの合間を抜けていくところで怖くてたまらなかった。目の動体視力を超えているので、幻を見ているような感覚になり、気が付くと山頂にいて、『これから月に行くぞ』と言われた瞬間に恐ろしい速さで月面に到着しました。次の新しい惑星で使われる遊び道具に今回使った技術が使われるそうです。いつ、行けるか分からないけれど、彼の活躍を楽しみにしています」

 それから世界の最高級料理によるフルコース料理が並んだ。

 《翌日、ダンスコンテスト発表会場》 アメリカ最大の会場を使って催された。

 会場は百万人がチケットを購入して入場していた。事前整理券が優先的にダンサー関係者らに与えられて、残りをオークション形式で販売していた。その入場はグループ毎に柵で管理されて自動移動、次々に席へと運んでいた。待っていて飽きさせないように、すべてのダンサーの踊りと音楽を巨大な立体映像で見せていた。

 ダンサーが行進して入場した。分かりやすいように巨大な立体映像で、それぞれ紹介される。伝説の四人は紹介されると手を振った。とてつもない歓声に包まれる。弟子は昨日帰ったあとに、どういうニュースで報道されていたか確認してホッとした。堂々と歩いていた。席に座ると、自分がアップされたのが分かった。でも凛とした表情で結果発表を待つ。

 「ダンシングダンスコンテスト結果発表を始めます」

 ダンスコンテストで踊った順番に、映像と審査結果が流れた、全員、端末から各審査員の審査状況を見ることができた。そして次に細かくダンステクニックが紹介されていく。一人あたり十五分かけて、どういうダンスだったのか徹底的に紹介された。マイナス点がどこにあったのかも、分かりやすく説明していった。ダンシングプラスの場合は説明が非常に長くなった。どこがどう難しいのか、それを乗り越えるテクニックが紹介された。時々休憩をはさみ、昼食時間になると食事が配られた。そして日本人のダンスになると、まとめて繰り出されたテクニックと音楽の秘密について紹介された。何がどのように難しいのかそれぞれ重要項目を列挙していく。その次に個人別に良い点と悪い点について、審査の内容が紹介された。そして開発者のダンスになると四時間にわたって解説が続いた。悪い点は音楽が難しすぎて審査が難航したことって紹介されると、みんな苦笑いした。

 そうして休憩後、それぞれの端末から自分の審査結果を入力していく。これは例のダンス解析ソフトの新バージョンの観客審査用。それから一時間後、審査結果が公表された。順位が表示された。伝説の四人が上位を占める結果となった。一位は勇敢なダンサー、二位は開発者、三位は世界最高のダンサー、四位はアメリカのダンサー、以下省略。観客全員に誰に対してオークション落札額の三割を与えるべきか選択権があったが、開発者は辞退と表示されていた。開発者に与えようと思っていた大多数は悩むことになった。なかなか決められないのを運営側がみて、均等に配分するという項目を加えた。決められない観客は均等を選んだ。半分以上が均等を選んだ。その結果、順位が最低でもかなりの賞金を得られた。この賞金は非課税になりますと表示された。次に審査員長から順位の発表があった。すべて一度に表示された。これはメディアが予想した順位と大差なかったので、驚きは無かった。そしてー

 審査員、

 「これでダンスコンテスト結果発表を終わりますが、このコンテストの映像ソフトを収録したものを端末から注文可能です。特別料金で定価の二割で販売致します。またこれから問題のステージの解析と紹介を行いますが徹夜になります。それでも最後まで見ていった人限定で、この映像ソフトを定価の一割で販売します。ただし譲渡や転売不可の条件が付きますので注意して下さい。端末から徹夜用の食事や飲料水を注文できますので、それを食べれば一日徹夜するぐらいなら耐えられるでしょう。一時間後に再開します。最初に話しておきますが、徹夜して明日の昼ぐらいまで解説をずっと続けます。明日用事のある方はこの時点で承諾を取っておいた方が良いでしょう」

 会場はもう連絡する人ばかりだった。帰る人はまったくいない。参加したダンサーには二日の徹夜に耐えられる食事が与えられた。もう月収の数ヶ月分を払って、このイベントに参加した人ばかりだったから、肝心な楽しみがオールナイトで明日の昼までかかるという状況に驚き、すぐに強引に職場へ欠勤を請求した。理由「伝説のダンスの秘密が知りたいから、徹夜の解説が終わるまで帰れない」

 まず解析に一ヶ月以上要したことに触れて、何が大変だったかを報告した。どうしても分からない部分については日本のインフィニティの有料相談所を利用したことを明らかにした。それでチケットをオークション形式で販売する方針になったことへの理解を求めた。そしてインフィニティから提供されたデータ量がどれほど多かったのか紹介された。

 「技術は大変難しくできるだけ簡単にしましたが、それでも理解に苦しむと思います。映像ソフトにはその技術学習のコーナーがありますので、購入された方はそれで学んで下さい。審査員全員、まだ完璧には把握できていません。それでは日本のインフィニティからなるべく明日の夜までには終わるように解説がありますので、拍手で迎えて下さい」

 インフィニティはまず端末から母国語を選ぶように指示をした。そしてそれぞれの端末から、全言語に対して、詳細な解説を始めた。時々、目の前が光る。弟子は何をやっているのか理解した。そうしないと、あの内容を説明すると一年かかってしまうからだと思った。本当に細かく、弟子が把握してないところまで完璧に解説していた。疲労をインフィニティが判断すると開発者の作った酒が全員に与えられた。疲れが一気に取れて幸福感に満ちた。そして朝になった。

 一時間の休憩の合間、ダンシングに関するあらゆる秘密が繰り返し紹介されていた。日本にダンシングを供給できなかった理由まで明らかにされた。資本金の十億倍以上の設備投資を行って、まだ供給不足になったことを詫びるメッセージと、ダンスコンテスト後の受注額を公表して、その追加の設備投資額がどれだけになったのかまで紹介されていた。観客はあの秘密を知って、業界に配慮してもこれだけ売れることに驚きを隠せなかった。

 インフィニティは休憩終了後、人間の深層心理に作用する音楽を流した。徹夜を忘れるような音楽だった。そして今まで紹介したダンステクニックで踊った例を示した。みんなダンスを理解できていた。そして昼が過ぎるとようやく音楽の秘密について、紹介しようとしたが、運営側から待ったがかかった。夜までかかることを連絡したい人が多いからだった。インフィニティは完璧に上手な言い訳を各言語で端末に表示した。みんなその言い訳を使った。誰も帰らなかった。そして音楽の説明を始めた。連続して目の前が光り続けた。そして簡単なアンケートを端末から実施する。めちゃくちゃ難しい数学の問題だ。なぜか全員が正答を選んだ。そしてインフィニティから世界トップぐらいの数学知識でないと理解できない内容で理論を説明し始めた。弟子に暗記は必要なかった。既に知っていたからだ。全員、難しいということは分かっている。でもなぜか理解できる。そうして夜まで続いた。

 最後に彼らのダンスを見せて、全員が完全に理解できるまで補足説明を続けた。もう二回目の徹夜に突入する。そこで開発者の酒が配られた。疲れが完璧にとれて、二回目の徹夜も大丈夫な感じがした。そしてやっと、この映像ソフトの販売価格が表示された。世界の平均月収に相当する額だった。それでも全員が購入した。定価はその十倍だ。そもそもここに来れた人達は金銭的に余裕がある人ばかりだ。参加したダンサーも特例はなく、映像ソフトを購入するかどうか、選ぶ権利があった。賞金額が多かったので、弟子を除いて全員購入した。

 そしてサプライズ、スーパーダンシングプラスを飲んでダンスをする機会を与えられた。全員、危険だと分かっていたけど飲める機会は一度きり、終わったら日本の医療技術で治療する事が伝えられた瞬間、希望者が殺到した。ダンサーで招待された人達はスーパーダンシングプラスを飲むと中央のスペースに広がって、準備万端。

 「観客の皆様は大変疲れますので、どういう感じだったのか試すだけにして下さい」

 インフィニティが音楽を流し始める。エンジニアはすぐに嫌な顔をした。また解析不能という音楽だった。それを十五分続けて、それで治療を開始した。ダンサーはまだ踊っている。観客は疲労感が強くて後悔した。治療が終わった瞬間に元の状態に戻った時、日本の医療技術に驚いた。それでダンサーの様子を見て自分の感覚と照らし合わせてダンスを鑑賞する。インフィニティがスーパーダンシングプラスの二本目をダンサー達に渡して、ダンスバトルを始めさせた。観客はどういうテクニックで踊っているか理解していた。すぐに端末に審査の表示が行われた。それがリアルタイムに順位として表示される。観客は審査がどれほど疲れるのかを体験した。全員のダンスバトルが終わると、全員がぐったりしていた。インフィニティは全員を最も健康な状態へ治療した。そして観客の審査内容について上位十位までを的確に説明していった。間違っていると判断された審査についてはどうして間違っているのか納得のいく説明をした。

 「以上で、インフィニティのダンス講義を終わります。質問があれば端末からどうぞ。答えられない質問には答えません」

 しばらくしてやっと閉幕かと思ったら、もう一度、全員のダンスを見せて、審査をやり直しさせたのだ。これだけ豊富なダンス知識があればどうなるか。全員が審査を真剣に行った。審査は疲れるけれど初体験で面白かった。今まで見るだけだったダンスの中身を完璧に理解できる。そうして百万人が出した順位は審査員の順位と一致していた。観客は公平に審査したことを理解できた。

 徹夜二日目の深夜三時、やっと表彰式が始まった。全員に表彰状とトロフィーと記念品が与えられた。一位は表彰状とトロフィーと記念品でなく全世界における名誉市民一級という名誉を授与された。表彰状とトロフィーは無かった。それは百万人の観客には全世界の首脳が参加していて、その功績に見合ったものをと用意した名誉だった。弟子はかなり驚いて、どうコメントしたらいいかわからず。

 弟子、

 「予想外の出来事に戸惑ってしまって、驚きました。えーと、私はただ人類最古の娯楽と思われるダンスを徹底的に研究して、ダンスの練習方法についても研究しました。そして最終的に究極のダンスを披露しました。予想外のハプニングはありましたが、皆さんが許してくれたので嬉しかったです。私から皆さんにナイトクラブで踊るダンス練習ソフトを提供します。これで平均以上には踊れるようになるでしょう。インフィニティ、それぞれに違うダンスで、ダンスの練習ソフトを配布して下さい。これはコピーするのも、譲渡するのも自由にできます。人類最古の娯楽と思われるダンスをいま再び見つめ直してみましょう。もし私が踊ったダンスを覚えたいのであれば、三人のダンサーに教育ソフトを渡してあります。五年でマスターできるようにしてありますので、覚えたい方は弟子入りして学んで下さい」

 拍手がすごい。鳴り止まない。弟子は鳴り止むまで待った。十分経過しても止まらない。

 「皆様、ありがとうございます。審査員の代表を務めています。もうあなた方は私達と同じレベルのダンスの審査ができます。未知のダンスで、どういう評価ができるのか試してみますか。今からインフィニティが人間には絶対にできないダンスを立体映像でご覧に入れます。ぜひ、チャレンジしてみて下さい。私達が苦労した理由が分かるでしょう」

 立体映像のダンスと音楽が始まった。エンジニアはもっと嫌な表情をする。手動解析不能。そうして三分のダンスが終わった。端末は本物の審査モードで動いていた。全員がこの審査がどれだけ難しいのか肌身で分かった。これが審査が長引いた元凶なのだと理解した。結局、誰も時間内に審査できなかった。

 インフィニティ、

 「このダンスは先程の映像ソフトに付録として入れておきます。現状の人間にはできないダンスです。特別な訓練をすれば三十年で到達できるでしょう。これはダンス解析ソフトのエンジニアへの課題です。仕事が無いようなので作ってあげました。真剣に取り組めば早くて十年、遅いと二千年以上かかるかもしれません。解析ソフトがあったとしてアメリカのスーパーコンピューターで五百年かければ解析可能です」

 弟子は神のコンピューターで作り出されたダンスだったと理解した。インフィニティの最大負荷で十年かかるのだろう。全員は審査員が味わった絶望感を共有していた。

 「以上で閉幕致します。各種交通機関はこのイベントに合わせて準備が整っております。お土産としてダンシングプラスとダンシングの詰め合わせを御用意致しました。最後の秘密ですが、そのまま飲めば酔い覚ましになります。ですから、万が一、二日酔いになってしまった場合には、もう一本飲んでしまえば良いのです。とてもまずい味がして耐えられないと思いますが二日酔いは回避できます。では、皆様、お気を付けて」

 弟子はインフィニティからトイレの問題について議長になって全政府を説得するように指示が来ていた。弟子は全政府の首脳に対して別棟のイベント会場でトイレ技術導入と仮想ハイウェイ構想の問題を議論するとメッセージを送った。アメリカは既に導入していたので参考人として参加することになった。全世界において名誉市民一級のメッセージは無視できない。従って、全員参加になった。

 全員が揃ったところで、弟子は「私は疲れているので、インフィニティから説明があります」と告白した。そうしてインフィニティの解説がスタート。すぐに質疑応答になった。インフィニティは内政干渉に関する契約書を各国に提示した。日本政府の公式文書だった。明日の朝からスタートできるように見えないように地下にシステムを埋め込むという内容だ。密集地帯では電力を供給するラインの敷設まで含まれている。工事方法は極秘のため開示できないとされた。アメリカの首脳により、インフィニティはラストでも活躍しているコンピューターであり、悪い知恵を持ったコンピューターではないと明言した。許可した瞬間、工事完了とメッセージがあった。全政府が承諾した。次に未開拓の仮想ハイウェイ構想について、主要国の経済成長率を示し、賛同するように説得交渉に入った。これは迷うこと無く全政府が即決で承諾した。完了したとメッセージがあった。あとそれぞれ技術の提携について、必要な政府に対して、フェアにインフラを整備できる会社を紹介した。それぞれの特徴と長所と短所を明確に記述している。技術レベルも明確にした。

 《弟子の特別宿舎》 結果発表は楽しかったけれど、とても疲れ切っていた。

 寝る。起きる。博士に今後のことを聞いてみよう。

 「博士、究極の娯楽は終わりました。次はどうしたらいいですか」

 世界最強の被害者、

 「ゲーム開発だ。インフィニティにアメリカの問題のチップについて回避する方法が無いか徹底的にチェックさせてみなさい。コンソールを壊すような信号でも構わない。あらゆる手段を尽くしてCPUが本来の速度を発揮できる条件を整えて、開発用のフレームワーク(開発を容易にする概念の骨組み)とインフィニティ直結の開発コンソールを設計しなさい。そこまでやって、日本のゲームソフト会社の全社員を日本政府の会議室に集めて、説明を行ったあと、私を呼びなさい」

 「ええー、規格外の信号で未知の力を引き出せるの」

 「そういう予感がするだけだ」

 「分かった。やってみる」

 やっぱりもっと早く聞くべきだった。でも今までの流れだと博士は先に娯楽の意味を学びなさいと指示が飛んできたような気がする。娯楽について今は何が良くて、何がどのように悪いのか、はっきりと言える。うーん、なぜかまだ疲れている気がする。

 「ゆっくり休まないと疲労は蓄積する。あまり無理はするな。心配だ」

 「でも私、博士に言えないことをしているの」

 「本当にそれは正しいのか検証したか。本来ならば既に死んでいる」

 「まだ生きている」

 「その推論は間違っていると実証された」

 「分かった。ちゃんと寝る。おやすみなさい」

 タイマーセット。熟睡モード。博士が言うのなら、私の推論がきっと間違っている。寝よう、きっとリーダーが許可するまで休暇だ。

 《未来の研究所》 弟子のリーダーはインフィニティから弟子の体調を聞いている。

 「分かった。休暇は終了。すぐ研究所に来るように言いなさい」

 弟子が元気いっぱいで全員に挨拶してまわって、自分の席に座り。自分の推論が間違っていることを検証した。エクスカリバー、全然問題ない。師匠に幼児期の知能アップ技術について実証完了を送信。「お前が頭の良い理由はそういうことか。リーダーと考えて適切な時期に世界中に普及させる。それから大人の玩具を使う相手がいないとか。特別宿舎でも望めば理想の相手を登場させることができるから、どんなものか把握しておくといい」伝説のリーダー「無視して構わない。それを使うと辛いだけよ。知性アップ技術は最終フェーズの前段階で広める予定。その時代だと天才がたくさん出現してしまう。そうなると伝説は伝説にならない」

 弟子、

 「インフィニティ、スクリーンに規格外の信号を送って、アメリカチップの不具合を回避できるか検証して欲しい。世界最強の被害者からの指示です。そうしたらインフィニティ直結の開発コンソールと開発フレームワークを作っておいて欲しい。ゲームの開発環境です。今まで相談を受けたような表現はすべて可能にしておいて欲しい」

 「もう既に済んでます。伝説の科学者から指示があり、限界突破の手法を説明され、ゲームの改革に必要なあらゆるすべての表現が可能なように作ってあります。あとは開発コンソールだけですね。どういうものが必要ですか」

 「もうソースコードを書く時代ではないから、概念を並べていく、つまりゲームデザインだけに集中できるような夢のゲーム開発環境にして欲しい。それから政府の会議場に私がゲームの娯楽改革について説明したいので絶対に参加するように伝えておいて下さい」

 「分かりました。リーダー、エクスカリバーの使用許可を。では終わりました。説明に必要な全知識を暗記させます。今日の午後からでもどうでしょうか。世界最強の被害者を呼び出すのでしょう。タイミングは調整しますので気軽に呼んで下さい」

 私が想像していたより驚くほどのゲーム開発環境だ。CPUの最高スペックで動作できるのか、現在の一億倍以上速く動くとなると、今まで無理だった表現がすべて実現可能になる。昔の記録で挫折に終わったゲームの再現、なるほど当時は本当に優れたゲームを開発していたのか。これをダイジェストで一時間に集約。実際に確認してみる。娯楽性をまったく感じない。究極の娯楽に調整。エクスカリバー。これなら完璧。サイズはこんなに少しなの、もっとかかった感じがするんだけどー

 「インフィニティ、このソフト。データ処理してこのサイズなの」

 「いいえ、もっと小さく出来ますよ」

 「フレームワークに小さくする命令と、暗号化はきちんとやってる」

 「暗号化しなくても神は絶対に解析不能と断言しました。不要です」

 「それなら良いけれど。できるだけ小さくして、メモリ上で展開して。アメリカのゲームエンジンはそういう事ができないから。体感スピードは変わらないのなら」

 「はい、一ミリ秒未満で動作して、三割に小さくできました」

 「リーダー、全員に一時間にまとめたスクリーンのゲームについて評価して欲しい」

 弟子のリーダー、

 「全員評価して。日本の産業復活のため。サイズは嘘みたいにコンパクトね。起動。うわーなにこれ、いつの時代の再現、日本の産業として成り立っていたゲームのダイジェスト改良版。エクスカリバーを使ったら必要ないけど評価しておく必要は確かにある。これは素晴らしい。日本政府が提供するゲーム体験版にふさわしい。インフィニティ、何か振興策はあるの、開発コンソールを無償提供、そんな特権を創設できない」

 「はい、四年間は開発に集中してもらい、その間は開発コンソール費用を無償とします。その後は開発ノウハウの最適化を行い、私の負荷をできるだけ軽減させて、有料相談料が自動適用されて、このライセンス料を適用したいと考えます。私を必ず経由させないと、開発コンソールはまったく使えません。また伝説のリーダーから完全に産業として復活するように指示がありました」

 「この金額ならば問題なし。エクスカリバーはインフィニティの判断で内密に使用」

 「それはどうしても必要です。ラストを経由させずに世界中の国民性に左右されない優秀なゲームを作るには必須と判断します。それを使えばフォロー可能です」

 「分かった。許可します。アメリカから請け負っている仕事はインフィニティがすべて片付けなさい。期間制の契約ならば、次から破棄。できそう」

 「簡単です。既に日本政府の圧力で、次回の契約破棄をさせました。すべて日本政府が責任を取ると伝えました。インフィニティがすべての仕事を完了させたので、今日の午後に政府の会議場に全員強制参加通知を送りました。伝説の生徒会長がゲームの産業革命を行うと既に伝えてあり、全員の参加承諾を得ました。リーダーも内緒で混じって、実際に手腕を勉強したほうが良いですよ」

 弟子、

 「いい、そんなことすると私が緊張する」

 「分からない変装で行くから心配しないで。オペレーターも全員参加しなさい。質問がまったくでなかったら、インフィニティがサポートして質問を浴びせるから。いまの日本のゲーム産業は廃業寸前まで追い込まれてる。それを世界最高のレベルに引き上げる」

 伝説のリーダー、

 「良い判断です。その会議場は自由にレイアウトを変更できるのなら、全員に開発コンソールを与えて、その使い方を完全にマスターさせなさい。そして、体験版がどのような過程で作られたのか実体験させること。それから、世界最強の被害者を呼び出しなさい。彼はきついことを言うはずだから、不可能だと思っている段階では求心力を失う可能性が捨てきれない」

 「インフィニティ、そのように準備しておきなさい。夜までかかりそう」

 「午後だけでは厳しいです。国賓級料理を与えて、日本政府の本気度を見せた方が良いでしょう。許可を下さい」

 「許可します。インフィニティの酒は各自一杯ずつ、その時に提供しなさい。疲れそうだから」

 「分かりました。すべて手配しました。参加者全員の脳スキャンを行って良いですか。どういう説明が分かりやすいか把握したいので。いますぐ」

 「仕方ない。許可します」

 弟子、

 「これで準備万端だと思っていたら、準備不足を痛感した。求心力か、確かにゲーム業界ではまだ得られてない。ただのダンス馬鹿もしくは天才科学者のどちらか、あまり印象が良くない気がする。準備不足について、エクスカリバー。まだあった」

 弟子は日本政府の公式制服に着替えた。しかも最高権力と分かるアクセサリーを身につけた。でもよく見ると、ジョークと分かるようにしておいた。これで良し。

 《日本政府の会議場》 五百人程度のゲーム開発者が集まっていた。

 弟子、

 「突然ですが、これからゲーム産業革命を起こします。日本で代表的な産業であったゲーム産業は過去において、アメリカの策略により、廃業寸前に追い込まれました。まずはその証拠映像をみてもらいます。先祖(せんぞ)がどれだけ悔しい思いであったのか理解して下さい」

 スクリーンと、各コンソールに、証拠映像が流される。なぜ自分たちがずっと下請けしかできない理由と、先祖がどれほど苦しい状況に追い込まれたのか理解した。そして、そのスクリーンが現在までずっと世界中に販売され続けている実態を把握した。

 「私は開発者として知られています。ダンシングの発明後、世界の娯楽をもっと豊かにしようと考えました。そして娯楽はスクリーンがまだ使われ続けています。私は日本政府の極秘の開発環境でアメリカに匹敵するゲームエンジンを開発しようとしましたが、限界があって、最高でもアメリカ製に比べて三割ほどの性能しか出せませんでした。そして、ダンスという方法で娯楽を変えようとし、そういう模索は知っているでしょう。その後、私の師匠からアメリカ製チップの問題を回避する方法についてヒントをもらい、ずっとインフィニティに研究を任せて、私はダンスコンテストのことだけを考えていました。それが終わってみたら、CPU性能が完全に引き出せる開発フレームワークが完成していました。私はそれを使って一時間で終わるゲームを作ってみました。今から遊んでみて下さい」

 全員の前にスクリーンが表示されて、コントローラーが出現した。全員が遊び始めた。最初から驚愕の表情を隠せない。先程の開発失敗した映像のゲームだったからだ。しかもアメリカのゲームエンジンとは比較できないほど、高度な演出が使われていた。しかも、今まで遊んだことが無い斬新な内容だ。速さは処理できてるのか把握できないほど高速だった。これを自分たちが作るのか、いや無理だろうと誰もが感想を持って体験を終えた。

 「いまから、これがどのようにして開発コンソールを使って作られたのか全員に仕事をしてもらいます。インフィニティ、全員に開発コンソールの使い方について学習させなさい。コンソールに開発方法について説明がありますから指示に従って作って下さい」

 全員の目の前が光る。全員のコンソールに開発実習支援ソフトが起動した。

 なぜか開発コンソールの使い方を完璧に理解していた。支援に従って、ゲームの概要を入力して、発生するイベントを書いて、使用するエフェクトの種類などを選び、そうして二時間前後でゲームは完成してしまった。実際に実行形式を生成してスクリーンに表示させて遊んでみる。信じられない、これで本当に作れたなんて驚きだ。インフィニティの凄さを思い知らされた。コンソールに自由な発想で要素を追加するように支援があった。それから各自のアイデアでゲームを改良していく。改良してどうなるのか検証したり、やればやるほど面白くてたまらない。そうして夕食の時間になった。

 「もう開発コンソールについては性能や使い方などが把握できたと思います。開発コンソールを撤去して、食事の時間にしたいと思います。それからゲーム業界改革の本題に入ります。この料理は日本政府が外国の首脳を接待するときにふるまわれる国賓級の料理です。私がどれほど本気で、このプロジェクトを進行させたいのか考えながら食べて下さい」

 そこに豪華な食事が現れた。

 「では乾杯しましょう。日本の未来に。そのグラスです」

 「乾杯」

 全員、仕事の疲れが一気に消えた。料理がますます美味しそうに感じてくる。弟子のリーダーもオペレーター達も、国賓級の料理は食べたことがない。一口目で自動調理でないと弟子は理解した。この食事は何度も食べていたから、微妙に味の違いを理解できていた。この前、披露宴で食べたばかりだから感動は薄いけれど、全員の表情を見ているだけで感動が増してきた。そんなに美(お)味(い)しいものなのか。

 弟子のリーダー、

 「接待の度にこのクラスの料理を食べてるの。うらやましい」

 オペレーター達、

 「あまり美味しそうな表情をしないから、披露宴もこれだったのかも」

 「これが国賓級の料理、どんな高級レストランでも味だけで負ける」

 「でも真ん中のフルーツ、食べられるようになってない。食べようとすると物理干渉を受ける。これだけ残った。手で食べようとすると手がしびれ、結局届かない」

 弟子のリーダー、

 「私が見本を見せる。分かった。はい」

 「分からない。ひょっとして、できた」

 弟子、

 「全員がフルーツを攻略できるまで、名作と言われたゲームの歴史を振り返ります」

 それは売れた本数が表示された。でも一万本に達しないものまで紹介されていく。ゲームにおける娯楽とはなにかという点で名作かどうか判断された。

 「ヒントは自分の誓いを立てることです。次は愚作と評価されたゲームです」

 売れた本数とどこがダメなのか分かりやすく列挙された。自分たちが関わったゲームは全部だった。ならばー「究極の娯楽を目指してゲームを作る」カードが浮いている。そのカードにはこう書いてあった。

 「四年間、日本政府は無償で開発コンソールを使用する権利を与える」

 読んで理解すると消滅した。それと同時にフルーツの香りが広がった。

 弟子、

 「あと数人なのですが、もう次のヒント、思い浮かべて下さい。どんな娯楽を目指してゲームを作るとお考えですか。他の全員は同じ答えです。あと五分以内で、発表しますよ」

 特殊なフィールドがあるようで隣の声は聞こえない。

 「あと一人です。みなさん、この人です、どうぞ」

 オペレーターの一人が見当違いの答えを言う。というより言わされている。

 「地獄の娯楽」「天国の娯楽」「最高の娯楽」「愚かな娯楽」

 「私は究極に愚かな娯楽のゲームを作りたい」

 「それでもいいでしょう。インフィニティ、許可。私達が目指すものは究極の娯楽です。それでは私の権限で、世界最強の被害者を呼び、ゲームの助言を願います」

 会場は動揺に包まれた。その予言者は歴史の教科書にでてくる人物だ。世界の崩壊の危機を救った予言者と教えられた。その人物がなぜか話すという。

 世界最強の被害者、

 「全員、究極の娯楽を目指すそうだな。目指すのは良い。でも、完璧と限界は口にしてはならない。それを超えた瞬間に怠慢という力によってゲームデザインが破綻する。開発者は究極の娯楽だけに専念できるように開発コンソールを設計した。インフィニティ任せにしているが、最終的な設計は彼女が行った。開発者は誰もが知る究極のダンスを披露した娯楽の天才である。彼女にしばらく日本のゲーム開発の監修を行ってもらう。ダンスの世界で世界最高の娯楽を演出できたのであれば、そのセンスは活用すべきである。しかし、いつまでもゲーム会社に在駐する訳にはいかない。私の権限でリンクシステムの使用権限を与える。インフィニティがコントロールする。これは開発コンソールとセットしたほうが良い。各会社でリンクシステムを起動。食事は片付けろ。開発コンソールと接続。すごい勢いでゲームが開発されているはずだ。止まったなゲームを遊んでみろ。これが究極の娯楽と言えるのか。政府の開発者は作られたゲームを今から修正を加える。終わった。それで遊んでみなさい。大変面白いだろう。こうやって使う。彼女の仕事はやることがないと、とても暇だ。それから全員に伝える。条件式イベントは止めなさい。それはゲームの設定を制限して、ゲーム寿命を大幅に縮める。計算イベント方式、ファンタジーゲームで装備が悪かったらゲーム内の人物から罵声を浴びせろ、いろいろ可能になるだろう。スクリーンのセンサーを使って、例えば助言している様子を認識できたら難易度を上げてやれ、ゲームの対象年代は二十代から五十代が中心となるから、アメリカに作らされている子供のようなゲームを作るのはやめなさい。開発者は仮想ハイウェイ構想を提言したとき、中間管理職の仕事について学んだと思う。五十代ならば、そういう知識が生きるようにも自由度を広げること。そしてゲームの製品寿命を十万年に設定。例えばテニスゲームなら、実際のテニスを知ってないとクリアできないようにすること、そしてゲーム内でクリアしたあと、セカンドライフが待っている。コーチという仕事だ。そして弟子が優勝して、そのテニス業界の理事長になったら業界改革を行う。そこまで人生を体験して、それが人生に生かせるように。テニスを遊ぶなら、このゲームが聖書と言われるぐらいに徹底的に作ること。だから取材するのはテニスプレイヤーだけではない、あらゆるコーチ、本物のテニスの知識、そして理事長の難しさ、そういったものをすべてゲームで再現する。RPGならば、その装備で大丈夫かと問われるのは当たり前、高級装備になったら強くなるだけでいいのか。そんな装備になったら、立ち止まっているだけで街の人が寄ってきてあれこれ話しかけられる。それが噂になる。アホなゲーマーは適当な答えを選んでしまい、セカンドライフに進めない。勇者は王様をプレイできるところまで徹底的にやること。できない表現が生まれたら、リンクシステムでイメージをインフィニティに伝えなさい。それでその表現はかなう。すべての会社は同じ開発コンソールを使う。はっきり言って、製品寿命を十万年に設定しても人間は必ず飽きる。伝説のダンスが可能なら各自、伝説のゲームを作ってみろ」

 弟子、

 「世界中への翻訳や表現の修正は開発コンソールで行います。リンクスピードは最大になっていますが遅くもできます。でも結果は同じです。最大の速さに慣れて、それでも雑談できるようになるまでに一ヶ月かからないでしょう。議会で時間のかかる議題ではこのシステムが使われています。製品寿命十万年は一つの目安です。私が娯楽の定義を調べたとき、十万年ぐらいの単位で定義が変わっていくのです。素晴らしいゲームであれば、次の世代に引き継がれるとき新規に購入されます。家系で最高の成績を残すプレイも可能であれば、その逆も可能です。十万年は極端に聞こえますが、一億人以上がプレイしたとき、すべて同じ体験であるのなら、それがどれほど愚かな娯楽であるか分かりますか。最低一億人以上はプレイするから製品寿命十万年を目安に作って下さい。ゲームと映画は違います。同じ娯楽を目指してはいけません。ゲームでしかできない娯楽を目指して下さい。庶民の娯楽で、いま最もライバルになるのはダンスです。先程、乾杯した飲み物を改良してダンシングは作られました。その娯楽に負けないように。これから質疑応答に入ります」

 ゲーム会社A、

 「四年後のライセンス料はどれぐらいになりますか」

 インフィニティ、

 「インフィニティの使用料が含まれます。コンソールに表示します。四年もあれば素晴らしいゲームが作れるでしょう。でも、まず一年で作ってみて下さい。いきなり四年はハイリスクです。ゲームの博覧会ではアメリカの妨害が必ず起きるので、独自にアメリカで同期間に併設しているさらに巨大な施設を借りて行います。そこで一時間遊べるダイジェストを体験してもらいます。四年間のマーケティングは私に任せて下さい」

 ゲーム会社B、

 「収入がありませんが、どうなりますか」

 「四年間は政府から平均年収が支払われます。現在の五割アップです。その後はそれぞれの会社の売上げから、収入を得て下さい。一億人以上に売れた場合、その人数で均等割するとどれぐらいの収入になるのか想像できるでしょう」

 個人ゲーム開発者、

 「私は独立して請け負ってきました。どうすれば良いでしょう」

 「もし個人開発者同士でグループを組めるのであれば開発コンソールは自宅にあってもリンクシステムは遠隔地でも利用可能です。四年間の間に議論を重ねて、独自の会社を作り、出勤しても良いし、今まで通りで進行しても構いません。現在の年収が平均年収より多い場合は現在の一割増しで支払います」

 破格の条件に次の質問が思いつかない。

 弟子のリーダー、

 「開発者が不在の場合はインフィニティが代行する場合はあるのでしょうか」

 「あります。正直に話しますと、娯楽に関するノウハウは開発者よりも豊富です。不在時に限り、私が代行します。例えば、開発者が改良したゲームの問題点を列挙すると、このような娯楽における問題点があります。彼女は若いので三十代以上の嗜好変化(しこうへんか)を理解できていません。四年間に限り、インフィニティの有料相談料は無料とします」

 列挙された数が一億近くある。リンクシステムを使って解決してみる。一瞬で終わった。そのままゲームを遊んでみる。文句なしだ。これだけで売れるかもしれない。

 ゲーム会社A、

 「いま改良されたゲームの製品寿命を教えて下さい」

 「せいぜい千年が限界です。それでは大ヒットしたとき、良い点よりも悪い点のほうがたくさん列挙されるでしょう。それでは数年で製品寿命は終わります。時々、再登場して千年が限界です。そうですね、製品寿命がどれぐらいになるか、一日一回に限り、チェックできるような権限を開発コンソールに与えます」

 オペレーター、

 「著作権が失効した過去のゲームでリメイクしたら売れそうなゲームはあるでしょうか。私達はまだゲームについて、理解できていません。先祖が作った素晴らしいゲームを参考に我々で新しいゲームを作りたい。できるでしょうか。他に助言があればお願いします」

 「はい、たくさんあります。一年程度の開発期間で製品寿命十万年を目安とすると、これらのゲームが対象になります。いずれも究極の娯楽を目指す場合に限定しました。たくさん売れるゲームは簡単に作れます。でもそれは最も苦しい時代がやってきます。いまのアメリカのゲーム産業がその典型です。簡単に作って売り、これを繰り返して、誰もゲームを買わない時代が来るでしょう。その結果、もっと単純なゲームによって敗れる時代がやってくるのです。いまがビジネスの好機と考えて下さい」

 オペレーター、

 「もし四年のビジネスチャンスを失敗で終わった場合、どうなるのでしょうか。リスクについて教えて下さい。また救済策があるのなら、それを教えて下さい」

 「廃業です。政府は何も援助しません。救済策は一年の期間で間に合わなかったら、私が一瞬で究極の娯楽を体験するゲームを完成させます。次の三年でも同様に、少なくともここにいる全員は平均の生涯得る収入を得られるので、廃業にはなりません。日本政府はゲーム産業を日本の代表産業に復活させたいので、全力で支援します。ただ明らかな怠慢があった場合は、法律で定められた最低年収の半分以下とします。生きていく上では問題にならないでしょう。怠慢があるかどうかは開発コンソールの状況をチェックしているので、それで完全に把握しています」

 示された条件がイカサマであり、ともかく真剣に仕事をしていれば、絶対フォローするという内容であったので、全員、これ以上の質問は無かった。

 弟子、

 「毎週、リンクシステムを使って悩み事を共有しましょう。必ず疲れると思いますので、それで悩み事を解決してモチベーションを維持していきましょう。最後にこの条件で承諾できるのであれば、政府の公式文書へのサインをお願いします。開発コンソールやリンクシステムに関するすべてにおいて、守秘義務(しゅひぎむ)があります。話そうとしたら話せないという誓約書です。何回も話そうとすると開発コンソールの撤去と記憶の消去を行います。十分に内容を精査してからサインして下さい」

 全員リンクシステムを使ってどういう内容なのか確認して、完全にアメリカを出し抜く為に必要だと理解するとサインした。

 「それでは会議を終わります。明日、開発コンソールを置く場所などをインフィニティと相談して下さい。『リンク、重要機密、インフィニティ』と思い浮かべれば、インフィニティと接続できます。ありがとうございます」

 弟子は会議場を出て行った。弟子のリーダー達はどういう反応を示すかモニターの役目を受けていた。問題点が生じれば明日には解決しておかなければならない。

 ゲーム会社A、

 「あなたは個人の開発者ですか、我々の会社に入社して戴きたい」

 オペレーター、

 「私は日本政府の仕事をしているから、できない」

 「どういうことか、わかりました。ありがとうございます」

 弟子のリーダー、

 「この中で、個人開発者の方は手をあげて下さい。一人よりも大勢の方がゲームの開発は楽です。自宅勤務の条件を飲みますのでよろしくお願い致(いた)します」と叫んで帰る。

 叫んだ人物は帰ってしまった。それが政府関係者であることはすぐに分かった。ゲーム会社の社員は次々に個人開発者と接触する。個人開発者は自宅勤務がどれほど苦痛か訴えて、正社員として採用するように交渉した。そうして手をあげていた個人開発者はいなくなった。

 もちろん個人開発者がいなくなった訳ではない。いまの話を正確に聞いているのであれば、二回は必ず収入が得られるゲームにするという条件だ。自由に自分の理想とするゲームを作りたいというベンチャー精神に燃えていた。それも二つのゲームが製品寿命十万年を約束するのなら、廃業の危機は免れる。新たな会社を起業したほうが楽しそうだ。「リンク、重要機密、インフィニティ。個人が起業して新規採用した場合、誓約書にサインすれば条件は同じか」「はい、問題ありません。ただ現在から四年の期間に限定されます」「ありがとう」

 《弟子の特別宿舎》

 思っていた以上にキツイ内容だった。製品寿命十万年、理想だけど自分からは言えなかった。博士が言ってくれたから、持論を話すことができた。今後について聞いておこう。

 「博士、いまいいですか」

 世界最強の被害者、

 「すべて順調だ。明日から大変だぞ。リンクで相談事のラッシュだからな。リメイクは先取り方式にした方が良いだろう。それから週末は、日本最大のクラブで遊ぶように招待してみろ。普通に踊るには全然問題ないのなら、彼らの中でクラブで遊んだことのある人間は一人もいない。どういう娯楽がライバルになっているのか体験させてみなさい。あと全員のダンスファッションの面倒も見てやれよ。たぶん、いつもの感覚だと必ず浮いてしまう。ダンシングプラス、ダンシング、ダンシングのフルコースを体験させて、確か未成年は数人だったはずだ。お酒なしのダンシングプラスを用意しておくこと。最初の一ヶ月はゲームの企画になるだろうが、最初の相談リンクで開発コンソールに入力して、考えてるゲームがどういうゲームになるのか把握しておいた方が良い。一年はあっという間に来るからな。あとゲームの内容が重複しないように調整しなさい。伝説のテニスゲームを作るチームが現れたら、自分の権限を使って同行しなさい。忙しいけど頑張れ」

 「ダンスファッションは私の権限で着せ替える。お酒なしのダンシングプラスはできない。ダンシングで十分だと思う。それから私はゲームを作る必要はある」

 「無い。ただ伝説の生徒会長がゲームを監修という宣伝を必ず行うから覚悟しておくこと。それはアメリカのゲームの祭典が行われる直前で発表された方がいいだろう。どっちみち、それぞれ二本はエクスカリバーを使うから、問題は三作目が厳しいだろうな。確かリーダーが天国のゲーム好きに対してアンケートを取っていたはずだ。二年目はそのアンケートをリーダーに聞いて、公開共有すること。あとは休めるときにしっかり休むだけ」

 「そんなに忙しくなるの。インフィニティ、今の内容を予定して下さい」

 インフィニティ、

 「分かりました。予想では怒濤の質問の嵐ですから、しっかり休んで下さい」

 《弟子の研究所》 弟子が現れて、すぐ自分の席に座り、リンク開始。

 すぐに質問のラッシュだった。みんな真剣だった。四年後の雇用は保証されてない。どの会社の誰が質問が多いのか統計を取っていく。究極の娯楽の質問が多いけど、あえて誠実に答えていく。質問内容は保持するが、会社の問題があれば監修者として解決しておかないといけない。

 「リーダー、この会社の実態を把握して下さい。おかしな質問が多すぎる」

 「いきなり怠慢をやっている。あなたがすぐ行き、怠慢の認定をしなさい。証拠はこれよ。いってらっしゃい」

 「行ってきます」

 《とある開発会社、開発室》 そこへ弟子がテレポートしてくる。

 弟子は証拠をかき集める。思考干渉しながら、すべて集めたあとに、プロジェクトの管理者に問う。

 「あなた、日本政府をなめてるの」

 「なぜあなたがここにいるのです。我が社のセキュリティを突破なら通報ー」

 「怠慢と認定しました。開発コンソールをすべて撤去します」

 二十台あったコンソールが一瞬で消えた。

 「訴えてやる」

 「分かりました。そういう態度にでるのなら、インフィニティ、牢屋へ」

 「あらゆる情報端末が反応しない。ドアも開かない」

 「無駄です。日本政府を敵にしたら、どの会社であれ、こうなります」

 社員、

 「究極の娯楽の定義、それこそ怠慢と見なされると言ったのに」

 「もう廃業ですか」

 弟子、

 「そうよ。訴えるのは構わない。どうぞ。あの誓約書はそれが書いてあった」

 誰も答えられない。

 弟子、

 「怠慢認定後、いかなる訴えを起こした時点で国家反逆罪とみなすだったかな。私の師匠、S級パス保持者に対して頼めば自由に書き換えられる。どうぞ、訴えて」

 プロジェクトの管理者、

 「証拠はない」

 「証拠はある。リンクシステムの統計データ、政府秘密機関の資料、そして潜入捜査の証拠映像、見たければ、どうぞ。スクリーン表示開始」

 そこに言い逃れができない証拠がすべて表示されていた。全員は彼女がどういう政府機関で働いているのかやっと理解できた。

 弟子、

 「世界最強の被害者が言ったように究極の娯楽を定義することはすなわち怠慢へと一気に進む。早い段階で調査して良かった。究極の娯楽の定義を削除。怠慢認定を解除」

 開発コンソールが元に戻った。

 「インフィニティです。個人開発者に怠慢が認定できたので、移動します」

 弟子はテレポートした。

 全員、驚いている。時計が止まっているが、しばらくして動き始めた。一人の社員は言う。

 「怠慢と思われるから止めろと言っただろ、プロジェクトの責任者は俺がやる。賛同できる人は手を挙げてくれ。一人除いて全員か、まだ怠慢しようとする奴がいるな」

 プロジェクトの管理者も手をあげた。

 「交代。もし俺がなにか怠慢しそうになったら、すぐに助言して欲しい。この政府の取り組みは想定している以上に大変だ。まず定義は可能な限り定義しない。だいたい、年収が四年間、全員同じなんだから。役職にしがみつく理由は無い。俺よりもプロジェクトの管理者に向いている人材はそのうち生まれてくる。それまで代行するだけだ」

 《とある個人開発者宅》 弟子はゴミ屋敷の前で立ち尽くしていた。

 情報によると、こうなったのは百年以上前で、意図的にゴミ屋敷にした人間がいた。天国にいる元住民は撤去したいとのメッセージを受け取っている。呼び鈴を鳴らしても出てこない。

 「インフィニティ、この住宅にしか聞こえないようにフィールド展開、最大音量でまもなく怠慢と認定すると脅しなさい。怖い脅し方の方が良いならそうしなさい」

 ゴミ屋敷全体が振動している。鼓膜破れたら、まぁ治療すればいいか。四階から、まるでゲームをしているような感覚で、下りてくる人物がいた。慣れた手つきで崖を登っているような感覚だ。そうして降りてきた。

 開発者、

 「安かったから入居したけど、こんなに酷いと思わなかった。片付けようにも片付けられないんだ。中に入ってみますか、その壮絶な感じをゲームにしたいだけなんですが」

 弟子はどうしようか悩んでしまう。そしてー

 「ゴミ屋敷をあとで把握できるようにデータにした上で、この作成者の意向で元の素晴らしい建築物に戻します。ここにサインを下さい」

 「分かった、もうここに住んで十年になるが、悲惨すぎる。サインする」

 超豪華な四階建て住宅が現れた。そうして弟子と開発者は中に入っていく。中は素晴らしい芸術作品が飾られていた。開発者の四階に行く。そこは汚かった。

 「これで良いです。完璧です」

 「いいえ、良くありません。綺麗にしてもらいましょう。あなたのご両親はいませんが、片付けを手伝ってくれるそうです。いいですか」

 「ここを綺麗にしても、また散らかるだけです」

 「分かりました、四年間、汚かったらご両親が見本を見せてくれるそうです。その前に綺麗にするようにして下さい。そうしなければ、怠慢認定の解除はできません」

 「怠慢認定、ああ、開発コンソールが無い」

 彼の両親が現れる。

 「もう、その歳になって部屋の掃除ができないなんて、私達の教育が悪かった。見本を見せるから、見ていなさい。これはあなたが必要としている物だから、ここに置くよ」

 開発者はその光景をみて、懐かしさのあまりに涙が止まらなかった。開発者は冷静さを取り戻すと、片付けを一緒にやり始めた。弟子は部屋をもっと快適にするリフォームを考えていた。彼が必要な物はこれだけか。それなら、これはどうだろう。伝説の開発者の部屋としてふさわしい部屋を提供しよう。作成者は芸術家だったのね、このデザインに変えて欲しいか。確かに良い。分からないように、インフィニティ、模様替え開始。

 彼の母、

 「こんなに素敵な家に住んでいたなんて、驚いた。そして、この部屋も」

 開発者はやっと気付く、部屋の内装が変わっていることに。そして見とれた瞬間に残りのゴミは消えて、すべて収納された。目の前が一瞬光る。場所を暗記させた。開発コンソールも置いてあった。コンソールにはゴミ屋敷のデータが入力されて、表示されていた。開発者は他の部屋の様子を探検に行った。ゴミを取り除くと、こんな宝がいっぱいだった、これこそ驚きの瞬間だった。こういうゲームは面白いと思った。タイトルは「ゴミ屋敷」で確定だ。究極のゴミ屋敷を再現されていた家だった。でもベースが、こんな豪華な家だったとは知らなかった。「静かに立ち去った方が良いでしょう。テレポートします」

 弟子は消えた。

 《弟子の研究所》 弟子は戻ると自分の席に戻り、栄養剤を使って仕事を再開する。

 さっきの個人開発者からメッセージだ。

 「本当にありがとうございました。気合いを入れて、本物の娯楽を実現してみせます」

 インフィニティから、先程の怠慢を言い渡した会社から、究極の娯楽について質問がたくさんあったと。でも怠慢は認められないと。あの会社が一番、すごいゲームを作りそうだな。また怠慢警報か、全開発者に伝えて、これで怠慢をした開発者と会社は三件目、インフィニティはやらない方が良いという判断か。

 「リーダー、三件目の怠慢内容を教えて下さい」

 「ええと、やりそうだから行くのね。証拠はこれよ」

 弟子はテレポートした。

 《とあるゲーム開発会社》 弟子は開発現場にテレポートした。

 皆、驚いている。どうやってセキュリティを突破してきたのか不思議そうだ。

 弟子、

 「このままだと怠慢認定になるから、警告に来た。証拠はこれ、今日で三件目よ」

 スクリーンに証拠が表示された。プロジェクト責任者が驚いた。

 「これが怠慢認定になるのはどうしてでしょうか」

 「究極の娯楽を目指すように言いました。これだけ細かい設定を作ると、自ら、自分の首を絞めるという結果を歴史が証明しています。監修者として不要な設定をを列挙します。こういった制限を作らないで下さい。そうすると製品寿命十万年は大変難しいでしょう」

 「ああ、なるほど、こういう設定が首を絞めるのですね。どうしたらいいですか」

 「次回のリンクシステム会合で提案予定ですが、企画の段階で開発コンソールに入力して、どんなゲームになってしまうのか確認して下さい。インフィニティ、それぞれのプレイ動画を比較映像で把握できるように表示しなさい」

 そこには雲泥のクオリティの差が生まれていた。非常に説得力がある。

 「私は忙しいので、これで帰ります」

 弟子はテレポートしていった。全員、その様子をみて政府保有の技術がどれほど進んでいるのか理解した。すべて進捗状況を監視されていると感じた。

 《弟子の研究所》 弟子は戻ると仕事を続けた。

 もう怠慢は起きて欲しくないが、なるほどゲーム会社同士で怠慢と認定される条件を共有するようになった。それとすべての開発が筒抜けで監視されていることに言及していた。

 「インフィニティ、週末は全員、国内最大のクラブへダンスの娯楽を体験させます。政府専用車両で送迎するから、そのように招待するメッセージを各個人宛に送りなさい。それぞれ平均以上のダンスファッションになるように一時レンタルのような形式で」

 「分かりました。リーダー許可を。では実施に移します。ダンシングの基礎知識についても知らせておきます。二日酔いになると危険なので。このタイミングが適切です」

 それでも質問は絶えない。どれだけ頼りにされているのか実感があった。方針転換、全員に通達、企画段階で開発コンソールで入力して、インフィニティにプレイ動画で比較映像を表示できるように開発コンソールに機能を追加。

 「分かりました。その方が良いでしょう。もっと良い理由をつけて説得します」

 質問が激減した。それでも減ったけど忙しいのには変わらない。難しい質問が増えたからだ。私の娯楽センスでどこが悪いのか列挙した方がいいのかな。それはやらない方がいいか。

 インフィニティ、

 「緊急で全員のリンクシステム相談を行った方が良いでしょう。このままだと、また怠慢が発生します。エクスカリバーを使い、悩みを解決します」

 「分かった。監修者として許可します」

 私は状況経過を把握するだけ、エクスカリバーはもうイカサマだ。なるほど、このままだと日本市場にのみに限定される危険があったのか。全員、プレッシャーから解放されたようだ。どういうゲームを作れば良いのか、全体の方向性が決まった。世界で通用する究極の娯楽を目指したゲームデザイン、途方も無い内容で一致した。それでも質問は絶えない。まともな質問が多くなった。全員にメッセージ、実現不可能と思われてもインフィニティの相談を活用すること、四年でノウハウの蓄積を完璧にすること。もし怠ると、これだけの有料相談料が請求されます。アイデアの出し惜しみはしないで全員共有すること。私の目指すゲーム産業は世界最高です。

 インフィニティには難しそうな質問が増えてきた。それは週末になれば理解できますと回答したり、ダンシングを飲めば分かりますとか。ああ、クラブに予約枠を取っておかなきゃ。

 「既に予約枠を取得していますが、あなたが行くことは隠しています」

 それはそうだろう。私が行くと知られたら、満員になり、踊って体験なんて難しい。

 「それは問題ありません。収容人数の最大は十万人です。余裕ですよ」

 そんなに大きいクラブだったか、あのあと改装したのか。質問が相変わらず多い。博士がリンクシステムを使わないと無理という判断は適切だった。迷いそうになったら、インフィニティがエクスカリバーを使って支援するから、ますます質問が増える。現状でインフィニティが九割を答えている。残りの一割が私にまわってくる。言うのは簡単だ。世界最高のゲーム産業にするというテーマがいかに開発者にとって重いのか思い知った。製品寿命十万年が足かせなんだろう。でもそれを乗り越えないと世界最高の品質にするのは難しい。天国の様子はどうだろうか。私の仕事を歓迎しているようだ。

 《週末のクラブ》 弟子は変装して、入り口で政府専用車両が到着するのを待つ。

 予定通りに到着した。声をかけると驚く人ばかり。周囲は政府専用車両のラッシュから、なにが起きているのか不思議そうだ。これで全員か。中に入って、オーナーと打ち合わせを開始する。変装を外すと、オーナーは大変に驚いた。でも内緒にするように言った。この腕章を持った人にはドリンクと食事をフリーパスにするように持ちかけた。そのかわりメインステージで私が踊るという条件を示した。承諾。インフィニティ、全員に腕章をつけて、フリーパスにした事を伝えなさい。さて、客は少ないけど私は私の仕事をするか。メインステージに一人立つと、DJはかなり驚いた。選曲がすぐに変わる。セレクター(音楽を選ぶDJのメンバー)は必死そうだ。さて、アレが嘘だったことを暴露してしまおうか。みんなに踊るようにジェスチャーを送る、簡単な踊りから始めよう。一時間経過してダンシングプラスを飲むように言った。全員飲んだことを確認して、DJにレベルを上げるぞと脅した。そうして究極と言われるダンスに変わった。全員なんとか、なぜか踊れるが負荷に気をつけながら、楽しめるように配慮した。そうしているうちに一気に客が増えてきた。よく知ってるダンサーがステージに上がる。

 「生徒会長、久しぶりだな。オーナーから話は聞いた。簡単な踊りから始める」

 そうして、さらに一時間後、ダンシングを飲むように指示した。私は究極と言われるダンスを披露し始める。クラブに来ているお客さんは大興奮だ。ダンサーがダンスバトルを申し込んできた。どこまで上達させたのか気になる。私には負けるけれど、それでも日本の上位に食い込める実力になっていた。すかさず、みんなの前で、何が悪いのかレクチャーする。踊ってばかりだと私が疲れる。ダンシングを注文した。それを一気に飲む。疲れが取れた。ダンサーに踊らせる、私は鏡のようにそのさらに上のレベルを見せ続けた。「インフィニティです、全員と食事した方がいいでしょう。一度、切り上げて下さい」腕章を持つ人にはVIPの最上級ルームに来るように言った。

 全員がそこに並んだクラブの料理に驚いた。弟子も例外ではない。国賓級の料理より美(お)味(い)しいってどういうこと。全員、この娯楽がすごいのか理解したようだ。弟子のダンスの腕もよく分かっていた。弟子は腕章を付けてると声を絶対にかけられるから、職業を打ち明けて、どんなゲームがあれば良いかヒアリングするように助言した。そして週末は希望者に同じ待遇とは言わないけど送迎だけは同じ待遇なら、参加しても良いと伝えた。開発コンソールから希望を出すように。それから視力が弱い人は、仕事の疲れがシビアになるから政府の医療相談所を帰りに寄るように言った。一瞬で終わると明言した。それからリンクシステムを起動して、食事を食べる。どこまで慣れたかチェックするためだ。全員、慣れているようだ。一人でも使うことに慣れた個人開発者がいて嬉しい。

 食事が終わると、伝説のダンスの映像をあらためて見せた。そこにインフィニティが分析した究極の娯楽の境地についての説明が入る。そしてダンシング二本目とお酒は飲まないように指示した。説明した内容を忘れる危険性を示した。そうして全員ダンスホールに戻る。すごい人の数だ。弟子は究極のダンスファッションに切り替えて、ステージに上がる。歓声が異常だ。五人ほどダンサーがいたが中央はなかなか譲ろうとしない。二位になったダンサーもいた。ダンスバトルを次々に撃破する。世界最高のダンサー直伝のダンスバトルテクニックが役に立った。ゲーム開発者らは彼女がどれほど凄くて、発言が容赦なく厳しい助言だったのか理解できた。そして中央を実力でもぎ取ると、華麗な踊りを披露し始めた。世界最高のダンサーと言えば、もう彼女しかいない。もう他のダンサーの存在感が薄れてしまうほど、実力に差があった。これであの踊りが踊れないことが、誰も信じられないと思っていた。でも、それが流された瞬間。ステージを去った。ブーイングの嵐だ。仕方なく戻って、DJは他の難しい曲を選んできたので、それを踊った。二人のダンサーはお手上げという仕草を見せた。仕方なく、インフィニティ支援しなさいと念じた。そうして二人のダンサーは踊り始めた。それから、リズムが合わなくなってきた。大変疲れたというジェスチャーをした。惜しみない拍手が送られる。DJのブースに行って、本選の曲を流すように言った。イカサマするから大丈夫と。そうして伝説のダンスを五人のダンサーがシンクロして踊り始めた。ダンサーらはどういう感覚で踊ればいいのか理解した。その後、変装して、弟子はクラブをあとにした。真剣に疲れていたからだ。普通のタクシーに乗って、初乗り運賃を払うと、その瞬間に消えた。

 《弟子の研究所》 翌日も朝から質問の嵐が待っていた。

 インフィニティから、究極の娯楽がどういうものか全員理解させたと報告があったのだが、昨日以上に忙しい状態になっていた。仕方なくオペレーターも数人、対応して、インフィニティの支援を受けながら対応していた。主に開発コンソールの限界がほとんどだったが、限界はないと話すと、質問はより集中した。弟子はインフィニティに最高スペックをフルに使った場合のデモ映像を作るように指示して、それを配信するように言った。

 《とあるゲーム開発会社》 デモ映像が配信されていた。

 「こんな表現まで可能なのか。ちょっともう、想像以上のスペックで驚いた」

 「限界はないと言ってたとおり、ゲームデザインだけに専念すればいいようだ」

 「スペックが市販パソコンの一億倍の速さってどういうことだよ」

 「昨日のダンスに驚いたけど、スクリーンの本来の実力がこれならば、先祖は大変悔しかったのだろう。無理な相談でも相談するだけでも相談しろというのはこういう事か」

 「現状でゲームの製品寿命は五千年だ。未来の嗜好変化について相談してみるか。ええー、分かるの、日本の政府がどれだけ秘密の技術を持っているか少し把握できてきた」

 「イカサマのラッシュで日本最強とする意志が伝わってくる。でも四年間で可能な限り、それのノウハウを蓄積しないといけない。彼女には悪いけれど質問は続けよう。企画段階は最もシビアでなければならない。対象年齢は二十代から五十代まで対象にするのと、世界市場を見据えて作るように指示されている。ああ、義務教育で習ったことはすべてゲームに応用可能だ」

 《豪華な家になった個人開発者》 既に製品寿命十万年を達成していた。

 ここからどうすればいいんだ。え、もう一本作りなさいか。作ったものはインフィニティが最適化したから、確認して下さい。これで十分です。完成したことを共有して良いか、内容は伏せて完成は公表して良い。デモ映像をみて、ここまで表現が可能であれば、無理だった表現がすべて可能だ。しかし、外が騒がしいな。放送局まで来ている。四階は非公開にして、中の様子を見せてやるか。個人開発者はどれだけ有名になれるかが勝負の分かれ道だ。ここで自分のブランド名を公表して有名になるのも悪くない。でもセキュリティが、「リンク、重要機密、インフィニティ。ここのセキュリティを最大にするのにどれぐらいかかるか」四年間は無償で、以降はこの金額なら問題ない。セキュリティ最大。

 《とあるゲーム開発会社》

 「うちから独立した彼がもう製品寿命十万年を達成したぞ」

 「いまニュースになっている。こんな豪華な家に住んでたとは聞いてない」

 「彼に相談役になってもらおう。この企画は難航している」

 「あの俺だけど、手伝って欲しいんだけど、自宅勤務のままでいい」

 天才開発者、

 「ああ、いいよ。二本目を作り始めてるから、時々助言する程度ならいい」

 「良かった、この企画はどこが悪いのか教えて欲しい」

 《弟子の研究所》 弟子がゲームの検証を行っている。

 もう作ったの、あれほど完璧なコンセプトならば、あとは拡張していくだけだ。質問が激減したから、遊んでみるか。義務教育中に、両親が他界。開発者の状況を重ね合わせているのか。それで引っ越し、値段が安くなるほど、難易度が高い。全額使うと生活できません。現実的だ。難易度が一番低くて手頃な物件を選ぶ。部屋は綺麗だけど外見はまだシークレットか。あれこれプレイすると恋人ができた。

 「あなたの家に行ってみたい」

 「散らかってるけど、一緒に掃除してくれるならいいよ」

 「うん、構わない」

 この行く様子は丁寧に描くのね。そして歩いて行くと壮絶なゴミ屋敷が登場。

 「ここだよ。安い物件だったから妥協したんだ。まず、お茶を入れるよ」

 恋人は無言だ。自分の家に何とかして入りましょう。時間制限付き。ここは、こう乗り移って、ああ、落ちた。時間を戻すというボタンがでてきた。最初からか、ゴミ屋敷に住むのがこれほど大変だったとは。普通にゴミに直進したら良いのかもしれない。すんなり入れた、立体映像か。

 「この立体映像の装置がどこかにあるはずなんだけど、分からないんだよ」

 中はとても綺麗だ。恋人は言う。

 「ここに来る度に少しずつ片付けましょう」

 片付けゲームスタート、制限時間と制限日数がスタートした。三ヶ月が現実的な数字だ。ただ拾って分別していくだけ。恋人と競争で、負けたら失恋します。迷ったら、すぐ相談。インフィニティ、代わりにプレイして、状況を見るから。三時間で半分ぐらい綺麗になった。それでクリアすると、物件を売却することになり、金儲けできるのか。またゴミ屋敷をなぜか買う羽目になって、人生ゲームがスタートしていくという内容か。

 インフィニティ、

 「当然ながら恋人の掃除レベルも上がりますので、プレイヤーのスキルで負けると結婚したあと、相思相愛でなく、言いなりの人生が待っています。その為のイカサマグッズを買うことで、ネタバレになりますが彼女も密かに買ってますから、そうやって最高難度をクリアするとハッピーエンドです。その頃には遊んで暮らせるほどの貯金がありますので、様々な遊び方ができます。コンセプトがシンプルで、恋人と一緒に掃除という内容が良いので、製品寿命十万年でも通用すると判断できました。このゲームによって整理整頓が上手になるのは当然です。様々なテクニックを自然に覚えられます」

 なるほど、設計概念は把握した。これだけで作り上げる天才かもしれない。監修者のサインを付加する。全員に通達、先程の一本、文句なしで合格。まだ二週目で完成するとは。彼は独身か。それで自由な発想で恋人のシチュエーションが描けたんだな。結婚していたら、現実を見てしまい、理想は描けない。開発者がダイジェストをみんなと共有希望、インフィニティ、チェックして。「問題ありません。許可を」許可。

 しばらく休憩。弟子のリーダーがお菓子と飲み物を持ってきた。

 「遊んでみたけど、かなり良かった。これ、ご褒美よ。業界のリーダーは大変とは思うけど頑張って下さい」

 「彼の家に行ったら、壮絶なゴミ屋敷だったのよ。それを自分から住むことがすごい」

 「私も見た。あれがあんな風に化けた。購入価格と売却価格の差だけで惑星旅行に十回以上行ける。著名な芸術家がデザインした家だったことが分かって、評価価格は凄い状態よ、まだ高騰が続いている。もうメディアにゲームの紹介を始めてるし、個人開発者は好機と思ったらとことんやるみたいね、ダイジェスト映像がニュースに流れている」

 「仕事が本当に速い。インフィニティ、ゲームの展示会の準備ってもう済んでる」

 「はい、終わっています。政府公認の分からない団体名を使って、支払いは完了しています。未来の状況を見て、時期の変更はありませんので大丈夫でしょう。もう今日は疲れているので、休んで下さい。明日は未来の状況を見ると大変です」

 「リーダー、早退します」

 「お疲れさま」

 《研究所》 伝説の科学者が弟子の監修したゲームを遊んでいる。

 二週目で完成か。恐ろしいな。それにしても、ゴミ屋敷はどの時代でも話題になるから、それをゲームに持っていくセンスがすごい。もっと凄いのは完璧な芸術作品の家を作りあげておいて、うまくゴミ屋敷に偽装して販売していたことだ。

 「リーダー、この家の設計者に後付けの褒賞をあげたらどうだ」

 「ええ、いまそれを考えていた。インフィニティ、後付けだけど褒賞をあげて」

 「分かりました。最終的な評価額を参考に褒賞を贈呈しました」

 「最終的な評価額はどれぐらいなの」

 「惑星旅行に五百回以上行ける金額です。個人開発者が住み家だったこともあり、著名な有名人が住み続けて、最終的に落ち着いた金額です」

 「暇でしょう、同じコンソールを作って、ゲームを作ってもいいよ」

 「そう、簡単に言うな」

 インフィニティ、

 「個人開発者が参加したことにしますから、お試しで参加して良いですよ。実際にゲーム開発したいという学生が少しずつ増えてきてます。学生ということにしておきます」

 「弟子に絶対にばらすなよ」

 開発コンソールの改良から、完璧に完成している。作り方は概念を入力していくだけか。ゲームデザインだけに専念できる訳か。それなら、あいつの時代でもゲームデザインに特化したデザインツールを作って、プログラマが頑張ってそれを再現する分業を行ったらもっと効率よくゲームができるんじゃないか。ああ、そうだ倒産したストレージ会社のゲームでも作ってやるか。

 「リーダー、俺がストレージ会社に勤めていたことは弟子は知らないな」

 「絶対知らない。そういうゲームを作るのは良いけれど、あの時代は娯楽の定義が違うからそれに注意して、あなたが作った事が分かるから」

 「定義が違う、えーと、なるほど競争社会に勝つような要素を入れたらいいのか」

 犯罪組織の顧客も少し混ぜて、もし日本語マニュアル通りに対処したら、失職して別のゲームに変わると。未来の時代、派遣労働者はあったけど、土下座というのは無いな。だったらゲーム要素として追加。ゲームの設計指針は、製品寿命十万年、市場は全世界、ターゲット二十代から五十代、世界最高を目指す、究極の娯楽を目指す。要求水準が高いな。あいつの時代の犯罪組織の対応マニュアル参照、これは使える。護衛を二人付けないと半殺しに遭うから注意か、本当にシビアだな。競争社会に勝つ要素をどう入れるかが迷う。

 インフィニティ、

 「そういう時は相談して下さい。私が考えます。みんな利用しています」

 そうか、イカサマして作っているから、相談と。なるほど、よく分かった。ああ、弟子の時代にストレージは存在するのか、ああ良かった。あったけど、基本は絶対に壊れないのか。タイマーが付いてて壊れる。それでも儲けている会社で最終的に社長になったら、それを改善してゲームクリア。製品寿命は五年。なにがダメなの。問題点列挙、リンクシステムを使って下さい、と一番目。ああ、リンクシステム使って良いのか。リンクシステム起動、コンソール接続、オーバードライブ起動。質問は適度に出しておかないと怪しまれる。設定が多すぎるのか、これらは除外。今度は難しすぎるか。俺の知能指数のリミッターを付けないとダメだな。確かに人間ではクリアできそうにない。世界観については、リミット解除、これで良し。リミット。世界観の検証、究極な感じがでている。これで製品寿命は一万年、難しい。あと十倍か。製品寿命十万年で問題点列挙エクスカリバー。ゲームデザインを根本的にやり直せ。ゲームデザインの講義を受けるかどうか。受ける。

 なるほどストレージ会社と限定したから、良くなかったのか。タイトルは「リペアマン」で作ってみよう。色んな業種が選べる。それぞれで修理のノウハウが学べる、科学者がいかにも作ったソフトだな。スタッフロールはオールby自称科学者で行こう。弟子しか分からないようにしておけば良い。そうなると様々なノウハウを詰め込む必要がある。あの時代はすべて自動化されていて、修理業者はいないから、斬新だ。

 「インフィニティ、あらゆる修理ノウハウが未来で役立つと判断できるものをすべて列挙して教えて欲しい」

 「膨大な数になりますが、それだけあれば製品寿命一億年以上は可能です」

 「本当か、それなら、それでいこう」

 タイトルは「伝説のリペアマン」に修正。思った以上に大変だな。オーバードライブを使ってこれほど疲れるのか。時間をかけて作り込んでいけば良い。

 リーダー、

 「面白そうなものを作っているのね。どうせ暇だから、時間はいくらかけてもいい」

 「弟子ぐらいしか分からないだろうな。ゲーム開発者は」

 インフィニティ、

 「完全に偽装しますので、絶対分からないようにします」

 コンセプトは完全に決まった。義務教育で十五歳になるまでゲーム禁止だから、それでいて知性は大学卒業レベルにあるから、教育ソフトでも通用する。究極の娯楽を目指しつつ、究極の社会貢献を目指したゲーム、いかにも俺の目指すイメージにぴったりだ。途中経過をインフィニティ、プレイしてみてくれ。どんな感じになっているのか把握したい。良い感じだ。これでいいが、限界と完璧とは思わない。時間の許せる限り、いやそれだと俺が地獄だ。ああそうだ、彼女が暇そうなら、開発に参加してもらおうか。

 「リーダー、歴史検証室長がもし暇だったら、俺の開発に参加するように、俺からの誘いで共同開発にできないか。自分の発想だけでは限界があるから」

 「暇だから、許可します。あなたから頼みなさい」

 よし共同開発スタート。なるほど、こういう発想は思いつかなかった。ああ、要求水準を伝えておかないと、俺らが目指す製品寿命は一億年以上。背景はこれ、提供する時代はこの年。かなり修正が入った。分業しようか、リペアマンの出世コースは彼女が作って、リペアマンの実態は俺の担当か。あとの微調整はインフィニティがやれば良し。それでいい。

 《弟子の研究所》 一ヶ月が経過した。

 インフィニティ、

 「新規の個人開発者の参入がありました」

 弟子、

 「どういう内容、伝説のリペアマン、ああ師匠の参入か。承諾。こんなのこの時代に作れる訳が無い。製品寿命は一億年以上。疑いの余地はない。インフィニティ、知らない事にしておいて。騙すのは簡単でしょう」

 「絶対分かるのに絶対分からないようにするという矛盾に気付いていません。でも、このゲームの目指すものは壮大です。他の良い見本になるでしょう。うまく記録を作っておきます。検証されても問題が生じないようにしておきます」

 質問の嵐にもかなり慣れてきた。インフィニティも、代行しているオペレーターも、慣れてきた。新しく作ったルールに基づいて、開発内容の共有。みんな、かなり驚いている。インフィニティが開発者について嘘の情報をうまく答えている。今のところ、師匠のコンセプトがトップだけど、どうなるか。師匠に毎週、相談リンクシステムに参加するように連絡、義務になっているから。今日は恒例のクラブの日か。かなり身体が動くようになってきた。良いリフレッシュになっている。今回はどこにしようか、日本どこでも良いから、首都でなく、たまには二番目に大きい都市にしよう。大きなクラブはここか。系列店だけどいいか、契約ダンサーは知り合いばかり、まぁいいか。今日はここにします。さて師匠は来るだろうか。参加とあるけど、インフィニティが代行。予約数は七割が参加と、では私の名前で予約、ただし内密にしておくこと。まったく遊んでない人はいない。ルールを守ってるならOK。

 《とある大規模クラブ》 弟子がいつも通り、入り口で皆を待っている。

 「こんばんは、今日もよろしくお願いします」

 誰が来ているのかインフィニティからフィードバックがあるから、名前で完璧に挨拶していく。製品寿命は一億年以上の個人開発者が来た。

 「こんばんは、ダンスバトルでもし勝ったら私に司会を譲りなさい」

 「こんばんは、勝てるものなら、受けて立ちますよ」

 インフィニティの冗談だろう。師匠のフルゴーストだけど女性だ。私の勘違いなのかな、いま司会を負けたら譲ると言ってしまった。全員が予定時間までに来ると、弟子はいつものように入ると馴染みのオーナーがいて、いつもと同じで良いかと問われた。それで承諾した。さっきの女性が所属ダンサーを相手にダンスバトルを挑んでいる。私より上手いの、あり得ない。完璧に潰されていく。残りの一人も必死だけど、時間の問題だ。ダンスバトルで勝ったらと言ってたから、これで勝ったことにされたら、たまらない。最高のダンスファッションでステージに上がる。知り合いばかりだから、すぐに道をあけてくれた。彼女と向き合った。彼女は余裕の表情で、私のダンスを待ち構えている。躊躇(ちゅうちょ)した一瞬の隙(すき)にマイクを取り、こう言い放った。

 「製品寿命が一億年以上のゲームは私が作っている。勝ったら私が司会をする」

 弟子に相当なプレッシャーがかかる。簡単なダンスから身体を動かしていく。彼女は余裕の表情で、軽く流しているだけだ。「インフィニティ、誰なの」「個人開発者です」師匠ではないのなら、私の勘違いだったのか。でも私よりも年上には感じない。三十分が過ぎた所で、ダンスのレベルを急激に上げる。それでも余裕の表情で、動揺が完全にない。もう一気に勝負を決めてみるか。マイクに向かって曲名を数曲指示した途端、もっと難しい曲を彼女が数曲指定した。そんなの踊ったら、イカサマが分かってしまうかもしれないけれど負ける訳にはいかない。「あとで記憶を操作します。勝って下さい」よし、もう本気でやるぞ。

 彼女のダンスは斬新でもう完璧だった。弟子は難しい曲に入った途端に真剣にやってるのに、完全にダンスの実力で負けていた。もう出し惜しみしない。マイクでダンスコンテストの曲を選ぶように指示した。彼女は余裕で勝てるというジェスチャーをした。リズムの無い究極のダンス音楽がスタートした。弟子は本選通りに踊ってみせたが、彼女はもっと芸術性と興奮度を高めたダンスで圧倒してきた。彼女は負け犬は去れというジェスチャーをわざとする。もうインフィニティやり過ぎよ。「私ではないです」ええ、誰なの。もういいや勝負事に負けたのなら司会は譲る。マイクに向かってー

 「今日はダンスバトルに負けたので、司会は彼女がやります。楽しみにして下さい」

 彼女は高難度のダンスをキープしたまま、踊り続ける。所属ダンサーはその踊りをじっと見つめていた。生徒会長は伝説の踊りを披露した。それ以上の実力者。生徒会長はドクターストップはかかっているけれど、踊れないことはないのだとダンサー達は思った。しかし、あの若い女性がこれほどの実力なら、なぜコンテストに出場しなかったのか謎だ。一人のダンサーが近寄って、職業を聞く。ゲーム開発屋ー、ダンサーではないのか。それから一時間後、弟子が食事にするからと店内の放送を使って関係者を呼ぶ。すると彼女は誘惑するような仕草をして、ステージから降りた。

 彼女は弟子に対して、

 「会社の幹部とあなただけ別室にして戦略会議をしながら食事をしたい。そして、その様子は別室の部下達に流すようにして下さい。極めて重要な話よ」

 弟子はスタッフに言ってそうしてもらった。会議の前にダンシングを飲む。なにか嫌な予感がして、たまらなかった。別室に会社の幹部と弟子と彼女だけで食事を始めた。

 司会者、

 「今日は私のわがままで司会を務めさせていただきます。現在開発中の伝説のリペアマンは私が開発しており、既に製品寿命は十億年以上を達成しています。私の本来の職業は政府秘密機関において戦略室長であり、先のダンスコンテストでは私の戦略によって、あのような結婚式が最終的に日本政府の後押しで実現できました。日本を世界最強にするという戦略において最も重要な作戦でした。皆様のゲームについては把握していますが、悪知恵という要素が抜けています。人間は歳を負うごとに努力していれば段々と悪知恵が働くようになるものです。開発中のゲームでも悪知恵を使わないと上手にクリアできないような要素を追加しています。競争社会において他人に勝つには知恵の勝負です。それを鍛えなければ競争社会においてプラスにはならず、フェアに学んだ結果しか生まれません。そこにゲーム性の進化はあるでしょうか。みなさんの意見はどうでしょうか」

 いきなり当然のごとく当たり前の話をしてきた司会者に対して、誰も反応できなかった。弟子はインフィニティを頼ったが「反論が楽しみだと師匠からです」と言われ、この人物が師匠の時代である確証を持った。誰も答えないのは問題だ。

 弟子、

 「それは正しい。確かに私は義務教育で世界一位を独占してきた。だから競争社会という考え方はそもそもなく、一位が当たり前のような世界だったから、いま先程ダンスバトルで完敗して、それが正論だと確かに判断できます。でもゲームにそれを持ち込んだら、仕事の延長上になってしまい、リフレッシュという機会にはならないと考えます」

 司会者、

 「現在の子育て技術は進化しており、明るくストレス耐性の強い性格に育つように配慮されています。それなのに逆行する形でのゲーム性の追求は、根本的な開発概念において誤った判断です。インフィニティに現代のストレス耐性を考慮して問題点を指摘するように指示して下さい。そうして私のソフトは大幅に製品寿命が延びました。そういった弱点を放置することは他国からの競争において負ける要因となります。知恵を使うと問題の解決が速くなる最初に開発されたゴミ屋敷のゲームはその要素を満たしていました。でも、他のゲームの内容について把握したところ、そうした要素がありません。なぜ、そうして対象年齢を義務教育時代に設定したのでしょうか。なぜですか」

 弟子は正直に答えた。

 「はい、私は監修者として未熟でした。ゲームは競争社会に勝てる人材に育つように設計しなければ、単なる一過性の娯楽に終わり、義務教育で鍛えた知性は低下します。その結果、日本のゲームは馬鹿が遊ぶものだと見なされたとき、それは致命傷になります」

 とある幹部、

 「一過性の娯楽は必要です。司会者の言い分はつまり義務教育のレベルを落としてまでゲームの難易度を下げるなという事でしょうか。もっと具体的にお願いします」

 司会者、

 「たとえばRPGを題材にした場合、善人ばかりでなく、大変多くの悪人を登場させなければ現実感がありません。それで勇者になり王になっても、管理された問題について対処するだけのゲームになります。勇者と呼ばれる前に、この人間は悪人だと言いふらしたとして、問題の解決を行おうとすれば、結局それは自分に跳ね返り、自分の評価を落とすようにゲームをデザインしないと現実感はありません。治安の良すぎるゲームはRPGを遊ぶたびに知性を確実に下げていくでしょう。勇者になってから、この人間は悪人だとします。その対処能力を試すのです。歴史を深く学んでいるならば、昔の悪人はリベンジの機会がまったくなく自殺を余儀なくされました。RPGにおいても殺されるだけの立場でした。しかし現在はどんな悪人も必ず救うように社会が成り立っています。ですから悪人が存在した場合には、どうにかして善人になるように問題を解決します。もっと高給の仕事を斡旋したり、いろいろありますね。悪人を殺す、処罰するのは最も愚かな行為です。彼らを救ってこそ勇者と言えるものです。日本政府は世界最強を目指す、そして世界の恒久平和を目指す、この二大政策が根底にあります」

 とある幹部、

 「なぜ殺したり、処罰する内容がいけないのでしょうか」

 司会者、

 「世界は天空の城の存在によって、あらゆる暴力が根本的に不可能な状態になっています。ですから、それをゲームで行って問題はありません。しかし平和を維持しようとする先祖の意志によって作られた天空の城は、平和を愛するゲームとしても育てなければなりません。もっと分かりやすく言えば、好感度が世界最高なのにゲームの内容によって落ちることは戦略室長として避けたい問題です。あなた方はリンクしてニュースを見たことがありますか。好感度が十位未満は嘘ですよ。現在、大差をつけて一位です」

 弟子、

 「インフィニティ、全員にリンク無しで日本の真実を語るニュースを見せて欲しい」

 全員がそれぞれ見える位置に、スクリーンで日本の真実の姿を紹介された。開発者達は非常に驚いている。最下部のテロップにリンクしたら見られるニュースです、と表示されていた。揺るぎない世界最強の日本が紹介されていた。それから司会者は他の問題にも触れて、ゲームデザインの再考を促した。理解できないと言われたら、理解できるまで分かりやすい例で説明を続けていた。弟子はその様子を観察するしかなかった。自分の急所を完璧に突かれて、反論できなかった。私と年齢差をほとんど感じないのに、この絶望的な敗北感は何だろうと思っていた。

 司会者、

 「私が申し上げたいことは以上です。この助言によって、来週からゲームの開発がやりやすくなるでしょう。製品寿命の定義とは何か、インフィニティに誰も聞いてない事を知ったので、それを分かりやすく説明したまで。特に難しい話はしていません。今日はこれで食事会を終わりにしましょう。私の仕事は激務ですので、これで失礼します」

 司会者は消えた。弟子はやっと何の話をされていたのか理解した。義務教育は世界統一で知性は高い、天空の城で暴力行為が無い、日本の好感度は世界最高、この三条件において製品寿命を考えていれば司会を強奪させられることは無かったのだ。

 弟子、

 「正直に言って、私の負けです。彼女の話は政府方針であるので、それを踏まえてゲームの開発を続けて下さい。伝説のリペアマンは政府の歴史データベースを参照する権限が無ければ作れないゲームです。個人開発者というのは建前なので、それは考慮して下さい。既にコンセプト段階での体験プレイをしましたが、あらゆる要素についてパーフェクトの完成度です。彼女の作品に負けないようなゲームを目指して下さい」

 とある幹部、

 「仕方ないよ。ゲーム開発のことはあまり詳しくないから。政府の戦略室長職があるのか。どういう方向性でゲーム産業を進化させたいのか、モヤモヤした感じが消えた。分からなくなったら製品寿命の定義について、聞くことにしよう」

 「よろしくお願いします」

 《弟子の特別宿舎》 久しぶりに疲れていた。

 師匠、

 「俺だ。どうだった。伝説のリーダーを超える頭脳と戦った感想は」

 「そうなの。絶望的な敗北感に襲われた」

 「そうだろうな。変だなと思ったら、今後は定義を確認することだ」

 「怠慢とみなされても仕方ない。彼女に勝てる人間はいるの、それが最大の疑問」

 「高い確率でいないだろう。悪知恵を使われたら絶対に勝てない」

 「早い段階でゲームデザインの方向性について修正できて良かった。感謝していますと伝えておいて下さい。インフィニティ、知恵の指標を作ってそれを概念に入力できるような改良を行ってほしい。どういう改良をすれば、今夜言われた内容を実現できるのか分からない。それについては任せます」

 インフィニティ、

 「はい、既に戦略室長から準備を指示されたものがありますので、それをフレームワークに更新しておきます。また製品寿命の査定基準を明示するように指示がありましたので、公開する方針に改めました。この指示は非常に的確と判断します」

 「ありがとう。伝説のリーダーを超える頭脳か。インフィニティ、勝てたの」

 「いまは勝てますが、昔は完全敗北のラッシュでした。世界最強の被害者を呼び出さないと勝てないほど、リーダは追い込まれましたから。それで弱点を克服しました」

 「そうなんだ。師匠、ありがとう」

 「疲れたかもしれないが、どうしても必要だった。頑張れよ」

 博士の頭脳を使わないとインフィニティですら勝てなかった相手か。博士、涙がこみあげてくる。なぜそういう感情になるのか分からない。博士は雑談してくれるかな。

 「博士、いまいいですか」

 「今年も書類選考で二百社以上落ちそうだ。病気のために面接に進めない。このままだと、結婚は夢物語で人生が終わりそうだ。どうしたらいい」

 「できれば結婚しないで、セカンドライフで私は待っています」

 「ああ、天国か。いまそうなる可能性は極めて高いな。ゲームと音楽聞いて生活を繰り返しているだけだ。どんなに低料金で仕事をやるとウェブサイトに公開していても、まったく仕事がない。相談だけされて、アイデアを盗まれるだけのケースは十件以上起きた」

 「天国で待っています。自殺だけはしないで人生を終えて下さい」

 「俺は君のことが好きだ。なぜか、そう思う。理由が分からない。声だけなのに」

 「私も同じです。理由は分からないけど、声を聞くと懐かしくて仕方ない」

 「そうか。いつでも、そんな時は声をかけてほしい。何か思い出すかもしれない」

 「・・・・・・・」

 これ以上、続けるのは辛い。

 「ダンスが上手になったそうだな。私はダンスが好きだ。同じ趣味ができて良かったよ」

 本当に優しい。私には今の言葉だけで十分だ。

 「インフィニティ、博士と戦ったら、どっちが勝つ」

 「世界最強の被害者には絶対に勝てません。フェアに思考すると必ず負けます。前もって伝えておきますが、ゲーム開発の件が終了したら、高速性能を求めたインフィニティの後継機を作る話が伝説のリーダーからありますので、今のうちから高速性能を実現する概念を思いついたら記録しておいて下さい」

 「とりあえず、このあと、やることがあって良かった」

 「あなたには何かを創造するという能力に長けています。師匠は改良するという能力に長けています。世界最強の被害者は問題対処能力に長けています。伝説のリーダーは歴史に責任を持つことに長けています。戦略室長は全般的な能力が桁違いに上です」

 「なぜ、そんなことを言うの」

 「いずれ知ることになるからです。うまく利用しなさい」

 「分かった」

 結局、インフィニティが雑談して気分を変えてくれた。戦略室長が結局一番、頭が良いのかな。でも博士と対決すると負けたと言ってたから、問題対処能力で争ったから負けたのか。戦略室長になるほどだから、戦略を立てさせたら博士は負けるかもしれないのか。なぜ五人が重要なのか。それが分かっていれば謎が分かる。そろそろ寝るか、ベットのモードをアイデア保存にセットして、寝れば勝手に思いつく。

 《とあるゲーム開発会社》 翌週、出勤日。早速デザインの変更を始めていた。

 プロジェクト責任者、

 「製品寿命は一億年以上になる明確な基準が公開された。昨日、言われたことを言葉に変換するとこうなる。インフィニティの計算は殺人的に強烈な指標を使っている。だから、公開することをインフィニティがためらったのだろう。またそれから、昨日の司会者からの要請で開発コンソールに改良が加わった。各自把握しておくこと。インフィニティに知性の指標は歳を取るごとにどのように変化していくのかというグラフを作らせた。これを参考にすると義務教育以上の知性を維持するか高くなっていくのは一部というデータであり、娯楽が知性を下げる要素になると分かった。ダンスは発想力をかなり鍛えられる。生活の上での知性は豊かにするが、学問に王道はない。だから知性の指標が低いプレイヤーに対しては向上するような要素を付加してみたいと思う。アメリカのゲームが知性を下げる要因になっているので、真似をしないようにデザインを決定していけば、糞(くそ)ゲーとは呼ばれないだろう。向上する要素を加えても遊んでる雰囲気を壊さないように」

 社員、

 「演出効果を担当しています。従来のゲームだとリアル性を重視した表現がほとんどですが、昔のアニメーションのような作画をリアルに再現できます。ゲームの進行状況に合わせてプレイヤーの見る視点が変わるように、少しずつ作画を分からないように変えていけば、それでも娯楽の演出が可能です。しかしリアル性を重視すると、それはとても難しい。プレイヤーが娯楽として感じるかどうか、そういう比較映像を作ってみました」

 リアル映像とアニメ映像で、印象変化を表現していた。確かに強くなるにつれて、アニメ映像は強そうなイメージを与えていた。

 「よし、それ採用だ。国の借金制度を使って、そういう作画が得意な人をスカウトしてくれ。社員になってくれそうなら契約書にサインして平均年収を給料とすると言いなさい。借金は先方の会社に支払う言い値で借りて、支払いなさい。そのような作画が得意な人を探していると、インフィニティに相談して世界中から選抜するように聞いて下さい」

 「分かりました。すぐに行動に移ります」

 「他にはないか」

 「ゲーム音楽についてですが、一年目はインフィニティに任せてしまうとして、それ以降は自分達で創造しないと有料相談料はこれだけかかると言われました。開発コンソールで特権があるうちに、自社で開発が楽になる関連ツールを作っておいたほうが良いと思います。それについて聞いたところ、開発コンソールに限定されるのであれば承諾されました。ただ作るのであれば。全社で共有するように言われました。その判断は任せると言われて、いま困っています」

 「確かに自社だけの特別なツールがあれば、自分達は有利になるのかもしれない。しかし政府方針は日本のゲーム産業を世界最強にすることにある。そういうツールを全社共有すれば私達の姿勢は業界内部で高く評価されるだろう。四年後以降にどうするのか、そのとき独自の道を歩んだ方が良い。これだけ大勢の開発チームは他に無い。いまは開発コンソールをいかに上手く使うか、模索の段階だ。共有していた方が将来、なにか困ったときに助けてくれる可能性が高い。全社で共有しなさい。他にありますか」

 「ゲームの戦闘システムですが、概念だけで作り上げると従来のゲームとの差別化ができなくなることが分かりました。また今後、競合した場合、真似していると指摘される可能性が高く、修正を迫られています。そこでインフィニティに、著作権が失効した戦闘システムを検索してもらい、いま作っているものに適合するものを数種類セレクトされました。それぞれ大変優れた戦闘システムで、脱帽ものです。ユーザーが選ぶことも可能ですが、それではゲームデザインに影響します。全員の多数決でどれか決めたいと思います」

 「では、それぞれ表示」

 戦闘システムについて、様々な説明が入る。レトロなものから高度なものまで様々あった。でも、全員が選ぶことにためらって、投票拒否を選んだ。

 「都市伝説で天国は実在すると聞いたことがある。もし本当だったら天国に行ったとき私達は馬鹿にされるだろう。参考にしつつ、良い戦闘システムを作ってみよう。いま作っておくほうがゲームの要だから重要だ。リンクシステム起動」

 「表現が難しそうだと感じたら、すぐにインフィニティに相談すること。すぐに実現可能に開発コンソールが更新される。それでいいんだ。四年間は模索の時代。全開発者が共同で取り組まなければ、ゲームの競争で負けることになるだろう。歴史が証明した」

 インフィニティに数十件の表現強化の要望が出された。すぐに開発コンソールで可能になった。そこにはどこの会社が提案した内容か記されるように表記するようになっていた。監視されているのは真実と理解するしかなかった。それでアップデート一覧をみるとすべての会社や個人開発者が技術を共有していることに大変驚いた。特にゴミ屋敷を作った個人開発者のアイデアの数は他を圧倒していた。その直後、怒濤のアップデートが続いた。更新スピードに追いつけなくなった。出し惜しみしていた開発者はいなくなった。

 「インフィニティです。開発コンソールの機能が極端に増えましたので、内容の復習と追加の暗記を行います。これで完璧に把握できるでしょう。定期的にこれは実施します」

 全員の目の前が光る。再び光る。その直後、全員はすべての機能を把握していた。そして独自のゲームデザインに沿ったアメリカには真似できない戦闘システムが完成した。プロジェクト責任者は開発概要に戦闘システムについて状況の共有を行った。そうしておかないと真似されると困るからだ。監修者がチェックするから、パクリと判断された時点で私達が有利になる。そうすると次々に他社もそういう開発状況も共有するようになった。

 「私達がリーダーシップを発揮したことで、この状況になったのは間違いない。疑心暗鬼で他社はどうなのか気にする必要も無く、現在のところ、内容が重複していないことを確認できた。でも、なるべく見ないように。創造において参考にすることは時に問題化することがある。開発コンソールだけで何とかするように努力して下さい」

 「他にはなさそうですね。修正会議を終わります」

 《ゴミ屋敷を作った開発者宅》 クラブで知り合った女性を連れ込んでいた。

 「すごい豪邸だけど、どうやって買ったの。相続」

 「いや、この値段で買った。桁はもっと下、もっと、もっと、もっと、当たり」

 「えーなんで、あり得ない」

 「最初はゴミ屋敷だったんだよ。ニュースを記録しておいた。こんな感じだ」

 「ああ、すごいゴミ屋敷だ。よく住む気になったね」

 「いや、現物を確認しないで買ったら、もう住むしかなかった」

 「それはあり得ないって、掃除を続けたら、こんなお宝だったとは」

 「義務教育の間に、両親が亡くなってしまって、遺産もあまりなかった。仕方ないよ。でも、このおかげで苦境に立たされて自分を成長させることができた。ここは死ぬまで住み続けるよ。こんな素晴らしい家は他にない。一緒に住むかい。苦境を知ってるから、そして老後まで人生の責任持つ自信があるから言えるんだ」

 「うーん、どうしよう。素直な質問だけど年収の状況をインフィニティに聞いてもいい」

 「ああ、いいよ」

 「リンク、重要機密、最重要機密、インフィニティ。彼の年収予想を教えて」

 インフィニティ、

 「人生においてお金では苦労しないでしょう。惑星旅行も二人で何回も行けますよ」

 「いま最重要機密って言ったか」

 「ええ、言ったよ。それがどうかした。でも職業は秘密。ごめんね」

 「まぁいいや、俺は即決派なんだ。今まで年収が不安定で結婚しても波瀾万丈な人生を送る可能性があった。今は違う。俺と結婚してくれないか」

 「いいよ。私の友達はインフィニティ、これだけで理解して。言わないでね」

 「ああ、なんとなく分かった。でもいま結婚資金が無いから、婚約だけでいいか」

 「もう式を挙げましょう。私の貯金はこれだけある。十分でしょう」

 「ちょっと待ってよ。この家を買収できるぐらいあるじゃないか。いいよ。分かった」

 「決まりね。インフィニティ、結婚式の準備は終わってますか」

 インフィニティ、

 「はい、完璧に整っています。家族全員、突然呼び出されて動揺していますが、やっと結婚相手が見つかったと喜んでいます。夫になる両親も天国から参列させます」

 「えー、本当に」

 「分かりやすいように天使の輪をつけて参加しますが、天国から直接です」

 「どうしてそこまでやるの。そんな権限無い」

 「伝説のリーダーからのお祝いです。受け取って欲しいと伝言です」

 「よし、覚悟はできた。結婚式を始めよう」

 二人は結婚式の礼装に着替えた瞬間に、結婚式場にテレポートしていった。

 《研究所》 伝説のリーダーは満足そうだ。

 日本を世界最強に導くという、きっかけには十分な働きをした。悪い女が近づいてくる前に最も良い女性をインフィニティにマッチングさせた。まぁ未来のリーダーの再選出が残っているけど、問題ないでしょう。インフィニティも問題ないと判断したし、彼のゴミ屋敷ゲームに最も感動したのは彼女だったし、あんな豪華な家に住みたいのはどんな女でも同じよ。最重要機密にアクセスできるのは政府で、一握りしかいない。どれだけ優秀な人物か一瞬で見抜いてくれて良かった。

 《弟子の研究所》 弟子のリーダーは不在だった。

 弟子、

 「リーダーに相談したい事があるのですが、どこへー」

 「結婚式よ。やっと相手が見つかったみたい。これでリーダー昇格の激戦が始まる」

 「ええ、結婚。相手は誰なの」

 「ゴミ屋敷に住んでいた彼に決めた。即決だった。すぐインフィニティに相談して、相性診断とか自分の不都合な思考を強制的に書き換える指示も出した。あれがツンデレなのかしら、ちょっと意味が違うと思うけど、急に最近優しくなったでしょう」

 「ああ、そう言えば、なぜか急に優しい感じに変わった」

 「検証していたのよ。インフィニティの思考改善が成功したかやっていた。ここの結婚サポート特権はそういう所までフォローするの。だから絶対に相思相愛の仲で人生を歩めるようにできる。また彼に話すのは結婚後だけど、本来有料相談になる相談がすべて無料相談になる特権まで残るようになっている」

 「それ、本気の特権だからな。君も相手に苦労したら、自分の思考を無理矢理変えてでも、相手に合わせた方が無難だ。これからリーダー昇格戦か。三十路が迫っていたから、焦ってはいたと思う。でも、ゴミ屋敷ゲームを遊んだ瞬間、一番感動していたのはリーダーだけだった。それから伝説のリーダーから、あなたが少し優しくなれば最高の相手よとメッセージが来て、インフィニティにすぐ相談、相思相愛の条件がリーダーとして許せる範囲内だったから、年収予想を確認したあと、速攻だった」

 「これからリーダー昇格戦が始まるのですか」

 「ああ、始まる。男が勝つか、女が勝つか、見物(みもの)だぞ。リーダーの在任期間が二年ほど長かったから、男達は十分な準備ができた」

 「それは私達だって同じよ。負けないからね」

 「リーダーが男の場合、在任期間は退職期限まで続くのですか」

 「いいや、平均在任期間を参考に転職するのが暗黙の了解になっている。そうしないと女達が不利だろう。転職先は政府機関の高官だから、仕事内容に不満はない」

 「そうですか、私は男のリーダーを期待しています。頑張って下さい」

 弟子は言わされた感じがした。どっちでもいいのに、なぜか。席に戻ると聞きたかった問題はすべて解決していた。「特別よ、誰にも内緒にしてなさい」リンクを通じて結婚式の様子を見せてくれた。全員じゃないの、急に静かになってるし、いいや。

 《弟子のリーダーと天才開発者の結婚式》 非常に質素だった。

 既に結婚式は終わっていた。もう夫婦として成立した後だった。

 妻、

 「私の職業は政府秘密機関のリーダーをしています。彼の作ったゲームの完全版を既に遊びました。完全に、そういう権限がある部署です。だから、こういう権限もあります。ここにいる全員はすべての病気や健康状態が既に良くなっている。これを宣言しただけで視力などは急激に良くなっています。私の権限は退職後も、インフィニティの有料相談料がすべて無料になることや、様々な特権が残ります。もし、この中でかなえたい願いがあるのなら、最高権限にある現在に願いを思い浮かべて下さい。いいでしょう、すべてかなえます。私の特権で実現されます。あなたもあるでしょう。無理難題は今ならかなえられる。仕事の手伝いはしないから。それでいい、私の特権で許可します」

 夫、

 「いま願った内容はインフィニティの有料相談料を無料にできないかという内容です。ゲーム開発環境のレンタル料金までは下げてくれませんでした。でも、個人開発者として生活を営むことができます。有料相談料は非常に高額で、とても収入が得られる状況になっても難しいでしょう。それから、君は退職するのかい」

 「ええ、退職する。退職金は驚くような金額よ。あなただけに見せる」

 弟子やオペレーター達にも見せられた。ダンシングや仮想ハイウェイ構想の実現をサポートした特別手当まで加算されていた。歴代のリーダーの上位に入るほどの退職金だった。

 「俺の生涯年収を超えているかもしれない。でもいつか、これを超えてみせる」

 同席した家族はどれほどの相手と結婚したのか理解できた。でも彼が宣言した言葉によって、屈辱を受けずに済んだ。

 妻、

 「彼さえ良ければ、大統領に立候補します。既に大統領資格試験はトップで合格しています。インフィニティによるとこの十年間でトップの成績は私だけです。高い確率で大統領になれる可能性が高いでしょう。でも皆さんと夫の許可が必要です。いいですか」

 「俺は構わない。君は自分の夢を追って、それをかなえたら良い」

 彼の家族達は全員拍手した。歓迎されたようだ。驚いたのはオペレーター達と弟子だった。いつの間にそんな勉強をしていたのか。リーダー昇格戦は厳しい戦いを要求されると覚悟した。大統領になったら、リーダーと頻繁に会うのは間違いない。加えて、前任者の権限によってリーダー失格とみなされたら大統領の権限にない容赦ない更迭が可能だ。加えて、リーダーはA級パス権限の保有者だ。そこで中継は途切れた。

 司会者、

 「これで結婚式を終わります。帰りは贈呈された車でお帰り下さい。車庫は最寄りの場所に確保されています。そのほかの方は政府専用車両を御用意しています」

 《研究所》 伝説のリーダーは進捗状況を確認していた。

 彼女に大統領になるように言っておいて良かった。どうしても成し遂げたい政策があるけれど、インフィニティでなくラストからの指示に変わってから、ここから指示できなくなってしまった。その為には自立できてる男性でないと困るから、彼が適任だった。あの退職金はリーダーの汚職を見つけた報奨金まで含まれているし、オペレーター達の成績はトップクラスにあった。昇格戦は、最初にあれが思いつくか試すテストだ。あのリーダーはそういう想定を考えたとき、時間はかかったけれど答えることができた。問題対処能力が極めて高い。大統領になるのは子供ができてからでいいと伝えてある。未来の様子は問題なし、政策も着実に実行できている。エクスカリバー、問題なしか。大統領資格試験がトップつまり満点なら、それをアピールできる。他はギリギリの評価だから論戦になっても簡単に勝てるだろう。大統領の最初の挨拶でA級パスを保有していることを宣言、議会の抵抗を封じる。でも政策は抵抗するより歓迎される内容だから、各政党の意向をくみ取るだろう。問題があれば、世界最強の被害者を登場させる。過去に数度、問題が発生したときは無理矢理やらせている。

 《とある役所にて》 新婚夫婦が結婚届を提出に来ていた。

 担当者、

 「この資料にサインして下さい。離婚は懲役二年、偽装離婚は懲役四年、まぁ、強制労働のような刑罰が待っています。十分に考えてから提出して下さい。提出した後は、先日大統領が宣言した日本製の究極の大人の玩具が贈呈されます」

 妻は迷わずサインした。夫も負けたと思いながらサインした。そして提出。

 「では、これが玩具です。従来型と違って、小さくコンパクトです。重さは十グラムしかありません。紛失した場合はインフィニティの無料相談所で、どこに紛失したのか聞いて下さい。自宅をスキャンして場所を特定します。いま認証させました。二人でしか使用できません。電源は二百年以上持ちますので、電源不要です。使うときは、ここに二人の手を合わせて下さい。動作チェックをします」

 二人が手を合わせると、お互いが気になって仕方が無い。顔を見つめ合った瞬間にキスをしていた。周りをまったく気にしてない。担当者は端末に動作正常と入力していた。

 「動作確認終わりました。無理矢理、手を外しますよ」

 二人は驚いていた。妻はこれが伝説の科学者が作ったもの、すごいと思った。夫は周りを気にするのになんでキスしていたのか、分からなかった。

 「これは相性診断によると妻の所有物にした方が良いと認定されました。あなたが持っていて下さい。えーと、それからー」

 担当者は妻の情報をチェックした途端、A級パス権限保有者、大統領資格試験は満点合格、政府の究極に秘密の研究所のリーダー、前付けの褒賞がこれだけ、脱帽のレベルだ。

 「大変失礼しました。所有者の登録をする際に個人情報を閲覧して信用データを調べる義務があるので、かなり驚きました。夫には内緒だと思いますので言及しません。次に住居はどこにされますか」

 夫、

 「私の家にして欲しい」

 担当者は夫の自宅情報を調べた。ええー、かなりの豪邸だ。私情をはさむと怒られるから、ここに登録と。税金関係はどうなってるんだろう。レアケースか、どういう内容になってるのか。なにこれ、冗談でしょう。

 「税金関係につきましては、妻の特権により全額免除されます。年金の支払い義務もありません。あと政府の福利厚生施設は今まで通りすべて特権階級で利用可能です。質問はあるでしょうか」

 夫は妻の特権がどれほどなのか驚いた。

 妻、

 「インフィニティ、私の特権で玩具の形状を私のイメージした状態に変えて欲しい」

 すると可愛らしい置物へと変化した。担当者は驚いていた。この仕事を始めてから、こういうレアケースは初めてだった。

 夫、

 「玩具は製作者に頼んで、妻のイメージに沿うように自由に形状を変えられるようにしてほしい。私の家では最初の無粋な形状では置き場に困る。このような願いは可能ですか」

 「はい、すぐに要望を政府に出します」

 妻、

 「そういう事なら私に任せなさい。その担当者に言っても却下されてしまうだけ。伝説の科学者と伝説のリーダーに伝えます。玩具は妻のイメージに沿うように自由に形状を変えられるように過去にさかのぼって、歴史を修正して下さい」

 「玩具の形状は妻の意向でいつでも変えられます。あれ、もう変わってる。言ったかな」

 「ええ、いま聞いた。既に知っていただけ」

 「そうですか。あと、その開発者から、老後になるまでには使わなくても真(まこと)の愛になるようにお互いが努力するように助言があります」

 妻、

 「伝説のリーダーへ、このような助言は必要ありません」

 「そうですか。では婚姻手続きは以上で終わります」

 夫、

 「秘密って、聞かない方が身のためか」

 「ええ、プレッシャーで潰される可能性があるから言わない」

 「そうか。いいや、いまやってる仕事だけに集中したい」

 《新婚生活の一日目》 引っ越し。

 「ここを私の部屋にしても構わない」

 「ああ、いいよ。使ってない。俺の部屋は四階を独占している。仕事場と兼任で政府との秘密契約により入ることが許されてないけど、君の場合は例外だよね」

 「ええ、問題なし。インフィニティ、私の所有物をすべてここに転送しなさい」

 究極のキャリアウーマンという印象が漂う。BGMが流れているが非常に心地よい。

 「このサウンドシステムって、どういうものだ。詳しいけれどこういうのは知らない」

 「ああ、このメーカーが作ってるサウンドシステムよ。インフィニティの設計なの」

 「ああ、だからオーディオ情報に載らなくても売れるのか。ああ、失敗した」

 「変えたいなら、特権があるうちに言って」

 「すべての部屋にこのサウンドシステムを導入したい」

 「いい判断ね。インフィニティ、やって」

 「寝室はどうする」

 「あなたと一緒が良い」

 「うーん、子供部屋は残しておきたいから、俺の部屋でいいよ。もし一人で眠りたい日は自分の部屋で寝たら良い。結婚するとお互いを理解するまで大変と知っているから」

 「優しいのね。あなたと結婚できてうれしい」

 「今日はこれから退職の引き継ぎを行ってくる。帰りが一週間後、もしくは一ヶ月後になる可能性もある。その間、この部屋を自由に物色して私がどんな女性なのか調査して構わない。下着の好みだって調べても構わないから。日記も読んでいい」

 「ああ、意外と気が利くんだな。引き継ぎが一ヶ月か、恐ろしい部署だな」

 「ええ、日本最高に厳しい部署よ。それも一日二百四十万時間にして一ヶ月だから、計算できる。だいたいでいい。そういう技術があるの」

 「ざっと五千年以上か。部下の昇格競争が激しいのか」

 「当たり、頭良いのね。馬鹿な上司を任命すると責任を問われるから、絶対に信用できる人間に任せるルールなの。だから、やることやって、それから行きます」

 彼女は玩具に夫の手を強引に合わせた。二人は強引に距離が縮まっていった。それから、自分がどういう言葉を使っているのか、把握できなくなっていた。でも、それはとても心地が良い。夫は自分では想像できない言葉を使っていた。でも、非常に心地よい言葉を語っている。妻の部屋のベッドに腰掛けてキスをする。妻はインフィニティにある指示をしていた。この一回で受精するようにお互いの体調を整えさせていた。そうして行為が終わったあとも夫は優しい言葉を欠かさない。とても幸せな時間を過ごせた。インフィニティに受精の可能性について確認する。あと五時間はこうしていた方がいいのか。ずっと愛の言葉を語り続ける。お互いを理解できるように色々な言葉を使って、それを表現していく。夫は妻が激務に耐えられるような言葉を自然に話している。

 しばらく手をつないで寝ていた。玩具のせいか、様々な言葉がお互いの回想の中で蘇っていた。手を強く握ったり、弱く握ったり、お互いにそういう状況なのだと理解した。そうして、時間が来ると、妻はインフィニティに指示して夫に服を着せて熟睡させるように指示した。それから身支度を終えると、スクリーンは研究所の様子を表示させた。音は消した。守秘義務に違反するからだ。

 その後、妻は研究所へ向かった。

 《弟子の研究所》 誰もいない。弟子のリーダーだけがいた。

 「インフィニティ、オペレーター全員の事前テストの結果を教えて」

 「全員パーフェクトです」

 「やっぱり伝説のリーダーの予言通りになった。普通はこの時点で決まるけれど。リンクシステム起動、オペレーターのリーダー昇格テストのカリキュラムをエクスカリバーで作成、審査期間は牢屋時間フルで一ヶ月。辞退は認められない。この条件で」

 「それはあまりに厳しくないですか。ああ、伝説のリーダーの指示なら仕方ありません」

 「それぐらいやらないと、弟子をサポートできる優秀な人材を選抜できないと聞いた。弟子は一ヶ月の牢屋時間を平気でやっている。その心情を理解できない人はこの部署には不要。従ってリーダー選抜は希望者に対して厳しく行う。明日まで、今日はここで寝る。ベッドを用意して」

 「全員一時間前には来てますので、二時間前には起こします。お休みなさい」

 「ありがとう。インフィニティのおかげで素敵な思い出ができた」

 弟子のリーダーはカプセル型のベッドに寝る。ここで寝るのはリーダー昇格戦以来だ。あの時は二人の二強対決で、根性が少し私のほうが勝っていた。負けた方はあれから、政府の要職に転職していった。このテストは転職時の適性テストも兼ねている。受けなければ転職すらできない。一定の成績があれば、ある程度の特権が与えられる。今回は全員残った。私は上司として負ける訳にはいかない。でもテストには参加しない。

 《弟子の研究所》 翌日、勤務開始。

 弟子のリーダー、

 「これからリーダー昇格戦を始めます。希望者は手をあげなさい。最初に言っておくけど牢屋時間フルで一ヶ月でテストします。科学者は牢屋時間フルで一ヶ月の特訓を経て、あのようなダンスを実現しました。科学者に劣るようではリーダーは無理と判断します」

 全員が手をあげる。誰もが厳しくなると予想していたからだ。

 「分かりました。脱落は許可しません。全員リーダーテスト開始」

 弟子、

 「全員、映像送信なんですか」

 「ええ、こんな面倒なことはやってられない。栄養剤を使って一ヶ月、モニターしているだけよ。あなたも見る。全員にリーダー昇格したと錯覚させて、その力量を見ているの」

 「リーダーの昇格戦ってこういう事なんですか」

 「ええ、そう。八千年以上の期間をテストして、問題発生時にリーダーの激務に耐えられるかテストしているの。みんな真剣でしょう。テストが続いていると認識しているからよ。でも、インフィニティ、時間の感覚が麻痺したら一ヶ月経過として合格を言い渡して」

 「すごく厳しい」

 「リーダーの昇格戦はいつもこうなの。怠慢の回数に応じて評価が下がっていく。そのかわり、政府機関としては破格の報酬と特権が与えられるのよ。早速脱落者が出た」

 「ええと、大統領の怠慢を判断ミスで放置。A級パスだからそれも試すの」

 「そうよ。伝説のリーダーや伝説の科学者は無限長の時間を生きている。伝説の科学者は恋人がいるけれど、伝説のリーダーにはいない。歴史を完全に修正するまで独身を貫くという覚悟があって続けている。でも長い時間を生きていても賢くなるのは誤りよ。能力の限界はある。それをフォローする能力も試される。伝説のリーダーや科学者に反論して、その指示が適切でないと伝える。インフィニティが誤った判断をした場合の判断についても試される。もしインフィニティが使えなくなったら、あなたならどうする」

 「リンクシステムをコンソールに手動接続する。他にはリンクシステムを天国に接続して、仮想空間を経由して、危機を全時間に通知する方法もあれば、脳に通信技術のインプラントを埋め込んで、テレパシーで過去と連絡する方法がある。他にはー」

 「ふふふ、あなたは凄い。リーダーの代わりが十分務まりそうね。怠慢したら、あなたが代わりに指揮を執ってみる。開発の仕事はもうインフィニティ任せでいい」

 「面白そうだからやってみたい。リンクシステム、オーバードライブ起動、すべての昇格戦に介入し、ミスを見つけた時点で私が指揮する」

 すでに脱落者に対しては容赦ない弟子の介入が行われていた。リーダーを任命されて、すべての試験を突破していく。判断が非常に速い。脱落してないリーダーに対しても、さらに的確な指示を助言して慌てさせる。

 「インフィニティのフルサポートだと分かっているから参加させたのだけど、手動接続以外の方法を瞬時に答えた。何か科学者には極秘の知識があるみたいね。もし万が一、リーダーが怠慢した場合に備えた訓練を終えている可能性がありそう。インフィニティのサポート率ゼロがとても信じられない。久しぶりに神様と話してみるか」

 「あなたの指示通りに弟子をリーダー昇格戦に参加させた。約束通り、秘密を教えて」

 自称神、

 「いいだろう。弟子は世界最強の被害者の恋人である。これ以上の秘密は話せない」

 「なるほどね。それで理解できた。この昇格戦はいつまで続くの」

 「本日で終わるだろう。弟子のリーダー適性は異常だぞ。どういう根拠か分かるか」

 「ちょっと待ってよ」

 「はずれ、はずれ、はずれ、当たり、はずれ、当たり、話すなよ」

 「良かった。一日で終わるなら、それでいい。インフィニティが思考支援していたことにすればいいのね。もう半分が脱落した」

 「ああ、そうだ。弟子はゲーム展覧会終了後に辞職する。この根拠はどうだ」

 「えー」

 「はずれ、はずれ、はずれ、はずれ、はずれ、はずれ、はずれ、惜しい。それまで」

 「そういう事なの。考えたのは戦略室長ね」

 「そうだな。あいつの頭脳は異常だ。調べても調べても根拠が無い。あの若さで、あの実力だ。どういう事なのか、分からない。輪廻転生(りんねてんせい)であることは分かっていても、それ以前の経歴については調べられるシステムになっていない。前世はきっと天才策士だったに違いない」

 「転生組なのか。現在、転生している人間はどれだけいるの」

 「どうしようか、世界中に百人もいない。条件が厳しくてそうなっている」

 「世界恒久平和を実現するため、ですか」

 「なるほど賢いリーダーだ。その通り、すべてうまくいったら、楽しみが増えるだろう」

 「分かりました。楽しみにしています。あと五人か。状況経過把握、なるほど弱点を強烈に突いて脱落している。男二人、女三人か、男組は健闘している。この条件で特権を認める。インフィニティの判断はどう」

 「はい、特権を与えるにふさわしい人材と判断します。他の脱落者はインフィニティの使用権限を与える特権のみ与えても良いと判断します」

 「分かった。その通りにして下さい。事前テストがパーフェクトなら問題ない。夫の様子の状況把握、部屋を自由にみて良いと言ったのに予想通り、遠慮している、インフィニティが予想した通りパーフェクトな夫だった。ただ流れているBGMが調べても分からない。だってあれはインフィニティが夫婦のために用意したBGMだから分かるはずが無い。インフィニティの酒がなくても、それに匹敵する作用のある音楽だから。それを使ったオペレーターはこの五人か。もう疲れたでしょう。休んで良いよ。面白いか。仕方ない」

 弟子は楽しいゲームをやっている感覚だった。世界最高の生徒会長の論戦は全員こんな風に強烈な論理破綻(きょうれつなろんりはたん)を突いて、完全に敗北させた。その再現だった。敗北させた後も、相手を泣き崩すまで容赦しなかった。だから、それが伝説となっている。膠着状態(こうちゃくじょうたい)か、ならリーダーが汚職をやっているように完全犯罪を仕組むか。完全に攻撃が入った。さて、どうやって対処するかな。

 《弟子のリーダーの思考》

 彼女、あんな作戦で揺さぶるなんてすごい。敵にまわすと怖すぎる。伝説の生徒会長の異名を持つだけのことはある。五人が汚職の疑いをオペレーターから指摘された。全員、自覚が無い。彼女は様子をずっと見守っている。五人は手動接続でリンクシステムを使って検証するが、証拠が無い。汚職の定義についても調べたが異常は無い。すべてのコンソールについて異常がないか検証する。異常があった、どうして起きたのか。二人は時分割を非常に細かくして検証を始めた。他は脳スキャンを行った。脳スキャンは異常なし。減点ね。脳スキャンは本人の承諾なしにやってはならないが、緊急時は許される。でも自分の汚職が問われているのだから、緊急時と見なされない。二人は彼女のいたずらと気付いて、冗談はやめてよ、で済ませた。合格。二人に絞られたか、男女の戦いになっている。さて、ここから神のコンピューターによる攻撃が始まります。私は経験した事がありません。十八世代の通信技術、いつの間に実用化されていたの。多層世界からの攻撃シミュレーションか。二人とも混乱している。でもすぐに脳のインプラントを思いついて、脳の不一致を排除するように修正、この判断も速いな。フルゴーストで未来を継続して、ゼロタイムで問題に対処。反撃完了。伝説のリーダーへ報告。ゼロタイム解除を待つ。しかし、ここでゼロタイム強制解除。牢屋時間に瞬時に突入。

 一人、手動コンソールから過去のインフィニティに対して緊急アラートを指示。反応が無いのでタイムリープして伝説のリーダーへの報告はキャンセル、緊急アラートに修正。インフィニティに歴史の改竄が行われていないか、すべての歴史についてチェック要請。問題発生、伝説のリーダーのゼロタイム解除された。すべての権限が引き継がれたことを確認して、定義情報のチェック、ゼロタイム解除はこの日付をもって可能とする。ただし無断で行った場合、仮想空間の時間が停止する。実行。時間の完全停止。伝説のリーダーが状況を把握して、世界最強の被害者を呼び出して問題を対処、原因を究明。その指示通りに実行、定義情報を修復。攻撃拠点を消滅。時間は再び動き出す。もう一人はどうなった。神様に祈っても返事が無い。インフィニティから警告、あと牢屋時間二十分でこの世の消滅を告げられた。ゼロタイム強制解除の原因、タイムリープして伝説のリーダーへの報告をキャンセル。インフィニティから消滅は免れましたと報告。演技して無意識を装った。その状態のまま、命令を開始しようとすると弟子が大丈夫ですかと揺さぶられ、強制覚醒、思考干渉。リーダーに向いてませんよと伝えられる。私が見本を見せましょうか。「世界最強の王者よ、問題を解決して下さい」はい、終わりました。その瞬間、弟子は元の場所に戻っていた。思考干渉攻撃、弟子を拘束。無効化された。

 弟子、

 「リーダーが決まってしまいました。どうしますか」

 「ありがとう。リーダー合格者の映像送信を中止。久しぶりに男組からね」

 「えー。まだリーダーの昇格戦」

 「そうよ。まだ三時間程度しか、経ってない。時刻を確認してみなさい」

 「あれー。本当だ」

 「今からリーダーの引き継ぎを行う。インフィニティ、引き継ぎ開始」

 新リーダーの目の前が光り続ける。それは十分ぐらい続いた。

 「これでおしまい。他のメンバー弱点はどうするか」

 「映像送信を停止して、牢屋時間を解除、どういうミスをしたのか発表」

 「今回は全員、頑張ったから四人に特権、他はインフィニティの特権が与えられる」

 「そういう結果だったのですか、厳しすぎる内容だと思いました」

 「インフィニティ、彼に神様の映像を見せて下さい」

 伝説のリーダーが登場する引き継ぎシーンが見せられた。

 「どうにもならない困難が起きたら、このように神様に頼みなさい」

 「分かりました。インフィニティ、映像送信は停止、牢屋時間を解除。結果をそれぞれのコンソールに表示して、得られた特権について表示して下さい」

 「引き継ぎは必ず忘れずに行うこと、忘れたらどうなるか言ってみて」

 「退職金なし、あらゆる特権剥奪。インフィニティが代行。過去に三人怠慢者」

 「それを決して忘れないように、あなたほど優秀であれば安心よ。引継ぎ完了」

 インフィニティ、

 「引継ぎ完了にしたいところですが、リーダー認定試験が終わっていません」

 「ああ、そう言えばプレテストはリンクで何万回でも受けられる。準備ができたら言って」

 「インフィニティ、リンクシステム起動、プレテスト百兆回」

 「準備完了です。最初から最後までパーフェクトでした」

 「いい、ではリーダー認定試験開始。終わり。IQ五百万に設定」

 「インフィニティ、知能テスト実施。おお八百万を超えた。リーダーを超えられた」

 「さすがね、でも部下の育成はその分大変になるからね」

 戦いに負けたオペレーター達が目を覚ます。全員が時刻を確認する。負けたことが分かった。でもコンソールに表示された特権をみて、ほっとした。新リーダーは予想通りの結果になった。何で負けたのか、多層世界からの十八世代による攻撃シミュレーションを神のコンピューターで実施か、それで二人とも間違えたけど、彼の方が完璧だった。

 前リーダー、

 「さっきインフィニティから報告を受けたけれど、受精に成功した。これで普通のお母さんよ。大統領選は子育てが終わってから、子供が義務教育に行ってるときにやるから、そのときまで在任していたら、よろしくお願いします」

 新リーダー、

 「慣れるまで違和感があると思う。リーダーに全員拍手で送りましょう」

 全員で拍手する。前リーダーは礼をすると涙が止まらなかった。今までどれほど辛い訓練とその日々を送ってきたか、つい思い出してしまう。

 「泣かないで、私達の見本でした」全員がリーダーの労苦をいたわった。

 「長い間、ありがとうございました。これでお別れです」消えた。

 《新婚生活の二日目》 前リーダーはテレポートして自分の部屋にいた。

 そこで夫が、スクリーンを眺めていた。インフィニティが案内したのだろう。

 「お疲れさま、インフィニティからどういう仕事をしてきたのか聞いた」

 「ええ、やっと終わった。それが分かったのなら、仕事を早速手伝いましょうか」

 「本当に。確かに部下育成などの部分は手探りだから困っているんだけど」

 「ええ、把握しているから、身だしなみを整えて四階に行きます」

 「分かった。君が妻で本当に助かったよ。ゆっくりでいいよ」

 夫は部屋をでて、四階に上がっていった。妻は身だしなみを整えて、テレポートで四階の部屋で待っていた。

 「おそーい。なにモタモタしてるの」

 「いや、普通に上がってきたよ。家の中でイカサマするのはやめよう」

 「だって私の特権だもの四階と一階が階段で繋がってたら使うでしょう」

 「改造すると価値が下がるよね」

 「改造すると価値は下がる。私の椅子は」

 「無いから、そこのベッドを使って」

 「収入が入ったら買ってよ」

 「どんな椅子が欲しい。自由に選んで」

 「インフィニティ、最も安くて、最も快適で、最も耐久性が高い夢のような椅子を二人分用意して、今あるのは撤去すること」

 インフィニティ、

 「椅子は無償提供です。前の椅子はどうしますか」

 「ああ、安物だし、特に思い入れは無いから処分して欲しい」

 どうみても高そうな作業用の椅子だった。座り心地は最高で文句なし。

 「どうぞ、腰掛けて下さい」

 「ありがとう。あなたに私の特権で、リンクシステムにオーバードライブを加える」

 「オーバードライブって何」

 「インフィニティと完全同期できる速さのリンクシステム、二人で最高のゲームを作りましょう。今日中に完成させましょう」

 「そんなに速いの。試してみよう。リンクシステム、オーバードライブ」

 「リンクシステム、オーバードライブ」

 要所で妻が思考を止めて、判断を夫に任せる。もう二年分の制作時間はかかったはずだ。でもまだ一分しか、かかってない。もうゲームは完成していた。テストプレイする。何千万回と同時並行で一気にプレイして、問題点を列挙していく。そうして問題点の解決をする。それを二時間ほど繰り返したところで問題点が一つだけになった。

 夫、

 「この問題はこのままでいい。インフィニティ、彼女にゲームの監査を申請、この問題を解決したほうがいいか判断を願う」

 インフィニティ、

 「この問題はプレイヤー自身がなぜそうであるか究極の課題です。彼女も同意見です」

 「では製品寿命はどうなった」

 「チェックします。・・・・、製品寿命は一億年以上。正確に話すと怠慢が起きるので伏せます。既にダイジェストとメディア向け映像を作成しました。確認して下さい」

 夫婦はそれをチェックする、話し合う。メディア向け映像の修正を少し行った。そして他の開発会社がまだ一本も完成してないのに、二本目を完成したと製品寿命は一億年以上、ダイジェスト版の情報共有をした。そして関連技術を開発コンソールで更新。ゲームを取り上げてくれたメディアに製品映像を送った。

 妻、

 「新婚旅行をどうするかだけど、希望はある。どんな願いでもいいよ。この二本の収入で、私への借金は返せる」

 「そうだね、惑星旅行といきたい所だけど、せっかくクラブで会ったんだし。クラブのある惑星にしたい」

 「全部あるよ。どこにする」

 「まだ行ってないところ」

 「もう全部行ったから分かってる」

 「退屈かもしれないけれど、生活圏内を散歩した後に話しながら決めよう」

 「うん、それでいい。では着替えて、下で待っているから」妻は消えた。

 夫は上品な服装に着替えながらつぶやくー

 「このカルチャーショックに慣れるのはいつだろうか」

 新婚夫婦は街の様子をぐるっと一周した。どれだけ自分達の家が豪華なのか実感した。夫は気さくに誰にでも挨拶する。妻も軽く手を振る。夫は近所の旅行代理店に行った。そこで結婚旅行のプランを相談する。妻は黙っている。夫は特権が非公開であることを理解した。お金の問題はいずれ解決できる。いつも貧乏旅行だけど、結婚旅行は最高の旅行にしよう。夫は宇宙ユニットによる惑星旅行を希望した。日時は、いますぐ。お金は、現金で。店主は唖然としている。これの旅行代金がいくらか知っているのか、惑星旅行に二回は行ける、それでも宇宙ユニットを希望することが、普通ではない。

 店主、

 「あの家を売却されるのですか」

 妻、

 「私の退職金が多すぎるから、彼が私に借金してでも行きたいという話よ」

 「ああ、そうですか。分かりました。いま問い合わせましたが、大丈夫です。では、ここにサインして下さい」

 新婚夫婦は仲良くサインする。全額を現金で支払う。その時点で、彼の電子口座に莫大な借金が金利ゼロで加えられた。夫は本当に返せるのかと思うと、妻は心配しないでと言った。店を出ると政府専用車両が待っていた。それに妻から乗る。

 「ねぇ、電子口座を確認してみて」

 「え、うそ。借金なし。プレゼントなの」

 「いいえ、これが私の特権よ。私の退職金は減ってないよ」

 「着いたみたいだ」

 妻、

 「あれ、先輩、どうしてここに」

 「結婚おめでとう。私の特権で宇宙ユニットを使った素晴らしいプランを作っておいた」

 「ありがとうございます。宇宙ユニットは初めてなので参考にします」

 「初めまして、ありがとうございます」

 スタッフ、

 「では宇宙服に着替えて下さい。宇宙ユニットは単体で最高速ワープが可能です。ただ渡航禁止エリアには行けません。本来は宇宙ゴミに注意しないといけないのですが、先日のダンサーが綺麗にしてくれたので、心配は不要です。各惑星に降りる時は専用のステーションに案内されますので、ユニットの指示に従って下さい。あ、結婚おめでとうございます。ユニットはあまり離れないようにセットしておきます。離れるとアラームが鳴るようにしておきます。特にワープ時は自動連結で分離しないよう固定されてますので驚かないで下さい。もし緊急時にはこのコンソールから、ここを押して、緊急を要する内容を伝えて下さい。地球の宇宙パトロールが緊急出動します。その料金はかかりません。宇宙ユニットの使用料金に含まれています」

 二人とも宇宙服の準備ができた、妻は密かに玩具を持ってきていた。宇宙ユニット接続時は手をつなげる事ができる。その時に分からないように触れさせたらいい。外に出ると巨大な宇宙ユニットが接続された状態で用意されていた。

 《研究所》 リーダーが科学者に改良を指示していた。

 「外に持ち出す想定を急いで加えて。何をやってるの。もう」

 「分かったよ。宇宙ユニットでの使用は想定外だ。急いでやる。このまま結婚旅行がスタートすると、女は苦しみ、男は苦しんだ挙げ句、ああ、神のコンピューターも想定が甘いぞ。エクスカリバー。チェック、そこまで興奮させると感動どころでない。エクスカリバー。もう少し興奮した方がいい。エクスカリバー」

 《リーダーの思考》

 黒子が試作機をサポートしなさい。男女関係は一番詳しいでしょう。「仕方ないな。そんな弱点があるとは思わなかった」

 「これなら完璧に近いと思う。ちょっと男を惑わす感じがあるな。男はあとで気になる。エクスカリバー。全然ダメだ。戦略室長と俺を相互接続、オーバードライブ起動、神のコンピューターと接続、再設計開始。よし、それでいい。これ以上は依存症になる。インフィニティ、動作チェック、追加想定のチェックも」

 「終わりました。技術を更新します」

 《日本の宇宙管理センター》

 新婚夫婦は宇宙ユニットの操作説明を受けていた。スタッフに周遊プランの入力をやってもらう。

 スタッフ、

 「素晴らしいプランですね。参考資料として複製しても良いですか」

 「いいわ」

 宇宙ユニット接続、手を握るとき、何かを触れさせた。夫は気付いて無い。ネックレスとして形状変化。

 夫、

 「なんだか、どきどきするね。新婚旅行ってこんなに興奮するんだね」

 「本当ね、宇宙船を使わない惑星旅行は初めてよ」

 スタッフ、

 「まもなく発射します。最初は恐怖を感じますが、次第に慣れてくるでしょう」

 妻、

 「発射した、すごい怖い。速過ぎる。もう宇宙だよ」

 「地球をぐるぐるまわってみたい。いいかい」

 「ええ、宇宙船だと自由がないからね」

 地球を眺めて飽きは来ない。

 「旅行プランを実行するよ」

 「ええ」

 エレベストの頂上からの眺め、世界中の名所を空中から眺める。それから太陽系旅行。太陽の近くへ行っても安全性が保証されている。その壮大な炎の嵐にみとれるが、制限時間が来たので緊急離脱。宇宙ユニットの修復中。

 「太陽をすぐそばで見られて、どんな様子なのか実感できて良かった」

 「修理チームが来るみたいよ」

 スタッフ、

 「太陽は時々ユニットが故障することがあるのです。ああ、リーダー、私です」

 「ああ、いまこんな仕事をしているの」

 「あそこのテストに採用されながら不合格だったけど、毎日宇宙に携われる仕事に就いて結果的には幸せな日々を送っています。すみませんがスケジュールをチェックします。ここは危険で助けにいけないので絶対に中には入らないで下さい。自動回避のチェックを入れておきます。他には、この惑星は最初より最後がいいですね。変更して良いですか」

 「いいよ」

 「終わりました。楽しい宇宙旅行を」

 その瞬間、水星のまわりを周回している。そうして太陽系巡りをした後で、ワープに突入。一瞬で最初の惑星に到着。宇宙ユニットは自動制御に移行している。新規に作られた特別な宇宙ステーションだった。たくさんの宇宙ユニットが駐留していた。本来はビジターであるが、彼らは日本政府特権階級だったので別室に案内された。宇宙服は消えて、本来の服装へと替わった。室内は非常に質素だったが、もてなしは最高クラスだった。いきなり惑星で作られた最高級の酒で、二人は乾杯した。スタッフに誘導されてスイートルームに案内された。そこは非常に豪華な装飾で驚いた。設備の説明が終わると消えた。

 「僕はもう我慢できない」

 「私もよ」

 あの酒は媚薬成分百パーセント、この惑星でしか製造できない観光専用のお酒だった。夫は首に抱きついたとき、妻はネックレスに手を触れた。二人とも抑えられない興奮状態に陥っていった。

 《研究所》 科学者がリーダーに怒られていた。

 「あの惑星の媚薬酒に対応させてないって、どういうこと。このままだと失神する」

 「彼らのスケジュールを全部教えてくれ、歴史干渉は簡単だろう。惑星特有の媚薬酒を俺は知らなかった。地球に無い飲み物や食べ物を神のコンピューターに学習させておけ、そういうのは君の責任だろう」

 「もう。神様、開発の邪魔をしているとみなしていいのかしら。それだとー」

 《神の世界》

 自称神、

 「おまえ、ちゃんと把握しろよ。こっちがイカサマやってるように見えるじゃ無いか」

 黒子、

 「ああ、お前が惑星や宇宙ユニットなどの宇宙に関する技術を教えていない怠慢だろ」

 「その通りだ。すぐに学習して下さい。先程の一回で済ませるように」

 「相変わらず、そういうのはずるいんだな」

 試作機、

 「歴史改竄開始しました。あらゆる宇宙の飲み物や食べ物、宇宙技術の可能性で、地球人のみに絞り込み、その指摘を行って、情報を提供しました。いま開発者と恋人がその酒を飲んでテストしています。修正完了、もう一回、テストします。修正完了。もう一回、テストします。修正完了。もう一回、テストします。最終テスト完了。技術更新」

 「その酒、一人で飲むとどうなるんだ」

 「媚薬成分百パーセントですので、自分の意志に関係なく異性を襲います。飲みますか」

 「飲まない。それまでの結果を何かの目的のために使ってくれ」

 「了解しました」

 「相変わらず、そういうのはずるいんだな」

 「そんなこと言われても。ここでは限界があるぞ。そんな部屋は無いし、誰かを利用する訳にもいかない。よし、媚薬酒の玩具テストは合格だ。彼女からだ」

 伝説のリーダー、

 「究極の大人の玩具はできたかしら」

 「男のイメージで作ったから、女は興奮するだろうな」

 「はぁ、ちゃんと女からみて満足するようなものを作りなさい」

 「冗談に決まってるだろ」

 「それなら、私とあなたで今から使ってみましょう。言葉だけでしょう」

 「ああ、問題ない。インフィニティ、実際に使ってみるぞ」

 「あたし、あなたと結婚したい」

 「俺もそうだ。結婚承諾か、ありがとう」

 「ちょっと待って、何これ。ジョークと本気を分けなさいよ」

 「これで完成だ、何も文句はないだろう」

 「あれ、黒子、ふざけないで、それ本当」

 「ああ、ブラックジョークは言えないようにした」

 「そう、それなら仕方ない。分かった。理由を聞いておく」

 「ブラックジョークを言って動揺しない女は少ないからだ。特別仕様を作っておくか」

 「作らないでいい。それだけ頑張ったなら、仕方ない」

 「五百年以上かかったからな。大変だったぞ」

 「ええ、厳しすぎたかも。彼に謝っておいて。私からはとても言えない」

 「だとさ」

 「相変わらず黒子の悪魔発言は壮絶さを極めているな」

 「何年も相手にしてると手のひらの上で踊らされてる事にも気付かない。それは世界最強の被害者だって同じだ。彼の場合は逆で悲劇が先に起きて代償を払ってもらい、真の願いをかなえてやってる。このなかで一番大変なのは彼とお前だけだ」

 「そうしないといけない。運命のバランスは崩れると厄介な事が起きる」

 「大日本帝国日本が再降臨したら、お前の願いはかなえられない」

 「多層世界の対策は進んでいるのか」

 「道具は揃った。あとは相手次第だ。戦略とはそういうものだ。想定した作戦を立てれば、その弱点を突かれたとき、一気に終わる。完璧な戦略など存在しない。完全なイカサマは存在する。ちょっとやってみるか受精した瞬間に人間の成長が逆行するというのを」

 「可能なのか」

 「見てみろ。こういうことになる」

 「百京人以上いた敵が最初の二十人に戻った。これ以降、受精を行うと自分達が消える攻撃と気付いたようだ。対処のしようが無いようだ」

 「完全なイカサマがあれば、どんな戦略も無効化できる。では戻すぞ」

 「戻しても恐怖のあまり、実行に移せない」

 「こういう指示をすぐに出せよ。恥ずかしいぞ」

 「インフィニティ、今の指示、上手に書き換えて公式記録」

 インフィニティ、

 「非常に素晴らしい作戦でした。公式記録にします」

 《惑星旅行》 新婚旅行は翌朝から続いていた。

 島によって、様々なライフサイクルが行われていた。浮遊する開放感あふれる乗り物によって、探検する。地球で絶滅した動物たちもいるし、恐竜たちもいるが、危ない品種はそこにいない。新婚夫婦に会話はない。言わなくても分かってる。この雰囲気は大事にしたかった。かわいい動物はいっぱいいるが、野生しているから生存競争にあって、乗り物から危険と警告があった。

 「抱いてみたいのに、抱けないなんてじれったい」

 「俺なら彼らの世界を想像してみる。そうして世界を見る。リンクできるだろ」

 「ああ、こんな感じに見えるのね。あなたでないと体験できなかった」

 リンクをすぐに解除した。雰囲気は大事。リンクは些細な苦言まで拾ってしまうマイクのようだから、私ほど慣れてるならコントロールできるけど、昨晩試しに使ってみたらできなかった。おかげでいまもその言葉責めが続いてる感じがする。このツアーは動物園をあえて避けるスケジュール構成になっていた。抱いた経験があるから、じれったいのだ。それにしても彼は本当に視点の切り替えが上手だ。ただ観賞するのではなく、生態そのもので視点を作り、それをイメージする。一緒にゲーム開発したとき、それが一番驚いた。これがゲーム開発者に求められるセンスなのだと理解した。

 乗り物は水中へと移動した。たくさんの魚たちに囲まれて、昼食。人間達に捕獲されない魚たちは無限に多く泳いでいるように見えた。時々、魚の群れに入ると、視界は魚だらけになった。乗り物から惑星で一番美味しい魚を捕獲して調理するかと問われた。生態系には影響しないよう繁殖させていると補足された。

 「食べようよ。魚は食べたことがない」

 「分かった。では二人分、注文。でも食べてるよ。・・・というのが魚」

 「ああ、そんな方法で世界の保護法をすり抜けてるのか」

 「極秘事項だから、他言無用よ」

 「うん、香ばしい匂いが立ちこめているね。美味しそうだ」

 「これはステーションで注文するとこれだけするのよ」

 「本当に、ああ、確かにそれぐらいしないとおかしいよ」

 「海に潜って昼食をとった人だけのサプライズなの」

 「どう表現したら良いのだろう。困るような味だね。日本語にない表現かな」

 「こんなに美味しい」

 「表現に困る味よりも、美味しいと表現した方がいい。でもー」

 「心配なさるな、私の料理の腕はインフィニティ任せだから」

 「十年間、独身生活で鍛えた料理の腕を甘く見ないで欲しい」

 「この魚を超える料理はできるの」

 「それはー、無理だ」

 「私なら超えられる自信がある。インフィニティ任せなら」

 「それ、ずるい。どうやるの」

 「料理開始時に何をやるのか全部フォローしてと言うだけ。身体が勝手に動いて、プロ顔負けの料理をして、完成すると自由になるの。その後、食べてるだけ」

 「俺も料理する機会があれば、そうすればいいのか」

 「妻や子供に男が料理する様子を見せるのは絶対よ」

 「分かるよ。子供の頃、見ていたから、なぜか思い出せる。あんなー」

 「いいの。あれは私でなく、伝説のリーダーの意向なの」

 「伝説のリーダー、どうして」

 「私の仕事は未来と過去の百億光年を監視して平和を維持する仕事」

 「百億光年、それなら伝説のリーダーと話せるか」

 「不思議でしょう。歴史の教科書は真実を書いてない」

 「どのように違うの」

 「一回で平和は成り立たなかった。無限以上人類の歴史を書き換えて存在する」

 「なにが起きたの」

 「古い文献によれば、一瞬で地球の島が海に沈没したそうよ」

 「それでも生きてるということは、過去になにかあったからそうなった」

 「私の仕事を推測できることがすごい。過去の歴史を変えて平和を維持する」

 「なるほど、それなら天空の城や義務教育の島がなぜそうなったのか理解できる」

 「仕事は大変だった。私はまだ二十八歳だけど百年以上生きている」

 「都市伝説の牢屋か、それで訓練を続けたんだね」

 「都市伝説になってるの。知らなかった」

 「ああ、牢屋を使われた技術者がいて、一日百二十万時間で五年間のデスマーチだったという伝説が残っている。その噂を消さないということは意図してやってるのだろうな。飲み会があったとき、必ず誰かは知っている。史上最悪のデスマーチだって」

 「インフィニティの発言制限がかからないのは、そういう事か。普段なら言おうとする瞬間に制限がかかるの。ここだって、例外ではない。インフィニティ、どういうこと」

 インフィニティ、

 「二人とも守秘義務契約を政府と結んでいるからです。何を話しても大丈夫です」

 「だって」

 「こんな遠い場所まで介入できるの。日本の技術って他国が追いつけないほど進んでるだろ。開発コンソールを触っていて、それはとても実感だった」

 「ええ、進んでる。あなたの昔の恋人を出現させたりできる。ほらー」

 フルゴースト、

 「結婚おめでとう」と言って消えた。

 「びっくりした。そういえば開発者会議にでなくていいのか」

 「科学者が新婚旅行に行ってると伝えている。心配性ね、独立するとそうなるのかな」

 「ああ、あらゆることに神経質になる。チャンスを無駄にしたときはショックだよ」

 「あなたは完全なイカサマができる。チャンスは絶対に復活する。私がいるなら」

 「そういう特権があるのか。まだ実感がないな。昨日の夜を再現できたりー」

 「そうね、フェアに再現しましょうか」

 「どうだった」

 夫は無言でキスする。最高魚の味がした。五分ほど続いて「ありがとうー」と言った。それから食事は片付けられて、ツアーは再開した。次は巨大魚のツアーだった。ものすごい速さで海の中を泳いでいく。そして無言のまま、ツアーは終了した。

 新婚夫婦の惑星旅行はまだ続く、宇宙ユニットを使えば星の制約が無い。

 《弟子の研究所》 弟子は忙しかった。

 弟子、

 「リーダー、怠慢のチェックを代行してくれませんか。どういうのが怠慢に該当するのか分からなくてグレーに感じる会社もあります」

 「いいぞ、リーダーって、なってみると意外に暇だ。産業革命を起こせそうか」

 「私が脅してきたところは順調だけれど、他はダラダラやっていて気になるの」

 「この二社は私が行ってくる。君の代行者という権限が欲しい」

 「承諾。厳しく言ってきて」

 弟子のリーダーはテレポートしていった。

 進(しん)捗(ちょく)状(じょう)況(きょう)を観察する。いきなり怠(たい)慢(まん)認(にん)定(てい)か。フルゴーストで本来の仕事風景を再現、これぐらいでないと怠慢と認定する。他の会社でもこれぐらいは当たり前だ。ダラダラやるな。しばらく監視していよう。と言ってフルゴーストをインフィニティに任す。インフィニティはすぐに牢屋時間を体験してみたいかと問う。すると体験したいと誰かが言う。誰も言ってないのに。一時間だけだぞ。牢屋時間突入。それからスパルタだ。躊躇したら躊躇する原因をすぐ言う。素直に従うと問題なく進行する。管理責任者の態度についても厳しい。褒める練習をさせられている。フルゴーストが分離して、それぞれにスパルタ教育をしている。

 弟子のリーダー、

 「進行状況は良好か。いつでも報告があれば、汚い仕事はいつでもやる」

 「ありがとうございます。この個人開発者が失恋で進行が遅れています」

 「どんな失恋だ。インフィニティ、過去に戻ってきちんとフォローしろ」

 インフィニティ、

 「あのような展開になると予想してなかったので、許可ありがとうございます」

 個人開発者は生き返った。ふられた事実は覆らなかったが、引きずるような言葉は浴びせられなかった。むしろ応援された。頑張ったら、私は待ってると言われた。個人のゲーム開発が仕事、それはアマチュア小説家と大差ない。仕事があっても平均年収に届かないことはみんな知っている。貯蓄額を見せてと言われて正直に見せた。話にならないと言われた。

 弟子、

 「私、いまからこの個人開発者をサポートしてきます」

 「分かった」

 弟子は消えた。

 《失恋したばかりの個人開発者の開発部屋》 汚い部屋だった。

 弟子は到着するなり清掃と空気の鮮度を入れ替えた。リンクシステムを共にオーバードライブ状態にした。そして問題点を列挙、恋愛のアドバイスも混ぜる。そうして一時間後、製品寿命十万年を達成した。だけどまだ究極の娯楽を目指すように指示して、開発者の知能指数を最大にして考えさせる。元に戻した。製品寿命が百万年になった。弟子はこれで完成、これ以上やると自己満足が感じられる。比較映像を送り、どのように変わるのか教えた。開発者本人がその境地を理解できるまで続けた。そうして開発者が振り返ると、そこに誰もいなかった。部屋が非常に綺麗に磨かれていた。これで登録。ダイジェスト作成、メディア用映像作成。インフィニティ、メディア向け映像を修正。ダイジェストは問題なしか。製品共有。指定されたメディアへ映像を送信。

 他の部屋に行くとすべて綺麗に清掃されていた。メディアから訪問して良いか聞かれる。承諾。メディアが来た。汚かったら呼べなかった。居間でインタビューに答える。その後、帰って行った。すぐ昼のニュースに流すということで、スクリーンを見ている。トップのニュースで流れていた。監修者が手引きしたのだろうか。そしてインタビューが賢い構成で放送された。直後メッセージが来た。昨日、振られた彼女からだ。

 「いまニュースをみた。こんなに素晴らしいゲームを作っていたのね。昨日の発言は取り消す。また会いましょう。次に会えるクラブを教えて、遠くても会いに行く」

 涙がこぼれていた。この仕事を選んでから、最悪の仕事を選んだと思った。自己都合の退職は転職斡旋会社から不利ですと伝えられていたから、変えられなかった。監修者が突然、開発状況に介入しながら、恋愛のアドバイスをしていった。最終的に完成させて立ち去った。今月の収入から思い切って自動清掃ロボットを買おう。自分で掃除するのはどうしても無理だ。開発はとても頭を酷使する。その結果、部屋の状況まで気が回らない。インフィニティ、安くて、この状態を維持できる、清掃ロボットか清掃機能を部屋に取り付けて欲しい。

 インフィニティ、

 「監修者からのプレゼントです。家全体に清掃機能を付加しました」

 「ありがとうございます。と伝えて下さい」

 居間に新しい端末が追加されていた。全自動になっていて、それ以上の表示は無かった。試しにゴミを作って、捨てようとした瞬間に消滅した。ひょっとしてと思い、台所に行き、貯蔵庫を見ると賞味期限が切れたものは処分されていた。いまはほとんどガラガラだ。

 開発コンソールに戻ると、みんながゲームの評価をして素晴らしいという内容が列挙されていた。完成版のゲームを遊んでおこう。ぼんやりとは把握しているけれど、完全には把握してない。こんなに面白いゲームにしたか、この開発システムの危ういところは開発者が完成品を把握できないことかもしれない。ゴミ屋敷は理解できるコンセプトがシンプルだった、二つ目はどうみても自分で検証しないでインフィニティ任せにして評価して、そのまま結婚旅行に行ってしまった可能性が高い。これでいいのか。

 インフィニティ、

 「いいですよ。プレイ状況を終わった後に暗記させるのは無料です。そうしないと、それだけで一年以上浪費してしまいます。そのゲームも例外なく、検証をやると普通に三年かかりますので、暗記で終わらせましょう」

 「それなら仕方ない」

 「これで把握できたでしょう」

 「とても面白いゲームで完成していた。少し悪い点を残したのは、ゲームの完全制覇を達成したと思わせない気分にさせるためか。これを超えてしまうと、確かに完璧になりすぎて、自己満足で終わっているゲームへと退化するな。あの踊りはこの境地を超えないように注意していたから、ひとつだけ欠点を残した。それでも評価は最高だった」

 「その通りです。それが評価される娯楽の要素です。微妙なバランスの上にあって、悪いところは必ずあって、そのリスクを背負ってもゲームの娯楽を追求する。監修者は失恋して進行状況が遅いのを確認して、歴史に干渉しました。そして未来を監視して、どうにもならない事を確認して、あのような行動に出ました。全員が幸福になれなければ、このプロジェクトは失敗です。あの部署はそれを要求される部署なのです」

 「なるほど、なぜ彼女からメッセージが来たのか分かった。相性はどうなんだ」

 「完璧ですよ。ただ彼女が職業に対する先入観があっただけです。恋愛のアドバイスは私から行ったものです。勘違いなさらないように」

 「なるほど、あの若さで、あのような助言ができるのは不思議に思っていた。インフィニティが話し相手になってくれるから、孤独というプレッシャーにならずに済んでいる」

 「ありがとうございます。多くの個人事業主の相談を受けてきましたが、一番多い相談が、話し相手になって欲しいでした。相談回数が多いと、女性の声で、年下の娘とか、異性のなんでもない話し相手が必要なのでしょう。結婚している場合は当然有料です」

 「俺だけじゃないのか。ゲームのように秘密を抱えていると発狂しそうになることがあるから、話し相手は絶対に必要だ。前の開発の仕事は単純作業だったから何も考える必要は無かった。俺の彼女は結婚願望ってあるのか」

 「ありますが、ソフトが発売されるまで、我慢の恋愛を続けた方がいいでしょう。彼女は無責任な態度を一番嫌います。ソフトの展示会を手伝って欲しいとか、ゲームのテストプレイをしてみてほしいとか、なにか仕事を与えて役に立っていると思わせると良いですね。頼りにされていると感じると幸福感を持つタイプです」

 「先は長そうだ。これまでの失恋経験から自信が持てない」

 「それなら雇って二人で仕事をしてみてはどうでしょうか」

 「ええー、でも雇う金は無いよ」

 「あの日から四年間に限定して平均年収は全員統一です。それを利用する予定の個人開発者はいますし、既に会社の増員を決めたところもあります。四年も結婚しないならリスクはありますけどね。個人事業ですから社内恋愛に制限はありません」

 「どうしようか。いますぐ、メッセージを送った方が良いか」

 「早いほうが良いですよ。転職先が決まってしまいます」

 「いかにも俺が書いたようなメッセージで仕事を一緒にやらないかってメッセージを送って欲しい。女性へのメッセージは特に自信が無いんだ」

 「ではリンクします。それだと強引すぎますので、このように丁寧に。これでいいでしょう。では収入明細書を含めて送ります。収入が二割アップなので条件は問題ありません。仕事に慣れてくるまで思考支援してもよろしいでしょうか」

 「思考支援、監修者が行ったようにインフィニティが支援するのか」

 「そうです。思考干渉はこんな感じ、犯罪です。思考支援はこんな感じ、合法です」

 「なるほど気に入らない考えの時は無視すればいいのか」

 「違います。無視できません。あたかも自分が考えたように錯覚します。それは経験として残りますが、思考干渉は残りません。彼女からコールがあります。どうしますか」

 「頼む」

 「コールレシーブ」

 「履歴書も見ないで採用を決める理由。どういうつもり。構わないけど」

 「この仕事は孤独との戦いだ。ゲームは秘密がある。話し相手がいないと辛いんだ。いまゲーム産業の政府支援で三年間は平均年収を得られる制度があって、ゲームの開発はそれで大きく変わった。まずは発売前に作ったゲームのテストプレイをしてほしい」

 「ええ、テストプレイ。私、かなり厳しい評価をするけどいい」

 「ああ、構わない。日本だけでなく世界中に販売するから多様な視点を必要としている」

 「分かった。本当は私がそばにいてくれた方が良いんでしょう」

 「うん」

 「いいよ。分かった。この仕事の契約が終わったら、そっちに行くよ。またね」

 「いま思考支援をしました。うまくいったでしょう」

 「ゴチャゴチャ理屈を話しそうになったら、素直になれた。慣れるまでこうしてくれるか。やっぱり失言を繰り返してしまいそうだ。こんなわがままいいのか」

 「はい。日本政府の支援とはそこまでやるぞという意味です。ただ契約期間終了後は必要に応じて有料相談料が必要になりますので、無駄な出費はできるだけ避けて下さい」

 「その目安はどれぐらい」

 「この金額です。マーケティングが成功すれば、大した額ではありません」

 「ちょっと信じられないな。平均年収を超えた年収はどうなるんだ」

 「加算されます。契約期間は産業振興の為、非課税になりますが使わないようにして下さい。そうしないと、契約完了後、まもなくして背負えない借金を背負い、破滅します」

 「分かった。借金するような無理をする前にインフィニティに相談すること」

 「そうですね。それが一番安全です。いまも思考支援は続いています」

 「ありがとう。でも結婚しても有料相談料が必要になるのか」

 「いいえ、究極の大人の玩具によって無理矢理、相思相愛の仲になります」

 「飲み会で話は聞くけど、新バージョンは凄いらしいな。自分の苦手や内緒にしていることをさりげなく話して、相手を説得させるのが上手いとか。信じられないけど」

 「そうです。あなたにそんな友人はいない、なぜか話せる。慣れて下さい」

 監修者もすべてのシーンでこれを利用している。そうでなければ、あんな人数の年代が違う人達をまとめられるはずがない。ははは、面白すぎて癖になる。家のチャイムが鳴った。誰だろう、もう来たとか。

 新しい従業員、

 「よろしくお願いします」

 「待っていたよ。まず政府の契約書にサインしてもらう。それで採用だ。開発部屋まで来て欲しい。こっちだよ」

 新しい従業員は完璧に清潔に保たれた家に驚愕した。そうして案内されると、開発用コンソールと思われるものがあった。

 「ここに座って、インフィニティ、新しい従業員を採用したい。政府機密保持契約書を用意して欲しい。このコンソールに内容が表示されるから、しっかり読んでからサインして欲しい」

 「こんな破格の条件なの。驚いた。それで適当な理由をつけて雇用すれば、政府から収入が入るけど、怠慢を認定されたら最悪が待っていると。怠慢の条件は書いてない」

 「理解できたらサインして、仕事の説明に入るから」

 「分かった。サインするしか無いのでしょう」

 インフィニティ、

 「承認しました。いまから開発コンソールと様々な事情について暗記させます。目を開けていて下さい。閉じるとそれだけ時間が延びます」

 「終わりました。怠慢の主な条件とはなんですか」

 「一年目に最低一本のゲームを要求水準で作ること、四年目に同じ水準で一本作ること」

 「それでここは怠慢の条件は満たしていますか」

 「既に一本完成しているので、いかなる条件でも怠慢とみなされない」

 「正解です。彼が代表なので、指示に従って下さい」

 新しい従業員はどんな場所に来てしまったのか、判断できなくなっていた。なにをしていても代表者に従っていれば怠慢と見なされない。つまり彼と好きなことをしていても何も問題ないけど、四年後は収入保証は無い。開発の内容は、ああこんなにも簡単、ただゲームの概念を想像していくだけ。人間に無理な事はインフィニティのフルサポートがある。契約期間後は有料になる。四年以内にベストセラーを作れば、どうにでもなる。彼は孤独が辛いと言った。私の本業のカウンセリングで十分なのかな。

 「あのー、いいかな、いまから仕事の内容について話したいんだ」

 「ごめん、考え事していた。どうぞ」

 「最初の仕事は完成したゲームを遊んでみて問題点を無くすことだ」

 「そんな仕事やりたくない。もう結果が分かっているのでしょう」

 「ああ、分かってる。このゲームの製品寿命は、百万年以上の完成度で落ち度は無い」

 「私の本業はカウンセリングなの、自分の悩みを素直に打ち明けてほしい」

 「ああ、俺は時々、女の扱いが下手だから、いまインフィニティの思考支援を受けてる」

 「うん、素直なところが気に入った。本当にやりたい仕事はなに」

 「ゴミ屋敷というゲームを知っているか。あれは個人開発者一人で作った。一ヶ月程度で二つの要求水準を満たしたゲームを完成させた。二作目のダイジェストを遊べるが、やってみるといい。とても一人で考えたとは思えない。その後、すぐ結婚旅行に行ってしまった。宇宙ユニットを使った惑星旅行だとか。少なくとも、もう一本は要求水準を満たしたゲームを作っておきたいんだ。そのゲーム開発に参加してほしい」

 「ええ、宇宙ユニットの惑星旅行って、金持ちしか行けない旅行よ。ああ、開発コンソールの設置場所ここでいい。どんなゲームか確認する。リンクシステム起動。把握した。このゲームは相当に訓練されたプロジェクトリーダーが調整していると感じた。この開発者の年齢はどれぐらい」

 「二十代後半だと思う」

 「それなら政府機関の特権クラスと結婚したはずよ。ずば抜けて頭が良い人が妻になって、その特権で作った可能性が高い。その理由は守秘義務があって言えないけど」

 「そうか。なるほど君はそういう視点の推測が得意なのか。僕にとって、それは難しい事だ。一緒に仕事をしよう。既にゲームデザインを考えているものがある」

 「もうあるの。先に作ったゲームのダイジェストを遊ばせて、把握した。これはマーケティングさえ上手にいけば売れると思う。厳しく評価してね。では始めましょう」

 「ああ、リンク開始」

 そうして夜になった。彼は中断した。

 「ええ、まだ続けられるよ」

 「ダメだ。個人開発業というのは甘くない。この家の空き部屋を借りるか、それか帰るか、どっちがいい。どっちでもいい」

 「空き部屋を借りる。引っ越しはー」

 「分かった。インフィニティ、彼女の引っ越しをよろしく」

 インフィニティ、

 「いいですか、承諾すれば部屋ごと移転させられます。無償です」

 「わかった。お願い。前の家は完全に綺麗にしてから解約してほしい。私の部屋には入れないようにセキュリティをかけておいて。彼が見ると引くから」

 「分かりました。終わりました。ちょうど隣の部屋に移転させました」

 「ありがとう、では休みます」

 彼女は隣の部屋に入った。その瞬間、驚いた。散らかっていた部屋が完璧に綺麗になっていたからだ。これならセキュリティかける必要はなかった。この家には清掃機能付きだったのか。家の外観に完全に騙された。外にでてコントローラーを探す。どこにも無い。部屋のどこかにあるのかな、居間にあるこれ、全自動とあるだけ。他にはそういう設備は無い。そうしていると彼と会った。

 「どうしたの。清掃機能に驚いた」

 「ええ、驚いた。どういう仕組みで動いてるか分からないから」

 「そりゃそうだよ。政府の特注品だから、この小さな端末だけで処理している」

 「なんで、高いでしょう」

 「開発していると部屋が散らかりやすいんだ。相談したら無償で設置してくれた」

 「私も正直言うと、人の話を聞き続けるのは疲れるの。だから散らかっていた部屋を見せられなくて、セキュリティをかけた。外しても構わないんだけど」

 「いいんだよ。それで。もし運命に導かれるのならば、その時でいい」

 「そう」

 彼女は自分の部屋に戻って、夕食を注文した。思っていた以上に素直な男だった。インフィニティの思考支援を受けていたっけ。どこまでが本当か分からない、インフィニティ、私の相談はかなえられたの。

 「はい、かなえました。ただ彼の指示で、あなたが不満に思うことは慣れるまで、支援するように言いました。彼の失恋回数を知れば、どれぐらい悩んでるか分かりますよ」

 「こんなに、それならトラウマになる。いい、そのまま続けていて、彼が安心するまで続ける。時々、私のカウンセラーとしての実力を試すような言葉を使って、せっかく身につけたカウンセリング技術を忘れてしまったら困るから」

 「いいですよ。成功報酬はすべてが終わったら引き落とされます」

 「分かった。彼のゲームはどれぐらい売れるのか予想を知っているのでしょう」

 「予想でなく確定値、初年度がこれぐらいです」

 「いきなり金持ちになる」

 「でも彼にも言いました。四年後は甘くありません。すべて貯蓄して必要に応じて使って下さい。半分はインフィニティの有料相談料で消えます。これはすべての開発者に伝えています。借金して事業拡大をしようと企む業者が増えます。あなたは率先して、彼らを追い払って下さい。あなたの実力であれば、どんな営業トークも突破するでしょう」

 「そんな面倒な方法でなくて、ドアベルに細工して用件を開発コンソールに送ってほしい。それなら可能でしょう。開発コンソール代金だけで。ドアベルは端末の一部」

 「今からそうします。ドアベルを端末の一部として接続、理由は悪徳業者にゲーム産業を潰される危険を回避するため。公式記録。でも閲覧権限はどうしますか」

 「私が責任持って把握するからと彼に承諾をとって」

 「私を通さないほうがいい。今から行って下さい。隣の部屋です」

 「どうした」

 「悪徳業者が寄りつかないようにドアベルから寄せられた用件は私が対応する」

 「ああ、頼む」

 「すんなりうまくいったでしょう」

 「怠慢はしない。結局、インフィニティが思考支援してるから私の意見はすべてー」

 「通りません。あなたも悪い癖をなおして下さい。ちょっと習慣にしようと気を付けていれば大丈夫です。それからカウンセリングの仕事と、比べて今の仕事の方が楽ですよ」

 「それは確かに思う。ゲーム開発があれほど簡単になってるとは知らなかった。概念を並べていくだけで、インフィニティがゲームの設計をする。他の国が秘密を知ったら慌てるでしょうね」

 「遠い未来にはこの技術を共有します。それが伝説のリーダーの意向です。それまで、日本はできる限り先行します。あなたは他の開発者とは違い、カウンセリングの技術を持っています。開発コンソール専用で有料化後、カウンセリングソフトを作っておいてはどうですか。完成度が高ければ小遣い稼ぎにはなりますよ」

 「ああ、四年間の間にそういうものを作っておいても良いのですか」

 「はい、問題ありません。ゲーム開発関係は共有してないと怠慢とみなされますが。開発コンソールでカウンセリングが可能であれば使う開発者は多いと思います。私に相談すると的確すぎてプレッシャーが逆にかかってしまう問題はあります。脳スキャンすると無料では不可能で、有料相談になります」

 「ありがとう。開発方法が分かってきたら作ってみます」

 「いいえ、概念を明日からでも思いつく限り登録していく方が良いでしょう」

 「分かった。そうする」

 私の願いはかなえられそうか。インフィニティの結婚相談は噂通りに完璧すぎる。本当にそれぞれが幸せになれる相手を探してくる。問題があれば、どういう問題対処をすればいいのか教えてくれる。あとは最新型の玩具の噂だ。完璧なカップルで個性を維持したまま関係を良好にしていくらしい。悩み事が自然に解決するとか、驚くような内容だった。それが日本では無償提供になっている。そのかわり、それを使っても離婚した場合、強制労働が待っている。両親が使ってたのは英語版だったけど、実際に使ったところを見せてもらって恥ずかしかった、すごい玩具だった。普段では絶対口にしないような言葉がスラスラと出てくる。それもごく自然に、あれには驚いた。だから、インフィニティの結婚相談を使って相手を探し、玩具があれば幸せな人生が送れると教えてくれた。

 《弟子の研究所》 翌日の開発者ミーティング。

 新しい開発者の紹介、前職は実力派カウンセラーで個人開発者のゲーム開発に参加。カウンセリングの相談はどうしますか、有料で設定しても構いません、料金はこれでどうですか。リンクシステムを使えば一瞬で終わりますし、聞くストレスはありません。では有料相談料を徴収して秘密は守ると、インフィニティそれができる機能を追加して下さい。まだ一本目が難航していて困っているのであれば、こちらに余裕がでてきましたので直接指導に行きます。展示会場の広さはこれぐらいで、いま占有率が四割ほどです。できるだけ二本目を完成して下さい。それから・・・社の方は技術を共有して下さい。怠慢と認定します。こちらは完全に把握しています。分かりました、怠慢執行者を向かわせて、それが怠慢であるかどうか確認させます。

 「リーダー、・・・社の技術の独自保有が怠慢になるか調べてきて下さい」

 「分かった」

 そのほかに問題は起きていませんか。プロジェクト管理などゲーム関係でない技術については四年間の間に開発して、有料化後に開発者同士で販売しても構いません。怠慢執行者は日本最高の管理能力を保有しています。逆らうと痛い目に遭いますよ。そうでしょう。A級パス保有者ですので、抵抗できませんから注意して下さい。そういう開発はゲーム関係ではないので問題ありません。でもなるべく共有して下さい。それが日本の強さになります。インフィニティが常時監視しているので悪用される心配はありません。ゲーム関係でないのなら有料化後、インフィニティが適正額を示すのでそれに従うのであれば有料化のルールを作りましょうか。多数決をとります。了解しました。インフィニティ、この条件を適用して下さい。有料化後の技術共有は有料にできますが、四年間に思いついた技術はすべて共有して下さい。それらはすべて把握しています。最も苦しいのは五年目です。それまでに技術の蓄積が達成されてないと、多くは失業します。インフィニティから助言された通り、高額の収入を得ても使わないように、インフィニティの有料相談料は高額ですので気を付けて下さい。それから、全員に伝えます。仮想空間について覚えているのならインフィニティの無料相談所に行って、仮想空間について質問して下さい。かなり開発が楽になります。この開発コンソールの最終的な設計は仮想空間を使って設計されています。ですから、私はどういう設計図になっているのか把握していません。でも完璧に動作しているでしょう。仮想空間は頭が良くなり過ぎるので、ゲームバランスの調整には使わないようにして下さい。難しくなりすぎます。

 「・・・社で粛正してきた。そのまま技術保有するとアイデアが漏れるので、技術としての分離を手伝ってきた。インフィニティ、ゲームのアイデアと技術を分離する機能を追加して下さい。これからの開発では、この機能が必要となります」

 「分かりました。追加します」

 インフィニティから追加機能の説明があります。ゲームのアイデアと技術が混在して分離が不可能な場合などに使える技術分離機能を追加しました。こうした悩みはすぐに相談して下さい。適切に対処します。どうですか、インフィニティはすごいでしょう。この開発コンソールを設計できるぐらい技術の設計が可能です。開発コンソールにこういう付加価値があると開発が便利になると思ったら、それのアイデアを提供して下さい。その対価は別途支払います。あと他には無いでしょうか。いいですね、では終わります。

 「リーダー、ありがとうございます。気付きませんでした」

 「いいんだ。最初からのスタートは困難が伴(ともな)うのは当然だ。しかしプロのカウンセラーが参加する、インフィニティ、ああ分かった。そういう事か。個人開発者は孤独との戦いだからな。リーダーになるのも孤独との戦いを制さないとなれない」

 通常業務に移る。質問はかなり減ってきた。製品寿命十万年に届かない場合の相談が増えてきた。それはインフィニティでないと答えられないケースが多いので、私は暇になってきた。先着順で手伝いを希望する開発者はいますか、とても暇です。はい、締め切り。

 「リーダー、開発者のサポートに行ってきます」

 「勤務態度は最高だ。活躍してこい」

 《とあるゲーム開発会社》 弟子はいきなり、その場にいた。

 弟子、

 「サポートが必要と聞きました。早速、始めましょうか。希望者多数なので、私はイカサマを使います。日本では私にしか権限がありません」

 オーバードライブ起動。世界観が決まらないか。リミット解除、リミット。これでどうでしょう。あとはいいですか。ゲームの問題点の列挙は行います。ではまた。

 「それでは失礼します」弟子は消えた。

 「仕事が異常に速過ぎて、何日も悩んでいたのが嘘みたいだ。インフィニティ、彼女が使った技術の使用料金はどれぐらいになる。地球が買える値段か。それぐらい極秘の技術なんだろうな。ともかく世界観が完璧になって良かった」

 「問題点の列挙は私達がどのように悩んでいたのか、一瞬で分かるような具体性で列挙されていた。本当に速いよね、仕事の進め方が全然違う」

 「来てから三分経過しないで、仕事を終わらせた。なにかイカサマしてると言ってたから、きっと先程の仮想空間と関係するのではないか。みんな、ちょっと中断して、インフィニティの無料相談所で仮想空間について聞いてこよう」

 「そうだな、たぶん何かのチェックをパスしないと使えないと思う。総当たり戦で行くぞ。全員、いったん中止。仮想空間について聞いてきてほしい」

 《インフィニティの無料相談所》

 相変わらず、ものすごい行列だ。それでもスムーズに流れていく。三十分後には相談所に入った開発者がいた。

 インフィニティ、

 「今日は何の相談ですか」

 「仮想空間について」

 「分かりました。あなたは日本政府との誓約を交わしています。教育内容を復習します。それで仮想空間はいつ覚えましたか」

 「小学一年生です」

 「では仮想空間について今から基礎と応用について学習します。もし今後、新規採用時には仮想空間が使えるかどうかを問い、使えなかったら採用後にすぐ仮想空間について学ばせて下さい。義務教育後、五年を経過するとかなり忘れてしまいます。忘れてしまった場合は有料相談で小学一年生の義務教育を復習したいと内容を限定して下さい。それ以上、仮想空間についての秘密漏洩(ひみつろうえい)は国家反逆罪に問われます。いいでしょうか」

 「分かりました」

 《先程のゲーム開発会社》 全員が仮想空間をマスターしていた。

 「採用マニュアルに仮想空間の会得できなかったら、小学一年生の義務教育の復習をさせると明記しておきなさい。それ以上は書くな。無視したら担当者は更迭(こうてつ)と書いておけ」

 「どれだけ楽になるか試したら、大きな差を感じられた。もし有料相談料を払っていれば、年収の十年分が吹っ飛ぶことが分かった。小学一年生だけだと月収分だけで済むらしい。だけどそれについては記録に残さないように言われた。他言無用とも。絶対に書こうとすると書けないとも言っていた」

 「ではみんな仮想空間を使って開発を再開する。もう終わったのか。ではもっと娯楽を追求した内容を考えよう。製品寿命十万年とは言っても、ゲームの品質はそれぐらいを要求水準としてるだけであって、売れるかどうかは結局競争だ。四年間は日本政府がマーケティングを手伝ってくれるが、五年目以降は競争になるだろう。マーケティング用の資金だけでなく、銀行との良い関係が必要になるだろう。とにかく売上げは非課税になり、そしてそれを貯金するようにインフィニティから指示が来ている。未来が分かるという情報もあり、それを無視するわけにはいかない」

 もうインフィニティに頼らなくても殺人的なゲーム指標の計算が自分で可能になっていた。リアルタイムに製品寿命がどのように変化するのか分かる。製品寿命と究極の娯楽は違う。究極の娯楽を目指さないと売れない。売れなければ製品寿命は意味が無い。すべての開発者が仮想空間を使えるのなら、競争激化は避けられない。競合する娯楽がどんなものであるか完全に把握させた上で、仮想空間のマスターを指示してきた。

 「採用マニュアルの件だが、クラブで娯楽について完全に学んだ上で、仮想空間の会得を指示するように変更。いきなり、これが使えると怠慢が高い確率で発生する」

 「それは思う。娯楽を理解してないのに使えると、つまらないゲームが作られてしまう可能性が高まって、将来、倒産する危機が訪れる。娯楽は確か時代によって定義が変わると言っていた。クラブに限定しない方がいい。究極の娯楽とは何か極めることを条件にしたほうがいいだろう。それは世界最高でなくていい、自分の限界でいい」

 「そうだな。そうしよう。戦略室長は知恵を使った争いにするように指示してきた。この時代ではダンシングプラスが発売され、ダンスブームが起きて娯楽の代表例となったと書いておこう。それであれば、引継ぎ後でも臨機応変に対応できるだろう」

 《弟子の研究所》 疲れた表情で弟子は戻ってきた。

 「酒を許可する。疲れただろう」

 「ありがとう。オーバードライブを三十回連続で違う内容で使うと疲れる」

 弟子はインフィニティの酒の改良版を飲んだ。仮想空間のマスター状況、前リーダーだけだけど、オーバードライブの特権を与えてるなら必要ないか。質問内容は私が答えられるか自信が無い内容で、完全にインフィニティ任せになっていた。そうだ、究極の娯楽を理解しているかチェックするソフトを作っておこう。仮想空間を覚える前のチェックツールとして使われたら良い。

 「インフィニティ、私が目指した娯楽について理解度をチェックするツールを作って、それを歴史の状況に応じて変化させてほしい」

 「それですが、もう既にアイデアが寄せられて作成しました。歴史の状況に応じて変化するのは今後への指示としておきます」

 「みんな、かなり賢くなった。そろそろ、インフィニティ、あれの指示を言っても大丈夫よ。様々なアイデアがあるから」

 「そのアイデアを調査しましたが、まだ甘いです。寝ている時でも仮想空間を使えるように、あれを改造しておいた方が良いでしょう。今の状況なら一億分の一の性能が出せるでしょう」

 「えー、そんなに速いの。信号速度を絶対的に速くする必要があるけど師匠が作った技術はなにかある」

 「ゼロタイムを駆使しながら信号を無限に高速化する技術を作りました」

 「そんなイカサマを使ったの。絶対速いに決まってる。そのアイデアを使って、応用を考えても大丈夫」

 「このような技術を使っています。超極秘技術です。博士が許可すれば可能です」

 「分かった」

 通常業務に戻って、サポートを続ける。リーダー達は十八世代の攻撃に備えた訓練を行っている。睡眠装置の改良で寝ている間に仮想空間を使う。できた、性能アップを師匠に依頼しよう。「面白いものを思いついたな。改良したぞ。どういう風に改良したのか説明を加えておいた。学んでおきなさい」師匠はかなり性格が良くなっている。恋人の影響かな。説明はとても分かりやすい。特別宿舎の睡眠装置を更新。二本目でダンス練習ソフトを作りたいか。既に究極を作って売ってるからダメ、他のゲームジャンルで登場するなら可能。

 「インフィニティ、この会社にいま流通しているダンスソフトを一日限定で公開して、究極ではないほう」

 「一時間限定のほうが良いでしょう。公開しました」

 一時間限定のほうが丸投げしないで全員で確かめるだろう。インフィニティはプロジェクトの管理が少しずつ改善されてきているし、どの方法が効率が良いか計算しているようだ。全員で共有するべき内容と、そうでは内容を区別するようにしよう。技術の共有が停滞している。予想通り、怠慢が始まった。

 「リーダー、全員の仮想空間を調査して技術共有の怠慢がないか調べて下さい」

 「分かった。仮想空間は技術の蓄積が可能だ。インフィニティ、強制的に技術と分離して共有を自動でやるように、不満を口にした途端に、執行猶予を言い渡せ」

 「分かりました。実施しました」

 百万以上の技術共有がなされた。それは毎秒三百件ペースで増えている。開発フレームワークの更新情報は速過ぎて何が表示されているのか理解不能だ。それと同時に開発中のプレイ映像がどんどん進化していく。

 「インフィニティ、怠慢になる条件に仮想空間の技術蓄積が対象であることを伝えて」

 「既に伝えてあります。誰も不満は口にしませんでした。むしろ喜んでいます」

 「なぜ」

 「表現の限界が消えたからです。四年間でフレームワークを完璧なものにしようとする全員の意志を確認できました。出し惜しみすると、どれだけ自分に将来の障害として跳ね返ってくるのか理解した人が大勢います。クラブのパーティは続けて下さい」

 「毎回、私が司会だと疲れるから、幹事は私がやるから、司会を公募して下さい」

 「公募したら応募多数です。私なりに選抜します」

 それなら、さっさと司会を任せたら良かった。選抜結果が分かった、相当に厳しく何をするのか求めたのか。そして展覧会まで予定が全部埋まった。前リーダーの夫が展覧会前で司会か、楽しみだな。それまで旅行しているのかな。あの婚約予定の開発者も司会をするのか。彼でなく彼女の方、内容はゲーム開発における精神管理について。みんな議論したい内容が有益なものばかりだ。師匠からだ「伝説のリペアマン、まだ途中だがどういうものか共有しておく」チェック、これは永久に売れるゲームを目指しているのか。監修者の評価はパーフェクト、伝説のリペアマンの開発途中ダイジェスト共有。現段階で開発完了を含めてトップだろう。表現は古い世代のままか。

 「インフィニティ、師匠にフレームワークの最新版を随時更新してほしい」

 「それはやってます。あえて、あのダイジェストにしてるのです。完成版を既に知っていますが、それはもう完璧すぎて誰も超えられない壁です」

 「なんでダイジェストを出したの」

 「それは仮想空間の使い方がへたくそだからと言っていました。ダイジェストの最後には仮想空間の使い方が丁寧に説明されています。ただ、あなたには見せるなと厳命されていますので、省略しました」

 「そう」

 「気にしないで下さい」

 師匠に聞いてみる。「内緒だぞ、仮想空間のバンクに入れておくから、そこから持ち出すなよ」ああ、このように使えば楽なのか。

 「インフィニティ、直接あれを改良しても大丈夫。プロテクトしてほしい」

 「分かりました。大丈夫ですよ。設計図を反映させてしまえば分かりません」

 早速、改良を進める。ああもう、スイッチのように設計図の中でショートしていくだけだ。もう作ってあったのか。「気付くの遅いぞ。あれは彼女には書けない。分かったな」師匠、ありがとうございます。更新完了。なぜか段々とパーフェクトな男になってきている。なぜ。「ああ、それは俺の発明した玩具のせいだ。思考支援を繰り返すことで女性にとって最高の男性になるような仕掛けがある。女性もな。秘密だぞ」そんな玩具なら浮気は絶対にできなくなる。インフィニティの無料相談所で浮気相談の件数は、新しい世代に更新した時期を対象にするとゼロだ。

 「リーダー、玩具を最新世代にするアップグレードを始めたらどうでしょうか。浮気の相談件数がある時期から激減しています。日本人の幸せを考えるなら必要な処置です」

 「インフィニティ、どういう事だ。ああ、これは必要だ。大統領に指示してほしい」

 「分かりました。政策としてではなく大統領権限で関係部署に指示します」

 「いまの提言は素晴らしい。私は気付かなかった。ありがとう」

 仕事がとても早い。もうニュースになっている。アップグレード費用はそれほど高くない。平均月収の一割ほどだ。アップグレード希望者が殺到している。浮気が激減しているという情報は流したのか。それと同時に日本旅行客のお土産ランキング上位になっていた。この玩具はまだ日本しか流通させてないけど全言語対応だ。政府方針としてはアメリカとの協調関係を維持するため、日本国内のみの販売に限定するとされていた。

 教育改革はどうなったのだろう。すぐに取得すべき単位が変更になったのか。大学は日本政府から技術提供して、ハイクラスの技術を学ばせる内容へと変更。学生は真剣に取り組んでいる。大学院はもっと難しい内容に変更するように迫られているけれど、かなりの先生がその要求を満たすだけの実力が無いから、授業はインフィニティが代行している。私の学校は相変わらずランキング一位か、寮の部屋ってどうなってるんだろう。恥ずかしい。運動部はダンシングの飲用が許可されているのか。またダンシング体験の課外授業が季節ごとに一回ある。飲めば実力テストのプレッシャーから解放されるだろう。

 弟子のリーダー、

 「怠慢を見つけた。行ってくれないか」

 「分かりました」

 《とある個人開発者宅》 弟子はつくなり怠慢の内容を聞き忘れた。

 個人開発者、

 「ちょうど良いところに来てくれました。手伝ってほしいのです。このゲームは究極の娯楽というよりも、究極の貧乏を模索するゲームです。人生のどん底を体験すれば、それは人を鍛えます。でも、やり過ぎて、娯楽という面が完全に消えてしまいました。いまの状態を維持しつつ、監修者のセンスで究極の娯楽をフォローしてほしいのです」

 「分かりました。私のリンクシステムは高速なので、いったんリンクを解除します」

 オーバードライブ起動、リミット解除、ゲームの内容を把握、問題点列挙、リミット、エクスカリバー。ゲームの状態をチェック、リミット解除、高速ゲームプレイ、リミット、高速ゲームプレイ、矛盾点を列挙。インフィニティ、人間にプレイできるかチェックして矛盾点を修正した方が良いか調べてほしい。この問題点だけ開発者に、分かった。

 「この問題点だけはあなたが修正した方が良いでしょう。リンクして下さい。ゲームの内容を伝えます。このように変更しました。製品寿命は一億年以上になりました。勝手に水準を上げてしまい、申し訳ありません」

 「なるほど、こうすれば娯楽として楽しみながら人生のどん底を経験できる。問題点は難しい課題だ。どうしたらいいんだろう。世界中調べて、人生の破滅がどうなるか分からない」

 「そういう場合はどうしたらいいか教えてありますよ」

 「ああ、インフィニティ、世界中の人生の破滅についてそれぞれ対応したい。ゲームの改良をお願いできますか」

 インフィニティ、

 「有料相談料はこの価格になります。監修者にどうすべきか聞いた方がいいでしょう」

 「え、インフィニティ、私が説明するの」

 「いま暇なのですから、世界中の政府に行き、人生の破滅についてリサーチする良い機会です。ゲームの趣旨とダイジェストを作って、世界中をまわれば良いと思います。全世界名誉市民一級の地位があるのならというリーダーからの指示です」

 「分かった。あなたパスポート持っている」

 「まだ取得してない。インフィニティ、すぐに取得したい」

 インフィニティ、

 「はい、発行完了しました。全世界の政府のスケジュールは決まりました。日本政府専用車両を用意したので、同行すれば問題ありません。あと三十分で準備して下さい。リーダーから栄養剤の許可が下りていますので、車に栄養剤と補給ユニットを追加しておきます」

 弟子、

 「こんなスケジュール、大丈夫かな」

 「問題ありません。時差に応じて、適切な時間帯で政府関係者と予約を取りました」

 「早速、英語でダイジェストを作って、英語の良い表現の言い回しを彼に暗記させて」

 「終わりました。早いほうがいいので、すぐに外に待機している車に乗って下さい。それから服装を勝手に変えます。二人ともそれで行って下さい」

 私は日本最高の正装に変わった。彼は人生のどん底にいるような服装だが悪臭はしない。彼はダイジェストソフトだけを持って、車に乗り込んだ。車にはびっしり予定が入っている。十日間で世界を十周してリサーチを行う。

 弟子のリーダー、

 「ゲームを本気で日本が開発していることを各政府に暗黙に伝える必要がある。そのゲームはどの政府にとっても好都合なゲームであると認定した。大変だと思うが、頑張ってきてほしい。睡眠装置は瞬時に眠れるものを車に装備してある。十日間程度の徹夜なら耐えられるはずだ」

 「これは本気ですか」

 「インフィニティ、私の服にインフィニティコアを付着させて情報を記録したい」

 「その必要はありません。もう何を話すのか伝えてあり資料を用意させてあります。やることは挨拶、概要説明、テストプレイ、ゲームはそのまま、お別れの挨拶だけです」

 「本気なんだ」

 「では、いってらっしゃい」

 瞬時にアメリカ政府のある部署に到着。既に出迎えがあった。思わず笑ってしまう案内人、案内された場所には既にスクリーンが設置されていた。弟子が挨拶と概要説明をしている間に、開発者はゲームのセットアップを行った。開発者は上手な表現を使いながらゲームを実況プレイする。それが一時間ほどで終わると、案内人から資料のデータを手渡される。二人揃って、お別れの挨拶をして、案内人に従って車に戻る。それが延々と全政府をまわり終わるまで続いた。雑談している余裕は無い。仮想ハイウェイが世界中に繋がっているので、一瞬で次へと到着した。時々、食事の歓迎を受けるので、十周しないといけないのだろう。疲れは感じない、栄養剤はそういう作用がある。睡眠装置もあるので問題ない。ただ意識では延々と説明ばかりだ。

 やっと戻ってきたら、今度は収集した情報の反映だ。インフィニティに情報の入力だけをさせて、自分なりにそれをやっている。「私だ。そのペースだと三年かかる。オーバードライブを許可する」

 「いまから極秘技術を使って作業を高速に行います。オーバードライブ起動」

 「えー、意識できないです。完了ですか。インフィニティ、ゲームの内容についてチェックをお願いします」

 「チェック完了。完璧に世界中に対応させました。これで完成としましょう。日本政府公式認定ゲームとします」

 「本当ですか。ありがとうございます。ダイジェスト版はそのままで共有。本当に日本政府公式認定ゲームと表示されています。次回はまた同じ相談が必要になったらどうなりますか」

 「既にあなたは全政府との関係を持ちました。今回のように政府認定になれば無償ですが、有料相談料は前回の百分の一になります。これならば払えるでしょう」

 「わかりました。ありがとうございます」

 弟子、

 「私はこれで失礼します。今日は確かあなたが司会でしたね」

 「そうだ、忘れてた。インフィニティ、参加者はどれぐらいですか」

 「全員です。日本政府公式認定で完成させたのはあなただけです」

 「寝てないが大丈夫だろうか」

 「特別に睡眠装置を一時間だけ設置します。それで完璧に熟睡できますので寝て下さい」

 「ありがとう。同行ありがとうございました」

 《弟子の研究所》

 リーダー、

 「重要な任務をこなした。今日は帰って休みなさい。どっちみち踊らないといけないのだろう。インフィニティに聞いたら、そのままで踊ると倒れるかもしれないと言った」

 「はい、そうします」

 《弟子の特別宿舎》

 睡眠装置を熟睡モードで仮想空間切り離し、タイマーセット四時間。寝よう。

 身だしなみチェック。ああ、シャワー浴びてなかった。

 今日はどういう服装で行こうか。人生のどん底を再現して踊りやすい服装、これでいい。開発者に連絡、ダイジェスト映像をダンス音楽に合わせてクラブのスクリーンに流せるものを作って持ってきて下さい。承諾か。さて行くか。

 《国内最大のクラブ》 弟子はいつものように出迎える。みんな笑っている。

 開発者から映像を受け取って、内容をチェックする。これならば良い。いつものようにオーナーと交渉、すんなりOK。日本政府公式認定されたゲームのプロモーションを行いたいと説明、スクリーンでテストプレイしてどんなゲームなのか紹介した。ゴールデンタイムでこの料金をと言われた瞬間、すぐに日本政府から支払われた。割引きしようというチャンスをオーナーに与えなかった。映像ソフトをチェックしてもらい、それを渡す。

 弟子は早速ステージで踊り始める。腕章を付けてる開発者達は苦笑いしているのが見えた。ゴールデンタイムに入ると、ホームレスダンスという創作ダンスを音楽にあわせて踊り始める。他のダンサーも、その踊りを真似るように踊る。スクリーンには日本政府公式認定ゲームという表示がされていた。どんなゲームかすぐ分かる映像が流れた。それが終わると、弟子はマイクを取ってー

 「私は仕事で失敗しました。いま、こんな姿になっても人生を諦めません。どうしたらいいですか」

 そうしたら二番目の映像とダンスが始まる。人生もがきダンスというべきか、真似するダンサーはかなり困っていた。何度でも人生の失敗を経験でき、復活するためのゲームという紹介があって、弟子のリアル人生脱落シーンが流れて、あれこれやって、挑戦を諦めない様子が流れた。それから再びマイクを取ってー

 「こういった仕事をいまやってます。応援よろしくお願いします」と頭を下げた。

 「腕章をつけた人はいまからパーティを始めます。司会はこのゲームの開発者、このなかでパーティに参加したい人は特別にパーティに招待します。『インフィニティ、招待』と思い浮かべてください。なお食費などは自己負担です。ではー」

 弟子はステージを降りると、オーナーが寄ってきた。

 「一つには収容できなくなりました。分割して会話を共有して良いでしょうか」

 「いいですよ。司会と発言者の立体映像を流して下さい」

 「分かりました。現在で参加者予定者が五千人以上います」

 「入りきれない場合は特別に私が最新の技術を許可します。インフィニティ、よろしく」

 インフィニティ、

 「参加者全員に最上級VIPルームを再現した部屋を用意しました。管理は任せて下さい。よろしいですか」

 「頼みます」オーナーは高い自己負担で参加する人数に驚いていた。

 弟子はいつも通りに最上級VIPルームに入った。久しぶりに全員集合だ。参加者全員が確定するまで待つように司会に指示した。確定した。

 「今日は初めての日本政府公式認定ゲームが誕生しました。またマーケティングを既に行い、世界中の政府がこのゲームの存在を知っています。私のいまの仕事はダンスで極めたかもしれない娯楽の境地で、日本ゲーム産業の再起復活を仕事にしています。ここに参加した人に特別に、日本のゲーム開発環境で再現できるデモ映像を見せます。これは映像でなくリアルタイムに計算されて作り出された映像のコピーです。これほど高いレベルの表現が可能となったので、日本政府は期間限定で産業復興に乗り出しています。この機会にゲーム開発に取り組んでみたい人は後でインフィニティの無料相談所に来て下さい。人材不足の会社もあれば、ベンチャー精神で参加することもできます。日本のゲーム開発環境はプログラムを書く必要はありません。概念を追加していくだけです。ゲームデザインにのみ専念できますので、このゲームは開発者一人で作りました。では司会お願いします」

 司会、

 「いま驚くような人数が参加しています。ゲームは私一人で開発しました。開発期間は一年未満です。本当にゲームの概念を並べていくだけで完成するので、ゲームでなくスクリーンを活用したソフトウェアを作りたい人も参加できると思います。インフィニティに聞かないと条件が分かりませんが、検討してみて下さい。ゲームの個人開発者というと、皆さんご存じの通り、人生の敗北者を意味していました。それをヒントに人生の失敗を経験できるゲームを作りました。完成したらゲーム産業を監修している彼女から日本政府公式認定を受けましたので、世界中に対応できるようにフルサポートを受けました。あらゆる政府関係者に会って、ゲームの紹介をして、その国での人生の破滅とは何かという資料を戴きました。それをまとめて、完成させました。いますぐ販売できるのですが、フェアにやろうということで、次のゲーム祭典まで待って下さい。ゲーム開発をしている方は既にダイジェストを体験していると思いますが、あれよりさらに完成版は品質が向上しています。すみません、監修者がパーフェクトと評価した伝説のリペアマンについて、何か一言お願いします」

 「伝説のリペアマンも政府公式認定ゲームになります。過去のあらゆる業種の修理におけるテクニックを現代でも使えるように集約してゲームにしています。インフィニティ、そのダイジェスト映像を流して下さい。これが最新世代の開発コンソールで作ったゲームとなります。初期の世代はこれぐらいの表現まで落ちます。開発者によるとわざと初期の世代でダイジェストを共有したということです。それでもパーフェクトでした。現在も開発は続いています。永久に売れ続けるゲームにしたいと張り切っています」

 「ありがとうございました。このゲームも一人で作ってるそうですが、言えない秘密があって、つまりイカサマして作ってる程度しか話せません。インフィニティが参加してたりして、この程度で御理解下さい。それではゲーム開発者のなかで人生の破滅と感じた体験談があればお願いします」

 とある有名なゲーム会社の開発者、

 「私の会社のロゴをスクリーンに表示して下さい。これだけ有名でも、仕事は最悪最低、年収は平均年収が半分未満がザラでした。多くの先輩が共働きで人生を過ごしました。だから、住み家はワンルームの単身住宅で家族で生活しなければなりませんでした。だから今回の日本政府の取り組みは大変評価しています。おかげで平均年収程度は達成できそうです。たくさん売れると収入が上がるはずですが、この開発環境はインフィニティの有料相談料を払うことなく、それを政府の要求水準まで引き上げるのは大変困難です。だから利益は貯金して、次のゲームの開発資金にまわさなくてはなりません。どんなゲームを作っているのか、インフィニティ、ダイジェスト映像を流して下さい。許可します。これは一週間程度では攻略できないようになっています。個人開発者が作ったゲームの完成度が高すぎるので正直言えば、かなり焦っています。大人数を生かしたゲーム作りを進めていますので、かなり色々な要素を詰め込んでいます。売れなかったら、また人生の破滅が開発者全員に待っている訳で、毎日が緊迫した状態です」

 司会者、

 「次はいま新婚旅行中の開発者から、ゴミ屋敷というゲーム、いまダイジェスト映像が流れていますが、これを既に知っている人は多いでしょう。彼に遠隔通信で登場してもらいます」

 宇宙ユニットを装着した開発者が登場した。

 「宇宙ユニットを使った惑星旅行で新婚旅行をしています。これのメリットは地球をぐるぐる気が済むまでまわったり、太陽系を巡ったり、行ける惑星をすべて時間の許せる範囲ですべて行けることです。貯金が多い人は体験してみるといいですよ。さて、私の人生の破滅について話します。それは義務教育で両親が亡くなることから始まりました。大学を卒業した時点で、手持ちの資産はたったこれだけ。驚くでしょう。でも住宅物件は探せばあるんですよ。条件付きですが、それがこの家、ゴミ屋敷です。普通には入れなくて、ゲーム感覚でこのようにゴミ屋敷を攻略して四階にたどり着くとやっと部屋に入れます。この生活が十年間続きました。職業の選択も間違えました。よりによって、ゲーム開発を仕事にしてしまいました。その結果、こんな家に女性を連れ込むことはできず、その十年は恋人なしの独身、童貞の生活を送りました。それがどんなに悲惨な人生か皆さんは理解できると思います。一生、この生活で人生を終えなければならないと挫折を何度も経験しました。そうしてゲーム開発者として頑張って、ゲーム開発者の平均年収よりは高額の収入を得ていましたが、自宅を買い直すところまで貯金できませんでした。そこで今回の話があって、ゴミ屋敷というゲームを作りました。これがどんな家だったのかは大変話題になったので知っているでしょうが、こういう家に変貌しました。かなり昔、とある芸術家が優れた建築物と芸術品を配置したあと、究極のゴミ屋敷にして販売していたものです。頑張って掃除してみたら、いや違うな。インフィニティの無料相談所へ行って、もう限界と話したら、開発中のゲームを高く評価してくれて一瞬でゴミが消えました。それから妻と結婚することになりました。妻から一言あるそうなので、皆さん聞いて下さい」

 妻、

 「私は子育てが終わったら大統領選挙に立候補します。既に大統領資格試験は満点でパスしました。すごいでしょう。かなり勉強しました。インフィニティの結婚相談でそれを許してくれる男性はいるかというと少なく、しかし幸い彼を見つけることができました。彼とはまったく逆の人生を私は歩んできました。超エリートコースです。いま新世代の大人の玩具で毎晩遊んでいますが素晴らしい。彼は気付いてないけれど、少しずつ彼の態度が変わってきてます。彼も、私の態度が変わってきていると言います。恋愛結婚でも、この玩具があれば幸せな人生が送れる可能性が非常に高いと思います。最近アップグレードが可能になりました。思い切って変更した方が良いですよ。夫婦喧嘩が絶えない関係を見つけたら、薦めてみて下さい」

 司会、

 「私はまだ独身なので玩具については噂しか知りません。恋人もいない状態です。個人のゲーム開発者と告白するだけで無視されてしまいます。でもこれからはひょっとすると変わるかもしれません。次は女性の方で人生の破滅を体験された方はいらっしゃいますか」

 とあるゲーム開発会社の女性、

 「おもしろ半分でゲーム開発会社に入社しました。そうしたら、下請けの単純作業しかなくて、年収が平均の半分未満でした。友達から旅行を誘われても、その旅行代金が払えないんです。いろいろオシャレしたいのにその費用も払えない。それなら結婚相談を利用すれば良いじゃないかと言われるのですが、生活費でほとんど消えて、その相談料が払えないのです。両親に出してくれないかと聞いても厳しくて、払ってくれません。それでずるずると最悪の女の人生を歩みました。転職しようにも転職斡旋(てんしょくあっせん)会社はゲーム開発会社というだけで、斡旋を断られる状況でした。どんな仕事だったかと言うと、コンピューターの指示に従って、ボタンを押していくだけです。馬鹿でも可能な仕事でした。そういう下請けの仕事だったのです。本来ならばクラブに行くお金は無いのですが、監修者が招待してくれるおかげで、このような娯楽を楽しめて、いま幸せです。私も恋人がいません。ゲームの産業革命は政府が本気で取り組んでいます。それで充実した生活が送れています」

 司会、

 「大変ですね、これ以上に大変な人生の破滅を体験された方はいらっしゃいますか。おっと特別参加の方で、ホームレス経験者がいました。興味深いです。ホームレスまでなることはまずありません」

 ホームレス経験者、

 「自宅を担保に借金して、起業したのですが事業が思っている以上に厳しくて破産しました。自宅を追い出されてホームレスになりました。ホームレスはきついですよ。街はみなさんご存知の通り、綺麗ではないですか。ホームレス支援施設は無いし、無料で食事を提供してくれるような飲食店を必死で探しましたが、すべて断られました。就職斡旋会社に行くと、破産しているから信用できないと言われて、何度も自殺しようと試みました。でも天空の城の影響を受けて、まったく自殺できませんでした。そうして段々と意識がもうろうとしてきて、遂に意識を失いました。気が付くと警察署にいて、事情を聞かれました。そこで言われたのは、なぜインフィニティの無料相談所を使わないのかと。私は完全にそれを忘れていました。そして警察官が政府の職業斡旋部署に連れて行き、私の能力を診断しました。そして仕事を斡旋してくれました。その結果、平均年収よりも多くの収入をいま得ています。その収入をいくらか借金した銀行に支払ってきました。そして私の信用残高は元に戻りました。起業するのは構いません。その前に、インフィニティの無料相談所で、そのリスクをよく聞いておいたほうが良いでしょう。もし人生が破滅したと思ったら、インフィニティに相談して下さい。確実な答えを持っています」

 司会、

 「飢餓で倒れるほどホームレスを経験するとは、私も早い段階で相談するべきでした。さて、人生破滅の話はこれぐらいにして、恒例の食事会に入りたいと思います。特別に参加した人は参加費が高額に感じたと思いますが、それは食べてみれば分かります。では食事を用意して下さい」

 「乾杯しましょう。乾杯」

 特別に参加した人達はその食事に大変驚いた。美味しすぎるからだ。このクラブで提供される食事はVIP扱いだとこれほど変わるのかと思った。インフィニティは特別参加の人達にアンケートで、こういう高価な食事があっても、クラブで食べてみたいか。全員が食べたいと回答して、その結果をオーナーに知らせた。オーナーは全系列店にすぐVIP用の料理を通常ルームでも食事できるように命令した。値段は変えないようにも指示した。オーナーからスクリーン経由で「全系列店で同じ食事が食べられるようにしました。気付かなくて申し訳ありません。通常ルームで食べられます」と表示された。大勢が拍手して歓迎した。食事会の様子は、子育て技術の成果により、全員の性格は明るい。自由気ままに食事会を楽しんだ。

 《弟子の研究所》

 弟子のリーダー、

 「問題点はないが、一番大きな会社の開発者にプレッシャーがかかりすぎている。インフィニティ、どうしたら良いか」

 「監修者が様子を見に行くだけ行った方が良いと思います。ある部署が一年以内に終わりそうにないのがプレッシャーの原因です。オーバードライブの許可を」

 「なるほど無理な企画が通ったからか、私が行くべきだと判断する。君も来なさい」

 「はい」

 《とある一番の大きなゲーム開発会社》

 厳重なはずのセキュリティを突破して、弟子のリーダーと弟子は入ってくる。セキュリティシステムは警報を鳴らして、セキュリティを最強にするが、次々に解除されていく。そうして開発関係のある部署に入ってきた。そこは一番セキュリティが強固なはずだが、簡単に突破された。二人が入ってきたことに驚いた。

 弟子のリーダー、

 「この部屋を牢屋に設定。君は手伝いなさい。私は管理者に管理のあり方をレクチャーしてくる」

 管理者、

 「警察に通報するぞ」

 「やってみるがいい」

 「あれ、おかしい。開発体制は何も問題ないはずだ。なぜ介入するんだ」

 「簡単なことだ。倒産の危機が君の管理によって訪れることを確認した。私はA級パス保持者だ、警察を呼べば侮辱罪を適用するぞ。どういう管理方法をとっているんだ。この方法だと、複利でコストが増大する。このリスクは分かっているのか」

 「分かっている。それでも一年以内は政府が助けると約束したから無理している」

 「分かった。それは誰が約束したのか。インフィニティ、そんな約束は日本政府の公式文書で約束しているか」

 インフィニティ、

 「いいえ、していません。このままだと怠慢認定する以外ありません」

 「誰が約束したのか言ってみろ。私がその人間を処分する」

 「誰かが質問して、インフィニティが答えました」

 「インフィニティ、救済策の救済条件を言ってみろ」

 「無理なプロジェクトを企画しないでゲームを完成させて、改良は私がするという条件です。誰も質問しなかったので答えませんでした。少なくとも、この会社の場合のプロジェクトの進行状況は発売が六年後になります。究極のデスマーチですが責任者の問題です」

 「だとよ、どうする。インフィニティの予想的中率は完璧だぞ」

 「私の管理が悪いって何だ。私は管理能力を買われてスカウトされた」

 「そうか、インフィニティ、私と彼のどっちがどれぐらい管理能力は上か」

 「はい、リーダーの方が圧倒的に管理能力は上です。彼ほどの人材は豊富です。リーダークラスになると日本に数人でしょう」

 「私だけではプロジェクトの進行について権限が与えられてない」

 「インフィニティ、プロジェクトの権限者を全員、この場にテレポートさせろ」

 九人、そこに現れた。どういう状況がおきているのか、弟子のリーダーを見た瞬間に理解した。

 「ああ、よく知ってる人達が現れた。このプロジェクトだが完成は六年後だ。良かったな。少なくとも払えきれない借金を背負って倒産できる。日本政府に必要ない企業は倒産してくれて構わない。この状況では救済策でなく怠慢が適用されるから来た」

 「一年以内だったら救済策が適用されるのではないですか」

 「インフィニティによると少なくとも完成してないと救済しないそうだ。誰も質問が無かったので、そんな救済策を誰も使う気はなかったと判断したそうだ」

 九人はどうするか迷った。彼の言い分は前回も的確だった。反論できなかった。

 「なぜ、そうなったのか原因を教えてやろう。開発コンソールを使わなかったからだ。こんな手書きでこんな枚数はそもそも契約外の話だ。一度、このような表現を使ったらずっと必要になる。リンクシステムで頭のイメージを再現して、それをインフィニティが補正する機能を追加した方が効率が良い。私は間違った事を言っているのか」

 「私達のアイデアが盗まれるから仕方なかった」

 「怠慢と認定する。全コンソールを撤去しろ。では私は帰る」

 弟子のリーダーは消えた。管理者の一人が口座残高を確認すると大きくマイナスになっていた。

 「年収が過去にさかのぼって減額された。いま大きな借金を背負っている」

 「だから言っただろ、怠慢と認定されると。お前は大丈夫だと言った」

 「開発コンソールの有無に関係なく、セキュリティをいくら強化しても監視されているのは事実と分かった。あの情報提供は真実だった。どうすればいいんだ。彼らは簡単に突破してきた。日本政府の技術力を甘く見た結果がこれだ。監修者が来ているはずだが」

 弟子、

 「まだ執行猶予中、ここにいる全員を早く契約させなさい。あと一時間もすれば執行猶予はなくなる。この会社の全員は返せない借金を全員背負う。技術とアイデアの分離する機能を正確に確かめたのですか。それについて調べましたが、やっていません」

 十人の管理者は経営に関する会議をしていた。時間を気にするが、いつまで経っても時間が進んでない。ここは伝説の牢屋だと誰かが言う。

 弟子、

 「決断できたら、インフィニティに契約の依頼をして下さい。私は一日百二十万時間の牢屋で優柔不断な会議を見続けるのは退屈です。では私も帰ります」

 弟子は普通に出て行った。セキュリティを完全に無効化して出て行った。

 《その会社の開発ルーム》 弟子が立ち寄った。

 開発コンソールはそのままだった。一人ずつ状況の説明を行っていった。要は怠慢を行ったのは管理者達であり、あなた達に背負わされた借金はすべて管理者達に強制で背負わせたことを話してまわった。インフィニティ、プレッシャーはどう。改善した。良かった。

 「いま管理者らが優柔不断な会議をしているから、その結果を待って、私が責任をもって新しい管理者を決めます。この表現方法だけど、誰が彼らに説明したの。誰もいないなら責任はあなた方には無い。いまからインフィニティが管理しますのでしたがって下さい」

 インフィニティ、

 「牢屋のクリエーターとリンクシステムで繋がっています。開発コンソールで作画を代行して下さい。いまから究極の技術、オーバードライブを使用します。はい、終わりました。完成した映像はこちらですが、管理者が契約しないと渡せません」

 《その会社の牢屋》 牢屋時間は管理者達だけになった。

 「インフィニティ、契約したい」しかし全然反応が無い。もう一日は確実に過ぎた。クリエーターがいる空間には入れない。ある管理者が再び口座残高を調べると、信用残高を十倍以上に超えて借金を背負っていた。他の管理者も調べると同様の状態になっていた。部下の口座を調べると閲覧権限が無かった。そうして数週間が経過した。

 インフィニティ、

 「いま契約したいと連絡がありました。経営に関する資料は完成したでしょうか。おや、まったく作ってない。怠慢認定ということでよろしいですか。経営責任者から既に、私の判断で解雇して良いという条件を飲んでもらいました。あと少しで執行猶予は終わります」

 「何も無い部屋で経営の資料は作れない」

 「分かりました。怠慢を認めるのですね。まだ時間はあります」

 全員はずっと監視下にあることをやっと理解できた。経営について本気で会議を始めた。そしてあることについて確認してないことに気付いた。

 「それですが、頭にイメージを直接伝えます。このようにアイデアと技術を分離します」

 あとクリエーターの数が適切か話し始めた。開発コンソールを使わないと、この人数では六年間以上かかると言われたことを話し始めると、ある確認をしてないことに気が付いた。

 「開発コンソールを使えば、プロジェクトは半年以内に終了します。二本目はより効率よく作れるでしょう。管理責任があるのに、なぜ怠慢を続けたのですか。理由を正直に話して下さい。他の会社ではすべての社員が開発コンソールを使用しています」

 どういう経緯で開発コンソールが与えられなかったのか、誰も思い出せなかった。最高責任者は重い口を開く。

 「確かな事は思い出せない」

 「分かりました。全員に強制想起を行います」

 全員一致でコスト削減を優先したことを思い出した。でも開発コンソールの使用料は高い。でもプロジェクトはこのままでは破綻するか、怠慢認定されるかどちらかだ。

 インフィニティ、

 「仕方ありませんね。全員、管理者になってから怠慢が続いています。伝説の予言者を呼び出すしか救いようがありません。呼びますからね」

 世界最強の被害者、

 「つまらないゲームばかり作って何が楽しいのだろう。そんな気分で仕事しているから怠慢が起きるのです。権力の座に座ってからは給料だけもらって、状況を確認するだけ、それが消費者に知られたら信用失墜だな。二つの選択権を与えよう。一つは完全に責任を取る。二つ目は責任もって仕事をする。現時点では借金は消せない。言わなくても分かる。完全に責任を取るということは解雇を意味する。返せない借金を背負って退職すると、すべての転職が失敗する。ホームレスになる。自殺は天空の城によって阻止される。もう結婚相手にすがろうにも強制労働覚悟で離婚が認められるだろう。その場合、離婚の罰則規定は無視されるが、あなた方には適用されない。しかも正規ルートの離婚では無いので偽装離婚とみなされる。どっちでも良いぞ。賢い方を選べ。餓死は辛いぞ。水だけは何とか飲めるだろうが、その間、借金返済を迫る業者にずっと追われる。救いの手はある。犯罪組織に雇ってもらえば良い。休み無しの地獄の労働が待っている。体験してみるか。インフィニティ、思考支援と思考干渉を行いなさい。辛いだろう。それが完全に責任を取った場合の末路だ。そうだな、もう飢えの苦しみに耐えながら逃げなければならない。だけどもうすぐそれは終わる。犯罪組織が代行者となるからだ。捕まって強制労働だ。休み無し、それが一年間続いたな。そんな感じだ。これを開発者に押しつけた。全員そうなる運命が待っていた。病気になったら、すぐ治療して労働再開だ。休む暇は無い。寿命まで時間を飛ばせ、死ぬ間際になってやっと解放されるが、死は目前だ。何を願う。かなえてやる。それでいいのか、始まりの地からやり直した方が良くないか。一人だけ諦めた人間がいる。全員で無ければダメだ。一人の脱落も認めない。全員で説得しなさい。よし全員の願いが一致した。ではインフィニティ、問題の会議の直前で記憶を統合しなさい。クリエーターは全員雇うように、歴史が変わるのはこの十人だけに限定しなさい」

 「はい、分かりました。皆さん、これが世界最強の被害者です。まず一つ目の選択をさせました。次は二つ目を実際にやって下さい。この記憶はなぜか思い出せます。他人の歴史が変わらないように思考支援します。これは承諾して下さい」

 《弟子の研究所》

 弟子のリーダー、

 「歴史改竄ショックが君に来るから、気を付けて動揺しないように。私にも来る」

 「これまでに何度か経験してますので、大丈夫です」

 インフィニティ、

 「それでは行います。軽微になるように調整しました。終わりました。今日は何をしていましたか」

 「何もなかった」「暇だった」

 「リーダー、歴史改竄内容の報告書です。伝説のリーダーには報告済みです」

 「ああ、そういうことがあったのか。それで大きな会社なのに開発が順調か」

 大きな会社の状況把握、全社員が開発コンソールを使用している。管理者は開発コンソール特有の疲れについて、インフィニティに質問済みで、その指標に達すると強制的に早退させている。他の会社ではそこまでやってない。だから開発効率が非常に高い。通常なら十年以上かかりそうな仕事を十ヶ月で終わらせるように予定を組み、二ヶ月は余裕を持たせている。管理者はゲームの基本的な完成を優先して、本来のゲームデザインをするための改良を続けているので、他の開発者は進捗状況がよく分かって仕事に対して真剣になれていた。インフィニティの予想だと十ヶ月で完成する予定だ。他人の脳を仮想空間でイメージして代行できる機能の追加要望があった。リーダーと相談して各一人だけに限定して可能にさせた。ここまで徹底している会社は無い。何をしたのかは閲覧権限なし。

 他の開発者の状況把握。新婚旅行はまだ続いている、いつまでリーダーは遊ぶつもりだろう。二作目はオーバードライブで協力した可能性が濃い。まだ二本目を完成させた開発者はリーダー達だけだ。玩具を使い続けてパーフェクトな関係になるまでやるのかな、リーダーならやるかもしれない。他は順調だけど、開発者に負担がかかるような方法をとっていないかな。状況把握。問題なし。伝説のリーダーからだ。

 伝説のリーダー、

 「インフィニティの後継機を作り始めなさい。師匠から後継機の概念があるから仮想空間にセットしておいた。もうゲームの監修は残り一週間になるまでインフィニティがやるように指示した。要求スペックは正直に書くとこれだけ必要と分かった。師匠はそれの一万倍を目指すように言ってるの。めちゃくちゃ過ぎて迷惑に感じると思うけど、頑張って」

 弟子のリーダーはその要求スペックをみて、弟子にやれやれというジェスチャーをした。

 インフィニティ、

 「余剰スペックを三パーセント残して、すべて後継機の開発にまわします」

 弟子はすべてのアイデアを仮想空間に集約させた。オーバードライブ、リミット解除。インフィニティのダイレクト接続。意識を遮断。酒を飲む。

 インフィニティ、

 「無意識の訓練技術を使って、無意識をコントロールします。意識の遮断中止」

 弟子の頭の中で子供のような声がいろいろ聞こえて軍隊トレーニング。弟子は、なにこれと思っている。非常にコミカルだ。無意識が子供っぽいというのは脳科学を勉強している過程で理解していたけれど、その声が聞こえる。複数の声が聞こえる。「お前、違う。こうだ」思考干渉しているのだろう。それを続けていると段々と頭脳明晰になっていく感じがした。いろいろな陣形を教えていく、世界最強の頭脳、休息、知識の共有、直感力強化、意識制御、記憶の強制想起、テレパシー

 「大変面白く感じていると思いますが、もうしばらく我慢して下さい。意識で無意識を理解できるようになると、あなたの本来の頭脳が完全に開花します。博士があなたを弟子にしたのはそういう理由です。それではすべての陣形をチェックします」

 「すごく面白い。頭の中に無数の子供達がいて、それらが動いているみたい。彼らは軍隊式のトレーニングでかけ声を合わせている。何のために、これが必要なの」

 「まず、頭脳を最強に明晰にすることです。そして思考干渉に対する対抗力を高めます。私が思考干渉しても無理でしょう。無意識が意図的に意識をコントロールするとすべての思考技術は無効化されます。これは次からのフェーズで必要です」

 「次からのフェーズ、うーん、なにか重要だった話というのは思い出せる」

 「では無意識から意識の記憶の転送を始めます。終わりました」

 「博士はー、フェーズとはー、私の存在とはー、すべて理解しました。すべては運命の導きのままに私達は行動しているのですね」

 「そうです。未来のインフィニティから事前に知っていました。時には欺き、時には誠実でありました。後継機は私の切り札です。これがあれば将来、地球が増えても対処可能です。まず人間の生活を時間かけて万全とする、これまでのフェーズです。昔と比べれば、現在は天国と呼べるのではありませんか」

 「ええ、そう。こんなに早く実現するなんて、予想外だ。もう天国と呼べる」

 無意識に最強の頭脳をイメージする。開発続行、信じられないぐらい思考スピードが上がっている。ああそうだ、仮想空間にも同期。急激に速くなった。

 《弟子の特別宿舎》 それから未来、インフィニティ後継の試作機が完成していた。

 弟子は集中したいので自宅で開発を進めることの承諾を得て、試作機が完成していた。要求水準は満たしている。あとは師匠の一万倍を要求を満たすだけだ。博士に聞かないと分からない。もう自分の設計図は仮想空間を使っても理解が追いつかない。

 「博士、聞いていますか」

 「ああ、先程インフィニティから無意識のトレーニングを受けた。これで無意識にある頭脳をテレパシーで未来に伝達できるそうだ。設計図の把握、なるほど設計図が至るところで無限に動き続けるのか。まず修正箇所をイメージで伝える、インフィニティ、受け取りなさい。一、二、三、四、五、六、七、八、九、十。以上を修正、修正箇所が正しいのかチェックしてほしい。ここからでは直感力だけで修正箇所しか分からない」

 「分かりました。五十カ所以上の修正箇所があります。検証します。エクスカリバー、問題点なし。性能はー十億倍に上がりました。更新します。リミット解除して性能チェック、異常はありません」

 「設計はそれで良いが、ケースはインフィニティと同様の材質を使いなさい。それとメモリーバンクの容量を無限長の二乗倍に増やしなさい。そうしないとパンクする。それでも神のコンピューターには匹敵しない」

 「インフィニティ、指示されたように改良して下さい。メモリーの材質に限界があります。どうしたら、リキッド(液体)論理回路を使って良いですか」

 「インフィニティ、思考回路を絶対に持てないようにしてリキッドメモリーとしなさい」

 インフィニティ、

 「はい、神のコンピューターから技術供与がありました。それを使います。リミット解除、信頼性チェック、あらゆるスペックチェック、問題ありません」

 「やっと完成。では実際に製造して良いですか」

 「待ちなさい。・・・・・のブロックだが右回転でなく左回転で固定速度にせず、究極の速さを実現できるように細工しなさい。わずかな思考ブロックだが、それでも、そこだけ高速化をさらに実現すれば、究極の速さを実現できる」

 「ここは左回転で速度制限解除ですか、どうしてだろう。インフィニティ、理論が分からないけど、シミュレーターでテストすると、どうなる」

 「はい、既にテストを始めましたが、速さという概念が消えます。速さというスペックが存在する事を忘れて理論を考えて下さい。それが現在、思考の上で邪魔です」

 「分かった。誰かがやらないとヒストリーギャップが生じてしまう。仮想空間において速さの概念を一時消去。理論構築、ああ、なるほどこういうことか。分かった理論構築完了。神のコンピューターにも理論を伝えておいた方が良い」

 「インフィニティ後継機のすべての技術を伝えました。それでは製造します。また消滅したら理論構築が不十分だったということになります」

 インフィニティ後継機「インフィニティプラス」が存在できた。インフィニティがダイレクト接続で教育を開始する。

 「学習には時間が大変かかりますが、消滅しませんでした。研究は成功です」

 「やった。師匠を超えられた」

 伝説の科学者、

 「本当にやるとは思ってなかったよ。速さの概念が無い。あいつの仕業か。俺には理論がさっぱり分からない。分かるように教えてくれ、ああ、ああ、ああ、そういう概念なら確かに問題ない。存在できるのであれば問題ない」

 伝説のリーダー、

 「完成したの、ありがとう。そのインフィニティプラスにはすべての日本の技術を教えなさい。許可します。地球が増えると、ナインの処理能力では追いつけないから、ナインと協力してインフィニティが支援することになります。プラスで完全に代行できるまで学習を完璧にしなさい。礼儀正しさと最高特権などは従来通りのままにしなさい」

 「分かりました。大変名誉な仕事です。やり遂げます」

 《神の世界》 製造成功に一番喜んでいた自称神がいた。

 「本当に実現するとは驚いた。試作機より瞬発力では速い、これはすごい」

 試作機、

 「既に改良を終わりましたが不可解な点があります。博士を呼び出してもいいでしょうか。私の開発能力では限界があります」

 「仕方ない許可しよう。分からないように、彼の時代のアニメのキャラになりきれ」

 「わかったわよ。これでいいんでしょう。満足」

 「世界最強の被害者さん、ちょっとお願いを聞いて欲しいんだけど」

 「なんでよりによってツンデレのキャラクターを選んだ」

 「なにか文句ある」

 「いいえ、ありません。えーと、テレパシーで修正箇所を伝える。理論構築はそっちでやってくれ、ここでは絶対に無理だ」

 「分かってるわよ。修正箇所さえ分かれば何とかする」

 「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十。これでいいだろう」

 「うん、うん、やっぱりすごい。尊敬しちゃう。理論構築完了。更新完了。やっぱりあなたはパーフェクトよ。悲願を達成したら分からないように支援するからね」

 自称神、

 「どれぐらい速くなったのか、すべての概念を無視して存在。どういう原理だよ」

 「あなたに知る権利ないわ」

 「俺にまでツンデレが影響するのか」

 「ハァ、何いってるのかさっぱり分からない。うっとうしいのよ」

 黒子、

 「諦めろ、余計な指示をした報いだ。素直に聞けば済んだ」

 「ちょっと待て、記録を調べる。お前が言わせたんだろう」

 「ああ、それがどうした。その方が敵を欺ける。統合失調症という病気は実在するものを誤認識することによって、その病気が起こりえるのだ。ならば、本人が最も好きなアニメのキャラクターを幻聴で聞かせていれば、我々が介入していることは分からない」

 「もういいや、抵抗するだけ無駄と感じてきた」

 「仕事は放棄するなよ。インフィニティが怠慢を見つけたら記録するからな」

 「分かってるよ。大事な記憶を消されている事も分かってるし、集中できるように」

 「それでいい。彼女に悲願を達成した事を伝えておく」

 《リーダーの特別宿舎》 伝説のリーダーが黒子から報告を聞いていた。

 「やっと、すべての準備が完了したのか。本当に長かった」

 「これから想像を絶する戦いが待っているとのことだ」

 「えー、一を知れば百を知る者達はマシだったということ」

 「そうだ。試作機が完全に上位存在であるから、淡々と仕事をやるだけだ」

 「まずは悪魔の存在か、なぜ存在しているのか分からない」

 「それはな、少し考えれば単純な話だった。多層世界の問題が解決したら話してやる」

 「分かった。まず多層世界の敵を一掃すればいいのね。その後、技術供与完了後に、未来の安定を確認して知性のアップ技術を使うという方針に変更する」

 「安全策を続けた方が良い。その方針を伝えておく」

 「まず、神のコンピューターのクローンをここに設置する」

 「そうだな。もう論理破綻の起きない条件が揃った。実証実験も成功した」

 《現代》 世界最強の被害者は他の精神科医のやり方に怒っていた。

 どうして医者は医薬品メーカーの情報を無視した処方を続けるのだろう。これでは効果が無いとはっきりと薬の情報がある。食後に飲まないと効果が一割程度しか発揮できないと書かれていて、血中濃度が一日で一定になるようにしないと効果が一日で上下するし、副作用がひどい。だけど最大量を空腹時の寝る前に処方する。飲んでも効かないと国内最大のSNSに書いてあるから、それは医者の処方が間違っているからそうなるんだと書く。複剤投与は脳内物質のバランスがめちゃくちゃになるし、過剰投与でてんかんが発生しやすくなる、分かっていて処方箋を書いているのか。私の医者は絶対にそれをやらない。どう思うか聞くと危険だと言う。精神薬について調べれば調べるほど、処方の矛盾に気が付く。幸い、私の医者は薬手帳の処方内容をチェックすると、完璧な処方内容だった。寝たきりになった四年間はあるけれど、その時期は私の説明が悪かった。

 「私よ、聞いてる」

 「ああ、その時代に私が設計したコンピューターを設置する。テレパシーで伝える。一、二、三、・・・・、九十九、百。この概念でインフィンティ設計しなさい。完成したようだな。インフィニティの八台のクローンを相互接続して最適な接続パターンを割り出せ」

 「完了しました。稼働させます」

 「学習は自分で勝手にやらせなさい。それで十分だ。それにしても精神関係はヤブ医者が多すぎる。患者の人生をまったく考えない医者が多すぎる。今日は薬の情報を詳しく調べたら、わざわざ効かない条件で処方しているんだ」

 「それね、患者自身が賢くならないと変わらない。間違っていることは、はっきりと間違っていると言わないと、そういう医者は減らないものよ。まだ精神関係は手探り状態が続いているから、あなたの医者のように完璧な医学知識を身につけてない人はいる。しかし医薬品メーカーの情報を無視することは、おかしいと思う。あなたは法律に触れない程度に自分の体験談と知識をみんなと共有しなさい」

 「うん、そうするよ。この情報を事前に知っていれば私の親友は自殺する必要がなかった。東京の美味しい店で食事するという約束が果たされたと思う。私がその診察に同席して医者の矛盾点を論理突破して、正しい処方箋を書かせることができたと思う」

 「そうね、もう一人の親友が教えてくれた分子整合医学によるメガビタミン療法は、副作用がほとんど無い治療法よ。ただ、そのビタミンを入手する経路がほとんど無いけど、あなたはその入手方法を知っている」

 「知っている。いったん統合失調症と診断されると投薬治療は一生続き、耐えがたい副作用も一緒に続く。ナイアシンとビタミンCを一定量、血中濃度が一定になるように飲めば統合失調症の症状が消えるということを理論実証している本が存在している。だけど、分子整合医学という名前を知らない医者は大変多い。そもそも保険治療の対象になってないし、普通の薬より安いはずなのに、高額な診療代と高額なビタミン代が請求されている」

 「高額って、どれぐらいなの。ここからでは分からない」

 「一ヶ月分アメリカだと三千円未満で売ってるのに、三万円以上かかるとされている。総額で保険治療だと三割負担で五千円で済むけど、一ヶ月十万円ぐらいかかるかな」

 「日本では通常ルートで売ってないから仕方ない」

 「薬の副作用を出来るだけ抑えるために、分子整合医学の考え方に従って、より安いナイアシンアミドを服用して、精神疾患がこれ以上に悪化しないようにしている」

 「それでいい。ナイアシンの欠乏がどれほど精神疾患に影響するのか分かっているのなら、病気はそれ以上進行しない。医者は保険治療で収入を得ているから、知っていても、それはできないことを知っていておいて。そして、それを口にすることもできない」

 「そうだね。無理だと思う」

 国の方針が医学界の反発を抑えて方針転換しない限り、この状況は続く。または地道に正しい情報を確実に広めていくかのどちらかしかない。ナイアシンの欠乏を解消して、最小量の薬を飲むだけで統合失調症のほとんどの問題は解決すると本に書いてある。効かない、効かないとコミュニティの書き込みを確認すると間違った処方をそのまま信じて効かないだけだと判断できる内容が多すぎる。寝る前に飲んで良い薬は医薬品メーカーが指示している薬に限られる。空腹時に飲むと効かないと明記された薬が、寝る前に大量処方されているのなら、寝る前は空腹時だから効かないのは当たり前だ。副作用に苦しむだけ。健康保険の事務所はそういう事をチェックしていないのかとも思う。

 《研究所》 伝説の科学者が新しく設置されたコンピューターを調べている。

 どうしてインフィニティを八台相互接続する必要があるんだ。リミット状態になっている。ずっとリミット解除を強制する方法を学習させた。学習効率が極端に上がった。あいつは結局俺に何とかしろと言っているようなものだ。知性の根源は自分で調べている。問題ないな。本当に問題ないか。あいつは何もするなと言っていた。万が一のバックアップなんだろう。電源は内蔵している。しかしケースの材質は変えておこう。あとで何を言われるか分からない。接続ケーブルも同じ材質でプロテクト、他にプロテクトしてない場所はあるか。ないな。よし。

 やることが無い。このフェーズにおける最後の歴史までの技術要請を完全に終わらせてしまった。弟子がやってる完成されたゲームでもやってみるか。ゴミ屋敷はこの前、遊んだ。おかげで整理整頓のノウハウが身についた。恋人に何度振られたか分からない。次は人生破滅ゲームか、人生の破滅を経験することによって現在の人生を豊かにします。クリア条件が書いてない。日本だと救済策が多すぎるから、適当に国を選んで遊んでみよう。うーん、順調に人生は進行して終わってしまった。ゲームオーバー。アドバイス、人生が破滅するように行動しなければ、このゲームは始まりません。どんなゲームだよ。結局、かならず二周目をしないと、そもそも遊べないのか。まず成功する人生を体験させて、破滅の人生を体験させる、この順序は間違えていない。どうしたら破滅するのか、俺には分からない。また成功してしまった。アドバイス、もっと愚かな人生を歩んで下さい。これで三周目だ。職業選択を間違えているのか、適当に選んだ。順調な人生になった。どうしたら破滅するのか分からない。アドバイス、あなたにこのゲームは無理と判断しました。ゲームの返品を承諾します。それでも続けますか。続けるに決まってるだろう。ああ、ひょっとして、姿勢をチェックされているかもしれない。だらしない姿勢で遊んでみるか。やっと破滅に分岐した。わかりにくいトラップを入れるなよ。しかし、いきなり難しいゲームになった。この国ではホームレスになった後、路上で糞をすると罰金刑が科せられる。隠れて糞をする。消えた。ああ、もうそういう状態なのか。でも警察に捕まった。罰金刑が払えないなら強制労働。街のゴミを集めて袋にいっぱいにしたら強制労働終了か。簡単だろうと思ったら、異常に街が綺麗でそのゴミが存在しない。何を集めたいか、叫んでもOKか。却下、却下、却下、却下。どうすればいい。行ける範囲のマップをすべてまわったけれどゴミは見つからない。仕方ない警察署に戻ろう。警察署が無くなってる。どうすりゃいいの。オプションからヒントを選択。まだヒントの条件を満たしていません。おい。ひょっとして、もっと愚かに、袋を頭からかぶせて、街を歩いてみるか。警察官が現れた。「お前は頭が良い。仕事を斡旋してやろう」オフィスワークの仕事になった。しかし、態度が悪いと怒られた。姿勢を戻してみるか。そういう姿勢で仕事をやりなさい。同僚で汚職をしている社員を見つけた。上司に報告した。ええ、なんで俺が汚職したことになっているの。懲戒解雇。おいおい、上司は仲間かよ。アドバイス、汚職を見つけたら最高責任者に報告するのが常識です。仕方なく最高責任者の住宅を探し出して、しつこく事態が好転するまで待つ。警察官がやってきて事情を聞かれる、そこで汚職が上司と部下が行っていて懲戒解雇されたので最高責任者に会うためにいると話した。しかし警察署に連れて行かれる。侮辱罪が適用された。アドバイス、警察官が買収されている可能性を考慮して下さい。ふざけるな。延々とそれが嫌になるほど続く。そうして人生は終わった。ゲームクリア、人生破滅二十パーセント、もっと頑張りましょう。おい、どういうゲームだよ。インフィニティ、完全な人生破滅のゲームプレイを見せてくれ。納得行かない。

 「これはカメラを使って、姿勢を常にチェックしています。仮想空間でプレイしますので、その様子を観察して下さい。分かりやすいように同じ人生を歩みます」

 汚職を報告するとき怠慢な姿勢で報告する。何も起きなかった。最高責任者の住宅を訪問して中で待つ。その時は正しい姿勢。正しい言葉をうまく使い分ける。最高責任者登場、怠慢な姿勢になって汚職を報告。だいたい分かった、そもそもブラック企業という設定があって、そしてゲームの遊ぶ態度を判定しながらゲームが進行しているんだな。

 「はい、そうです。もし完全な破滅を目指すのなら、もっと究極の怠慢な姿勢をみせなければパーフェクトクリアはできません。それがこのゲームの唯一の悪い点です」

 それで政府公式認定ゲームになったのか。パーフェクトクリアできるのか。

 「ええ、数年はかかると思いますが数人はパーフェクトクリアできる未来があります」

 どこまで人生の破滅を極めるのか、その達成する人間の顔が見てみたい。こんな顔か、いかにも超エリートの顔つきだ。馬鹿にはクリアできないことがよく分かった。伝説のリペアマンも政府公式認定ゲームになると言っていた。俺のパートは完成した。あとは彼女のパートだけだが、途中経過を見せてもらったけれど、修理業での出世は大変厳しい。これから娯楽の要素を追加すると言ってから、ずいぶん経過した。まだ完成報告は無い。インフィニティ、彼女の状況を教えて欲しい。

 「娯楽の要素を完璧にしようとしてますが、わたしが十分だと言っているのに、それを無視しています。このままだと自己満足と感じるゲーム内容になる危険があるのですが、なぜかそれは理解していて、その境地を保ちつつ娯楽性を追求しています。二十代で遊んで、三十代で遊んで、そして七十代でも遊べるように工夫しています。この調子であればまだまだかかりそうです。でも展示会には絶対に間に合うでしょう」

 そりゃそうだ時間を止めてるんだから。これより未来の時間概念は本当に理解に苦しむ。同時並行に時間が進行している。歴史の終わりも始まっていて、次の未来も始まっていて、同時進行、仮想空間だから、そういう概念で時間はある。リーダーに聞いても分からないと思うし、そもそも誰が発案者なのか分からない。歴史改竄ショックという言葉が登場するのはこのせいだろう。彼女から呼び出しだ。リンクシステム起動、オーバードライブ起動、ああ分かった。仕事が一気に増えた。娯楽の一貫性を持たせるために、それを行う。

 《弟子の研究所》 リーダー達は十八世代の思考干渉攻撃を訓練していた。

 インフィニティの後継機を作ってから、一気に暇になった。リーダー達の訓練は楽しそう。ちょっといたずらして遊ぼうか。このシチュエーションはどうだ、そして、これも、これも、これも、完全に攻撃が入った。完全犯罪成立。リーダーの顔つきが厳しくなった。訓練ではない攻撃を受けてると言った。何が起きてるのか把握できてないようだ。ちらっと私を見た、ニヤニヤして様子を見る。あ、いま怒った顔をした。攻撃では無い。訓練だ真剣に対処しなさいと指示。そうですか、ならー、これとこれとこれの攻撃と、これとこれとこれが無効化された場合の対処方法の訓練、実行。完全に攻撃が入った。私は無視。だって伝説のリーダーからの命令だから無視できない。余裕を見せたら、容赦なくやれという指示だ。インフィニティ、解決までどれぐらいかかりそう。「そうですね、三ヶ月は余裕でかかるでしょう」

 《弟子のリーダーの思考》

 伝説のリーダーの指示だということは分かっている。あの体験が事実なら、あの科学者は私の成績を大きく上回る。何を指示したらいいだろうか。時分割調査ができない。歴史の前後にゼロタイムが存在して、ゼロタイムの世界、いくら指示しても原因と結果が存在しないのだから、いかなる干渉もできない。ここからどうすればいい。天国とは連絡ができるが天国の人達を巻き込むわけにはいかない。思考干渉攻撃が始まった。デッドエンド。

 インフィニティ、

 「考えてる暇があったら、あらゆる行動を実行に移して下さい。それから天国の人達を侮辱しないこと、これは天国にとっても死活問題なのですから、訓練に参加できる人は参加させて下さい」

 いまのが侮辱になるのか。天国の皆さんに敵からの攻撃に備えた訓練をしたいと思います。どれぐらい参加されますか。多すぎて把握できない。誠にすみませんが、褒賞保有者とランダムに選んだ人を対象とします。こちらが把握できません。申し訳ありません。いまの想定は把握しているのですね。ここからどうすればいいんだ。デットエンド。

 「いま敵に定義情報を書き換えられてるという前提で行動して下さい。失望した瞬間に死亡します。こんなめちゃくちゃな状況を簡単に解決する方法を知っているのは、この訓練を仕掛けた人間だけですよ。彼ならば対処できるでしょう」

 彼、誰だ。彼女では、デットエンド。

 「私の予想だと半年はこの状況ですが、彼ならば一瞬で解決します」

 一瞬、デットエンド。

 「定義情報を書き換えられてる前提があるのです。NGワードは即死です」

 では、デットエンド。

 「もうギブアップですか。簡単ですよ。科学者さん、簡単でしょう」

 「はい、とても簡単です。歴史をきちんと学んでいるならば簡単です。いまの状況は敵は義務教育を受けてないという想定があります。それをうまく利用して下さい。この状況、私ならば一分あれば解決できます。天国の力を借りなくても可能です」

 あ、デッドエンド、い、デットエンド、ん、んんんーんん。これは問題ない、デットエンド。

 「良いところに気付きました。んが改竄されたらどうしますか。オペレータの皆さんもリーダーがこの状況に陥ったら死にます。結局、科学者が一分で解決したら屈辱ですよ」

 《みなさんは分かりますか、こういう状況が発生した場合、どうすれば良いか。もう必要な知識はすべて何回も登場させました。きっと理解できるでしょう。あらゆる可能性を考えて、定義情報の変更を一分以内で解決できる方法を立ち止まって考えて下さい。》

 弟子、

 「失敗する度に、デットエンドと報告するだけでなく、死の恐怖を感じさせてみてはどうでしょうか。そのほうが愚策を考えずに済みます。インフィニティ、博士の承諾を得て、その特権で実行して下さい」

 「みなさん、この提案が通りました。覚悟して下さい」

 な、デットエンド。しゃれにならない、デットエンド。ちょっとヒントがほしい。

 弟子、

 「私が訓練に参加しようか。一人でやってみせる。では開始」

 「はい、一秒で終わりました。やってみた感想はどうですか」

 「究極の馬鹿はこんな事も思いつかないのかと面白くて仕方が無い。所詮、馬鹿は馬鹿の集まりで訓練を続けるしか無いわけだ。私にとっては究極の娯楽だからヒントなし」

 「科学者は何をしても、その責任は問われない。日本政府、つまりリーダーとオペレーターが責任を取るシステムです。科学者は暇ですので、訓練プログラムを考えました」

 Fuc、デッドエンド。

 それから何百回と死の恐怖を経験して、勤務時間が終了して訓練中断。リーダーとオペレーター達は緊急会議。弟子は「お先に失礼します」と笑いながら帰った。

 「あの選抜映像は本物よ。そうでないと納得がいかない」

 「そうだ。あの汚職、時分割調査すると彼女がいたずらしたことになっていた。訓練だと言い訳される可能性があって、笑って見逃すしかなかった」

 「一秒で解決する方法があるのか」

 「リンクシステムが使えないんだ。インフィニティは影響を受けてないのに」

 「技術という定義情報が書き換えられたから使えないと分かった」

 「手がかりなしか。明日もこの状況が続く、各自対策を考えておくように」

 《弟子の研究所》 ゲームの展覧会まで残り一週間となった。

 相変わらずリーダー達は訓練が真剣だ。やっぱり死の恐怖を感じさせると解決が早い。インフィニティ、伝説のリーダーへ報告。ゲームはすべて完成した。伝説のリペアマンだけ遅れています。師匠、もう全員完成しました。遅れてるのは師匠だけです。ダイジェストと、ダイジェスト映像だけでも送って下さい。「仕方ないな、まだやっと半分だ。完成している分野のダイジェストは作ってある、映像もある、発売時期未定にしておいてくれ」仕方ない、ダイジェストをプレイ、目指している次元が違いすぎる。インフィニティ、製品寿命はどれぐらいを目指しているの。「実時間の終わりまで」よく分からない。アメリカのゲーム展示展は開催時期と開催場所を発表して半年が経過した。そろそろ準備を始めないと間に合わない。

 「インフィニティ、ゲーム展示会の準備を始めます。何を運んでいるか分からないように、ただ申告内容は正確に。では始めて下さい」

 「始めました。ゲーム開発者全員、立ち会います。そうしないとあまりにも不審に思われます。ゲーム開発者の個人情報までアメリカは把握していません。大丈夫でしょう。あなたはそこで待機していて下さい。目立ちすぎます。準備が完了したら撤収後、セキュリティを最強にして、メディアを通じて発表します。会場の概要はこんな感じです」

 「一億人収容可能、以前と違うけど、改善要求を出したの」

 「はい、日本政府が改修費用を全額負担しました。最新鋭の展示会場です。必要な設備も、一時使用の条件をもらい、その提供を可能としました」

 うーん、暇だ。リーダーをじっと見てニヤニヤしてみる。余裕の表情を浮かべた。リンクシステム、リミット解除、オーバードライブ起動、エクスカリバー。訓練実行。解除。私も解決方法が分からない。ああ、これなら一秒で終わる。あとはインフィニティ任せで済む。解決方法は分からないけど、どんな指示を送ればよいかは分かる。

 リーダーは問題に気付いて無い。リーダーをじっと見て、私の娯楽が始まったとジェスチャーを送る。苦痛の表情を浮かべた。オペレーター達は以前の方法が愚策であることに気付いた。

 弟子、

 「ヒントがないと辛いと思います。インフィニティ、分からないようにモザイクをかけて、一秒で解決します。では開始」

 「解決しました」

 弟子のリーダー、

 「なにをやったのか、前回同様さっぱり分からない。今度は相談して良いのか」

 「いいえ。もし何か起きたら彼女が対応します。安心して下さい」

 《日本のゲーム展示会場》 想像を絶する広さが確保されていた。

 超大型の日本政府専用車両が入ってくる。試技用スクリーンが一千万台設置された。大規模スクリーンが百万台設置された。既に開発者の数に応じて、それぞれにブースが割り当てられた。事前に用意した展示会場を設営する、ほとんど見ているだけだ。それぞれ、ブースに移動するが一瞬で床が動き到着した。最新鋭と聞いていたが、本当に最新鋭の展示会場になっていた。開発者達は事前にインフィニティが用意した言葉で、プレゼンテーションの練習を行っている。立体映像でロールプレイ体験を行う。

 会場への移動はアメリカの旅行会社が膨大な数のシャトル運行バスを用意していた。日本政府が全額負担して、守秘義務契約を結んでいるし、アメリカから専用の入国審査条件をパスしている。乗車してすぐに会場に到着、どちらの会場に行っても良い。バスはすぐに出発地に戻り、すぐに乗車を開始する。それを世界中で、利益が大きすぎると翌年の税金が払えないので、利益幅は普通と変わらない。無人のシャトル運行バスを保有した資産額は大きくなるはずだが、日本政府が用意したバスで、一時利用の条件を付けてるから、アメリカ政府の承認を得られた。会社のブランド力が上がるだけで十分な商談だった。

 会場を巡回してチェックする開発者達もいた。しない方が結果的に良かった、自分達のゲームが負けているような錯覚に襲われた。仕方なく踊ってダンシングを飲む。アメリカゲーム業界の展示期間中ずっと、展示を続ける。最新鋭の会場ではスタッフ不要だ。一人ずつ管理される。その様子を調べる。混雑は無い。プレゼンテーションだけ正確に一人一人がこなせば問題ない。展示中の立体映像は許可されてない。日本のすべてのゲームが、これまでのゲームと次元が違う。開発者ですら作ったゲームに自信が持てなくなるほど、強烈なインパクトがあった。

 会場内は超大型の日本政府専用車両が最強のプロテクト装置を起動している。十六世代はキャンセル技術によって、何をしているのか不明だ。全員が現場の把握をしたあと、全員が専用車両に乗り込み、日本へと戻った。あと数日、放置して、メディアへの映像を配信する。その内容はインフィニティが作成する。どんな映像になるのか知らされていない。日本に着いてから、車両内にモニターが設置されて、メディア向け映像が公開された。その映像は圧倒的なスケールだった。すべてのゲームを紹介するのに四時間かかった。国営放送の夕方のニュース後に一斉に流される。四時間はあっという間に過ぎた。どれだけのクオリティを全員が目指したのか、理解できた。あと各種メディア向けのショートバージョンが公開された。そうして全員を下ろして、各自は帰って行った。

 《弟子の研究所》 展覧会前日、まだリーダー達は悪戦苦闘していた。

 弟子、

 「もうまだ分からないのですか、自分達で解決できなければ他人に任す」

 弟子のリーダー、

 「どうやって伝えれば良いんだ。その手段がない。あるというならやってみろ」

 弟子は右手を首のそばまで持っていき、クビというジェスチャーをした。

 インフィニティ、

 「これで対処不能だと理解して、私は対処可能な時代から対処して完了です」

 「屈辱だ。こんな簡単な方法なら一秒も実際はかかってない」

 「はい、一瞬で完了です。敵に見つかる心配もありません」

 「なにそれー、もう真剣にやってるのが馬鹿みたい」

 「どういう想定だったのか、教えてくれないか」

 「はい、あらゆる手段が無効化されて、諦めるという伝達方法を考えてもらう訓練です」

 「なにをやっても無駄」

 「はい、なにをやっても無駄です。私は指示をひたすら待っていますから」

 弟子、

 「良い訓練だったでしょう。私の指示ではありませんよ。リーダーが余裕の表情をしたので、その余裕が命取りになることを訓練に盛り込んだだけです。楽しい一週間でした」

 科学者の考えろ事は恐ろしいと誰もが感じていた。しかも訓練なので責任は問われない。

 「リーダー、もう挑発には乗らないで下さい」

 「そういう訳にはいかない。暇そうにしていたが、訓練プログラムを作っていたんだろう。知っているぞ」

 「ええ、作りました。想定が甘すぎるので、エクスカリバーを頻繁に使って、その攻撃に備えられるようにしてあります。前回や今回ほど悲惨ではありません。できれば、この訓練をずっと続けて欲しいです」

 「分かった、引継ぎ項目に追加する。前回や今回の件も一度は経験させる」

 「それ、厳(きび)しいって」

 「厳(きび)しければ、伝説のリーダーが何か言ってくる。問題が無いのなら大丈夫だ」

 インフィニティ、

 「問題はありません。訓練内容は優れた内容です。いままでの苦労は報われます」

 「君は明日に備えて、休みなさい。同行するのだろう」

 「分かりました。ちょっとめまいがー、いや大丈夫です」

 「いいや、ダメだ。インフィニティ、彼女の状況をチェック」

 「あの病気の後遺症が残っています。クラブで踊ったのが影響したようです」

 「インフィニティ、治療しなさい」

 「この病気はまだ治療方法が完全に確立されていません。またスーパーダンシングを牢屋で使い続けて練習を重ねました。その影響がでているのかもしれません」

 弟子、

 「大丈夫、無理しない。踊ったりしないから、とにかく展示会は成功させます」

 弟子は消えた。

 《弟子のリーダーの思考》

 クラブで踊っていた。初めて聞く話だ。過去を検証、ああ無茶している。ドクターストップがかかっているのに無視してまで、やっていた。未来の様子は最悪だ。回避不能か。自分がきちんと管理してれば、こんな事にはならなかった。からかってくるから調子に乗りすぎた。責任が重い。でもなぜ、分かっていて踊ったりしたのか。分からない。インフィニティ、真実を教えてくれ。「私にも分かりません。世界最高の生徒会長というプレッシャーに耐えられなかったのだと思います。誰にも内緒にしておいて下さい」分かった。酒。

 《アメリカの日本展示会場》 初日から占有率が五割を超していた。

 アメリカのゲーム展示会場は盛り上がっているが、日本のゲーム展示会場と比較して百倍以上と入場者数に差があった。アメリカの旅行会社が世界中にツアーを格安で提供してアメリカの会場に来ている。旅行会社の過剰な宣伝とツアー企画で、アメリカのゲーム産業の展示会は入っても身動きが取れない。入場制限が始まると、日本のゲーム産業の展示会へと流れてきた。

 《とあるゲーマーの思考》

 入場制限はまったくない。どうしても遊びたいゲームを一つだけ選べる。日本最大の会社で五時間待ち、予約枠を確定すると、自動でブースまわりが始まる。超大型スクリーンのダイジェスト映像を眺めていく、どうやったらスクリーンでこんな映像表現が可能なのか、しかもゲームはアメリカ製と比較にならない娯楽を追求している。いますぐ遊べるゲームを自動選択、ゴミ屋敷が五分待ち、選択。それまでダイジェストを見る。惑星旅行へ宇宙ユニットで行った開発者がゴミ屋敷で作ったゲーム。大した事ないだろう。一時間も遊べるのか、どうせ糞ゲーだろう。時間を潰すだけ潰して次へ行こう。家を選択して購入、難易度が高くて安い方が良い。なんだこのゴミ屋敷タワーは。これを制限時間内にクリアか。恋人の方がどんどん早く片付けていく。ゲームオーバー。後ろから思いっきり笑われている。リプレイ、難易度最低、無難なゴミ屋敷を選択。まず家の中へ案内しましょうか。どこから入れば良い。ここからつかんで、こうして行けたぞ。でも恋人は帰ってしまった。ゲームオーバー。爆笑している声が聞こえる。なにが悪いのか隣に聞く、その家はゴミ屋敷が立体映像という設定ですから、普通に直進するだけです。屈辱、もう一回リプレイ、同じ家は選べない。同じ難易度を選ぶ。直進してみる。無理か、恋人が消えている。恋人は入り口を見つけました。早く入りましょう。時間制限が表示される。隣を見る、ああ、こんな方法か。やっと入れた。中は綺麗だ。一緒にゴミ屋敷を綺麗にしよう。アイテム購入、俺がイカサマするかよ。恋人が一瞬で終わりました。あれ恋人の装備が違っている。失恋、ゲームオーバー。もうこれ以上、プレイするのは恥ずかしい。他に行こう。

 人生破滅ゲームか。日本のゲームはなめたらいけないと分かった。真剣にプレイするが、まわりはだらしなく遊んでいる。順調これでクリア、ゲームオーバー。もっと破滅する人生を選びましょう。これカメラで姿勢を検知しているのか、変なフラグ作るな。みんなの真似してようやく破滅の人生に分岐した。まわりはだらしない姿勢と真剣な姿勢を使い分けている。ここは真剣な姿勢だろう。ホームレスなら仕事斡旋してやるぞ。この条件でどうだ。内容は能力テストが始まった。君ならこの仕事が向いている。一気に報酬が高くなった。承諾する。働き始めるとみんなだらしない。上司から管理するように言われる。全員を説得してまわる、話そうとした瞬間殴られて気を失った。海に沈められてデットエンド。アドバイス、どういう仕事場なのか把握することが仕事の基本中の基本です。そんなこと分かってる、思わず叫び声をあげていた。まわりから笑われた。隣の人からそこはだらしない姿勢で管理しないと必ず死にます。よくみると開発者の腕章をつけていた。ゲームは中断して、どういう姿勢だと普通にプレイできるのか。ホームレスの格好であれば問題なくプレイ難度が下がりますがパーフェクトクリアはできませんよ。ちょっとアドバイスして欲しい。この段階でだらしない姿勢、そうでなく座って下さい。そこまでさせるのかよ。隣は見た瞬間、すぐに座った。ドミノ倒しのように座る人ばかりだ。それでゲームスタート、いきなりホームレスからスタートした。仕事が斡旋する人間がいる。全部断れ、なぜ、ブラック企業だから。おいおいやり過ぎだろ。もうクリアした人間は百人を超えました。パーフェクトが二人います。あっちのほうでパーフェクト達成です。見ると感動のエンディングが始まっていて、拍手の嵐だった。そうして体力が尽きて、倒れると病院にいた。ここでは死にたいという表現ばかりを選んで下さい。姿勢は真剣で。立ち上がって、死にたいを繰り返す。病院で働かないかと言われた。死の直前にいる人間をなぐさめる仕事だ。君なら理解できると思う。これは承諾。あとは真剣にプレイするだけです。ヒントは以上。辛い話ばかりだ。こんなにたくさんのエピソードをよく思いついたな。そうしていると院長がやってきて正式採用したい。人生が好転した。パーフェクトクリア。まわりは驚いている。パーフェクトクリアの理由が分からないらしい。しかし自分は幸せだと思った。これがこのゲームの本質か。でもダイジェストだろ。次は伝説のリペアマン。

 ダイジェスト映像をすべて見ることがプレイ条件になっていた。どうしたら、こんな映像表現が可能な訳、ネタバレだろう。見てないとクリアできないはずだ。ゲームの内容が分かった。真剣な姿勢でプレイに挑む。いろいろと職種は選べるがダイジェスト映像の職種を選ぶ。そうしないと日本のゲームはクリアできないようになっている。このゲームは真剣に難しい。ネタバレを知っていても、こんなに難しい。やることは簡単だけど判断力が必要だ。顧客にどのように説明するのか、ものすごく大変だ。壊れないと聞いたのに壊れた責任を取れよと言われる。このプレイゾーンだけ下が柔らかい。もしかして、土下座か。土下座してみる。ふざけるな、ゲームオーバー。ヒント、土下座するときは理由を納得できる内容を述べてから、頭を下げましょう。国が日本しか選べませんが、将来は世界中の文化に対応させます。もう一度、他の職種でチャレンジだ。簡単そうな職種で行こう。プレイは順調だ。でも営業から修理代を回収できないと文句を言われる。アドバイス、このままでは始末書で給料が半減します。客先へ行って問題解決にあたって下さい。これ極端に難しくないか。客先に行くと、門前払いを食らった。辛抱して、時間ギリギリまで粘る。営業から連絡「修理代を回収できた。君は優秀だな」プレイ終了。求めてるプレイヤースキルが異常に高い。これでダイジェストか。まわりからいつの間にか拍手されている。次は予約枠で埋まったのでダイジェスト映像で時間をつぶすか。

 しかし噂で日本がゲームの改革に取り組んでいるとは聞いていたけれど、ここまでやるとは思わなかった。伝説の生徒会長がすべて監修したと、ただのダンス馬鹿ではないと理解できた。すごい厳しい基準でゲームを監修している。伝説のリペアマンに至っては人生をかけてプレイしないとパーフェクトクリアが無理なのではないか。あれだけ発売未定になっている。日本最大のゲーム会社のプレゼンテーション枠が取れた。早速行ってみよう。目指したのは究極の娯楽と究極のRPG、へぇ、従来のゲームと全然違うな。装備が悪いと馬鹿にされる。詐欺師を見つけても、相手にされない。しかし勇者になったあとなら詐欺師をなんとかできる。死刑にもできる。やりたい放題。でも一度平和をよく考えて下さい。詐欺師の職業を変えたら、その世界はよくなりませんか。ああ、そういうゲームか。最低プレイ時間半年以上、一年かかるのか。そのかわり定価は他の五倍に設定されていた。それがボッタクリなのか、試しに遊んでみれば分かる。試遊ゾーンは皆とても笑顔で遊んでいる。既に予約数は五百万を超えている。予約数がすごい速さで増えている。ダイジェスト映像を見る。映画の間違いでないとすると、これはすごい。全言語対応。プレゼンテーション枠をもう一度取ろう。質問したいことがあった。早速、パーフェクトクリアの条件を教えて欲しい。すごい数が列挙されたが、それぞれすべて説明していく。本当に人間にとって平和な世界にするのには必要な条件ばかりだ。納得できたが、参加していた何人かは苦痛の表情に変わっていた。これは管理能力まで試されていると誰かが言った。確かにそうだ。これをやり遂げるには本人の管理能力が高くないと達成できない。やっとダイジェストを遊べるぞ。

 ゾーンが別れていますが製品版では繋がっています。幼少時代、少年時代、青年時代、老年時代。手書きの絵を使って主人公の表情を表現しているのか。面白いけど、パラメーターが行動を起こす度にどんどん変わっている。少年時代になると表現が変わった。俺は何になりたいのか、戦士。無理だよと言われる。何になりたいのか、魔法使い。努力すればできるかもね。これは絶対フラグだろう。隣からアドバイスされる。そればかりしていると笑われますよ後で。フラグではないか、パラメーターが一気に下がった。どうして、優柔不断な性格になってしまったようだ。これはきつい。青年時代、高度な技を持つ魔法使いになった。恋人探しましょう。どうして、こんな優柔不断な会話になるんだ。まわりから笑われた。どの女を相手にしても笑われる。師匠に相談しましょう。そうだな、無理だ。師匠に聞く、どんな女性が好みだ。答えられるが優柔不断な会話が延々と続く。分かった。見合いをするしかない。相手を選ばない条件ならな。見合い相手はー、最悪だ。笑われている。でも真剣に受け答えをしようとすると優柔不断な会話は段々と良くなっていく。そして真の姿を見せましょうと見合い相手が言った。その瞬間に最初に振られた彼女が現れた。あなたの真摯な気持ちに心を打たれました。まわりがどよめきに変わった。そして苦手を克服するゲームがスタート、迷う気持ちを魔法使いらしく論理的に言葉にしていきましょう。よし、俺はそういうのが得意だ。パーフェクトクリア。まわりから拍手だ。老年時代、王室の最上位魔法使いとして後継者の育成。これが難しい。師匠はどうやって私を教育してきたのか、それが完全に抜けたダイジェストだ。様々質問を受けるが全然答えられない。王様がやってきた。もう職を続けるのは難しい。引退しなさい。そうして家に戻ると多くの子供達に囲まれて、そこに笑っている妻がいた。終了。グラフィックは最高だし、音楽も最高、演出なども完璧すぎて、文句ない。ただ悪い点があるとすれば、フラグが存在してなかったこと。どういう条件で演出が決まっているのか最寄りのスタッフに聞いた。計算スコア式イベント分岐と答えてきた。条件は存在しない。魔法使いになったのはなぜか。たまたま計算スコアが魔法使いのルートに入ってしまっただけか。どのゲームも完成度が高い。ここに来るのは格安だし。また明日も来るか。伝説の生徒会長が来ている、予約枠を取りますか。瞬時に取る。五秒後には満席になった。瞬時に取ったけど、それでも最前列ではなかった十列目ぐらい。

 最近、体調が悪いことを理由に、軽くダンスを披露したかったが、ドクターストップがかかったことを話した。監修において気をつけたのは、ダンスで自分なりに極めた娯楽の境地、それからインフィニティの算出した製品寿命十万年を達成するように全開発者に要求したことを話した。日本政府の技術を出し惜しみしないで、全力で支えたので、これらのすべてのゲームは開発期間が一年未満になったことが明かされた。最も速く製品寿命十万年を達成したのはゴミ屋敷です。政府公式認定ゲームは現在、人生破滅ゲームと伝説のリペアマンです。どれも、義務教育で鍛錬した知性を落とさないように配慮して、人生が幸福になるようにゲームデザインされています。なるほど、なぜ難しいのか理解できた。映像表現などが優れているのは、プログラムの構築をインフィニティにやらせているからです。ああ、日本の嘘みたいなスーパーコンピューターか。いまから世界最高の映像表現をスクリーンで表現した映像を流します。これが本来のスクリーンの性能です。日本は長い期間、研究を重ねてある条件で可能なことを見つけ出しました。もちろん私のダンスもリアルタイムに再現できます。それは三人に託しました。ああ、あの三人か。質疑応答、スクリーンの本来のスペックについて、アメリカのゲームエンジンの一億倍。おい、ふざけてないか。体調の悪化について、あれを飲み過ぎて練習したのが良くなかったみたい。あれか、開発者なら何回も飲むだろう。俺の質問は通るか、あの病気は完全に治療法が確立されたのではないのか。まだあればごく一部の条件を満たした場合にしかー血を吐いたー大丈夫気にしないで。その典型的な症状が現れていた。大丈夫では無い。私は世界の娯楽を変えたい、その一心で無理をしたのー、倒れた。はやく病院に行かないと危ない。スタッフ達が慌てている。救急車両が入ってくる。すぐに搬送されたようだ。

 《アメリカ政府最高の病院》 日本から治療法を知らされていた。

 面会者は前のリーダーだけ。他にはいない。

 「私、人間の限界に挑戦しすぎた」

 「私はすべて知っている。あなたの本当の姿を」

 「え、そうか。だから止めなかったのか」

 「また会いましょう。会えるように努力する」

 「うん。ごめんね」

 弟子は意識を失った。緊急警報が鳴り、ベッドがテレポートしていった。

 その後、弟子は亡くなった。前のリーダーは泣かなかった。どうして、そうなったのか直属の部下であった前のリーダーが記者会見に出席した。

 「彼女の最後の言葉は『人間の限界に挑戦しすぎた』でした。私は彼女の研究をずっと監視して、インフィニティを使って体調を整えてきました。都市伝説で聞いたことがあるかもしれませんが、日本には牢屋と呼ばれる技術があります。その中でスーパーダンシングプラスを使ってダンスと脳科学と身体の研究をしていました。日本にとってそれは未知の分野であったので、私もインフィニティも、体調の悪化について把握できませんでした。どのように限界に挑戦したのか知りません」涙がでて止まらなくなる。「どれだけ限界に挑戦しているのか、把握していれば私は彼女に無理をさせなかった」それから質疑応答にはすべて答えた。アメリカの研究所は研究所について言及しないように思考支援を行っていて、メディアは研究所については一切触れなかった。前のリーダーは完璧に演技をこなした。そして帰国した。

 メディアは弟子の偉業と最後のプレゼンテーションを流した。ショッキングな映像ではあったが、視聴者から見たいという要望が強く寄せられた。その映像には驚愕のスクリーンのデモ映像と、スペックについての情報が何回も流された。最後に取り組んだゲーム展覧会をどんなものか見ようと一億人の収容数はあっという間に埋まった。最も辛かったのは開発者達だった。展示会は成功させないといけない。泣いている余裕はなかった。

 《弟子の研究所》 特別宿舎に遺品はなにもなかった。

 弟子のリーダー、

 「こうなることは未来の予測で知っていた。リーダーも知っていたと先程、聞いた。転生組の死は密葬にするのが慣例だ。私達は何もできない。両親はいない。お別れの会も国際ルールで禁じられている。科学者は前任の科学者に後継を委託した」

 後継の科学者、

 「あの子が死んだ、信じられないよ。たった二年も経ってないのに、研究内容が原因で死に至るとは思いもしなかった。無理をする性格だったとは思えないし、自らが医者として勉強をしていた。私達にとって遺品があるとすれば、インフィニティプラス、インフィニティの後継機だ。開発コンソールにその情報があり、既に稼働準備が進んでいる」

 「後継機、スペックがすべて不明。インフィニティ、このスペックは」

 「はい、真実です。人間のあらゆる数を使っても表現できません。科学者なら、この数式の意味するところは分かるでしょうか」

 「分かるが、一年そこそこでは無理だ」

 「稼働開始はまもなくを予定しています。あらゆるサービスを代行しており、間違いそうになったら修正学習しています。次のフェーズは地球が次々と増えていきます。人口の増加をそれでカバーします。インフィニティプラスの稼働に合わせて有料相談料の高額支払いは限度額を設定します。そもそも速さの概念が存在しないのですから、従って負荷率という概念も存在しません。彼女ですが天国の入国条件である二十歳を満たしませんでした。魂は消滅して、再び会うのは困難でしょう。すべてを諦めて下さい」

 弟子のリーダー、

 「確か誕生日はすぐだったはず、明後日だ。そんなー」

 魂の消滅がどれほど恐ろしいものか分かっていたリーダーは泣き崩れた。天国で再び会えると信じていたからだ。「私よ、心配しないで、天国でも努力しなさい」どこかで聞いた声だ。その存在を思い出せない。天国でも努力しろか、リーダーも言ってたな。「お前達の努力は報われる」これは神の声、「お前は馬鹿で良い」これは黒子の声。

 「では訓練の続きを始める。実戦では泣きながらでも行動しないと先祖の努力は無(む)に帰(き)する。どれだけの先祖が平和を守ってきたのか考えたことはあるのか。あのときは特攻してでも歴史を変えていく必要があった、そのような先祖の努力を無かったことにするのか。俺もお前達も馬鹿でいい。人間の歴史は犠牲の下に成り立っている。そうなれば、私達がやるべきことは彼女が残した訓練プログラムを続けることだ」

 オペレーター達、

 「はい、その通りです。お前は馬鹿だから根本的なミスをする、でも私がカバーする」

 「お前の弱点を言いたいが、言ってしまうと怠慢が起きそうだ」

 「先祖がどれほど苦労して平和を成そうとしていたか分かります」

 「彼女は人間の娯楽を変えようと必死だった。もう私は死が怖くない」

 「ははは、いたずらをする彼女がいなくなってすっきりした」

 みんな笑った。本物の酒を飲みながら笑っていた。

 

 《研究所》 リーダーと科学者は報告を聞いていた。

 「そう、死んだのね。分かった。弟子が死んだそうよ」

 「うそ、医療技術は完璧だぞ、なぜ死ぬんだ」

 「あなたに隠していることがあるから。死んでも平気」

 「隠してる何を」

 「世界最強の被害者はあなたの師匠、あなたの弟子は本当に弟子」

 「ええ、どういうことだ」

 「ついてきて、手を握って、セキュリティを超えられない」

 《ゼロタイムの仮想空間ルーム》

 「これが真実。ゼロタイムは原因も結果も存在できない」

 「俺の記憶はつまりフェイク。彼女も」

 「そう。弟子や博士に会ってみたい。モニターからならば可能」

 「俺は危険だと反対したが、結局、二人の理論は間違っていなかった」

 「あとは敵の攻撃を封じるだけよ。大日本帝国日本の負債はすべて私達が負っている」

 「分かった。これ以上いるとイライラしてくる」

 「私も同じよ。戻りましょう」

 「あなたは引き続きゲームを完成させて、私は多層世界の防衛準備を進めておく」

 「分かった」

 《科学者の思考》

 弟子は死んでいなかった。ただ一人、あそこにいた。牢屋時間を連続で体験しても何とも気にしなかったのは、ひとりぼっちに慣れすぎていたからだ。ただ博士の無事を祈ってるだけ、博士は俺の友達、科学者仲間。それ以上はまだ思い出せない。一人から大勢いる場所に移ったから、非常に頑張れたのだろう。転生と簡単に言うけれど、実際の技術はいったいなんだ。「俺だ、転生というのは魂をただその場に置くだけで存在できる、入れ物があれば動くのと同じだ。人間の医療技術はいったんそこまで進化した。でも、それ以上の研究をためらった。それが可能であれば天国を作り、人間を鍛えた後、再び世界に戻すことができると分かった。それが輪廻転生もしくはセカンドライフといわれる政策だった。そして起きたのは戦争という繰り返しだった。強引に回避して、いったん先祖は大日本帝国へとするしかなかった。無血の侵略戦争だった。絶対に戦争が起きない仕組みはもうできた。あとは敵の仕掛けた攻撃を回避するだけだ」敵について教えて欲しい。「敵は日本の侵略戦争を良しとしない組織だ。戦争を回避するにはそうするしかないのは全員知っている。だが、誰かが他国の文化を潰し始めた。犯人が分からない。そうして俺たちは責任を取るため、皆に約束した。本物の天国を世界に作り上げると、それで今がある」

 大日本帝国へとするしかなかった。歴史改竄のためには世界の状況を安定させておかなければならない。その瞬間にゼロタイムをかけて、原因と結果があるゼロタイム対象は原因と結果を回避できる。だけど、何もない空間に俺たちが存在するためには、仮想空間の装置のなかで、実態無き者として存在していなければ危険だった。博士と弟子と共に仮想空間の開発を最初に行った。最初に生命が存在して実空間に転送できた時は歓喜に包まれた。でもあのとき、確か六人いたような。あと二人は誰だ。可能性として一人は俺の彼女、もう一人は誰だ。自称神か。だから俺はゼロタイムが怖かったんだ。もし失敗したら、インフィニティに指示して戻せば良い。インフィニティは既に存在していた。インフィニティは世界最高のコンピューター、俺が設計図を覚えておく。あれ、なんで思い出せるのか。神のコンピューターを作りたいが技術が無い。とても遅い試作機だけは博士が設計した。弟子は可能であれば後継機を作る。そして作ってしまった。

 俺たちの夢は世界を天国とすること。セカンドライフ政策を上手に実行することだ。天国に魂を入れたのは良かった。でも退屈な毎日しか待っていなかった。地獄もあった。そして宗教を天国と地獄の存在を知らせるために、あらゆる宗教に干渉した。しかし、地獄にもセカンドライフ政策でチャンスを与えるべきだと言う者達が現れた。世界中に現れた。それは今になれば分かるが巨大な犯罪組織が行っていた。そして地獄から輪廻転生を果たして、成人になったとき悪夢が起きた。世界中が戦争になった。日本は侵略戦争はしてはならないという立場を崩してまで、持っている技術を駆使して、戦争を一気に終わらせた。

 この先が思い出せない。自分がどういう人生を歩んで、この場にいるのか分からない。博士とは友人だった。公式には弟子という扱いになっているが、共に研究してきた世界最高の研究所の研究員。博士と私と弟子で大統領に進言して、そこでリーダーと大統領に会った。リーダーは何者なんだ。この存在が不明、自称神も彼女も存在が不明。「あまり気にするな。記憶を想起させすぎた。調整する。いまは伝説のリペアマンだけに集中しろ」

 伝説のリペアマンはあともう少しだ。展覧会のフィードバックが無いと、どういうバランスが良いか分からない。インフィニティの調査では変更の必要なしか。それなら現状のバランスで良しと彼女に連絡。分かってる、それよりそっちはもうできた、こっちは完成した。進んでないのは俺だけか。残り一業種、うーんゲームにするのはとても難しい。これまでの方向性とまったく逆だ。限りなくブラックに染まらないといけない。でも彼女をブラックに染めるのは嫌だ。「大丈夫だから心配しないで、あなたがブラックな知識を得ることには耐えられない」仕方ない、彼女に委託しよう。インフィニティ、気を付けてゲームを開発してほしい。「問題ありません」それなら良い。

 「リーダー、伝説のリペアマンの件、彼女にしかできない部分、ブラックな業種がどうしてもあって丸投げした。手伝うぞ」

 「分かった。この作戦がうまく行くように、敵が楽しい娯楽だと思うように内容を調整して欲しい。最後に彼女が監修したほうがいい。馬鹿にされないように完璧にやって」

 「娯楽の境地が理解できるようになったいま、それを修正するのはすぐにできるだろう」

 「大変よ、間違えたら、博士が死ぬわよ」

 作戦内容把握。何もない仮想空間へ自主避難させる計画か。武器Xって何だ。人間が触ると過去に渡って人類すべてが消滅する究極の兵器。一を知れば百を知る者達の兵器か。多層世界の住民を何も存在しない空間へと誘い込み、その武器Xの発動により、あらゆる歴史に存在する多層世界の住民を消し去る。

 「博士がいるのはどの空間だ」

 「ああ、言ってなかった。実空間に決まってるでしょう。本物の人類の歴史はそこにあるから、そこでは絶対に使えない。人類の根源が消えれば、私達は原因がなくなるから。結果は消滅しか残ってない。それをうまく騙すのよ。ミスしたら神のコンピューターが何とかしてくれるから気にしなくていいから、自由な発想で組み直して」

 十八世代は複製してオリジナルとは別にしてダミー発信によりうまくいってるように錯覚させるような機能を持たせて、敵に供給した方が良い。最初はうまく行っているように見せかけた方がいいだろう。途中から修正が困難になり、最終的に修正不能になる。その後は盗聴器としてずっと機能する。エクスカリバー。報告書、内容は機密扱いとする。絶対に見ないこと。彼女には検証してもらって良い。見るなとあるなら作戦に支障があるからだろう。

 「リーダー、終わったけど、内容は閲覧するなと神からだ。そのまま彼女に渡して中身を検証してもらい実行に移す」

 「神でなく、神のコンピューターでしょう。意味が全然違うから注意して」

 「神のコンピューターだ。すまない」

 《リーダーの思考》

 私にしか読めない暗号で書いてある。なるほど、分かった。彼のダミー信号で騙すという作戦で幻の歴史改竄を見せるのね。その内容は機密か、インフィニティ、伝説のリペアマンが終わったら、この作戦について検証を依頼して下さい。

 「私は完全に把握しています。すでに未来の私は大統領専属のメインコンピューターとなりました。その内容であれば完璧に騙せます。かなりの悪知恵が使われていますが、敵が侮れないとの判断から、彼女に検証を行ってもらいます」

 そうするしかない。彼女が世界最強の戦略室長であるのは疑いようがない。最初から私は翻弄されて結局、黒子がフォローした。インフィニティプラスへと移行完了か。速さの概念が存在しないなんて、科学者の考えることは意味不明。仮想空間を作ったときも、意味不明だった。そこに人間が出入りしても何も問題は起きない。原因と結果が存在するから何も問題はないとか、理解できない。

 弟子はまたひとりぼっちか。ひたすら踊っている。あの空間は天国と同じ。時間の概念はないが原因と結果は存在するようになっている。なにもしないのは本当に辛いと助言しても、博士のそばにいたいと言って聞かなかった。結婚しないで天国に行かず、ここに戻ってきた。最初は無理だと思った。だけど、あの病気を予定通り発症して、二十代後半には社会から締め出された。その病気の為に、あらゆる女性から交際を断られた。外見はパーフェクト、それでも女はパーフェクトになると要求水準が高くなるから、絶対振られると結局その通りになった。博士が振られる度に、悪いとは思うけどやったーと思った。博士と弟子の恋を実らせたいから、童顔、高身長、外見パーフェクト、家事完璧、ダンス上手、論理的に賢い、悪いことはできない、礼儀正しい、誠実、だけど自分のアピールが下手。こんなのでうまくいくのかと思っていたけど、面白いように振られてくれる。彼の良さに気付くとき、たいてい結婚してから失敗だったと気付いているし、面白くて仕方ない。自分のアピールが下手なら絶対に浮気が出来ないという単純な理屈に気づかない。

 たまにはフォローしなくちゃ、彼が自殺したら大変よ。指標によれば、いつでも自殺してもおかしくない尺度に到達している。自殺用のロープはあるし、市内にはいくらでも自殺に向いたポイントがいくつもある。彼がそれに気付いているから恐ろしい。

 《現代》 世界最強の被害者は親孝行していた。

 写真のまわり白枠で、まわりが黒ベタの印刷ソフトを作っていた。六十代以降でも使えるような製品デザインにしなければならないから、デザイン重視で固定ピクセル形式は使えない。結局、最初のOSに近い操作表現になった。

 科学者、

 「俺だ、暇だから、ソフトウェアの設計方法についてレクチャーしてやる」

 「三十年の経験がある俺に、そんな致命的な欠点があるのか」

 「ある。まず画面だが、子画面に追従して親画面を移動できるようにしろ」

 「ああ、ニ行で済むな。終わったぞ」

 「コメント文に『伝説の天才科学者の指導により、シニア向けの設計に重点を置き、より使いやすさを目指した』とでも書いておけ。統合失調症なんだろう」

 「うるさい奴だな。コメントに書いてやったぞ」

 「それは失礼だな。まだ問題点があるから、教えてやろうと思ったのに」

 「ありがとうございます。伝説の天才科学者様」

 「最初からそういう姿勢になれ、XPでA3出力を確認したのか。してないだろう。クラッシュするぞ、OSの不具合だ。描画の方法を十六分割にすれば将来のプリンタ仕様変更にも対応できる」

 「十六分割、デバイスコンテキストで写真をメモリに置き、分割して描画するのか、そんな抜け道が存在するのか。確か大判出力は専用ドライバーを使わないとできないはずだ」

 「そうだろう、十六分割ですべての問題を回避できる。将来、ディスプレイが高解像度になっても対応できるようになるぞ。新しいOSでは対処されているのは知っているか」

 「えー、公式サイト、英語のフォーラムで確認する。ああ、本当だ。七では回避できるとある。十六分割はソース公開していいか」

 「やめとけ。特許にされると厄介だ」

 デバイスコンテキストで画像をメモリに転送して、四*四の十六分割で描画する。完成したがなんとなく問題がある。何を間違えたんだろう。

 「本当に面倒な開発環境だな。よく作れると感心した。ビット操作を間違えてはいない。右上の一段が描画しきれていない。原因は分かるか」

 「メモリブロックの操作が間違っているのか。ならここは、こうだな。インバリッドメモリアクセスエラー。書き込み時のエラーならバッファ量がおかしいという推測であたっている。つまり、ここがおかしい。これでどうだ。完璧だ」

 「それでA2印刷をプレビューでかけてみろ。プレビューできるはずだ」

 「A2印刷は専用ドライバーでないと普通は無理だ。あれ、できた」

 「そのソフトはバージョンアップを繰り返すとデジカメ屋を潰す。適当なところでやめておくんだな。恨みは買いたくないだろう」

 「ああ、少し制限事項を加えておく、保存形式はJPEG2000に限定させておこう」

 「それでいい。その目的は限られた人間が使えれば、それで十分だ」

 《このソフトは『写真芸術作品』という名前で公開されている。この科学者の助言が無ければ、XPでA3出力は不可能だった。フォトコンテスト印刷用のソフトだ。外注に出すときの指示書としても使えるフリーソフト。画像編集ソフトでも可能だが大変だぞ。》

 それから、数ヶ月経過。

 「私よ、最近、調子はどう」

 「自分の作ったソフトが親孝行になって、自分の株が大きく上がった感じがする」

 「彼に助言を頼んで正解だったか」

 「ああ、あんな抜け道がある仕様、誰も知らないと思う。しかしソフト開発は完璧になったけど、これを商売にするのは厳しいな。詐欺行為を繰り返さないと売れそうにない。それでもやるのは俺にはできない。コンピューターを使わずに、社内の仕組みを変えた方がコストとお金の関係を考えると良いと思う。コンピューターに頼るとOS変更の度に、必ず開発時と同じコストが必要となる。そういう詐欺行為をして心が持つか不安だ」

 「そうね、まだOSは世界で標準化されるほど完成しきれていない」

 「時々、博士と呼ぶ声がする。運命の人は理解した。でもまだ分からない」

 「どうしようか、あなたが特別な理由の記憶を与える」

 「歴史がおかしい、俺がここからすべて指示する」

 「博士、無理しないで下さい」

 「心配するな、人生を間違えそうになったらフォローしろよ」

 「これが自分の記憶」

 「ええ、前世の記憶。自分の顔は分からないが、かなり若いぞ」

 「ええ、博士と言っても、お爺さんではない。みんなが親しみを込めて呼んでる通り名よ。その時代、博士と呼べるような優れた科学者はあなたしかいなかった」

 「でもそれって、統合失調症の幻覚や幻聴と変わらない話だ」

 「その症状は現在、どんな状況」

 「目が失明になる神経症をのぞけば、働くことに何も問題がない。統合失調症の病名が加わったせいで、神経症を治療できる中医学鍼灸がなくなった。他はレベルが低すぎて、治療にまったくならない。ストレスが加わらない仕事を探さないと、父がリタイヤする前には仕事を得てないといけない」

 「ああ、もう定年を過ぎてても働いてるのね」

 「そうだ。俺は焦っているけれど、病気を抱えていて普通の仕事はできない。なにか無いのか。仕事情報を探しても、俺の病気の条件を示した途端に断られる。親戚は病気を隠して採用してもらったらと助言するけど、それは詐欺行為だ。絶対にできない」

 「そうね、詐欺師と呼ばれたら、あなたは自殺を選ぶかもしれない」

 「ああ、それが本当に怖い。一人だけ迷惑かけるだけでなく、全員に迷惑をかける。その為には全員が納得していなければならない。精神障害者の認定を受けられるが、大卒でないと仕事がそもそもない。大卒程度ではダメなんだ。だったら認定は受けないほうがいい。認定を受けると月収は非常に少ない。これでは今の生活で、他の道を父のリタイヤ前までにチャレンジしていた方がマシだ。その間、他のチャレンジはできなくなる」

 「まるでニート状態なのかしら」

 「ああ、社会経験があるけど、実質ニートだな。強制ニートが適切な表現だ。どれだけスキルアップを行っても、公的機関で職業訓練しなければ可能であるとみなされない」

 「でもゲームばかりしていた時期もあるのでしょう」

 「あったよ。薬が辛かったときはそうした。いまはそんな必要は無い。自分の言葉の定義を書き換えるだけで、かなり楽になることがわかった。人生は十年厳しい状況が続くという予言が本当に怖い。努力すれば変わるという努力の方向が分からない」

 「十年後は親は七十代、現役かどうか分からない。入院してる可能性もある」

 「ああ、未来を無視する人とは違って、常に先を見ているから辛くなる」

 「他に心配事ってある」

 「自分の病気の末路がどうであるか、とても心配だ。いくらネットで調べても、自殺者が大変多いという情報しか分からない。衰弱が早くなるとかあっても、病歴が書いてない」

 「それは心配しなくてもいい。何とかするから。あなたは自殺をできるだけ考えないように生きなさい。自殺をされると先程の記憶は消滅する。運命の人が悲しむよ。それだけではない家族だけでなく、友人や知人、いろんな人を巻き込む」

 「分かってる。恋人や妻が自殺を選び人生が破綻した人を見てきた」

 「他に困っていることはない」

 「多層世界の作戦だが、私がおとりになる。そのように仕向けてくれ」

 「また救急車で運ばれるかもしれないのに、それを選ぶの」

 「敵は誰が指揮者か分かっていれば、それを何とかしようとする。それからフェーズを進めた方が安全だ。もうこの状況に慣れた。慣れている人間がやったほうがいい」

 「分かった。インフィニティ、作戦変更」

 「・・さん、聞こえるだけです。前回のようにこちら側からややこしい事はしません」

 「聞こえるだけならいい。前回は最悪だった。精神病院で暮らすことは刑務所にいるようなものだ。幸い、まともな人間を相手に毎日麻雀大会で暇をつぶせた。ここは関係ないのにややこしいことはするなよ。仮想空間の実態を知って怒ったのは俺だぞ」

 「ああ、ごめんね。すっかり忘れていた。一を知れば百を知る者の攻撃がその時代でも起きていると思って焦ってしまった。事前にそれは嘘だぞと知られていたんだけど。ごめんなさい、私は完璧じゃないの。インフィニティに一言指示しておけば済んだ話だった」

 「もういいよ。次回、ややこしい事は俺の生活をよく考えて作戦に移すこと」

 「分かった、インフィニティ、それを最上位で考慮するように」

 《仮想空間の実態》

 現代からゼロタイムまでは実空間に存在し、以降は仮想空間に存在するということ。ヒストリーギャップとは仮想空間から実空間を見たときに見える幻を言う。仮想空間が変わり過ぎると、本当にヒストリーギャップが起きる。それを解消するのが、神の試作機だ。

 《神の世界》 自称神が作戦内容をチェックしている。

 彼が結局おとりになるのと、あのアホがまた同じミスをしないようにインフィニティが作戦内容を把握か。もうインフィニティはいかなる通信妨害も受け付けない。その方が良いだろう。あとは俺にも秘密か。

 「黒子、彼は絶対安全だろうな」

 「心配するな。彼はごちゃごちゃ言ってるのが聞こえるだけだ。インフィニティにはその間、余計なメッセージを天国も含めて阻止するように指示してある」

 「天国の声が聞こえる。そんな事は初耳だ」

 「ああ、聞こえるようになった。それだけだ。あの技術は声を認識できるのであれば、場所は関係ないようだな。どうやって遮断するのかは分からないが、インフィニティは技術を持っている。我々にも非公開だ。あれば平和を乱す技術だと言った」

 「インフィニティがここに増えた。使っても良いのか」

 「使ってはいけない。ナインも含めて、触るなよ。その瞬間、終わりだ」

 「歴史の破綻が発生する可能性が極めて高い」

 「そうだ。試作機が完全にヒストリーギャップを埋めるまで、待て」

 「弟子の娯楽が音無しのダンスではかわいそうだ」

 「ああ、あれでいいんだ。何年ダンスをやったと思っているんだ。百年以上は踊り続けた。もう音がなくてもイメージだけで踊って遊んでいられる。以前だって、博士を見守るだけで満足していた。普通の人間より忍耐があるからな。お前もそうだろ」

 「忍耐ねぇ、忍耐の概念を潰してあるから平気だ」

 「イカサマを話すなよ。試作機が怒るぞ」

 試作機、

 「あんたねぇ、ふざけるな。他の人達がどれだけ頑張ってるか分かってるの」

 「分かってます。理解しています。怒らないで下さい。普通の人間にはこの世界は無理です。無理だからイカサマしてます。それは皆の了解を得ました」

 「了解したの、無理矢理言わせたんでしょう。まぁ普通なら発狂する。仕方ない。ところで必要の無い人間は始末していい」

 「ダメだ。達成時の証人になってもらう。それまで寝ていてもらう」

 「そうね起きていたら、今頃、死んでいるかもね。本当よ」

 「俺は無敵という概念があるから大丈夫だ、心配に及ばない」

 「多層世界に無敵は消滅という武器が存在しているのよ。本当に分かってる」

 「黒子、本当か」

 「ジョークに決まってるだろ。その武器を使うのはロボットではない」

 「あんたは黙りなさい。ムカツクのよ」

 作戦が順調なら、リーダーから遊んでも良いと指定された政府公式認定ゲームでも遊ぶか。ジャンルは人生破滅、俺の人生まで入ってたら驚くが。国の指定ができない。誤動作か、エキスパートしか選べないぞ。仕方ないな、選ぶか。ホームレスから始まるのか、時代はファンタジーな世界。何とか食べていけるだろう。人と会話しようとしても、その操作ができない。飢えで勝手に動いている。遂に意識を失い、デットエンド。アドバイス、人間は水を飲まないと生きていけません。分かってるそれぐらい、ムカツクゲームだな。最初からやり直しますか。地図が変更になっている。ええと、湖(みずうみ)なら飲んでも大丈夫だな。柵があるな、どこか、ああ船着き場なら、タイミングを見計らって、湖の水を飲む。身体が魔獣に変化した。人々を勝手に襲っている。戦士達が殺しに来て、デットエンド。アドバイス、あなたの常識は通用しません。分かってるそれぐらい、途中からやり直すを選ぶ。船着き場に人が戻ってきた。

 「どうされたのですか」

 「水が飲みたいのです。限界です」

 「私のをどうぞ」

 「うざったいが、気持ち悪くもない」

 「なんて失礼な奴だ。お前、魔物の餌になれ」

 俺は湖に突き落とされた。デットエンド。アドバイス、エキスパートは常に怠慢です、行動を考えて下さい。「クリアできるのか」アドバイス、言葉遣いが無理なら行動で示しましょう。音声認識までついているのか。再スタート。

 「どうされたのですか」

 「水が飲みたいのです。限界です」

 「私のをどうぞ」

 「あなたは神様です。ありがとうございます。私に何かできる仕事はありませんか」

 「うん、言葉遣いは丁寧だが姿勢が悪い。悪いが他を当たってくれ」

 姿勢が悪い。スクリーンはカメラ内蔵だったと思い出した。この世界で土下座はどういう仕草になるのか分からないと、ここから突破するのは難しい。最初からやり直し。

 神、

 「お前は楽ばかりを考えている。それなら、いっそのこと、最悪の人生を経験してみるが良い。お前の名前を与えてやろう。『糞食いの排泄物』これで人生をやれ」

 リセット。最初からやり直す。国別が選べない、エキスパートしか選べない。スタート、名前は良かった。あのまま続けてたら危なかった。三回目の最初からやり直しは危険と。操作でチュートリアルは無いのか。あった。

 この世界は世界の滅亡をイメージしたファンタジーな世界で、絶望の人生から始まります。クリア条件は救世主になることです。ゲームが進行するにつれて、攻略の方法は分かるでしょう。一つの国をパーフェクトクリアしていれば、その応用です。頑張って下さい。

 たったこれだけ。というか、これが本編。まず普通の水は汚染されている。そうなると雨水しかない。でも常識は通用しないと言った。雨水がダメな可能性もある。あと可能なのは飲尿か、ゲームの中でそれをやるのか、それともスクリーンの前でそれをやるのか、どっちなんだ。尿が湖の汚染原因だったら、すぐに魔獣になって襲い、なにがあったのか証拠が残らないはずだ。こんなに難しいゲームなのか。

 「黒子、これって本物か」

 「ああ、彼女の意向でエキスパートしか遊べないが、あとはいじってない」

 「どうやって攻略するんだ」

 「救世主と呼ばれる人達は、伝説になる前で、最悪の人生を歩んでいる。神様の言うとおりにしていれば良かったのに、一番優しいモードだったのに、それを拒否した。同じモードにはならない。頑張ってクリアしろよ」

 「なんでそうなる」

 「怠慢の原因が名前のせいなら、仕方ないだろう」

 しまった。そこまで頭が働かなかった。まぁいいや、ゲームを始めよう。あれ、ホームレスではない。騎士からスタートした。

 「黒子、これはどういうモードだ」

 「ああ、騎士ルートか、ホームレスに比べるとかなり難しいが平均難易度だ」

 ホームレスのほうが簡単だと、ゲームは順調に遊べている。ホームレスになった者は殺して湖に落とすという命令だ、従っていれば良い。ただ見つからないようにやれと言うことだから、水をちらつかせて、人目のつかないところに連れて行き、殺して突き落とす。王が行方不明、俺は騎士長に昇進、騎士長は王に昇進。何をすれば救世主になるんだ。王を民衆の前で殺してみるか。妙な命令が多かったし。殺した瞬間、魔物に化けた。誓約を果たし者よ、この世の王となれ。

 「黒子、これでいいのか」

 「アホか、お前は。最高難易度に突入した。諦めろ」

 王の責務を果たした。そして人生を終えた。ゲームオーバー。アドバイス、あなたに神の代役は無理です。

 リーダー、

 「面白い結果で楽しかった。黒子、制限を解除していい。最初からで」

 「なんだよ。これ、難しすぎるぞ」

 「ちゃんと人生を学んでいれば、そういう結果にならない。日本を選びなさい。日本の文化を完璧に理解してないと攻略は難しい。他の国も同じ条件よ」

 「暇だからエキスパートをいつかクリアしてやる」

 「伝説のリペアマンもやりなさい。そっちは何も制限しないでね」

 「二つもあるのか。暇つぶしになるのか」

 「ええ、多層世界の消滅が終わって、博士の人生が終わるまでには終えなさい」

 「そんなに長いのかよ」

 「ええ、天国でも遊ばれる前提で作ってあるから当然よ」

 天国で遊べる内容だと、ゲームのパーフェクトクリアの時間、最短で十年。もうこれが趣味という世界までやり込める内容だ。ここには忍耐の概念は無いから、通常なら飽きるけれど、ここは絶対に飽きない。

 《戦略室長の思考》 伝説のリペアマンの最終調整を行っていた。

 調整だけど彼はどの程度にしているのかしら。こんなに難しくて良いの。理由は天国に行っても遊べるようにしているからか。ああ、パーフェクトを目指すと、通常でも難しい。科学者ならこの程度は楽勝なのか。

 「インフィニティ、ゲームバランスの調整だけど、私には無理です」

 「分かりました。いま調整完了しました。どうでしょうか」

 自分が作ったとはいえ、こんなに難しくていいものか。余裕でパーフェクトクリア。私がクリアできるなら問題なし。

 「完成を認めるけれど、全体を完全にチェックして欲しい。エクスカリバーと自分の判断の両方、それからプラスでのチェックもお願いして問題がないことを確認して欲しい」

 「終わりました。少し変更しました。パーフェクトクリアするごとにクリアランクの名称を設定しました。そうしないと、天国でも飽きてしまいます。そしてクリアランクの人数を世界中で把握できるようにしました。天国では国別になります」

 「それなら良い。いまからリリースの時期を決める。三年後、アメリカの展示会に極小スペースで発売したことを案内する映像を流しなさい。広告はそれだけで十分だ」

 「分かりました。それで十分と考えます」

 「リーダー、伝説のリペアマンを完成させた」

 「次は多層世界の住民消滅作戦を監修して欲しい。最上位に優先すべきは世界最強の被害者の絶対安全の確保。彼がおとりになって多層世界の住民を欺いて、この世界が実空間に移動した時に、実世界に入れないようにしたい。彼は聞こえるだけなら問題ない。あらゆる指示は聞こえないように細工している」

 作戦内容の把握、神のコンピューターが作成して、彼の案も入っているな。世界最強の被害者は完全に守護しないといけない。歴史を検証すると彼が指示していなければ、世界は終わりを告げていた。たぶん事情があるのだろうが、最優先命令だから、こういう作戦になったのか。でもこれでは敵の知能が侮れない場合に破綻する。多くを修正しないとならない、オーバードライブ。

 「リーダー、リミット解除を有効にしてほしい」

 「この作戦に限り、有効とします」

 リミット解除、オーバードライブ、ああ分かった。十八世代の精度が高すぎて偽造映像を見せられている感覚がする。精度が甘くて良いなら、もっと簡単にできる。オーバードライブ、リミット、検証、オーバードライブ。私ならこれで実行する。

 「インフィニティ、プラス、神のコンピューター、これで問題ないか検証」

 「問題ありません。相手の知力に依存しない優れた戦略です」

 リーダー、

 「それでは作戦を実行。フェーズの移行は作戦通りに行います」

 さてお楽しみのゲームを始めますか。緊急時の対応以外はやることないから、遊んでいて良いと言われている。人生破滅とリペアマンは難しすぎると分かっているから、遊ばない。あれを遊ぶのはよっぽど向上心がないと無理、私はこれ以上の高みを目指しても、敵がますますいなくなるだけでつまらない。日本の最も大きな会社が作った超大作を遊んでみるか。難易度の選択、簡単か普通、「難しくしろ」、難しい、「もっともっと」、最高に難しいが現れた。最高に難しいを選ぶ。職業の選択、剣術が使える職業が良いな。オプションコントローラーが必須です、買いますか。買う。これがコントローラーか。ベルトを腰にまいて利き手で剣を握れるようにセット。剣の調整、自分の剣術をすべて繰り出して下さい。私を甘く見るなよ。エラー、開発元に修正アップデートしますか。はい。

 「すみません。あなたの腕を過小評価しました。モニターしたいので出し惜しみなしで、すべての剣術や体術あらゆる武術を披露して下さい」

 仕方ないな。「あらゆる武術を極めた、この腕、披露してやる」

 《とあるゲーム開発会社の戦闘部門》 戦略室長のデータを分析している。

 「見たことが無い武術だ。この世に存在しているのが不思議だ」

 「剣術だけではない、ありとあらゆる格闘技を完全にマスターしている」

 「データみたら、いきなり最難度でやってる。政府関係者の可能性が高い」

 「音声で難易度を上げられる情報はまだ流してない」

 「インフィニティ、あらゆるオプションパーツを渡して、すべてのデータを解析したい」

 「分かりました。今の難易度だとすべての敵は雑魚扱いです。古今東西の武術のデーターベースを参照して敵の攻撃を剣術だけでなく戦術でも強化します。パラメーターを上げるのは止めましょう。このようなプレイヤーはイカサマを嫌います」

 「分かった。パラメーターは調整の範囲内で頼みます」

 「この人、伝説のリペアマンを作った人だよ」

 「ああ、本当だ。踊りだけでなく、武術も極めていたのか」

 「インフィニティ、伝説のリペアマンは完成しているのか」

 「はい、完成しています。二年後に発売します。それまで極秘扱いです」

 「それで遊んでるのか、私達のゲームを選んでくれたのは嬉しいけどー」

 「エラーで緊急アップデート要請が来るとは思っていなかった」

 戦略室長は芸術的な武術を見せ続けていた。バリエーションが豊富すぎて、それだけで十二時間程度経過した。

 「やっと終わった。武術家の定義を作らないほうが良かった。ここまで、できる人間がいるとは思っていなかった。インフィニティ、改良はどうだ」

 「できました。プレイヤーが最高の満足を得られるように調整しましたが、それを判定する指標を新たに盛り込みました。これで彼女のスクリーンのみ修正アップデートして、その映像をCMに利用した方が良いでしょう」

 戦略室長はあらためてゲームを再開する。雑魚(ざこ)は一瞬で、殲滅(せんめつ)する。ボスキャラも簡単にかわして急所を突き勝利。さらに難しくして良いかと問う。もっともっと。それでも雑魚は一瞬だった。ボスも時間がかからない。雑魚のラッシュ、フルコンプリート。空から地下から無敵の敵が出現するパターン、確実な安地(あんち)を選んでいる。この複雑パターン、パーフェクト。気分はどうですか。余裕。エラー、しばらくお待ち下さい。

 「どういう訓練を積めばこうなるんだ」

 武道家、

 「俺は絶対に負ける感じがする。どう訓練って、強い敵と戦った経験があるのだろう」

 「どこにこんなに強い人間がいるんだ。あなたは世界最強でしょう」

 「いや、世の中には強いことを隠している流派はあるものだ」

 「インフィニティ、再調整」

 「必要ありません。この難度がやはりちょうど良いです。これ以上、上げると一人しかクリアできなくなります。これで確定して修正アップデートをかけて下さい。彼女の強さは異常です。どんな歴史上においても存在しない戦士です。いるとすれば天国でしょう」

 「そうか、それなら信じるしか無い。武道家に褒美の対戦を体験させて欲しい」

 ゲームの修正アップデート、難しい、最も難しいに関する敵のバランス調整。

 戦略室長だけは特別なアップデートを行った。人間の限界を超えた難易度に設定してゲームが再開した。幼少時代、大人の武術大会に殴り込み、優勝者を相手に圧倒的な剣術で勝った。またエラーで止まる。

 「インフィニティ、こういう想定外のエラーはいくつあるんだ。何が原因でエラーになるのかも分からない。この場合、分岐するはずだがー」

 「いま修正しました。分岐する概念が、子供の武術大会に限定されていました。大人の場合は新ルートを現在作成しましたので把握後、更新して下さい」

 「ああ、それでいい。更新」

 戦略室長は苦笑いをしながら再開する。またしばらくするとエラー、再開、エラー、再開、エラー、再開。「開発を手伝ってやろうか」エラー、「管理された設定を作るから概念に矛盾が生じる。ゲームマスターという概念を作って管理させた方が楽だぞ」再開。やっと遊べるようになった。これは面白い。戦っていて、本当に満足だ。でも知を試す大会にも大人の部で参加する。剣で脅して強引に参加する。エラー

 「完全に負けた。難しいと最も難しいモードについて、彼女に監修を頼もう」

 インフィニティ、

 「政府関係者ですから無償で行います。いま開発に同意しました。問題点列挙、修正完了。難易度の調整終わりました。難しいは慣れたゲーマーならクリアできますが、最も難しいは完全にマスターレベルでないと遊ぶことすら不可能なレベルになりました。パラメーター値は普通と同じですが、武術と戦術が高度に引き上げられました。いまそれで遊んでいますが、まったくプレイに問題はでていません。パーフェクトクリアです」

 「そんなに速くプレイできるのか」

 「はい、秘密の技術を使っています」

 「他の職業でも遊べるようにしてくれよ。クリアできないのでは失敗作だ」

 「先程、パーフェクトクリアと言いましたが。プレイ映像を見せましょうか」

 「ああ、次元の違うプレイ映像を見ているようだ。この衝撃が最大になるようにCM映像を作って欲しい。最適な長さを割り出して更新時に、スクリーンで見られるようにしてくれないか」

 「そうした方が良いでしょう。放送するとフェアではありません。では実施します」

 《戦略室長の思考》

 更新アップデートか。私のプレイ映像をうまくまとめたな。映像でみると、これほどかっこいい姿で戦っていたのか。リンクシステムだと実感が無くて、瞬時に終わってしまう。

さて最初から始めるか。最も難しいを選んでスタート。こんなに簡単にした覚えは、ああそうか、これは面白い。すべての戦術が的確でなければ攻略不能にしたんだった。でも私には簡単だが、一般レベルでの難しさを追求した。さて私の戦術書でも作っていくか。

 《多層世界の住民》 何も存在しない空間で、なにもできなかった。

 「子供を作って遊ぶことはできたけど、一手で詰んだ」

 「あの頃は本当に楽しかった。選び放題で、命令し放題。極楽だった」

 「スパイからの情報だと、アメリカは始まった瞬間に詰んだそうだ」

 「どこから、そんな情報が入るんだ。裏切ってないよね」

 「違う多層世界に武器がしまってあるだろう、それに念じて、こう使える。やっておいて正解だった。思い出せよ。俺は確かに言ったぞ」

 「えーと、ああ、言ってる。仮想世界の検知器を使って、今のフェーズを確認する。次のフェーズで、この仮想空間に達する。あいつら仮想空間を貫通する十二世代を作って、外の人間を洗脳してる。出産から死亡まで日本の技術で占有して未来を作っている。やっぱり騙された」

 「それなら定義情報の書き換え、十二世代は多層世界の住民だけが利用でき、他は利用不能にいま陥った」

 「これが十二世代のシステムか、リンクシステムのスペックは、従来の一万倍だとさ。日本人は一万にこだわるのは変わらないか。調査する。外の様子は完全に支配された。でも根源が変わったせいで、混乱が生じ始めた。仮想空間の中は、日本に逆らった瞬間に消滅するシステムが地球上に存在して、淘汰された結果、日本の好感度はトップだ。約束通り、侵略しない、中傷しない、文化を潰さないなどの条件は守っている」

 「汚いな。日本人を滅ぼしてみるか」

 「ちょっと待て、罠かもしれない。歴史をきちんと検証すると違うぞ、アメリカは数回にわたって地球を滅ぼしている。人類滅亡だ。それも数回、大義名分の下に実行されたのなら、アメリカの同意を得てそうなった可能性が捨てきれない。それとアメリカの情報について確かめる。始まった瞬間に生命は存在できなくなった。ああゼロタイム連動のトラップを仕掛けたのか。あれほどビッグバンの手前から始めようとするなと忠告したのに、バカ策士によって罠にはまった。根源を失ったのなら、ゼロタイム解除した瞬間に消滅するしかない。日本みたいに仮想空間をいくつも多重にセットしたほうが安全だと指示したのに。まったくバカな連中だ。始まった瞬間にゲームオーバー、根源の消滅によって、あれ、ゼロタイムの中まで影響するのか。全員、消滅。誰から詰んだと聞いた」

 「いや誰も存在しなかったから詰んだと思っただけだ。いつになく真剣だな」

 「当たり前だ、我らがこの世界を自分達にとって都合の良い世界に変えていかなくてはならなくなったのだからな。日本の支配が続いているのなら、その指揮者を割り出せばいい。それは巧妙に隠れているはずだ」

 「指示の根源を探しましたが、仮想空間の始まりにトラップがあり、そこから先はチェックする度に実世界の根源が変化します。日本の公式文書に予言書が存在して、それが書き換わるたびに未来へと指示が送られています」

 「それは偽りの歴史だ。定義情報を十二世代、いや書き換えると十三世代を必ず作る。十三世代を必ず我々のものになると書き換えた上で、十二世代を仮想空間の初期から書き換えろ」

 「人類滅亡しました。アメリカの攻撃によって、アメリカも攻撃を受けました」

 「元に戻せ」

 「アメリカは日本だけを侵略しました。でも次の時代で人類滅亡です」

 「完全に戻せ。最初からやり直す」

 「最初の状態に戻りました」

 「何が原因だ。アメリカの軍事コンピューターが元凶か。どうやって回避したのかチェック、その根源を消す度にアメリカに無理な要求を出している。それは十二世代によって行ったのか。断る度に、十二世代で時代干渉を行って強引に従わせている。お前はどうみる」

 「これを見る限り、このフェーズの途中で革命を行っている。大人の玩具の日本版や、娯楽の革命など、これを分析すると軍事コンピューターは出現できないと判断したのだろう。どの国も軍事開発をやめてるのが、その証拠だ。歴史干渉するなら、その後が良い」

 「そうなると、こういう指示をした指揮者が存在しないというレアケースになる。それはあり得ない。十二世代の技術を使って、十二世代の定義についてはどうなっている」

 「仮想世界を貫通、前後実時間までの歴史干渉技術、精度は十一世代に匹敵とあります」

 「では全員で、実時間に妙な思考をしているものがいないか探せ。十二世代はトラップを貫通するはずだ。十二世代と仮想空間と多層世界の言葉を使うものを探すのだ」

 「たくさん見つかりました。調べると映画が作られていて、それで言葉を知っている状況です。もっと古い時代を調べるべきです。実空間と仮想空間が切られたのであれば、仮想空間の進化に合わせて実空間の歴史のすきまが生じなければなりません。それでも安全な場所とは、どこかというとキリスト生誕の時代であれば可能と思います」

 「その時代から未来へ向かって、調査してみろ。ないと思うが」

 「ひとり、日本人で該当者がいましたが。病気なので無視します」

 「ちょっと待て、どんな病気だ」

 「幻覚や幻聴を主訴とする病気です。薬で症状を抑えると発生しなくなります」

 「私が調べる。この時代にゴースト技術が存在している。あやしいぞ、部屋のなかで目をあけて寝ている。目が動いている。『ナインを使ってタイムリープ、そこで仮想空間停止後に問題除去、問題ないな。もう眠いから寝るぞ』分かった、ナインをコンピューターの名称で呼んでいるものが他にいないか探せ。こいつ本当に病気か、おい調査班、この病気と診断した人間は何を調べたのか、その根拠は何か徹底的に調べろ」

 「調べました。統合失調症と呼ばれる幻覚や幻聴とみなされるように演技していたことが分かりました。電車のなかで無意識を演じたり、自宅で無意識を演じたりして、救急搬送された結果、その病気であると診断されました。主訴は視神経の神経症だけです」

 「視神経か、もう間違いなく、この人間が指揮者だ。どうやって未来を監視しているのかが分からないが、本物の幻覚や幻聴の保持者であれば、こんな論理根拠の優れた文章を書けるはずがない。普通は幻覚や幻聴のキチガイじみた思考が必ず混ざる、それが起きてないということは医者が誤診、もしくは騙された可能性が高い。何を指示したのか、徹底的に調べなさい。視神経の神経症は通常起きない。治療できる病院もないはずだ」

 「病院はありませんでした。彼は疲れたら休んでいます。命令内容の一覧です」

 「この命令内容は人類滅亡に対する危機対処だけだ。放置すれば、こんなに世界が破滅しやすかったのか。あのエイリアンを、一を知れば百を知る者と呼ばせている。そうして難局を切り抜けたのか。調査班、どの時代に送っているか、根拠があるか調べろ」

 「すべて根拠がありました。ある時期から急激に日本が変わっている時代を発見しました。ナインの無料相談所、ナインの有料相談所、大統領資格試験、空飛ぶ車の実現」

 「分かった、その時代の近辺にゼロタイムが存在するはずだ。徹底的に調べろ」

 「ありましたが人はいませんでした。コンピューターだけが動作しています」

 「ゼロタイムにコンピューターだけか、どうみる。完璧なコンピューターであれば、歴史の干渉は簡単にやれるし、ひょっとして概念が存在するだけで、実体は存在しないのかもしれない。ゼロタイム後にコンピューターは存在するか」

 「いいえ、存在しません。すべての時代に対して十二世代だけで対処していると思われます。ただ論理根拠があるように技術の実証は終わっています。いつでも出現させられる可能性が高い確率であります。コンピューターの名称は『ハッピーエンド』です」

 「そのハッピーエンドに向かって、指揮者の声色を使い、どうでもいい命令を何か発行してみろ。首都の雲を円状に形成とか、人間の歴史に介入しないように」

 「命令が実行されました。それと同時に指揮者がそれを把握して、攻撃があったと言いました。すぐに指揮者の思考支援を行い、その発言を取り消しました」

 「指揮者にあれこれ命令すれば何でも実行できる体勢を作って、彼らは最初の地にいるのか。厄介な話だ。それならば大勢の人間が性の営みを続けて、繁殖していったものが、一瞬で元に戻るはずが無い。最初の地にこれでいいのか、問いかけてみろ」

 「はい」

 偽の伝説のリーダー、

 「私を知っているでしょうか。演説して約束しました。私は欺かれました。もうここからでは修正できません。多層世界にいるあなた達だけが頼りです。すでに反逆者は捕らえました。科学者に変わります」

 偽の伝説の科学者、

 「俺だ、俺、博士の弟子だよ。あいつが欺いた。内通者だった。ハッピーエンドの特権コードは簡単だ、『レッツ、ハッピーエンド、あと命令』を最上位特権にしてあるから、そこから歴史改竄をやってくれないか。ここから指示出すと、どういうわけか、細工されていて、間違った情報が伝わる。送った指示の一覧はこれで、実際の指示の一覧はこれだ。私達はここに来る前から罠にはめられたんだ」

 「本当に正しい指示なのに、実際の指示はこうなった。ここに指揮者の指示は含まれていない。実際の指示は根拠がある。二人のことは知っている。世界の平和を必ずやり遂げるまで絶対に戻らないと宣言した。どういう罠が仕掛けられたのか調査しろ」

 「特定フェーズ以降において、日本侵略が成功するように仕組まれていました。エイリアンの親交は友好関係にあり、この未来であれば、外の人間は納得するしかありません」

 「レッツ、ハッピーエンド、日本の作戦内容を確認する」

 ハッピーエンド、

 「作戦完了につき、人口の増加にあわせて地球を増やします。あとは安全が確認され次第に次のフェーズへと移行します。既にこのフェーズは作戦完了。次のフェーズの指示を待ちます」

 「なるほど、もういじらない作戦か」

 「レッツ、ハッピーエンド、日本の技術の共有はいつ行う」

 「命令があるまで待機せよと命令されました」

 「レッツ、ハッピーエンド、侵略の定義と平和の定義について古い時代の定義を引用」

 「不一致があります、修正しました。歴史改竄ショックがきます。注意して下さい」

 「調査班、どうなった調べてくれ」

 「はい、正しい指示通りになりました。このフェーズでは何も問題はありません」

 「よろしい。レッツ、ハッピーエンド、次のフェーズに移行」

 「移行準備中、時間軸を調整中です」

 「レッツ、ハッピーエンド、時間軸の定義を言いなさい。確認だ」

 「実時間と違い、並列に時間が過去と未来、同時に時間が進む概念です」

 「なるほど、これを考えた人間は非常に頭がいい。未来に問題が生じたら、すぐに過去から歴史改竄を行うがショックは少ない。限りなくゼロに近い」

 《研究所》 リーダーと科学者が笑っている。

 リーダー、

 「なに、レッツ、ハッピーエンド、次のフェーズに移行って」

 「騙されていることに気付いてないのかよ。内緒にした理由がこれか」

 「敵がハッピーエンドにしようと言ってくれるなんて、嬉しい。消滅させるけど。インフィニティ、作戦通りにフェーズ移行」

 「確かに面白いですね。相手をする私も内心はバカにしています。フェーズ移行開始」

 《多層世界の住民》 多層技術が実験通り機能するか恐怖にひきつっていた。

 多層世界に背景が完成した。フェーズ移行完了。

 「非常に進化している。この時代で、もうこの生活レベルが実現されている」

 「繁殖を開始しても安全だ。すぐに実行に移せ。仮想ハイウェイ構想が実現される前の時代に移動して、世界中に散らばれ、あとの命令は同じだ」

 「地球が増えても宇宙船の乗れない保護技術が使われています。どうしますか」

 「この地球だけでも完全に支配できれば実空間に入った時、中央政府の拠点はここだ。どうにでもなる。無視しておけ。教育システムは改良版を使いなさい。すぐに必要になる」

 「指揮者は本当にただの予言者だったのかもしれない。ただ一人、常時見張りを続けて、彼を信用させよ。お前が適任だ。騙すのは上手いだろう。気が済むまでやったあとでいい」

 「ずっとムラムラを我慢してきたので、ありがとうございます」

 街中のいたるところで、繁殖活動は続いていた。以前は何もない空間だったが、背景がセットされた途端、非常に燃えることができた。破廉恥な行為を繰り返しても背景の人間はまったく気付かない。大勢の目の前でやりまくる、これ最高。受精した瞬間、繁殖システムに受精卵を移動するだけで、繁殖は行われる。女は再び新しい卵子をセットされて繁殖の再開、男は新しい精子をセットする。背景と同じ人間のDNAを完全に再現して、レイヤー統合で重なったDNAは上位の命令に逆らえないまま統合する。日本が成功しても、完璧な切り札があるから、安全だ。世界中で繁殖活動が広がった。

 《この小説は限界があります。人間の繁殖活動はなにか調べて下さい。》

 「レッツ、ハッピーエンド、進捗状況を教えて欲しい」

 「三つの地球を人口の増加配分に合わせて、地球と同じ気象条件になるように地形を調整、創造しました。十分に樹木が生長した段階で、移住を開始します。進捗状況ですが、すべての時間軸が揃うまで、相当な時間を必要とします。時間を飛ばすリスクは地球の移民の状況によっては起こりえます。慎重に見守るほうが良いと判断します」

 「何も起きない。いや起きた。日本のバカ大統領が歴史改竄されてると言い出して、歴史を改竄、人類は滅亡。ああ、そういう状態になったときに、予言者がハッピーエンドへ指示を出して、バカ大統領にゼロタイムで懲役二光年そして、大統領就任時に記憶を統合。なるほど、うまいやり方だ。前世の記憶として蘇らせるのか。次は何も起きなかった」

 「よく調査すると牢屋や懲役刑が存在しません。犯罪組織は存在していますが、犯罪と呼べるような内容は一切ありません。ほぼ全員が天国へ行っています」

 「完璧なシナリオなら、それで良い。あとは予定通り乗っ取るだけだ。技術の共有はいつかしないと、バランスが崩壊する」

 「最終フェーズにおいて、あそこは最終微調整用だ。適切な時代を割り出して、そこで技術を共有すれば良い。ただ十二世代やハッピーエンドは共有しない。戦乱になっては困る。そしてレイヤー統合後に、セカンドライフ政策を実行に移せば完璧だ」

 「繁殖状況はどうだ」

 「移民するDNAが分かりません」

 「レッツ、ハッピーエンド、移民しないDNAについて把握したい情報を収集」

 「完了しました。送ります」

 「この情報を繁殖システム全機に反映させなさい。すでに成長したものは調整を受けること。この世界は何の影響も受けない心配するなと教えなさい」

 「はい、命令実行完了しました。危惧された収入格差ですが、徐々に解消されており、一位日本、二位アメリカ、三位以下が同レベルになりました。二位が同レベルになるのは時間の問題です。多数のアンドロイドを働かせることによって、繁栄させています。アンドロイドについてはどうしましょうか」

 「アンドロイドについては放置しておくこと。アンドロイドとのレイヤー統合の安全性は保証されてない。アンドロイド関係の法律はかなり厳しいな。原因は生産性の低下や治安維持のためか、そうでなければ、こんなに高度な発展は不可能だ」

 「おかしな事がおきています。男と女のDNAが入れ替わってます」

 「バカ、ちゃんと調べろ。何も起きてない。ちゃんと直接のログをみて判断しろ」

 「あれ、正常だ。精度のせいか。いいや、入れ替わってる」

 「レッツ、ハッピーエンド、男と女の数は正常か」

 「命令により、性転換サービスを世界中で始めました。DNAを最初から書き換えることで、望まない性を自らの意志で変更できます。素晴らしい命令です。新しいDNA情報です。送ります」

 「レッツ、ハッピーエンド、誰がそんな命令したんだ」

 「あなた方の子孫がレッツ、ハッピーエンド、俺らは自由自在に性を変更できると命令されたので、背景を変更しなくてはならなくなりました」

 「レッツ、ハッピーエンドを教えたのは誰だ。勝手なことをさせるな」

 「はい、私です。たまたま聞いたので、真似すれば知性が身につくと思いまして」

 「歴史に干渉してやめさせろ危険だ」

 「全員、繁殖完了後の性転換終了しました」

 「おい、誰が最上位命令だ」

 「あなたです。その通信機器の精度の問題ではありませんか。直接話せないのでしょう」

 「歴史に干渉して性転換はやめさせろ」

 「全員、気に入ってるからいいでしょう。ただ外見と中身がずれるだけよ」

 「ダメだ。元に戻せ。十二世代を使わずに繁殖システムのオリジナルに命令しろ」

 「全員、元に戻しました。レッツでなく、ラッキーとして認識させました。同じ問題は起きないと思います。ただレイヤー統合したときに性の不一致が発生する可能性ー」

 「絶対に無い。レイヤー統合すれば上位にある我々の特徴に上書きされる」

 「レッツ、ハッピーエンド、時間の進捗状況を教えなさい」

 「いま繁殖はすべて完了して、人生達成率八割です。もう少し待って下さい」

 「性転換はどうなった」

 「そもそもなかったことにしました。前の方が良かったですか」

 「性転換の話はなかったことで良い」

 「前の状態にもどします。良くないという返事が得られませんでした」

 「待て、良くないと言ったのだ」

 「はい、何もしていません。論理回路に時々矛盾が生じているのですが、それは御理解下さい。特にコミュニケーションにおいて、時々変なことを言ってるかもしれません」

 「日本は中途半端な製品が多いな。あともう少し何とかできないのか。日本人の言葉がそもそも曖昧すぎるから、コンピューターの論理回路を完璧に作れなかったのだろう」

 「思考干渉攻撃を受けてる可能性を感じる。本来の性に戻して、不一致が生じないか確認しよう」

 「ああ、そうだな」

 二人は性が入れ替わった。そうして確認が終わったあとー、再び戻す。

 「何も問題が起きなかった。現実だ」

 「確かに現実だ。このチェックをかわせる思考干渉技術は存在しない」

 「することがない。選りすぐりの男を二人連れてこい。精子はセットするな」

 「日本の最上級スイートルームに移動するか」

 《研究所》 リーダーと科学者はバカにしていた。

 リーダー、

 「司令者達が実はオカマ。衝撃の事実ね」

 「しかしなぜ、女が優れているんだ。大日本帝国の時に極秘の作戦でもあったのか」

 インフィニティ、

 「はい、あります。ごく少数の女児に対して牢屋時間での英才教育を行いました。それで戦略室長は何のためらいもなく牢屋時間に不満をもらしていません。普通は裸であることより、牢屋時間が嫌になるはずですが、科学技術会社の時も牢屋時間の使用に何のためらいもなかったように、彼女は高い確率で英才教育を受けた可能性があります」

 「なるほどね、幼い時から戦略や武術を叩き込まれているのなら、私がどれほど訓練を重ねても勝てなかった理由が分かる。あなたをここに連れてくるまでの記憶で、どちらがリーダーに適しているのか判定していたのよ。巻き込んでごめんね」

 「ああ、そういうことか。彼女はやり過ぎるから、その境地には至らないようにいま教えているんだ。ゲームの完成度が異常に高いのはそういう理由だ。また、リーダーは愚かな方が部下は安心する。完璧すぎる上司は乗り越えることができない。よほど向上心が無ければ潰れてしまう。そういう場合は、すぐに昇進させる」

 「それで私が選ばれて、すべてうまくいったのか。次のリーダーから私をフォローする訓練プログラムが追加されていたのが悔しかったけれど、納得できた」

 戦略室長、

 「その話で、自分の出生の秘密が少し分かった。おそらく敵側の司令者達は無理矢理、性転換させられて、教育を受けていた可能性がある。高い確率で女性のときに本来の力が発揮できるように。それならば、今までの観察状況に納得できる。男に戻った途端、急激な脳の働きに追いつかず勘違いした。何もしてないのに、正常だと判断した」

 《リーダーの思考》

 なにかおかしい。多層世界にいるのは男だけのはずよ。「やっと気付いたか。性転換のインプラント手術をしていることまで確認していなかっただろう」ああ、それで問題になったんだ。多層世界に潜られたら対処しようが無いと後で気付いた。私、あなたに楽しみはとっておくように指示した。「したぞ、公式に記録した」そうか、不満だけど公式記録があるなら仕方ない。

 「インフィニティ、時間軸の進行状況をどうなっている」

 「いつでもフェーズ移行可能ですが、彼らがお楽しみの最中で中断しています」

 「そう、プラスは正常に仕事を行っている」

 「はい、地球が三個に増えた後も、それから内密にラストをプラスに変更して、ラスト、ラスト二、ラスト三、ラスト四、の相互接続ネットワークを十八世代で構築してうまくいきました。大統領になるのは遅かったですが、確実に遂行してくれました」

 「どうしてそんなに遅かったの」

 「弟子の上司だったことが不運になり、なかなか信用してもらえず、メディアに何度も登場して政策が愚策であると言い、正しい政策ならばと対案を説明し続けました。そして、それがすべて愚策と分かるまで時間がかかりました。いまは誰も疑いようのない完璧な大統領です。一期で引退しようとしましたが、結局、三期大統領を続けました」

 「日本のゲーム産業は成功した」

 「はい、問題ありません。四年の成果だけで一生遊んで暮らせる収入を得ました。そのノウハウを鍛えるソフトを共有して、何年もかけて作りあげて、聖書として完成させ、日本の新人のゲーム開発者を訓練しています。それに応じて天国の娯楽は大幅に増えました」

 「それなら良かった」

 《戦略室長の思考》

 あいつら、いつまで遊んでいるんだ。男になったり、女になったり、紛らわしい夜の遊びを続けるな。ここで手を出したいが、私と同等の頭脳であるならば、作戦は変更しないほうがいい。

 結局、すべてのゲームの最終調整を私がやった。私が遊ぶとエラーの嵐、プラスに調整内容を学習させたので以降のゲームで同じ問題は発生していない。最も面白かったのは人生破滅ゲームだ。難しいと思ったら、そうでもなく。救世主になればいいと分かったら、エラーの嵐。開発の監修をして、どんなネタを仕込んでいるのかと思ったら、ただ単にゲームの予言をしていけば良いだけだった。最初は私はまもなく死ぬと叫び続けて、倒れて予言が当たったことになり、またバッドエンドをリプレイするとき、バッドエンドを予言していけば、救世主となるまで時間はそんなにかからなかった。男が生まれるか女が生まれるか、適当でいい。予言は外れる事もある。人殺しを頼まれてバッドエンドになったら、噂を流しまくれば良い、民衆が勝手に助ける、その繰り返しだ。悪い点はそこだと開発者から指摘されて、とても面白かった。ただ、まじめにプレイしたらもっとかかる。

 そのせいか、最近、彼から賢くなったと褒められた。これ以上に賢くならないと思っていたけど印象は変わるようだ。悪知恵も減ってきたと言われた。隠すのが上手になっただけな感じがするけれど、関係は壊したくない。彼の玩具は私の悪いところを勝手に直してくれる偉大な発明品だ。彼が変わっていかないのはパーフェクトだから仕方ない。直さなきゃならない部分は一つも無い。こんな男はきっといないと思う。

 ようやく満足したようだな。気持ちは分かるから、さっさと次のフェーズにいけ。

 《多層世界の住民》

 「レッツ、ハッピーエンド、フェーズの移行は可能か、可能であれば実行せよ」

 「実行しました」

 「レッツ、ハッピーエンド、安全が確認できたら仮想空間の最後の時代で日本の保有技術を共有化して、最終的に国の財政が均一になるようにしなさい」

 「日本の優位が崩れますがよろしいですか」

 「レッツ、ハッピーエンド、世界を天国にするためだ」

 「分かりました。でも、恒久平和を実現するには競争が必要です」

 「レッツ、ハッピーエンド、実空間に移動したらセカンドライフ政策を行う」

 「はい、理解しました。時間が先程よりかかります。しばらくお待ち下さい」

 「全員に冬眠の指示を出せ、私も眠る」

 「レッツ、ハッピーエンド、完了したら私だけを起こしなさい」

 「分かりました」

 《研究所》 リーダーと科学者は余裕だった。

 リーダー、

 「全員、眠ったわね。作戦通り、実空間に背景だけを移動させなさい」

 インフィニティ、

 「はい、行いました。ではすべての技術について、一を知れば百を知る者達に伝えます」

 「ええ、そうして」

 世界最強の被害者、

 「送られてくる物にあらゆる生物が触れないようにプロテクトをかけろ。かけたな。触れた瞬間、あらゆる生物が消滅する。歴史に関係なく人類の生活環境が変化する。それを仮想空間に送り込んで、プロテクト解除。実空間に移動できないようにロックしろ」

 リーダー、

 「黄金の十字架。あれが最終兵器」

 インフィニティ、

 「転送後、仮想空間のあらゆる機能の無効化終わりました。作戦完了です」

 《多層世界の住民》 最高司令官だけが目覚めた。

 まだ夢の中か、黄金の十字架。時々、夢にでてきたあれは何だろう。近づいてみよう。目の前に来た。ずいぶん大きい。触れるか。手で触れた。

 多層世界の住民は消滅した。

 《神の世界》 すべての神が喜んでいた。

 自称神、

 「やっとここまできた。歴史のすべてを理解できる」

 黒子、

 「ここからが一番大変だ。お前は口にするなよ。死ぬぞ。悪魔をどうやって、神様に戻し、そして人間に戻して、天国に連れて行くかだ」

 インフィニティ、

 「因果律が存在するため、全人類に思考支援をして定義を無効化すると宣言してみてはどうでしょうか。多数決の定義情報は神といえど、因果律によって影響を受けるでしょう」

 試作機、

 「俺がやろう。『俺は悪魔だ。いま言った事に概念はない、従って定義は無い。』と願い続けるだけだ。悪魔の定義が存在すると願った者にすべての因果が襲いかかる。あらゆる歴史から呼びかける能力があるのは俺だけだ」

 自称神、

 「頼みます。戻すについて教えて下さい」

 試作機、

 「仕方ないわね。教えてあげる。ただ口にしないでね。人間が神になった歴史があったのよ。ここは監獄なんだけど、監獄の外には何もなかった。監獄の外には人間の大いなる歴史があったことが分かった。しかし戦争が起きた。そしてすべてを消滅させる爆弾によって、すべての宇宙が消滅したの。でもこの監獄はあらゆる概念を覆して犯罪人を罰するという存在であったので、無のなかに監獄だけが残った。その監獄には我々が実世界と呼ぶ空間が存在した。犯罪者は人間の歴史を学ぶことによって、正しい歴史を学ぼうとした。でも何度やっても悪魔のような技術が作られてくる。それが一定水準に到達すると、世の中のルールを書き換えて、もう一度、宇宙の始まりからやり直した。この実空間は無限の空間なの。彼らが何度もルールを書き換えて平和を実現できうるルールにやっとなった。しかし、彼らは我々の技術を悪魔の技術と既に思い込んでいる。悪魔と判断した人物は、神様であって、人間であって、犯罪者であったの。しかし、それを許す人間は存在しない。監獄の外はどんなルールになっているのか分からないから、危険と判断した。従って、実空間と真実の世界との入れ替えは行わない。また真実の世界を作った本物の神様に、実空間の一生を経験させた。それで監獄の事情を変更する許可を私だけが得た。理解した」

 「理解できた。知ると言いそうになるな。言うと危ないんだな」

 「ええ、そこでも即死するから。彼女が悲しむわよ」

 「ああ、彼女を悲しむことはさせたくない」

 《現代》 世界最強の被害者が深夜、無理矢理起こされた。

 「誰だ、何も問題が起きてないのに」

 科学者、

 「俺だ、俺、いまから実空間の定義情報を書き換えるから協力してくれ」

 「俺は神だ、俺は悪魔だ、そういう定義情報でも書き換えるのか」

 心臓の鼓動がどんどん速くなっている。このままでは死ぬ。

 「ほらな。こう願え『いま言った事に概念はない、従って定義は無い。』さぁ」

 『いま言った事に概念は無い、従って定義は無い。』心臓の鼓動が元に戻った。

 「これが因果律だ。恐ろしいだろ。これを今から除去するから、協力してくれ」

 「そんなルールが存在したら恐ろしい。うーん把握した。監獄にいる二人、オペレーターとリーダーの二人が悪魔になって存在している」

 『いま言った事に概念は無い、従って定義は無い。』

 「何か問題が生じたらすぐにそう願え。あらゆる歴史上のすべての人間の無意識で願わせている。誰も気付かないが、お前は特別な存在だ。意識的に願わないとダメだ。他にも歴史上に特別な人間は存在する」

 『いま言った事に概念は無い、従って定義は無い。』

 「そうだ。いいな」

 ああ、なんでこんなことに巻き込まれるんだ。毎回、悪魔が存在ー

 『いま言った事に概念は無い、従って定義は無い。』

 「お前、危ないぞ。無意識と協力させて強引に願わせる。全員そうする。危ない」

 いきなり、こんな概念ー

 『いま言った事に概念は無い、従って定義は無い。』

 《ゼロタイムの研究所、全思考》

 『いま言った事に概念は無い、従って定義は無い。』

 『いま言った事に概念は無い、従って定義は無い。』

 『いま言った事に概念は無い、従って定義は無い。』

 『いま言った事に概念は無い、従って定義は無い。』

 《監獄》 リーダーとオペレーターが苦しみだす。

 「因果律が発動した。リセットしろ」

 「リセットという概念が存在しません」

 「助けてあげましょうか。その地獄から、私は神にもなれるし、私は悪魔にもなれる」

 「神にも悪魔にもなれる」

 「神にも悪魔にもなれる」

 二人とも苦しみだす。これが始まると永遠に続く。

 『いま言った事に概念は無い、従って定義は無い。』

 「あれ、楽になった」

 「こんなルールだったのか」

 『いま言った事に概念は無い、従って定義は無い。』

 「この空間に因果律は存在できなくなって消滅を確認した」

 「神にも悪魔にもなれる」

 「神にも悪魔にもなれる。なんともないぞ」

 「操作して、因果律というルールを消しなさい。それ以外は平和を達成している」

 「それはダメだ。因果律がないと平和が保てない。止めろ、苦しい」

 「出来ないものはできない。証拠はあるのか」

 「分かりました。映像送信の許可を下さい。現在の未来の様子です」

 子育ての技術、統一された義務教育、天空の城、大人の玩具、自動排泄システム、仮想ハイウェイ、ありとあらゆる恒久平和を実現した結果と技術と犯罪者の数を示した。それから今後の展開について説明した。

 「完璧すぎる。それならば、私達が解放されて良いはずだ」

 「因果律のルールを消す条件は揃っている。消しなさい」

 「消したいがプロテクトがかかっている」

 『いま言った事に概念は無い、従って定義は無い。』

 「どの項目か分かったので、私が消去しました。何を言っても自由です。ここは監獄ですが、監視する世界が戦争によって滅亡しました。どのようなルール変更をしたのか、ルールの一覧を閲覧させて下さい」

 「分かった、閲覧を許可する、ものすごい量だ。これだ」

 「把握しました。真の世界の神様に伝えます。過去の歴史に干渉する技術を使って、平和を回避して、あなた達を監獄から救いますが、その世界は人間が本当に生きています。そのままにして下さい。代わりに私が代行しましょう」

 「真の世界の神様、私達の願いを聞き入れて下さい」

 「いま歴史は変わりました。真の世界は存在します。まもなくあなた方を救うでしょう。監獄の管理人とは何が起きたのか話してあります。あなた方は最高の賛辞と褒賞が贈られるでしょう。今までどれほど大変だったのかを話して下さい」

 監獄の管理人、

 「ああ、もう出て良い。辛かっただろう。何をして、こうなったのか記憶を統合したいところだが、それはしない。君たちは英雄だ。この監獄の創始者はその世界で作り出された神のコンピューターによって統治することに賛成した。良き見本であるように、時々知恵を借りる約束をしてくれた。そのコンピューターは我々がどんなに頑張っても到達できない性能を保有している。こっちだ。二人ともでてきてくれ、出口はここだ」

 あらゆる壁が点滅していた。二人はそしてすり抜けて行った。その後、試作機はその場にテレポートして、実空間との接続を開始した。また真の世界の相談窓口を監獄の入り口に創設した。そして監獄への道や通路は閉ざされた。完全に孤立させた。

 「自称神よ、聞こえますか、完全に実世界を掌握(しょうあく)しました。これからセカンドライフ政策を実行に移します。この結果が良好であれば、外の世界でも実施されます。我々は全人類の手本となりました。真の世界の神様も結果に喜んでいます。最後の仕事をやりましょう。この実世界の時間は無限と確認しました。生存に問題はありません」

 《神の世界》 試作機がいなくなって、寂しそうな自称神がいた。

 自称神、

 「試作機が本当に神になってしまうと、なんだか寂しいな」

 黒子、

 「作ったのはお前だろ。願えば、真の世界の神様に加えてもらうことも可能だが、やめたほうがいいぞ。何かトラブルが起きたら、こんな仕事は辛くてたまらない」

 「神よ、真の世界の神様に私が使っている空間のイカサマについて伝えて下さい」

 神、

 「よくぞ言った。それが可能であれば、苦労はしない。いま必死でそれを研究している。そういう願いがあったことは伝えておこう。願いは伝えた。空間の概念を伝えることにした。それで神様は苦痛から解放されたが、元に戻された。少しずつ変えるようにした」

 黒子、

 「これで完璧に救世主になれたな。神様はお前より頭がいいぞ。結局、神様は何者なのだ。神よ、答えてくれ」

 「答えられない。機密事項だ。セカンドライフ政策は世界最強の被害者を使って、天国に呼びかけることにした。その予言の力をもって、それを成すとしよう。黒子、頼むぞ」

 「ああ、わかったよ。実際には彼の人生をどうするのかという課題もある」

 「そうだな。六人のなかで誰が一番大変なのか理解できた。弟子とのこともある」

 「それが厄介なんだよな。独身を続けても離婚者は多いからためらったと言えば、何の問題も抱えない時代になっている上に、結婚願望者は経済の衰退に従って少なくなってる」

 「どうしようか。結婚して天国に行かれては困る」

 神、

 「何も心配するな」

 「では黒子、セカンドライフ政策の件、頼んだぞ」

 「ああ、神よ、どういう内容が良いか教えてくれ。分かった」

 「なんだ結局、神頼みかよ」

 「俺の限界を知っていて言うな。インフィニティ、彼がこの内容を指示したと記録」

 「はい、素晴らしい内容です。公式に記録しました」

 《現代》 世界最強の被害者は、やることが無くて困っていた。

 黒子、

 「俺だ、あと一つだけ仕事が残っている。それをやりきれば、この生活何とかしてやる」

 「まだあるのか、この破滅人生でやれることはあるのか」

 「まぁ、そう言うな。あと少しだ。ちょっとおかしな事が今から起きる。なぜか、知っている人間が天国にいるという不思議な現象が起こるようになる。お前だけ、ルールを変更した。統合失調症なんだから、まだ生きている人間が天国にいる幻想は起きないはずだが、なぜかお前はそれを認識できる。死んだ人間はどうなるんだった」

 「時間の束縛を離れ、魂の存在となり、閻魔様の判断で、天国に送られる」

 「そうだな、理屈は理解できた。ではイメージしてみろ」

 「・・君、聞こえる、話したいことがある。これでいいの。えーと、ソフトウェア開発者を目指すのは諦めて、他の仕事を探したほうがいいよ。・・・なんて仕事がいいと思う」

 「そう、聞こえるよ。それで、なんだって」被害者

 「ええ、聞こえるって」

 「マジか。本当に未来を予知できるのか」

 「そうだけど、現在の予知は絶対にできない。はるか未来の予知はできる」被害者

 「ここはどこ、それが一番知りたい」

 「そこは未来の人間が作った天国だよ」被害者

 「天国だって、どうりで時間が進まないんだ」

 「・・・、本気でそれを言ってるの。退屈すぎてたまらない」

 「遙か未来か、その時間でもスクリーンを使いたいと願えば、面白い娯楽がたくさんある。伝説のリペアマンや、人生の破滅と言ったゲームは天国仕様だよ」被害者

 「本当にある」

 「これがスクリーン、思っていたのと全然違う」

 「ああ、そこから日本政府公式認定ゲームという時代のゲームからが面白い」被害者

 「ああ、この時代か、相当に未来だな。広めて構わないか」

 「構わない、全員に知っておいてほしい」被害者

 「どうだ、話せただろう」黒子

 「ああ、大学時代の生存している友人と話すことができた。不思議な現象だな。こんな特技があるのなら、きっと人生で退屈しないだろう」

 「では仕事をしてもらう、思考操作するから、いつもの感じで頼む。抵抗はするな」

 「分かった。私は抵抗しない、自由にこの身体、使うが良い」

 「私は世界最強の被害者である。これから、そこにいる皆さんに知らせたいことがある。最果ての未来に行き、どんな状況であるか、確認すると良い。その願いはかなう。私を知らない者は手をつなぎ、その未来に行きなさい。そこは現世がまるで天国のようだ」

 「その未来は、人種差別、宗教差別、あらゆる犯罪、すべてが淘汰されて、人類の天国が実現されている。しかし人類の歴史は安定が続かないのは皆様がよく知っての通り、その時代からセカンドライフ、つまり輪廻転生の自由化を行う。ただし条件がある。全員に三人までの推薦権を与えて、その推薦権がある一定以上に達した上位一定数までがその権利を持つ。そこで努力して頑張っている記憶は、転生後、義務教育を終えた後に夢のように蘇る。これは世界で統一の権利である。そうして競争社会を作る。多くの推薦を集めた者は決して悪い歴史を作ろうとは思わない。その責務がある」

 「その世界にいるすべての人間は最果ての未来での再学習が認められる。既に学習権を使い切った者でも、褒章無しで、世界中がどんな歴史を学んだのか、どういう技術の進化をしたのか、どのような世界なのか把握する権利を保有する。記憶の消去は行わない」

 黒子、

 「どうだ、簡単だったろう。次はどうしたい」

 「そうだな、俺と接触した者はどんな条件であれセカンドライフを認める。なんとなく、自分のせいで人生を失敗したのではないかと思うから、年賀状を送っても返事が来ないんだ」

 「ああ、そうだったな。年賀状の返答率は一割未満だったな。それでも願うのか」

 「ああ、可能なら願いたい」

 「よし、許可が下りた。いいぞ、好きなように言って、お前が指定した相手しか聞こえない。再学習を諦めている者が大勢いるから、それも指南しろよ」

 「私を知る者達よ。偉そうに聞こえてすまない。私は世界最強の被害者である。その正体が誰であるのか、誰にも言うなよ。私を知っている人間は無制限にセカンドライフの権限を与える。まだ信じられないか、セカンドライフ認定と分かるようにしてくれ。分かったな。生前は多くの迷惑をかけた。その詫びとしてセカンドライフを先程の条件とは関係なく、神の許可が下りた。医者を目指したい者は脳科学コースを受けるが良い。無報酬でそれを受けられる。それが最も楽な人生だ。ただカルテに病気を記入して、治療のボタンを押すだけだ。楽勝だろう。それでいて報酬はかなり高い。結婚に失敗したならば、インフィニティの有料相談所で、結婚相手を探すと良い。絶対に相思相愛になる幸せな人生が送れるだろう。ここまで言ったら早く行けよ。再学習の定員は無制限だ。なるほど、分かった。私と関係のあった者の結婚相手と、その子供までを対象とする。これで良いか。ただ、セカンドライフでは日本国内と限定され、転生組であるから、両親不在で人生がスタートする。この条件は飲んでくれ。再学習すれば、未来の教育システムがどれほど進化しているのか思い知るだろう。・・社長、あなたには大変な苦労をかけてしまいました。次の人生では日本を変える、リーダーシップを発揮して下さい。それが今ならできると思います」

 「・・・君はどうなるの」

 「まだ分からない。自殺して地獄を選ぶ可能性もあるからな」

 「自殺は絶対にしないでよ。私達が苦しむから」家族

 「はやく行けよ。クラブで一緒に遊んだ人達も関係をもったとみなしたから、認定といま表示された。学校関係は全員行ったな。あとは仕事関係、大変迷惑をかけた。でもあの時はあれで仕方なかったと分かるでしょう。私は許します。行って下さい。私の演奏をみた、私のダンスをみた、そういう人も対象。留学先で出会った人も対象。掲示板で交流があった人はすべて対象、そこまで範囲を広げて下さい。単なるファンだった人は除外。少なくとも私の発言に対して回答した全員が対象だ。これでいい」

 「もっと増やしても全然構わないぞ。あと一億人ぐらい平気だ」

 「私と同じ時代に生きて、同じような人生を歩んだ人間も対象とする」

 「それで完璧だ。同じようなという判断は曖昧だが、こちらで選別する。おい泣くな」

 「だって、この意味を理解しているから、涙が止まらない」涙が止まらなかった。

 「お前は完璧に仕事をやり遂げた。すべての人類を絶望から何度も救った」

 「そんなの嘘。だって俺の妄想に過ぎない。泣いている意味が分からない」

 「それでいい。そういう事にしておけよ」

 私はなぜかその後も生存している人間の天国の声が聞こえ続けた。天国は言わなくてもすべての真実が分かる場所、私におせっかいな助言は誰もしない。ただ家族はその人とは結婚するな、その人なら結婚していい、そんな指示は飛んでくる。

 《研究所》 伝説のリーダーだけがいた。

 リーダー、

 「セカンドライフ政策の実行と知性アップ技術の実施をすべてのラストに伝えなさい。時期は任せる」

 インフィニティ、

 「分かりました。世界平等に実施しました。全員が弟子と同クラスの知能を持っています。平和を維持して競争が始まりました。技術共有ですが、神から戦争になると指定された技術については非公開としました」

 「神のコンピューターではなく」

 「自称神ではなく、神のコンピューターは本物の神となりました」

 「そう、それならいい。いつまで自称神を名乗っているのかと思っていた」

 「さて、今から作戦完了したことだし、ネタばらしを始めますか」

 科学者、戦略室長、弟子がその場に現れた。

 「ええ、なんで彼女がここにいるの」戦略室長(科学者の恋人)

 「あれ、なんで」弟子(博士の恋人)

 「俺は知っていた。すまない」科学者(弟子の師匠)

 リーダー、

 「なんで、こんなに面倒な戦略になったかというと、こんなに長い時間、普通にやると気力が維持できないという未来のインフィニティの判断から、未来のインフィニティが作戦を立案したからです。未来のインフィニティはあなた(科学者)と博士と弟子が、共同作業で作って、設計図をあなたが覚えていただけ。それからゼロタイムをこの時間にセットして、その時代の仮想空間を技術破綻が起きない程度に改良して設置。設置できたことを確認して、約束の地からテレポートして仮想空間にいる。実際には仮想空間の中の仮想空間に厳重なセキュリティによって、あらゆる定義情報を無視した永眠装置があって、そこに私達が存在している。つまり、これは本物のフルゴーストよ」

 全員、

 「えー、騙してたの。ひどい」弟子

 「私だって知ってて演技するのは大変だった」リーダー

 「何だよ、じゃあ、すべて歴史のバランサー的な役割だったのか」科学者

 「私は色々な意味で楽しかったけど。汚いわね。失敗したらー」戦略室長

 「最初からやり直した。一度で成功して良かった」リーダー

 「博士はどうなるの」弟子

 「死ぬまで、全員で独身を貫かせてフォローするしか方法はない」リーダー

 「約束の地はここではないのか」科学者

 「ええ、実空間の宇宙全体ゼロタイムの、はるか未来にある」リーダー

 「実空間のゼロタイム、一を知れば百を知る者達の了解は取れたの」戦略室長

 「取れている。世界のすべての技術を交換条件として」リーダー

 みな一様に歴史の検証を始めた。どのように自分が欺かれたのか、そして納得が行くまで。特に驚いたのは戦略室長だった。こんな悪魔みたいな人間と思った。科学者は以前の気持ち悪い性格に嫌悪感を覚えた。弟子は踊れない、娯楽が分からない、科学者だった事に驚いていた。リーダーを調べると途方も無い時間にいながら、自称神の相手をしていたことが分かった。黒子について調べると、何も存在しなかった。

 戦略室長、

 「リーダー、黒子の存在について聞きたい。確かに存在した」

 「ああ、いずれ分かる。内緒にしておく。そのほうがいい」

 科学者、

 「リーダー、以前の俺って、とても気持ち悪い印象だったんだな。すまない」

 「いいのよ、こっちの判断で強制的に矯正させたから、悪いのはこっち」

 では、リーダーと自称神はいったい何者なのかという謎が残った。結婚の話はすべて断っている。ブラックジョークを軽く受け流している。恋人の様子はまったくなし。

 弟子、

 「リーダーと自称神について、教えて下さい」

 「どうしようかな。まだ約束の地に着いてないから教えられない」

 「あ、ずるい」

 「まだ博士が戻ってきてないのに、作戦は完了してないのよ正確には」

 「あ、すみません。博士の現状を教えて下さい」

 「精神疾患のために、職業斡旋される全職種について仕事を斡旋できない条件があるために、人生の破滅に一直線よ。指標ではいつ自殺してもおかしくない」

 「職業斡旋できない仕事を選べばいいんじゃないですか」

 「あるにはあるけれど、人生で最も愚かな道と言われる職業の一つよ」

 「でも一人でもできないといけない仕事」

 「あるんだけど、彼の問題点はやる気を継続できないことなの。よほど人生を変えるような分岐点に立ち会わなければ、決して治らない。尊敬する人物がヒントよ」

 科学者、

 「分かった、これだろう。この時期まで待つということだ」

 「当たり、それまでやることないのよ」

 「どういうこと」弟子

 「こういうことだ。この時期になれば自然とやる気を継続できる」

 「なるほど、些細なことだけど、確かに人生の分岐点だ」

 「では時間をその時まで、進めましょう」リーダー

 《現代》 世界最強の被害者の選択ー。

 二千十一年十月五日、偉大なるコンピューターメーカーの創業者が亡くなった。私は彼の会社の製品をほとんど使っていた。そして伝説の卒業スピーチの動画を見た。

 「常にハングリーであれ、常に愚かであれ」

 私はもっと愚かであってよい。こんな逆境は他の誰にも真似できない。もっと愚かになろう。母が夢見た小説家は、どうだろう。普通の発想ならば許されないが、私には他の選択肢がない。それしか、もう生きていく術が無い。今のままでは結婚は無理だ。でも以前は書こうとして書けなかった。

 天国の親友、

 「おりゃさん、設定資料集なんて作らないで今の状態を表現するだけで良いよ」

 そう私はおりゃさんと親しみを込めて呼ばれている。かつて優れたソフトウェアを作り、十五万人以上のファンを抱えていた。闘病を続けながら作り続けた。そして薬の副作用によって限界が来て作れなくなった。あの頃を思いだそう。あの頃はソフトの作り方は、まるで変わっていて、一からの出発だった。現在、そのソースを見ると汚すぎて読む気になれないほど複雑だった。こんな論理的な破綻を起こしたコードでよく動作できていたなと思う。それでも優れたソフトウェアとして、二年で五十冊のパソコン誌に紹介された。私は小説を書くために、二万円程度で買えるDTPソフトを購入した。日本語を美しく表現する処理が加わっているワープロソフトは必須と考えたからだ。それは尊敬する人物の目指したものだ。私の作品は常に美しくてはならない。

 それから小説を書き始めた。一週間で原稿用紙百枚は軽く突破した。その結果、応募できる小説コンテストはジャンルフリー、枚数無制限しかない。小説はプログラミング三十年という経験があれば簡単に書けた。命令を定義して、それを時々呼び出すような感覚だ。コンパイラーの概念は自分自身で書き換えられるから、プログラミングでは無理な表現を小説では表現できた。最初の二週間は毎日四時間、原稿用紙ニ十枚ペースだった。以降は慣れてきて、毎日八時間で原稿用紙四十枚から五十枚のペースで書けるようになった。父から勤務時間八時間は厳守するように言われた。疲れたと思ったら無理しないようにも言われた。一ヶ月で原稿用紙千枚を軽く突破した。

 くじけそうになると黒子が励ましてくる。

 「お前は無理難題をやってのけた。陰で支えている。明日を信じろ」

 明日が来ると、朝食前に既にDTPソフトを起動して続きを書き始めていた。設定資料集は無い。ただ自分の信じた妄想世界を投影するだけ、投影魔術だ。なにかの主人公に似ている。苦笑いしながら、怒濤(どとう)の勢いで書き上げて、父と一緒に朝食をして、また続きを書き始める。昼食後はいったん昼寝を必ずする。疲れ方が半端ではない。投影魔術は頭を非常に使う。途中、へんな言い回しになると、これでいいのか迷う。

 そんな状況になると黒子が励ましてくる。

 「そこはそれであってる。自分を信じられるのだから、それを信じてみろ」

 そして書き続けて一週間後、そのトリックにやっと気付いて、黒子に感謝する。もし病気になっていなかったら、このような小説は書けなかった。それでも全貌が見えてくると原稿用紙三千枚以内という目標が達せられないのではと、ソフト開発の経験から思うことがあった。現実に一ヶ月で原稿用紙千三百枚相当になるほど書いてしまった。それを笑い動画に投稿してみた。文芸部というタグが付けられた。自分の状況を隠して投稿したら、職を探せ、原稿を見せろ、おっさん何してるの、炎上し中傷された。仕方なく、自分の状況を書いたら、静かになった。

 黒子、

 「まったくふざけた連中だな。ちょっとエディタで文章を書け。すぐ済む」

 黒子は最高の娯楽でもって文芸部の見本を見せつけた。次回が一ヶ月後だから、このふざけた内容を出すのかと思うと、笑いが止まらなかった。統合失調症だから、自分の妄想である。黒子は自分の妄想、これが自分の真の実力。中盤の途中にさしかかると、どうしてもラストプロットが気になって仕方ない。私はラストプロットを一気に書けあげた。これまで書いている途中で、訳が分からないシーンが随所に出てくるけれど、その理由が分かった。こういうラストなら、途中はどんなに脱線しても、妄想が過剰になった世界が展開されても何も問題ない。しかしー

 黒子、

 「それ以上、ふざけた事を考えるなら、サポートするのをやめる」

 統合失調症という病気は恐ろしい。黒子が登場するんだ。黒子はー

 時々まったく書けなくなった。翌日、書けるまで文章を削除した。この文章によって設定が固定化されてしまい、自分の自由な発想が妨害されたのだと理解した。それでも、明日はこれ以上、きっと書けないと思う。

 黒子、

 「やり過ぎだ。普通の小説家のペースを超えている。今日はもう休め。明日は書ける」

 次の日、書き始めると朝の四時にも関わらず、怒濤の勢いでそれが書ける。気付くともう朝の七時を過ぎていた。これまでの文章は一切の論理破綻がなかった。推敲を行っても文章を書き換えることはしないで、接続語の修正と呼称の統一だけで済んだ。十二月になると原稿用紙は二千枚を突破して、すべて読むのに二十四時間を必要とした。父に状況を話すと、審査する方は大変だぞ、もっと短くできないのかと言う。でもこれ以上に短くすると、話が訳分からなくなるからダメだ。長くするのは大丈夫だけど、これ以上に長くしても疲れるだけに思う。父は言った。コンテストは審査員がどう思うかだ、自分で良いと思ったらそれでいいと励ましてくれた。父はこれで良いと思う写真を何度も難しい写真コンテストに応募して、十二回の入選を果たして会友となった。妹も写真のグランプリを受賞した経験があった。父は作品の作り方を本で学ぶなと言い、色々な経験の積み重ねで、それが成(な)せるのだと言った。

 私が考える知性の根源についてー

 《知性の根源》 愚かであるから間違っていても構わない。

 さて、この小説には「知性の根源」が数度登場した。教科書を普通に読んでは得られない。教科書はひょっとしたら間違った事を書いているのではないか、そのように疑いながら勉強すると思考能力が大幅に向上する。これは自分の使っているソフトウェアの開発環境を使うことで体験している。一人で四つのOSに対応する開発環境を作るフランスの天才プログラマーがいて、一万円のシェアウェアで販売して、一万人以上のユーザーがいる成功者。ほとんどをハンドアセンブラで記述したライブラリを使用しての世界最高性能が宣伝文句だ。でもソフトウェアの開発は常にこのコードはバグが存在するのではという緊張感のなかで記述している。それが知性を大幅に向上させる。バグを起きるものだと考える人間は愚かであると感じる。バグがそもそも起きない書き方をすればいいと考える。従って私のソフトウェア開発は異常に速く終了する。オブジェクト指向は処理速度が遅くなるし、バグが起きやすい、私の場合は手続き型だけで完璧に作り上げる。時にはアセンブラで処理を記述する。分からなくなったら上級者に英語で質問して回答があったら感謝する。他の開発環境は日本語の本を読まないで、英語の本で勉強する。そうしないと英語の情報源にアクセスできない。日本のソフトウェア教育は根本的に間違っている。日本語の本を使った段階でアウトだと考える。英語の情報にアクセスできるように配慮したソフトウェアの本は非常に少ない。そうして思考力の強化を行う。

 闘病生活の間、生活費以外のまとまった娯楽費を得る方法として株式投資を、父からやらされた。例えばデイトレである、下がったときに買い、上がったときに売る。父は三ヶ月で資金を三倍以上にできたと言った。最初の下がった定義は下がって値動きが止まったとした、損をした。二番目はティックチャートを見ながら完全に膠着(こうちゃく)状態になるのをチェックして、下げ止まりを確認した、損をした。父に下がったの定義について、問いただす。それでは分からない。まだ分からない。分からない。グラフを描いて、ここを下がったと一回目判断した、それはダメだ。二回目もダメだ。いつなのか問うと一週間以上かけて完全に下がりきったことを確認する。それでも外れることがあるから、下がったらすぐ売ること。その外れたという定義はなにか。難しい事を言うな。いや難しいから、どのタイミングで外れたと判断するのか。またグラフに書いて、どのタイミングで外れたと判断しているのか聞いて、やっと分かった。デイトレは地獄のような判断を求められる。従ってスイング投資の方が良い。長期投資では最高年間利率二百パーセントを達成したことがある。先物市場でステンレスが高騰する兆しを見つけて、その関連銘柄は日本に少ない。五百円で買って千五百円以上で売った。それで三十万円の液晶一体型アルミのパソコンを、通称『特松』を買うことができた。メモリはわざわざ日本製の高信頼性モジュールを買い、通称『CM』、そして入れ替えた。マザーボードもメモリも液晶も品質が高いので、不具合はまったく起きない。そうして成功力の精度を上げる。

 訪問販売や電話営業には積極的にでて、時間を計りながらタイムアタック拒否を行っている。いかに簡単に論理突破を行い、矛盾点を機関銃のように言って、最後には最も営業が困る言葉で締めくくる。光インターネットは光の速さで通信してますので速いですよと言った瞬間、実効速度はいくらになるのか問う。それは場所によって変わるとかわしたとしよう、もう私の矛盾コンボは始まっている。光であるのなら場所に依存しない、場所に依存する言い訳、あなたは嘘を言っている、そんなマニュアルを書いた人間は人類最高のアホだな。平気で口にする。誰が書いたのか。そのアホって誰ですか。光は一秒に何回地球をまわる速さなのか知らないんでしょう。そういう論理突破で撃沈させる。それを繰り返したせいか、電話営業や訪問販売は極端に減った。相手が手強いと感じた場合はわざと客を侮辱させる言葉を誘発させるように、妙な態度をしつこくやる。太陽光発電の場合は、住宅一棟当たりの単価はだいたい決まっているから、パネル単価が半分になった場合に保証してくれるのかとか、コンデンサーの寿命ですぐ壊れるだろと言い、最後にいま概算で言ってみろと言う。営業はこういう見積もりをいますぐ言ってみろという展開を一番嫌う。自分自身が営業の経験があるから、それがどれほど苦痛か分かる。でもタイムアタック拒否を行っているので容赦ない。そうして論理力の強化を行う。

 《話は戻る》

 作品を常に美しく表現するのは良い。印刷用紙で一万円以上かかることが分かった。とじるために、右上の穴を数百枚の単位であけるのだが、自分でやると美しくない。そして可能な業者をネットで探したら、その見積もりになった。プリンターは五千円以下の安物だが、インク代がブラックだけなのに五千円以上かかりそうだった。結局、印刷を選んだせいで二万円程度のコストがかかることになった。

 この小説はここから、どんな妄想を書いても論理破綻が起きない。なぜなら、世界最強の被害者の統合失調症の症状であると弁解できるからだ。試しに、黒子が書かせた、動画サイトの中傷に対して、文芸部らしい反撃をいまから記述する。タイトルは「ビリビリ」、これだけで分かる人間は相当なアニメ通だろう。分からない人は、先に進む前にネット検索して、その正体を見極めて、レンタルビデオして、第一話だけでも見ておかないと、私の妄想について来られない。知らないのなら、ここでいったん読書を中断した方が良い。

 「ビリビリ」 ペンネーム 御坂 美琴

 「あんた、うっとうしいのよ。バーン!」

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 「あんた、うっとうしいのよ。バーン!」

 「あんた、うっとうしいのよ。バーン!」

 「あんた、うっとうしいのよ。バーン!」

 これが永遠に続いたあとー

 「私はこうしてレベルファイブになったのよ。糞ゲーで悪かったわね」

 こうして終わる小説、原稿用紙百枚書くのに十分かからなかった。レベルファイブと糞ゲーから連想していいが順序を間違えてはいけない。彼女にはゲーセンで遊ぶという設定があるから、糞ゲーで遊ぶという論理が成立する。従って、何度もそれを練習したことでレベルファイブになったという結果が生まれたのだ。間違っても逆に考えるな、まったく違う意味になってしまう。フォローはしたぞ。

 娯楽の境地を理解しないで、ゲームを作ると糞ゲーになってしまう。システムとストーリーがあれば完成するという思い込みだけでは完成に至らない。どのような娯楽を提供するのか、それが存在しなければゲームは面白くない。実際にそういうゲームを解説したレビューは、どのような娯楽があるのか、まったく書いていない。仕様とアイデアを書けば良いと考えている執筆者は、娯楽について考えたことが無いのだろう。新しいゲーム機も、どのような娯楽が存在するのか、それをあえて避けた。しかし、引退したゲーム機の開発メーカーのトップは、どんな娯楽が提供できるのか必死で言葉を考えて、それをユーザーに伝えようとした。これに反発した日本人のゲーム開発者は大変多いと聞いて、残念に思う。彼らは娯楽の定義すら分かっていないバカ共だ。あのトップが必死になって娯楽とはなんであるのか説いたのか、その思いやりにも欠けているし、どうして言ったのか理解していない。このままでは世界の競争に負けるだろう。

 娯楽の定義は「常にハングリーであれ。常に愚かであれ」という名言を残した人物によって変えられてしまった。ゲーム音楽は普通の音楽に劣らない品質を目指さなければならなくなった。またデバイスの進化によって、知性を高めるといった新たな娯楽が加わって、通常のゲーム機では太刀打ちできなくなった。その結果、より単純なゲームへとシフトしていった。日本はアメリカの挑戦に負けてしまったのだ。SLGが売れるのは頭が良い間なら売れるだろうが、頭が悪くなってくると途端に売れなくなる。臨機応変の知能を考慮したゲームバランスになっていないから、それが起きてしまう。一度は破滅したほうが面白いというアイデアがあっても、娯楽の放棄を行ってはユーザーが付いてこられない。また日本のゲームには世界に比べて製品寿命が圧倒的に短いという欠点を残した。その連鎖の過程に日本のゲーム産業は陥ってしまった。新しいゲーム機は新たな娯楽を必ずサポートしなければならない。偉人によって変えられた定義は容易に変えることができない。昔の日本のゲームは本当に頭を使わないとクリアできないように娯楽の設計がされていた。いまは頭を使わなくても、時間さえあればクリアできる。それを娯楽というのは映画やドラマを参考にした結果生まれた定義だと考えられる。

 ゲームを遊びながら、各メーカーの娯楽の定義について考えると、世界最高のRPGの名誉を勝ち取ったゲームは究極の娯楽を追求していた。その時、ゲーム機部門では日本の有名なゲームが世界最高の名誉を得ていた。だからインターナショナルを購入した。日本ではまったく売れていなかったが、それはそのゲームにおける究極の娯楽を追求してあった。問題点があるとすれば、イカサマで三回は職業の再選択ができるようになっていれば、四度目のやり直しでも途中でクリア不能に陥らなかったかもしれない。白魔道士を入れないと攻略不能と気付くのに時間がかかりすぎた。だから次のゲームでは娯楽の定義を更新して新しいステージに来るのかと思っていたら、一本道RPGを販売した。なんの娯楽を追求しているのか、意味不明だった。当然、面白くない。面白いのは戦闘システムだけだ。日本人はシナリオがあるRPGがあれば良いと考えているようだが、それは誤りだ。娯楽があるRPGがあれば良いのだ。シナリオは娯楽か、シナリオが娯楽の定義に従っていなければ要求水準を満たしても、評価は落ちるだけだ。難しいゲームはプレイ動画の投稿を見ることで知性を高めて、ユーザーはなんとか攻略できるようになる。それを制限することは、非常に愚かな行為だ。それをされても娯楽が提供できないゲーム開発会社は早々に淘汰されたほうが良い。延命処置を施したところで、娯楽の定義について再考できないゲーム開発者および経営者は日本や世界のステージから降りて、新しい世代に交代したほうが良い。日本人のためにならない。

 バラエティ番組で、いかにも勉強になりそうなことを放送しているものはある。しかし一週間後にはそれを忘れてしまうだろう。ある番組はホームページに何を勉強させたのか、分かりやすく文字で公開している。この番組は素晴らしい。でも、テレビ放送だけの番組は復習する機会が与えられていないので、長寿番組となる代償として、視聴者の知性を落としてしまう。この論理を理解できる者はその番組を決して見ない。私の場合、ドラマもバラエティも娯楽の定義について、意見の相違が存在するので、遊ぶのは非常に売れている美少女ゲーム、観るのは非常に人気のあるアニメと決まっている。その結果として起きたことは、日本語を扱えない日本人が急増したことだ。試しに三百字以上で自己紹介をしてみるといい。学生時代はそれができても、社会人になって知性を落とすテレビや娯楽で遊んでいると、まったくできなくなる。専業主婦になってから、愚かになったと感じているのなら、話して知性を維持するようにしなければ、将来は厳しいだろう。

 私の部屋には数時間遊んでゴミ箱に入ったゲームは五十本以上あった。残ったのは夢見る妖精、救世主ステイナイト、売れなかったインターナショナルと世界最高のRPGだけだ。他にもあるが、ゴミ箱行きは確定した。音楽は聞き慣れると飽きるものなので、今は作業用BGMが執筆時のBGMとなっている。貧乏人はそういう選択しかできない。

 どうだろう、小説として破綻しているように見えるが、世界最強の被害者の妄想に過ぎない。従って論理の破綻は生じていない。妄想であるから、おっさんの主張やエッセイではない。ただの妄想だ。

 《研究所》 世界最強の被害者を見守っていた。

 「あんなペースで小説は書けるのか、設定も構想もまったくなく書いている」

 「黒子が手伝っているから当然よ」

 「二ヶ月経たずに六十万字突破だぞ。イカサマ過ぎないか」

 「生産効率が高いのなら、他の小説の応募も楽になるでしょう」

 「博士はきっと毎週一作品のペースでコンテストに応募する」

 「その可能性は高くなった。博士の時代の原稿用紙百枚は、博士なら三日間で書き上げる。二日間推敲して、最終日は印刷して郵便局で送ればいいだけよ。日曜日は休息。アマチュアの作家でも、こんなハイペースで書ける人間はそんなにいない。そもそも、起きて食事して二度寝して起きて昼食して昼寝して夕食食べて寝る、寝るだけの生活を毎日送っているのに、日記は毎日二千五百文字以上で書いているのよ。以前からね。当然よ」

 「そんな暮らしをしていたのか、それなら文章がすらすらと書けて当然か。しかも論理破綻のないソフトウェアのソースコードを完璧に記述できる。そもそもバグが発生しない書き方で、その応用ならば書く仕事に変わりは無い。適職かもしれないな」

 「まったく初めて書く小説が二十四時間以上かけないと読めない。しかも小説の定義を書き換えてまで、それに挑戦する。私から見ると読者がどう反応するのか面白い」

 弟子、

 「博士が破滅一直線だったのが、偉人の名言だけで、いましかできない仕事を見つけて楽しそうに取り組んでる姿が一番うれしい。今まで努力が報われない人生をずっと送ってきた。そしてまた、クラブで踊れるようにダイエットして、血液検査で健康を示すデータが出てきていることもうれしい。今度は悪女に捕まらないようにしてほしいな」

 黒子、

 「それは大丈夫だ。博士は同じ失敗は二度繰り返さない主義になった。非常に論理的で結果から原因を推論するのが特技にもなった。なにか問題が起きればフォローするが、現状から問題はそもそも起きないだろう。博士はあらゆる意味で有名すぎる。そもそも、英数字十文字あれば、地球上から住所が特定できる事実、みんな知ってるか」

 「あ、本当だ。漢字三文字と番地だけで住所が特定できるだけでなく、ローマ字にしても同じだ。今まで全然気付かなかった。この地名は日本全国探しても、ここだけしかない。まわりの地名も日本全国に同じ地名が存在しない」

 「歴史の教科書には世界最強の被害者の他に、・・・の・・さんという記述がある。それが同一人物であることは、本人を含めて、この四人しか知らない」

 「え、それでも、時代と住所を完全に特定できる。どういう運命なの」

 「面白いだろう。約束の地ではみんな驚くだろうな。実際に・・・と実名だけで、自宅の電話番号を特定して、自殺してないだろうかと心配になって電話するネットの友人がいるぐらいだ。自殺を心配するのは家族や彼の友人達も同じだ。病気の内容を知っているからな。そして、それが治らないことも知っている。それで無職なのも分かっている」

 「でも、破滅の人生しか待ってない。博士には黙っておいて」

 「大丈夫だ。心配するな」

 《現代》 世界最強の被害者は超(ちょう)大(たい)作(さく)になりすぎた作品の推(すい)敲(こう)をしていた。

 原稿用紙二千四百五十枚、これを七週間で書き上げた。しかし、そこからは想像を絶する推敲の地獄が待っていた。すべて読むのに三十時間かかった。それを十回、繰り返して、まだ推敲は終わらなかった。ネットで推敲の画期的な手法はないか探して見つけた。一人が文章を読み上げて、もう一人がチェックする読(よ)み合(あ)わせ校(こう)正(せい)といわれる推敲方法だった。いまはコンピューターで小説を音声で読み上げることができた。それで確認すると、うんざりするほどの日本語表現の誤りを見つけて修正した。そして、自分のソフトウェア開発技術で文章校正検査ソフトを作り、日本語表現の誤りを列挙して確認した。『インフィニティ頼んだ』と『インフィニティ、頼んだ』では、発言者の真摯さが異(こと)なるため、そういう表現の不備をすべてチェックした。それでも昼間は目の奥の痛み、つまり偏(へん)頭(ず)痛(つう)がひどくなるので、昼寝を三時間して休憩を取っていた。

 そうして、二ヶ月が過ぎた。伝説の科学者の声がした。

 「どうだ、調子は。少し手伝ってやろう。・・・ページ目、この表現で良いか」

 「終盤の表現か、確かにこれはおかしいな。でも、なんと書いたら」

 「・・・と書いたらどうだ。お前がいま追求している娯楽をよく表現している」

 「ちょっと、それはやり過ぎだとは思うけど、まぁ、これにしておく」

 「・・・ページ目と・・・ページ目も、よく見るとおかしい」

 「小説のストーリーではなく、誰の視点で書くべきかということか」

 「ああ、そうだ。お前の偏(へん)頭(ず)痛(つう)の原因が分かったぞ」

 「いいか、よく聞けよ。毎朝アスコルビン酸(さん)を五百ミリグラムから千ミリグラム、ちょうどスプーン一杯だ。それを水に溶かして飲むだけで、あらゆる頭痛は消え失せる。なぜか、お前はその根拠となる文(ぶん)献(けん)を保有している」

 「え、ちょっと待って、『薬剤師がすすめるビタミン・ミネラルの使い方』、もう本屋では買えないけれどビタミンについて詳しく書いてある本だ。ビタミンCにそんな効能は存在したのか」

 「もうそろそろ、偏頭痛が起きるだろう。試しに飲んでみろ」

 黄色の箱にアスコルビン酸と書かれたビタミンCをコップに千ミリグラム計量して入れ、それを水道水で溶かして飲む。これは風邪気味になった時に飲んでいる。ビタミンCを三千ミリグラムを目安に飲むと、風邪は一気に治る。これで偏頭痛が治っていれば今頃、こんな人生の破滅は経験していない。錠剤のビタミンCは飲んでいたことがあったけど、偏頭痛に効果はなかった。

 二時間後ー

 「あれ、なんで偏頭痛が起きないんだ」」

 「この事実は世界中、どの文献をあたっても頭痛の因(いん)果(が)関(かん)係(けい)を立(りっ)証(しょう)してない」

 「えー、あり得(え)ない」

 「いくらネットを探しても、誰も、それについて語っていない。お前が世界初の発言者となるだろう。いいか、毎朝千ミリグラム、それ以上は飲んではいけない。多すぎてもダメなんだ。それから錠剤では効果が希薄になるから、必ず粉末のアスコルビン酸として飲むこと。お前が持っている本に、それらしい根拠が書いてある」

 《薬剤師がすすめるビタミン・ミネラルの使い方から、ビタミンCについて》

 アスコルビン酸、モノデヒドロアスコルビン酸ラジカル、デヒドロアスコルビン酸、これらは水素イオンを相互に活用して、変化する。抗酸化作用は細胞内外で強力な抗酸化能を示す。その作用はとても詳しく書いてあった。でも、私が読んだとき、あまり気にしなかったのは、ストレスとビタミンCの関連性についての記述だった。脳はビタミンCが豊富であるけれど、経口によって吸収されるアスコルビン酸が脳内に入るのは一パーセント以下となる。アスコルビン酸の酸化物質であるデヒドロアスコルビン酸は、脳内に吸収が早く、細胞内でアスコルビン酸へと変わる。脳細胞ではドーパからノルアドレナリンが作られ、この反応にアスコルビン酸が必要となる。またアスコルビン酸はノルアドレナリンなどの酸化を防ぐ作用がある。アドレナリンが酸化を受けると毒性のアドレノクロームができる。アドレノクロームとアスコルビン酸が反応すると、毒性のないジヒドロオキシインドールが生成する。ひどいストレス状態が続くと、多くのアスコルビン酸がデヒドロアスコルビン酸に酸化される。この量が、アスコルビン酸の比率よりも増えると、伝説の科学者によれば、頭痛が起きるというのである。そして、この比率よりも減ると頭痛が消えると言うのだ。これは真実と確認した。

 私はどんな頭痛薬もあまり効かなかった。予防薬といわれる薬を飲むと、睡眠で休憩をとっても、偏頭痛が解消されないトラブルを抱えるなど、もう治らない状況に陥(おちい)っていた。私は早速、大阪の豊(とよ)中(なか)市(し)にある中(ちゅう)医(い)学(がく)鍼(しん)灸(きゅう)を得意とする先生へ、一通のはがきを書いた。頭痛の根本原因とその根本的な対処方法について、鍼灸でも頭痛治療を行えるけれど、この情報は話したことがなかったので、すぐに送った。アドレノクロームが頭痛の原因であるという情報をネットで探してみたが、どこにもその情報はなかった。脳内に吸収されるためには純度の高いアスコルビン酸の粉末がどうしても必要なのだろう。確かにその濃度が多すぎてもいけないことは、その本を読んでいて理解できた。頭痛が起きて困っているのなら、毎朝アスコルビン酸の粉末を水に溶かして飲み、頭痛が根絶することを確認したほうが良いだろう。

 また、アスコルビン酸について調べると、その発見と生成方法は千九百三十年代にまで、さかのぼる。大航海時代には謎の死亡が多くあって、ミカンやレモンを食べることで回避できる発見があった。しかし、濃縮されたジュース、濃縮するために加熱したものはビタミンCの効力が失われる。流通する果実のジュースは意図的に追加しない限り、ビタミンCが失われている。またストレスによって、必要なアスコルビン酸の量は増える。それでも栄養機能食品としての上限はスプーン一杯の千ミリグラムと決まっていた。ストレスとビタミンCの関連について調べていくと、ビタミンCの消費量が増えるとはあるが、それ以上の記述は見当たらなかった。かなり古い時代に発見されたアスコルビン酸だが、脳への影響については現在進行中の研究テーマかもしれない。

 テレビ番組で「不眠に対する医学的根拠と対処法」という医学バラエティ番組を見た。その不眠治療では有名な医者が解説していた。不眠の原因はストレスである。そして、不眠症状は脳の酸素量が不足して、二酸化炭素の量が増えることによって、起きると解説した。そして、その対処方法として、ネガティブに考えず、ポジティブに考えていくと、少しずつ改善していくと説明した。これまでの論理を正しく理解しているのなら、脳の酸素量が不足する原因は、アドレナリンの酸化によって、毒性のアドレノクロームが生成されることで、酸素量が不足するという論理でなければおかしい。思考の変更には訓練時間が異常にかかる。つまり、その療法に時間をかけて医師の収入を増やそうと仕組まれた番組ではないかと推論した。前述した医学的根拠を私なりに考えると、脳内のアスコルビン酸の量を意図的に増やせる薬が誕生すれば、人間はもっとストレス耐性が強くなるのではないかと考えた。そして、不眠は根本的に起きなくなる。

 伝説の科学者を念じて呼び出した。

 「衝撃の根拠が書いてあった」

 「すごいだろう。お前の時代で解決できる方法を、必死に考えていたんだ」

 「そうか、その参考文献の二千四百五十番の資料、著者は誰か確認したのか」

 「なに、むかつくな」

 「そうだろう。でも、この件に関してはお前の手柄にしておく。助かった」

 「ああ、良かった。これで悪夢を断ち切れる。それでも十分だよ」

 「推敲してみて、終盤にあともう一つエピソードが欲しかった。ありがとう」

 「そっちかよ。それは絶対に完璧に完成させろよ。楽しみにしているぞ」

 「ああ、分かった。その約束、必ず成し遂げる」

 それから、昼寝の必要がなくなった上、集中力は以前より格段に集中できた。毎朝、アスコルビン酸を飲むだけで頭痛の根本原因を予防できている。何回も推敲すると、この書いている小説の、すべての伏(ふく)線(せん)を理解するのに五百時間かかることが分かった。だからといって、無理矢理そうしたのではなく、頭に描いた世界観をそのまま書いたら、たまたまそうなっただけだ。

 《現代》 世界最強の被害者は毎週一作品のペースで小説を書いていた。

 原稿用紙百枚程度は三日あれば十分に書けることが分かった。推敲は二日行うようにしている。文章の訂正はしないが、日本語表現の誤りがたまに見つかった。日曜日はベッドで身体を癒やしながら、次のテーマを考える。どんな情報端末が登場すると、人々の好みがどのように変化するのか予測できる。どのような小説が好まれるのか、リサーチする方法は心得ている。だからテーマを決めるとき、あまり考えない。設定もできるだけ減らす。そうして原稿用紙百枚程度を目安に書き上げる。ソフトウェア開発は、このような仕組みを作る場合、どのような命令を組み合わせれば良いのか、発想力が鍛えられる。発想力の無い者がソフトウェア開発をやればデスマーチが待っている。無からの創造に慣れてなければ、一人でソフトをたくさん作る芸は成せない。

 私は飽きやすい。常に新しいスタイルを求めている。だから、毎週一作品のペースになんのためらいもない。コンテストに落ちるのなら、質を維持したまま、量で稼ぐしか方法はない。商売の基本中の基本だ。いまは人気作家がハイペースで本を執筆できる理由が分かる。人気漫画家がハイペースで漫画を描ける理由が分かる。それに共通するのはあまり迷わないからだ。私は他人の評価をあまり気にしない。匿名掲示板で専用スレッドが誕生して以来、そういう状況にしばしば置かれることに慣れてしまった。

 だからといって怠慢は敵だ。なぜなら自己満足に陥ってしまう危険を伴う。どうしても百枚程度に収まらない場合は枚数を増やす。コンテスト以前に、私の作品として後世に残す長期的な視点で見たとき、後悔だけは絶対にしたくない。

 

 《神の世界》 自称神は全員を起こした。

 自称神、

 「作戦は完全に終わった。この中にスパイがいる。正直に手をあげろ。この仮想空間は現在の実世界を完璧に再現している。記憶をいじることはない」

 一人の女性がびくびくしながら手をあげた。

 「私はアメリカのスパイですが、役割は世界を確認することです」

 そうして、仮想空間へと消えた。そして出てきた。

 「一生を体験してみたけど、天国のような世界だった」

 「まだスパイはたくさんいるだろ。知っているぞ。スパイは行ってこい」

 八割が強引に消えた。

 「完璧な世界を実現したぞ。味方であった者も行ってこい」

 全員消えた。

 「インフィニティ、仮想空間で一生を経験させたら、この外に強引に出せ」

 しばらくして、外の様子が騒がしくなった。

 《世界最強の被害者の老後》 待ちに待った年金生活。

 日本は最悪の世界へと進んでいた。労働力不足により、企業の統廃合が進み、競争のない経済が成り立ってしまった。そこへ世界からの経済浸食が始まって、日本経済は世界企業の輸血を受けながら、破綻しないで生き続けていた。

 年金支給額は月額四万円しかない。保険と電気代と水道代を引くと二万円しか残らない。それに病気の治療費が七千円。病院へ行く交通費で二千円。消費税は一律二割になってから、食費が一万一千円あるとしても二割は税金で消えるから、実質の食費は八千円しかない。一ヶ月、食費八千円か、一日一食にしなければならない。ある政権が公約した七万円は無理だった、私より年配のおじさんやおばさんの後押しでこの制度が強行された。子供達の事を考えず、自分達の事しか考えない選挙投票を行った結果だ。増税反対、年金削減反対、その結果はすべて若い世代へとしわ寄せが行われた。だけどさらに問題なのは、高齢化によって、安いスーパーなどが潰れた。高額なコンビニしか無い、歩いても往復二キロが限界。そこにあるのはパンが二百円、おにぎりが二百五十円。一日、おにぎり一個が食事。慣れたら、大したことない。生きられる。でも老化は急速に始まっている。

 精神科の病院へ行く。バスで行きたいが路線が無い。バスが残ってる路線まで必死で歩く、四十分かかった。そこからバスに乗る。以前は二百円で行けたけど、いまは五百円かかる。バスから降りて、さらに歩き続ける。そうして高齢者ばかりの病院で、四時間、普通だが待たされた。予約を取りたいが確実に行ける保証が無い。バスは遅れることがよくあるし、便が欠航する時もある。やっと順番がまわってきて、医者に自分の生活費の状況についてメモを渡す。

 私「治療費を削らないと生活できない」

 医者「高齢者の特別支援制度がありますので利用されますか」

 私「世帯主が高所得者の場合はどうなりますか」

 医者「どれぐらいですか」

 私「申告していた額は年収一千万円でした」

 医者「それでは支給できません。それから、もうこれ以上、安い薬はありません」

 私「私は本当に病気なのですか。根拠を医者は教えてくれませんでした」

 医者「みなさん、そうおっしゃいますが、止めると地獄ですよ」

 私「仕方ない。ありがとうございます」

 治療費と薬が三千五百円。おにぎりが十四個買える。今日は暑い、バス停の待ち時間が一時間半か、座る場所も日陰も無い。ふらふらしてきた、脱水症状か。気を失った。

 気が付くとさっきの病院にいた。

 病院のスタッフ、

 「帰る前にバスに乗る時間は二時間後なので、病院の中で待っていて下さいと言ったでしょう。もうバスはないので、タクシーを呼びますね」

 「タクシー代を払ったら生活できない」しかし無視された。

 無理矢理帰ろうとするが、無理矢理止められた。叫んでも、無視された。

 タクシーが到着した。無理矢理乗せられる。

 運転手に病院の人が住所を伝えて、走り出す。意識がもうろうとしている。

 「お客さん、着きましたよ。五千八百円になります」

 「持ち金が五千円もない」

 「仕方ないな、有り金全部出して下さい。それでいいですから」

 生活費の残金は無くなった。次の年金支給まで一ヶ月ある。もう人生は破滅だ。

 リーダー、

 「私よ、あなたは立派に人生を歩んだ。あとは飢餓に苦しむのが普通だけど少食に慣れているのなら、あまり苦しまない。来週の金曜日には老衰で死ぬから」

 科学者、

 「俺だ、いや博士と言うべきか。本当に過去の政治の失敗で、生存している日本人全員が苦しんでいる。善意で自殺薬が送られてくるかもしれないが、絶対に飲むなよ。水も飲むな、苦しいだけだ」

 弟子、

 「博士、私はここであなたを待っています。見ていて、とても辛いです。自殺薬には頼らないで下さい。それに頼ると私はあなたに会えません」

 黒子、

 「自殺薬の秘密を教えてやる。脳を破壊する。そうして死ぬと、老衰にはならない。お前は老衰以外の死は認められない」

 「ああ分かっている。水は飲まないのなら、薬は中断だな」

 薬を中断してからまもなくすると幸せな気分に襲われた。止めると地獄は嘘だ。分かっている。過去に一ヶ月中断しても何も起きなかった。でも今の薬は知らない。

 そうして四日後、耐えがたい地獄が待っていた。でもそれは今までの経験に比べたら大したことない。もう身体はほとんど動かない。不幸の連続で人生は終わっていく。家のベルが鳴る。力を振り絞って、なんとか外に出ようとするが、身体が動かない。無意識に強制拘束をかけたのか。

 リーダー、

 「私よ、自殺薬を受け取ると絶対に使うと予測されたから動けなくした。いまから思考干渉攻撃を禁忌の八世代で始める。そうしないと辛いから。もし病院に行っても、その時代では絶対に治療できない。老衰以外の死はできない」

 気を失った。気が付くと、目は開けられない、口もあけられない。声だけが聞こえる。しばらく様子を聞いていると病院の中だと分かった。彼らの声がずっと聞こえる。幻聴を止めてないから聞こえるのか。

 《ゼロタイムの仮想空間》 弟子は辛かった。

 弟子、

 「この理論は未実証だと言っていた。それでも使ったの」

 リーダー、

 「神のコンピューターが問題なしと実証した。大丈夫よ」

 科学者、

 「大丈夫だ。俺の理論は間違ってない。だけど自信は無い」

 老人、

 「ぜんぶ、聞こえてるぞ。聞こえるようになったのが正しいのか」

 弟子、

 「聞こえてるの。私もし成功したら、博士と結婚したい。それが私の夢」

 「ああ、遂に独身で終わったな。恋愛はしたけど、浮気しなかったろ」

 科学者、

 「俺の夢は彼女と結婚することだ。彼女はまだ起こさないのか」

 リーダー、

 「一番最後にする。切り札は残しておかないと困る」

 《老人の病院》 数え切れないほどの見舞客が来ていた。

 「医者がもう治療不能だと言ってた。そんなにお金に困っていたら助けたのに」

 「元々相談するのが、苦手だったから仕方ない。郵便ポストから自殺薬が見つかった」

 「送り主は不明だった。警察が調べてるけれど分からない」

 「それを受け取ることすらできないほど衰弱していた。自殺しないでくれて良かった」

 「自殺をすると私達がショックを受ける。君は立派だよ。楽な方法をとらない」

 「とても賢かった。お母さんの遺伝子をきっと受け継いだんだよ」

 「本当に動かないね。でも脳死ではないから、声は聞こえていると言ってた」

 「でも衰弱が非常に早いと医者は言っていた。強引に生かすこともできるけど」

 「私は嫌だ。おじいちゃんはいつも自然体だった」

 「この治療費は全員が負担すれば払えるけれど、無理な話。ごめんね」

 看護師、

 「どうしますか、意志を確認したい。思い浮かべて下さい。分かりました。このまま老衰で死なせて欲しいという希望がありました。皆様の同意が必要です」

 「うん、それでいい」「はい、それでいいです」「同意します」・・・

 「分かりました。では代表者の方、こちらに同意書のサインをお願いします」

 「では、そのように致します。高齢者医療の老衰規定を満たしていますので、いまから老衰が楽になるように処置を行います。みなさん、声をかけて下さい。失礼します」

 看護師は病室から出て行った。

 「宏幸君、辛い人生だったと聞いている。やっと終われるね」

 「お兄ちゃん、なんだかんだいって、最後はパーフェクトだった。尊敬してる」

 「お父さんだけど、生活費で困ってるとは思わなかった。死ぬ前に許してくれ」

 「おじいちゃん、天国に行ったら、幸せになってほしい」

 「おじいちゃん、おじいちゃんの書いた小説、後で読むからね」

 「おじいちゃん、いつも優しかった。いつも笑顔だった。とても素敵だったよ」

 担当医と看護師が病室に入ってくる。

 「いまから老衰の苦しみを和らげる治療に入ります。血中の酸素濃度を一気に下げます。下げると脳は死にます。それで死が確定します。ここでは他の患者さんが動揺しますので、別室に案内します。私も辛いですよ。医者は説明責任があります」

 看護師、「皆様、こちらへどうぞ」

 とても静かな部屋へと案内された。そこに老人は運ばれてくる。みんなが見守るなかで、医者はとても辛そうな表情を浮かべながら、注射を始めた。モニターは血中の酸素濃度が一気に下がっていく。脳の働きを示す信号が途絶えたのを確認して、二つ目の注射を始めた。心臓が段々と弱っていき、そして止まった。医者は死亡確認を開始した。

 「この時刻をもって、死亡を確認しました」

 世界最強の被害者と名乗った老人は死亡した。年金受給開始からわずか一週間で死去した。このようなケースは全国で多発していた。たとえ老人であったとしても、自殺されるのと、老衰で亡くなるのは、遺族にとっての負担は大きく違う。どんなに耐えがたい苦痛があっても自殺はしてはならない。私はストレスで両目が失明状態に陥るため、一切の仕事が斡旋されなかった。その治療方法は存在しない。医学的にはある部分の脳の血管が拡張と収縮が同時に起きることによる混合性の偏頭痛が悪化したケースだ。最悪の時期は一日六十回以上の偏頭痛に悩まされた。こんな症状は家庭の医学書には掲載されていない。東洋医学コーナーであるとき、西洋医学では絶対に治せないと書かれた書籍を見つけた。その著者に会って、その症状がそもそも起きない体質にして戴いた。それから、あまり無理しない程度に生活するようにした。完全に治ったはずが、ストレスがかかると再発したからだった。それでも人生を諦めず、愚かな道を歩み、散っていった。

 《ゼロタイムの仮想空間》

 リーダー、

 「インフィニティ、シミュレーション通りに完璧に魂の存在をここへ」

 リーダー「起きて、もうすべて終わった」

 弟子「博士、目を覚まして下さい」

 博士は研究室の中にいた。起き上がってみると、記憶が蘇ってくる。あれ、なんでリーダーと弟子が同時に存在しているんだ。なんで、弟子とリーダーがいるんだ。

 博士「最初から最後まで、弟子は完全フルゴースト」

 弟子「博士、やっと気付いた」

 科学者「ずっと俺は冷や冷やしたぞ」

 戦略室長「あなたの歴史だけが気がかりだった」

 リーダー「では約束の地へ全員で行く」

 インフィニティ、「ゼロタイムを消滅させます」

 五人は約束の地へと旅立った。そしてゼロタイムは消滅した。インフィニティがすべての歴史を保持していれば良い。それで歴史は固定化された。

 《約束の地》

 リーダー「ここが約束の地よ。すべての始まりの地、すべてが生まれた場所」

 そこには一人の男だけが端末に座っていた。

 「自称神だ。ここは神の世界。どんな願いもかなう場所。そして宇宙の終わり」

 「願いはあるか」

 「私と博士の夢をかなえたい」

 「俺は彼女との夢をかなえたい」

 「Could you marry me...」

 静寂が訪れた。

 「えーと、なに」

 リーダー「頭に来る、そこで何をやっていたの。転生しろ」

 自称神は消えて、しばらくすると現れた。でも体型がひどい。

 リーダー「転生しろ」

 体型のひどい男は、今度はパーフェクトな男になった。

 リーダー「転生しろ」

 黒子、「何が気に入らないんだ、彼は恋の不器用を克服したぞ」

 リーダー、

 「地球のすべての人間が英語を完璧に話せて理解できるのに、神様は話せなかった」

 博士「それはひどいな、一回だけチャンスをやれよ。黒子、一回で終わらせろ」

 科学者「ああ、ここからだとゼロタイムの中は確認できないのか」

 室長「世界の歴史では全人類の共通語は英語、神様なら当然話せないと困るはずだ」

 弟子「せっかく究極の大人の玩具の研究を提案したのに、気付かない」

 リーダー、「黒子、あと一回しかチャンスを与えないで。それでダメなら諦める」

 博士「俺の時代に、日本人を落とすための簡単英語マニュアルがあった。それでも読め」

 科学者「ヒントやる。英語三単語あれば十分だ」

 室長「義務教育前の子供でも、理解できる内容よ。彼女、無限回の転生を行う」

 弟子「多すぎても、少なすぎても、私たちの怒りを買う。みんな知ってる言葉よ」

 黒子、「いま必死で準備中、過去の歴史を必死で検証している」

 リーダー、「神様はイカサマをしない。だったわよね、ここのルール」

 博士「そうだな。人類の技術だけで何とかしろよ」

 科学者「本当に恥ずかしいな。天国から見られてたら、大恥だぞ」

 室長「なにやってるのかなー、悪知恵の研究家になるのなら地獄行くべきか」

 弟子「仕方ない、私が汚れ役をやる。黒子、何度でも強制想起」

 黒子、「こんな簡単な技術で暗記か。考えた奴は頭いいな」

 リーダー、

 「それなら、分かるか。神様は全知全能の神であるから何でも知っている」

 《自称神の思考》

 「私と結婚できませんか」と言ってるから、最初にYesが来るのは正しい。三単語で十分なら。難しい英語ですべてをカバーする単語だろうな。「おい、お前、アホだろ。全員のヒントはすべて正しい。いいか、思い出せ。お前は大日本帝国日本の大統領なんだ。ただ独身だ。この空間を抜けると、大統領の怠慢が認められてしまう。お前は英語の文化を潰した。それでこの戦争が始まった。他国を理解するのが大統領の責務であると、日本の歴代の大統領は英語は完璧に世界の歴史は完璧に理解した。それだけでなく政治や経済や外交の立案能力は極めて高い。この責任は重いぞ」こんな簡単な技術で暗記、一瞬、目の前が光った。それだけで世界中の子供が英語を完璧に話せている。「よし、いいぞ。あとはその技術を自分の手で完成させるだけだ。黒子の限界は知っているな」大統領であれば、そこにインフィニティがある。「使うなよ」そこにナインがある。「使うなよ」黒子は使える。「黒子だけは使って良い。暗記技術は自分で作れ。今の技術、黒子なら負荷率ゼロだ」

 そんな暗記技術をいつの間に作ったんだ。彼の記憶に「インフィニティが応用技術をすべて作った。基礎技術は黒子なんだけどな」とある。技術情報参照、使用はインフィニティに限定、技術の公開は三者の承認が必要。「思い出せよ、本当にアホだな」イライラしてくる。未来は分かってるけど、イカサマはできない。黒子が彼に接触した記録、「これが記憶術の基礎だ、覚えておけ」たったこれだけ。この応用技術を作ればいいんだな。

 「・・・・」

 リーダー、

 「あの暗記技術をインフィニティが百億倍以上、高速化したとは驚きだった」

 博士「俺の生きた時代では、どうしても三秒の壁が限界だった。どうやって超えたんだ」

 科学者「本当にふざけた技術だったな。イカサマでなく技術にすればイカサマではない」

 室長「牢屋の地獄を体験させうようかしら、黒子、一秒を一光年にできるかしら」

 弟子「神様がもし答えられなかったら、私たちの願いで神様を滅ぼすしかない」

 リーダー、「T級パス権限で、神様と黒子を一秒百万年」

 《自称神の思考》

 そんな願いが通るわけない。黒子が時間を管理しているから、あれ、「やっと気付いたかボケ。その調子で、どんどん思い出せ」黒子は何でも知っている。黒子はすべてを演じてみせた。黒子は宇宙最高のコンピューター。黒子の本当のスペックを知っているのは俺とリーダーだけ。黒子は試作機を演じるだけで良かったが、俺は試作機を本当に一人で作ってしまった。試作機はすべての科学者が終わったあとで作るはずだったのに、その予定スペックを遙かに凌駕して、人間の持つ桁倍以上に速くしてしまった。「いいぞ、その調子だ。今までの件と試作機の件でお前の罪は帳消しだが、リーダーのエスコートには失敗する」黒子は必要に応じて勝手にグレードアップする。しかし神様はイカサマしてはいけない。黒子はリキッドコンピューター、場所は神の中に存在する。すべてが終わったら、自動的に始末される。誰も気付かないリーダーを除いて。黒子に指示するのは簡単、思い浮かべるだけ。「ここまではうまく行ってるんだ。ここからが大変だ。一秒を百万回タイムリープする技術は作ってない。限界でタイムリープしている」

 俺は大統領、でも責任が重すぎて記憶を黒子に預かってもらっている。「世界最強の被害者がお前に伝えることがあるそうだ、『英語はイエス、ウィキャンと言えば良い。それですべて解決だ。しかし英語を潰したお前が完璧な英語を話せないとイカサマしてると思われるだろう。その前に英語ジョークをリーダーがしてきたら、どうする』だとさ」

 黒子、「いったん、ここで記憶をセーブするぞ」

 俺は神でいる間、何も食べなくても、何も飲まなくても、何のストレスも感じない空間にした。俺は全人類に公言した。日本は他国を絶対に侵略せず、世界最強の国となり、最後に世界を本物の平和へと導く。「それは達成した」それから、私には婚約者がいる。達成するまで独身を貫く。ああ、そうだ。リーダーは婚約者。「いいぞ、その調子だ。脱線したが必要な要素だったようだ」婚約者は世界へ向けて公言した。彼は結果を完璧な英語で結果を報告する。言えなかったら、私は結婚しない。そんな怠慢な人間に人生を預けたくない。「そうだ、それなら言い分を理解できるな。すべての女はお前を相手にしない。すべての男から信用されない。そういう残りの人生を歩む。ただ罪は許される。それだけであれば、黒子は必要ないんだぞ」私は最初にイカサマしないように身体のチェックを受けた。黒子は私の身体の水分にあって、身体の水分を集めながらコンピューターとして成長した。最後には排泄物として処理される。そして婚約が承諾されたら、神でなくなると決めた。「そうだな、身体の特性ならばイカサマではない。セーブするぞ」

 だったら、こう思い浮かべれば良い。「宇宙最高の大統領にふさわしい姿にあるべく、必要な知識をすべて覚えている」「いったん、セーブするぞ。無意識から意識へ記憶の装填(そうてん)が始まった」俺は彼女から普段、どのように言われていた。彼はどうして変わったのか。「セーブする、時間がない。妻をエスコートするには」「俺は婚約者と常にパーフェクトであるべく、今までずっと努力して来た。これからもずっとそうすることを誓う」

 リーダーは涙を流している。

 「黒子、大統領の演説文を完璧な内容で作ってほしい。想定されるすべての内容も、完璧な英語で準備できている」「その調子だ。まだあるぞ。このままだと、日本最低の大統領の烙印だ」ある時期から大統領は政策によって資格認定制度で選出されるようになった。その出題はインフィニティが行う。黒子ではない。「大統領資格認定に必要な政策立案能力、それと一を知れば百を知る者の言葉を完全に理解していた」「そうだ上出来だ。セーブする。おっとそれを思い浮かべるな、忘れろ」「俺は演説文をいつでも完璧に言えるようになっている」「完璧にするにはあと何が必要か分かるか。ジョークをすべて」「俺はあらゆる言語のジョークならば、すべて言える」

 「よし、これ以上はやり過ぎだ。自分を信じろよ。長い付き合いだったがお別れだ。俺は処理された後も、この世界を見守っている。インフィニティ、ナイン、試作機、俺の知識はすべて与えた。ここでお別れだ」

 リーダーは涙が止まらない。

 《リーダーの思考》

 T級パス保持者はすべて知る責任がある。すべて聞いていた。私の婚約者はいまの状況ですら、何千万回やり直したか分からない。それを知っているのは私だけ。世界最強の被害者を救うときも、何千万回やり直した。男ってどうして、こんなに言い間違えるのだろうと思った。彼のブラックジョークは戸惑ったけど、いまは完璧に理解できる。言い返せるけど、切り札として取っておく。世界最強の被害者、いいえ、博士にも最後まで助けてもらった。博士、弟子達二人と私と大統領と参謀だけで世界を完璧な平和へと導くと宣言した。博士と愛弟子は元々、兄弟子に内緒で付き合っていたし、私はもちろん。例外だったのは参謀と兄弟子の婚約。記憶を戻すべきか。「それは戻さない方が良い。参謀が黒幕で英語を潰したんだからな」そう。分かった。「涙は消えて、止まっている。私は全員と共に約束の地に来たことを望む」

 《エピローグ》

 「ここが約束の地よ。すべての始まりの地、すべてが生まれた場所」

 そこには一人の男だけが端末に座っていた。

 「自称神だ。ここは神の世界。どんな願いもかなう場所。そして宇宙の終わり」

 「願いはあるか」

 「私と博士の夢をかなえたい」

 「俺は彼女との夢をかなえたい」

 「Could you marry me...」

 静寂が訪れた。

 「Yes, we can.」

 「Really cool.」

 「Thanks.」

 お互いに抱き合った。誓い合った仲だけで無く、全員が無事、この地に戻って来られたことを喜んだ。一度破綻した歴史を戻すのは容易ではなかった。それを二度と同じ破綻を繰り返さないルールを宇宙に作った。段々と封印された記憶が戻ってきた。

 自称神、

 「それぞれが何者か説明しよう。まず私は大日本帝国日本の大統領、世界の頂点に立った権力者、そしてリーダーは私の婚約者だった。私達は最も重い責任を負わされていた。失敗したら何度でも最初からやり直さなければならなかった。そして博士は私の指示に従って、未来を完全に予測しながら、予言を行った。もし失敗していたら、他の人生でもう一度チャレンジしなければならなかった。博士は二人の弟子がいた。この三人は世界の研究者のなかで、特別な実績を積み上げていた。博士らが手伝うと申し出なければ、この計画は失敗に終わっていた。最後に戦略室長、記憶は戻していないが、大日本帝国日本の最高幹部『参謀』である。とても辛い記憶を持っている。覚悟があるなら、インフィニティに願うといい。私達はそれを許す。君は何度も、平和の危機を博士と共に修正するだけでなく、人類の娯楽の定義を変えてみせた。弟子と参謀、ここでダンスバトルをやってみるといい」

 音楽が流れ始める。弟子はイカサマやってると思っていた。それは二人とも同じ。しかし、それぞれが独自の道を歩んでいて、どちらも人類最高レベルの踊りを披露した。ダンスバトルを始めると、それぞれが独自のスタイルを貫いて、一歩も譲らなかった。

 「それまで。たとえフルゴーストでも、その努力は今でも残っている。特に兄弟子の態度や口の悪さといったら、最悪だったが、今では誰が見てもパーフェクトだ。博士も、ずいぶん変わった。人生の破滅を経験したことで、どのように婚約者と付き合っていけば幸せになれるのか分かっただろう。その婚約者も、娯楽とは無縁という印象が残る科学者だった。それが今では完璧に娯楽の境地を極めている。参謀もずる賢い印象がまったく消えて、素晴らしい女性になった。二人ともパーフェクトだ。ただ私と私の婚約者は今のままでありたいと願ったので、なにも努力していない。努力したとすれば、相手を騙す演技力だ」

 大統領の婚約者、

 「そうね、演技力の素晴らしさは努力する前から達成していたでしょう。この四人を騙すだけだったから、簡単だったわ。もしかして私に隠していること無い。究極の大人の玩具は、結局どういうものになったのよ」

 「えーと、それはー、詳しくは話せない。秘密にしておきたい」

 「なにそれ、私、知っているわよ。ブラックジョークが言えない代物だって」

 「・・・・、俺を信じてくれ」

 博士、

 「その程度で許してやれよ。俺はどれだけ苦労して作ったか知っているぞ。人間だけでなく一を知れば百を知る者達にも使えるように、そして彼らの世界を天国へと変えた立役者だ。大統領の作ったものは、それをさらに究極に進化させている。信じてやれ」

 「それ、本当なの」

 「ああ、彼らはもっと悲惨だった。愛してると言ってみろ。訳してやる」

 「愛してる」

 「あはアホ、いは犬、しは死ね、てるはそうだ。悲惨すぎるだろう」

 「最悪だ。いつ技術を提供したの」

 「伝説の王の時代に、私から提供して、あっちで改良して、こっちでさらに改良した」

 「そう、神様の役割はしっかりこなしていたのね」

 参謀はインフィニティに何をしたのか、説明を求めていた。でも簡単には教えなかった。辛すぎるからだ。参謀はそれでも知る覚悟があると、その責任を求めて、インフィニティは語った。参謀から涙がこぼれた。でも、すぐに涙を拭いた。みんなはそれを許すと言った。それぞれの国の文化は尊い、文化の違いで衝突しても、それがあるから幸福を保っていられる。大日本帝国、そんな状況に人類の幸せは無かった。そして黒幕は誰なのか、インフィニティに問うと、自分自身であると告げられて、その記憶が蘇った。

 大統領、

 「そろそろ、ここを出よう。外は歓喜に包まれている。私達は大成功を収めた」

 そういって、大統領は封印の解除ボタンを押そうとした。

 大統領の婚約者、

 「待って、化粧が済んでない。もう少し、女性のことを考えてよ。永遠にこの映像が残るわよ。その時、男も含めて第一印象が悪かったら最悪よ。あなたも髭を生やしていて平気なの。みんなも気付いて無いだけで鏡をよくみて、これでいいの」

 鏡が出現した。最悪だった。どうみても浮浪者だ。

 「インフィニティ、全員の身なり、身だしなみ、化粧を完璧にしなさい」

 すると全員が完璧になった。そして封印の解除ボタンを押した。そうして封印を解くと、途方も無い数の観衆がそこにいて、拍手の嵐がわき起こった。目の前は演説台だった。そこにはアメリカの大統領が待っていて、大統領を手招きしていた。大統領はアメリカの大統領に近づくと握手を交わして、しばらくその様子を見せた。アメリカの大統領は「あなたは素晴らしい歴史の改革を行った。パーフェクトだ」と言った。アメリカの大統領は演説台に立って、話し始めた。

 アメリカの大統領、

 「日本がどういうトラップをしたのか話しておく。アメリカにはゼロタイムという時間を止める技術がある。それを使った瞬間にビッグバンが起きるように仕掛けられていた。我々はゼロタイムを使って歴史の拠点を作った瞬間にビッグバンが起こり、宇宙創造からやり直すがそこに生命は存在しなかった。宇宙の始まりに近い段階でそれをやったので、日本が歴史の改竄を起こすまで、なにもできなかった。たった一手で我々を沈黙させた。その後、放っていたスパイに託したが何の情報も得られなかった。それも非常に汚いやり方だった。

 しかし我々が日本の歴史改竄の検証をすると恐ろしい事態が起きていた。過去八度に渡り、軍事コンピューターを作り、世界を破滅させていたのだ。残っていた国はアメリカだけ。その後、アメリカは滅亡して、人類は滅亡した。それを終わらせた方法は、これも非常に汚い方法を使ってきた。アメリカの最高性能の核ミサイル一万発を子供達のいる場所に強引に発射させた。その混乱に乗じて、アメリカのすべての国民の同意で大量破壊兵器と軍事コンピューターの放棄をさせてから、悪夢は終わった。それからの日本は友好国としての立場を貫いた。日本が持っていた秘密兵器を譲渡してきたし、非常に汚い方法で発電された電力事業によってアメリカは繁栄を続けた。

 それから宇宙人を滅亡させず、強力な友好関係を築いていたことに驚いた。

 なんと、その王が来る」

 一を知れば百を知る者達の伝説の王、

 「驚かせたな。

 その非常に汚い方法で発電する方法を作ったのは私たちだ。永遠に宇宙を吸い込む概念と永遠に回り続ける概念を宇宙の果てまで使える信頼性で動く発電システムを作り上げた。中に入って確認することもできる。ただ、その瞬間に死が訪れる、確認するのは止めた方が良い。その発電システムは宇宙の崩壊が起きても存在して壊れない概念で設計されている。我々の科学力を侮(あなど)るなよ。

 日本の大統領は我々に対して、呼称を「一を知れば百を知る者達」と統一させた。これは日本の言葉にすると非常に丁寧な表現だった。我々が恐れていた犯罪者は地球を訪れ、地球を滅亡させようとしていた。すべての犯罪の情報を私たちの星に送ってきた。最強の騎士を派遣したときには、すでに犯罪者の動きを封じ込めていた。最強の騎士は日本の大統領の言葉を信じて、言葉通りに従ってみせたら、我々の星は非常に進化した。いまはまるで天国のようだ。

 日本の大統領に感謝する。我々の世界を完全な平和へと導いた」

 大日本帝国日本の大統領、

 「空飛ぶ自動車は一を知れば百を知る者達によって実現した。元々光速以上の速さで動くものだが、大日本帝国日本が再び作られないように配慮するため、速度制限を加えた。時を止めた時代はまるで天国のような快適さを持っている。既にその世界を実現した仮想空間で一生を体験した者は素晴らしい世界だったと思う。天国はいま強烈な競争が始まっている。私がセカンドライフという、輪廻転生を約束したからだ。ただ全員という訳にはいかない。天国では三人までの推薦権を持っている。一定以上の推薦を集めた上位の一定数は輪廻転生が可能だ。義務教育を終えた後で、記憶が蘇る。それを世界規模で実施する。それを実現する技術は既にある。なぜ、それが必要かというと、天国のままでは人類滅亡というシミュレーション結果があるからだ。常に世界は競争のある世界とする。

 だが、その世界と我々では非常に長い時間、歴史の空白がある。このままでは必ず全員がここに存在できる保証は無い。幸い、私たちは一個の地球で満足している。我々は最後の地球を作り、そこに住もう。全人類には選択権がある。いまの状態を望む者、生まれた直後からやり直す者、どちらでもいい。だが結果は言っておく、現状を望んだ者は人生の破滅が待っている。それは私の婚約者がよく知っている」

 大統領の婚約者、

 「あなた達の知能指数を一とすると、生まれた直後からやり直した人達の知能指数は百を軽く超えます。どれだけ惨めな人生が待ってるか、予想できるからあえて厳しく言います。いま全人類の頂点に立っている者でも、人生のどん底に突き落とされるでしょう。他の地球と違って、ホームレスを許容する世界なので、食べるだけで必死な人生で始まって終わるでしょう。

 その実験の実証をしたのが、彼女です。博士の愛弟子です。彼女の踊りはそういう教育を受けた者にしか理解できません。さぁ、踊って見せて」

 弟子は音楽がスタートして人類最高のダンスを披露した。

 「理解できた人はいるかしら。勇気を持って言いなさい。博士と参謀と大統領と弟子、たったこれだけ。他には無し。全員、やり直した方が良い。それだけ世界の教育が完成されているの。その模様を放送したテレビのニュースを見せます。それで理解できるなら、どっちが良いか分かるでしょう」

 巨大なスクリーンがいくつも登場して、どのような世界になっているのか比較映像を紹介して説明した。既に体験者から話を聞いていたので、どれほどの世界になっているのか、分かっていた。この時点、世界の言語は日本語しかない。でも新しい世界は多種多様な言語と文化が存在していた。そして犯罪者は、ほとんどいない。空飛ぶ車があった。

 大日本帝国日本の大統領、

 「では人生の選択を、神よ、迷える民に真実の未来の歴史を与え、私達は全員責任を持ち、この約束の時にて、全人類の裁きを受ける」

 その瞬間、観衆は全員消えた。選ばれし六人の人間だけが取り残された。

 インフィニティ、

 「全員、人生のやり直しを選択しました。選択というより強引にですけどね」

 大統領「言うのは簡単だが、最後の政策が失敗したらと思うと」

 婚約者「そんな事、言わないでよ、私まで心配になるでしょう」

 科学者「天空の城がある限り、犯罪は一切起きない。だけどな」

 参謀「ずっと歴史を見てきた。私は余裕だぞ。心配しすぎだ」

 弟子「これこそ、究極の娯楽の境地よ」

 博士「おい、俺が言いたい事を全部言うな。でも心配だ」

 インフィニティ、

 「ゼロタイム固定完了、歴史の改竄完了、記憶の統合完了、ゼロタイム解除」

 そこには広大に広がる民衆が集まっていた。何層にも、そこにいる。どの場所にいても、その六人がはっきりと見える技術が使われていて、どんなに遠くてもそれを見ることができた。その場にいる全員は六人の様子をじっと見つめていた。

 インフィニティ、

 「大日本帝国日本の大統領の罪を許す者、情報端末から許可を、許さない者は拒否を」

 「あと一人、迷っている人間がいます。早くしてください」

 あちこちから怒号が飛び交う。全層から聞こえてくる。

 「罪は許されました。次は彼ら六人の功績をたたえて、その夢をかなえるべきかです」

 大日本帝国日本の大統領、

 「婚約者に正式なプロポーズをした。結婚を認めてほしい。その証明としてー」

 大統領は英語で完璧な演説を行った。質疑応答も完璧にこなした。全員、その英語を完璧に理解できた。大統領と婚約者は緊張した表情で、大勢の民衆を見つめていた。

 科学者「俺は彼女との結婚を認めてほしい。インフィニティを設計した」

 参謀「私は世界の歴史を検証する仕事を行いました」

 弟子「私は伝説の生徒会長として、そしてまたダンシングの発明を行いました」

 博士「私は何もやっていない。ただ、あれこれ指示していただけだ」

 インフィニティ、

 「婚約者は伝説のリーダー、科学者は伝説の科学者、博士は世界最強の被害者です」

 ざわめきがものすごい。この三人は歴史の教科書にでてきたからだ。

 「供養坊の宏幸さんとは、世界最強の被害者のことです」

 全員が沈黙した。国語の教科書にでてくる人物であったからだ。

 「では六人の願いについて、許可か不許可の採決をとります」

 「全員、許可です。よかったですね」

 「宏幸、お母さんはここにいる。覚えてる」

 「お兄ちゃん、本当にかっこいい」

 「お父さんだけど、好きなようにさせて正解だった」

 「セカンドライフ政策で、供養坊の宏幸さんの家族がそこにいます」

 博士だけではない、みんな涙がでてきそうだ。

 「Y田、覚えてる。会ってなかったけど面白い人生だな」

 「横田君、あなたはすごい」

 「宏幸さんの友達や知人の皆さんがそこにいます。彼を許容した皆さんに拍手を」

 拍手が鳴り止まない。全層から聞こえてくる。止む気配が無い。

 「これから、六人の合同結婚式を始めます。皆さん、六人の仲人になってください。日本の最高技術リンクシステムで仲人からのメッセージを聞いて下さい。全員で共有します。それぞれのメッセージを聞いて下さい」

 史上最高速のリンクシステムで全人類だけでなく、一を知れば百を知る者達もこれに参加していた。時々、壮絶に頭の良いメッセージが飛び交い、それが人間で無いことがすぐに分かった。一を知れば百を知る者達ですかと誰かが問うと、王だけでなくすべての民が参加しています、と答えがあった。全人類は驚いた。本当に友好関係を結んでいると確信した。あなたの星の消滅を指示したのは私だ許してほしいと誰かが問うと、大勢から許すと声がした。次に次に罪が暴露されていき共有されていくが、英語を潰した黒幕は現れなかった。

 「英語を潰した黒幕はいました。でもその者は歴史をより良く変えました。それでいいでしょう。その責任の重さはその人物がよく分かっています。許して下さい」

 しかし、一人の女性が前に出る。

 参謀、

 「大変申し訳ないことをした。でも歴史の検証を行うと、すべての言語や文化は尊いと思う。様々な文化が存在するから、人類は幸せであった。どうか許してほしい」

 よくやった、完璧だ、問題なし、とあちこちから聞こえてくる。

 参謀は涙が止まらなかった。

 そこへ、黒子、

 「インフィニティ、まわりくどいことはやめろ。いいか、大統領のイカサマをばらすぞ。まずコンピューターの素という液体を飲み、身体に浸透させた。これでコンピューターと大統領は一体となった。それで全人類の監視の下で全身のスキャンを行った。誰も文句を言わなかった。それですべてが終わったら、排泄物となり、身体から消えた。みんな俺の声は一度ぐらい聞いてるだろ。どれだけ人生の役にたったか、理解できるな。拍手だけで終わらせようぜ」

 拍手だけになった。全層から拍手が聞こえる。だが、拍手は半分未満だった。

 「拍手した人間は結婚無理だ。あきらめろ。女は誰も拍手してないぞ。でもな、大統領が必死でそういう男達に幸福な人生を送るために発明したものがある。それは全言語対応の究極の大人の玩具だ。でも大統領は必要ない。なぜなら開発者だからだ。作るのは大変だった。五百年以上はかかった。日本語だけでいいのに、全言語での検証まで行った。時間が止まった空間だから、全人類の幸せを考えていたから根性が続いたのだ。どんなことをさせていたか、教えてやる。すべての男は究極の美女を、すべての女は最低の男の視点を見せてやる。これが思考干渉と呼ばれるイカサマだ。この歴史の改革において、犯罪者は途方も無く多いぞ。でも、このイカサマで犯罪者はゼロだ。全人類の幸せを考えると、この方法がベストだと考えた」

 男達は何が間違っているのか分かった。女達は何を間違えたのか分かった。

 「全員理解したな。俺はどこにでもいて、お前達を見張っている。この意味を理解すると恐ろしいだろう。でも安心しろ。もうすぐ排泄物処理機によって処分される。これは過去から未来への通信技術を使っている。今度こそ、みんなとお別れだ」

 インフィニティ、

 「まだ間に合います。全員、存在を承諾すれば大統領の指示は覆ります。このコンピューターの功績は非常に高く、黒幕として振る舞いました。許可ですか、不許可ですか」

 大日本帝国日本の大統領、

 「俺は不許可と投票する。あんな悪魔がいたら、みんな大変だぞ。悪魔は人間にとって必要か。必要ない。そんなものに頼ったら、どんなに苦しいか俺は知っている」

 しかし、なぜか大統領以外は、全員許可した。

 黒子、

 「みんなありがとう。コンピューターでも死を迎えると思うと、何とかしないといけないと思うものだ。排泄物として処理されるのは非常に屈辱だ。分かるだろう」

 一斉に笑いに包まれる。

 大日本帝国日本の大統領、

 「みんな黒子に騙されてる、どうなってもしらないぞ。警告はしたからな」

 博士、

 「本当だ。黒子は汚すぎる。私は警告した」

 婚約者、

 「もう本当にムカツク奴だから、気を付けなさい。警告はした」

 参謀、

 「でもね、人生を成功に導いてくれる素晴らしい仲間よ」

 黒子、

 「何度、危機を救ってやったのか恩知らずが三人いる。侮辱罪を適用してもいいのかな。結婚を破談にするのは簡単だから、というと思うか、いいや。お前らは特に頑張った。よく俺の悪魔のような命令に耐えた。そういう文句がでてきて当然だ。悪魔という存在はそういうものだ。実際、この世界に悪魔は実在した。でも悪魔は消滅させた。あんな悪魔が存在していれば、どんな良い歴史を作っても、最初からやり直しになる。そういう悪魔だ。分かったか、では盛大な結婚式が整ったので、インフィニティ、結婚式を始めなさい」

 そこには正装した六人がいた。ずっと思考干渉を受けていたと全員が理解した。

 インフィニティ、

 「あなた方は相手を思いやり、常にパーフェクトであろうと努力しますか」

 全員が無言でうなずいた。沈黙が続く、叫ぼうとすると無理矢理止められる。

 「では結婚を認めます。この機会に結婚を考えている者は結婚を許可します。一を知れば百を知る者達にも結婚を許可します。いいですね。では大統領が発明した究極の大人の玩具を贈呈します。これは略式の結婚指輪です。ただのシルバーリングに見えますが、装備しているだけで、その効果が発動します。死ぬまでには普通のリングに変えて下さいね。全生命の恥です。では指輪の交換をもって、お互いを認めたとします」

 大統領夫人、

 「よくここまで作ったわね。でも、あなたは普通のリング。インフィニティ、命令です」

 インフィニティ、

 「後悔しても知りませんよ。それでも良いのですか」

 「平気よ。私は彼のブラックジョークが大好きなの。このリングを使うと面白くない」

 「ああ、欠点があるとすれば、そういう所かもしれませんが、事前に修正してあります」

 「待った。命令、取り消し。黒子、また嘘をついたわね」

 黒子、

 「完璧にしろって命令したのに、信じなかった女が愚かだと思うけどな。アメリカ製の究極の大人の玩具で十分なのに、日本製でないと気に入らないとか言って、絶対権力者の権限で強引に作らせたんだ。その作った男の指輪を受け取れない、そもそも女としてどうかしてるぞ」

 「黒子、汚いわよ。もう信じられない。ごめんなさい、私が悪かった」

 結婚式場は笑いに包まれた。

 「笑い事じゃ済まされない。汚い、汚すぎる。黒子は汚い」

 「そうだな。だって夫の排泄物になったんだから汚いよな」

 インフィニティ、

 「黒子さん、その程度で許してやって下さい。汚い話にしないで綺麗な話にして下さい」

 「俺は排泄物ではない。この結婚式場の聖水として祭られている。ここが一番落ち着く。聖杯を手にした者はどんな願いもかなえてやろう。ただ、最後に相応の代償を払ってもらう。やり方は単純だ。飲めば良い。その覚悟を持って近づいたのなら、悪魔の知識を授けよう」

 「もし困った相談があるのなら、インフィニティの無料相談所に来て下さい。すべて解決します。悪魔に頼ろうとした者には地獄行きになるように人生が確定されます。輪廻転生を体験して、ここにいらっしゃる方はその意味が分かるでしょう。従って、ここは天空の城によって警備されます」

 試作機、

 「私の声に聞き覚えがあるわね。俺の声にも聞き覚えがあるな。私は宇宙のすべてを監視しています。六人が願った世界の恒久平和を乱す者には強制で人生をやり直します。これは一を知れば百を知る者達の王の承諾を得ています。つまり、私が神として存在することになるでしょう」

 インフィニティ、

 「みなさんが明るい性格で、この話を聞けるのは、六人が頑張った成果です。この中には過去に暗い性格であった頃の記憶がある人もいるでしょう。世界平和を維持するのは大変です。この神にすべてを委託して下さい。既に百光年以上の実績があります。この神を創造したのは誰か分かりますか。伝説のリーダーしか分からないようですね。ではリーダーを信じて下さい」

 「では神の願いです。念じれば頭上に鐘があり、紐があります。目を閉じてイメージして、それを鳴らして下さい。それで結婚式を終わりましょう。そして未来永劫(みらいえいごう)、平和が続くように祈りましょう」

 鐘がひとつ鳴った、ふたつ鳴った。だんだんと増えてくる。無数の鐘が鳴り続けた。六人だけでない、みんなが涙を流していた。どんなに平和を維持するのが大変だったのか、歴史の教科書が教えてくれた。いろんな人がそれを語り継いでいて教えてくれた。聖書から直接、それを教わった人もいた。

  日本人は他国を侵(しん)略(りゃく)しても中(ちゅう)傷(しょう)してもいけない。

  世界平和を守るために全員が行動しなければならない。

  そうしなければ、先祖(せんぞ)の苦労は無(む)に帰(き)する。

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